凶悪犯罪者バトルロイヤル 第151話

 宮崎勤は、己の分身を襲うあまりに痛みに、悲鳴を発しながら転げまわっていた。激しく動いたため、おむつははずれ、カラオケボックス内は、粘着質の高い便がそこここに付着し、異臭に満ちた、地獄絵図のような空間となっていた。

「ああっ!ああっ!痛いよう、痛いよう!」

 僕は痛みを発する「毒魔羅」を、ひとまず、マキが飲んでいたメロンソーダに浸して冷却した。しかし、「毒魔羅」は徐々に腫れあがり、痛みを増すばかりである。

 限界だった。もはや、マキを殺すどころの話ではない。ただちに適切な治療を受けなければ、痛みで発狂してしまいそうだ。だけど、救急隊員に、うんちに塗れたこの部屋を見られるのは嫌だ・・。

「どうしたらいいんだっ!!」

 困っていると、携帯電話が鳴動した。ディスプレイを確認すると、「山地くん」との表示。そうだ、山地くんなら、何かいいアドバイスをくれるかもしれない。相談してみよう。

「やあ、宮崎くん。今、なにしているんだい」

 別に悪意があって内緒にしていたわけではないが、山地くんには、今日のデートの予定は伝えていなかった。

「あっあっあっ。それどころじゃなくなったんだっ。勝つために明日を捨てたら、ちんちんが痛くなっちゃったんだ」

「そうか。ちんちんに毒を仕込んだら、女の子に入れる前に、痛くなっちゃったんだね」

 山地くんは毒魔羅のことも知らないはずなのに、どうして今の説明で分かったのか。やはり山地くんとは、まさに僕と以心伝心の、理想の友人である。

「ちょっと待ってて。僕が薬を持って、そっちに行くよ」

「あっあっあっ。それは、それは嫌なんだっ」

 山地くんに、毒魔羅を治してもらいたい気持ちはある・・。しかし、いくら親友の山地くんとて、うんち塗れのこの部屋を見られるのには抵抗があった。

 電車の中で堂々とうんちを漏らすことはしたい僕だったが、カラオケボックスにぶちまけてしまったうんちを見られるのは恥ずかしい。矛盾しているようで、矛盾してはいない。問題は、自分の意志で漏らしたのか、意志に反して漏らしたのか、ということだ。自分で自殺するのはいいが、前上博に自殺サイトで釣られて殺されるのは嫌だ。つまりはそういうことである。

「どうしてなんだい。ひょっとして、うんちやおしっこを漏らしたから、僕を呼びづらいのかい?」

 山地くんは、いったいどこまで僕のことを知り尽くしているのか。なぜ、説明してもいないのに、そんなことまでわかるんだ。

「あっあっあっ。僕は、僕はっ」

「うんちを漏らしたことくらい、気にすることはないよ。かの徳川家康だって、三方が原の合戦のとき、武田信玄に負けてうんちを漏らしたんだよ。徳川家康は、そのときの敗戦を教訓とし、天下を取るまでに成長したんだ。つまりうんちを漏らした宮崎くんは、天下人の器ってことだ。宮崎くん、かっこいい~」

「あっあっあっ。じゃあ、頼むよ」

 山地くんにそう煽てられて、僕はついに山地くんを、この場に招くことを決めた。そうか、僕は徳川家康だったのか。ならば、いつか必ず、天下統一できるじゃないか。嬉しくなってしまった僕にとって、うんちがそこらじゅうにくっついた部屋を見られることくらい、なんでもなかった。

 三十分ほど経って、「ブラックジャック」のコスプレに身を包んだ山地くんが、カラオケボックスに姿を現した。

「お待たせ、宮崎くん。僕が宮崎の毒チンチンを、治療してあげるよ」

 頼もしい友人の登場――。しかし、その顔に「悪魔の笑み」が浮かんでいるような気がするのは、気のせいだろうか。

「あっあっあっ。毒チンチンじゃなくて、毒魔羅なんだ。そこを間違っちゃだめなんだ」

 僕は、山地くんの許すべからざる間違いを訂正した。「毒魔羅」を「毒チンチン」と間違うなど、「チャンピオン」を「チャンピョン」と書くくらい、気持ち悪い間違いである。僕が尊敬する夜原なおき先生がしばしば引用する「なんJ」風に言えば、「絶対に許さない、顔も見たくない」である。

「あっ、ごめんごめん。宮崎くんの毒ベニテングタケを、治療してあげるよ」

「あっあっあっ。だから、毒魔羅だって、言ってるじゃないか!」

 どうして、さっき言ったばかりなのに間違えるんだ。それに、ベニテングタケなら元々毒キノコだから、わざわざ毒を頭につける必要はないし、あんな真っ赤なやつに例えたら、まるで僕のやつが、いつも皮に納まって外気に触れていないみたいじゃないか。

 なにか、今日の山地くんはおかしい・・。嫌な予感がする。

「あっあっあっ。それはなんなんだ」

 山地くんが取り出したのは、かつて北野武が演じたキャラクター「鬼瓦権蔵」のパネルである。ドカジャンに泥棒ひげの、あの汚らしいオッサンの「鬼瓦権蔵」である。

「いいから、そのまま仰向けになっていて。このままじゃ、塩気が足りないな。味噌をつけて、味を調えないとね」

 山地君はそういって、僕が部屋中にまき散らしたうんちを、鬼瓦権蔵のパネルに塗り付け始めた。

「あっあっあっ。だから、なにを」

 山地くんは僕の問いには答えず、鬼瓦権蔵のパネルを、いきなり僕の「毒魔羅」に装着してきた。当然、毒魔羅には激しい痛みが走る。

 ・・・装着?薄っぺらいパネルに、僕の毒魔羅がピッタリとフィットしている?これはいったい、どういうことなんだ?

 待て。この感触・・・この絶妙なぬめり具合と締め付け具合・・。間違いない。これは、女の性器よりも気持ちいいとリピーターが絶たない、伝説のオナホール、「TENGA」ではないか。

「こんなに立派になっている毒ひのきの棒を使わないのは、勿体ないと思ってね。出すものを出せば、毒も抜けるかもしれないしね」

 出すものを出すって・・。冗談じゃない、こんなにグジュグジュに炎症を起こしたモノに、外的な刺激を与えたりなんかしたら、とんでもないことになってしまうじゃないか!

