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凶悪犯罪者バトルロイヤル 第140話

「おう、麻原のオッサン。今帰ったで」

 世田谷の女子高生から、「おじおち」ブーム到来の話を聞き、半信半疑の麻原の元に、行商に出ていた宅間守が帰還した――。空になったリアカーを引いて。

「これは・・これは、夢ではないだろうな?」

「ワシも驚いとるが、現実に起きたことや。五千部のコピーは、三日間で完売。区民からは、早くも増刷の依頼が来とる」

「そんな・・・まさか」

「ウソやと思うなら、これを読んでみい」

 宅間が取り出したのは、読者から届いた、ファンレターの山であった。

――夜原先生の詩、とても面白かったです。次回作も期待しています。 32歳 男性

――夜原先生のおかげで、手術をする勇気が湧きました。 23歳 女性

――よるはらのおじちゃん、こんにちは。ぼくわ、いつもねるまえに、おじちゃんのおちんちんが、ほみかちゃんにはいるまでお、おかあさんによんでもらっています。とってもおもしろいです。 5歳 男性

――私ウガンダから来たボボと申します。夜原さんの詩を、毎朝公園で朗読しています。おかげで、日本語力が向上しました。これからも続けていきたいと思います。 44歳 男性

――なおきさん・・・・あなたの心と身体を、これほどまでに鷲掴みにする、ほみかという女は誰なのですか・・・私が殺しに行きます・・・必ずやほみかの命を奪い、あなたの心と身体を私の物にします・・・。  81歳 女性

 さらには、県外の読者からも。

――くそ・・・こんなんで・・・。うっ。 復帰年齢26歳 実年齢44歳  男性

――最低!こんな吐き気がする文章を書くような変態は、死ねばいいと思う! 21歳 女性

「ほんで、これが三日分の売り上げや。約束通り、三分の一は、ワシらの手間賃として貰っていくからな」

 宅間が、バッグから「おじおち」三日分の売り上げの三分の二、145万を取り出し、麻原に手渡した。禁治産者たる宅間が、たった三日間でこれだけの金を用意できるはずもなく、また、用意できたとて、麻原にそれをポンと手渡すはずなどない。まさしく、「おじおち」が売れた結果であることを証明していた。

「今後も、ワシらは、オッサンの詩の唯一の販売業者としての利権に預からせてもらう。見返りに、バドラに万が一のときがあったら、ワシらがすぐに駆けつける。今日この日より、正式な同盟の締結や。ええやろう?」

「うむ.。ついでに、アヤ先生をモノにする優先権を俺に渡す、ということも、条件に付けくわえてもらおうか」

「ふん。悪党めが」

 「麻宅同盟」の成立――。麻原と宅間、死闘を繰り広げた二人が手を携えた瞬間だった。

 「おじおち」ブームはその後も加速し、増刷分の一万部も、二日で完売してしまった。三刷目は二万五千部を予定し、さらに絵本化の話や、続編「おじちゃんのぱんつを、ほみかちゃんがあらうまで」の発売も決定した。また、このブームに目を付けた、参加者のT・Nが、「おじおち・N
バージョン」の発売を強要してきた。これにより、「おじおち」の二人のモデル、Nとホミカが在籍する新宿のスカーフキッスも、読者の間で話題となり、連日大盛況となった。

 ここに至り、麻原は「おじおち」の作者が自分であることを正式に世田谷区民に発表した。世田谷区内において爆発的人気を誇る大ヒット作「おじおち」の作者が、やはり世田谷区内においてカリスマ的人気を誇る麻原の作だと聞いて、幻滅する者はおらず、むしろ喝采の声が上がっていた。

「西口彰。もはやお前たちが持つ物質の効果はなくなった。俺たちはその気になれば、遠距離から大石を投げつけるなどし、施設を破壊することもできる。そうなれば、お前は一貫の終わりだ。しかし、子供たちと一緒に作った秘密基地を壊してしまうのは、俺たちの本意ではない。ここは和睦といこうではないか」

 大会期間は、まだ半分以上も残っている。ここで無理に争い、西口たちを、いわゆる「死兵」にしてしまうのは得策ではない。麻原は王者の余裕を見せ付け、西口に降伏を迫った。

