凶悪犯罪者バトルロイヤル 第86話


 90年代医療最大の奇跡といわれる薬物の力が、宮崎勤の陰茎に、血液を漲らせていく。かつてない硬さを獲得し、脈打つ完全体のその姿は、いかなる鉱物をも切り裂く剛剣そのものであった。

「はあっ・・・はあっ・・・」

 僕は、先端からカウパーを垂れ流すペニスで、藤波の頬をペタペタと叩いた。叩くタイミングは、ちょうど、2秒刻みである。

「なるほど。水滴を等間隔で額に落とし続けて発狂させる拷問の、ちんちんバージョンをやってるんだね」

 さすがは山地くん。僕の狙いを、いとも簡単に見破ってみせた。人間の脳は、繰り返しに弱い。中世から近世にかけて、どんなに酷い拷問にも音を上げなかった人間でも確実に発狂したという、水滴の拷問を、僕はまさに現代に再現してみせたのだ。

 さらにこの行為には、もう一つの狙いもあった。僕は人類史上、ペニスで人を殴り殺した、初めての人間になりたかったのだ。

 近代医学の発達する以前、女性の死亡原因の上位には、常に出産が入っていた。また、出産後、まだ身体が弱っている女性に無理やり行為を迫り、体調を悪化させて死なせてしまうという事例も多くあり、それも厳密にいうならペニスで女を殺したということになるのかもしれないが、ペニスによる撲殺というのは、史上初めてに違いない。僕は今日この日、織田信長、チンギスハーン、始皇帝といった英雄たちでも出来なかった偉業に挑むのだ。

「面白そうだから、僕もやろう。でも、同じことをするのは芸がないからな・・。そうだ!」

 何かを閃いたような山地くんは、藤波の腹部に、4センチほどの切れ目を入れた。

「本物のおまんこに入れるよりも、自分で作ったおまんこに入れた方が、気持ちいいかと思ってね。ああ、興奮してきたよ」

 山地くんが、桃太郎ファッションの足袋を脱ぎ捨て、そそり立ったペニスを、人口ヴァギナに押し付けた。だが、外見は酷似しているものの、その切り傷には女性器のような拡張機能は当然ないため、勃起した状態のペニスを受け入れられるはずもない。藤波の腹部からは、赤い血液が大量に流れ出てくるだけだった。

「う・・う・・う・・・う・・う・・・」

 藤波が、蒼白になった顔面を痙攣させている。死が近づいてきているようだ。ここで僕の脳裏に、死にゆく藤波に僕の精液を注ぎこみ、来世で僕の子を産ませてはどうかという考えがよぎった。その産まれた子が女の子ならそれを犯して僕の子をまた産ませ、僕は祖父となると同時に父となり、その産まれた子が男の子だったなら藤波を犯させて、藤波を曾祖母となると同時に母とさせ、さらに、孫が祖母を犯して子供を産ませたのに、産まれたのは自分の親ではなかった、これはどういうことだと悩んでいるところを眺めつつ、僕は僕で自分の曾孫を犯す、という光景を思い浮かべると、もう居てもたってもいられなかった。

 が・・。そうなると、ペニスで女を殴り殺す、人類史上初の偉業は捨てなくてはならない。究極の二者択一。一度は安定しかけた僕の思考を、再び混乱が襲った。

「どうすればいいんだ、どうすればいいんだ、どうすればいいんだ、ああっ、ああっ」

 しかし、今度の混乱は、さっきとは違う。思考は滅茶苦茶なのに、ペニスは一向に小さくはならない。ペニスを頬に打ち付ける作業を辞めたわけでもなく、刺激は与え続けていたため、やがて快感が走った。

「うっ・・」

 僕の遺伝子情報が詰まった黄白色の熱い液体が、2メートル先の壁を汚した。僕は慌てて、照準を藤波の顔面に変える。僕の今日の精液は、5日間も貯め続けていたためか、やや黄味がかっており、藤波の蒼白な顔面は、たちまち、美味しそうなカルボナーラスパゲティのような塩梅となった。

「うっ・・」

 山地くんも、ほぼ同時に昇り詰めたようで、藤波の、ナポリタンソースみたいな赤い血液に染まった腹部に、白濁の液体が混じり、綺麗なピンク色になっていた。

「ふう・・気持ちよくなったし、もう、いいや」

 上ずった声でそういって、山地くんは、藤波の顔面に強烈なサッカーボール・キックを見舞い、さらに、テーブルの上によじ登ると、上空から強烈なヒップドロップを、胸部に落とした。ボキィッ、と、アバラ骨が折れた鈍い音が響き渡る。それが肺に突き刺さったのだろう。藤波の口から、どばどばと、アメリカンチェリーのような赤黒い血液があふれ出してきた。

「あはは。口をパクパクさせて、金魚みたいだ」

 おそらく、もう事切れてしまったのであろう藤波に、山地くんはさらにダメ押しを加える。床下の物置にあった消火器を、いましがたまでペニスをあてがっていた腹部に落としたのだ。

「なんてことをするんだ・・なんて・・」

 僕は、さらに、フォークで藤波の「人工ヴァギナ」を抉ろうとする山地くんを制した。

「どうして邪魔をするんだい、宮崎くん」

「僕は・・僕は・・童貞がチンギスハーンになるはずだったんだ!それなのに、山地くんのせいで、できなくなっちゃったじゃないか!」

「そっか。ごめんね。まあ、おっぱいでも揉みなよ。そうだ、冷蔵庫に練乳があったから、それをかけてなめてみるのもいいよ」

 出会ってから初めて見せる僕の怒りを、涼しい顔をして回避し、山地くんは、僕の手を、藤波の胸にあてがった。柔らかい。僕がかつて触った、幼女の平らな胸とは、まるで違う柔らかさだ。包み込まれるようだ。生まれてよかったと思える。

「さあ、宮崎くん。練乳をかけるから、なめてみるといい」

 言われた通りにしてみた。甘い。なんと芳醇な味だろう。今からおよそ50年前、僕はこれを飲んでいたのか。あまりの興奮に、出すものを出して萎びていた僕のペニスに、再び海綿体が漲ってきた。

 なんだか山地くんには、うまく誤魔化された気もするが、こうとなれば、あとは童貞を捨てるだけである。僕は、5日間洗っていない、臭い臭い僕のペニスを、臭い臭い藤波のヴァギナに差し込んだ。

「ふおっ・・ふおっ・・」

 こんなものか。それが正直な感想だった。はっきりいって、そんなに病みつきになるようなものとは思えないのである。普段オナニーをしすぎている男性は、自らのツボを心得た手淫による刺激に慣れすぎて、膣内では思ったような快感が得られないことがあるというが、それなのだろうか。

 しかし、やがて死後硬直が始まり、藤波のヴァギナは確実に締まるようになっていった。これでようやく快感が味わえるようになった。ヤクザに何百万も払って死姦をしたがるマニアの気持ちが、これでわかった。

「じゃ、僕は先に帰るから、ゆっくり楽しみな」

「うん・・うん」

 山地くんは、血で汚れた衣服を脱ぐと、部屋を出ていった。僕は構わず、藤波を突き続ける。やがて、藤波の生体反応がなくなったのを確認した委員会が、死体の回収にやってきたが、そのときまだ、僕は射精をしていなかった。あの世に行く藤波に僕の遺伝子を注ぐという目的を果たせなかったのだ。委員会に、回収を待ってもらうよう頼んだが、聞き入れられることはなかった。今日の任務は概ね満足な成果を残せたが、課題も残る一日となった。いずれは、僕の欲望をすべて叶えてみせる。
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凶悪犯罪者バトルロイヤル 第85話

 異次元空間に迷い込んだのではないかと錯覚するような眼前の光景に、加藤智大は息を呑んだ。

 脳天を割られて悲痛な叫び声をあげている藤波和子。出血の量から、もう長くはないだろうことがわかる。可哀想だが、仕方がないことだ。勝者が出れば、敗者も出る。生き死にという、正当化のしようがない結果で出る分、資本主義の競争よりもずっとシビアだが、フェアな争いではないかと、最近ではそんな思いも抱くようになっていた。けして肯定はしないが。

