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凶悪犯罪者バトルロイヤル 第79話


 各国首脳や財閥が集まる会合に参加したグランドマスターは、ホテルのルームサービスを取りながら、秘書のアヤメとともに、5月の参加者の戦いを振り返っていた。

「今月の死亡者は、以下の五名です。石橋栄治。殺害者は、栗田源蔵。小林正人。殺害者は、加藤智大。加納恵喜。殺害者は、A・S。小松和人。殺害者は、A・S。尾形英紀。殺害者は、松永太」

 一か月の死亡者五名。まさかのペースダウンである。ゲーム開始から三か月が経った現在、参加者の半分は何らかの組織に属しており、また各勢力とも、現在は様子見の段階にあることが影響した停滞だろうか。一応、銃火器の早期解禁を念頭に置いておかなければならない。

「各勢力間の動きは以下の通りです。重信房子、永田洋子連合軍が、小林正人軍と抗争。小林正人軍は滅亡しました。その後、重信房子軍は、新加入のA・S率いる軍団と同盟を締結。さらに、八木茂軍との間に、戦端が開かれた模様です。そして、麻原彰晃軍と宅間守軍との間に、和平の道が開かれたようです。宅間軍は角田美代子軍と同盟しており、その角田美代子軍の傘下には、金嬉老、李珍宇のコリアンコンビが加わったようです」

 麻原彰晃率いるバドラと重信房子軍―――。二強の間に、確かな戦力格差が生まれつつある。強豪、八木茂軍との対立により、尾形英紀を失った重信軍に対し、「獄中ブログ」の小田島鐡男を加えて、合計9人を抱える最大勢力となったバドラ。両軍のダブルスパイとして暗躍する正田昭も、近頃では、明らかにバドラに心が傾きつつある。同盟軍の永田洋子、A・S軍も合わせれば、重信軍が数では上回るが、強豪八木軍と対立している重信軍には常に戦力損耗のリスクが付きまとい、対して、明確な敵対勢力のいないバドラには、さらに上昇気流が吹いている。龍虎が火花を散らしあっている内に、一人勝ちを決めてしまうかもしれない。

 が―――。重信軍には、バドラにはない資金力がある。これの使いようによっては、まだまだ挽回のチャンスはある。重信軍の頭脳、松永太は、この状況にまだ焦りを感じていないようであるから、戦局はどう動くかわからない。グランドマスターにも、展開がまったく読めなかった。

「ところでマスター。昨日の、宅間守の発言なのですが・・」

 アヤメの報告を聞き、グランドマスターは頭を抱えた。警告メールで大人しくなったかと思えば、早くもこれである。まあ、宅間が面倒を見ている少年たちが殺人を実行したとして、教唆になるかどうかは微妙なところではあるが、あれを許していたら、図に乗った宅間が、また厄介なことを起こしはしないかという危惧はある。ただ、宅間は余人を持って代え難い人材である。下手に規則でガチガチに縛り付けてしまうと、本来の実力が発揮できないタイプでもあるだろうから、グレーゾーンにいる間は、好きにやらせておくのがいいのかもしれない。

 危険な要素を孕んでいるといえば、宮崎勤だ。あの男は、まるで掴みどころがない。本当に、まともな教育を受けた人間なのかと疑ってしまうときがある。世界中の犯罪者、とくに宮崎のような快楽殺人者にはそういう傾向があるが、あの男の浮世離れは度が過ぎている。その宮崎勤が、同じく、何を考えているかまるでわからない、山地由紀夫と組んだ。宅間守と金川真大もそうだが、磁石の同極はふつうは反発し合うというのに、あの二人はくっついてしまった。何か起こらぬかと、心配しない方が無理である。まったく、頭が痛い。

