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凶悪犯罪者バトルロイヤル 第134話

 宮崎勤は、あまりの理不尽への怒りに震えていた。

 くそう、なんで僕がこんな究極の二者択一を迫られなくてはならないんだっ!僕はとりあえず全裸になり、ガンキャノンを勃起させ、PCを使って拡大コピーしたNの少女時代の写真を貫通し、それをぶら下げながら、室内を走り回った。

「ああっ!ああっ!ああっ!」

 続いて僕は、おしりを露出させ、クレヨンしんちゃんの「ケツだけ星人」をやってみた。その光景を全身鏡で見てみたのだが、久々に見る僕の尻には、イボが沢山あったのが衝撃的だった。この汚い尻をマキに舐めさせ、その後、イボを削り取り、それを食べさせたい・・。そう思ったとき、「創作ダンス」のアイデアが浮かんだ。それをマキに見せれば、彼女のハートを鷲掴みにできること請け合いのダンス。今、そのダンスを練習しようかと思ったが、それどころではないことに気づき、やめざるをえなかった。

「ああっ、ああっ!この鏡餅が!このスライムがっ!この、ラードがっ!」

 今の僕にできることは、「創作ダンス」のカギとなるこのデブ腹をたたき、タプンタプンという音を鳴らしつつ、二段腹の隙間部分にじわ~っと染み出した汗を飛ばすことだけだった。

「うるせえぞっ!!!!!」

 とうとう、階下の住人に、怒られてしまった。違うんだ、全部小林のせいなんだ。あいつが悪いんだ・・。こういうとき、僕はどうしたら!

 そうだ・・。松永太。あいつに相談してみよう。困ったときは、あいつに相談してみれば、大抵なんとかなるんだ。それにあいつは、Nの勤め先の社長でもある。きっといいアイデアをくれるに違いない。僕は携帯を取り出し、松永の番号を呼び出した。

「松永です。宮崎さん、どうしました?」

「あっあっあっ・・、くさいうんこが届いて、Nのだったら食べようと思ったんだけど、小林のかもしれないんだっ!ぼっぼっぼっ僕はっ、刃牙みたいに、毒魔羅を作ってSEEDを出そうと思ってたんだけど、小林の野郎が、僕を邪魔しやがったんだっ!」

「落ち着いてください、宮崎さん。一つ一つ整理していきましょう」

「あっあっあっ。Nに、僕のSEEDを注入し、出来上がった子を、おまえにやろうか?」

「まず、先ほど、Nと小林という名前が出ましたが、それは大会参加者の、T・Nと、小林薫のことですか?」

「あっあっあっ。そうだ、そうなんだ」

 松永が、せっかくの僕の好意をスルーしやがったのにはムカついたが、ひとまず、ここはあいつの質問に答えてやるとする。

「そして、小林とNから、排泄物が届いたということですね?」

「そうだ、そうなんだ」

「小林とNは、交際関係にあるということですか?」

「あっあっあっ。それは知らない。だけど、一緒に住んでいるのは間違いないんだっ!」

「・・・なるほど」
 
 松永が、受話口の向こうで、思案を始めた様子が伝わってきた。
 
「宮崎さん。重要な情報の提供、感謝します。お礼に、私の店の健康診断の際に徴収した、Nの検便を差し上げましょう。医師のお墨付き、正真正銘の本物ですよ」

 そういう手もあったか。僕は納得し、電話を切った。松永がなんで喜んだのかはわからないが、そんなことはどうでもいい。僕がやるべきなのは、Nの糞の臭いを想像しながら、右手を股間に伸ばし、ぶら下げたNの少女時代の写真ごと握りしめての陰部摩擦をすることのみである。

          ☆   ☆   ☆   ☆    ☆   ☆   ☆

 T・Nが、小林薫との同棲を始めて、一か月あまりの月日が過ぎた。小林は今では、新聞専売所にて拡張員として働き、入社一か月目ながら、上々の成績を上げているという。出会ったばかりの、差別的な意味ではなく、この世にいてはいけない者の空気を発散させていたころの小林とは、まるきり別人のようだった。

「ただいま」

「おかえり・・って、それ、どうしたの?」

 帰宅した小林が手に持っていたのは、色とりどりの花束である。

「ん?ああ、お前へのプレゼントにな」

「え・・うん。ありがとう」

 私は小林が持ち帰った花を、さっそく花瓶に生けた。いい匂いのする花である。名前は何というのだろう。これから、客からのプレゼントで沢山貰うことになるかもしれないし、それでなくとも女なのだから、花屋で売っているような花の名前くらいは覚えなければ。

「私は、これから仕事だから。卵スープと、野菜炒めの夕食を作っておいたから、食べておいてね」

「ああ。すまんな」

「隠れてお菓子を食べちゃだめよ。ダイエット中なんだから。この前みたいに、ポテトチップスの袋なんて見つけたら、一週間エッチ抜きだからね」

「ああ、わかってるよ」

 思わぬキッカケから始まった同棲生活だが、意外なほどにうまく回っている。いかにも、モテない男が妄想小説で考えたような生活を、現実に送っている私はきっと、まるで男にとって、都合のいい女。

 だが、それでいい。有史以来、女はずっと、男のしもべとして生きてきた。女性優遇どころか、女性上位の今の社会が異常なのだ。しかしだからこそ、男に従順な女の価値が上がる。本当はそれが、史上ずっと繰り返されていた当たり前のこと、自然な姿なのに、その当たり前のことをしているだけで評価される。

 生き馬の目を抜くような水商売の世界でのし上がるには、女のプライドは不可欠である。しかし、最後に勝つのは、くだらない女のプライドを捨てた者だ。現在、中間発表の時点での私の月間ランキングは、女王リノに僅かな差をつけての1位。もう、私は「最後の勝負」の舞台にまで立っているのだ。

 その最後の勝負に勝つためにも、私は小林との同棲を続ける。男にとって都合のいい女。それを学んでやる。男に媚びて金を得る、そのためだけに特化した女となるために。妙な理屈なようだが、私は本気だった。

 決意を新たに出勤しようと、玄関のカギを開けて外に出ると、そこにAが立っていた。

「やあ、Nちゃん」

「え?どうしたんですか。今日は送り迎えは、頼んでないですよ」

「今日はそれで来たんやないよ」

 何か、嫌な予感がする。私は慌ててドアを閉め、リビングの小林のもとへと走った。

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凶悪犯罪者バトルロイヤル 第133話

 宮崎勤は、この日、T・N宅への、245回目の無言電話をかけ終えた。

 まったく、面倒くさい。どうして僕が、こんなつまらんことをしなければならないのか。大体こんなことになったのは、あの小林とかいうヤツが、僕との約束を破るからだ。あいつさえ約束を守っていれば、僕はこんなことをする必要はなかったんだ。僕は忙しいんだ。

