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犯罪者名鑑 加藤智大 9


かーとともだいええ

 
 掲示板 


 「自慢女」とレスバトルを繰り広げてからというもの、加藤が建てたスレッドは、荒らし、なりすましが多発し、滅茶苦茶になっていました。ネットで活動している者が荒らし、なりすましに対して感じる不快感は「番外編」の方で書きましたが、スルーすればいいだけのこととはいえ、それができない、もしくは「それしかいない」という状況なのであれば、精神的には相当辛いものがあったと思います。

 加藤は事件の動機を、「日本のどこにいるかわからない荒らし、なりすましに、自分がどれだけ怒っているかを伝えるためだった」ということを語っています。それがすべてではなかったと私は思っているのですが、それが嘘というわけでもなかったのでしょう。

 そんなに荒らし、なりすましが憎いのなら掲示板などやめたらいいと思うかもしれませんが、掲示板は彼にとって、大切な居場所のひとつでした。行きつけの飲食店やサークル活動など、人にとって大事な憩いの場で、他の客とトラブルを起こしたことから出禁を食らうのと同じかそれ以上のダメージを、彼は感じていたのです。自分の意志で行かなくなるのはよくても、「アイツのせいで・・・」という感情があると、人はなかなか、執着心を断ち切れないものです。

 もしくは、自分でブログか何かをやっていればよかったと思う方もいるかもしれませんが、私はそれもうまく行かなかったのではないかと思います。

 私の利用しているFC2ブログにはホスト名でコメントの主を判別する機能があり、荒らしやなりすましの書き込みを、内容に一文字も目を通さずに削除することができます。何度もやっているとウジ虫を潰すような作業になってきて、次第に不快感を感じることもなくなります(荒らしにとっては皮肉ですが、書きこまれれば書きこまれるほど気にならなくなる)。

 加藤も自分でブログをやっていれば荒らしやなりすましの被害に悩まなくて済んだかもしれませんが、ただ、個人でブログをやる場合大変なのが、人を呼び込む作業です。もう2008年くらいですと需要に対して供給過多になり始めており、たぶん、有名人のブログ以外は、なかなか人集めが難しい状況になっていたと思います。

 また、私がやっているのを見ればわかると思いますが、人が集まっても、その人たちに反応してもらうための努力というのがまた大変です。リアクションがなければ、当然、書くモチベーションは起こりません。それが、辞める、執着を断つという方向にいけば結果オーライかもしれませんが、また掲示板に戻ってしまうようではまったく意味がありません。

 結局のところ、当時の加藤の状況で掲示板への執着、そして荒らしやなりすましに有効な対策を打つことは難しかったと思います。掲示板でなくとも、別の何かに執着してストレスを抱えていたかもしれませんし、そもそも掲示板で女との出会いがうまくいっていたら、加藤がいい方向に向かっていた可能性もありました。掲示板そのものを悪とする考えは、的外れといえるでしょう。

 「日本のどこにいるかわからない荒らし、なりすましに対抗するため」という直接的な動機に、「彼女を得られないこと、好きな女に彼氏ができたことへの不満」「借金やコンプレックスなどもろもろのストレス」などが加算されて膨れ上がり(”男らしさの病”から、ここを本人は否定している)、母親から受けた教育による「自分の怒りを言葉ではなく、行動で示す」癖を、最悪のやり方で表現してしまった。

 秋葉原事件の動機に関する、私の結論です。


かーとともだい


 
 消滅の園へ



 2008年6月5日、事件3日前の時点から、加藤の掲示板の書き込みを紹介しつつ、加藤の行動を追っていきます。


 6月5日

 
 ・彼女がいれば仕事を辞める必要はなかったし、彼女がいれば車を売る必要もなかったし、彼女がいれば車のローンも払ってるし、彼女がいれば夜逃げする必要もなかったし、彼女がいない、その一点で人生崩壊。希望があるヤツにはわかるまい。で、また人のせいにしていると言われるのか。

 ・女に生まれてたらよかったのに
 
 ・管理人は起きてるのかしら。起きててもどうせ無視なんだろうけど。俺も女だったら管理人が守ってくれるのにな。


 加藤の手記には、「肉体的に最強である大人の男は、社会的には最弱の存在である」という記述もありましたが、実際問題、仕事で本気で上を目指すとか、スポーツで大成したいとか考えない限りは、今の世の中、女の方が有利といえるところまで来ていると私も思います。男と女がトラブルになったとき、問答無用で男が悪いとされたりするケースは多々あるでしょうし、結婚や交際を望んだとき、収入の少ない男と収入の少ない女ではその難易度は段違いになります。基本的に、女が選ぶ立場である。

 女ができない、女に相手にされなくて悔しいという加藤の憎しみは、やがて「自分が女だったらよかったのに」という僻みに変わっていったようです。


 ・作業場行ったらツナギがなかった。辞めろってか。わかったよ。

 ・工場で大暴れした。被害が人とか商品じゃなくてよかったね。それでも、人が足りないから来いと電話がくる。俺が必要だから、じゃなくて、人が足りないから。誰が行くかよ。誰でもできる簡単な仕事だよ。


 気分がどん底のときは、すべての出来事を被害妄想的に捉えてしまいがちです。怒った加藤は、勝手に会社を早退してしまいましたが、あとで同僚たちが、加藤が起こって床に散乱させた制服を探してみると、ウケ狙いのため、自分で肩に「萌え~♡」とマジックで書いていた加藤の制服はちゃんと見つかり、連絡を受けた加藤は、気を取り直したそうです。

 加藤が事件を起こした原因が派遣切りにあると言われていた当時は、このツナギの件が事件を起こした直接のキッカケのように言われていましたが、加藤本人は、事件の原因が派遣の待遇の悪さにあったことを否定しており、実際に行動を追っても、それについてはとくに不自然な点は見られません。

 これはあくまで数あるトリガーの一つに過ぎなかったようです。


 6月6日


 ・スローイングナイフを通販してみる。殺人ドールですよ。

 ・明日福井に行ってくる。


 
 事件2日前、加藤は福井のミリタリーショップで、凶器となったダガーナイフを購入していました。「通販」から直接店で購入するのに切り替えたのは、2日後の決行に間に合わないと考えたからで、この時点で加藤は、事件の青写真を頭の中にしっかりと描いていたことになります。

 しかし、店に直接買いにいくにしても、加藤はなぜ、静岡から新幹線で二時間もかけて、福井県にまで足を運んだのか?加藤が購入したナイフはどこでも売っている一般的なもので、もちろん静岡にも取り扱い店舗は多数存在しました。

 どうも加藤の目当ては、ネットで評判の「感じのいい女性店員」だったようです。ミリタリーショップの防犯カメラには、女性店員と楽しそうに話をする、加藤の姿が映されていました。女性店員と話した後、福井から静岡に帰る途中の加藤の書き込みは、


 ・店員さんいい人だった。人と話すのっていいね。タクシーのおっちゃんとも話した。


 と、一転してポジティブな内容となり、「浜名湖だ浜名湖」「回転ずしおいしいよ」などと、旅行を満喫しているような書き込みも見られました。

 福井への日帰り旅行の締めには、三島で風俗店にも寄っていました。借金のある加藤がこれだけ散財したのは、「もう明日をみていな」かったのでしょう。

 