 問題は、その勝者である。なんでコイツらは、昔話のコスプレをしているのか?なんで宮崎勤は、大事なものを、食い込みからはみ出させているのか?この光景をうまく処理する思考回路は、俺の脳にはない。頭が痛くなりそうだった。

「あ。英雄加藤だ。かっこい~。一緒に写真撮ってもらってもいい?」

 山地由紀夫が少年のような笑顔を浮かべ、俺に近寄ってきた。なんだコイツは。こんなにイケメンのくせに、変態なんかやってんなよ。宮崎みたいな、いかにもなヤツが変態やってるより、こういう一見爽やかなヤツが変態やってると、余計に不気味に見える。

「じゃ、宮崎くん、撮影担当ね」
 
 宮崎勤にカメラを渡し、桃太郎の格好をした山地が近づいてくる。全身の毛が逆立ち、皮膚が粟立った。

「よ・・よせよ!」

 肩を組んで来ようとした山地を、思い切り振り払った。

「なにを怒ってるんだい?そうか、お腹がすいているんだね。さあ、このきびだんごを召し上がれ」

「ふ、ふざけんのもいい加減にしろっ!なんなんだよ、てめえは!」

 俺は山地が差し出したきびだんごを弾き飛ばし、全身から殺気を発しながら、警棒を構えた。少しは警戒するかと思ったが、その後の山地の行動に、俺は頭が真っ白になった。

 ヘラヘラ笑いながら、己の鼻くそを擦り付けようとしてきたのである。間一髪で躱したからよかったが、動揺は生半なものではなかった。

 我が軍団では、私闘は禁じられている。殺意を持たない相手を、こちらから攻撃してはいけないと、重信さん、松永さんの2トップから厳命されている。山地がそれを知っているはずはない。俺の逆鱗に触れ、殺される可能性があることをわかっていて、こういう行動をとっているのだ。かといって、宅間守のように、死を恐れていない、というわけでもないだろう。何故、こんな挑発的な行動をとってきたのか?いや、挑発する意図もないのかもしれない。何を考えているんだ?理解不能。俺の目の前にいる男は、本当に地球上の生物なのか?あまりのことに完全に毒気を抜かれ、怒りも湧かなかった。

「・・おい、宮崎。お前に、これを届けに来た」

 もう、さっさと用件を済ませて帰りたい。俺はバッグの中から、届け物を取り出した。

「三種類の薬を持ってきた。まず、これがバイアグラだ。もっともポピュラーなED治療薬で、単純な勃起力では最大の効果が得られる。ただ、作用が現れるのが、服用から一時間とやや遅いのが欠点で、また、食事の影響を受けやすく、胃袋が空っぽでないと最大限の効果が発揮できない。その点を解消したのがこのレビトラで、即効性があり、満腹状態でもそこそこの効果が発揮される。ただ、単純な勃起力では、バイアグラにやや劣る。最後にこのシアリス。これの特徴は、作用が長持ちすることで、服用後36時間も勃起力が維持される。その代り、効き目はもっともマイルドになるが。用途と好みに合わせて使え」

 いったい、なんで俺がそんな説明をしなければならないんだ。あまりにも馬鹿らしかったが、仕事であるからにはやらなければならない。自分の生真面目な性格が恨めしかった。

 宮崎は、とくに感謝の言葉も述べずに、俺がテーブルに置いた薬箱の中から、三種類の薬を全種類取り出して、一錠ずつ飲んだ。突っ込みもしない。どうでもいい。いっそのこと全部を一遍に飲んで、心臓発作で死んでしまえばいい。

 俺は室内を写真に収め、部屋を後にした。松永さんからは、可能な限り現場に居座って、一部始終を目に収めておくように言われたが、とても無理だった。これ以上この空間にいたら、本当に頭がおかしくなってしまう。そっちの世界に行くのは、ごめんだった。

「た・・助けて・・・助けて・・・」

 藤波和子が、俺が誰かもわからず、助けを求めてくる。応えてはやりたい。俺は女嫌いではあるが、美人には弱い。俺のように、自分がモテないことを自覚している男は、いわゆる十人並みからブスの範疇に入る女には、容姿が劣るくせに自分を相手にしてくれない不満から嫌悪感を示すが、一歩抜けた美人となると、自分には縁がないものと思っているから、こちらをあからさまに愚弄してきたりしない限りは、嫌ったりしないのだ。

 虫の息の藤波から視線を切って、俺は部屋を後にした。チンチロリーン、という間抜けな電子音が、背後で響く。山地由紀夫が、俺の後姿を無許可で撮影したようだが、気にしない。もう、こいつらには関わりたくない。心底から、関わりたくない。

凶悪犯罪者バトルロイヤル 第84話

 人生最大のパニックに陥った僕は、親友の山地くんに助けを求めるべく、リビングへと駆けた。

「山地くん!」

 が。そこに、山地くんの姿はなかった。買い物にでも行ったのだろうか。携帯電話も忘れていったようだ。これでは、連絡もとれない。

「ああ!どうしたらいいんだ。これは大変なことだ。僕は今、大変なんだ。どうすればいいんだ。うわああっ」

 僕はその場で床を転げまわり、叫び声をあげた。そのとき、ある人物の名前を思い出した。松永太。また、あいつに相談してみよう。僕は寝室にとって返し、脱ぎ捨てたズボンから、携帯電話を取り出した。

「松永です。宮崎さんですね。どうしました?」

「あ・・っ・・あ、あっ。今、大変なんだ。ちんこから出たチンカスを食ったら、ちんこが勃たなくなって、童貞ができなくなったんだ。これは女の口にキスをしてしまったせいなんだ」

「落ち着いてください、宮崎さん。冷静になって、順を追って話してください」

 松永に諭され、僕は、藤波の家を訪れてから今までに起こったことを整理し、語って聞かせた。

「なるほど・・大体、状況は掴めました。ようするに、今、宮崎さんは、心因性突発性の勃起不全に陥ってしまった、ということですね?」

「そ、そそそ、そうなんだ。ああっ、ああっ」

「ご安心ください。現在、シャバには、ED治療薬という薬があります。これがあれば、宮崎さんのものは、再び硬度を獲得できますから。今、先ほど教えて頂いた住所まで、配下の者に届けさせますから、お待ちください」

 松永が携帯を切ったと同時に、大きな買い物袋をぶら下げた山地くんが帰ってきた。

「やあ、宮崎くん。お楽しみは済んだかい?」

「あっあっあっ・・僕がちんこを入れようとしたら、僕がチンカスを食べちゃって、童貞がちんこを入れられなくなってしまったから、ED治療薬ができるようになるんだ」

「そっか。じゃ、殺そっか」

 山地くんに僕のフルちん姿を見られた恥ずかしさも相俟って、僕が支離滅裂な日本語を放つと、山地くんが、満面の笑みを浮かべてそう答えた。なんでそうなるのか、よくわからなかったが、気が動転していた僕は、頷くしかなかった。

「ちょっと趣向を凝らしてみようと思ってね。こんなものを買ってきたんだ」

 山地くんが、近所のデパート「大丸」で買ってきたのは、「桃太郎変身セット」と「金太郎変身セット」だった。

「子供のころ、昔話を読んだろう?今日は、その昔話の登場人物になりきって、人殺しをしてみようかと思うんだ。僕が桃太郎をやるから、宮崎くんは金太郎をやって」

 そう言って山地くんは、大きく「金」の刺繍が施された、レオタードみたいなやつを、手渡してきた。山地くんは山地くんで、華美なデザインの桃太郎ファッションに着替え始めるので、僕も、乗り気ではないものの、金太郎レオタードを着るしかなかった。