 僕が現在取り組んでいるのは、「毒魔羅」の作成準備である。ドブネズミ、ゴキブリ、糞便、生ごみなどを混ぜ合わせた物体を入れた壺の中に、勃起したペニスを出し入れし、雑菌や毒素を、ペニスに染み込ませるのである。そしてそれを、僕の愛する女、マキに差し込む。

 僕がそのアイデアを実行しようと思ったきっかけは、人気コミック「グラップラー刃牙」を読んだことだった。あの作品に出てくる何某という男が操る「毒手」の項を読んで、それをペニスにおいて実現しようと考えたのだ。

 なぜに「ハンド」と「ペニス」を結びつけたかといえば、これもまた、グラップラー刃牙の影響である。刃牙の作者は、「セックス」を「戦い」と明言した。僕はそれにいたく感銘を受けた。そう、性すなわち戦・・。女を蹂躙し、恐怖を与え、あわよくば死に至らしめてこそ、「勝利」を得られる・・。ペニスで女を殺す、それは僕が、藤波知子とのセックス、いや戦いにおいてやろうとしたことだった。あの時は失敗したが、今度はやり遂げてみせる。「毒魔羅」から溢れる毒素、雑菌で、マキを殺してみせる。

 無論、リスクは承知の上だ。下手したら、マキとの一夜を終えたら、僕のペニスは、使い物にならなくなるかもしれない。どころか最悪、命を失う危険もある。しかし、それでもあえてやる。グラップラー刃牙に登場する闘士たちのように、僕も、命を省みぬ戦いを繰り広げてみせる。僕だって、男なんだ。この身体には、熱き血潮が流れている。

 委員会から咎められない自信もあった。ペニスに毒を塗るなどという行為は、普通に考えたら、自殺行為である。まさか誰も、人を殺すためにペニスに毒を塗るなどは考えないだろう。委員会は、僕の行為を自殺行為と判断し、無罪放免となるはずだった。

 「毒魔羅」の壺をかき混ぜているうちに、我が愛する女、マキからの電話がかかってきた。今週末に控えたデートの打ち合わせだろう。

「あ、宮崎さん!今週末の予定、覚えていますよね?」

「ああ、勿論だよ」

「あの、あの、私、コミケには、進撃の巨人のコスプレをしていこうと思ってるんです!宮崎さんは、何を着ていくんですか?」

「内緒だよ。楽しみは、当日までとっておいた方がいいからね」

「そ、それもそうですね・・。あ、話変わりますけど・・」

「なんだい?」

「あの、さっきから聞こえてる、くちゅくちゅ、ぬちゅぬちゅ、っていう音、なんですか?」

「この音かい?キャノン砲から、新たな生命を誕生させる種子を発射させようとしている音だよ」

「うーん・・?あ!今、ガンダムシードディスティニーのDVDを見ているってことですね!」

「まあ、そう言えなくもないね」

「そっかあ、いいなあ。あ、もう休憩時間終わっちゃう!また、連絡しますね!」

「うん・・うっ!」

 マキとの通話を切ったと同時に、大量の白濁液が、フィルムケースの中に放出された。

 ああ、スッキリとした。暫しの賢者タイムを味わった後、僕は、T・N宅への、この日236回目、通算で1874回目の無言電話をかけた。

 まったく、面倒くさい。なんでこんなことをしなければならないのか。これもすべて、あの小林とかいう野郎が、僕の純愛を否定しやがったからだ。

 なんて酷い野郎だ。あいつに、さっきの僕とマキの会話を、聞かせてやりたかった。あの会話を聞けば、いくらあの馬鹿でも、僕の純愛を疑うことはないだろう。あれを聞かせた上で、マキとの純愛を育みつつ放出した、このフィルムケースの中の種子・・SEEDを、見せ付けたかった。僕のSEEDを見せ付けられ、嫉妬に悶え狂う小林の姿を、見たくて仕方なかった。

 インターホンが鳴った。今、木嶋佳苗は留守にしている。僕が出るしかなかった。

 玄関に出て、宅配便の荷物を受け取った。送り主を見て、僕の背筋に電流が走った。

 小林薫・・。あいつ、いつの間に僕の住所を調べたんだ。

 包みを開け、中の物を取り出した。出てきたのは・・長い瓶に詰められた、マムシのように太い、茶褐色の糞便だった。とくに、メッセージカードのようなものはない。

「いったい・・・これは・・・」

 問題は、誰が放出したものか、ということである。もしこれが、美しいNがひり出したものだとしたら、食べねばならない。味を確かめつつ、SEEDを放出しなければならない。

 だが、これが汚らしい小林が放出したものだとしたら・・そんなものは、絶対に食べたくはない。美しい女が放出した汚物は大歓迎だが、汚らしいおっさんが放出した汚物など、まっぴらごめんだ。

 瓶の蓋を空けてみた。当然というか、くさかった。臭いを嗅いだだけでは、誰が出したかはわからない。くそう・・・僕に犬なみの嗅覚があればよかったのに・・。

 食べるか、捨てるか・・。それが問題だった。

「どうしたらいいんだっ、どうしたらいいんだっ!ああっ!ああっ!」

 僕の頭を、強烈なパニックが襲った。

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凶悪犯罪者バトルロイヤル 第132話

 破滅を告げるT・Nの言葉が流れる電話機を持つ麻原の手は、禁煙中のニコチン中毒者のように震えていた。

「いや・・そうは言っても、こちらも忙しいのだ。お前もわかっているだろう。西口との戦いが一段落するまで、勘弁してくれぬか」

「そんなこと、私には関係ないわよ。だったら、店に来なくてもいいから、50万円を私とホミカの口座に振り込んでよ」

 「クリスマスプレゼントの前借り」をくれというのに等しい、手前勝手極まりない無茶な理屈を叫ぶ小娘である。やっていることは脅迫そのものであるが、これも自分の捲いた種である。仕方なく麻原は、代替案を提示することにした。