「麻原彰晃。どうやら、力は本物のごたるな」

 西口彰・・。知能犯と粗暴犯の両面を併せ持つ、大会屈指の実力者が、ついにその姿を初めて、麻原たちの目の前に現した。

「前回と今回、二度の戦いを通じて、きさんの実力は重々わかった。そして、おいにその実力者と十分に渡り合える力があることもわかった。今回の戦は、おいらの完敗だが、十分に収穫はあったバイ」

 やはり、二度の戦における西口彰の目的は、麻原の力を試すことにあった。しかし、その麻原の力を見てひれ伏し、バドラに入信しようと思うのではなく、むしろ己に麻原に対抗する実力があったことに自信を深め、あくまで敵対の姿勢を貫こうとは、なんたる不敵さか。

 思えば、西口がバドラに対し、現金を直接要求するのではなく、あくまで物品においての要求で資金をすり減らす作戦に出ていたのも、今後、麻原と争う機会がまた訪れることを考えてのことだろう。現金を要求していたのでは、負けた際に必ず、金を返せという話になってしまう。だが、その都度金を使っていれば、無いものは返せないという話になる。西口はそこまで考えていた。やはりこの男、只者ではない。

「助命してくれた礼ちゆうわけやないが、この男が、あんたん味方に加わりたいいっちおる。受け入れてやってくれんか」

 入信を希望するのは、小平義男であった。

「我がバドラは、来る者拒まずだ。これからは教祖たる俺と、偉大なるシヴァ神に、永久の帰依を誓うがいい」

 麻原は、内心で小躍りした。これでまた、バドラの人数は9人になった。草野球チームが組めるのである。

 伝説の強姦魔、小平義男――。早くに逝った大久保清に代わり、我が軍の大きな戦力となってくれることは間違いないだろう。後世この二人は、豊臣秀吉の軍団を支えた二人の軍師、竹中半兵衛、黒田官兵衛の「二兵衛」同様に評価されるに違いなかった。

「あんたも、麻原彰晃についっていっちもよかぞ」

「いや。ワシはあんたに惚れた。地獄の果てまでついていったるわ」

 もう一人の配下、梅川昭美の方は、西口の元を離れぬようである。半月に及ぶ戦いの中で、敵方にも、固い友情が成立していたようだ。

 秘密基地を出た西口彰は、忠実な仲間を連れて去っていく。

「・・・・すまんな」

 西口が、軽く頭を下げた。これを言われたならば、なんJ民の麻原は、こうとしか答えられない。

「・・・・ええんやで」

 麻原のだまし討ちを防ぐ、西口の巧妙な一手だった。

「グッバイ尊師」

「フォーエバー西口」

 周囲の者たちが首を傾げる中、なんJ民同士の、リアルでのやり取り。麻原は、そもそもそれが原因で西口に秘密基地を乗っ取られたのも忘れ、新加入の小平をつれ、草野球の試合がしたくなってきた。

 こうして、麻原の自業自得から始まった戦は、幕を閉じた。最大の戦力を維持すると同時に、貴重な資金源と、宅間守という強力な同盟者を得たバドラ。もはや誰の目にも、生き残りにもっとも近い男が麻原彰晃であることは明らかであった。

 史上無比の宗教団体――世界の救済を目指し、バドラは更なる高みへと登っていく――。

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凶悪犯罪者バトルロイヤル 第139話

 麻原彰晃率いるバドラが、世田谷渓谷公園の秘密基地の包囲を始めて、およそ二週間の月日が過ぎようとしていた。

 あの後、西口彰たちからの要求は図々しさを増す一方で、食事や風俗などのデリバリー、「通販生活」で購入した健康器具、インターネットを使うためのWIーFI設置、またバドラ自身の滞在費などの出費により、バドラの金庫は、戦闘開始時から半分近くにまで減少していた。

 包囲の間、信徒たちに命じていた「ワーク」や、世田谷のスーパーバイザーとしての活動は滞っていたから、収入はゼロ。今後もこの状況が続くようであれば、早晩、バドラの金庫は枯渇してしまう。バドラは滅亡し、信徒たちは解散。すなわち、麻原の死を意味するのである。

