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凶悪犯罪者バトルロイヤル 第160話


 屋台から立ち上るキムチの香り。そこここの店から流れるコリアンソング。韓国系特有の極度な興奮状態で、それぞれ刃物や鈍器を構えながら追ってくる大久保の住人――。地獄の街で、宅間達の相手は、大会参加者ではなく、一般人であった。

「&%%$’$)’)(’)!」

 住人の投げた包丁が、宅間の左肩を掠める。お気に入りの白いカッターシャツに、赤いシミが出来てしまった。

「くそガキャ・・・」

「宅間さん、抑えてください。アイツらに手を出したら、私たちが委員会に処罰されてしまいます」

 上部の鳥の巣頭が、分かりきったことを抜かしくさる。しかし、その分かりきったことを言われないと爆発してしまうのが、今の宅間の頭の状態であった。

「おい、武器を捨てるで」

 こちらから奴らに手を出せないのならば、武器を持っていても邪魔なだけ。心理的には手放し憎いのだが、合理的に考えるならば、それが正しい判断のはずである。

 身軽になったことでスピードアップした宅間たちは、大久保の住人たちとの距離を広げていったのだが、ここで思わぬ邪魔が入る。

「やっぱり、東方神起は最高よね~」

「私は今でも、ヨン様一筋だわ~」

 常人の二倍は横幅がある婆が二人並んで狭い路地を歩き、道を塞いでいるのである。そしてこういう婆は、歩く速度も、常人の半分程度に遅い。

「どっ・・ババア、どかんかい~!」

「なっ、なんなのよアンタは!アンタが道を変えればいいでしょうが!」

 殴りたい。蹴り飛ばしたい。殺してやりたい。自分でなくとも抱くであろう衝動を、宅間は必死に堪えた。

 しかし、堪えている間に、とうとう路地の向こう側からも住人がやってきて、宅間たちは挟み撃ちにされてしまった。

 包丁、金属バット、ナイフ、鉄パイプ――次々に飛んでくる攻撃を躱す。ひたすらの防戦一方。攻撃は最大の防御というように、こちらから手を出さないのは、むしろ防御力を損なう。何人もの男がかさにかかって攻めてくるのをすべて躱すのは困難で、三人の身体に、無数の生傷が刻まれていった。

「な、なによこれは。私たちは関係ないでしょう」

「な、なによ、なんなの」

 婆たちが大声で騒ぎそうな雰囲気となったので、大久保の住人達が一時攻撃の手を止め、道を空けた。千載一遇のチャンス。婆たちよりも先に、宅間達がその道を通って、包囲から脱出した。

 大久保から百人町に差し掛かり、屋台などは減って道幅が広くなり、身動きは取りやすくなった。街並みからもコリアン色は幾らか薄れたが、まだ危機が去ったわけではない。むしろこの界隈の方が、凶悪なコリアンマフィアの生息数は多いという。けして気は抜けない。
 
「しかし、どこまで追ってくるんや、アイツらは。毎日辛いもんばっか食っとるから、無駄にスタミナだけは持っておる」

 反対に、ヘビースモーカーの宅間は、持久力には不安がある。追手が電話で仲間に呼びかけることによって、無限に湧いてくる住人達を振り切れるだろうか。

「ははは、三人そろってマラソンとは、楽しそうじゃないか」

 声のする方を向くと、コリアントリオの孫斗八が、走行する原付バイクから、宅間たちに向かって、腹の、立つことこの上ない笑みを浮かべていた。

「こんガキャ・・」

「それにしても、ずいぶん人気者じゃないか。二十人近くに追い掛け回されて、韓流スターなみだな」

「クソチョンコロが、なめくさりよってからにっ!」

 怒声によって、貴重なスタミナがまた失われている。しかし、叫ばずにはいられなかった。

「そこから動くな!頭かちわって、薄汚い脳みそを引きずり出しちゃる」

「動くなと言われて、本当に動かんアホがいるか。そういえば、お前の親父さんのインタビュー記事を読んだが、お前の死後、お前の脳みそは本当に大学病院に検体されたのか?お前のようなクズをこの世に生み出さないための研究に、役立つことはできたのかな?」

 宅間を苛立たせる挑発を繰り返す、孫斗八――。宅間も収監された大阪拘置所で、厚さ五センチにもなる大冊の訴状を書き上げた勤勉さを発揮し、宅間のことを調べ上げたのであろう。