 ・土浦の何人か殺したヤツを思い出した。
 
 ・犯罪者予備軍って、日本にはたくさんいる気がする。

 ・ちょっとしたキッカケで犯罪者になったり、犯罪を思いとどまったり、やっぱり人って大事だと思う。

 ・人と関わりすぎると怨恨で殺すし、孤独だと無差別に殺すし。難しいね。

 ・「誰でもよかった」なんかわかる気がする。



 加藤は事件が近づくに連れて、自分が殺人を決意しているということを明確に語るようになっていました。

 自棄になっているようなことを書いていますが、やはり彼は、誰かに止めてほしかったのだと思います。説教やキレイごとではなく、普通に相手をして欲しかった。

 ここで誰かが加藤の相手をしてくれたところで、加藤の問題すべてが解決するわけでもなく、加藤という人そのものが変わることはなかったと思います。極端にいえば、一か月後には、また同じような状態になったかもしれない。しかし、誰かが相手をしてくれたら、事件は起こさなかったかもしれなかった。少し時間を稼ぐことができたら、加藤が変わる本当にキッカケを掴めたかもしれなかった。時間稼ぎの連続をしている内に、なんとなく、人生を過ごせたかもしれない―—。

 加藤はまさに、「ちょっとしたキッカケ」を求めていましたが、そのちょっとすら、加藤には与えられませんでした。自業自得の面もありますが、加藤の書き込みにまともに反応してくれる人は、もう掲示板には一人もいなかったのです。

 
 6月7日
 


 ・定価よりも高く売れるソフトもあった。さすが秋葉原

 
 犯行前日、加藤は現場の下見と、ゲームソフトを売ってトラックを借りる資金を作るために、秋葉原に出かけていました。

 加藤は事件の舞台に秋葉原を選んだ理由について、「日曜日なのは秋葉原の歩行者天国が思い浮かんだからで、秋葉原なのは、大事件は大都市、大都市は東京、東京でよく知っているのは秋葉原、という連想だったと思います」と語っていますが、思い浮かんだ時点では大した拘りがなかった点で、宅間守や造田博が事件を起こす場所を決めた理由とよく似ています。宅間守などは後付けで色々な理由が浮かんできたそうですが、加藤の場合は本当にたまたま、彼が良く知る場所だったというだけで、秋葉原が選ばれてしまったようです。

 ・さあ帰ろう。電車に乗るのもこれが最後だ。

 東海道線で帰路についた加藤は、途中、三島駅で昨日寄った風俗店にまた行ったあと、沼津駅でレンタカーを借り、裾野の自宅に帰りました。

 ・もっと高揚するかと思ったら、意外に冷静な自分にびっくりしてる。体調が悪いのが気がかり。中止はしない。したくない。
 
 これが、加藤がシャバで明かす最後の夜となりました。

あきはばらじけん



 秋葉原無差別殺傷事件


 6月8日


 ・ほんの数人、こんな俺に長いこと付き合ってくれた奴らがいる。全員一斉送信でメールをくれる。そのメンバーの中にまだ入っていることが、少しうれしかった。


 犯行当日の朝、加藤は地元の友人のことについて言及していました。また、秋葉原に出発する直前には、職場の年下の後輩に、自分が持っているゲームソフトや同人誌をプレゼントしていました。

 友人を嫌いなわけではないが、彼らはもはや、加藤にとって、何の歯止めにもなりませんでした。

 東名高速道路に入った加藤は、休憩や渋滞のたびに、掲示板で「実況中継」を行いました。


 9:41 晴れればいいな
 9:48 神奈川入って休憩 いまのとこ順調かな



 横浜青葉インターで高速を降りた加藤は、国道246号線を走り、東京へ。


 
 10:53 酷い渋滞 時間までに着くかしら
 11:07 渋谷ひどい
 11:17 こっちは晴れてるね



 11時45分ごろにようやく秋葉原に到着した加藤は、いったん、ドン・キホーテの前でトラックを止め、トイレの中で、掲示板のスレッドタイトルを書き替えました。

 秋葉原で人を殺します。


 意を決して投稿ボタンを押した加藤は、今生への未練をすべて断ち切るため、電話帳の番号をすべて削除した後、最後の書き込みを行いました。


 12:10 時間です 


 加藤は東西に走る神田明神通りをトラックで走り、中央通りとの交差点に向かいました。目の前は歩行者天国でにぎわっていました。

 加藤は突入しようとしましたが、信号が赤に変わり、とっさにトラックを止めました。歩行者天国に突っ込むつもりなら、信号が赤だろうが青だろうが関係ないはずですが、いざとなると、本能的に体が拒絶反応を起こしたのです。加藤はその後、歩行者天国の周りを二周、三周と周回しましたが、なかなか決心はつきませんでした。

 加藤にも人間らしい感情は残っていたということですが、当時のワイドショーでは、「加藤はイケメンを物色し、イケメンを殺すために歩行者天国の周りをウロウロしていたんだ!そうだそうに違いない!」と、ドヤ顔で発言したコメンテーターがいたそうです。有名人でもない私のような一般人のサイト上ではなく、公のメディアでそんな妄想をたれ流せるのは、よほどのアホなのか、クソ度胸の持ち主なのかわかりませんが、そういう人物が知識人として発言権を持っているというのも、世の中の現実です。

 加藤もよほど中止にしようと思いましたが、ここでやめたところで、どうせこの世の中に、自分の居場所はない。

 「進むも引くも地獄なら、進む――」

 12:23、加藤はとうとう、秋葉原の歩行者天国に突っ込みました。2トントラックでのアタックで数人が死亡、十数人が重症。さらに、ダガーナイフを持って車を降りた加藤は、通行人を次々に切りつけました。 

 死者7名、重軽傷者23名――。


かとーもともだい



 余波



 秋葉原事件は、社会に大変大きな影響を与えました。

 事件現場では、傷だらけになって倒れる人を携帯のカメラで撮影する野次馬の姿が問題となり、現代人はモラルが希薄になっているのではないかということが言われました。まあ、野次馬というのは昔からおり、モラルがどうのこうのというより、ただ単にカメラを日常的に持ち歩くか持ち歩かないかの違いと、群集心理によるものであり、当日その場でああいうことをしたこと自体をそこまで気に病むことはないと思いますが、あとで冷静になってマズいと思うかどうかが、人としての分かれ目でしょう。
 
 世間では、加藤に共感する若者が多くあらわれ、ネット上では、加藤を一種のカリスマにまで祭り上げようとする動きも起こりました。諸悪の根源は派遣など非正規労働の待遇の悪さではないかと言われ、世間が派遣という働き方を問題視する向きも強くなりました。

 私個人の最近の考えは、日本の労働問題は派遣そのものが問題というより、正規と非正規の待遇の格差、というより、正社員が既得権益にしがみつきすぎているせいで、労働市場の流動化が非正規に押し付けられすぎ、二極化が進んでいるのが一番の問題であると(労働の長時間化など、それが正社員を必ずしも幸せにしているともいえない。非正規の側にも気楽というメリットがあり、単純な問題ではない)考えていますが、加藤本人の意に反して、この事件が、日本人が「格差」というものを見直す一つのキッカケとなったのは、紛れもない事実でした。

 加藤本人はといえば、法廷で遺族の言葉に涙するなど、一定の反省の気持ちを表しつつも、手記からもわかる通り、全体としては冷めた態度で、事件のことを他人事のように分析する余裕も見せています。