 今度は、僕の毒魔羅を、あんな8ゴールドの武器に例えたりしたことからも、間違いない。山地くんは、僕を虐げて、己の欲求を満たす気だ。
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凶悪犯罪者バトルロイヤル 第150話

 宮崎勤は、コップに残った最後の「赤マムシドリンク」を飲み乾した。五錠もの「レビトラ」とともに、である。

 近年、とあるお笑い芸人が、バイアグラの飲みすぎで体調を崩し、救急車で運ばれた事件があった。通常の用量の五倍ものレビトラを服用した僕も、そうなってもおかしくはない。

 勝つために、明日を捨てる――。今の僕の気持ちは、「グラップラー刃牙」のとある登場人物そのものだった。

 僕はおもむろに服を脱ぎ捨て、おむつ一丁となった。そしてリモコンを用いて、曲を入れる。「崖の上のポニョ」――。大好きなジブリアニメの、テーマソングだった。

「ぽ~にょぽ~にょぽにょ男の子。真ん丸お腹の男の子」

 歌詞に合わせて、僕はデブ腹を揺すり、汗を飛ばしてみせる。その際、小刻みなジャンプを繰り返し、やはり脂肪まみれの太もも、二の腕なども揺らし、より「ぽにょ感」を演出するのがポイントである。これこそが、僕が考えた創作ダンス――。マキが勤める保育園で披露すれば、大ヒット間違いなしのダンスだった。

 僕の腹から飛び散った汗が、マキの美しい顔に付着していく。興奮した。しかし、こんなのはまだ、序の口である。続いて僕は、180度身体の向きを変え、突き出したおしりを、マキの顔に押し付けた。溜まったうんちを、おむつ越しに押し付けたのである。

「ぽ~にょぽ~にょぽにょ男の子。真ん丸お尻の男の子」

 僕は、お尻の「ぽにょ」ならぬ「むにゅ」をマキの顔に押し付けながら歌う。興奮した。興奮したせいか知らないが、また、便意を催してしまった。

 お尻をマキの顔に押し付けたまま、盛大に排便する。僕のお尻の「むにゅ」が、一回りサイズを増した。

 もう、止まらない。このまま最後まで行くつもりだった。

 曲が終わると、僕は持ちこんだおしゃぶりを咥え、よだれかけを付けた。大きな赤ちゃん――股間を硬くした赤ちゃんに変貌したのである。ちなみに、本当の赤ちゃんも、普通に勃起することはあるらしい。いつか、0歳の硬くなったおちんちんを、100歳の老婆の陰部に挿入する――それが、僕の夢の一つだった。

 そして僕は、おむつの股間部分に穴を空け、ついに「毒魔羅」を露出させた。

 毒魔羅――。ゴキブリの体液、ワラジムシをすりつぶしたもの、カマドウマを煮詰めたもの、ヤスデにはちみつをかけたもの・・など、自然界から抽出したエキスを、腐った牛乳、自分自身の唾液、滅茶苦茶まずい青汁、伝説の「チョコレートソーダ」などを混ぜ合わせた液体に浸し、その中に、よく洗って粘膜を落としたペニスを漬けることで完成する武器・・・。こんなものが人間の身体に挿入されたら、死に至ることは間違いなかった。

 無論、使用者である僕自身とて、ただでは済まないだろう。しかし、それが何だというのか。僕は、今日の勝利を得るために、明日を捨てた男なのだ。ちんちんが壊死することを恐れるような、柔なハートは持ち合わせていない。

 勝つために明日を捨てた男であるところの僕は、ちくびを刺激しながら、ソファに横たわるマキににじり寄っていった。ちなみに、もう一方の左手は、「毒魔羅」をしっかりと握っている。

 ちくびオナニーには、しごき技がない・・。そう思っていた時期が、僕にもあった。しかし、何のことは無い。右手でちくびを弄りながら、左手でちんちんをシコシコすればいいだけなのである。

 そう・・・。ちくびオナニーって、片方の手でちんちんをしごく性技なのだ。

 そこまで考えたところで、僕の今のやつは、別に何も、あの刃牙の有名なセリフとかかってないことに気づいた僕は、羞恥で顔が真っ赤になった。

「くそう、僕にこんな恥ずかしい思いをさせやがって。酷い女だ」

 僕はやり場のない怒りの矛先を、目の前のマキへと向けた。こうなれば、マキの命を確実に奪い、心の靄を払しょくするしかない。

 マキに毒魔羅を突き刺すにあたり、最大の関門は、いかにして強姦罪を回避するか、である。

 その対策は万全だった。僕は、マキに送った「おじおち」に、作者であり、僕が尊敬する人物である、夜原なおき先生による吹き替えテープをつけていた。テープには一定の間隔で、僕のオナニー時に発せられた、皮が上下する音が録音されている。マキが「おじおち」を読んで恍惚感を味わっているとき、それが耳に入ることによって、僕のオナニー音が、快感として刷り込まれるという仕組みだ。いわゆる、サブリミナル効果という奴である。

 僕は、毒魔羅をしごきはじめた。眠っているマキには、すぐに反応が伺える。頬がピクリと動いたのだ。このまま陰部摩擦を続けていれば、マキは必ずや、僕の毒魔羅を欲しがり始めるに違いなかった。

「・・・・・!!!」

 勝利を確信した、その瞬間だった。僕の毒魔羅が、激しい痛みを発し始めたのは。

 痛い。尋常ではない痛さである。見た目には、何も変わっていない。黒々とした肉棒の先に、梅干しのような亀頭が覗いている、いつもの僕の息子である。とくに腫れたりということはないのに、なんでこんな痛いんだ。

「どうしたらいいんだっ、どうしたらいいんだっ!ああっ、ああっ!」
 
 勝つために明日を捨てた代償が、僕に襲いかかってきた。

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凶悪犯罪者バトルロイヤル 第149話


 宮崎勤は、保育士マキとの待ち合わせ場所である、「俺たちの太郎」看板前へと到着した。

 今日のマキは、電話で言っていた通り、進撃の巨人の調査兵団制服を着ている。道行く男性が皆必ず振り返る、美しいマキ――。まさしく、僕の「毒魔羅」を突き入れるのに、相応しい女だった。

