スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

凶悪犯罪者バトルロイヤル 第三十九話

「・・・あ・・・あ・・・僕、宮崎勤・・・」

 緊張した僕は、わけもわからず、自分の名前を名乗っていた。なにをやっているんだ、馬鹿正直に名乗ったら、殺されるかもしれないのに・・。僕のバカ、僕のバカ、僕のバカ・・。

「宮崎勤・・。ああ、僕と同じ参加者の人だね。よかった。一般人だったら、どうしようかと思ってたんだ。さあ、上がって上がって」

 山地悠紀夫は白い歯を覗かせ、まるで自分の家のように、僕をアパートに招じ入れた。よかった、て、コイツは何を言っているんだ。侵入者が殺し合いをしている相手とわかって、逆に安心するなんて、相当ズレてるぞ。常識人の僕には、考えられない思考回路だ。

「お茶でも入れよう。コーヒーにする?紅茶にする?カントリーマアムもあるから、一緒に食べよう」

 いや、そんなこと言っている場合じゃないだろ。足元、足元。抉りだした外尾計夫の目玉を踏んづけてるぞ。あーあ、べちょべちょの液体で靴下が汚れちゃって・・。あ、今度は、なんか干からびたウインナーみたいなのを踏んづけたぞ。なんか毛だらけだな。しかもくせえ。ってうわ、よく見たら、男の大事なアレじゃないか。知らなかった、アレって、身体から切り離すとあんなに萎んじゃうんだ。

 とりあえずコーヒーを注文した僕は、山地悠紀夫と一緒にカントリーマアムを食べた。電子レンジで50秒くらい温めてから食べるのが美味しいと、山地は教えてくれた。

「ふう、おいしかった。今、4時か。宮崎くんは、バイトとかしてるの?」

「え?いや、バイトはしてないよ。木嶋佳苗っていう女の稼ぎで食べてるんだ」

 また、聞かれてもいないのに、プライベートな情報を打ち明けてしまった。こいつは友達でもないのに、なに気を許してるんだ、僕は。

 そういえば、僕は友達というのが出来たことがなかったな。小、中、高、大を通じて一人ぼっち。同じ趣味を持つアニメのサークルですら嫌われていた。そんな僕が、こいつは友達とか友達じゃないとかいうのも、おかしな話か。

「ふーん。門限とかあるの?」

「いや、特に決まってはいないかな。遅くなるようだったら、電話しなさいって言われてるけど」

「そっか。じゃあさ、一緒にゲームしようよ」

「ゲーム?うん、いいよ」

 ゲームは大好きだ。グランドマスターによって娑婆に解き放たれてから、ゲームは色々やった。アニメオタクで知られ、いわゆるファミコン世代にあたる僕だが、意外にもゲームは、捕まる前はあまりやったことがなかった。最近のゲームは絵もキレイで、やり過ぎで過労死してしまう人も出るくらい面白いと拘置所で聞いていたから、ネットカフェ生活を始めるや、さっそく色々なゲームをやった。ゲームは僕を、めくるめく夢の世界に導いた。

 まるで映画のような美麗なグラフィック。臨場感溢れるフルボイス。快適な操作性。どれをとっても、僕の世代とは比べものにならない。人間の英知の素晴らしさが、小さな電気箱の中に凝縮されている。僕は夢中になった。ゲームさえあれば、一生独房の中で生きていてもいいと思った。

 最近のゲームは、シナリオも練り込まれている。特に僕が気に入ったのは、「バイオハザードシリーズ」だ。アクション、謎解き、タイムアタックや縛りプレイなどのやり込み要素。ゲーム性だけでも面白いが、製薬会社「アンブレラ」と、それに対抗する人々の戦いを描いた壮大なストーリーが実に素晴らしい。ネットでは「B級」なんて言われているらしいが、だからといってチープということにはならない。確かに大雑把ではあるが、B級にはB級の良さがあるのだ。

 何よりキャラクターに魅力がある。クリス、ジル、レオンら、熱くて人間味のある主人公格たち、マッドサイエンティストのウィリアム・バーキンやアレクシア・アシュフォードの狂気と戦闘BGMの異常なカッコよさ。しかし、最大のスターは、シリーズ最大の悪役、アルバート・ウェスカーであろう。