「とにかく、俺はここから動けん。それならそれで、お前とホミカちゃんがこちらに来てくれるようにはできんのか?」

「ふーん、なるほどね。出張サービスはうちの店では行ってないけど、松永社長に頼めば、多分OKしてくれると思うわ。じゃあ、そういうことで行きましょう」

 意外にもNは、麻原の要望をあっさりと承諾した。

 そしてその晩、Nが、ボスであるA・Sの運転する車で、戦場である等々力渓谷公園にまでやってきた。

「お初にお目にかかります、麻原尊師。ご活躍は十七年前、テレビでたっぷり拝見させて頂きましたわ。まあ、それからすぐに、僕も逮捕されてしもうたんやけどね」

 己の言葉に受けて、少年のような無垢な笑顔を浮かべる男・・。これが史上もっとも有名な少年犯、A・Sか。どこにでもいる普通の青年のように見えるのは、少年院から出た後、社会の荒波に揉まれる中で「擬態」を身に着けた結果であろうか。それとも、その「普通さ」「素朴さ」もまた、彼が元々もっていた属性の一つなのであろうか。

「宅間守・・・!!!」

「おう。べっぴんのお姉ちゃんか。ワシはヌキ一筋で、キャバは嗜まんが、今日は麻原のオッサンのオゴリなんでな。タダ酒を断る理由は何もない。ま、楽しませてもらうで」

 「ガンダム像下の戦い」であいまみえた二人が、空気を緊迫させかけたが、それも一瞬のこと。Nはさすがにプロで、すぐに宅間との間のわだかまりに折り合いをつけ、客の一人として平等に接し始めた。

「久しぶりっす。勝田さん、マキ先生とはどうなったんすか?」

「いやぁ、この間デートしたんだけど、最近のアニメの話についていけなくてさ。なんだか最近、気になる男がいるとか言ってたし、ちょっと無理そうな気がしてきたよ。金川くんはどうなの?マサミ先生と、アドレス交換してたみたいだけど・・」

「いやあ、俺もアイツとデートしたんすけど、ゲーセンでゲームやってる間に、気づいたらいなくなっちゃってましたよ。まあ、三時間も放っぽってた俺も俺なんですけど、帰ることはねえだろって話っすよ。やっぱり三次元の女はダメです。ただの肉便器にしかなりませんね」

 ボーイズトークに花を咲かせているのは、以前、合コンの二次会で同席した、勝田清孝と金川真大の二人である。

「さ、さ。宅間の兄さん。もう一杯もう一杯。聞かせてくださいな、前科11犯、修羅に生きた男の武勇伝を」

「ん?おお・・」

「きゃー。私も聞きたーい」
 
「・・・・わしも聞くけえのう」

 宅間守、A、N、造田博が、過去の遺恨を忘れて盛り上がっている。

「おーい、関くん。将棋盤を16枚くっつけて、4人プレイを可能とした、スーパー将棋をやらないか?大道寺さんが考えたんだが、このルールでは、歩が敵の駒を5個取ると覚醒して、スーパーと金になるんだ。スーパーと金は、チェスのクイーンに加え、ナイトの動きもできる、チート駒だぞ!」

「でも・・」

「いいから、さあさあ」

 死んだ尾田信夫と喧嘩をした件で落ち込んでいる関光彦も、信徒の者たちと遊ぶ中で、徐々に元気を取り戻していくようだった。

 盛り上がりを見せるバドラ、宅間連合軍であったが、一人麻原の心は曇っていた。何しろ、秘密基地の攻防戦を開始してからというもの、バドラの出費は、なんやかやで300万円相当にも上っている。そのうち、西口たちが本格的に金銭の要求を開始してから、半分以上の180万である。このペースでいけば、あと半月程度で、バドラの資金は枯渇してしまうのだ。

 金の切れ目は縁の切れ目である。いかに洗脳された信徒といえども、食い扶持がなければ、自分から離れていってしまうのは確実・・。この危機の中で、浮かれた気持ちになど、なれるはずがなかった。

「そんしのおぢちゃん、どうしたの、しょんぼりして」

 一人しょぼくれていた麻原に声をかけてくれたのは、ホミカであった。

「うむ・・。じつはな、ホミカちゃんとおぢちゃんの交換日記が、悪いおじさんに奪われてしまったのだ。あれをみんなに見られたら、おぢちゃんはもうお仕舞いだ。本当に本当に、困っているんだよ」

 ホミカの存在に救われた気持ちになった麻原は、自分の今の悩みを打ち明けた。

「どうして、おぢちゃんが困るの?おぢちゃんの日記、とっても面白かったよ。みんなにも、読んでもらえばいいじゃない」

 麻原の脳内に、神の啓示を受けたかのような衝撃が走った。なるほど、そういう手もあったか。あの日記を逆に世間に広く公開し、流行らせることで、そもそも物質の効果を掻き消してしまう・・。骨と骨をぶつけ合うことしか考えられない凶悪犯罪者どもでは、けして考えられなかったアイデアである。

 戦わずして勝つ。それが文字違いの孫子も言っている、兵道の理想である。

「ホミカちゃん・・感謝するぞ」

 お先真っ暗だった攻城戦の前途に、確かな希望の光が差した。

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凶悪犯罪者バトルロイヤル 第131話

 かつての宿敵の懇願に、麻原は困惑していた。

 目の前の宅間守は、明らかに弱っているように見える。大会屈指の戦闘力を誇るこの男を倒すのに、今は最大のチャンスなのではないか?

 しかし、さすがに宅間は悪賢かった。麻原が愛するアヤ先生を、あらかじめ抱き込んでいたのである。

「お願い、尊師。宅間さんを、助けてあげて」

 アヤ先生にこう頼まれては、聞かぬわけにはいかない。麻原は宅間に食事を施した。むろん、タダというわけではない。西口彰の籠る秘密基地を陥落させるのに、力添えをしてくれることを依頼した。

 宅間を味方につけるにあたって、麻原はバドラの面々にも伝えていない「物質(ものぢち)」の件は打ち明けた。

「なるほど、スリルを味わいたかった、か・・。わからんでもないな」

 もともと、性犯罪は宅間のフィールドである。レイプ魔のこの男に、自分の単なるセクハラを打ち明けるのは、殺人犯に蚊を潰したことを打ち明けるに等しい、些細なことだった。

「せやけど、あの城を落とすのは難儀やで」

 三方を川に囲まれ、背後は山という地形。天然の要害である「秘密基地」を落とすのは、戦のプロでも難しいという。

「そもそも、こっちがどこまでやれば、相手がオッサンの日記を公開するかわからんのでは、話にならん。まずは話し合いを重ね、その線引きを明らかにせいや」

 それもそうである。なぜ、今までそこに気が付かなかったのか。バドラの信徒には、小田島鐵男や正田昭など駆け引きに長けた者もおり、早い段階で物質の件を打ち明けていればそういうアイデアも出ただろうが、それはできなかった。やはり持つべきものは、同好の士である。