「あ・・・宮崎さん!」

 マキが僕に気づき、手を振った。秋葉原には外国人やリア充も多く、何回かは声もかけられただろうが、それらをすべて無視し、この美しきマキが、ただずっと僕一人を待っていてくれた事実――。
こんなモサっとした、冴えない僕を待っていてくれた事実――。

 性格も容姿もパーフェクトなマキを、「毒」で犯し、命を奪う――。これこそが、男の喜びである。

「宮崎さん、その恰好は・・トトロですね!」

 大好きな、ジブリアニメキャラのコスプレ。コスプレイヤーと呼ばれる人たちには、ただ好きだからという理由だけで、己の体型とあまりにもかけ離れたキャラに扮する者も多いが、僕はちゃんと、自分の体型と相談して、キャラクターを決めた。しかし、あえて人外のキャラを選んだのは、別の理由があったからだ。

「可愛い~。ちょっと触っても、いいですか?」

「もちろんさ。心行くまで、触るといいよ」

 マキのスベスベした手が、僕のラードに呪われた、不摂生の塊たるぶよぶよボディを這う。快感だった。しかし、今や僕は、童貞ではない。これぐらいでは、ペニス、いや「毒魔羅」は反応しない。

 だが、マキの手が、ある場所に触れた瞬間、ついに、僕の毒魔羅に大量の血液が流し込まれた。

「あれ~。なんかこの尻尾、もふもふ、じゃなくて、もにゅもにゅしますね。粘土を触ってるみたい」

 そりゃ、そうさ。だって君が触っているのは、尻尾じゃなくて、僕のうんちなんだから。

 道行く誰もが振り返る美しいマキが、汚らしい僕のうんちを触っている――。おむつ、ステテコパンツ、着ぐるみと、三つの物質に遮られてしまっているが、紛れもなくマキは、僕のうんちを触っている――。これが興奮せずにいられるだろうか。これこそが、僕がコスプレに、「トトロ」を採用した狙いだった。

 そして僕は、「毒魔羅」を滾らせ、おしりには、尻尾ならぬうんちを振り振りさせながら、秋葉原の町を練り歩いた。僕のこのうんちを、マキの可愛らしいおしりに、浣腸用の注射器か何かを使って注入する・・・そんな妄想が止まってくれなくて、どうにも困る。

 秋葉原の地・・・。そういえば、ここではあの加藤が、通り魔殺人をやらかしたのだったか。まったく、あいつはどうしようもない奴だ。こんなに素敵な、心の落ち着く場所で、あんな野蛮な事件を起こすなど、あいつはどういう神経をしているのか。そういう、どうしようもないヤツだから、僕のことを毛嫌いしたりもするのだろう。憶測の域は出ないものの、あいつのせいで僕の死刑が執行されたという話もあるし、加藤とは僕にとって、まさに疫病神のような奴だ。

 加藤への憤りを心に抱きつつ、僕らは、店主の一人漫談が面白い防犯グッズ店、なぜか妙に多いケバブ屋などを覗いた後、書店とフィギュアショップを両立した店に立ち寄った。

 独特の酸っぱい香りが鼻をつく。以前にも感じたことだが、秋葉原の店は、なぜか、変な臭いがする店が多い。秋葉原に限らず、こうしたオタク系の商品を扱う店は、総じて店内に籠る空気の質が悪いのが特徴である。客層の問題なのだろうか。いずれにしろ、この、夜な夜な幼女を思い浮かべながら、白濁した己の遺伝子を放出することを日課とする戦士たちの身体から放出されたものと思われる臭いに満たされた空間の中に、美しいマキが存在しているというのは、まさに肥溜めに咲く百合といった風情であった。

「あ!おジャ魔女ドレミのフィギュア!こっちには、プリキュアも!わ~、セーラームーンの変身ステッキ!なつかしい~!」

 小さな女の子向けのアニメも、マキの守備範囲のようである。少女アニメの変身セットに身を包んだ幼女に汁を塗り付けるというのもいいが、少女アニメの変身セットに身を包んだ成人女性に汁を塗り付けるのも、それはそれで乙なものである。

 そして僕たちは、カラオケボックスへと入った。ようやく、二人きりの空間へと入れたのである。僕はもっぱら聞き役に徹し、マキが、様々なアニメソングを歌う傍らで、にこやかにほほ笑みながら、「赤マムシドリンク」「マカの力」「すっぽんエキス配合のなんちゃらかんちゃら」を飲んでいた。

「う~ん・・なんだか私、疲れちゃったな」

 言ってマキは、歌うのをやめ、目をパチパチとさせた。かなり、瞼が重そうである。前日から仕込んだ僕の作戦は、成功したようだった。

 前日――。僕は世田谷で手に入れた、名作「おぢちゃんのおちんちんが、ほみかちゃんにはいるまで」を、マキに送っていた。マキが、早く読みたいというのを無視し、あえて昨日まで待って、ようやく送ったのである。

 理由はひとつ――。前日に、マキが徹夜でこれを読みふけるだろうことを計算に入れていたのだ。それにより、マキを睡眠不足に陥らせるのである。

 睡眠薬を使わずして、女を眠らせる――。完全犯罪の成立だった。

「眠かったら、少し休んでいてもいいよ。僕はそういうの、気にしないから」

「そ、そうですか・・・。じゃあ、お言葉に甘えて・・。お会計は、あたしが持ちますから」

 そういってマキは、ソファに横になり、すやすやと寝息を立て始めた。

 僕の「毒魔羅」が、生涯史上最大のサイズと硬度を獲得した。  

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凶悪犯罪者バトルロイヤル 第148話

 宮崎勤は、保育士マキとのデートの地、秋葉原へと向かっていた。

 近頃僕には、密かなマイブームがある。それは、満員電車の中で、うんこを漏らすことだ。

 電車の中で便意を催したとき・・・。それは、冗談ではなく死の恐怖を感じる瞬間である。東京の電車は駅間の距離が短いため、トイレを設置していない電車が多いが、すぐ降りることができるからトイレがなくても平気、などというのは、あまりに乗客に配慮が足りない考えである。余裕を持って家を出ればいいじゃないか、といってしまえばそれまでだが、世の中そうそう、出来る人間ばかりではない。出来る人間だってギリギリに家を出ることはあるだろうし、よりによってそういうときに限って襲ってくるのが、便意というものだ。