 バドラの信徒たちは、麻原の憂慮などどこ吹く風で、自分たちで作った「犯罪者人生ゲーム」に興じている。

「お、就職マスだ。どれどれ。ヤクザ、議員、「きらい家」「コ二ワ口」「ク夕三」、闇金融、振込み詐欺業者か・・・」

「うわ、くそ、刑務所ゾーンに突入だ!」

「俺もだ!」

「パンの耳をりんごジュースに浸して、密造酒を作った。3マス進む・・。これマジ?小田島さん」

「マジ話だよ。酒、タバコ、博打、その気になればなんでもできる。ムショでできないことなんて、女くらいのものだ」

「男のケツの穴で妥協するって手もあるんじゃ?人によっちゃ、そっちに目覚めちゃうかも」

「そういう考えもあるね!ハハハハ」

 教祖がどれだけ悩み苦しんでいるかも知らず、何ともいい気なものである。

 信徒たちにとっては、バドラが滅亡したとて、他の組織に属すればいいだけの話。だが、最大組織の教祖として全参加者からマークされている麻原は、そういうわけにはいかない。バドラの滅亡イコール、麻原の死なのである。

 唯一の楽しみといえば、三時と九時のおやつの時間出るが、ここ数日は悩みわずらいのせいで食欲もめっきり減り、十分に満喫できなくなっている。この日のおやつの時間でも、大福二個、シュークリーム三個、ばかうけ十五枚、カリカリ梅五個、ねるねるねるね一個、メントス四個、ハイチュウ三個を食べるのが精いっぱいだった。

 麻原の唯一の希望は、ホミカのアドバイスで実行した、「おじちゃんのおちんちんが、ほみかちゃんにはいるまで」の公開である。麻原は三日前より、世田谷区に彗星の如く現れた詩人「夜原なおき」を名乗り、記憶を頼りに日記の内容をノートに記して五千部をコピーし、食客となっている宅間守たちにリアカーを引かせ、世田谷区内で行商をさせていたのだ。

 ダメ元で始めた試みであったが、やはり今からすると、あんなものが流行るはずはないと思えてきた。宅間の報告では、初日から予想以上の売れ行きで、一部300円を500円に上げてみてもペースは上がる一方という話であったが、にわかには信じがたい。

 また、その話が本当であっても、彼らが金を持ち逃げしないとも限らない。しかし、あの破廉恥な内容を信徒に知られるわけにはいかないから、不安であっても今は宅間たちに頼るしかないの現状だ。ネット販売も開始しようかと考えてはいるが、昭和から平成初期に逮捕された者の多いバドラにおいては、まだネットを完璧に使いこなせる者はおらず、その道も難航していた。

 つまりは、麻原の目に見える範囲では、状況は何も変わっていないのである。麻原は決断を強いられていた。このままジリ貧になり、金銭枯渇による滅亡の道を辿るよりも、イチかバチか力攻めを敢行しよう、ということである。たとえ城を落とせてもこちらの損害も大きいが、背に腹は代えられない。西口たちが日記を、ペンネームなどではなく麻原本人の作者名で発表してしまう恐れもあるが、もう仕方がない。麻原はそこまで、追い詰められているのである。

「みんな・・・遊びの手を止めて、聞いてくれないか」

 麻原が神妙な面持ちで言うと、信徒たちは「犯罪者人生ゲーム」の手を止めた。

「今まで散々持久戦を主張しておきながら、すまないが・・・」

 麻原が重い口を開こうとした、そのときだった。

「ねえ、今話題の”おじおち”読んだ~?」

「読んだ読んだ!なんかあの、気持ち悪いような、おかしいような、なんともいえない読後感が最高だよね~」

 世田谷渓谷公園を通学路とする女子高生たちから聞こえてきた、会話であった。

「き・・君たち!」

 麻原はいてもたってもいられず、女子高生たちを呼び止め、彼女たちが口にする「おじおち」なる書物について、詳細を尋ねてみた。

「うん、”おじおち”は、夜原なおきって人が、世田谷区でリアカー販売している詩だよ~。クラスの半分くらいが読んでるよ。あれすっごい面白いんだから。尊師も読んでみなよ」

 やはり、”おじおち”とは、「おじちゃんのおちんちんが、ほみかちゃんにはいるまで」の略称であった。あの書物が、今、世田谷区内で密かなブームになっている・・?あんな心底くだらない、ダメ元というかヤケクソで始めた自分の試みが、大成功を収めようとしている・・?信じられない。だが、その信じられないことが、現実になりつつある。