 おそらく初代の時点では、悪のカリスマとなることを期待されていなかったウェスカーの扱いはぞんざいだ。一応、黒幕という役どころなのだが、家族を人質にとったり、セリフはアンブレラの犬っぽいし、断末魔が情けないことこの上ないし、おまけゲームではゾンビになっちゃってるし、小物臭がプンプンする。

 しかし、バイオハザードが異常な大ヒットを記録して続編が作られると、ウェスカーは「実はアンブレラを裏切り別組織に身を売っていた」「タイラントによる死を偽装し、ウィルスにより超人となっていた」という後付設定で、華麗に復活する。それからの活躍ぶりも、まさに華麗の一言だ。

 「ベロニカ」では、トレードマークのグラサンを外して綾波レイみたいな赤いお目目を披露し、超人的な身体能力で人外アレクシアと渡り合い、「アンブレラ・クロニクルズ」では悪役ながら主役に抜擢され、「4」や「ダークサイド・クロニクルズ」でも存在感を示した。そして、「5」でのマトリックスぶりである。戦闘BGM「wind of madness」、ロケットランチャーを手投げするシーンのカッコよさは異常である。というか、それが出来るならタイラントとかいらなくないか・・?

 人間性もカッコイイ。190㎝の長身に金髪、グラサンという出で立ちは、どんなファッションでも格好いいし、眠そうな声もいい。フットボール、戦史研究という、文武両道を地で行く趣味も渋いし、生物工学の権威でありながらアンブレラの諜報部員としても活躍し、特殊部隊の隊長も務めるなど、ウイルスを打つ前から、十分に超人だった。

 しかし、僕が何より惹かれたのは、「ウェスカーズ・リポート」に書かれているこの記述だ。


4年前、バーキンの立案した「G-ウィルス計画」が承認された時、私は情報部への転属を希望し、それは、あっさり受理された。
私が研究員としての道を断念し転機を図るというのは、誰から見ても自然な成り行きに見えたはずだ。
実際のところ、「G」の構想は最早、私などがついて行けるレベルを超えていた。
たとえ、スペンサーの真意を探るという目的が無かったとしても、その時、研究員としての自分の能力に限界を見出したのは確かな事だった。


 ウェスカーはわかっているのである。大いなる野望を抱き、頂点に君臨しようとする者が、些末なプライドに拘ることの愚かさを。研究など、たった一つの分野で挫折したくらいで、ウェスカーは挫けたりはしない。そんなものは得意な人間にやらせて、自分はそいつらを顎で使う立場になればいいと、割り切って考えているのである。この合理的思考こそ、英雄の条件でなくてなんだというのか。

 その合理的なウェスカーが、新世界の神となる方法として考え出したのが「飛行機で世界中にウィルスをばら撒く」という、なんとも力任せな、大雑把な方法であったのはお茶目なところであるのだが。

「さあ、やろうやろう」

 山地は、床に転がる外尾の首をサッカーボールみたいに蹴飛ばし、テレビ台からゲームを引っ張り出して、電源を入れた。

 それから僕たちは、「桃鉄」「FPS」「プロ野球スピリッツ」「ストリートファイター」など、対戦型ゲームを楽しんだ。山地は現代っ子だけあってさすがにゲームがうまく、何度も負けたが、彼が懇切丁寧に操作を教えてくれるおかげで、僕も随分上達した。

気付くと、窓から見える空はすっかり暗くなっていた。

「もう、こんな時間か。そろそろ帰らないと、バイトに遅れちゃう。宮崎くん、また今度遊ぼう」

「うん、いいよ」

「よし。じゃあ、携帯番号の交換だ」

 僕たちは携帯番号を交換し合い、今度、暇なときに、また二人で会って遊ぶことを約束して別れた。

 僕は人が嫌いだ。男も女も、みんな嫌いだ。人と一緒に過ごして、いい思いをしたことがない。記憶にあるのは、嫌な思いで、むかつく思い出ばかりだ。

 だが、山地くんと一緒にいるときの感覚は違っていた。悪くなかった。遠い記憶・・もう、思い出せないほど昔・・僕にもあったはずの、汚れなき時代の記憶を、思い出せさせてくれた。
スポンサーサイト