 そこで僕は思った。電車の中で、今まさに便意に襲われ苦しんでいる者の目の前でうんこをすれば、どれだけ気持ちいいかと。うんこを漏らしてしまったその瞬間、人は「もう、どうでもいいや」と、あたかも強姦された女性のような感情となり、諦めの気持ちから、いつもの排便にはない、えもいえぬ快感を味わうことができるが、それに加え、あたかも童貞男の前で、美女の乳を揉んで魅せるような、勝利の快感を味わうこともできるのである。

 無論、ブツを外に出してしまったら問題になってしまうから、すべての出来事は、おむつの中で引き起こされる。最近のおむつは密閉性に優れ、中で排泄をしても、臭いが外に漏れることは一切ない。もちろんそれでは、相手に見せ付けることはできないが、僕の中での達成感は満たされる。今の僕の最大の望みは、さっさとこのくだらない殺し合いの大会が終了し、どうどうと電車内でうんこを出せるようになることだった。

 しかし、この日はあいにく、便意を催している者は見つからなかった。まあ、そうそう毎日、額から脂汗を流し、修羅の如く顔を歪めている者が、見つかるわけではない。仕方がないので、適当に、そこらにいた子連れの女に目をつけ、傍によって、うんこを漏らすことにした。

 近頃、野菜中心の食事をし、さらに「コ―ラック」を、通常の用量の倍飲んで、便の通じをよくした結果――。現在、僕の腸は、抱えた物を吐き出したくて、しきりに痛みを発している。僕はその訴えに耳を傾け、ふっ、と、黄門様の力を緩めた。

 くさくない。嘘みたいに、まったく、臭いがない。大量のうんこが放出され、僕のズボンの後ろには、こぶし大ほどのふくらみが出来ているにも関わらず、である。

 しかし、子供の鼻は敏感だった。ベビーカーに乗った、1,2歳くらいの男の子は、車内に漂うかすかな臭いを確実に感じとり、大きな泣き声を上げ始めた。

「す、すみません・・。ほら、詩理臼ちゃん、泣き止んで。ね」

 母親は、周囲の乗客に頭を下げて謝っているが、子供はそんな母親の奮闘を無視し、あろうことか、僕同様に、うんこを漏らしてしまった。子供のおむつは、僕が履いているおむつとはかなり性能に差があるようで、辺りには香ばしい臭いが、ぷ~んと漂ってしまった。

 ははは、ざまあみろ。僕はお前より、何倍もいいおむつを履いているんだぞ。どうだ、羨ましいか。僕は心の中で、泣きじゃくる子供を嘲った。催している人の前で漏らす快感は味わえなかったが、思わぬ形で、勝利の快感を得ることができた形である。

「ちょっと、子供うるさいんですけど。小さな子供を連れているなら、公共の交通機関じゃなく、車を使用してくださいよ」

 なにやら、肥満して冴えない顔立ちをした、サラリーマン風の男が、僕の方を向きながら、文句をつけてきた。どうやらこの男、僕のことを、詩理臼なる子供の父親と勘違いしているようである。

「まったく、近頃の親は常識がないというか・・・。子供に変な名前をつけるような親は、やっぱりロクでもないですね。どうせ仕事もロクでもないんでしょう。だから車も買えないんですね」 

 僕のことを言っているのだろうが、勘違いされているだけなのだから、別に腹も立たない。しかし、母親は歯噛みして悔しがっているようである。

 おそらくこの男は、街中で人の弱みを見つけるたびに、それにつけこんで、己の醜く歪んだプライドを満たしているのだろう。本当はコンプレックスの塊で、いつも何かに追い詰められている、悲しい人間に違いない。

 いつもはうまくいっているのだろうが、しかし今回は相手が悪かった。

「豚が電車に乗っているのも、十分人の迷惑だと思うが、違うのだろうか」

「なっ・・・!!!人の、人の、人の身体的欠陥をつくのは、人の、人の」

 豚が可愛そうなくらいに、取り乱してしまっている。こういう、常識云々を言ってくる奴に限って、ネット掲示板の書き込みレベルの反撃をされると、もろいものである。電車内からは、パラパラと、拍手のような音も聞こえてくる。結局、居づらくなった男は、次の駅で降りて行った。

 そして電車は、秋葉原駅へと到着した。

「どうも・・ありがとう、ございました」

 母親が、涙ながらに僕に頭を下げた。子供はといえば、何があったのか、まるでわかっていないといった風に、キャキャと笑っている。

「・・・・」

 どうでもよかった。なんだか、僕はいいことをしてしまったらしいが、極めてどうでもよかった。興味がなくなっていた。今、僕の頭にあるのは、股間で眠る、完成したこの「毒魔羅」を、美しき女、マキに突き刺すことだけである。

 僕は、地下闘技場の戦いに挑む闘士の気持ちで、秋葉原へと降りていった。もりもりのうんちの温もりを、おしりに感じながら――。

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凶悪犯罪者バトルロイヤル 第147話

 麻原彰晃率いる麻原彰晃探検隊は、渋谷区の代々木公園に「かぶと虫採り」に訪れていた。新加入の丸山博文の、歓迎会を兼ねての催しである。

 東京23区――日本でもっとも自然とかけ離れているように思えるこの地だが、意外にも、かぶと虫などの昆虫を目にすることができる場所は多い。雑木林に放虫された虫が、何代にも渡って繁殖を続けているのである。

 以前の冒険で捕まえたカナリアによって、麻原は、みんなでペットを世話することで、組織の気持ちが一つになることを学んだ。また、自分にはさっぱり理解できないが、アニマルセラピーとやらで、凶悪犯罪者どもの荒んだ心が癒される効果もあるらしい。そこで、ちょうどカブト、クワガタが成虫になるこの時期を狙って、昆虫採集に繰り出したというわけだ。

「お、あっちカブト出たぞ!」

「やった!ノコギリクワガタゲットだ!」
 
 探検隊は、野生児菊池正の先導のもと、森の中を進んでいく。虫かごにはすでに、4体の昆虫が蠢いている。大漁の予感――。麻原の中にも、とうに忘れていた、純粋無垢だったあの頃の心が戻り始めていた。

「うわあっ、コーカサスオオカブトだあっ!」

「なんであんなところにっ!」

 コーカサスオオカブト・・・ヘラクレスと並ぶ最強のカブトムシが、なんと野生化しているという。麻原の頃は考えられなかったことだが、近年は養殖が進み、ホームセンターなどでも、外国産のカブト、クワガタを普通に見かけることがあるから、どこかの家庭から逃げ出したのかもしれない。