 相手にしてはいけない。奴らの狙いは、宅間の自滅である。これ以上、怒りを増幅させてしまえば、自分はあの住人達に手を出してしまう。奴らの狙い通りになってはいけない。

 乏しい忍耐力を振り絞って、孫の挑発を無視しながら走り続け、そろそろ新宿の駅にたどり着こうかというところまで逃げた。大久保の住人も諦めたのか、追手の数は数人にまで減っている。ようやく一安心か――と思った、そのときだった。

「よう、お疲れさん」

 コリアントリオの孫斗八であった。さらに、金嬉老、イチヌの姿も見える。宅間たちをずっと追いかけてきたコリアントリオは、宅間達のスタミナが切れたところを見計らい、襲い掛かってきたのだ。

 三対三。万全の状態なら、まず負けはしない。しかし、宅間軍は三人とも息が上がり、立っているのも辛いほど疲労している。それに加え、今の宅間達は、丸腰である。身を軽くするために武器を捨てたのが、ここで仇になってしまったのだ。

「安心しろ、すぐに楽にしてやる」

 絶対絶命。あのバドラと戦っても生き残った宅間軍が、いよいよ皆殺しにされるそのときがやってきたかと思われた、そのとき――救いの神。空車のタクシーが、運転手がタバコを買うため、近くに路駐したのである。

「宅間さん、乗り込みましょう」

 金川と上部が、我先にと、タクシーの後部座席に乗り込み、驚く運転手に行先の指示をする。だが、宅間は、すぐには乗ろうとはしない。散々にコケにしてくれたコリアントリオを、どうしてもこの場で始末しないと気が済まない。

「逃がすかあっ!」

 武器を構えたコリアントリオが迫ってくる。宅間は決断した。タクシーの助手席へと飛び込んだ。扉がしまると同時に、運転手が思い切りアクセルを踏みこみ、タクシーが急発進した。

 寸前で大魚を逃し、悔しがるコリアントリオの姿が、徐々に小さくなっていく。宅間たちは生き残ったのである。

 しかし、気分が悪い。最高潮に、怒りと不快感がこみ上げている。今までの人生でも味わったことがないくらいである。

「覚えておれ・・絶対に、この落とし前はつけたる」

 今一度言う。何度でも言う。

 負けることが恥なのではない。負けたままでいることが、恥なのや。

 九十九回負けてもいい。百回目で相手の命を取れば、それでワシの勝ちなのや。

 復讐を心に誓い、宅間たちは本拠地の大田区へと帰っていった。
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凶悪犯罪者バトルロイヤル 第158話


 盟友、麻原彰晃から、しばし敵の襲撃を凌ぐよう言われた宅間守は、本拠地、大田区のビジネスホテルに逗留していた。

 毎晩六十分のホテトル嬢とのプレイと、バイキングでの食事の時間以外は、とくにすることもない、退屈な生活。宅間にとっては、飛び降り自殺を図ったあの精神病院での記憶が蘇らされ、甚だ不快な毎日であった。

 地上四階。容易には攻め上ってこれない場所であり、備蓄の食糧も潤沢にある。ここに籠っている限りは、半月以上は持ちこたえられるはずである。それをわかった上でのことであろう。早くもこの場所を突き止めた敵は力攻めを諦め、精神攻撃を選んできた。

 あの池田小学校の制帽。パイロットを目指していたときに憧れてた、飛行機の模型。五十万円をドブに捨てさせられた、司法書士試験の案内。宅間にとって、不快な思い出を呼び起させる物品を、絶え間なく送り付けてきたのである。

「おのれ、なめくさりよって・・・」

 宅間の苛立ちが募っていく。苛立ちが募ると、浪費に走ってしまうのは人の常。二万、五万、十一万・・・ここ数日の、一日の金銭消費の推移であったが、このペースでいくと、半月間持ちこたえる以前に、資金が尽きてしまう恐れがあった。

「限界や。こっちから攻め込むで」

 宅間の決断に、配下の二人が驚いた顔を見せる。

「え?でも、こっちからは、奴らの拠点はわからないんすよ?」

「一つだけ、はっきりしているところがあるやろうが」

 宅間が言わんとしているのは、大久保から百人町の界隈を根城にする、コリアントリオを攻めようという作戦である。

「しかし、ただでさえ反日感情が強く、凶悪なコリアンマフィアを味方につけているコリアントリオの本拠地に攻め込むのは危険であると、宅間さん自身がおっしゃったはずでは・・」