「で、僕はこの日本刀を使うから、宮崎くんは、この鉞を使うんだよ。ひと月のバイトの給料のほとんどをつぎ込んで買ったんだから、大事に使ってよ」

 各々が凶器を手に持ち、ニタニタと笑いながら、「鬼」たる、藤波ににじり寄った。

「よし。じゃあ、まず、僕から行くか。宮崎くん。桃太郎の歌を歌ってよ」

 言われた通り、僕が「もーもたろさん、ももたろさん」と、歌を歌いだすと、山地くんは、腰につけた巾着袋から、おもむろにきびだんごを取り出し、食べてみせた。

「よーし。きびだんごを食べて、パワーもりもりだ。行くぞー」

 山地くんの目が、ぬらっと光を帯びる。

「や、やめて・・・」

 振り上げられた日本刀の刃を見て、藤波が声を震わせたが、遅かった。空を切る音が鳴り、藤波の脳天から血しぶきが上がった。

「ぎゃああああっ!」

 わざと致命傷を与えなかったのだろう。山地くんが、のたうち回る藤波を見て、えへらえへらと不気味な笑みを浮かべている。

「さあ。次は、宮崎くんの番だよ。僕が歌を歌ってあげる。まあさかり、かーついだ、金太郎」

 僕は何がなんだかわからないまま前進し、藤波と対峙した。あまり乗り気ではないが、やはりやらなければならないのか。ならば開き直って、少しでも楽しまなくてはならない。僕は金太郎レオタードの股座から、ふにゃふにゃになったペニスを食み出させ、それを振り回しながら、藤波にさらに近づいていった。

 そして、鉞を振り下ろそうとしたのだが、ここで一つの問題が生じてしまった。ペニスを振り回しながら鉞を振り下ろすという動作が、どうしてもできないのだ。本当に運動神経が高い人ならできるのかもしれないが、ちょっと僕にはハードルが高すぎるようである。

「くっ・・くそう、どうしたらいいんだ!どうしたらっ!」

 脳内の混乱具合が、ますます加速していく。どうして、僕がこんな思いをしなければならないんだ。こんな理不尽な思いをしてまで、どうしてセックスをしなければならないんだ。どうして、殺人をしなければならないんだ。

 僕が泣き出そうとしたそのとき、アパートのドアが開いた。

「な・・なんだこれは・・・」

 特殊警棒を構えて入ってきたのは、またしても、僕を嫌っている、加藤智大だった。

凶悪犯罪者バトルロイヤル 第83話

 「監視」を始めて一週間、山地由紀夫とともに藤波知子宅に侵入し、藤波を拘束することに成功した宮崎勤は、かつてない興奮を味わっていた。かねてよりの念願の、大人の女体を自由に弄れる機会が、とうとうやってきたのである。

「山地くん。本当に、僕が好きな風にしていいんだね?」

「うん。その代わり、殺すのは僕の仕事だからね」

「よおし・・・」

 承諾した山地くんが、寝室からリビングへ去っていくと、さっそく僕は、着ている衣服をすべて脱いだ。そして、この日のために、5日間洗わずにおいたペニスを扱きながら、四肢を拘束され、床に転がした藤波ににじり寄る。

「近寄るな!変態野郎!やめろ!消えろ!来るな!」

 藤波が喚き散らすのを無視して、僕は藤波の着ているTシャツに、ハサミを入れた。ホットパンツも同様に切り裂き、下着が露わになったところで、おかしなことに気が付いた。藤波が履いているパンティの股間部分に、玉子大のシミが拡がっているのである。この女、僕と山地くんの襲撃を受けた際、恐怖で失禁してしまっていたらしい。

「ふおお・・・」

 ペニスに、一気に血液が流れ込む。ピンク色の亀頭が包皮を突き破り、スルメイカのような臭いを発散している。

「小学生のころ、性教育の授業があったろう?そのとき、先生が、女性はどうやったら、子供を妊娠すると思いますか?という質問をしたんだ。それに対し、当時、気に入っていた女の子が手をあげた。女の子はなんと答えたと思う?」

 唐突な僕の質問に、藤波は青ざめた様子である。

「し・・知らないわよ」

「女が、男の精子を飲む、と答えたんだ。それを今、思い出してしまった。ああ、興奮してきた」

僕は藤波の口をこじ開け、おからのような、薄黄色をした恥垢が大量に付着している亀頭をねじ込んだ。

「うぐっ・・むごお・・」

「食べろ・・一粒残さず、食べるんだ・・」

 「おから」をこそぎ落すように、藤波の口内でペニスを捏ねくり回した。藤波がえづき、背中を波打たせる。僕が好きな「カレー仲間」だろうか、原型をとどめたジャガイモやニンジンが、盛大に吐き出された。

「よし・・今度は僕がお前の、汚くて臭いところをペロペロしてやるからな・・」

 自分の言葉に興奮しつつ、僕は藤波のパンティをハサミで切った。大人の女の陰部を生で見るのは、生涯で初めてのことである。古い世代だけあって、藤波はいわゆるVラインの手入れは行っていないらしく、藤波の陰部には、ジャングルさながらに、剛毛が群生していた。そういえば、両腋にはヒジキのような腋毛も生い茂っている。裏返してみると、案の定、尻毛もボウボウだった。

「まずは、どこから舐めたらいいんだ。どこから・・」

 迷った挙句、ここは手堅く、陰部から攻めることにした。

 藤波の股間に顔を近づけると、刺激臭が鼻をつく。アンモニアのような、納豆のような、魚の死骸のような、チーズのような、悩ましい香り。女の陰部とは、性器と排泄口が隣接しており、さらに、肛門もそう遠くない場所にあるため、男性の陰部よりも遥かに不潔な環境となりやすいものであるとは、前世における犯罪の際に学んだことである。が・・しかし、これほどの臭いではなかった気がする。一体、幼女と大人の女とでは、なにが違うというのか・

「そうか・・そういうことか・・・」

 だらしなく流れ出る膣分泌液と、群生する陰毛。どうも、これが元凶らしい。

「待っていろ・・すぐに、キレイにしてやる・・」

 僕は、藤波の化粧セットの中から、ピンセットを探して取り出した。

「なに・・なにするの・・」

 僕は、青ざめる藤波にのしかかり、乳房にペニスを押し付けつつ、藤波の陰毛を一本一本抜きとった。

「痛いっ。やめろっ!やめろよおっ!」

 藤波の絶叫が、僕をさらに興奮させる。僕は、抜き取った陰毛を一本一本食しつつ、藤波の腋にペニスを挟み、前後に動かした。

「陰毛の主成分はたんぱく質だ。精液の主成分もたんぱく質だ。つまり、お前のマン汁とおしっこと、湧いた白癬菌が付いた陰毛を食べることで、僕の精液が作られるんだ」

 正気の沙汰ではない僕のセリフに、藤波が、ドブネズミの交尾を見たかのような視線を向ける。恐れられれば恐れられるほど、興奮は増すばかりだ。

「そして僕の精液を注がれたお前は子を身ごもり、やはりタンパク質たっぷりの母乳を出すんだ。それを飲んだ僕が再びお前に精液を注ぐ。タンパク質の循環が繰り返されるというわけだ」

 自分でも、なにを言っているのか、まったくわからなかった。気が狂っているとしか思えない。だが、それがいい。

「ああ、もうたまらない!」

 僕は、藤波の体に正常位で覆いかぶさった。ついに、このときがやってきた。女の陰部に、ペニスを突き刺す瞬間。四十数年間待ちわびた童貞卒業の瞬間が、ついにやってきた。

「ほふう・・ほふっほふっ・・くっ。あれ・・くそう・・」

 僕は手探りで藤波の膣内にペニスをねじ込もうとしたが、藤波も暴れるため、なかなかうまく結合ができない。焦っているうちに、ペニスが段々、委縮し始めた。これはいけない。

「大人しくしろっ!」

 僕は近くに置いてあったコップで、藤波の頭を殴りつけた。藤波が抵抗をやめ、ぐったりとする。と、ここで僕は、なにか順序がおかしい気がしてきた。そういえば、まだ、キスをしていないじゃないか。

「僕の虫歯菌を、お前に移してやる」

 わざわざそんなことを言って、藤波と唇を合わせ、舌をねじ入れたわけだが、ここで僕は、とんでもないことに気が付いてしまった。藤波の口には、ついさっきまで、僕が五日間も洗わず、さらに、ビニール袋に包んだりしてムレムレ具合を極限まで高めたペニスが入っていたではないか。僕は、自分が付けた雑菌と「おから」を、自分で口にしてしまったのだ。