 また、加藤は、「逮捕され、ケータイと離されてからというもの、掲示板に対する執着は憑き物が取れたように無くなった」と語っていますが、私はある意味、これは宅間守の侮辱発言よりも、遺族にとって残酷な言葉ではなかったか、と思います。第一回でも書きましたが、たとえ無差別であろうと、自分の家族が、加害者なりに強烈な思いがあった上で殺されたのならともかく、「今となっちゃどうとも思ってない」と言われたのではやり切れません。いかにそれが真実だとしても、まったくもって余計な発言だったと思います。

 加藤家では、弟さんの自殺があり、加藤も死刑を待つ身ですから、ご両親は、息子二人の死を先に見送るということになります。最大の親不孝は親より先に死ぬことだと言われますが、息子が成人してから、自分の子育ては間違っていたと気づき彼らに謝罪したというお母さんは、いま何を思っているのでしょうか。

 総括:

 宅間守と並び、私がもっとも思い入れの深い犯罪者の生涯を最後まで書くことができました。

 最後に私が自分の分析をまとめる形で何かを書き加えるとすれば、加藤の事件で経済格差が見直されるようになったのは結構なことだと思いますが、事件を起こした原因として本当に見直されるべきは「恋愛格差」ではないかというところです。
 
 恋愛格差も経済格差と関係があり、世の中の構造の変化もあるので、全部ひっくるめる形で議論されてもいいですが、非モテの抱えるリビドーというものを軽視して欲しくないなあと、私も自分の経験から、本当に世の中に訴えたいです。

 「いつかはきっと、君にも素敵な出会いが」「自分の恋した女性の幸せを願うのが、男として正しい姿じゃないですか」などと、キレイごとで丸め込むのでもなく、「彼女が欲しいのなら、自分を磨け!努力をしろ!我慢して働け!」などと説教するのでもなく、一回でいいから、チャンスをやってくれと言いたい。チャンスをもらったうえで失敗するのなら、本人も諦めがつくし、努力して今度はチャンスをつかもうという気持ちにもなる。

 加藤はわかっている限りで「三打数ノーヒット」という結果でしたが、私の経験からいえば、これは本人が絶望して、「自分には何の希望もない」と思い込むのには十分な結果です。26歳、真面目に生きていればこれからいいこともあっただろうに、若者をここまで思いつめさせてしまうモテ格差の闇というものを、キレイごとも説教も弱いものを見下すのも抜きにして、大きな問題としてとらえてほしいな、と切に願います。
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犯罪者名鑑 加藤智大 8


かtttっと

ともだち



 歯止めにならなかった「友人」


 2007年11月から、加藤は最後の派遣先である、静岡県沼津市での、自動車の検査業務で働いていました。

 相変わらず、適当に手を抜いてやりゃあいいものを、正社員でもしないような細かい指摘をしてときにラインを止めてしまうなど、バカ真面目なところも目立ちましたが、この職場でも周りに打ち解けることには苦労はせず、連れ立って初もうでや秋葉原に行くほど仲の良い友人ができました。

 加藤の生涯を振り返ってみてみると、本当に友人には恵まれていたと思います。友人に恵まれていたはずの彼が、なぜ孤独を感じていたのか?なぜ友人の存在は、彼の歯止めとならなかったのか?

 加藤自身の友人付き合いについての発言を見たとき、私が少し気になるのは、「ウケ狙い」あるいは「ネタ」という言葉がよく登場するということです。そして、実際に加藤は、友人付き合いにおいて、「自分が楽しむよりも、人を楽しませることを第一に考える」性分の男でした。

 例えば、この時期に行った秋葉原ツアーにおいても、加藤は大ざっぱに行き先を決めるのではなく、あの店を回ったら次はあの店、など、ルートを細かく決め、今の流行りもネットで勉強するなど、入念すぎるともいえる準備をしてから友人を案内していました。

 そのほかにも、掲示板で知り合った人に遠方から会いにいくときなどは、いつも相手が恐縮してしまうほど大量の土産を持って行ったり、久々に地元の友人に会うときは、友人がプレイしているゲームを自分もプレイして話を合わせる努力をしていたり、カラオケでアニメソングを歌うときなどは振り付けを事前に勉強して行ったり、アニメの視聴会では、事前にセリフを一字一句覚えてから行ってみんなを驚かせるなど、加藤はいつも、「ウケるネタを仕込む」ことに余念がありません。

 本当に楽しんでやっているなら、何も言うことはありません。友達付き合いの楽しみ方など人それぞれですし、細かい計画を立てることが大好きという人もいるでしょう。しかし、一方で、「ちょっと肩の力が入り過ぎているのではないか?」という気もします。

 先ほども書いた通り、加藤自身はあくまで、「自分が楽しむよりも、人を楽しませることを第一に考える」ということを語っていました。しかし、それが100%の本心ではなく、どこかに「自己欺瞞」があったのだとしたら・・・・。

 本人にしかわからないことではありますが、もしかしたら、加藤にとって「友人づきあい」とは、伝わっている印象ほどには楽しいものではなかった可能性もあります。

 ところで、加藤の高校時代の友人や、兄貴分的存在「藤川」とは、この時期どうなっていたのでしょうか?

 実は、加藤は地元で消費者金融からの借金を踏み倒し、帰ることができなくなっていました。メールすらしていなかったようで、地元の友人とは音信不通になっていました。正確にいえば、友人たちからは何度も連絡が来ていたのですが、加藤本人は、「借金があることで、友人たちに迷惑をかけたくなかった」と、メールの返信をすべて無視していたのです。

 自業自得というところでしょうが、では、加藤は地元の友人と会えないのが寂しくて、孤独を感じていたのかといえば、私はそれも違うのではないか、と思っています。

 わかっている限りにおいて、加藤の借金の原因で一番大きいのは、おそらく、あの無謀な「日本縦断旅行」だったと思われます。そして、旅の目的は、私は「下半身を繋ぎ合わせること」であったと思っています。

 すなわち、旅に出かけた時点で、こういう事態になることはわかっていた。加藤は女を得るために、友人を自ら捨ててしまった、ということです。

 この時期の加藤の脳内は、女9:男1、いや、

「♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀♀


 という状態にあったのではないでしょうか。

 以前、読者さんから、普段、周りと社交的に付き合っているせいで、自分は人と遊ぶのが好きという風に思われていたようだが、本当は自分は一人でいる方が好きなのであって、周囲の認識とのギャップを感じた、というコメントを頂いたことがありました。

 加藤も同じことで、彼は友人に恵まれているように見えても、加藤的には「友人付き合い」という、社会生活を営む上で必要不可欠な行為の中で、彼なりのベストを尽くしていただけであって、けして「友人付き合い」がチョー楽しい、絶対に失いたくない、というわけではなかったのではないか。

 加藤は沢山の友人と会話を繋ぐより、一人の女と股間を繋ぎ合わせたかったのであり、それができないのなら、「生きてるのも死んでるのも同じ」だったのではないか。

 手記を読むと、加藤は色々なことをゴチャゴチャと述べているのですが、客観的に彼の行動を見てみると、結論は意外とシンプルなのではないかと思われます。



きのこぐも


 何かが壊れた

 

 女の柔肌に触れる夢は一向に叶わず、毎日相手にするのは、硬く冷たい工具と鉄板ばかり。満たされない毎日の中で、加藤はますます、掲示板への依存度を高めていきました。

 加藤は会社や学校など、リアルの世界でのやり取りを「タテマエ社会」、掲示板などバーチャルな世界でのやり取りを、「ホンネ社会」と表現しています。氏名や勤務先などを一々名乗る必要のないネットの空間では、だからこそ人間の本音が飛び交います。時にはモラルを逸脱したような言葉が見られることもありますが、それだけ人間が普段押さえこんでいるホンネが見れるところが、ネットの魅力であり、中毒性のあるところです。