 その通りである。確かに自分は、第一次ゲリラ攻撃の際、コリアントリオの本拠地を攻める危険を、配下の二人に説いた。その考えは、今でも変わっていない。しかし・・。

「だったら他にどうせいっちゅーんや!なんか名案でもあるんか?それしかないんやから、仕方ないやろうが!貴様らは黙って従っとったらええんや!」

 もとより、物事を突き詰めて考えられる方ではない。考えている間に、資金が尽きてしまう。麻原のオッサンに融通してもらう手もあるが、あまりにたかりすぎると、愛想を尽かされてしまう恐れもある。とにもかくにも、麻原のオッサンとの同盟は、我が軍にとっての生命線なのである。

 ホテルをチェックアウトし、タクシーを拾った宅間たちは、コリアンタウンへと走った。思い立ったら即行動。唯一といっていい宅間の取り柄であるが、その大半が単なる無鉄砲、勇み足に終わってしまうのが、玉にキズである。

 しかし、何も物事に手を付けた段階から、失敗を想定する必要もない。新大久保の駅前でタクシーを降りた宅間は、コリアントリオの籠る、四階建ての施設の前まで駆けていった。

 駅前から十分ほどで、その施設は見つかった。スムーズである。いや、スムーズすぎる。予想された、コリアンタウンの住人からの妨害がまったく無い。こんなものなのか?自分は、コリアントリオの住民信服度を過大評価していたのか?何か嫌な予感がしながらも、宅間はコリアントリオが営む焼肉屋の店舗を、持ち寄った武具で破壊して回る。

「くらあ、チョンコロどもが。出てきさらせ!」

 怒声を上げる宅間に飛んできた物体――包丁。施設の中から投げ込まれたものではない。

「$&#”’$#(#$¥!」

「#$#$##”$|!!!」

 わけのわからぬ叫び声を上げながら、宅間達を取り囲む、大久保の住人・・。コリアントリオの作戦、それは街中の深いところまで敵を呼び込み、信服させた住民たちによって包囲する作戦であった。

 委員会が定めたルールでは、大会参加者は、一般人には一切手出しができないと決まっている。また、そのルールを逆手にとって、一般人をけしかけて大会参加者を襲わせることも禁止されている。それを考えれば、コリアントリオの住処にたどり着くまでに、地域住民どもに妨害される事態は、心配しなくてもよかったかもしれない。

 だが、一般人が進んで大会参加者を攻撃する分には、何の咎もない。今、宅間たちを取り囲んでいる連中にとっての、宅間たちに対する認識は、「何の罪もない金さん、孫さん、李さんの店を襲う、悪いヤツ」である。何も知らない第三者が見ても、明らかに宅間達に非がある状況だ。

 今、このチョンコロどもは、コリアントリオの意を受けたわけではなく、己たちの意思によって動いている。

 パンチョッパリ――日本人にも、朝鮮、韓国人にもなれない、国を持たぬ民。その同胞を守るという意思によって――。

「店を派手にぶち壊しすぎたからですよ・・・どうするんですか」

 確かに、あまりにも軽率で、短絡的な行為であった。しかし、後悔しても遅い。

「このまま手ぶらでは帰れん。何が何でも、コリアントリオの首級だけは上げるで」

 深みに嵌るのを承知で、店の奥へと駆けたのだが、この襲撃を察知していたのか、コリアントリオは出払っているようであった。

「チイ―――――――ーッ」

 階段には、すでに地域住民どもが群がっており、四階の住居まで行くことはできない。結局、宅間たちは、まったくの無駄骨に終わったまま、撤退を余儀なくされることとなってしまった。

「チョンコロどもがあああああああああっ!」

 住民全員、敵―――。地獄の街から脱出するための、宅間たちの決死行が始まった。

凶悪犯罪者バトルロイヤル 第158話

 七月二十五日。大田区の百貨店内で涼んでいた宅間守が、闇サイトトリオの三人から襲撃を受けた。たかだか三人――わけもなく蹴散らせる人数であるが、罠の危険性を感じた宅間は、すぐに戦場を離脱した。