「うっ・・うわああっ」

 この致命的なミスのせいで、僕のペニスは、人生を賭けた一戦を前にして、ナメクジのように萎縮してしまった。

「どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすれば・・」

 人生最大のパニックが、僕を襲っていた。

凶悪犯罪者バトルロイヤル 第82話

 松永太は、先日、Nを応援にやった際に、加藤智大が持ち帰った情報を元に、対八木軍の戦略を練っていた。まずは、敵軍に所属する人員についてのデータを洗い出す。

 八木茂。八木軍のトップ。本庄保険金殺人事件の主犯。

 90年代後半、埼玉県内でスナックを経営していた八木は、配下のホステスとスナックの客を結婚させ、自ら採集したトリカブトを混ぜたあんパンで毒殺。多額の保険金を騙し取った罪に問われた。

 八木はスナックのほかにも、金融業などを幅広く経営しており、地元のワルの大ボスとして名が通っていた。事件が明るみに出た際には、マスコミを対象に203回もの有料記者会見を行うなど、劇場型犯罪で世間を翻弄した男である。

 豪胆で弁が立ち、ユーモアセンスにも富む。能力自体は本物で、社会的には紛れもなく成功者であった。自分との共通点も多い。同族嫌悪というものだろうか、だからあの男は、自分を目の敵にするのだろう。

 都井睦雄。八木軍の戦闘エース。津山30人殺しの犯人。

 1938年。当時、夜這いの風習が残る岡山の山村で育った都井は、村の女と次々に関係を持つが、やがて肺病を病み、徴兵検査にも失格し、村中の者から疎まれるようになる。たった一人の家族である祖母にも冷たく扱われるようになり、屈辱は狂気へと転化。以前より懇意にしていたが他家に嫁いだ女性が里帰りしてきた夜、ついに都井は、銃を用いて、村人30名を惨殺した。

 現代と違って銃の規制が緩く、乱世はみなそうだが、人の命の価値が軽く扱われていた当時、この手の暴発事件は、けして珍しくはなかった。警察の捜査能力も今とは比較にならないほどお粗末だったから、判明してない事件はもっと沢山あったろう。だがその中でも、都井の起こした事件の凶悪さは群を抜いている。殺害数30人の記録は現在でも破られていない短時間での殺人数国内最多記録であり、1982年、韓国の禹 範坤に破られるまでは、世界最多記録でもあったのだ。

 復帰年齢23歳。肺病も完治しており、身体能力は高いだろう。銃の扱いに長けた都井と、この時期に対戦できたのは、もしかしたら幸運だったのかもしれない。加藤智大にとっては、紛れもなく今までで最強の敵である。

 小林カウ。八木軍の参謀。ホテル日本閣殺人事件の犯人。三日前に八木軍に加わったばかりの、新戦力である。

 1960年代、夫を殺して手に入れた愛人の若い男に捨てられ、栃木県の塩原温泉郷に流れ着いたカウは、そこでも36歳の愛人を作り、自らの体を餌にして「ホテル日本閣」の主人を殺害させ、自らが女将に納まった。法廷でも色香を振りまいたカウは、このとき53歳。相手を選ばなければ、容姿の劣る女でも十分「毒婦」として通用するという、いい見本だろう。

 カウは商才にも長けており、土産物の卸売で、若い男を飼うくらいには裕福な暮らしをしていた。現代に蘇った悪魔の頭脳が、八木の知略を補佐している。謀略は武力と違い、1+1が単純に2になるものではないが、警戒を強める必要性はあるだろう。

 佐々木哲也。千葉市原親殺し事件の犯人。20歳と若く、知能、戦闘、両面で活躍するユーティリティープレーヤー。

 庄子幸一。神奈川県で複数件の強盗殺人を犯した男。祈祷師による洗脳を受けての犯行との主張があるが、真偽は不明である。

 以上の五名による構成である。さらに、民間の調査会社から入った情報によると、八木軍は以前より、夕張保険金殺害事件の日高夫妻と懇意にしているという。

 夕張で炭鉱を経営していた暴力団組長の日高安政と元ホステスの日高信子は、1981年、夕張の炭鉱でガス漏れ事故が起きた際、多額の保険金を入手。これにより金銭感覚が狂った夫妻は、1984年、やはり経営していた炭鉱労働の会社で、今度は自ら、配下の組員を使って寮に火をかけ、従業員の死亡保険金を搾取することを目論んだ罪で逮捕された。

 知略と統率力に優れる夫妻の配下には、他ならぬ我が軍団によって滅ぼされた小林正人軍に所属していた、間中博巳が加わっている。八木軍に日高軍を加えた合計8名が、我が軍団の敵ということになる。人員7名の我が軍は、人員四名の永田軍、人員三名のA軍と同盟しているから、戦力差は14対8。この差を、来るべき決戦の日までにいどこまで広げられるか。自分の智謀に、大きな期待がかかっている。

 携帯が鳴った。同盟者の永田洋子からである。

「松永です」

「あ・・松永さん?その・・ちょっと、言いにくいことなのだけど・・」

「どうしました?」

「今朝なんだけど・・ウチの栗田が、町で偶然、北村一家の長男と出くわしたらしくて・・その場で小競り合いになったようなのね。お互い、小さな怪我で済んだようだけれど、ちょっとこじれそうな雰囲気なのよね・・」

「八木軍との戦いに、全力を注げそうにないということですね?」

「ごめんなさい。今月分の資金援助は、半額でいいから」

 我が軍に対し、全面的に軍事協力をする。契約を破って置きながら、資金援助を減額で済まそうとは、ふとい女である。

「申し訳ないですが、そういうことになりますと、資金のほうは提供できないですね。北村一家との問題を片づけるか、問題を抱えながらも我が軍に協力できる体勢が整ったら、再度連絡してください」

 ここでホイホイ金を出していたら、永田になめられてしまう。同盟者は大事だが、ケジメは必要だ。

「・・・わかったわ」

 もしかしたら、これが最後の連絡になってしまうのかもしれない。これは一種の賭けである。

 松永が期待する展開は、永田がそれでも無理を押して、自分に援助を申し出てくること。そうなれば、永田軍に大きな貸しができる。対等な同盟者から、事実上の傘下団体とすることができるというわけだ。

 最悪の結果は言うまでもなく、永田軍が離反してしまうことだ。味方から離反した敵は、後ろめたさを払しょくするため、元々敵だった相手よりも積極的に攻めてくる場合が多い。非常に厄介な展開となるのは確実である。

 僅かな駆け引きのミスが、命取りに繋がる。あの事件で逮捕される前、娑婆で活動していたときにも味わえなかったスリル。面白い。ゾクゾクするようだ。

 思考能力を高めるブドウ糖を脳に送るべく、松永は、いつもはブラックで飲んでいるエメラルドマウンテンに、角砂糖を一個入れてみた。

 悪くない。苦しみを美化するのは、救いようのない愚か者である。人生はいつだって、苦いよりも甘い方がいいに決まっている。

凶悪犯罪者バトルロイヤル 第81話


 池袋駅西口――。色とりどりのネオンの下、Nは業界を賑わせるキャバクラ「IKB48」に向かって進んでいた。

 昨日のこと。スカーフキッスの事務所に、IKB48を経営する八木茂から、一本の電話がかかってきた。明日の晩、キャストに欠員が出た。ついては、お宅のNを、応援に寄越してほしい――。

 その名の通り、ファミレスバイトに消費税が付いたような安い給料で大量のキャストを雇い、数で質を補うスタイルを展開しているIKB48では、一人二人が休んだくらいで店舗の運営に支障が出るという事態には、なるはずがない。これは明らかな挑発である。