 自分との約束通り、参加者三人を始末してのけ、参加者の椅子を勝ち取ったAは、今のところは便利屋の経営に専念し、力を蓄えているようだ。そのAが脅迫して参加させたNとともに勝ち残りを伺うAが、この先どんな戦いぶりを見せてくれるのか。勝ち残ることが目的ではない、殺人をすることそのものが目的であるかのような節もあるあの男の動向には、目が離せない。あの男の犠牲になったホームレスには申し訳ないが、楽しみで仕方なかった。

 「伝説の強姦魔」小平義男、「籠城戦のエキスパート」梅川昭美、「悪魔の申し子」西口昭、「毒婦」小林カウ。沈黙を守っている大物たちがどの勢力に味方するか、はたまた、己が組織を立ち上げるのか。それによっても、勢力地図は変わってくるだろう。まだまだ、未知数の部分は大きく、展開はまるで読めない。

「マスター。市橋達也を狙う松本兄弟に接触してきた人物のことですが・・」

 あの問題か。ブラック・ナイトゲームの筋から漏れた情報だとは思うが、やはり、参加者に直接殺害を依頼する人物は現れてしまった。各国のマフィア関係者などには気を配っていたが、「そっちの線」をおろそかにしていた。不覚である。

 まあ、ゲームは予想外のことが起きるから面白い。これからも、外部からゲームに介入してくる人間は出てくるだろうが、それがゲームの根幹を揺るがすものでない限りは、あまり厳しく排除はしないようにしていこう。大事を成し遂げる一番のコツは、些事を気にしないことである――。

 グランドマスターは、アヤメとともに「淡麗・生」の缶ビールを飲んだ。バトルロイヤル参加者の生活を覗くようになってから、庶民の文化に染まりつつある自分がいる。今度は、牛丼屋とやらにでも行ってみようか。

 この上なく上機嫌なグランドマスターは、パソコンを開き、最近はまっている「2ちゃんねる」にアクセスするのだった。
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凶悪犯罪者バトルロイヤル 第78話


 宅間守は、蒲田のナイトクラブ「ダークスフィア」に、面倒を見ている不良少年グループの顧問的な立場として招かれていた。

 宅間が大田区において主催している「塾」の生徒は日に日に数を増し、現在では一日に10~15名を安定して集めるまでに規模を大きくしていた。元々は、ちょっとそこら辺にいる粋がり兄ちゃんみたいな可愛いものだった彼らは、宅間の教えのお蔭で、強姦、強盗、放火などの重犯罪を鼻歌を歌いながらやってのける、立派な外道へと成長していた。

 不良どもが身に着けたのは、悪事の知識だけではない。宅間と過ごす時間によって大きく変化したのは、彼らの用語でいう「一般ピープル」との距離感だった。

 今どきはヤクザも大卒などと言われるように、「不良=落ちこぼれ」という時代ではなくなった。学業やスポーツで優秀な成果をあげている者が、裏では非行や乱れた性生活をしているケースは珍しくもない。ファッションにおいても、特別ワルでもない若者が髪を染めピアスを嵌めたり、逆にどうしようもないワルが、地味なシングルのスーツを着てメガネをかけているようなことも普通である。

 とはいっても、それは単に境目が曖昧になっているというだけで、やはり傾向として、貧困家庭で育った者や、学業やスポーツで落ちこぼれた者が悪に染まりやすいのは変わったわけではない。宅間が授業をするようになってから起きた変化というのは、家庭環境にも恵まれ、成績も良好な「ちょっと不良ぶってみたいだけのガキ」が篩にかけられ、本物の「悪のエリート」だけが、グループに残ったということだ。

 それまで、「人間はみな平等」だの「生まれたところや皮膚や目の色で一体この僕の何がわかるというのだろう」などといった、優しい言葉で飯を食っている商売人どもに洗脳されて、「自分も頑張れば成功できる、幸せになれる」と無邪気に信じていたガキが、絶対に越えようのない違いに気が付いた。努力だの、自己責任だの、勝ち組が負け組を納得させるために生み出した言葉に、ずっと騙され、殺され続けていたことに気が付いた。