 麻原は秘密基地に紙ヒコーキを投げ、西口との交渉を開始した。

――西口。いったいお前は、俺がどこまでやったら、あれを公開する気でいるのだ。

――うーん、新宿の伊勢丹で、神戸牛とシャトー・マルゴーを買ってきてくれたら、教えてあげんでもないなあ。

 敵は図々しくも、そんな要求をしてきた。涙を飲んで、肉とワインを買って送ってやると、城方の梅川と小平は、大胆にも小屋を出てきて、バーベキューをし始めた。

「うむ。銀行に籠ったときにも飲んだが、やはりマルゴーは格別やでえ」

 自分でも、逮捕されてからは飲んだことがないのに・・。麻原は嫉妬と憤りを感じたが、この現状では、ただ指をくわえて見ているしかなかった。

「食欲の次は性欲ですな。麻原尊師、デリヘルを頼んまっせ」

 舌なめずりをして要求してきたのは、伝説の強姦犯、小平義雄である。図々しいにも程があるが、しかしこればかりは、無茶な要求というものだった。なぜなら、秘密基地には、水道の設備がないからである。シャワーのない部屋には、デリヘルは呼べないのは当然のこと。今度の要求には、こちらが応じて金を出してやっても、向こうは欲求を満たすことはできない。はずだったが・・。

「キャー。ジブリの映画みたーい」

「気持ちいいー」

 なんと城方は、いつの間にか持ち込んだドラム缶で、屋外に「五右衛門風呂」を設置し、デリヘル嬢と入浴を始めたのだった。全裸体は晒さず、水着姿だから、強制わいせつにはならない。麻原たちは、小平と梅川が、変わりばんこにデリヘル嬢、しかも一回6万円もする、VIP御用達の高級デリヘル嬢と、五右衛門風呂でキャキャ戯れるのを、見せつけられる恰好となった。

「くそう、あんなの見たら、勃っちまうじゃねえか!」

「尊師、俺我慢できねえよ!」

 西口軍に羨ましいところを見せ付けられたバドラの信徒の性欲に、火がついてしまった。信徒たちに無駄な長期戦を敷いている負い目のある麻原はこれに逆らえず、バドラの全信徒、及び、ちゃっかりとそれに混じった宅間軍全員分の風俗代を出す羽目となってしまった。

 麻原たちを苛立たせるだけ苛立たせたうえで、一気に要求を叩きつける。西口の狙いは、徹底的に、バドラの資金を奪うことであった。今は潤沢なバドラの資金であるが、このままいけば、確実に先細りとなっていく。じわじわと追い詰められ、行きつく先は、滅亡・・。麻原の中で、「絶望」の二文字がちらつき始めた。

――西口。お前の要求には答えた。いい加減、どうやったら物質を公開するつもりなのか、それを教えんか

 麻原の送った紙ヒコーキに対し、返ってきた答えは・・。

――教える(約束を守るとは言ってない)

「おのれ、西口めえっ!」

 麻原は激昂した。これほどの怒りを感じたのは、かつてオウムを率いていた時代、テレビの討論番組で、白髪頭の無礼な司会者とやり合ったとき以来のことだった。

「落ち着かんか、オッサン。そこで怒りに任せて力攻めをするなら、まさに相手の思う壺やぞ」

 宅間が「週刊大衆」の袋とじを見ながら、麻原を諌めた。激情型のこの男から、こんな冷静な意見が出るのは、それが他人事だからであろう。

 しかし、「なんJ」の言い回しといい、いまだにこそこそ隠れて麻原たちの前に姿を現さないことといい、西口とは、まことに腹が立つ男である。もともと人を食った男なのか、あえてそういうキャラを演じているのか。一つだけ言えるのは、今、自分が対峙しているのは、紛れもない、大会屈指の強敵である、ということである。

 そして、枯渇へと向かうバドラの金庫に、さらに追い打ちをかける敵が、電話をかけてきた。

「麻原彰晃!あんた、全然お店に来ないじゃないの!今日こそは、信徒のみんなと一緒に、スカーフキッスに来てよ!じゃないと、あんたの破廉恥な日記の内容を、世田谷区民に公開しちゃうわよ!」

 麻原の脳内で、破滅を告げるカナリアの囀りが聞こえ始めた・・。


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凶悪犯罪者バトルロイヤル 第130話

 麻原彰晃率いるバドラが、「秘密基地」の包囲を始めて、一週間余りの月日が過ぎた。

 秘密基地に、大量の食糧が運び込まれてしまった・・。これでは、兵糧攻めで城を落とすのは、最低でもあと一か月はかかる。そんなにもずるずると長期戦を続けていれば、世田谷のスーパーバイザーとしての活動が行えなくなる。すなわち、金銭獲得が難しくなってしまう・・。

 バドラでは連日にわたって作戦会議を開き、各々が、膠着した戦況を打開する手だてを模索したが、妙案はいっこうに浮かんでこない。仕方なく、テントに持ち込んだおもちゃで遊ぶしかなかった。

 しかし、陣営を襲う焦燥は、楽しいはずの遊びにおいても、争いの火種を燻らせてしまう。バドラの信徒たちの間で、また喧嘩が勃発してしまったのだ。

「ふざけんなよ!いいじゃねえか!」

「ダメだダメだ!絶対にダメだ!」

 喧嘩をしているのは、またしても、関光彦と尾田信夫の、若い二人である。何事かと聞いてみると、今度の原因は、ボードゲームであった。二人は、将棋盤を用いて、将棋とチェスの異種格闘技戦「将棋VSチェス」を行っていたのだが、そのルールを巡って、意見の相違が生まれたようだった。

 争点となったのは、「成り」をどうするかである。チェスでは、相手陣地二マス以内にまで入らなければならないのに対し、将棋では、相手陣地三マス以内に入ることで、「成り」が判定される。このルールの相違を巡り、チェスでも三マス以内で成れるべきだと主張する関光彦と、チェスはあくまで二マス以内でないとダメだと主張する尾田信夫が、激しく火花を散らし合ったのだ。