 松永社長は、これを受けた。敵がわざわざ自分から手の内を晒そうというのに、断る理由はない、ということである。

 その代りに要求した条件は、加藤店長とAを、私の勤務中、客として遊ばせること。私の身の安全の確保と、情報取集能力の強化を同時に図り、さらに、どうもソリが合わない加藤店長とAの同年齢コンビの親睦を深めようという、一つの策を打つにあたって常に二つ三つの利益を見込む松永社長らしい考えだが、私は、最後の目論見だけには懐疑的だった。性質の違う二人を無理やりくっつけようとするのは、往々にして逆効果になるからである。人間心理を読むのには長けているが、人情の機微には疎い。それが、松永社長の弱点なのかもしれない。

「お、ここやな。ほな入ろか」

「ちょ、ちょっと待てよ。心の準備ってものが・・」

「そんなん、いつまで待っても一緒よ。恋愛だってそやろ?心の準備が、なんて言ってる女のペースにいつまでも付きあっとったら、結局ベッドインなんかできんで終わるで。行く!と決めたら、躊躇せずバッと行くんや。なんか今、そんな言葉が流行っとるんやろ?なんやったけ、あれ?」

 流行りのフレーズなんてものを一番嫌いそうな加藤店長に、よりにもよってあのセリフを言わせようとしているA。加藤店長は、今にも舌打ちしそうに、顔をしかめている。私が引き受けなければ、血の雨が降りかねない。

「今でしょ!」

「それや。ほな行くで。ハッハハ」

 先が思いやられる。八木茂軍を相手にするより、二人の仲を取り持つ方に神経を使いそうだった。

「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。加藤さんとAさんは、フロアーの方へ。Nさんは、控室の方へ案内させていただきます」

 私たちを出迎えたのは、ボーイを務めるバトルロイヤル参加者、佐々木哲也だった。ソープ嬢との結婚を反対されたのを理由に、両親を殺害した男。映画「青春の殺人者」のモデルである。

「いえ。結構です。もう、準備はできていますから」

 蒸し暑い中を歩いて、少し汗をかいており、化粧を直しておきたかったのだが、フロアーを一目みて、その必要もないことに気が付いた。そこらの女子大生レベルのキャスト、居酒屋レベルの接客。自惚れでもなく、このレベルに私が入れば、掃き溜めの中の鶴になれそうだった。

 と、侮っていたのだが、低い次元の戦いには低い次元の戦術というかノリがあるのか、はじめ私は、なかなか客の心を掴む接客ができなかった。ここで客が悪いと決めつけるのは簡単だが、今後のことを考えるならば、次元の低い客の扱いもマスターしなければならない。すべての客のニーズに対応するのは不可能だが、守備範囲が広くて損をすることはないのである。

 ある程度身体能力任せが通用する外野しか守れない野球選手が、連携や動きの複雑な内野手に転向するのは大変だが、逆はそれほど難しいことではない。開店から二時間もしたころには、私のテーブルは、20近いテーブルの中で一際弾けていた。

 接客術を学ぶのに集中していたせいか、八木茂軍の情報をほとんど集められていなかった。加藤店長とAはどうか?トイレに行くフリをして、二人の着くテーブルの前を通ると、驚愕の光景が、目に飛び込んできた。

「どうかね、加藤君、Aくん。これでウチの軍に加わらんか?手柄を立ててくれた暁には、これの何十倍の金を出すぞ?ん?」

 テーブルに山と積まれた札束――。八木茂が、直接二人を口説いていた。

 この男は、馬鹿なのか?傍らに短時間での大量殺人の日本最多記録保持者、都井睦雄が控えているとはいえ、参加者屈指の戦闘力を持つ加藤店長と、殺人モンスター、Aの二人という、犯罪マニアでも失禁して失神するようなコンビに首を狙われているにも関わらず、二人を懐に呼び込んだばかりか、物怖じ一つせず、札束で仲間に勧誘するとは。馬鹿でなければ、よほどの大物か。仕事柄、いわゆる器の大きい男性と接する機会は多い私だが、これほど豪快な人物は、ちょっと記憶になかった。

「遠慮しときますわ。お金は大事やけど、あんたの首を切り取って、それを餌に、サンシャイン水族館のサメにショーでもやらせたほうが、よっぽど楽しそうなんでね」

「ハッハハハ。面白いことを言うんだな、Aくんは。加藤くんはどうだね?」

「俺は・・金では動きません」

「そうか。まあ、気が変わったらいつでもかけてきたまえ。こちらは君の力を必要としているのでな」

 Aも加藤店長も、八木の誘いを断った。お互いがお互いをけん制する間柄。どちらかが首を縦に振った瞬間、血しぶきが舞う。二人を組ませた松永社長は、ここまで計算していたのかもしれない。二人が別れた後、どういう決断をするかはわからないが・・。

「お楽しみのところ、すまなかったな。今日は私の驕りにするから、閉店まで楽しんでくれたまえ・・・ん?」

 席から立ち上がった八木が、私に目をとめた。

「なんだ、いたのか」

 至極興味なさそうな目を一瞬向けただけで、八木は控え室の方へと去って行こうとする。

「待ちなさいよ」

 軽く見られたと思い、頭に血が上った私は、気付いたら、危険も顧みず八木を追いかけ、呼び止めていた。

「なんだ。私は誘わないのか、とでも言うつもりか」

「・・・・」

「勘違いするな。今日、お前を応援に呼んだのは、加藤くんとAくんと、直接話すきっかけを作りたかったからだけにすぎん。お前のような小娘など、それだけの利用価値しかないということだ」

「・・私を殺そうとしたじゃない」

「あれは俺のミスだった。誰を殺れと指示したわけではないが、だからといって、お前のような小娘を狙うとはな。尾形のような腰抜けに声をかけた、俺のミスだった」

 いちいち、癪に障る男――。私を挑発しているのか、それとも、本当に侮っているのか。いずれにしても確かなのは、今この状況で暴れれば、それこそ八木の思う壺ということ。戦闘力に関しては、確かに私は、取るに足らない存在でしかない。

「どうした、Nちゃん」

 私を探しにやってきたらしい加藤店長が、ベルトにかけたナイフの柄に手をかけながら言った。

「いえ・・なんでもないです。大丈夫です」

 興味もなさそうに社長室へと引っ込んでいく八木の背中に、憤怒に燃え上がる目を向けながら、私は誓った。あの男には、必ずや何らかの形でオトシマエをつける。

 強くなる。貪欲に強くなる。

 私は誰にも負けない。
 誰にも、私のことは傷つけさせない。

凶悪犯罪者バトルロイヤル 第80話


 加藤智大は、永田洋子軍が根城とする倉庫にて、永田軍との合同トレーニングに参加していた。近々開戦する、八木茂軍との戦争に備えてのことである。

 東京港沿岸のコンテナヤードに建つこの倉庫は、暴力団、山崎組のフロント企業の所有で、永田軍は先月からこの倉庫に生活用品やトレーニング用品を持ち込み、拠点として活動していた。都心から離れたこの場所は、経済的な利便性では劣るが、防備には優れている。松永さんもこの土地には着目しており、有事の際には、ここに一大要塞を築いて立て籠もる計画を立てていた。

「よし。基礎訓練終了。十五分の休憩を挟んだ後、実戦訓練に移る」

 永田のオバサンの掛け声で、俺はサンドバッグ打ちを中断し、プロテインと水分を補給した。少しベンチに腰掛けて呼吸を整えると、すぐに拳にバンテージを巻いて、特設リングへと上がり、シャドーを開始した。

 二か月半前、トレーニングを開始したときには、たった10キロ程度のランニングで足腰が立たなくなっていたのに比べたら、スタミナが随分ついたものだと思う。瞬発力は天性のものが大きいが、スタミナはトレーニングで幾らでも向上する。トレーニングもせず、不摂生ばかりしているであろう宅間守に、確実に勝てる部分といえばここだろう。

「休憩終了。これより、実戦訓練を開始する。今回は、加藤君のリクエストで、勝ち抜き形式で行う。では、まずは松山、リングへ上がりなさい」

 今回の実戦訓練では、三十センチにカットした竹筒に布を巻いた棒をナイフに見立て、これを武器として用いている。ヒットした部位に応じてポイントが加算され、規定数の5ポイントに達した時点で勝敗が決まるルールだ。松山純弘は元警官であり、警棒術をマスターしている。ナイフとは使い方が異なるが、間合いの取り方など、似ているところも多い。技術の面ではもっとも手強い男が、最初の対戦相手に決まったようだ。