凶悪犯罪者バトルロイヤル 第38話

 宮崎勤は、今日もまた木嶋佳苗の命令で殺人をすべく、山手線で新大久保に向かっていた。電車内で退屈を紛らわすため、ブックオフで買った漫画を読む。今日セレクトしたのは、100巻を超える超長編ボクシング漫画「はじめの一歩」である。

 この漫画を一言で評するなら「堕落した名作」であろう。日本漫画史上、いや、日本文化史上、一つの作品の中で、これほどまでに評価が分かれる時期があった作品は存在しない。あまりのクオリティの差から、「作者複数人説」までもが語られるほどである。

 その「作者複数人説」でいう所の「初代」が描いたとされるのが、コミックスでいう1巻~30巻までである。主人公の一歩が高校2年でボクシングを始め、20歳で日本チャンピオンに輝くまでを描いた部分であるが、この時期は非常にテンポが速く、物語がサクサクと進んで実に心地がいい。

 ただ速いだけでなく中身も濃密である。「スラムダンク」に代表されるジャンプ系のスポーツ漫画が、どちらかといえば天才が凡人を駆逐するストーリーを描いているのに対し、はじめの一歩はしつこいくらいに努力の大切さを謳っている。
 
 たしかに一歩は天才ではない。ハードパンチャーだが致命的に不器用で、足をまったく使えず、パンチをよくもらう。その一歩が、時代錯誤なラスト・サムライ、鴨川源二とともに頂点を目指す。他の主要登場人物にしても、その性能は尖ったものであり、万能の天才というのはあまり出てこない。最強キャラの鷹村すら、人気クラスの中重量級でなかなか試合が組めないというハンデがある。それを乗り越えて、勝利を掴む。そこに、大多数の凡人である読者はカタルシスを感じるのである。

 これは、作家として必ずしも順風とは言えなかった作者の経歴から生まれた作風であろう。作者は16歳で賞入選を果たすが、その後は鳴かず飛ばずで、何度も自信を叩き折られて23歳までくすぶり続け、結婚して子供も生まれ、ラスト・チャンスのつもりで描いたはじめの一歩で、ようやくブレイクを果たした。その苦労が、作者の原動力となっているのだ。

 気弱だった一歩が、鷹村ら豪快で暖かい先輩に揉まれ、素晴らしいライバルたちと拳を交える中で成長していく様は感動を与える。怪我やトラウマによる再起不能など、ボクシングの過酷さもちゃんと描いており、ただのお花畑展開ではない。「初代」が描いた部分だけでも、間違いなくスポーツ漫画の傑作である。

 「初代」が描いた一歩を、さらなるステージに押し上げたのが「二代目」である。コミックス31~45巻に相当する部分であるが、この時期の一歩は、サブキャラに焦点を当てた群像劇として評価が高い。

 凡人が努力と工夫で怪物王者に善戦した「木村VS間柴」や、準主役ともいうべき鷹村が世界王者に輝いた「鷹村VSブライアン・ホーク」は、常にベストバウトのトップ3に名を連ねる名試合である。鴨川の青年期を描いた「戦後編」や、「惚れた女の前でカッコつけてえんだよ」の超名ゼリフを生んだ「伊達VSリカルド」も熱い。「一歩VSハンマー・ナオ」も、作風がやや暗く少年漫画向きではないが、ゲロ道の不器用さがよく表れていて、大人になってから読み返すと良さがわかる。

 冷静に読み返すと、ツッコミどころは多い。鷹村とほぼ同体格のホークがなぜか減量を必要としていなかったり、減量幅が大きいならスタミナはともかくそれなりにパワーはあるはずの宮田が非力なままだったり、一歩より少し前に王者になったくらいの間柴が、いつのまにか五回も王座を防衛して、鷹村を差し置いて世界から話が来ていたり、などである。中重量級程度のパンチでリング全体が揺れたり、鷹村の「覚醒」、鴨川の「鉄拳」など、ややオーバーで、安易かつ力任せの表現も、この時期から目立ち始める。