 その翌日、今度は配下の金川真大が、台東区の路上にて、コリアントリオからの襲撃を受けた。アホの金川は、警戒もせず奴らを追って行ったのだが、特に援軍が来るということもなく、コリアントリオはそのまま逃げ切ったという。自分も、闇サイトの三人を追撃していたら――後悔に襲われたが、そう思わせることまで、奴らの狙いなのかもしれない。何しろ、今やあやつらの背後には、あの角田の婆がいるのである。

「けど、おかしいっすよね・・。前回は、同盟者の角田の婆さんが、実は奴らを操っていた黒幕ってカラクリだったから、こちらの動きが筒抜けだったのは説明できるけど、今回はなぜなんすかね」

「あるいは、今度こそ本当に裏切り者が出たか・・・やな」

 そこで宅間は、しばらくの期間、同盟者の麻原彰晃との連絡を断ってみることにした。これで敵の襲撃を受ければ、裏切り者は我が軍の中にいるということになる。

 結果はすぐに出た。七月二十九日、宅間自身が、赤坂の地下鉄構内にて、またもや闇サイトトリオの襲撃を受けたのである。

「上部~!!てめえ、よくも裏切りやがったな!」

「いたたた・・・っ、ち、違いますって」

 金川が、上部の襟を掴んで締め上げる。金川は、上部を裏切り者と決めつけているようだが・・。

「何勝手なマネ晒しとんじゃい!」

 宅間は、金川の臀部を蹴り飛ばした。

「こん中の誰が裏切り者かなぞ、誰にもわからん。無論、このワシも容疑者には入っておる。少なくとも、当分は三人、片時も離れず行動や」

 いつもならば、宅間自身が金川の役を演じ、よく調べもせず、激憤に任せて上部を粛清していたところであったが、今回は自分を抑えることができた。働きアリの法則と似ているかもしれないが、自分より単細胞な人間と一緒にいると、不思議と自分が冷静になれるのである。人と人との関係とは、実に絶妙なバランスで成り立っているものだ。
 
 そして二日後――八月三十一日、敵は、今度は闇サイト、コリアン両トリオを、角田軍の永山則夫が率いるという、大軍勢で攻めかかってきた。すぐに逃亡することもできたが、宅間は裏切り者をいぶり出すため、しばらく戦闘を継続することにした。

 一分、二分・・・強豪、永山則夫の攻撃を捌きつつ、金川、上部の二人が敵と手を合わせるところを観察したが、相手が手心を加える様子はなかった。二人の内どちらかが裏切り者だとすれば、妙な話である。

「・・・退却や」

 目的は果たした。深みに嵌らない内に、逃げるが吉――。走る体力が余っている内に、宅間は戦場を離脱した。

「いったい、どうなっとるんや・・・」

 我が軍の中に、裏切り者はいない。ならばなぜ、敵は我が軍の動向を、逐一知ることが出来る?

「GPS装置を仕掛けられた、とかですかね・・?」

「それはねえよ。委員会に渡された携帯電話には、一切の細工ができねえようになっている。他、常に肌身離さず身に着けているもんなんかねえだろ?」

 ある。金川が持つ、PSPである。

「ちょっと貸せや」

「あっ・・・ちょ・・・あーーーーーーーーーーーーーーーーっ」

 これまでの戦闘でも聞けなかった、金川の絶叫――。宅間は、金川のPSPを、アスファルトに叩きつけたのである。

「ちょ、何すんすかっ!」

「だまれ、ボケカス」

 上部が破損したPSPの破片を調べてみたが、特におかしな機器は見当たらないという。裏切り者でもない、GPSでもない・・。いったい、何が自分たちを監視しているというのか?敵の手の内がわからない。戦争において、これに勝る恐怖はない。

 ここでふと、同盟軍の、麻原のオッサンのことが気になった。すでに、バドラは裏切り者ではないことはわかっている。宅間は久方ぶりに、連絡を取ってみることにした。

「おう、宅間か。今、どうしている?」

「どうもこうも、闇サイトの連中だの、コリアンの連中だのから襲われて大変やったわ。オッサンの方は、今何してるんや」

「今か?今は、お誕生日会を開いている」

「お誕生日会やと?誰の誕生日や」

「いや、特に、誰の誕生日というわけではない。去年の九月に誕生日を迎えた者も祝うし、今年の二月に誕生日を迎えた者も祝う。いわば、そのときに祝わなかった分を、後から祝っているということだ。むろん、これから誕生日を迎える者を、前倒しで祝うという手もある」