 偉大なるシヴァ神の加護としか思えぬ奇跡が、今、起ころうとしていた。

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凶悪犯罪者バトルロイヤル 第138話

 市橋達也は、「ひまわり館」閉鎖に伴う、残務処理に追われていた。

 三日前、高崎が、大会参加者の手によって殺害された――僕の目の前で。事件を受け、館長のシジマは、即刻、施設の閉鎖を決定した。元々、資金難により運営が困難になっていたところに、職員の不祥事による利用者死亡とあっては、もはやどんなに頑張っても、存続は不可能であった。

 「知的障碍者男性」が突如、理由もなく「住民男性」を襲い、もみ合った末、知的障碍者男性が殺害された――。それが、警察による事件概要の発表だった。間もなく、その架空の「住民男性」とやらは「正当防衛により不起訴」ということになり、事件は闇に葬られるのだろう。委員会による捏造、ここに極まれりである。 

 あのとき、僕は高崎を見捨てた。すべて見なかったことにして、その場から逃げ出した。

 タイミングとしては際どいところで、あの場で僕が乱入していたところで、高崎が助かったかどうかはわからない。しかし、飛び出していれば、少なくとも自己満足にはなっただろう。だが、僕はそうしなかった。

 死を恐れていた。それが半分。もう半分は、「楽にしてやった方がいいのではないか」ということだ。

 単なる免罪符なのかもしれない。しかし、実際、あれから高崎が生きていて、どうなったというのだろう。

 生産能力のない人間を生かしておいても意味がないだの、税金の無駄だの、そんなお前は何様だというような意見を言うつもりはない。あくまで、高崎の立場に立って考えてみて、ということである。

 心の拠り所としていた母親は、すでにこの世にはない。高崎には、それを知る知性もない。永遠に、存在しない母親を探して、孤独に苛まれながら、彷徨い歩くしかない。そんな人生を送って、どうなるというのだろうか。高崎に何が残るというのか。

 「人間生きてりゃ、いつかはいいことあるさ」などは、究極的に無責任な言葉である。じゃあその人の言うように実際に十年二十年生きてみて、何もなかったらどうするというのか。それを言っていいのは、実際に幸せを与えた人間だけだ。「いいことあるというなら、あんたが一万円をくれれば少しはいいことなのだからくれ」という話である。何も与えられないなら、下手なことは言うべきではない。

 だからといって、もちろん勝手に人を殺していいわけではないが、見捨てる権利くらいはあると思う。僕は、この先、高崎の人生に展望がないと思ったから、彼を見捨てた。自分の命もかかっていたことであり、それは別に、責められることではないと思う。

 気になるのは、高崎がアパートに突入する際に口走っていた言葉である。確か、「お母さん」と聞こえたように思う。当日、あの場にいた女性は、参加者のT・Nただ一人。高崎がお母さんと言っていたのは、彼女のことだったのだろうか。まず間違いなく勘違いであろうが、刑務所から届いた高崎の私物に、母親の写真は混じっていなかったから、確認はできない。調べてみればわかるのかもしれないが、そんなことをする趣味も、好奇心も、また暇もない。僕は残務処理を終え、働いた分の給料を割ってもらい、次の仕事を求めて何処かへと去るだけだ。

「ええーー!?じゃあ、たかさきくんは、しんじゃったの??」

 仕事の手を止め、トイレに立ったとき、レクリエーションルームから、利用者たちの声が聞こえてきた。

「そうだよ。高崎さんは、もう、この世にはいないんだ」

 館長のシジマが、利用者たちに高崎の死を告げている。

「たかさきくん、かわいそう・・・」

「高崎さんは、可愛そうなんかじゃないよ。高崎さんは今、天国で、大好きなお母さんと幸せに暮らしているんだから」

 そのシジマの言葉を聞いて、僕は違和感を覚えた。

 どうして一人の人の生涯について、そんな勝手なまとめ方をするんだ?誰がどう見たって、高崎は不幸じゃないか。おそらくはやってもいない罪で長い間刑務所に入れられ、その間に最愛の母は亡くなっていた。出所後もそれを知らず、愛に飢えながら、母親を探して彷徨い歩くだけだった。施設で暴れてみんなと喧嘩をし、男性の大事なところまで、勝手にいじられて・・・。

 そんな高崎の人生を幸せなどというのは、遺された者の自己満足に過ぎないじゃないか。言霊信仰でもあるまいし、それで死者が浮かばれるというのか?