 しかしこの時期には、「細けえことはいいんだよ」で済ませられる勢いがあった。同じくツッコミどころが多いスラムダンクが、文句なしの名作と讃えられているのと同じ理屈である。努力を大切にした作風も変わっていない。鷹村の宿敵ホークが、ルールを順守しているにも関わらず、「努力をしない」という点で作中最大の悪役と認識されているのが、それをよく表している。鷹村が世界をもぎ取ったパンチが、得意の野生パンチではなく、基礎中の基礎のワンツーであったのは、最後のブザービーダーをダンクではなく、練習で身に着けたジャンプシュートで決めたスラムダンクに通ずる美しさがある。

 この時点で、スポーツ漫画の金字塔まで評価を高めたはじめの一歩。しかし作品は、ここから緩やかに凋落を始める。

 練習の積み重ねではなく「パキーンパンチ」で片づけてしまった島袋戦、風格はあったが、ファイトスタイルは宮田と被り、キャラは間柴と被るという(最初は慇懃無礼キャラで出てきたはずなのに、なぜいきなり口調が粗暴になった?それで差別化ができなくなった)どうしようもなさの沢村戦、「野生+科学」でホークを倒したはずなのに、なぜか「野生VS科学」の図式になったイーグル戦。明らかにクオリティが劣化している。よかったのは「たくぞー」戦くらいだろうか。格下との試合で一歩の成長が見れ、また敵キャラ視点で一歩を見れたのもよかった。「腹筋」など、ネタ要素を含んでもいる。

 しかし、そこからはもっと頂けない。「一歩VS宮田待ったなし!」の状況から、ぐだぐだぐだぐだぐだぐだと引き延ばすのである。挙句である。

 土下座である。丹念に丹念に作ってきた流れを全てぶち壊して、一歩と宮田の試合を中止させたのである。とんでもない暴挙である。これによって、島袋戦以降の一歩の試合は、ほとんどが無駄になった。一歩VS宮田の前哨戦的位置づけの板垣VS今井などは、なんのテーマもない完全な無駄試合に成り下がった。

 正直、この時期の作者には明らかな劣化の兆候が見られ、一歩VS宮田が、鷹村VSホークのような名試合になったかどうかはわからない。それでも、一歩VS宮田はやるべきだった。やらないという選択肢はなかった。この二人の試合は主要キャラ同士の試合である。さらに作品評価が低下した後になっても、間柴VS沢村などがそこそこ盛り上がったように、「どっちが勝つかわからない」試合は、それだけで価値があるのだ。

 この決断は、作品に決定的なダメージを与えた。足利幕府が応仁の乱をきっかけに滅びの道を辿っていったように、大日本帝国がミッドウェー海戦をきっかけに敗戦の道を突き進んでいったように、はじめの一歩は完全に迷走を始めた。

 まったく無意味で無価値なイロモノ連発の「アジアチャンプ狩り路線」、読者に嫌われよう嫌われようと努力しているとしか思えない、板垣の「覚醒」、主要キャラの目を覆わんばかりの劣化具合、さらに拍車がかかった展開の冗長化、ボロボロと出てくる設定の矛盾。

 酷い。酷いとしか、言いようがない。作者は、シムシティで災害を起こしまくるプレイヤーみたいな思考に陥ったのではないかと疑うレベルである。この辺りの酷評に関しては2ちゃんねるで直近のスレを覗けば幾らでも語られているため、僕が語ることもないだろう。ただ、酷いとだけ言っておく。

 はじめの一歩の前半は、すべての作家が手本とすべき内容、後半は、すべての作家が反面教師とすべき内容である、との結論を出して、僕は漫画を閉じた。
 
 新大久保の駅で下車し、地図を見ながら二十分ほど歩いて、目的のアパートに到着した。外国人向けの、安普請のアパートである。この部屋の二階に、父子保険金殺人の外尾計尾が住んでいる。

 扉を開けた。血と臓物の臭いが鼻孔に侵入してくる。どうやら、誰かに先を越されたようだった。一応、確認のために部屋に入ろうとして、足を止めた。生臭い臭いの中に、かすかにタバコの煙の香りが混じっている。誰かいるのだろうか。それとも、殺される直前、外尾が吸っていたタバコだろうか。