「・・・・どんだけ自由やねん」

 しかし、相も変らぬバドラのアホーな雰囲気に、ささくれだった宅間の気持ちも、幾らか和らいだ。

「そっちは、襲われたりとかはしとらんのか?」

「今のところはないな」

 巨象は後回しにして、まずは小さな自分らから倒そうということか。宅間はひとまず麻原に、自分たちの動きが敵に筒抜けになっていることを伝えた。

「わかった。俺たちの方でも調べてみる。お前たちは、その間何とかしのいでくれ」

 他人事だと思って、簡単に言ってくれる――。しかし、今はそれしか手段がないのは事実だった

凶悪犯罪者バトルロイヤル 第157話

 八木と出会った翌日――出勤したT・Nを迎えたのは、腐乱したカラスの死骸と、うず高く積まれた中傷ビラの山だった。

 手の込んだことをするものである。その労力を、自分を高めることに使えばいいのにとも思うが、実際、トップに君臨する私を引きずり下ろせば、自動的に自分の順位が一つ上がるのだから、彼女らのやっていることも、あながち間違いではない。私がそれに屈さなければいいだけなのだ。

「おはよう、ホミ・・」

「ホミカー、おっはよう!」

 ともに戦う「戦友」に声をかけようとしたところ、別の声が割り込んできた。先輩キャストのユキである。先輩キャストたちは私だけでなく、ホミカも嫌っていたはずなのに、どういう風の吹き回し?

 ユキはその後、五分間ホミカを独占し、私と話させなかった。しかし気を取り直し、ユキがトイレに出たところを見計らって、再度ホミカに声をかけたのだが・・。

「やだやだやだやだやだやだやだ」

 ホミカが両の耳を抑え、私の声をシャットアウトしようとするのである。

「ちょっと、ホミカ・・どうしたのよ」

「Nちゃんの声を聴くと悪魔になっちゃう。Nちゃんの声を聴くと悪魔になっちゃう」

 いたって真剣な顔で、ホミカはそんな突拍子もないことを口にする。すぐに確信した。ホミカは、先輩キャストたちに取り込まれた。先輩キャストたちは、狙いを私一人に定め、分断工作を仕掛けてきたのだ。

「ホミカ。そんな話を信じないで。私の話しを聞いて・・」

「ちょっと、やめなさいよ!ホミカが嫌がってるじゃない!」

 ホミカの耳に当てられた手をどけようとすると、先輩キャストたちのリーダー格、リノが割って入って、私の手を強く払った。

「ホミカ、こっち行こ。悪魔になっちゃうからね。ホミカは私たちと一緒がいいんだもんねー」

「ホミカ、リノちゃんと一緒がいい」

 リノの言葉を疑いもせず、素直に後をついていくホミカ――。その姿を見て、私の目の前は真っ暗になった。あんなに仲良しだったのに、どうして。私たち、友達じゃなかったの?いくら知的な遅れがあるからって、あんな人たちの言うことを、あっさり信じてしまうの?私はあなたの何だったの?

 雑念を抱えたまま勤務開始時間となり、フロアーに出たが、こんな精神状態で、いい接客ができるはずもない。

「N、どうしたんだ。何か元気がないぞ」

 常連客からも心配される始末である。

「Nちゃん、体調が悪いなら、今日は早退してもいいぞ」

 加藤店長にも、心配をかけてしまった。

「きゃはは。マスゾエさんの話、面白~い」

 ふとホミカの方に目をやると、彼女はいつもより、いやいつも以上にテーブルを弾けさせている。それって何?私を失っても、何もダメージを受けていないどころか、せいせいしているってこと?

 悪いのは、ホミカの純粋さに付けこんだリノたち。それはわかっている。けれど、私の怒りはホミカに、より深く向けられる。リノたちは最初から敵だったが、ホミカは初め私と仲良しだったのに、私を裏切ったからだ。

 私は人を死ぬほど好きになれる―――しかし、一度嫌いになると、殺したいほど憎んでしまう。

 世の中には、愛や絆を謳った芸術作品が溢れているが、あれは所詮、本当は金と名誉しか頭にない自称芸術家が適当に書き並べた、フィクションにすぎない。現実の世界では、平気で浮気をし、平気で人を傷つけられる人間ほど、うまく生きることができる。人を強く思う人間は、逆にすこぶる生きにくいのである。