「ちくしょう・・けど、高いな・・」

「菊ちゃん・・・は、無理か」

 菊池正は、先の西口彰との戦いにおいて、梅川昭美が仕掛けたブービートラップによって、足を怪我している。コーカサスがとまっているのは、地上十五メートル近くの高さで、枝も少なく、登るのは極めて困難である。最強のカブトムシを前にして、諦めるしかないのだろうか・・。

「私が行ってみましょうか」

 名乗り出たのは、新宿西口バス放火事件の犯人、新加入の丸山博文である。報われない境遇の中で心を歪めた、悲しき犯罪者。犯罪の性質からか、探検隊内では、最強の男造田博と特に仲がいいようである。

「よし。ではここは、博文の力を頼むとするか」

 探検隊隊長である麻原の指名を受け、丸山はスルスルと、ブナの木を登り始めた。丸山は元建設作業員。全国の飯場を転々としていたというから、ダム工事などの、危険な現場も経験しているのだろう。足場が不安定な高所での作業は、お手の物だった。
「採ったバイ!」

 丸山が、手に取ったコーカサスオオカブトを、誇らしげに掲げて見せた。

「うおー、すげえ!」

「丸ちゃん、かっけー!」

 丸山が地上に降りてくると、ホームランを打った打者にそうするように、探検隊の隊員たちが代わる代わる丸山の頭を叩いて祝福する。あまりにも悲しい人生を歩んだ彼がようやく見つけた、安息の地。麻原彰晃探検隊――もはや誰もが認める大会最強の集団、バドラが崩壊することを想像するものは、誰もいなかった。

 かぶと虫とりから、帰還するまでは・・・。

「麻原包囲網だと・・・」

 丸山博文が、バドラの面接に向かう前、角田美代子らからの襲撃を受けた話を広げていくうち、ついにバドラを倒すため、複数の勢力が手を結んだ事実が明らかになったのである。

「やべえよ。これマジでやべえって」

「狼狽えるでない、光彦。いつかは来るとわかっていた試練だ」

 そう、予想していた通りの事態――。参加者最大、10名もの人員を抱えるバドラを倒すには、もう、複数の勢力が束になってかかるしかない。

 織田信長やナポレオンも通った道――包囲網。最大勢力の宿命。麻原彰晃率いるバドラの挑戦が、今、幕を開けた。

 
               ☆    ☆     ☆     ☆     ☆

麻原包囲網結成。その合計人数、26名・・。腹心の部下、金川真大がもたらした報を受けて、宅間守は戦慄した。

 冗談ではない。なぜに自分が、麻原のオッサンの巻き添えを食わねばならんのか。こんなことなら、オッサンと同盟など、結ぶべきではなかった。宅間はすぐさま、包囲網に参加している各勢力に、麻宅同盟解消、包囲網加入の打診をしてまわった。

 しかし、その悉くは、失敗に終わっていた。コリアントリオ、闇サイトトリオ、芸能人コンビ・・もう、三件が潰れている。どこへ電話をかけても、宅間は信用できない、加えるわけにはいかない・・と、話も聞いてもらえないのである。

「クソ、こうなったら・・・」

 宅間が次に電話をかけたのは、かつての盟友、角田美代子である。

「なんだい」

「おう、オバハンか。折り入って頼みがあるんやが・・」

 窮したときは、どれだけ過去に遺恨がある相手にも、媚びてみせる――。前世での犯行直前、あの憎き父親に金の無心をしたときと同じ声音で、宅間は角田に話を切り出した。

「麻原包囲網に加わりたいって話だろ?冗談じゃないよ。誰があんたなんかを信用するかい」

 角田美代子も、同じ返事――。宅間が詳しい話もしないうちから、口調にはすでにして拒絶の意がたっぷりと含まれている。
 
 いったい、何故や。なぜにどいつもこいつも、ワシを拒絶するのや。

「なんやクラァ、ババア!貴様、ワシを裏切って殺そうとしよってからに、どの口から信用なんて言葉を抜かしとるんじゃ!」

「その性格だよ。義理という言葉から遠いという点じゃ、アタシも同類だが、アタシは利益が絡んでいるうちは、相手を裏切ったりはしない。だが、あんたは別や。あんたは、たとえそれがどんな不利益に繋がることがわかっていたとしても、一時の感情で大爆発し、すべてを台無しにする。そんな男と組むのは、自分から爆弾を抱え込むようなものだ。危なっかしくてできるかい」

 返す言葉もない。四度の結婚生活もそう、安定した公務員の職もそう。確かに自分の人生は、後先を考えずに爆発をし、そのたびに大事なものを失うことの連続だった。だが――。

 どうもワシは、イメージだけで語られているところがないか。確かに前世での行いを見たら、ワシのそうした、どうしようもない直情径行の性質は明らかになるところではある。しかし、現世においては――今大会において、ワシは誰かに、何か不義理を働いたか?むしろワシこそが、角田のオバハンに裏切られた被害者ではないか。

 なのに、なんや。なぜにワシが除け者にされ、角田のオバハンの方が受け入れられておるのや。

 前世でも、同じことがあった――。そこでは何もしていないのに、心を入れ替え真面目にやろうと思っているのに、いつも過去の素行不良を理由に、宅間は信用できない、消えてくれと言われる。そうやって疑いの目で見られるから、こちらにも不信感が募り、じゃあお望み通りやってやろうか、となってしまうのである。

「そんなに仲間に入れて欲しいなら、包囲網の盟主の、重信と松永に頼んでみるんだね。最高の権限は、奴らが握ってるんだ。電話番号を教えてやろうか」

「ええわ!」

 通話ボタンを押した。これ以上、不快なだみ声を聞いていると、爆発して、辺りの一般人を殺ってしまいそうだった。

 もうわかった。貴様らがワシをそういう目で見るのなら、もう仲間に入れてくれとは言わん。皆殺しにしたる。麻原のオッサンと、運命を共にしてやる。

 糞どもが。

 地獄で後悔せえや。

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凶悪犯罪者バトルロイヤル 第146話

 松永太は、復帰戦を勝利で飾った加藤智大を眺めていた。

 素人目に見ても、見事な立ち回りだった。強豪小泉を相手にあの内容で勝てるのならば、都井に負ける以前よりも、力は上になっているだろう。しかし、手離しでは褒められない。あの男・・宅間守との戦いの時は、もう現実に考えられるところまで迫っている。加藤には、一層の覚悟を持ってトレーニングを積んでもらわねばならない。宅間と単独で渡り合えるポテンシャルを持っているのは、全参加者中でも加藤しかいないのだから。