「てめえ!いい加減にしろよ!バドラに入ったのは、俺の方が先なんだぞ!」

「たかだが一か月二か月の違いだろうが!それくらいで、偉そうにするなよ!」

 二人は大荒れに荒れ、それは他の信徒たちにも飛び火していった。そして事態は、麻原が恐れていた方向へと動き出していく。

「こんなことになったのも、西口たちのせいだ!あいつらさえ倒せば、全部解決するんだ!」

 ついに、秘密基地を力攻めするという案が、可決されてしまったのである。

 戦国時代においては、城攻めには、守備側の三倍の兵力を要する、というのが常識であった。ミサイルのような大量破壊兵器がない中世から近世においては、攻城戦は守備側が圧倒的に有利な戦いであったのだ。

 銃火器の使用が制限されたバトルロイヤルの戦闘様式は、中世以前のそれに酷似している。怒りに任せて城を力攻めをするのは、非常に危険である――。

 さらに麻原には、「物質(ものぢち)」を取られているという不安がある。もし、城に攻め込もうとするバドラに対し、西口が「しょうこうとほみかのこうかんにっき」を公開するという手段で対抗してきたら・・。その瞬間、麻原の野望は、終焉を迎える。

 しかし、信徒たちの勢いは激しく、統率力に自信のある麻原をもってして、抑えることは困難であった。実際、なぜそこまで頑なに力攻めを反対するのかと問われて、麻原は返答することができないのだから仕方がない。

 そして、包囲から八日目を迎えたこの日、麻原たちは、秘密基地の背後の山から侵入し、施設を攻撃することを試みたのだが・・。

「うわあああああっ!」

「痛ええええええっ!」

「なんだこりゃああっ!」

 麻原たちを襲ったのは、籠城戦の達人、梅川昭美が仕掛けた、ブービートラップの数々であった。

 鳥獣捕獲用の罠、ワイヤーに引っかかると、上空から石や刃物が落ちてくる罠、落とし穴・・。下手したら大怪我を負う罠の数々が、雑木林のいたるところに配置されている。これらをすべて掻い潜り、また除去しながら施設に近づくのは、至難の業であった。

 そしてついに、バドラに、大久保清以来の犠牲者が出てしまう。

 殺されたのは、麻原たちが山から秘密基地を攻めている間、本陣テントの留守番をしていた、尾田信夫だった。完全に隙を突かれる形での、襲撃だった。

 引くと見せて寄せ、寄せると見せて引く・・。籠城戦の妙を、敵は知り尽くしていた。さらにここで新たに、バドラにとっての悲報が舞い込んできてしまう。城方の人員は二名ではなく、三名だったというのだ。おそらくは、T・Nに気を取られている隙に兵糧を運び込んだのは、その男であろう。見張りを任せていた、世田谷界隈の不良たちが描いた似顔絵を見ると、新たな敵の正体はどうやら、大物参加者の一人、伝説の強姦魔、小平義雄のようだった。

 「助平の始まりは小平の義雄」・・名作邦画シリーズ「男はつらいよ」で、渥美清演じる車寅次郎が、露店で叩き売りを行う際の口上にも登場する殺人犯、小平義雄は、戦後の混乱期に、食料や就職の斡旋を餌にして女をおびき寄せて強姦、殺害した罪で逮捕された。有罪となったのは三件のみであるが、発覚していないものも含めれば、被害にあった女性の数は、三桁には確実に上るであろう。

 記録に残る限りでは、小平の狂気性がはじめに明らかになったのは、日中戦争の折りである。戦地として赴いた大陸にて、強姦や、妊婦の腹を裂いて殺すといったことを繰り返していたのだ。

 ただ、これに関しては、小平が特別に残酷であったわけではなく、交戦中の異常な興奮状態にある兵士には、よくあることだ。厳しい規律で統制された現代の軍隊にも、である。

 しかし、小平の場合は、その残酷な本能を抑制する脳内物質の働きが弱いということはいえたようである。「戦争の時はわしよりむごいことをした連中を知っていますが、平和なときにわしだけひどいことをした者はいないと思います。全く人間のすることじゃありません」とは、本人の残した言葉だ。

 ある識者によれば、大量殺人犯と優秀な軍人の脳は、よく似ているという。ともに男性ホルモンの数値が高く、極めて攻撃性が強いが、軍人はそれを抑制する脳内物質が大量に分泌されているが、殺人犯はその分泌量が極めて少ないというのだ。人権保護の観点から、それほど大っぴらには明らかにされていない事実であるが、それなりに説得力はあるといえる。

 宅間守に殺害された大久保清と並ぶ強姦犯が、敵方についた・・。数こそ少ないものの、西口の軍はビッグネーム揃いである。人数の減ったバドラでは、簡単に落とすことはできない。

「うう・・信ちゃん・・ごめんよ・・ごめんよ・・」

 昨晩、尾田信夫と激しく喧嘩をした関光彦が、涙にくれている。彼なりに、責任を感じているのだろう。

「光彦。お前のせいではない。そう泣くでない、信夫もうかばれんぞ」

 そう、関光彦のせいではない。あえて誰のせいというなら、「しょうこうとほみかのこうかんにっき」を公開されるのを恐れ、かたくなに城攻めの継続を訴え続けていた、麻原のせいであった。しかし往生際の悪い麻原には、この後に及んでも、秘密基地の包囲を解く考えはなかった。とにかくあれを取り返さなくては、自分はお仕舞いなのである。

 西口があれを、どういうタイミングで公開しようとしているのか、それはまったくわからない。金銭などの要求もない。いったい、何をすれば、西口は切り札を抜くのか。西口の要求は、いったい何なのか。それがまったくわからない状況では、強引に攻めるわけにもいかないし、西口を増長させすぎでもいけない。何か、あれを取り返すいい案が浮かぶまでは、現在の、この中途半端にプレッシャーをかけ続ける状態を続けるしかなかった。

 しかし、閉塞した状況を打開してくれるかもしれない救世主が、この地に現れた。

「おう・・麻原のオッサン。ちと、メシを恵んでくれぬか」

 バドラと二度にわたる死闘を繰り広げた宿敵・・宅間守の、降臨だった。

凶悪犯罪者バトルロイヤル 第118・5話

 グランドマスターは、某ホテルにて政府要人との会合を終えた後、秘書のアヤメとともに、6月度の参加者たちの戦いを振り返っていた。

 大会開始からちょうど三分の一に当たる、4か月の期間が消化された。大物の参加者にも、脱落者が出ている。運だけではここまで生き残れず、また実力だけでもここまでは生き残れない。ここまで生き残った者たちは、強運と実力を兼ね備えた本物と評価してもいいだろう。