 加藤は事件直前のこの時期、「身の回りで起きた不幸な出来事を全部不細工にこじつける不細工キャラ」という設定を自分で作って、掲示板に書き込んでいました。加藤のキャラはウケて、一時期、掲示板内ではかなりの人気者だったようです。

 加藤は自分の作りあげた「不細工キャラ」に、ネタをネタと分かって面白い切り返しをしてくれる人と当意即妙の会話をしたり、「逃げるな、自分と向き合え」「努力は人を成長させてくれるよ」などと「マジレス」してくる人を、「報われない努力は人を蝕むだけです」などと返して否定し、からかうなどして楽しんでいたといいます。

 第一回でも説明しましたが、加藤自身は、自分の顔について、「良いか悪いかでいったら悪い方だが、掲示板に書いているような絶望的な不細工だとは思っていない」と語っており、掲示板の不細工キャラはあくまで「ネタだった」と主張していますが、加藤の生涯を追ったジャーナリストは、果たしてすべてがネタだったのか?と、疑問の声をあげています。

 特に加藤の「ホンネ」が垣間見えたのは、事件から10日ほど前に行われた、若い女性と思われる人物とのやり取りでした。


 女:ぶっちゃけアタシ前は主嫌いだったんだ。主は何に対しても否定的な感じで。アタシもそんな主を否定してたんだけど、でも毎日このスレを見るようになったら主みたいな人もありだなと思うようになった。冗談抜きで友達になりたいと思うようになったよ。 


 加藤の建てたスレッドに、若い女性と思われる人物の書き込みがされた。まだ顔写真を交換したわけでもありませんが、加藤にとって、自分に好意的に接してくれる女性と掲示板上でやり取りするのは久々のことでした。

 加:それは嬉しいですけど、私と友達になってもあなたにとっては何のメリットもないですよ。

 加藤はしばらく、「不細工キャラ」のまま、会話を進めました。こんな卑屈な返しに対しても、女性は加藤を見捨てず、翌日もレスを返してくれました。

 女:そーいえば主は今日の仕事終わったの?


 加:はい、終わりました。

 女:お疲れさーん☆アタシチューハイはピーチが好きだな。主ピーチは飲まない?


 実は、事件前月の五月半ばごろ、加藤がかつて想いを寄せていた、19歳の「兵庫の女性」に、彼氏ができたことが判明していました。加藤は兵庫の女性に「おめでとう、彼氏とちゃんとメールするようにね」などとメールを送っていました。加藤にしてみれば精一杯の虚勢だったでしょうが、加藤のカッコつけを真に受けた兵庫の女性は掲示板上で、彼氏との「ラブラブぶり」をアピールするようになってしまいました。

 「俺へのあてつけか」

 加藤の苛立ちは募り、ちょうどこの時期から、掲示板上には卑屈な書き込みが増え、勤務先の工場でもトラブルが目立つようになったといいます。こうした状況もあってか、加藤は新しい女性?とのやり取りに、夜遅くまで夢中になっていました。

 やがて、女性?が寝落ちしてからのこと。加藤は掲示板に、彼の「ホンネ」と思われる、一つの書き込みをしていました。


 私は愛が欲しいわけでも、愛してほしいわけでもないのです。精一杯、誰かを愛したい・・・・愛している証がほしいのです。


 誰が何を言っても卑屈なレスしか返さなかった当時の加藤の書き込みの中で、異様に浮いた、前向きな言葉。状況から考えて、新しい女性とのやり取りによって、加藤の中に希望が芽生えた証と取って、まず間違いないと思います。しかし・・・。


 女:主こんばんわ。アタシ中卒で、元カレもヤンか職人だった。でも今は大卒の超真面目なリーマンと付き合ってる。人生どう転ぶかわからないね。良い意味で。主にもきっと良い相手ができると思うよ。


 天国から地獄。女性?には、彼氏がいた。淡い希望を打ち砕かれた加藤は、結局また、投げやりで卑屈な態度になってしまいました。


 加藤:こんばんわ。やっぱり女性は学歴を気にするのですね。三流の短大卒の私にはチャンスはなさそうです。

 女:今の彼氏は学歴で選んだわけじゃないよ。たまたま大卒だっただけ。学歴で選んでるなら職人とかヤンと付き合ってないからね。大卒は今の彼氏が初めてだし。


 なんだかなぁ・・と思ってしまいます。女に悪気があったわけでもないし、善意から加藤に接してくれてるんだと思いますが、その善意は、加藤が求めている善意と決定的に食い違っているのです。例えるなら、盲腸で腹が痛くてどうしようもないときに、クリームたっぷりのケーキを差し出されるようなものでしょうか。
 
 一応、ツッコミどころとしては、さりげない自慢が入っていることです。「彼氏が大卒」を自慢と感じるかどうかは人それぞれでしょうが、この場合、低学歴の自分が「玉の輿に乗った」「彼氏を乗り換えてステップアップした」というニュアンスに取れますから、やっぱり加藤は「自慢」と受け取ってしまったのではないかなと思います。

 自分が本当につらいとき、「君もいつか幸せになれるよ」と言われるのはいいとしても、その根拠が、「私が今幸せだから・・・?」どう考えても、根拠として成立していないのがわかるでしょう。オメー自慢したいだけかよ、と、加藤がキレたとしても、まったく不思議ではないと思います。

 おそらく相手の女は、善意は善意でも、加藤のことを真剣に思っているのではなく、自分が気持ちよくなりたい方が強かったのでしょう。私が散々叩いてきた「説教厨」もそうですが、ネット上には、善意を装って、弱者をオカズにオナニーをしようとするこの手の輩がたまにいます。悪い人間ではないのかもしれませんが、本当に悩み苦しんでいる人にとっては、神経を逆なでされるだけで、どちらかといえば害悪に近いタイプの人間といっていいでしょう。

女:「異性にモテたいと思ったらファッションに興味を持てるんじゃないかな。ん~着たい服を着たらいいと思うけどな。自分が着たい服が自分に似合う服とは限らないけど、そんな気にするのはもっと後でもいいし」

加:「つまり、私の彼女が欲しいという思いそのものを否定するのですね。服や靴に興味がない人は恋愛する資格がないのですね。服なんて着れればなんでもいいですもの。服服服服、みんな服です。どうして服にこだわるのでしょう。彼女が欲しいのに服に興味を持てない私だけが異常なのでしょうね。イライラします。なぜでしょう、イライラします」

 いつもの加藤には、「不細工キャラ」として振る舞う余裕がありましたが、この日の加藤の書き込みは異様にささくれ立ち、女に対して攻撃的になっていました。

女:「でもさ、主にも、異性からよく見られたいって気持ち少しはあるんでしょ?皆はそこから服に気を遣うようになるんだよ」


加:「不細工な私でもいい服を着ればたちまち彼女ができるのですか。意味がわかりません。イライラします、みんな殺してしまいたいです」


女:「服に気を使っただけで彼女ができるわけないじゃん。服に気を使うことは彼女を作るための準備。なんで異性からよく見られたいって気持ちがあるのに主は実行しないの?」