「さあ、用事は済みましたから、これ以上の長居は無用です。松村くん。運転を頼みます」

 指示を出しつつ、視線を、鳴動する携帯電話に転ずる。ディスプレイに表示されている名――角田美代子。

「どうしました?」

「それが・・その・・・」

 珍しく、角田に動揺が見える。何か不測の事態が起きたようである。まあ、松永には、角田軍がいかなる事態に直面したのか、すでにわかっているのだが。

「ターゲットを取り逃がした・・・!?いったいそれは、どういうことですか!!」

 自分がそれを仕掛けておいて、松永は角田の失態に、激昂したフリを見せた。

「いや、アタシたちだけだったら、うまくいってたんだよ。邪魔者が入ってさ・・。北村一家だ。あいつらが、ごちゃごちゃと文句をつけてこなかったら、こんなことにはならなかったんだ」

 松永は、口角をギッと吊り上げた。「麻宅同盟」「麻原包囲網」、どちらにも属さない中立勢力である、北村一家を利用する計画は、大成功を収めたようだ。

 松永は前日、角田軍のターゲットである丸山博文に金を握らせ、北村一家に電話をかけさせていた。「あなた方の軍に加わりたい。ついては、七月○×日、自宅アパートまで迎えに来てほしい、と。

 そんなことをしたのは、角田軍と鉢合わせ、角田の作戦を妨害させるためである。角田に、丸山を取り逃がさせる――挽回のため、角田が積極的にバドラに攻め込むようになる――我が軍の戦力を使わず、バドラの戦力を損耗させる、という計画である。

 角田軍とバドラを戦わせるならば、バドラに丸山を迎えに来てもらうのが一番手っ取り早いことはわかる。しかし、現状、人数に余裕があるバドラは、おそらくそこまではしないだろうと、松永は読んだ。逆に、今後のことを考えれば、喉から手が出るほど人材を欲している北村一家ならば、呼べば必ず迎えにくるだろう。

 それに、バドラ側に謀略が漏れてしまえば、逆に小泉毅を狙う我が軍が、バドラの急襲を受けてしまうかもしれない。そうなれば、たとえそこを生き残っても、我が軍と角田軍の立場が逆転してしまう。すべての計画を実現するには、第三勢力である北村一家を利用するしかなかった。

「なんだか知らないけど、北村一家の話を聞く分には、丸山は二股をかけていたみたいだね・・。それさえ事前にわかってりゃ、こんなことには・・」

 何も知らない角田。二股など、あるはずがない。

 丸山は1942年、北九州市で生まれた。母は丸山が三歳のときに亡くなり、父はアルコール依存症で働かず、家庭は貧困を極めていた。丸山は家計を支えるため、幼いころから大工や農家の手伝いをせねばならず、義務教育もロクに受けられなかったため、その学力は、成人してからも、小学生レベルの漢字の読み書きすら覚束ない有様だった。

 義務教育終了後、全国の建設現場を転々として暮らす生活を送っていたが、30歳のとき、水商売の女性と結婚。居を落ち着け、一児をもうけたが、この妻は男にだらしがなく、子供がいる身ながら毎夜遊びあるくような生活を送っていたため離婚。丸山は、子供を施設に預けなければならなかった。その後は全国の建設現場を転々とする生活に戻り、収入はけして安定しなかったが、そんな中でも、丸山は施設への送金を一度も欠かすことはなかったという。

 しかし、金にも人の温もりにも恵まれぬ生活の中で、丸山の心は荒んでいった。

「今まで真面目に働いてきちょったとに、何でワシばっかりがこげな目に会わないかんと・・?」

 弱者を蔑み、食い物にする社会への不満が、狂気へと変わっていったのである。

 そして1980年、新宿西口にて、バス放火事件を起こす。六人が死亡し、二十二人が重軽傷を負う大事件であったが、丸山は犯行当時精神耗弱状態にあり、また被害者の一人が丸山の境遇に同情を寄せ、世間からも減刑の嘆願が多くあったことなどから、判決は被害者人数からいえば異例の無期懲役となった。このとき丸山は、その無知から、無期懲役を無罪と勘違いして被害者遺族に土下座をするなどして、法廷には笑うに笑えぬ空気が漂ったという。

 データを見る限り、丸山とは、誠実なだけが取り柄のような男である。そんな男に限って二股などあるはずがない。また、そういう男であるから、松永が言いくるめるのも容易かった。自分で襲撃計画を練っておいて、「襲撃を逃れるには、北村一家を利用するしかない。角田軍と北村一家が争うその隙にしか、君は家を出ることができない」などと、いけしゃあしゃあと言ってのけたのである。前日にはネットカフェを利用するなど、いくらでも手はあったというのに、丸山は疑うことさえしなかった。松永が疑わせなかったのだが。
 
「言い訳は無用です。あなた方がもっと早く・・それこそ、夜襲でもかけていれば、そんなことにはならなかったんだ!なのにあなた方はなんですか!のんびりのんびり、こんな時間にやってきて・・。しかも、コリアントリオは置いてきて・・。同盟軍全軍を動員していたら、北村一家を追い払うのもわけはなかったはずです!あなたはこの失態を、どう落とし前をつけるつもりですか!」

 烈火のごとく怒り――いや怒るフリをして、松永は角田を恫喝する。一のミスをした相手に、百のミスをしたように思わせる――松永の得意技である。

「どうするったって・・・」

「包囲網の先陣を切って、バドラを攻めるか、このまま包囲網を脱退するか・・二つに一つです」

 選択肢――それも答えが決まりきった選択肢を提示することで、相手の思考を制限する。

「早く決めてください」

「わ、わかったよ・・アタシらがバドラを攻めればいいんだろ」

 そして、決断は最後に必ず相手にさせることで、「自分で望んでそのようにした」という形を作り、責任を回避する。

「わかっているのなら、それでいいのです。必要ならば、こちらからも援軍や資金を提供しますよ。なに、ミスは挽回すればいいのです。盟主としてケジメをつけるためといえ、言い過ぎてしまいました。すみません。我々は、角田さんの力を高く評価し、必要としていることは変わりませんから」