 確認するか、逃げるか、逃げてから後で確認するか。

 どうしよう。

 どうしよう。

 どうしよう。

 僕が頭を抱えて迷っていると、部屋の奥から、足音が聞こえてきた。やばい。やはり、誰かがいたんだ。

 足音はすぐに迫ってきた。僕は逃げる間もなく、その場で硬直するしかなかった。

 僕の前に現れたのは、涼やかな目をした、二十歳そこそこの美青年だった。間違いなく美青年である。犯罪者にしては美青年というレベルではなく、二枚目俳優としても通用する、正真正銘の美青年である。

 山地悠紀夫――。少年時代に実母を殺害し、少年院出所後、二人の女性を殺害した、正真正銘のシリアルキラーとの邂逅だった。

凶悪犯罪者バトルロイヤル 第三十七話

 
 市橋達也は、小池俊一とともに、上野公園のホームレス村を訪れていた。この集落は、全国のホームレス村の中でも、もっとも上下関係が厳しいらしいのだが、ホームレス界の情報に疎い僕たちはそんなことは知らず、単純に規模だけを見て、大きいなら大きいだけ住み心地がよかろうと判断し、入り込んでしまったのだ。

 新入りに冷たいと言われるこの集落で僕たちが歓迎されたのは、手土産が上等なものだったからだ。小池さんが持ってきた「獺祭」が、ホームレスの親分、元ヤクザのヤナイのハートをがっちりと掴んだのだ。空き瓶を酒場の裏から拾ってきただけで、中身は、スーパーで880円で買った「のものも」だとも知らずに、ヤナイは旨そうに全てを一人で飲み、僕たちをいきなり中堅クラスの待遇で迎えてくれた。

 イメージと違い、ホームレスたちは意外と小奇麗な身なりをしており、パッと見は、普通の勤め人や求職者と大差はなかった。幹部クラスになると、スーツなんかを揃えている人もいる。30代の若いホームレスで、コスプレの衣装なんかを持っていた人もいたから驚いた。

 仕事も、空き缶拾いなんかで生計を立てている人もいないではないが、半分は、雑誌などの売り子やサンドイッチマン、違法薬物の運び屋などで、一日あたり数千円からの収入があり、結構リッチな生活を送っていた。上野公園のような大規模集落に所属するメリットは、まさにそこにある。おいしい仕事を回してもらえる可能性が高いのだ。

 ここに来てから、小池さんは雑誌の売り子、若い僕は肉体労働で生計を立てていた。ヤナイが懇意にしている建築会社の現場に派遣され、一日4500円の給料で働くのだ。相場の半値の給料だが、僕の境遇に同情した建築会社の社員が食事をおごってくれたり、日用品や衣服、缶詰などを買ってくれたりするので、給料以上の収入があった。

 結構平和にやっていたのだが、一週間目の夜、事件が起きた。ヤナイの妻、レイコが、他の男に抱かれたとか抱かれないとかいう騒ぎが起きたのだ。

 数は少ないが、女性のホームレスはいる。彼女たちは女を武器に、力を持ったホームレスに身体を捧げることで生きている。信じられない話だが、70歳を超えた老女でも、ホームレスの世界では、高い需要があるのだ。50代なら引く手数多、40代なんてことになったら、もうマドンナ扱いである。

 ただ、若ければ若いだけ問題もある。妊娠の可能性があるということだ。中世以前において、女性の死亡原因のトップは出産だった。医療機器もなく衛生状態も悪く、その上高齢なホームレスの女たちの出産は、まさに死の危険と隣り合わせである。命を産み出すカウントダウンと同時に、死のカウントダウンが始まっているのだ。

 そんな状態にあるレイコを、ヤナイは金属バットで打ちすえていた。レイコは41歳。どこでどう道を間違えたのか知らないが、彼女は水商売でも成功しそうな美人である。ヤクザの情婦で、不貞を働いたのか、犯罪を起こして逃げているのか。なにか表に出られない、よほどの事情があると察せられた。