 知的障碍者相手だから、そういうことにして誤魔化している・・。シジマに限って、そんなことはないだろう。おそらく、悪気があってのことではない。それはわかる。しかし・・。

 臭い物には蓋をして、事実を事実として認めない。荒野をお花畑だったことにして、勝手にハッピーエンドを作り上げ、すべてを片付ける。それでいいのだろうか。先に死んだ者から何かを学ぶ機会を、棒に振ってはいないだろうか。

 だが、シジマの考えを訂正する気も起こらない。そんな資格は、僕にはない。

 それから二日後・・。先輩職員のツクシが、高崎脱走の責任を感じて自殺した。風呂場で手首を切ったということだった。大会参加者は、間接的に二人の人間の命を奪ったのである。それでも、大会中止を告げる連絡は届かない。一般人を巻き添えにして、まだこんな殺し合いゲームを続けようというのだろうか。

 そしてその翌日、いよいよ僕が、「ひまわり館」を去る時がきた。去り際、猫の入ったケースを部屋の外に持ち出したことにより、僕が猫を飼っていたことが、施設の利用者にバレてしまった。

「かわいいー」

「おなまえ、なんていうの?」

 それでハッとした。そういえば、出会ってから三か月以上もたつのに、まだ猫の名前を決めていなかったじゃないか。

「クロッカス・・」

「え?」

「いや・・クロ。クロっていうんだ」

 咄嗟に思いついた花の名前。しかし、長すぎるし、語呂が悪いと思い、猫の色を見て訂正した。

 クロッカス・・花言葉は、「悔いなき青春」。大学の園芸学部で覚えた花である。22歳で、僕に命を絶たれた「あの人」の人生への願いが、その花の名を思い浮かばせたのだろうか。

 だとしたら・・僕こそ、人の生涯を、勝手にまとめようとしているじゃないか!100%、自分の都合のために・・。

「いちはしせんせー。いままでありがとう」

「ああ・・みんなも、達者で・・」

 自分への憤りを悟られないよう、精いっぱいの笑顔を浮かべ、僕は「ひまわり館」を去った。僕が守らなければいけないもの・・クロを連れて。

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凶悪犯罪者バトルロイヤル 第137話

 T・Nの自宅に、グランドマスターが、委員会の戦闘部隊を引き連れてやってきた。

「小林くん、わかっているね」

 小林は、神妙に頷く。

「ああ・・。最後に、Nと話をさせてくれないか」

「うむ。ただし、時間は五分、それだけだ」

 最期の懇願が許可されると、小林は私に向き直った。

「N。お前は、俺を愛してくれていたか?」

「・・・・」

 最後の最後まで身勝手極まりない、小林の問いに対する私の答えは、無言であった。一言たりとも口にしなかったのである。愛していたかといえば、それは紛れもなくNOだが、死にゆく小林に追い打ちをかけることは躊躇われた。そして導き出した答えが、無言、だったのだ。

「なあ、N。答えてくれないか?答えて・・」

「さあ、時間だ」

 必死の形相で私の肩を掴む小林を、委員会の戦闘部隊が引きはがし、強引に連行していった。

「うう・・・」

 これから小林の訪れる、二度目の死。自ら望んだ最初の死と違い、今度の死は、小林に心からの後悔を与えることだろう。

「まさか、こんなことになってしまうとはな」

 小林がいなくなった後、血だまりの床に横たわる男の躯を見ながら、グランドマスターが呟いた。

「この後、どうするつもりなんですか?一般人の方を巻き添えにしてしまって・・」

 私は、グランドマスターに尋ねた。大会の中止、という言葉を期待して。

「死者が出ている以上、世の中に発表しないわけにはいかん。目撃者がいたかもしれないしね。ただ、報道の内容は、こちらの方で操作させてもらうがね」

 そこまでして、こんな殺し合いゲームを継続したいの?私は、実際に会うのはこれが初めてとなるグランドマスターなる男に、強い反発を覚えた。

「さて・・Aくん。君にも来てもらおうか」

 続いてグランドマスターが向いたのは、私と違い、すでに何度もグランドマスターと顔を合わせている、A・Sだった。

「なんでですのん?」

「委員会を甘く見てもらっては困る。君の考えていたことは、すべてお見通しなんだよ」

 グランドマスターが問題視しているのは、Aが松永社長に連絡し、スカーフキッスのミナミに、死亡した男性・・高崎が入所する知的障碍者施設の職員、ツクシを誘惑して呼び出させた、ということだった。