 厳しく言った分だけ、フォローもきっちりと。これで相手は、気分よく仕事をしてくれる。

 松永の謀略の方程式が、完璧に決まった形となった。

 策士策におぼれる――才知に長けた者ほど、意外と謀略に引っかかりやすいということがある。己が一番頭がいいと思っているから、己が騙されることが想定できないのだ。

 角田美代子殿――。あいにく自分は、貴女を味方だとは思っていない。手を携えたのは一時のこと。自分の理想は、味方の立場でいながらにして、貴女を死に追いやることです。

 何も珍しいことではありません。サラリーマンの自殺原因の上位には、常に職場の人間関係が入っています。敵はむしろ外よりも、内にいるものです。

 このバトルロイヤルは、現代社会の縮図――たった百人の争いに勝てないようでは、七十億人類の争いには、勝てはしません。

 まだ自分は、一ラウンドを取っただけ。貴女に勝ったとは思っていません。今後、貴女の方から、も仕掛けてくるなら、遠慮せずにどうぞ。受けて立ちます。そちらも、ゆめゆめご油断なさらぬよう――。

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凶悪犯罪者バトルロイヤル 第145話

 加藤智大と小泉毅の間合いが、徐々に、徐々に縮まっていく。

 日本刀とナイフのリーチの差は、およそ50センチ。手を出せば、こちらの方が確実に先に届く。ゆっくりでいい。ゆっくり、歩を進めていればいい。やがて焦れた小泉が、イチかバチかの特攻を仕掛けてきたところを迎撃する。それが俺の作戦だった。

「・・・・わかった。もういい」

 小泉が、突然、殺気を消して、ナイフを下げた。いったい、どういうつもりなのか?俺たちは動揺を隠せない。

「降伏する。これからは、あんたらのために働く。だから、命を助けてくれないか」

 戦力の差を見て取った小泉は、降伏を申し入れてきた。想定内の展開ではある。殺し合いをしなくて済んだ。俺は刀を握る手の力を緩めた。

「ならば、武器を捨てなさい!得物を持ったままの降伏などは、認められません!」

「・・・チッ!」

 重信さんに心根を見透かされた小泉が舌打ちし、松村くんの方へと突進していった。

「待て!小泉、俺と戦え!俺と戦っているうちは、みんなは手出しをしない。俺とだけ戦え!」
 
 俺が叫ぶと、小泉は足を止め、俺の方へと向き直った。挟み撃ちにされ、この場にいる最大戦力である俺に背後から切り付けられるリスクを負うよりも、俺を消してから、意気消沈する重信軍の面々をいなしつつ、揚々と戦線離脱した方が得策と判断したのだろう。

 危なかった。小泉が降伏を申し出てきた時点で、俺は完全に安堵してしまっていた。重信さんに目論見を看破された小泉が、もし俺に向かって切りかかってきていたら、恐らく殺られていただろう。

 どうしようもなく甘ったれた精神性――。やはり、俺はまだ、宅間守や都井には及ばない。

 再び、間合いを詰める作業が始まった。焦る必要はない。わかってはいる。しかし、どうしても気が逸る。甘さを露呈したさっきの自分を掻き消したい思いが高まって、どうしようもなくなる。

 昔から俺は、一つのこと、特に、不快な思いや不安感を抱くと、頭の中がそれで一杯になって、何がなんでもそれを解消しなければならなくなってしまうところがあった。気持ちの切り替えが下手なだけだ、などと簡単に切り捨てられるレベルではない。それは殺人にまで発展するほど、病的かつ強烈な性質なのである。

 不快な思いから逃れるため、俺は自分から小泉の間合いに飛び込んだ。ほぼ同時に、小泉も大きくステップインし、俺の懐に潜り込んだ。先ほどまでは、千里にも万里にも思えた間合いは、これでほぼゼロに近くなった。偶然だったのか、狙っていたのか。これでリーチの利はなくなり、逆に小回りが利かず、不利な戦いを強いられる展開となってしまった。

「くっ・・・」

 小泉のナイフが、腹を割く。傷は浅い。しかし、焼けるような痛みが表皮を襲う。本能的に、傷口に左手をやってしまった。宮本武蔵でもあるまいし、重い日本刀を片手で扱えるはずもない。たかが2,3秒のことではあるが、俺は実質的に戦闘力を失ってしまった。

 あの都井睦雄と戦って生き残った小泉が、その隙を逃すはずもない。小泉のナイフの切っ先は、俺の喉笛を確実に捉えて迫ってきた。

 ・・・・迫ってきた?喉笛めがけて迫ってくるナイフが、見えている。見えているということは、避けられる。小川さんに勧められた、動体視力を鍛えるアイ・トレーニングの成果だろうか。考えるのは後だ。今は身体を動かせ。

 文字通りの、首の皮一枚。小泉の攻撃を躱した俺は、バックステップして距離を取る。今の一撃でトドメを刺したと確信していた小泉は、追撃ができない。俺はまんまと、間合いを回復することに成功した。

 落ち着いていく。今度は大丈夫だ。自分に言い聞かせ、一歩一歩、間合いを詰めていく。

 小泉は、もう肩で息をしている。運動量的には、ラジオ体操をした程度。しかし、込めていた気迫と、感じていたプレッシャーが違った。小泉のスタミナは、もう底を尽きかけているようである。

 今が決め時――。窮鼠猫を噛むのことわざ通り、追い詰められた生物は、ときに肉体や精神の限界を超えた力を発揮することがある。ここを逃せば、思わぬ逆転を食らうかもしれない。

「参った・・・降参だ」

 小泉がまた、降伏を申し入れてきた。今度は本当に、我々の軍門に降る決意をしたのかもしれない。しかし、もう遅い。そもそもこいつは、バドラに加入しようとしていた男である。一度降ったと見せて、隙を見て逃げ出し、我が軍の情報を土産にバドラに走ろうとしているのかもしれない。

 速やかに決断を下した。力強く一歩を踏み込み、全体重を乗せた日本刀を振り下ろした。真っ赤な鮮血が、道路の端から端までを汚す。糸が切れた操り人形のように崩れ落ちた小泉は、数分の間、丘に打ち上げられた魚のようにピク、ピクと動き、やがて屍となった。