加:「中身、中身とキレイごとを言っているくせに、結局見た目で判断してるじゃないですか」


女:「変わる気がないなら無理して変わる必要ないよ。そのままの主が良いって言う人がいるかもしれないし」


 この辺まで来ると、さすがに加藤に同情します。

 わかると思いますが、結局、女は「上から目線」で加藤に物を言っているわけです。これが男ならまだしも、相手が女というのが厄介なところです。

「そんなに偉そうに言うなら、一回お前がヤラせてやれよ」

 周りからこんな意見が出てきてもおかしくないところですが、彼氏がいると言っている以上、そういうわけにもいかない。

 つまり、女は、「絶対安全圏」から、好き放題、加藤に「無責任」なアドバイスを送り続けているということになります。女も売り言葉に買い言葉で言ってるんでしょうが、これでは加藤が怒るのも無理はありません。

 しかし、掲示板で二人のやり取りを横から見ていた人間にとっては、彼らのやり取りは他人事です。加藤の立場に立ってみれば、女の方にかなり大きな問題があったことはすぐわかることですが、このとき、加藤の仲間でもなんでもない第三者からは、「人の善意にひねくれた解答しかできないヤツ」と、加藤の方が悪者に見えてしまったようです。

 もう女がとっくに落ちた、朝6時ごろのこと。加藤の、

 寝なくてはいけないのにイライラして眠れそうもありません。

 という書き込みに対し、

 不細工でもイライラするんだな。


 と、「名無し」から、無神経な書き込みがされました。

 加藤はすぐにレスを返しました。


 何かが壊れました。私を殺したのはあなたです。


 

犯罪者名鑑 加藤智大 7



かとーもともだい



 女


 コメント欄の方には何度も書いてきましたが、この犯罪者名鑑では、加藤が法廷で語った、真実と報道のギャップについて、「格差社会への復讐」「派遣の反乱」「学歴コンプレックス」などについては、加藤の「ネタ」あるいは、マスコミが面白おかしく仕立て上げていただけだったと認めてもいいものの、「女」については真実であった、という前提のもとで分析をしていくというスタンスを、ここで明確にしたいと思います。

 ただ、犯人である加藤が若くして社会からドロップアウトしたため、読者さんからのコメントにもあったように、本人の「自覚」が今後変わってくる可能性もあります。あのときは自己責任だと思っていたものが、本当は社会からそう思わされていただけであって、やっぱり構造の問題だったんだ、と、考えが変わるかもしれないということです。

 「格差への復讐」などについても、本人が気づいていないだけで、本当はそれも大きな原因の一つであった可能性もありますが、ひとまずそれは置いておき、本人が明確に自覚しており、かつ、世間にウソをついているのは「女」だけであるという前提で、事実関係を列挙していきます。


あわび



 女、女、女



 地元の運送会社に就職して間もないころ、加藤は出会い系サイトを通じて、一歳年下の女性と知り合いました。加藤は彼女と、カラオケやゲーセン、花火大会などに遊びに行くなどデートを重ね、先輩の藤川の飲み屋に連れていったこともありました。藤川は、「若くてかわいい子」という印象を抱いたといいます。

 さらに、加藤は女性を家まで上げることにも成功(複数回)したそうですが、なんと、結局、最後まで行くことはなかったそうです。加藤はある日突然、合鍵を渡し、「一緒になろう」と言ったそうですが、女性は「いや。それはないから」とツレナイ返事をし、それきり二人が会うことはなかったそうです。

 家の中でどんなやり取りがあったのか、詳しくはわかりませんが、なんで家にまで上げてヤレなかったのかな、と、疑問というか、なんとも切ない気持ちにはなります。加藤が言うには、「おなかに顔を押し付けて甘える」くらいはできたそうですが、そこでもうちょっと強引に迫ってみたら良かったんじゃない?とか、女の方も、家まで上がったんだったらヤらせてやれよ、とか、どっちも別に、悪いとまでは言いませんが、このときもうちょっとうまいこと行っていたら、何かが違ったかもしれないのにと思うと、非常に残念ではあります。

 加藤が掲示板で出会った、「群馬の女性」、「兵庫の女性」とのその後を紹介します。

 まず、加藤に「20歳になったら会いに行くよ」と言ってくれた「兵庫の女性」ですが、彼女は実は、19歳ではなく、18歳だったことが、後から明らかになりました。19歳だったならば、あと半年ほどすれば会うことができますが、18歳では、あと1年半も待たなくてはならない。そんな先のことなんかわからないし、人生の希望にもならない。自分は適当にあしらわれただけではないか。絶望した加藤は、再び自殺を考えるようになってしまいました。

 一方、「群馬の女性」とは、その後も掲示板やメールでやり取りを続けており、「近所に開店するラーメン屋に食べに行きたい」を口実に、また会いに行くことになりました。

 約束を取り付けたのは、退職後も交流の続いていた藤川の居酒屋で飲み会をしていたときのことでしたが、加藤は飲み会に最後まで参加することもなく、突然席を立って、「これから、群馬に行ってくる」と、車で出て行ってしまったそうです。

 藤川が加藤をシャバで見たのは、これが最後になりました。

 3度目となった群馬の女性宅の訪問では、もう一人、掲示板で知り合った男性も参加していました。この日も「自虐ネタ」を繰り返す加藤を中心に、とりとめもない話をして、日中はそこそこ盛り上がったのですが、夜になって、「事件」が起こりました。

 加藤が眠っている女性の腹部にまたがり、腰を振り始めたというのです。

「のいてくれる?」

 女性はそう頼みましたが、眼鏡の奥の加藤の目は血走り、

「嫌だ」

 と聞く耳を持ちません。

「重いから、とりあえずのいてから話そう」

「こういうことはよくないから」


 女性が恐怖を押し殺しながら、加藤に冷静に語りかけると、加藤はハッと我に返り、女性に謝罪を繰り返して、家を飛び出していってしまいました。

 翌日、女性が加藤に連絡をし、荷物を取りに戻ってくるように言うと、まだ近くにいた加藤は、すぐに女性の家に帰ってきました。女性は加藤に、シャワーを使うように勧めました。加藤が着替えを取り出しに開いたバッグからは、コンドームの袋が見えていたそうです。

 加藤が風呂から上がると、女性は、加藤と「そういうこと」をする意志はないことをハッキリと伝えました。加藤はひたすら、すみません、すみません、と、頭を下げ続けていたといいます。

 子供もいるのに、男を簡単に家に泊めた女性の方にも責任はあるのだし、そんなに恐縮することねーって気もしますが、申し訳なさそうに謝る加藤を不憫に思ったのか、女性は加藤に対し、「もし本当に悪いと思ってるなら、頑張って仕事して、ワンピースでも買って。そしたらまた会おう」と、人生の目標を与えて、その場は円満な雰囲気で別れたといいます。

 しかし、加藤の方には、胸につっかえたものがあったようで、この一件の後、女性に彼氏ができたことを知ると、掲示板に「主人が蒸発して、精神的に不安定でも、彼氏がいるんだったら、俺より幸せ」と、女性を皮肉るような書き込みをしてしまいました。女性がそれを見つけて非難すると、加藤はスレッドを削除し、メールもすべて無視して、完全に音信不通になってしまったといいます。

 わかっている限りで、加藤の「生殖活動」は、ことごとく不首尾に終わっていたようです。


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 女女女女女女女女女女・・・・・。



 前回まで、「タメ」の話をしてきましたが、タメの中にも当然、優先順位というものがあります。順位は人によって様々ですが、私はこの時期の加藤にとって、何より大事なものは「女」だったのではないか、と思っています。加藤がどれだけ言い訳しても、藤川のような信頼できる「友人」がいた「仕事」を突然やめて、大金を叩いて、二人の女に会いに行く旅に出発したという行動が、それを証明しているといえると思います。