「その結果、施設の警備体制が薄くなった隙をついて、高崎氏は脱走・・・そして、今回の悲劇に繋がった、というわけだ。君は知っていたんだね。彼、高崎氏が、T・Nくんを母親と勘違いし、度々彼女の家の周りをうろついていたことを」

「え!」

 衝撃を受けたのは、初めてその話を聞かされた私である。グランドマスターの話が本当なら、依然、尾形英記に襲われた際、私を助けてくれたのは、彼・・・高崎であった可能性が、極めて高いということが考えられる。

「ええ、確かに電話はしましたで」

 Aはあっさりと、事実を認めた。

「ですが・・。僕がそれを仕組んだとして、こういう結果になることが、確実に予測できますか?僕が松永社長に電話を頼んだところで、松永社長が忙しくて、頼みを聞いてくれないかもしれない。松永社長がお店の女の子に指示を出したとして、女の子が拒否するかもしれない。女の子に誘惑されたとして、施設の職員さんが来るかどうかはわからない。施設の職員さんが職場放棄したとして、この人が脱走するかどうかはわからない。また、この人が脱走したとして、ここまでやってくるかどうかもわからない。これだけ偶然の要素が強いことを、最初から最後まで予想できると思いますか?」

 まったく悪びれたところを見せず、Aは淡々と己の無実を主張する。

「・・・・」

 グランドマスターは、言葉を返すことができない。

「もし予想できたとしたら、僕は神様かなんかやで。これを未必の故意というんは、ちょっと無理がありすぎるんちゃいますの?結論として言えるのは、この人・・・高崎さんは、不幸だった、ということだけやと思いますよ」

「Aくん・・・君ってやつは・・・」

 絶句するグランドマスター。グランドマスターだけでない。Aの残酷さに、その場にいる全員が戦慄している。

 Aの恐ろしさは、高崎なる男性をけしかけて、マンションの中に突入させようと思ったことだけではない。私にとって、もっと恐ろしいのは、Aのあまりに常人離れした状況判断、そして、私に対する本当の感情である。

 私が小林に捕らえられ、ナイフを突きつけられていたあの状況を見たときに考えるのは、普通は、「小林がNを殺そうとしているかもしれない・・だから、強引に踏み込むのはやめておこう」ということだろう。加藤店長やT・Sなどは、そう考えていたはずだ。

 しかし、Aは違った。Aはこう考えていた。「迂闊に突入したなら、小林の反撃に遭うかもしれない・・だから、一般人を犠牲にしよう」。私の身の安全などは、まるで考慮に入れていなかったのである。 

 こんな男について行って、私は本当に大丈夫なのだろうか。行く末が不安で仕方ないが、かといって、私の行動パターンを知り尽くしているこの男からは、逃げることもできない。運命の手綱を、私はこの男に、完全に握られてしまっているのだ。

「Nちゃん。今日は、ホテルの方に・・・」

 私の心情を考慮して、加藤店長が、今晩はビジネスホテルに泊まることを提案してくれた。私は頷き、加藤店長の車でホテルに行き、その夜はビールを飲んですぐに眠った。

 小林とのこと、高崎なる中年男性のこと・・。いずれ、ゆっくりと振り返らなくてはいけないときは来るかもしれない。けれど、今はゆっくりしたい。ただ深々と眠り、心と身体を休めたかった。

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凶悪犯罪者バトルロイヤル 第136話

 陽の光が雲間から差し込み始める時刻――。市橋達也は、千代田区の住宅街を歩いていた。

 昨夜、高崎が、施設からの脱走を図った。初めてのことではないから、職員はもちろん警戒していたのだが、その日に限り、なぜか夜間の当番、ツクシが、何処かへ姿を消してしまっていたのだ。

 3時間近く、職員総出で足を棒にして探し回ったが、高崎は見つからない。先に見つかったのは、ツクシの方だった。なんでも、入れあげているキャバクラ嬢と、繁華街を歩いているところを発見されたらしい。

 ツクシを責める気も何もない。僕はとにかく、自分の仕事を果たすだけ――何としても、高崎を探し出すだけだ。

 高崎は体重100キロ近い巨漢であり、また、知的障碍者でもあるから、警察の目には着きやすく、今までは、夜明け前には警察に保護されているのが普通だった。しかし、今日に限っては、未だ警察からの連絡は入っていない。いったい、高崎は、どこでなにをやっているというのか――。