「今月の死亡者です。藤波和子・・殺害者は、宮崎勤及び山地由紀夫。本山茂久・・殺害者は、北村一家。朝倉幸治郎・・殺害者は、都井睦雄を中心とする旧八木軍。間中博巳・・殺害者は、宅間守。小林カウ・・殺害者は、重信軍。前上博・・殺害者は、都井睦雄。坂巻脩吉・・殺害者は、都井睦雄。都井睦雄・・殺害者は、重信軍。以上、7名です」

 前の月で5名に留まった死亡者が、淘汰が進んだ今月で7名。数字以上のペースアップといえるだろう。やはり、4名もの命が一度に失われた大規模戦「環七通りの戦い」の影響が大きかった。

 死亡者の中には、大物中の大物犯罪者、都井睦雄の名前も入っている。彼がこのタイミングで命を落とすとは思わなかったが、その強さは、まさに魔人の如く、であった。まさかあの加藤智大が、手も足も出ず敗れるとは。宅間守や金川真大、造田博などの強豪との戦いが見られなかったのは残念であるが、彼の戦いを間近で観戦できたのは、一生の思い出となろう。
 
 北村一家が殺害した本山茂久は、1960年、男子児童を、営利目的誘拐し殺害した罪で逮捕された死刑囚である。資産家の家に生まれ、本人もまた歯科医としてエリートコースを歩むが、中年になって若い愛人に入れあげ、資産のほとんどを貢いでしまう。そして借金に喘ぎ、犯行へと至った。この愛人は、罪滅ぼしのためか、本当に愛情があったのか、本妻から絶縁された本山に会いに、足しげく面会に通っていた。拘置所では、自分がひり出した糞を食らうなど、拘禁ノイローゼの症状を見せていたが、演技との説もある。昭和46年、死刑執行。

 八木軍に殺害された朝倉幸治郎は、1983年、物件立ち退きを巡るトラブルから、家族5名を殺害し、死刑判決を受けた。拘置所では、刑務官に敬語を使い、支援団体との交流も断ち切って、卑屈ともいえる態度を見せていたが、1990年には死刑が確定。2001年執行された。

 死刑囚の収監年数は、逮捕後で36年、確定後で45年が最長で、平均では確定後7年程度となっている。法務大臣がハンコを押す基準や理由などは明らかにされていないが、一説には、朝倉のような従順な模範囚ほど、ハンコは押されやすいといわれている。皮肉な話であるが、支援団体や精神鑑定、冤罪の問題など、厄介なしがらみがない者ほど殺しやすい、ということなのだろう。

 そして、宅間守が間中博巳を殺害した、「ガンダム像下の戦い」。宅間守が教えを授けた青年、アカギは、現在も国内の何処かで潜伏を続け、「ブラック企業幹部リスト」の皆殺しを予告している。彼の計画が、大会にいかなる影響を及ぼすのか。加藤智大、Nも、彼と関係がある。運営に差しさわりがあるようならばこちらで始末するが、今のところは泳がせておいてもいいだろう。リストの中に、自分がスポンサーを務める企業の名がなかったことは幸いであった。

 スクリーンに映し出される、参加者たちの活躍が収められたフィルム。グランドマスターは秘書のアヤメとともに、恍惚の眼差しでそれを眺めていたのだが、思わず顔を顰めた個所が一つ。宮崎勤が、藤波和子に性的暴行を加えた後、殺害したシーンである。

 宮崎勤の異常性癖が、いよいよ本格的開花を迎えた。精神医学の権威をも震え上がらせたあの男の狂気は、いかなる色艶を放って咲き誇るのか。悍ましいような、楽しみなような。

 そして、麻原彰晃率いるバドラである。あの連中には、殺人ゲームをしているという緊張感がないのか。あのまま最後まで行くことはないだろうが、なんだか本当に最後まで行ってしまいそうな気もするから困る。

「マスター。例の情報が届きました」

 秘書のアヤメがノートパソコンを取り出し、テキストファイルを開いて見せた。テキスト名は「ブラック・ナイトゲーム オッズ 」である。そう、欧州の秘密結社、ブラック・ナイトゲームのブックメーカーが算出した、対象の参加者が生き残った場合の、勝ち金額の倍率だ。

1 shoko asahara 1.14
2 hutosi matsunaga 1.65
3 tomohiro kato 1.98

 これがベスト3である。三人に共通するのは、巨大組織に属しているということ。信頼感が違うのだ。実際、ベスト10まではほぼ、バドラと重信軍の面々で埋め尽くされている。それほど有名ではない参加者も、である。

 では、有名な犯罪者はどうかといえば、こういう順位であった。
 
 15 mamoru takuma 3.45
 18 tsutomu miyazaki 3.59
 32 tatsuya ichihashi 5.98

これでも頑張った方であろう。宅間の上に角田軍の吉田純子がいたりするのを見れば、やはり多数の票を集めているのは、組織の後ろ盾がある者であるのがわかる。

 そして、最高の配当金が得られる、生き残り8人を全員当てるもので一番多い賭け方というのが、こうなっている。

 1 shoko asahara
2 mitsuhiko seki
3 kiyotaka katsuta
4 tetsuo odajima
5 hiroshi zouda
6 tadashi kikuchi
7 akira syoda
8 nobuo oda

なんと、全員がバドラ所属となっている。もう一人のメンバー、大道寺将司が誰かと入れ替わっているものも合わせれば、その総数は、全体の3割近くにも上ったらしい。いささか面白味には欠けるが、大金がかかっているだけ、皆必死ということだろう。

「ふうむ・・。なるほどな。会員が賭けているのは、一口最低でも、日本円換算で5000万円相当だから、これは大変な金が動くぞ。参加者の皆は、責任重大だな」

 冗談めかした口調で言ったが、実際、グランドマスターもまた、このオッズには関心を持ち、自分も一口賭けてみようかという気になっていた。といっても、公式主催者の自分が、外部の団体に利益を供与したと見られては問題だから、賭けの相手は、秘書のアヤメである。

「アヤメくん、一つ、我々も賭けをしないか。君が買ったら、大会勝利者への報奨金くらいのお金までなら、なんでも買ってあげよう」

 アヤメの頬が上気するのがわかる。しかし、自分がこれから提示する条件を聞いて、その顔を保っていられるかどうか。

「その代わり、私が勝ったら・・」

 宮崎勤の気持ちが、少しわかった気がした。

凶悪犯罪者バトルロイヤル 第129話

  「環七通りの戦い」から二週間。加藤智大は、新加入の小川博のコーチの下、トレーニングに明け暮れていた。

 都井睦雄に完敗した俺だったが、あれから時が経ち、精神の方は少しずつ前を向き始めていた。大体、よく考えれば、別に俺は、人殺しなんかにプライドを持ってなどいない。従って、負けたところで、屈辱も何も感じなくていいのだ。また、肝心の都井はいなくなったのだから、俺は相対的に強くなったとすらいえる。悲観することはないのだ。