 前回、読者さんから頂いたコメントにもありましたが、ちょっとイタイ性格が原因で恋人ができない、モテない人に、「そんなんだからダメなんだ」という、辛辣な意見を浴びせかける世論もあります。「モテないのも自己責任」ということですが、私はこれはちょっと、世の中、恋愛弱者に厳し過ぎるのではないかと思っています。

 確かに加藤の手記を読む限り、加藤というのは非常に面倒くさい野郎であり、ひねくれた男であるようにも思います。こんな男がモテないのは当然と言いたくなる気持ちもわかります。

 しかし、「そんなんだからダメだ」と言われても、そもそも経験を積む場がなくては、スキルを磨くこともできません。
  
 世の中には「恋愛マニュアル」といった類の本も多く出回っていますが、ああいうのは所詮、「机上論」にしか過ぎません。机上論がまったく重要ではないとはいいませんが、実際のデートや口説きの際には、現場にいなければわからない間合いや呼吸というものがあり、また、女にも個性があって、マニュアルが必ずしも通用するわけではありません。戦場では戦争オタクなんかよりも、百戦錬磨の古参兵が強いように、机上論ばかりいくら学んだところで、実戦では何の役にも立たないものです。

 恋愛は相手あってのものです。自分でいくら経験が積みたいと思っていても、相手がチャンスを与えてくれないのでは、どうしようもありません。童貞はイタイと思うかもしれませんが、最初は誰だって、イタイ童貞です。女と長く付き合い、女の心と身体を知って、男としての自信をつけていく中で、だんだん角が取れて、女性に好感を持たれる振る舞いができるようになっていくものです。

 男の立場として、私は世の中の女性に、「そんなんだからダメなんだ」と切り捨てるのではなく、「最初はダメで当たり前」と見方を変えて、もっと門戸を広く開けてほしいな、と思います。

 最初から完成された男と付き合っても、どんどんアラが見えて嫌になるだけ。逆に最初ダメだった男の方が、成長していく過程が見えて、どんどん楽しくなっていく・・という面もあると思うのですが、そういうふうには考えてもらえないものでしょうか。どこかの誰かさんのように、中身をまったく見ず、ただ「顔面」「収入」だけで足切りされるというのなら、もうどうしようもないですが。

 彼女ができない、モテないと嘆く男の子でも、本人がまったく動いていないなら、あまり同情はできませんが、加藤はわかっているだけでも、かなり積極的に動いていたように思います。このくらい頑張って、全然女と「いいこと」ができなかったのなら、確かに可愛そうかなという気はします。
 
 加藤の人生を客観的に眺める我々は「まだ25歳、生きてりゃいいことある」といえますが、本人は「もう25歳」と思っている場合もあります。20代前半なら童貞でも許されるかもしれないが、20代後半で童貞なんて、誰も相手にする女はいない。どうせ一生女もできない人生なら、なくなったって構いはしない。思い詰めて、自棄になってしまう加藤の気持ちを、私はことさらに非難することはできません。

 加藤が女ができなことで悩んでいたのは、状況からして明らかだと思うのですが、これほど思い詰めた「女」に対する執着、思いを、加藤はなぜ「欺瞞」で覆い隠したのでしょうか?

 それこそ、「男らしさの病」と言われるものです。

 男なら皆、多かれ少なかれ、「女のことでクヨクヨ悩んでいるなんてみっともない」という感覚を持っていると思います。少なくとも、「女とヤレナイ、女に愛されない」ことが、世紀の大事件を起こした動機の一つだったと思われて、まったく恥ずかしい思いをしない人はいないのではないでしょうか。「犯罪の影に女あり」とよく言われますが、まさに、女のことは男にとって、「陰に追いやりたい」ものです。

 恥ずかしいと思うから、男は色々な、「もっと壮大に見える」「もっともらしい」理由を言って、女のことを覆い隠そうとします。社会への復讐・・・・・異常快楽殺人者・・・・。

 加藤の場合は、「掲示板のトラブル」に、すべてを押し込めようとした。

 自分の経験を重ね合わせている部分もあるかもしれませんが、私はこのように考えています。

犯罪者名鑑 加藤智大 6


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 「タメ」

 2007年1月、加藤は地元の運送会社に就職しました。毎朝3時に出勤し、市内の学校に牛乳の配達を行う仕事です。ハードでしたが、やはり加藤はどこまでも車が好きで、仕事は彼にとって、大変やりがいがあったそうです。運転の技術も確かで、贈り物のお返しはキッチリとし、花見では場所取りをするなど如才なく、同僚からの評判は上々だったそうです。

 貧困問題の第一人者である湯浅誠氏は、人間が社会生活を営む上で大切なものを「タメ」と表現しています。「タメ」の定義も人それぞれで、タメの中でも優先順位は人それぞれ違ってくるでしょうが、25歳で独身の男ということであれば、「家族」「仕事」「友人」「恋人」「趣味」の五本線が基本になると思います。

 当時の加藤は、「タメ」のうち、「家族」「仕事」「友人」関係が充実していました。「趣味はゲームがありますが、これについては微妙なところで、ゲームでも一本のソフトを何年も遊んでいるというのなら立派な趣味になると思いますが、数か月遊んで飽きたら次のゲーム、というのでは、「オンリーワン」の趣味とはいえず、自分の中の軸といえるかどうかは怪しいところです。まあ、「○」「△」かでいったら、「△」だったでしょう。

 とはいえ、三本の柱はしっかりとしており、25歳の男にこれだけ揃っていれば、安定した生活は十分送れるという状態だったのですが、間もなく柱の一角が崩壊してしまいます。もともと別居中だった両親が、突然離婚することになったのです。家族のやり直しを真剣に考えていた加藤にとって、両親の決断は大変ショックなものでした。

 このとき、どういうやり取りがあったのかわからないのですが、加藤はまた実家を出て、一人暮らしをすることになってしまいました。ご両親のうち、どちらか一人とでもいいから一緒に生活すればよかっただけの話だと思いますが、「みんな一緒じゃなきゃ意味ない」と思ってしまったのでしょうか。

 こうして、「タメ」の一角は、あっという間に崩壊してしまったのです。

かととおおお


 
 失踪

   
 家庭の方が崩壊してしまってからも、仕事の方では、まだ充実した日々が続いていました。

 加藤にとって良い出会いもありました。加藤の先輩に、居酒屋の経営と運転手を掛け持ちしている「藤川(仮)」という、30代の男性がいたのですが、加藤は普段からこの人を慕っており、飲み会の席などでも、積極的に話しかけていたそうです。

 ある日のこと、加藤は藤川に、「藤川さんは経営者じゃないっすか。勝ち組っすよ。羨ましいっすよ」と、軽口を叩きました。藤川が本当に勝ち組なら、トラック運転手との兼業などしているはずもありません。藤川は怒りをこらえて、加藤に「お前は、将来なにがやりたいの?」と返しました。加藤はそれに対し、「ゲームセンターをやりたいっす」などと、適当に思いついたようなことを答えます。

 藤川は、加藤がゲームで、月に五、六万円ものお金を使っていることを知っています。本当に夢があるなら、そんな無駄遣いはしないはず。連日の激務の疲労もあり、藤川はここで切れてしまいました。