「始め!」

 合図とともに、一気に間合いを詰めた俺は、松山の膝にローキックを見舞った。武器ばかりを警戒していた松山が、予想外の位置への攻撃にパニックに陥る。怯んだ松山の腹部に竹筒を突き立て、まずは3ポイントを先取した。

 実戦なら、腹にナイフを突き刺したということだから、この時点で勝負を終わってもよさそうなものだが、そうはならない。人間の生命力は大したもので、永田のオバサンは、かつて心臓を撃ち抜かれた人間が、何十メートルもの距離を走って逃げた光景を見たことがあるらしいのだ。相手の息の根を止めるまで、油断は禁物。俺は体勢を整えた松山と、再び対峙した。

「いえあっ!」

 松山が吠え、速射砲のように突きを連発してくる。理に適った攻撃。実戦において、ナイフは切るための武器ではなく、刺突に用いる武器である。上から振り下ろしたところで、西洋剣や日本刀のような破壊力は見込めず、表面を撫で切っておしまいだからだ。

 しかし、その刺突にしても、フェンシングの試合のようにただ真正面から突くのと、綿密な下拵えをしたうえで突くのとでは、当然精度が違ってくる。俺はしばらく、十分な間合いを保ちつつ松山と打ち合ってから、いきなり大きく踏み込んで、右手に持った竹筒を横に薙ぎ払った。

 中距離からの真っ直ぐに目を慣らされていた松山はこれを躱せず、首筋にヒット。これで1ポイント追加。さらに俺は、怯んだ松山に組み付き、竹筒を叩き落とした。そしてグラウンドからバックに回り、自分の竹筒を、松山の首筋に突き立て、トドメを刺した。5ポイント追加で、オーバーキルである。

「・・・見事。コマンドの鑑だわ」

 褒め言葉はいい。さっさと、次の練習台を寄越せ。

「よし。次は、俺が相手だ」

 鼻息荒くリングに上がったのは、おせんころがし事件の栗田源蔵である。180㎝を超える巨躯、90㎏近い体重――。サイズだけなら、仮想敵、宅間守をゆうに超える相手。野獣が人の皮を被ったような、本能丸出しの男。しかしこの男は、本能だけで有無を言わさず人を支配する、強靭な肉体の持ち主である。

「始め!」

 開始の合図とともに、栗田が対角線上のコーナーから突進してきた。大きな体に似合わぬスピードである。

「ずああっ!」

 間一髪で躱した斬撃が、コーナーポストに誤爆する。凄まじい破壊音。空を切る音は、まるで鉞を振り下ろしているようである。まともに受けていたら、腕の骨を持っていかれかねない。俺はたまらず距離をとった。

「ちょこまかしてんじゃねーーっ」

 その後も、栗田のダンプカーのようなアタックが続く。遠目には、隙だらけの攻撃のようにも見えるだろうが、狭いリングの中で向き合う俺には冷や汗ものである。しかし、逃げ回ってばかりでは、活路は開けない。俺は突進する栗田の攻撃を、紙一重、必要最小限の動きで躱し、すぐさま反撃の体制を整え、脇腹に竹筒を尽き立てた。3ポイント先取。

「ぬうおっ」

 闇雲に振り回される竹筒を躱し、俺は栗田の腰にしがみついた。台風の目。超接近戦は、安全地帯でもある。もぎ放そうとする栗田の剛力に必死で抵抗して、俺は栗田の足を払い、テイクダウンに成功した。

 倒れた拍子に、栗田は生命線の竹筒を取り落とした。だが、勝負は終わりではない。俺は栗田からマウントを奪い、冷徹に、首筋目がけて竹筒を振り下ろした。狙いは外れ、竹筒は栗田の顔面にヒット。1ポイント。二発目。これも、顔面にヒット。1ポイント追加で、合計5ポイント。

「てめえ、調子のってんな、こらあっ!」

「栗田、やめろ!もう勝負はついている!」

 頭に血が上った栗田は、永田のオバサンが止めるのも聞かず、下から、アワビのような拳を放ってくる。一発もらって、口から出血した。俺としたことが、戦いが終わったと思って、油断してしまった。実戦なら、死んでいたところだ。

 俺は栗田の顔面に、鉄槌を振り下ろした。一発、二発、三発。手の側面に、鈍い感触が伝わってくる。栗田がたまらず腕を伸ばしたところで、手首をキャッチし、腕ひしぎ十字固めを決めた。

「いででっ、いてえよおっ!」

「タップしろ、栗田!加藤の足を叩け!」

 永田のオバサンに言われて、栗田が素直にタップし、降参した。俺はすぐには離さず、栗田の殺気が完全に消え去ったのを確認してから、腕ひしぎを解いた。

「次はあんただが・・やるか?」

「いや・・とんでもない・・です」

 最後に残った小原保が、俺から目を逸らした。足の悪い小原では、俺の方も、練習にならない。一々聞いてやるのも、意地悪だったかもしれない。

「あの栗田を完封するとは・・。まるで戦闘マシーンね。加藤君、どうかしら。バトルロイヤルの期間中は松永さんのところで働くとして、勝ち残りを決めた暁には、私と一緒に、世界を変革するための戦いに身を投じてみない?」

 げんなりした。変な思想に、俺を巻き込まないでくれ。

「・・・気が早いですよ」

「ふふ。それもそうね」

 永田のオバサンを適当にあしらい、俺はまたトレーニングに没頭した。トレーニングは、熟せば熟すほど基礎体力が上昇し、量を増やすことができる。トレーニングをするためにトレーニングをする。主目的になってはいけないが、考え方の一つとして、間違ってはいない。

 戦闘マシーン――。永田のオバサンの言葉が、鼓膜の内側でリフレインする。敬称なのか蔑称なのか、若干良く分からないが、悪い気はしなかった。マシーン。そう、俺はずっと、マシーンになりたかった。ただ目の前に与えられた仕事を、確実にこなすだけのマシーンに。

 どんなに頑張ったって幸福を手に入れられないなら、せめて苦しみを感じないようになりたい。俺には、それすら、神に祈る権利もないのだろうが――。

凶悪犯罪者バトルロイヤル 第79話


 各国首脳や財閥が集まる会合に参加したグランドマスターは、ホテルのルームサービスを取りながら、秘書のアヤメとともに、5月の参加者の戦いを振り返っていた。

「今月の死亡者は、以下の五名です。石橋栄治。殺害者は、栗田源蔵。小林正人。殺害者は、加藤智大。加納恵喜。殺害者は、A・S。小松和人。殺害者は、A・S。尾形英紀。殺害者は、松永太」

 一か月の死亡者五名。まさかのペースダウンである。ゲーム開始から三か月が経った現在、参加者の半分は何らかの組織に属しており、また各勢力とも、現在は様子見の段階にあることが影響した停滞だろうか。一応、銃火器の早期解禁を念頭に置いておかなければならない。

「各勢力間の動きは以下の通りです。重信房子、永田洋子連合軍が、小林正人軍と抗争。小林正人軍は滅亡しました。その後、重信房子軍は、新加入のA・S率いる軍団と同盟を締結。さらに、八木茂軍との間に、戦端が開かれた模様です。そして、麻原彰晃軍と宅間守軍との間に、和平の道が開かれたようです。宅間軍は角田美代子軍と同盟しており、その角田美代子軍の傘下には、金嬉老、李珍宇のコリアンコンビが加わったようです」

 麻原彰晃率いるバドラと重信房子軍―――。二強の間に、確かな戦力格差が生まれつつある。強豪、八木茂軍との対立により、尾形英紀を失った重信軍に対し、「獄中ブログ」の小田島鐡男を加えて、合計9人を抱える最大勢力となったバドラ。両軍のダブルスパイとして暗躍する正田昭も、近頃では、明らかにバドラに心が傾きつつある。同盟軍の永田洋子、A・S軍も合わせれば、重信軍が数では上回るが、強豪八木軍と対立している重信軍には常に戦力損耗のリスクが付きまとい、対して、明確な敵対勢力のいないバドラには、さらに上昇気流が吹いている。龍虎が火花を散らしあっている内に、一人勝ちを決めてしまうかもしれない。