 短期間で急激に付けた体力と技術は、落ちていくのもまた早い。二週間で落ちた分を、今までの三倍の量をこなして取り戻さなければいけない。

「そう根詰めすぎるな。今までと同じペースでいい」

「え?しかし・・」

「人体には、落ちた筋肉を速やかに取り戻すマッスル・メモリーという特性がある。限界値を超える筋肉を付けるのは大変だが、一度付けた最大値を取り戻すのは、それほど難しいことじゃないんだ」

 さすがに元プロ野球選手だけあり、小川さんのトレーニング知識は一級品だ。これから俺のコーチングは、技術指導を重信さん、フィジカルトレーニング指導を小川さんという分担になる、という話だった。

 二時間のトレーニングを終え、今度は技術指導に入る。まずは格闘技の指導である。種目はボクシングだ。

 格闘技の世界においては、「足は腕の三倍の力を持つ」が定説だが、実際に総合格闘技のリングで多くのファイターが用いているのは、非力な手による打撃に特化されたボクシングである。なぜそうなるかといえば、「足は腕の~」には、「使いこなせれば」という前提がつくからだ。

 蹴り技は確かにヒットしたときの威力は大きいが、そもそもヒットさせることが困難である。サッカーのリフティングを安定して10回以上できるような素人は珍しいが、同じ動作を手でやって10回以上できない人はそういないだろう。手と足とでは、脳からの神経伝達の速度が、全然違うのである。

 総合格闘技の選手は、立ち技格闘技の選手に比べ、習得しなければいけない技術の数が桁違いに多く、蹴り技に修練の時間を多く割いてはいられない。同じように、なんでもありの殺し合いルールで戦っている俺たちも、格闘技は必要最低限の技術を身に着けた方が効率がよかろう、というのが、重信さんの判断だった。

「ほう・・いい勘だな」

 スパーリングにおいて、松村くんのパンチをスウェイして躱す俺を、小川さんが褒めた。

「ボクシングにおいて、優秀な選手と弱い選手を分けるのは、結局は防御の技術だ。攻撃の技術は、正しいフォームでサンドバッグを打っていれば誰だって身に着けることができる。試合では体重を揃えるから、威力も大差はなくなる。しかし、防御は別だ。防御は攻撃と違い、思考停止反復練習をいくら繰り返したって身につかない。動体視力と反射神経、そして経験を確実に血潮に変える、頭の良さがないといけない。防御が得意な奴は、本当にセンスがある証拠だ。これが球技になってくると、話はまったく逆になってくるんだが」

 そういうものだろうか。十代半ばでスポーツの世界から足を洗ってしまった俺には、よくわからない。

 学生時代、なにか部活にでも打ち込んでいればよかったか、とも思う。健全な心は健全な肉体に宿る、などという言葉があるが、部屋でシコシコと勉強しているより、外に出て体を動かした方が、精神衛生上ずっといいのは確かである。

 二十代前半のころ、俺は警備員をやっていたのだが、いわゆるドカタと言われる人は、イメージに反し、爽やかで気前のいい人が多かった。メンタルヘルスの患者にも、薬物治療よりも外に出て運動をすることを奨励している人もいる。民度の低さが知られるお隣の国では、体育が必修科目から外されている。やはり、体を動かすことは、メンタルに大きな影響があるのだろう。それも行き過ぎれば、体育会系のカルトな信仰に染まり、精神を害する可能性もあるが・・。

 合計4時間のトレーニングを終え、「スカーフキッス」の営業が始まるまで、自由時間となった。俺は松村くんと一緒に、部屋で「ポケモン」を楽しんだ。

「くっそ、ローブシンの耐久おかしいだろ。ラティオスの眼鏡流星群耐えて反撃してくるとか・・どんだけのバケモンだよ」

「ハハハ、変に交代読みなんかせずに、素直にサイキネ打っときゃよかったんだよ。まあ武神はさすがに、次作で何らかの対策はされるだろうなあ」

 松村くんとのゲームの時間。これが俺の、唯一の安らぎである。

 俺は昔から、友人には恵まれていた方だと思っている。そりゃ、リア充に比べれば交友範囲は狭いのだろうが、2ちゃんねるの「孤男板」にいるような、同窓会に一度も呼ばれたこともなく、卒業後も関係が続く友人が出来たことが一度もないなどという人に比べれば、ずっとマシだった。

 拘置所で書いた手記に記したことは、半分本当で半分ウソだが、俺が友人に対し、一生懸命ネタを考えて楽しませようと、他人が見れば涙ぐましく思えるほどの努力していたのは事実だ。友人でも恋人でも、誰かと繋がっていること、それが俺にとって一番だった。孤独が一番の恐怖だった。


「なんか腹減ったな。ピザでも頼むか」

「高カロリー食は、小川さんから止められてるだろ。寿司とか、同じ高カロリーでも肉とかだったら付き合うよ」

 人と一緒に食べるメシなら、なんでもうまい。今の俺には、友人がいる。今の俺は、恵まれている。恵まれている、恵まれている、恵まれている・・。そう必死に、自分に言い聞かす。言い聞かせることで、コンプレックスから目をそらす。
 
 本当に自信を持てる瞬間は永遠に訪れず、自分を誤魔化し続ける人生が、いつまで続くのだろうか。都井に殺された方が、幸せではなかっただろうか。

凶悪犯罪者バトルロイヤル 第128話

 突然現れた角田軍は、敵か?味方か?宅間守の脳内が、ミキサーをかけられたようにかき乱される。精神鑑定において、「問題解決能力は小学三年生レベル」などと診断された自分は、こと人間関係にまつわる分野においては、こうした咄嗟の状況判断ができないのだ。

 こうした場合は、シンプルに考えるしかない。すなわち、「殺るか、殺らぬか」である。時限爆弾の赤を切るか、青を切るかのような二者択一にまで、問題の次元を単純化する。当たるも八卦、当たらぬも八卦。天運と勘に、身を任せるのだ。