「お前は経営者をなめてんのか!本当に勝ち組なら、俺はお前なんかと出会ってねえから!」


 藤川の怒りはもっともですが、加藤の発言は若さ特有の「軽さ」であって、悪気があって言ったわけではありません。藤川もちょっと大人げなかったと思ったのか、自分の店の経営が苦しいこと、家族を養っていかねばならないこと、会社には自分と同じように、生活に苦労している仲間が大勢いることを、加藤に滔々と説明してやりました。

 藤川の怒りの意味が理解できた加藤は、自分を恥じて号泣したといいます。

 加藤はどうも、自分に対して本気でぶつかってきてくれた人に懐くタイプのようで、この一件から、加藤は藤川をますます慕うようになりました。藤川もそんな加藤を弟のように思うようになって、家に招いて、一緒に食事をとったこともあったそうです。

 他の同僚とはトラブルもあったようですが、やりがいのある仕事、尊敬できる先輩がいる職場で、加藤にとってはそこそこ充実していたはずです。ところが、加藤はこの職場を、いきなり飛び出してしまったのです。

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 旅


 
 加藤は当時、一時辞めていた掲示板を再開していました。加藤が利用していた掲示板は、2ちゃんねるのような大人数が集まるところではなく、少人数ですが、その分深い会話ができる、個人が運営する小さな掲示板でした。
 
 加藤は掲示板で、自分がスレッドを建てたり、他の人が建てたスレッドに書き込んだりしているうち、管理人を含む、三人の利用者と特に親しくなりました。そしてあるとき、加藤は北九州に住む管理人の家をゴールとして、加藤が三人の利用者の家を訪問する旅を行う、という企画を立てました。三人は快く同意してくれ、加藤は彼らに会うため、二週間の「旅」に出ようとし、会社に休暇を申し出たのです。

 まずかったのは、休暇の理由を、馬鹿正直に「遊びに行くから」などと言ってしまったことでした。会社としても、入社してから一年も経っていない新人が、遊び目的で二週間もの休暇を突然取るということには、簡単には頷けません。結局、加藤の申し出は会社から却下され、加藤はその不満を藤川に伝えましたが、藤川には逆に呆れられてしまいました。

「長期休暇を取るのはいいが、遊びたいから、などと馬鹿正直に言うヤツがあるか。そこは親戚の結婚式に出たいからとか言っておけよ」

 藤川の言うことはもっともです。派遣社員時代、上司の正社員にいちいち余計な提案などをして煙たがられていたエピソードもそうですが、どうも加藤は、そこそこ能力はあるものの、自分の置かれた立場を理解する感覚や、人情の機微を読む力が欠けていたようです。アスペルガーなども疑えば疑えますが、若さゆえに融通が利かなかっただけという可能性もあり、断言はできません。

 休暇については、普通ならここで断念するところですが、なんと、加藤は会社を突然やめて、「旅」を強行してしまったのです。

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 漂流



 加藤が最初に向かったのは、群馬県に住む、二歳年上の女性の家でした。女性はシングルマザーで、睡眠障害を患って療養中でした。加藤は沢山の土産を持ってきたといいます。

 その晩は女性の部屋で一泊し、翌日、加藤は女性と子供の三人で、町にデートに出かけました。加藤は買い物中、女性が「これ、可愛い」などというと、すぐに買ってあげようとするなど、異常ともいえるほど、女性に気を遣う様子を見せていました。加藤は手記の中で、自分は人を喜ばせることに快楽を覚える性格であると語っていますが、女性は加藤が悪い人に騙されないか、気になったようです。

 その日のうちに、加藤は今度は、兵庫の女性の家に向かいました。この女性は19歳で、顔写真を交換していたのか、加藤が前から想いを寄せていた女性でした。加藤は女性に告白したようですが、無残にも振られてしまったそうです。その晩は車内に宿泊し、翌日、最終目的地である、北九州に到着しました。

 北九州では、掲示板の管理人の男性と名物のラーメンを食べるなどしながら、加藤は自分の生い立ちを語り、「居場所がない」と嘆いていたそうです。管理人の男性は「俺たち友達だろ」と励まし、青森に帰っていく加藤を見送りました。

 加藤が向かったのは、最初に会った、群馬の女性の家でした。ここで加藤は、兵庫の女性に振られたことを泣きながら報告し、群馬の女性の前で、

「寂しい」
「一人は嫌」
「彼女がいれば」
「不細工だから彼女ができない」


 などと叫んだといいます。

 終始、他人事のような語り口で、淡々と自己分析をする加藤の手記からは伺えない、激しい感情の爆発が見て取れます。一体、どちらが加藤の本当の顔なのでしょうか。結論は最後に出すとして、一つ言えるのは、加藤はこの旅において、ほぼ間違いなく「いいこと」を期待していたであろう、ということです。本命は兵庫の女性だったかもしれませんが、群馬の女性でもいいと思っていたでしょう。加藤はこの夜、「部屋に泊まっていけば」という女性に対し、「一緒に寝たら、手を出してしまいそうだから」と、自分の車の中で寝たそうですが、本当は、女性が子供を置いて、車の中に来てくれるのを待っていたのではないでしょうか。

 しかし、二人はせっかく遠路はるばる足を運んだ加藤に、指一本触れさせてくれませんでした。

 一人は子持ち、もう一人はまだ若かったということもあり、仕方ない面もあるかもしれませんが、青森から北九州まで、総額15万円にはなったであろう旅費をつぎ込んで、名刀を鞘から抜くこともできなかった加藤には、男として同情します。こうなるのだったら、ソープで全部使い果たしたほうがマシだったと、加藤は嘆いたはずです。

 仕事を失い、金を失ってまで出かけた旅で得たものは、愚にもつかない励ましの言葉と、たまりにたまったザーメンだけ。旅から帰ってきた加藤は、徒労感からか、今度こそ自殺しようと思ったようですが、直後に兵庫の女性から届いたメールを見て、元気を取り戻しました。

――20歳になったら、会いに行くよ。

 兵庫の女性が19歳になるのは、あと半年後のこと。少し希望が見えた加藤は、新しい仕事を探し始めました。

犯罪者名鑑 加藤智大 5


~後編~消滅の園へ――加藤智大、秋葉原までの「漂流」


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 派遣のくせに


 加藤は警備の仕事を辞めた後、新しい派遣会社に登録し、埼玉県の工場に派遣されました。この頃加藤は、燃費の悪かったスバル・インプレッサーを手放し、新しいマツダ・RXを購入していましたが、もともと借金があったにもかかわらず、新しいローンを組んでしまったことで、加藤は土日も単発のアルバイトに精を出さなくてはならなくなってしまいました。当然、車に乗る機会は少なくなります。本末転倒な話ですが、加藤は真面目そうな風貌に見えて、かなり金銭にルーズで、計画性のないところがあったようです。

 休みもない生活で余裕が失われたせいもあり、新しい工場では、親しく話せる友達の一人もできませんでした。この時期から加藤は、「掲示板」に居場所を求めるようになっていったようです。

 もともと加藤が掲示板を利用していたのは、好きなゲームの攻略法を教え合う目的だけでしたが、この頃からは、自分の悩みや雑談など、さまざまなカテゴリの掲示板に手を出すようになっていきました。加藤は掲示板を「帰る場所」と表現し、休みの日には一日中掲示板に入り浸るなど、居心地の良さを感じていたようです。完全に中毒の状態といっていいでしょう。

 職場では真面目に働いていたようでしたが、あるとき、ちょっとしたトラブルを起こしてしまいました。加藤が、自分の担当する部品の置き方を変えるように提案したところ、正社員から「派遣のくせに、黙ってろ」と言われてしまったのです。