 が―――。重信軍には、バドラにはない資金力がある。これの使いようによっては、まだまだ挽回のチャンスはある。重信軍の頭脳、松永太は、この状況にまだ焦りを感じていないようであるから、戦局はどう動くかわからない。グランドマスターにも、展開がまったく読めなかった。

「ところでマスター。昨日の、宅間守の発言なのですが・・」

 アヤメの報告を聞き、グランドマスターは頭を抱えた。警告メールで大人しくなったかと思えば、早くもこれである。まあ、宅間が面倒を見ている少年たちが殺人を実行したとして、教唆になるかどうかは微妙なところではあるが、あれを許していたら、図に乗った宅間が、また厄介なことを起こしはしないかという危惧はある。ただ、宅間は余人を持って代え難い人材である。下手に規則でガチガチに縛り付けてしまうと、本来の実力が発揮できないタイプでもあるだろうから、グレーゾーンにいる間は、好きにやらせておくのがいいのかもしれない。

 危険な要素を孕んでいるといえば、宮崎勤だ。あの男は、まるで掴みどころがない。本当に、まともな教育を受けた人間なのかと疑ってしまうときがある。世界中の犯罪者、とくに宮崎のような快楽殺人者にはそういう傾向があるが、あの男の浮世離れは度が過ぎている。その宮崎勤が、同じく、何を考えているかまるでわからない、山地由紀夫と組んだ。宅間守と金川真大もそうだが、磁石の同極はふつうは反発し合うというのに、あの二人はくっついてしまった。何か起こらぬかと、心配しない方が無理である。まったく、頭が痛い。

 自分との約束通り、参加者三人を始末してのけ、参加者の椅子を勝ち取ったAは、今のところは便利屋の経営に専念し、力を蓄えているようだ。そのAが脅迫して参加させたNとともに勝ち残りを伺うAが、この先どんな戦いぶりを見せてくれるのか。勝ち残ることが目的ではない、殺人をすることそのものが目的であるかのような節もあるあの男の動向には、目が離せない。あの男の犠牲になったホームレスには申し訳ないが、楽しみで仕方なかった。

 「伝説の強姦魔」小平義男、「籠城戦のエキスパート」梅川昭美、「悪魔の申し子」西口昭、「毒婦」小林カウ。沈黙を守っている大物たちがどの勢力に味方するか、はたまた、己が組織を立ち上げるのか。それによっても、勢力地図は変わってくるだろう。まだまだ、未知数の部分は大きく、展開はまるで読めない。

「マスター。市橋達也を狙う松本兄弟に接触してきた人物のことですが・・」

 あの問題か。ブラック・ナイトゲームの筋から漏れた情報だとは思うが、やはり、参加者に直接殺害を依頼する人物は現れてしまった。各国のマフィア関係者などには気を配っていたが、「そっちの線」をおろそかにしていた。不覚である。

 まあ、ゲームは予想外のことが起きるから面白い。これからも、外部からゲームに介入してくる人間は出てくるだろうが、それがゲームの根幹を揺るがすものでない限りは、あまり厳しく排除はしないようにしていこう。大事を成し遂げる一番のコツは、些事を気にしないことである――。

 グランドマスターは、アヤメとともに「淡麗・生」の缶ビールを飲んだ。バトルロイヤル参加者の生活を覗くようになってから、庶民の文化に染まりつつある自分がいる。今度は、牛丼屋とやらにでも行ってみようか。

 この上なく上機嫌なグランドマスターは、パソコンを開き、最近はまっている「2ちゃんねる」にアクセスするのだった。

凶悪犯罪者バトルロイヤル 第78話


 宅間守は、蒲田のナイトクラブ「ダークスフィア」に、面倒を見ている不良少年グループの顧問的な立場として招かれていた。

 宅間が大田区において主催している「塾」の生徒は日に日に数を増し、現在では一日に10~15名を安定して集めるまでに規模を大きくしていた。元々は、ちょっとそこら辺にいる粋がり兄ちゃんみたいな可愛いものだった彼らは、宅間の教えのお蔭で、強姦、強盗、放火などの重犯罪を鼻歌を歌いながらやってのける、立派な外道へと成長していた。

 不良どもが身に着けたのは、悪事の知識だけではない。宅間と過ごす時間によって大きく変化したのは、彼らの用語でいう「一般ピープル」との距離感だった。

 今どきはヤクザも大卒などと言われるように、「不良=落ちこぼれ」という時代ではなくなった。学業やスポーツで優秀な成果をあげている者が、裏では非行や乱れた性生活をしているケースは珍しくもない。ファッションにおいても、特別ワルでもない若者が髪を染めピアスを嵌めたり、逆にどうしようもないワルが、地味なシングルのスーツを着てメガネをかけているようなことも普通である。

 とはいっても、それは単に境目が曖昧になっているというだけで、やはり傾向として、貧困家庭で育った者や、学業やスポーツで落ちこぼれた者が悪に染まりやすいのは変わったわけではない。宅間が授業をするようになってから起きた変化というのは、家庭環境にも恵まれ、成績も良好な「ちょっと不良ぶってみたいだけのガキ」が篩にかけられ、本物の「悪のエリート」だけが、グループに残ったということだ。

 それまで、「人間はみな平等」だの「生まれたところや皮膚や目の色で一体この僕の何がわかるというのだろう」などといった、優しい言葉で飯を食っている商売人どもに洗脳されて、「自分も頑張れば成功できる、幸せになれる」と無邪気に信じていたガキが、絶対に越えようのない違いに気が付いた。努力だの、自己責任だの、勝ち組が負け組を納得させるために生み出した言葉に、ずっと騙され、殺され続けていたことに気が付いた。

 「みんなみんな生きているんだ友達なんだ」が大嘘だったことに気が付いた不良どもは、「一般ピープル」との縁を断ち切ったどころか、敵視し始めた。今は同じ学び舎で席を並べていても、十年、二十年後、奴らは自分たちから搾取する側に回る。それは諦めよう。社会というものはあまりに巨大であり、十代のガキが吠えたところで、簡単には変わらない。ならば、奪われる前に奪う。これに尽きる。

 どうせ貴様らは、俺たち落ちこぼれのことを、同じ人間とは見ていないのだろう。見世物小屋の珍獣のようなものだと思っている。だから、こちらが檻の中から尻尾を振って愛想を振り撒いている内は可愛がるが、分を弁えずに同じ生活空間に入ってこようとすれば、途端に迫害を始める。反抗し牙を剥いたら、それ見たことかと、嬉々と顔で殺しにかかる。

 競争社会の適応者(生ゴミじみたアホ)どもは、こちらを同じ人間ではないと思っているから、何をしても、何を言ってもいいと思っている。クソみたいにプライドの高い競争社会の適応者(生ゴミじみたアホ)どもは、えてして、自分たちが日ごろ見下している下等生物にもプライドがあるということを理解できない。絶対に反撃されない、鉄格子を隔てた向こうから、こっちを攻撃している気になっているのである。

 愚かな競争社会の適応者(生ゴミじみたアホ)どもに、思い知らせてやろう。貴様らが力を得る前に、痛めつけ、あわよくば殺す。せめて、絶対に消えない傷を。体に、心に刻んでやる。それだけは、必ず約束する。
 
 宅間がそう口にしたわけではないのだが、宅間の教えを受けるうち、不良どもに、明らかにそうした思想が芽生え始めていた。その証拠に、今、ナイトクラブで不良どもが打ち合わせをしているのは、近辺の学区では一番の美少女であり、成績も優秀で才色兼備と名高いサツキと、毎年東大合格者を多数輩出する名門高校「竹中学園」の中でもトップの優等生、ヘイゾウのカップルを、殺して犯す計画だった。