「見事な戦いでした。次もこの調子で頼みますよ」

「すげえじゃんか。完全復活だな」

「トレーニングの成果は、順調に出ているようだな」

 殺し合いを制した俺に、重信さん、松村くん、小川さんが、口々に労いの言葉をかける。俺は三人に軽く頭を下げ、近くにあった自販機でコーラを買って、車に乗り込んだ。

 小泉毅――。紛れもない強敵との戦いを制し、どうにか生き残ることはできた。しかし、浮かれてはいられない。必勝の態勢を整えたうえで臨んだ今度の戦で、結果は紙一重の辛勝。このままでは、宅間守や造田博など、真の強敵との戦いを制することなど、到底できはしない。

 休んでなどいられない。帰って、トレーニングに明け暮れなければ――。

 腹の傷を畠山さんに治療してもらいながら、俺は戦闘後の異常な興奮状態を鎮めるため、冷たいコーラを一気に飲んだ。


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凶悪犯罪者バトルロイヤル 第144話

 張り詰める車内の空気の中で、松永太は、大物参加者、角田美代子からの電話を取った。

「松永です」

「ああ。アタシだけどさ。今、あんたの言う通りの場所に着いたよ。奴は今起きたようだね。部屋の明かりが点いた」

 角田の言う「奴」とは、参加者の丸山博文のことである。麻原包囲網参加者の一人、角田には、この日、小泉毅とともにバドラの面接を受ける丸山の襲撃を依頼していたのだ。

「丸山が面接を受けるのは、小泉より三十分前の九時三十分ですよ。今到着とは、いささか悠長すぎませんか?」

「間に合ったんだからいいじゃないか。それより、あの約束は覚えているだろうね?」

 角田には、丸山を討ち取った場合、1000万円の謝礼金を渡すことを約束している。

「もちろんです。ターゲットを殺害できれば・・の話ですがね」

「なあに、心配いらないさ。こちらは8人、あっちは1人。これでどうやって負けるっていうんだい」

 角田美代子は、傘下団体のうち、どちらかを置いてきているようだ。確かにそれでも十分な戦力差であるが、その油断が命取りになることを、あの女はわかっていない。

 自分と何かと比較され、活動期間の長さから、一部では自分以上とも言われる角田美代子。隙あらば己が連合の主導権を握ろうと企んでいるであろうあの女には、どちらの知力が上であるか、早い段階ではっきりさせてやる必要がある。

「何かあったら、逐一報告してください。一旦切ります」

 松永は電話を切り、後部座席に座る指揮官、重信房子に頷いてみせた。

「突入です。車を出ますよ」

 重信の命令で、加藤智大、松村恭造、小川博が、一斉に車を降りた。当初の指令では、小泉が車を降りるまで待機、という作戦であったが、突然の変更に疑問を呈する者はいない。上官の命令には絶対服従。彼らはよく調教されている。

 敵を欺くには、まず味方から。必要性に迫られない限りは、たとえ味方であっても、極力、考えを漏らさないほうがいい。

 謀略家に、疑いすぎるという言葉はない。たとえ親兄弟であっても信頼しないくらいが、丁度いいのである。

       ☆    ☆    ☆    ☆     ☆     ☆     ☆

 重信房子の命令を受け、加藤智大は、仲間とともハイエースを飛び出していった。

 
 突然の作戦変更。理由はわからないが、一々疑問を差し挟んでも仕方がない。今まで、重信さん、松永さん、両トップの作戦で勝ってきたのだ。よほど理不尽な命令でなければ、俺は黙って従うだけだ。

 アパートの二階にある小泉の家には、ピッキングを使って侵入する。あの忌々しいAが用いた、ピッキング用の溶解液を使うのである。委員会が定めたルールでは、化学製品の使用はご法度だったはずだが、爆弾やら毒物ならともかく、こうした、人の生き死にに直結しないようなものであれば、基本的にはお咎めなし、という方針らしい。

 ドアが開き、松村くんと小川さんが突入していった。襲撃を受けた小泉はベランダに出て、そのまま、下の植え込みへと飛び降りる。そこで待ち構えていたのが、俺と重信さんである。

「チッ・・・」

 ランニングシャツにステテコ姿の小泉が、地肌にベルトを巻き、それに着けていたホルスターから、ナイフを抜く。常に不意の敵襲に備えて、そのための準備をしている。確信――。この男は、手強い。

「できる限り、一人で頑張ってみなさい。厳しいと判断したら、援護に行きます」

 重信さんが、そう言って俺を送り出した。

 都井睦雄に手も足も出ず敗れた俺の、自信回復――。それが、今回の戦における、我が軍のテーマの一つだった。ただ小泉を討ち取るだけならば、夜襲をかけた方がもっと効果的である。相手は一人なのだから。それをせず、あえて小泉が起きてくるのを待ったのは、俺と一対一のシチュエーションで戦わせるためだ。

 宅間守――。「麻原包囲網」が続くなら、俺とあの男が刃を交える機会は、必ず訪れる。それまでに、いかに良質な実戦経験を積むか、というのは、俺に課せられた重要なテーマだった。
 
 やがて、階段から降りてきた松村くんと小川さんも合流し、重信さんと三人で、小泉を取り囲んだ。これでお膳立てはすべて整った。あとは俺と小泉の一騎打ちである。

「ぬおっ!」

 日本刀を抜いた俺に、小泉は臆せず立ち向かってくる。四方八方を敵に囲まれた、絶体絶命の状況。確かに前に出るしか道はないのだが、それにしても、刃渡り70センチメートルの抜き身の怖さにたじろがないのは、相当に肝が据わっている証拠である。

 小泉の突進をいなした俺は、バックステップして距離を取り、ゴルフボールを投げつけた。元プロ野球選手の小川さんから教わった、肩肘の力よりも、手首のスナップをうまくつかったクイックスローである。

 硬い物体が肉を打つ、鈍い音が聞こえる。ボールは、素早く反転した小泉の背中を打ったのみで、ダメージを与えるには至らなかった。

 二人とも正面を向き合い、立ち合いが仕切りなおされた。住宅街のど真ん中――。照り付ける日光、電信柱に止まったアブラゼミの鳴き声。焦れる空気に焼かれながら、俺と小泉は、ミリ単位で「間」を縮めていく――。

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プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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