 「みんなみんな生きているんだ友達なんだ」が大嘘だったことに気が付いた不良どもは、「一般ピープル」との縁を断ち切ったどころか、敵視し始めた。今は同じ学び舎で席を並べていても、十年、二十年後、奴らは自分たちから搾取する側に回る。それは諦めよう。社会というものはあまりに巨大であり、十代のガキが吠えたところで、簡単には変わらない。ならば、奪われる前に奪う。これに尽きる。

 どうせ貴様らは、俺たち落ちこぼれのことを、同じ人間とは見ていないのだろう。見世物小屋の珍獣のようなものだと思っている。だから、こちらが檻の中から尻尾を振って愛想を振り撒いている内は可愛がるが、分を弁えずに同じ生活空間に入ってこようとすれば、途端に迫害を始める。反抗し牙を剥いたら、それ見たことかと、嬉々と顔で殺しにかかる。

 競争社会の適応者(生ゴミじみたアホ)どもは、こちらを同じ人間ではないと思っているから、何をしても、何を言ってもいいと思っている。クソみたいにプライドの高い競争社会の適応者(生ゴミじみたアホ)どもは、えてして、自分たちが日ごろ見下している下等生物にもプライドがあるということを理解できない。絶対に反撃されない、鉄格子を隔てた向こうから、こっちを攻撃している気になっているのである。

 愚かな競争社会の適応者(生ゴミじみたアホ)どもに、思い知らせてやろう。貴様らが力を得る前に、痛めつけ、あわよくば殺す。せめて、絶対に消えない傷を。体に、心に刻んでやる。それだけは、必ず約束する。
 
 宅間がそう口にしたわけではないのだが、宅間の教えを受けるうち、不良どもに、明らかにそうした思想が芽生え始めていた。その証拠に、今、ナイトクラブで不良どもが打ち合わせをしているのは、近辺の学区では一番の美少女であり、成績も優秀で才色兼備と名高いサツキと、毎年東大合格者を多数輩出する名門高校「竹中学園」の中でもトップの優等生、ヘイゾウのカップルを、殺して犯す計画だった。

「奴らの生活パターンと通学経路は、調べがついている。それぞれが塾から帰宅する午後十時ごろ、二手に分かれて奴らを拉致した後、例の廃墟で合流し、ヘイゾウの目の前でサツキを犯す。そのあと、殺して山に埋める。ってな計画なんやけど、どう思う?68のおっちゃん」

 自分を虐げてきた社会への復讐、憎き高学歴どもを皆殺しにする願望が、こんな形で再び叶えられるとは思わなかった。宅間はタバコに火をつけ、紫煙を深々と吸い込んだ後、おもむろに口を開いた。

「悪くはないが、面白くもないな。別々に行動しているところを拉致るんやない。二人が一緒に行動しているところを拉致るんや。デートをしているところがええな。幸せの絶頂を味あわせた後に、地獄のどん底に突き落としてやるんや。落差が大きければ大きいほど、絶望も大きくなる。悲鳴の聞き心地も、違ってくるというものや」

「なるほど・・さすが、68のおっちゃんだ。デート中に襲うのは簡単ではないだろうけど、やっぱり悪事は、ハイリスク・ハイリターンでなんぼだよね。よし、それで行こう。サツキとヘイゾウのスケジュールを、徹底的に洗うんだ」