「奴らの生活パターンと通学経路は、調べがついている。それぞれが塾から帰宅する午後十時ごろ、二手に分かれて奴らを拉致した後、例の廃墟で合流し、ヘイゾウの目の前でサツキを犯す。そのあと、殺して山に埋める。ってな計画なんやけど、どう思う?68のおっちゃん」

 自分を虐げてきた社会への復讐、憎き高学歴どもを皆殺しにする願望が、こんな形で再び叶えられるとは思わなかった。宅間はタバコに火をつけ、紫煙を深々と吸い込んだ後、おもむろに口を開いた。

「悪くはないが、面白くもないな。別々に行動しているところを拉致るんやない。二人が一緒に行動しているところを拉致るんや。デートをしているところがええな。幸せの絶頂を味あわせた後に、地獄のどん底に突き落としてやるんや。落差が大きければ大きいほど、絶望も大きくなる。悲鳴の聞き心地も、違ってくるというものや」

「なるほど・・さすが、68のおっちゃんだ。デート中に襲うのは簡単ではないだろうけど、やっぱり悪事は、ハイリスク・ハイリターンでなんぼだよね。よし、それで行こう。サツキとヘイゾウのスケジュールを、徹底的に洗うんだ」

 悪事を相談するときの不良どもの顔は、実に活き活きとしている。
 それでいい。もっと恨め。貴様らをそんなにした奴らを、もっと恨め――。
 ワシの後継者となれ。

「あ。言っておくが、今のワシの言葉は、全部独り言やからな」

 そこは重要だ。こいつらは人を殺して逮捕されても、少年法とやらに守られ、せいぜい十年か二十年食らうだけで済むが、自分はそうはいかないのだから――。

「わかってるよ。68のおっちゃん。おっちゃんに迷惑はかけないよ」

 聞き分けのいい子供たち。可愛ええ奴らや。こんなええ子らを、誰が不良と呼んだのか。

 十数年前、自分が蒔いた種はすくすくと育ち、大輪の花を咲かせようとしている。宅間は満足気な笑みを浮かべ、店に来て二本目のタバコに火をつけた。

凶悪犯罪者バトルロイヤル 第77話

 
 麻原彰晃率いるバドラは、小田急小田原線の経堂駅前を訪れていた。

「おう、お前たち。今日もいたのか」

 麻原が話しかけたのは、世田谷区の公立中学校「黒龍中学校」に通う、少年少女のグループだった。現在、時刻は深夜の1時。塾帰りにしても遅すぎる時間であり、中学生が出歩くには相応しくない。

「んだよ。今日も来たのかよ、尊師」

「ウゼエんだよ、尊師」

 生意気な口を叩きながらも、子供たちの表情は麻原を歓迎する風であり、彼らが普段、親や教師、警官に向けるような敵意は感じられない。

 近ごろ麻原は、世田谷の学区において、大人たちから見放された非行少年を導く「夜回り尊師」としての名声を高め始めていた。具体的には、週に2~3度、深夜に駅前や不良の溜まり場を訪れ、そこにいる子供たちに声をかけ、帰宅を促して歩くのである。

 麻原がこうした活動を始めた背景には、一般人の武装勢力を味方につけたい、という思惑があった。パッと思いつくのはヤクザだが、いかんせん割高である。無論、こちらに入る利益も巨大ではあるが、それはこちらが彼らの期待に応えている間だけの話。こちらがヘマをして、パワーバランスが崩れた瞬間、ヤクザは共生者から捕食者へと姿を変える。

 ヤクザに一度餌として認識されてしまえば、もうあとは骨の髄までしゃぶり尽くされるだけだ。リスクを冒さず、低コストで働いてくれる一般人の武装集団として、麻原は街の不良少年を味方につけることを思いついた。

 麻原の掲げる地域密着政策とも合致するこの方針がうまくいけば、戦略、戦術の両面において、選択の幅が大きく広がるのは間違いない。また、地域の大人たちからの印象も良くなり、お布施の額が増えることも期待できる。数週間前、新加入の信徒、小田島鐡男に薦められて視聴した、神奈川県で夜間高校の教師をしていた人物の動画を観て、猿真似で始めた活動だったが、いい方向に成果が期待できそうだった。

「お前たち、腹は減っていないか?ガストに行くなら、連れていってやるぞ」

「ええー、またガスト?もう飽きたよ。どうせだったら、安楽亭くらいに連れて行ってよ」

 これまで麻原は、飯を奢るのと引き換えに子供の帰宅を促す方法をとっていたのだが、そろそろ限界が近づいてきたようだ。いつの時代も、子供というのは、大人が甘やかせばどこまでも付け上がる生き物である。このまま同じ手を使っていけば、要求する飯のグレードがどんどん上がっていくのは、間違いなかった。

「ははは、そうか。飽きてしまったか。まあ、俺も金持ちというわけではないのでな。ファミレス以上となると、なかなか難しいな・・うっ!?イタタタタ」

 会話の途中で、麻原はいきなり大げさに顔をしかめ、わざわざアディダスのジャージパンツを半分脱いで、ガーゼを貼った左の尻をアピールし、痛がってみせた。

「いやあ、昨日、とある高校の生徒がヤクザと揉め事を起こし、それを助けるために組事務所に乗り込んだところ、尻の肉をナイフで切れば赦してやる、と言われたものでな。本当にやってやったんだが、そのときの傷が痛んで仕方がない。まあ、俺のこんな尻の肉などと引き換えに、子供が助かるなら、安いものだがな。はっはっは」

 いつまで経っても「そのお尻、どうしたの?」と聞いてくれない子供たちに対し、麻原は必要以上に細かく、怪我をした経緯を説明して見せた。

 麻原が手本とする神奈川の元教師が、生徒が暴力団から足抜けするのと引き換えに小指を一本差し出したエピソードをパクった今の話は、言うまでもなく、デマカセである。実際には麻原の傷は、今朝、散歩をしている際に、電柱に立小便をしていたところ、いつもその電柱にマーキングをしている犬に吠え掛かられてしまい、驚いて尻餅をついた際に、道路に落ちていた石で痛めたものだった。

「そんなミエミエの嘘はつかなくていいよ。尊師の汚いケツなんて、見たい奴がいるわけないじゃないか」

「な・・・っ」

 麻原が、子供たちの予想外の返事に絶句するのを見て、麻原が怪我をした本当の理由をしっている関光彦が、ため息をついている。なにかもう、フォローを入れてやるのも、ツッコミを入れてやるのも恥ずかしい、といった感じである。

「くっ・・おい、タケシ。お前、イジメをやっていたことがあるか?」

「イジメ?三組のキョウに、よくタバコを買いに行かせたり、関節技をかけたりしているけど、あれもイジメになるのかな?」

「いいんだよ。昨日までのことは、みんないいんだよ」

 麻原が放った、神奈川の元夜学教師の名言のまるパクリに、場の空気が、通夜のように静まり返った。

 クソガキどもめ、自分の熱い思いがわからないとは。こいつらはきっと、自分の認める神奈川の元夜学教師ではなく、某議員の元教師に感化されるタイプに違いなかった。

 まったく、理解できない。あんな、暑苦しい体育会系のノリについていけない生徒はすべて否定してかかる、文字通りヤンキーにしか需要のない教師の、どこがいいのか。もしかして、中学生の夜遊びを咎めないどころか、積極的に連れ出そうとする、某漫画のDQN教師を信奉する輩か。理想の教師像を「金八先生」と信じてやまない麻原には、許せないことだった。

「・・・なんだかわからないけど、尊師が必死だから、帰ってあげるよ。またね」

 どうやら、麻原の誠意は伝わったようで、子供たちは帰路についていった。これもまたよし。勝負は過程ではなく、結果で決まる。どんな手を使ってでも、関光彦に呆れられようと、目的を果たせればそれでいいのだ。

「よし、光彦。俺たちも帰るぞ」

「結果オーライだからいいけど、カッコつけないでよ。こっちまで恥ずかしくなるじゃない」

 バトルロイヤル制覇に、大きな力を貸してくれる存在――。
 一般人の武装勢力を味方につけたバドラは、一強体制をさらに固めていく――。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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