 「あのとき」とまったく同じ――友達を疑うどす黒い感情。押し込めようとすればするほど、醜く、禍々しく、その形状を歪めて、私の中で際限なく膨れ上がっていく。いけない。このままでは、ホミカを殺してしまう。

 こんな状態ではとても接客にならないと判断し、私は加藤店長の言葉に甘えて、店を早引きさせてもらうことにした。

「あら、もうお帰り?さすがナンバー1様は、余裕があるわね。こちとら安月給だから、時間目いっぱい出て稼がなきゃならないのに。自分の時間がとれて、羨ましいわ~」

 数の力を、自分の力だと勘違いしている大馬鹿者――弱い者が隠し持つ牙が見えない近眼者を無視し、私は帰路についた。

 その晩、私はAに電話をした。八木の店に移りたい旨を申し出たのである。

「ええよ。Nちゃんがそうしたいのなら、そうすればいい」

 Aは意外にも、あっさりと許可を出してくれた。私が八木の店に移るということは、同時に松永社長らとの蜜月関係は崩れてしまうことを意味するが、Aはそれを承知してくれたのである。

「心配はいらんよ。もし松永さんたちと争うことになっても、簡単にはやられはせんよ」

「その自信は、どこから来るの?」

「今は言えんよ。重要な秘密を教えるのは、Nちゃんが完全に松永さんたちと切れたことが確認できてからや。まあ、謀略家は転んでもタダでは起きない、とだけ言っておくよ」

 どういうことなのかはわからない。しかし、とにかく、これで堂々と八木の店に移ることができる。

 私はもう、あの店にはいられない。あのままあの店にいたら、ホミカを殺してしまう。大切な友達を――いや、もう、あの子は友達ではなくなった。これからは、同じ業界で凌ぎを削り合う、完全な敵である。

 Aに続いて、私は加藤店長の携帯に連絡をした。

「移籍するって、どういうことなんだ!」

「すみません、決めたことなので」

「原因は、リノたちだな?俺から強く言っておくから。考え直してくれよ」

 懇願する加藤店長の口調からは、単に店の看板キャストを失いたくない、という思い以上の感情が見て取れる。しかし、残念ながら、私はその想いには応えられない。

「すみません。今まで、お世話になりました」

「N―――」

 もう、話すことは何もない。私は電話を切った。

 私の新しい目標が固まった。私一人の力で、八木の店を、スカーフキッス以上の隆盛へと導いてみせる。誰にも邪魔されない領域まで、上り詰めてみせる。二度と、あんな恐ろしい思いにとらわれないために。

凶悪犯罪者バトルロイヤル 第156話

 T・Nにとって、かつて「IKB48」に応援という形で勤務して以来、2か月ぶりとなる、八木との出会い。しかし、そのやつれ果てた外観は、かつて威勢を誇ったあの頃とは、別人のようである。

「・・・一旦、こちらの席に移動して、少し待っていてくれる?大事なお客さんとのアフターなの」

 八木が意味もなく、宿敵松永社長の本拠地、歌舞伎町に、危険を冒して現れるはずがない。何か私に大事な用があるに違いなかった。

「わかった」

 八木を移動させた後、私はオザワと一時間過ごし、タクシーで帰るふりをして、歌舞伎町にとんぼ返りした。八木はその間、ずっと一人で、静かにグラスを傾けていたようである。

「お待たせ。一体、私に何の用?」

「まずは、祝辞を述べなくてはいけないな。ランキング一位、おめでとう」

「ありがとう・・・」

 今月度の店内ランキングは、まだ風俗情報誌には掲載されていないはずである。八木はそれを知る情報網を持っている?いや、たまたま通行人から耳にしただけかも。現在の八木の、本当の実力は、どれほどのものなのだろう。

「あれから2か月。お前は力をつけ、俺は力を失った。大会屈指の智謀の士などと言われ、豪傑都井睦夫を従えて調子に乗っていた俺は、今や明日のおまんまに有り付くこともままならない、ホームレス同然の有様だ」

 八木が自嘲気味に笑った。端正な顔に刻まれた皺が、深い哀愁を醸し出す。刻まれているのは皺だけではない。頬や、グラスを握る手に、無数の切り傷が見える。逮捕前に出来たものではない、もっと新しい傷である。