 悪事を相談するときの不良どもの顔は、実に活き活きとしている。
 それでいい。もっと恨め。貴様らをそんなにした奴らを、もっと恨め――。
 ワシの後継者となれ。

「あ。言っておくが、今のワシの言葉は、全部独り言やからな」

 そこは重要だ。こいつらは人を殺して逮捕されても、少年法とやらに守られ、せいぜい十年か二十年食らうだけで済むが、自分はそうはいかないのだから――。

「わかってるよ。68のおっちゃん。おっちゃんに迷惑はかけないよ」

 聞き分けのいい子供たち。可愛ええ奴らや。こんなええ子らを、誰が不良と呼んだのか。

 十数年前、自分が蒔いた種はすくすくと育ち、大輪の花を咲かせようとしている。宅間は満足気な笑みを浮かべ、店に来て二本目のタバコに火をつけた。

凶悪犯罪者バトルロイヤル 第77話

 
 麻原彰晃率いるバドラは、小田急小田原線の経堂駅前を訪れていた。

「おう、お前たち。今日もいたのか」

 麻原が話しかけたのは、世田谷区の公立中学校「黒龍中学校」に通う、少年少女のグループだった。現在、時刻は深夜の1時。塾帰りにしても遅すぎる時間であり、中学生が出歩くには相応しくない。

「んだよ。今日も来たのかよ、尊師」

「ウゼエんだよ、尊師」

 生意気な口を叩きながらも、子供たちの表情は麻原を歓迎する風であり、彼らが普段、親や教師、警官に向けるような敵意は感じられない。

 近ごろ麻原は、世田谷の学区において、大人たちから見放された非行少年を導く「夜回り尊師」としての名声を高め始めていた。具体的には、週に2~3度、深夜に駅前や不良の溜まり場を訪れ、そこにいる子供たちに声をかけ、帰宅を促して歩くのである。

 麻原がこうした活動を始めた背景には、一般人の武装勢力を味方につけたい、という思惑があった。パッと思いつくのはヤクザだが、いかんせん割高である。無論、こちらに入る利益も巨大ではあるが、それはこちらが彼らの期待に応えている間だけの話。こちらがヘマをして、パワーバランスが崩れた瞬間、ヤクザは共生者から捕食者へと姿を変える。

 ヤクザに一度餌として認識されてしまえば、もうあとは骨の髄までしゃぶり尽くされるだけだ。リスクを冒さず、低コストで働いてくれる一般人の武装集団として、麻原は街の不良少年を味方につけることを思いついた。

 麻原の掲げる地域密着政策とも合致するこの方針がうまくいけば、戦略、戦術の両面において、選択の幅が大きく広がるのは間違いない。また、地域の大人たちからの印象も良くなり、お布施の額が増えることも期待できる。数週間前、新加入の信徒、小田島鐡男に薦められて視聴した、神奈川県で夜間高校の教師をしていた人物の動画を観て、猿真似で始めた活動だったが、いい方向に成果が期待できそうだった。

「お前たち、腹は減っていないか?ガストに行くなら、連れていってやるぞ」

「ええー、またガスト?もう飽きたよ。どうせだったら、安楽亭くらいに連れて行ってよ」

 これまで麻原は、飯を奢るのと引き換えに子供の帰宅を促す方法をとっていたのだが、そろそろ限界が近づいてきたようだ。いつの時代も、子供というのは、大人が甘やかせばどこまでも付け上がる生き物である。このまま同じ手を使っていけば、要求する飯のグレードがどんどん上がっていくのは、間違いなかった。

「ははは、そうか。飽きてしまったか。まあ、俺も金持ちというわけではないのでな。ファミレス以上となると、なかなか難しいな・・うっ!?イタタタタ」

 会話の途中で、麻原はいきなり大げさに顔をしかめ、わざわざアディダスのジャージパンツを半分脱いで、ガーゼを貼った左の尻をアピールし、痛がってみせた。

「いやあ、昨日、とある高校の生徒がヤクザと揉め事を起こし、それを助けるために組事務所に乗り込んだところ、尻の肉をナイフで切れば赦してやる、と言われたものでな。本当にやってやったんだが、そのときの傷が痛んで仕方がない。まあ、俺のこんな尻の肉などと引き換えに、子供が助かるなら、安いものだがな。はっはっは」