 酷い話であり、正社員の言い方には明らかに問題がありますが、言っていることそのものは、間違いともいえません。

 派遣労働者は、技術の蓄積をまったく考慮されない、使い捨ての存在です。こういう立場の人に期待される性質は、いわゆる「無能な怠け者」でしょう。

 言われたことだけやって、余計なことはやらない。やる気なんかいらない。ただロボットのように、命令されたことだけを忠実に守っていればいい。人を物扱いする酷い働かせ方だといえばその通りですが、まったく逆の見方をすれば、「何の責任もない、期待もされない。適当に手を抜きながら、言われたことだけやればいい」という、仕事で自己実現を目指さない人にとっては、非常に気楽な面もあるといえます。

 条件が悪すぎるのが問題なのであって、労働の性質そのものが大きな問題というわけではない。私の経験からいえば、派遣という労働の性質を無視して、変に「積極性」を求めてくる会社はむしろブラック率が高く、派遣を「心のあるロボット」程度に見ている会社の方が、まともな会社です。

 正社員にも自分のリズムというものがあり、頭の中で考えた計算があります。よほどいいと思える改善案ならともかく、どうでもいいようなことを言われたのでは、逆にリズムを崩されるだけで不快に思ってしまう気持ちもわからないではありません。おそらくはこの一件だけで「派遣のくせに」が出てきたわけではなく、この正社員は、前々から加藤が見せる変なやる気にイライラしていたものと思われます。ただ、やはり言い方は良くなかったと思います。

 このトラブルに対する加藤の対応は、派遣先企業ではなく、派遣会社に報告をし、派遣会社を通じて、派遣先に抗議をするというものでした。加藤のとった対応は適切だと思いますし、派遣会社の対応も適切だったと思います。加藤もこのときは「もうちょっと頑張ろう」と思えたようでしたが、いつまでも当の正社員から謝罪がなかったことを理由に、結局は数か月後、会社に相談もしないまま、突然バックレてしまいました。

 2006年、4月。加藤23歳。派遣会社での労働期間は一年に及んでおり、ちゃんと契約を全うしてやめていれば失業保険ももらえたはずなのに、こういう短絡的な行動をとってしまう。今度はまず派遣会社に相談するなど、少しは学んでいるようでしたが、悪い癖は完全に治っていたわけではなかったのです。


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 自殺未遂

 埼玉での仕事をやめた加藤は、しばらく仙台の友人の厄介になった後、茨城の工場に派遣されて働き始めました。

 茨城の工場では目立ったトラブルを起こすことはありませんでしたが、職場の仲間とは、まさに職場だけの関係で、プライベートで会うような友人は一人もできませんでした。地元の友人とも次第に疎遠になり始め、毎日メールをするようなことはなくなっています。次第に孤独感を募らせていく中で、掲示板でのトラブルが起こりました。

 内容は、加藤が掲示板で愚痴や弱音を吐く人に、「本音で厳しいことを書いた」というものでした。その一件以来、掲示板の雰囲気が悪くなり、掲示板に書き込む人がいなくなってしまったということです。加藤はその一件で酷く落ち込み、また掲示板の主にも悪いことをしてしまったと思い込み、掲示板の利用をやめてしまいました。「居場所」を失ってしまったのです。

 自分は誰からも必要とされていない、と感じるようになった加藤は、「自殺」を思い描くようになりました。想像し出してから実行に移すまではあっという間で、加藤は2006年の8月31日には、青森で自殺未遂騒ぎを起こしていました。現場に青森を選んだのは、「地元の友人に自分が死んだことを知ってほしかったから」だそうです。

 加藤の気持ちは何となくわかります。このまま延々と、自分が誰にも必要とされていない孤独の寂しさを味わい続けるよりは、自分が死んでみんなが悲しむ光景を想像できた方がいい。もちろん、本当に死んでしまっては、自分の葬式の光景もみることはできないわけですが、それを想像できるだけでも幸せである、ということです。

 私は、加藤の手記に「寂しい」という表現が見られないことが気になって仕方ありません。加藤が自殺の場面で述べているのは、「孤立は恐怖であった」という表現です。まったく同じ感情を表しているのだと思うのですが、加藤の表現だと「寂しい」に比べて、胸に突き刺さってくるような感覚からは遠のきます。加藤の手記は全般的に、そのような、胸に響く、自分の弱さが伝わる表現を避けているように思えるのが特徴です。

 加藤は消費者金融のカードを限度額いっぱいまで使ってから、酒を煽って、愛車で夜中の国道を走り始めました。ハンドルを握る直前、加藤は母親や友人にメールや電話をして、自分がこれから死ぬことを告げたそうです。

 そこで母親や友人から、加藤を心配するメールが帰ってくる。みんなが葬式のとき、涙を流してくれるだろうことがわかった。満足感を抱えたまま、対向車に正面衝突して、逝く――。それが加藤の計画であったようです。

 しかし、幸か不幸か、車は対向車にぶつかる前に、縁石に乗り上げ、動けなくなってしまいました。仕方なしにレッカーを呼びましたが、すぐの修理は断られてしまいました。

 強固だった加藤の決意が挫けていきました。加藤は自殺を思い留まり、そのまま実家に帰ることにしました。友人たちからは、加藤が自殺を思いとどまったことに対する、安堵のメールが送られてきました。

かと0ともだい


 
 再生

 母は、およそ3年ぶりに実家に帰った加藤を抱きしめました。そして、「ごめんね」「よく帰ってきたね」と謝り、幼いころからの、行き過ぎた「教育」について謝罪しました。

 この頃は、加藤の弟さんも高校を中退して引きこもり生活を送っており、母はようやく、自分の教育が間違っていたことに気づき始めていました。加藤が実家に帰ってくる一年前、母は弟さんに「お前たちがこんなになってしまったのは私のせいだ」と謝っており、弟さんはこのときはじめて「母と邂逅した」と語っています。

 破損した車を見て、母にも加藤の「本気」が伝わりました。母は車の修理代とレッカー代をすべて肩代わりし、加藤にしばらくゆっくり休むように言いました。しばらくして、別居中だった加藤の父も仙台から帰ってきて、「ずっと家にいればいい」と言ってくれました。

 高校時代の友人たちは、加藤のために、飲み会を開いてくれました。このときは、自殺未遂騒ぎのことには触れず、いつも通りに接する友人と、自殺未遂騒ぎのことにちゃんと触れて、自分たちがどれだけ加藤を心配したかを、多少キツイ口調で伝えた友人と両方がいたようです。

 前者が間違いとはいいませんが、より正解なのは後者でしょう。本質的なところに触れず、なあなあで済ませてしまったら、加藤の悩みはまったく解決せず、加藤はまた同じことを繰り返してしまう可能性があります。実際問題、加藤は自分に厳しい言葉をかけてくれた友人を煙たがるどころか、「ありがたく、申し訳ないと思った」と語っていました。

 加藤の友人を責めるわけではないですが、このときだけではなく何回も、もっと本気で、加藤にぶつかってくれる人がいたら、また違っていたのではないか・・・とも思います。

 家庭再編と、友情再編。青森の地で、加藤という人物を中心として、二つの人間関係が修復されようとしていました。

 24歳。まだ、いくらでもやり直しがきく年齢。雨降って地固まるの例え通り、ギャンブルともいえる自殺未遂を経て、加藤に「再生」のチャンスが巡ってきたのです。
 

 
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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