「ハイエナのような大会参加者に、幾度となく命を狙われた。奴らだけじゃない。不良のガキどもや、頭のおかしな奴からも、命を狙われた。まるで都会を彷徨う捨て犬のように、這いつくばりながら生きてきた」

 生傷の多さや、弱弱しい声音は、嘘を言っているようには思えない。しかし、このすべてを虚飾で塗り固めたような男の言葉である。簡単に真に受けるわけにもいかない。人の同情を誘い、金を引っ張るためなら、自分の身体を傷つけることくらい、朝飯前にやってのける男なのだ。

「だが、チャンスが訪れた。ボロボロだった俺に、再起の金を融資してくれる人間が現れた」

「え?あなたは、懇意にしていた暴力団からも見捨てられたはずでしょ。いったい、だれが・・」

「今は言えない。しかし、あの金があれば、小箱程度のキャバクラは開ける。俺はその看板キャストに、お前を考えている」

 一瞬、何を言っているのかわからなかった。あの八木が、私を引き抜きに?追い詰められて、おかしくなってしまったのではないか?

「何を言ってるのよ。あなた、私のことを、大した利用価値もない小娘みたいに言ったじゃない」

 ――お前のような小娘など、それだけの利用価値しかないということだ。

 あのIKB48での、八木の言葉――。今思えば、あれがあったから――八木を見返したい一心で頑張ったから、今の自分があるのかもしれない。私はあのとき八木が放った侮蔑の言葉を、まだ忘れてはいない。

「そうだな。調子に乗って見下した女は、あっと言う間に出世の階段を上った。お前はすごかった。そして俺は、人を見る目のない、大馬鹿だった」

 また、八木が自嘲をする。胸が締め付けられる感じ。五十男の哀愁漂う表情というのは、なぜこれほどまでにセクシーなのだろう。

「N。俺を助けてくれないか。俺にはお前の力が必要だ。生き残るために、お前の力が必要だ」

「そんなこと・・・」

 普通なら、できるわけがないと思う。第一、私にメリットが何もない――。

 本当にそうだろうか。確かに私は、スカーフキッスでトップに立った。その地位は、今後も当分は揺らぐことはないだろう。しかし、「王国」が「楽園」とは限らない。おそらく、リノら先輩キャストの嫌がらせ、足の引っ張りは、今後ますます激しさを増す。別に気にはしないが、心配なのは、私の過去のことである。

 今もネットを検索すれば、かつて私が犯した事件の記事は多数ヒットする。嫉妬のあまりリノたちが本気を出せば、私の正体は明らかになってしまうかもしれない。私がキャバクラに勤め、大金を稼いでいることが世間に知られれば、かつてAが言ったように、私は激しいバッシングに晒されるに違いない。そうなれば、キャバクラを辞めなくてはいけないだけでなく、日本で生活できなくなるかもしれない。

 八木が開くという店に移れば、リノたちの嫌がらせは止まる。そして、スカーフキッスより規模の小さい八木の店なら、おそらく私のワンマンチームになる。全体のレベルが高く、他のキャストの声も無視できないスカーフキッスと違い、八木の店なら、私一人に大きな発言権が与えられる。八木に頼んで、ライバルを辞めさせることすらもできるのだ。

 八木の話に、思った以上に旨みがあることがわかり、私の心は動く。そして、それ以上に、老いて群れから置いていかれた一匹狼のような、寂しそうな八木の顔が、卑怯なほど愛おしくて、心が迷ってしまう。

 けれど、決めたではないか。私はホミカと、スカーフキッスを支えていくって。それに、Aのことがある。恐ろしいAが、裏切った私を放っておくはずがない。他の大会参加者そっちのけで、私を狙ってくるに違いない。

「ちょっと、考えさせて」

 悩んだ末、私は八木の誘いを保留することにした。

「わかった。いい返事を貰えることを期待している」

「お金は大丈夫なの?」

 勘定を済ませて帰ろうとする八木に声をかける。

「ああ。女に金を出させるほどには、まだ落ちぶれちゃいない」

 精いっぱい強がる八木の後ろ姿を見送り、私は新しいカクテルを注文した。思考を切り替えるための、ウォッカをベースにした強い酒である。

 明日も仕事がある。バトルロイヤルの戦いとはまた別の、あの熾烈な戦いを勝ち抜くためには、気持ち切り替えていかなければならない。多くの男性の心をつかむには、八木に対して抱いてしまった感情とは、決別しなければならない。
 
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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