 いつまで経っても「そのお尻、どうしたの?」と聞いてくれない子供たちに対し、麻原は必要以上に細かく、怪我をした経緯を説明して見せた。

 麻原が手本とする神奈川の元教師が、生徒が暴力団から足抜けするのと引き換えに小指を一本差し出したエピソードをパクった今の話は、言うまでもなく、デマカセである。実際には麻原の傷は、今朝、散歩をしている際に、電柱に立小便をしていたところ、いつもその電柱にマーキングをしている犬に吠え掛かられてしまい、驚いて尻餅をついた際に、道路に落ちていた石で痛めたものだった。

「そんなミエミエの嘘はつかなくていいよ。尊師の汚いケツなんて、見たい奴がいるわけないじゃないか」

「な・・・っ」

 麻原が、子供たちの予想外の返事に絶句するのを見て、麻原が怪我をした本当の理由をしっている関光彦が、ため息をついている。なにかもう、フォローを入れてやるのも、ツッコミを入れてやるのも恥ずかしい、といった感じである。

「くっ・・おい、タケシ。お前、イジメをやっていたことがあるか?」

「イジメ?三組のキョウに、よくタバコを買いに行かせたり、関節技をかけたりしているけど、あれもイジメになるのかな?」

「いいんだよ。昨日までのことは、みんないいんだよ」

 麻原が放った、神奈川の元夜学教師の名言のまるパクリに、場の空気が、通夜のように静まり返った。

 クソガキどもめ、自分の熱い思いがわからないとは。こいつらはきっと、自分の認める神奈川の元夜学教師ではなく、某議員の元教師に感化されるタイプに違いなかった。

 まったく、理解できない。あんな、暑苦しい体育会系のノリについていけない生徒はすべて否定してかかる、文字通りヤンキーにしか需要のない教師の、どこがいいのか。もしかして、中学生の夜遊びを咎めないどころか、積極的に連れ出そうとする、某漫画のDQN教師を信奉する輩か。理想の教師像を「金八先生」と信じてやまない麻原には、許せないことだった。

「・・・なんだかわからないけど、尊師が必死だから、帰ってあげるよ。またね」

 どうやら、麻原の誠意は伝わったようで、子供たちは帰路についていった。これもまたよし。勝負は過程ではなく、結果で決まる。どんな手を使ってでも、関光彦に呆れられようと、目的を果たせればそれでいいのだ。

「よし、光彦。俺たちも帰るぞ」

「結果オーライだからいいけど、カッコつけないでよ。こっちまで恥ずかしくなるじゃない」

 バトルロイヤル制覇に、大きな力を貸してくれる存在――。
 一般人の武装勢力を味方につけたバドラは、一強体制をさらに固めていく――。

凶悪犯罪者バトルロイヤル 第76話

 宮崎勤は、友人の山地悠紀夫とともに、初台のマンションの一室を監視していた。

 藤波知子。1980年、二件の営利誘拐事件を起こした女性死刑囚が、今回、木嶋香苗に殺害を指示されたターゲットだった。

 任務が決まってからまず僕らが手を付けたのは、藤波の個人情報の把握だった。住所は初めからわかっていたとして、勤務地、通勤時間など、二人交代制で藤波を徹底マークし、その生活パターンを洗い出した。

 その結果わかったのは、藤波はナプキンよりもタンポン派であること。ブラジャーはフロントホックのものを好むこと。ムダ毛処理にはローションを用いず、入浴時に石鹸で体を洗いがてら行っていること、などだった。

「宮崎くん。カラスじゃないんだから、ゴミ漁りはその辺にしたらどうだい」

 マンションのゴミ捨て場から回収したポリ袋を、希少価値の高い化石を探す考古学者の探求心で漁っていた僕に、山地くんが、やや呆れ気味に言った。

「うん・・もう少し・・・」

 山地くんの言葉を聞き流し、僕はポリ袋の中から見つけたりんごジュースのパックに刺さっていたストローを、ペロペロと舐めた。また、伝線したパンストの、ちょっとすっぱいような臭いを心ゆくまで吸い込み、続いて、タンポンの経血が付着している部分を、コンビニで買ったアサリの味噌汁に浸して飲んだ。ちょっと鉄っぽいような、なんともいえない味だった。