「――!」

 とあるマンションの近くで、ようやくに高崎の姿を見つけることができた。ホッと息をついたが、次の瞬間、身も凍るような戦慄に、安心は掻き消された。

 高崎が見つめるマンションのドア付近に、三人の若い男・・参加者の加藤智大、A・S、T・Sの姿があったのだ。

 
  ☆    ☆    ☆    ☆     ☆

 T・Nが、小林薫の腕の中に捉えられ、4時間あまりが経とうとしていた。

 私を人質に取った小林は、玄関前に立つAらに、この場から去るように要求したが、Aは頑としてそれを受け入れない。かといって、小林も人質である私を殺す踏ん切りがつかず、事態は膠着していた。

「小林の兄さん、いい加減観念したらどうなん?もしNちゃんを離してくれたら、僕らは兄さんには何もせんよ。約束する。何なら、タクシーでも呼べばいい。逃走資金が必要なら、ほら。お金も用意してあるよ」

 Aが小林に、三十枚の一万円札を、トランプの手札のようにして見せた。

「ほとんど俺の金だろうが・・」

 舌打ちをしたのは、加藤店長である。

「せやったね。まあええやん、加藤くんの方が僕よりずっと羽振りがええんやから。Nちゃんを助けるためやで。ケチなことは言ってられんよ!」

 カラカラと笑うAを、小林は身じろぎもせず、メガネの奥の細い目でじっと見つめている。

 小林に、私を解放する気はないようだった。客観的に考えて、逃走用にタクシーを呼ぶのを許してくれるのと、三十万円の資金獲得は悪い条件ではないように思えるが、小林はそれよりも、私との生活が崩壊するのを恐れているようだ。小林の中で私は、それほどまでに大きな存在となっていたらしい。

 ツンとした刺激臭が鼻をつく。4時間の膠着の中で、小林は尿を漏らしていた。私は何とか耐えているが、そろそろ、限界が近づいていた。体力も気力も、いつまで持つかどうか――。

「・・・・誰だ?」

 加藤店長とTが、マンション入り口の方向に視線を向け、表情に警戒の色を湛えた。Aはといえば、待ち人が現れたように、目を爛々と輝かせている。何か必死に、笑いをこらえているようでもある。

 開きっぱなしの玄関から一歩退いたAたちの変わりに、私と小林の視界に現れたのは、丸々と太った、中年の男性だった。

「お・・・・お・・・・」

 男性が口角から涎を垂れ流しながら、何事かを呟いている。何?この人は、誰なの?言いようのない恐怖が、私の背筋を這った。

「おがああざん!おがあああざあん!」

 いったい何を思ったのか、男性は突然、わけのわからない言葉を喚きながら、私と小林に突進してきた。この走り方――。どこかで、見たような―――?

「おがああざん!おかあざあああ!」

 男性が、両手の底で、小林を滅多無人に殴りつける。その力は相当に強いらしく、小林はひるんでバランスを崩し、とうとう私を手離した。

「こ・・・のっ!」

 脱兎のごとく逃げ出した私の背後で、恐ろしいことが起きていた。私がそれに気づいたのは、玄関の外まで出て、室内を振り返ってからであった。

 フローリングの床に滴り落ちる鮮血。腹部からシャワーのように血液を噴き出させながら、それでも小林を殴り続ける男性。しかし、三十秒が経ったころだろうか。男性の動きが鈍り、そして止まった。

「う・・・あ・・・」

 誤って一般人を刺してしまった小林は、茫然としている。Tも、加藤店長も、あまりのことに、中に踏み込むこともできない。ただ一人Aだけが、笑いをこらえきれずに口を三日月形に曲げている。

「おかあさ、おかあ、さ」

 虫の息の男性は、私の方を見ながら、まだ何かを呟いている。私は、加藤店長が止めるのを振り切り、男性のところへ行った。男性の頬を撫でてあげた。なぜかはわからない。なぜか、そうしなければいけない気がした。男性の鬼気迫る形相が穏やかになり、そして完全に呼吸が止まった。私が男性を撫でるのを、小林はただ、じっと眺めているだけだった。もはやすべてが終わったことを、悟っているようだった。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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