「・・殺るで」

 配下二名に対して呟いた宅間は、ジャベリンを構え、角田軍サブリーダー、吉田純子へと突進していった。すると、藤井政安、向井義己、永山紀夫の男性三名が、速やかに進路を塞ぐ。この反応の速さ・・間違いない。こやつらは、初めから自分たちを、陥れるつもりであったのだ。

 激しい打ち合いが始まる。宅間、金川の二名と、角田軍、闇サイトトリオ、コリアントリオの計9名との戦いである。

「鳥の巣頭!何をぼやぼやしておる!」

 宅間は、敵味方中でただ一人、戦に加わろうとしない上部康明に激を飛ばした。上部は、元角田軍の所属である。かつての味方と、現在の主人との間で、板挟みになっているようだ。

「戦に加わらねば、ワシは貴様のことを必ず殺す。何がなんでも殺す。貴様を殺すことに、ワシの余生すべてを賭けてやる」

 宅間の恫喝でようやく胎を決めた上部が、敵軍に向かって切りかかっていった。やはり、キレイごとだけでは人は動かない。アメの甘さとムチの痛みとの、その加減が重要なのである。

 勝負の展開は、まったくの五分であった。我が軍の者を仕留められる者は、敵軍にはいない。単純な地力では、数で劣る我が軍の方が上である。しかし、敵軍はいかんせん数が多い。そのため、一人の相手に集中することができない。バドラとの戦争のときと、まったく同じ構図に陥ってしまったのである。

 そして、敵軍にも、単騎で我が軍に対抗できる強さの持ち主はいた。角田軍に新たに加入した、少年ライフル魔、永山則夫である。

 1949年、極寒の網走に生まれた永山は、両親からのネグレクトを受け、極貧の中、満足な教育も受けられずに育った。15歳時、いわゆる「金の卵」の集団就職で、東京に移住。初め青果店に勤めるが、イジメを原因に、程なくして退職を余儀なくされ、以後は仕事を転々とする。新宿の喫茶店に早番で勤めていた際には、同じ店で、下積み時代のビートたけしが遅番で勤めていた話は有名である。

 そして1968年から69年にかけて、米軍宿舎から盗み出したピストルで連続射殺事件を起こす。少年ながら死刑判決を受け、このときの裁判の記録が、「永山基準」として、後々の裁判において頻繁に持ち出されるようになった。

 逮捕後は獄中で勉学をし、ひらがなの読み書きがやっとの状態から、原稿用紙2000枚を超える大冊の小説を書き上げるまでの教養を身に着ける。支援者の女性と獄中結婚もし、減刑の話も持ち上がるが、結局入れられず、1997年、死刑が執行された。

 犯罪と貧困は切っても切れない関係にある。罪を憎んで人を憎まずという言葉があるが、その通りである。なにも、自分にとって都合のいいことだけキレイごとを肯定しておるわけではないが、「貧困に陥ったものすべてが犯罪を起こすわけではない」などとして、犯罪の理由を個人の病理のみに求めるのは、愚の骨頂である。逆に、病理的な人間がすべて犯罪を起こすのか?答えは否であろう。結局、個人と社会、双方の歩み寄りがなければ、世の中はよくならないのである。

 他人とは思えぬ犯罪者であるが、今現在、自分と永山は、敵同士である。永山を殺すべく、ジャベリンを振るったのだが、この男、なかなかに手強い。以前手を合わせた造田博と同等か、それ以上ではないか。まともに戦えば勝てるだろうが、敵の助太刀を意識しなければならぬ分、こちらがやや不利である。やはり、数は力か。

「宅間さん、これはヤバいっすよ。撤退しましょう」

 内心心待ちにしていた言葉が、金川の口から出た。三十六計逃げるに如かず。負けることは恥ではない。負けたままでいることが恥なのや。99回負けても、100回目で勝てばいい。いずれの勝利のため、ここは逃げるとする。

 宅間軍は、急造チームのため連携が悪い敵軍の隙をついて、戦場を離脱した。電車を乗り継ぎ、本拠地の大田区まで逃げ、一息ついたところで、裏切り者の、角田の婆に電話をかける。

「あの大軍を相手にして、よもや生き延びるとはね。やっぱり、大した男だね」

 婆は、悪びれもせずそう言った。

「クソババア、なぜワシを裏切った!」

「そういきり立つな。恨むなら、麻原彰晃を恨むんだね」

「どういうことや」

「大会開始から四か月経った現在、最大の勢力は、麻原彰晃率いるバドラであるのは、皆が認めるところや。冷静に考えて、あそこと渡り合える勢力は一つもない。そこで、参加者が総がかりで、麻原を潰そうということになった。麻原包囲網の結成やね」

「それとこれとが、どう関係がある!」

「先日、重信房子の軍団と八木茂の軍団との間で、戦が行われた。重信軍はその戦で、参加者屈指の大物、都井睦雄を討ち取っておる。このままいけば、包囲網の中で、重信が盟主の立場になることは確実や。それはアタシとしては面白くない。そこで、都井に負けぬ大物である、あんたを討ち取って、発言力を高めようと思った。一連の抗争は、最初から最後まで、アタシが描いた絵図だ。アタシは最初から、コリアン、闇サイトの両トリオを動かし、あんたらを狙っておったんよ。それが真相や」

「石川恵子が死んだのは?」

「あの女は、永田洋子の軍団と勝手に接触し、アタシらの情報を売っていた。裏切り者を処分しただけだが、いい偽装工作になったようだね。ちなみに、純子ちゃんたちが怪我を負ったのは、完全なウソだよ。気づいたとは思うけどね」

「・・・」

「ま、麻原包囲網のことがなくても、人の恩を三日で忘れるお前を、長い間飼いならしておけるとは思っとらん。手を噛まれないうちに、処分せんといかんかった。そのチャンスが、ここやったというわけやね。しかし、その目論見は失敗した。どうやろ。ここはひとつ、さっきのことは水に流して、また手を結ばんか?お前も金がいるやろ?」

 なんとふてぶてしい婆か。ここまで来ると、呆れるというより、なにか爽快ですらある。

「アホか!!!!」

 さすがに宅間は、電話を切った。これであの婆とは縁切りである。しかし、婆の言うように、金が必要なのは事実。「塾講師」のアルバイトを委員会から禁止されてしまった自分には、自力で金を稼ぐ手段がない。やはり、どこかに依り代を求める必要があるが・・。

「おい、ソープランドに行くで」

 考えるのは後や。今はこの滾る血を、鎮めねばならない。不愉快な心地を、拭い去らねばならない。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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