「あっ。宮崎くん。藤波知子が、着替えを始めたよ」

「えっ」

 山地くんの報告を聞き、僕は望遠鏡のズームを最大にして、藤波の部屋を覗いた。数十分前に、勤務先の「マツモトキヨシ」から帰宅していた藤波は、余所行きの服から、薄いブラウス一枚、下はパンティ一枚という姿に着替え、テレビを視聴し始めていた。

「くそう・・ババアめ・・そんなに大股を開きながら、オッサンみたいな座り方をしやがって・・」

 僕は藤波に毒づきながら、テントを張った股間を、もぞもぞといじくった。

 藤波知子は、逮捕当時34歳。バトルロイヤルにも、その当時の外見で復帰している。実年齢でも僕より20歳近く年上の婆さんだ。しかし、委員会から犯罪行為を禁止されており、一般人の女性への性犯罪を行うことができない僕にとっては、藤波は貴重な性欲のはけ口だった。

 妥協の末に選んだ対象とはいえ、藤波はなかなかの美人で、女性経験が無い僕には、十分刺激的だった。近頃の僕は、あの女に「やさしいこと」をし、そのあとに「肉物体」にしてから、もう一度「やさしいこと」をし、あの女の身体の中に、大事なところが痛みを発するまで、僕の中の迸る液を放出してから、「肉物体」をステーキにして、僕の骨肉として吸収してあげる妄想を、四六時中していた。

「ったくもう・・お楽しみはいいけど、本来の仕事を忘れてると、あのでっかいオバサンに怒られちゃうよ」

「わかってるけど・・しょうがないんだよ。山地くんは、藤波を見て、欲情したりはしないの?」

「そうだなあ・・。女性の裸に興味がないわけじゃないけど、女性はセックスするよりも、殺した方が楽しいからなあ」

 山地くんはそういって、望遠鏡を降ろし、タバコに火をつけた。

 山地くんには、お母さんを殺害する前の十六歳のときに、六歳年上の女性との性交渉の経験があるという。そのときの話を聞いて、僕は羨ましくてならなかった。僕は前世において、結局、大人の女性の味を知らないまま死んでしまった。まあ、絶対数でいえば、幼い女の子の味を知らずに死んでいく男の方がずっと多いわけだから、ある意味勝ち組といえるのかもしれないが、だからといって、大人の女性とセックスがしたい欲求が消えてなくなるわけではない。

 僕は決意していた――。僕の童貞を、藤波知子に捧げることを。

「ふう。ちょっと僕、食事に行ってくるよ」

 山地くんが現場を離れた、その瞬間だった。僕が藤波宅のベランダに仕掛けていた高性能盗聴器が、ブリッ、という、妙な音を拾った。

 望遠鏡の中に見える藤波は、左手をひらひらとさせて、空気を攪拌しているように見える。それで僕はピンときた。藤波は、放屁をしたのだ。

 雷に打たれたような衝撃を受けた。これまで僕は、前世を含めた45年近い生涯の中で、女性というものは、男のように屁をしたり、糞をしない生き物であるように考えて生きてきた。たとえするにしても、それは男のように悪臭を発するものではなく、もっとこう、フローラルな、お花のような香りを発するものだと考えていたのだ。

 その信仰が一人の女によって全否定された瞬間、途轍もない性的興奮が催された。生涯で初めて女の生々しい姿を目撃したショックで、僕の分身は、まさに猛り狂っていた。

「うっ・・くっ・・・」

 聖剣エクスカリバーも顔負けの硬度を獲得した分身を、しごいて、しごいて、しごきまくった。その間に、藤波は部屋から出て、愛車の赤いフェアレディに乗ってどこかに出かけてしまったが、僕は構わず、快楽のステップを刻み続けた。脊髄を電流が走り、快感はやがてペニスへと伝わる。

「ふおおっ・・うっ・・・」

 熱い液体が、掌の中に放出された。僕はそれを一滴も零さぬよう気を付けながら、藤波の部屋にまで持っていき、ドアノブに塗りたくった。なんかベトベトして、室内プールみたいな臭いを発している。藤波がそれに気づいて悲鳴を上げるもよし。気づかず、僕の遺伝子と、良質なタンパク質が含まれたアルカリ性の液体をべっちょり触るもよし。どちらにしろ、興奮できる映像が見れそうだった。

 楽しい楽しい、殺しの任務。藤波知子。
身も心も、僕が侵してやる―――。

凶悪犯罪者バトルロイヤル 第75話

 市橋達也は、福田和子からの呼び出しを受けて、店へと向かっていた。今日は店は定休日だが、何か特別に用事があるのだという。バトルロイヤルを勝ち残る上での、相談事だろうか。

 福田さんは、店の前で立って、僕を待っていた。水色ワンピースに、白のレディースハット。妖艶な魅力を持つ彼女だったが、清楚な出で立ちもよく似合う。

「おはようございます。用って、なんですか?」

「あら。若い男と若い女が二人で会うのよ。デートしかないじゃない」

 唐突な福田さんの言葉に、僕は頭の中が真っ白になった。デート?殺伐とした戦いに身を投じる僕たちに、あまりにも不似合いな言葉を、僕はどう受け止めていいのかわからなかった。

「なに言うとんねん!オバハン、僕の母ちゃんみたいな年齢やろ!」

 福田さんがおどけた調子で言って、僕の頭を軽くチョップした。

「ったくもう。突っ込んでくれなきゃ、変な感じになるじゃない」

「え・・あ・・」

「ほら、行くわよ」

 福田さんに手を引っ張られ、僕は駅前へと向かっていった。

 初めに行ったのは、美容室だった。回転率重視の1000円カットだが、坊主頭にするだけなら、ここで十分だ。バトルロイヤルが開始されたから三か月あまりが立ち、僕の髪の毛はかなり伸びてきている。ここで一度リセットすれば、だいぶ印象は変わってくるはずだった。

「サッパリしたじゃない。食べ物を扱う店なら、そっちの方が衛生的でいいわね。ていうか、可愛い」

 福田さんが背伸びをしながら、180センチある僕の頭を撫でた。

 それから、僕らは電車に乗って、「東京ドームシティ・アトラクションズ」に向かった。一緒にアトラクションに乗ったり、ソフトクリームを食べ歩いたり。何も知らない人から見たら、たぶん、本当の恋人同士に見えただろう。

 僕が命を奪ってしまった「あの人」と、僕は恋人同士になりたかったのだろうか。実際、よくわからない。人を愛するということが、よくわからない。僕はただ自分の所有欲とプライド、あるいは性欲を満たすためだけに、女性を欲してきた。それについて、疑問を抱いたこともない。

 僕にとって女性は、自分を認め、思い通りになってくれる間は男性よりも上位だが、自分のプライドを傷つける側に回った瞬間、男性、いや虫ケラ以下の存在と成り果てる。人生をボロボロにすることすら躊躇はない。いやむしろ、積極的に潰すべきである。その考えが行き過ぎてしまったから、あんな事件を起こしてしまった。

 正しかったが間違っていたのかでいえば、変な日本語だが、間違いなく間違っていたのであろうとは思う。だが、改心せよと説教されるのも、釈然としない部分がある。だって、僕自身が愛された実感なく生きてきたというのに、どうして人を愛せるというのか。一度としていい思いをしたことがない人間が、人に与える気持ちになんかなれるのか。

 どこまでも、自分本位の人付き合いしかできない人間。それが改心もせず、再びこうして野に放たれてしまった。この上はもう、何も望まない。誰に何を期待することもなく生きていく。

 娑婆で味わう孤独は、獄で味わう孤独よりも辛い。みんなが裸になっているところで裸でいても羞恥は覚えないが、みんなが服を着ているところで裸になっていれば、強い羞恥を覚える。それと一緒で、手を伸ばせば人の温もりに触れられる場所で孤独でいるのは、孤独が当然の場所で孤独でいるより辛いのだ。

 だからこそ、その道を行く。一生の孤独を、「あの人」への償いの代わりとする。干上がった砂漠を、ただ一人でひたすら歩き、一人で死んでいく。

「なにを難しい顔をしているの」

 観覧車のゴンドラの中で向かい合う僕に、福田さんが言った。

「いえ、あの・・・」

「悩むなら、とことん悩めばいいわ。悩みが消えるまで、悩むしかない。それが、死ぬまでであっても」

 てっきり、考え方を変えろ、とか、悩んでたっていいことないよ、とか、前向きになろうよ、とか、石を水に浮かべろというのと同じくらい不可能なことを言われるかと思ったら、違っていた。やはり、この人はわかっている。どうしようもない暗がりに落ち込んだ者に、下手な説教や中途半端な慰めをかけるのは、ナイフで腹を刺された人に絆創膏を渡すくらいに、無意味であることを。
 
「さあ、帰りましょうか」

 夕飯時を前にして、僕たちは巣鴨へと帰っていった。なにか、逃亡の極意とか、そんな話を聞けるのではないかと思って、少し気合いを入れていたのだが、本当に、ただデートだけをして終わった。いや――。もしかしたら、髪を切らせたことといい、無言のうちに、なにか僕にアドバイスを送ってくれていたのかもしれない。寮に帰ったら、じっくり記憶を取り出して、思い出してみよう。

 お互いの住処に帰る前に、店の前を通ると、なぜか扉が開いていた。店主か誰かがいるのならいいが、泥棒が入ったのなら大変だ。僕たちは様子を見に、店へと入った。

 厨房に広がる血だまり―――。白のユニフォームを真っ赤に染めて、タイルの床に突っ伏している店主――。包丁を持って店主を見下ろしているのは、カワゴエだった。

「カワゴエくん・・・どうして・・」

「・・このクソじじいが、食材の産地を偽装していやがった。そのことについて問い詰めた。口論しているうちにエキサイトして、やっちまった」

 能面のような表情で、カワゴエが淡々と言った。

「中学を出てから13年間・・。散々に殴られて、やりたいことも我慢して、もっといい条件のオファーも無視して、この店で修行してきたってのに・・。あと少し・・あと少しで、店を開けるところまで来たってのに・・。なんでこんなことになっちまったんだよ・・。なにやってんだよ俺・・。俺の人生は、なんだったんだよ・・」

 13年分の涙が一度に流れ出したかのような、悲痛な慟哭をあげて座り込むカワゴエに、僕も福田さんも、何も言えなかった。

 頭と右腕を失い、殺人事件まで起きてしまったレストランに客が入るはずもなく、店は閉店となってしまった。

「俺には料理しかねえからよ。また一から出直して、絶対に店開くからよ。そんときは、絶対に食いに来いよ!」

 そう言って、飲食の世界に残る決断をしたのはミツルだけで、他の店員は皆、事件のせいで気力を失い、業界を去ろうとしているようだった。

 結局、レストランでの滞在も、二週間ほどにしかならなかった。手元に残ったのは、給料を日割りした十一万円だけ。福田さんとも、また別行動をとることになった。基本的に僕らは、逃亡スタイルが違う。一緒にいては、足を引っ張り合うだけだ。

 警備会社での一件といい、ホームレス村での事件といい、レストランでの事件といい、僕が行く先々で、なぜか人が死ぬ。単なる偶然なのだろうか。それとも、僕が行く先々で、死の鱗粉を撒き散らしているのだろうか。

 関わる人すべてを不幸にして――。まだ僕は生きている。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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