「おらあ!吐け!てめえは誰とヤッたんだ!吐け!おらあ!」

 ヤナイの非道な振る舞いを止めようとするものは、誰もいない。元ヤクザの組長のヤナイは、ここでは絶対君主である。基本的にホームレスの世界においては、過去の経歴は「言ったもん勝ち」で、皆それぞれ、好き勝手に身分を名乗っている。所詮は見栄だから、言っていることはコロコロ変わり、昨日は会社経営者だったのが、今日は元オリンピックの代表選手になっていたりなんてこともザラだ。

 ただその中でも、ヤナイの経歴だけは、本当かもしれないと思えた。僕は飯場で沢山のヤクザを見てきたから、「本物」は雰囲気でわかる。ヤナイの押し出しの強さと、獣のような奔放さは、確かに飯場で出会ってきたヤクザたちに酷似している。

 レイコは苦痛に耐えかね、一人のホームレスの名を打ち明けた。スズキ。一見、物腰柔らかな老紳士風で、性格も温和で春風駘蕩といった感じで、下の者にも優しく、ホームレスみんなに慕われている男性だ。

 ヤナイが子分に命じ、狼狽するスズキを自分の前に引っ立てさせた。

「てめえ~、人格者ヅラして、ヤルことヤッてんじゃねえか。俺の女に突っ込むなんざ、いい根性してんな、おお?レイコ、てめえもだ。腹ん中にガキ抱えたまま他の男に突っ込ませるなんざ、とんでもねえ淫乱だ。節操もなく蜜を垂らしまくるてめえのアソコは、塞いじまったほうがいいな」

 ヤナイが、らんらんと光る眼を、スズキとレイコに向けた。

「俺は優しい男だ。てめえらの望みは叶えてやる。ただし、あの世でな」

 ヤナイが子分たちに、レイコとスズキの「処刑」を命じた。20名からの子分たちが、金属バットや角材などで、スズキとレイコを殴りつける。悲鳴をあげさせないように、口に猿ぐつわを噛ませた上で、滅多無尽に殴りつける。

 助けに入ろうとは、思わなかった。僕には、守るべき者がいる。浅はかな正義感で大事な者の命を危険に晒すほど、僕は青くない。それに、ヤナイの恐ろしさを知りながら、いい年をして不貞を働いた彼らは、やはり軽率とも思えた。自業自得とまでいっては酷かもしれないが。

 見て見ぬフリをしていると、子分たちの暴力が、突然止まった。レイコが、産気づいたらしいのだ。

「ううっ・・・うっうっ・・・・」

 悲痛なうめき声が、集落の中にこだまする。ヤナイの子分たちは、凝然として立ち尽くしている。腰を抜かしてへたり込んでしまう者や、嘔吐してしまう者もいた。想像を絶する光景が繰り広げられているのは、見なくてもわかった。

「死体をトランクに詰めろ。いつもの、産廃の山に捨てて来い」

 やがてレイコのうめき声がやむと、ヤナイが子分に命じた。

 あまりの衝撃に、視界がしばらく色を失っていた。まさか、本当に殺してしまうとは思わなかった。

 レイコとスズキの死体がトランクに詰められ、運ばれていく。続いて、レイコの身体から排出されたモノが、新聞紙に包まれて運ばれていく。隙間から、ちらりと中身が見えてしまった。オレンジともピンクともつかない色をした、カエルとも鳥ともつかない物体が、生魚のような臭いを放って、妙な液体を垂らしていた。

 激しく嘔吐した。貴重な食料を、全部小動物のエサにしてしまった。

 テントに戻ると、仲間の一人が、ホームレスの殺人は、ヤクザや不良少年にストレス発散のために殺される事件ばかりが話題になっているが、実際には、ホームレス同士が私怨や物の取り合いで殺し合うケースの方が多いのだということを聞いた。

 人間は、どこまで愚かな生き物なのだろう。これ以上ない弱者に落ちぶれ果てても、まだ同族でいがみ合い、傷つけあい、殺し合っている。みんなで手を取り合って豊かになろうとするのではなく、誰かを蹴落としてプライドを満たすことを優先させている。どこに行っても、どこまで落ちても、それが繰り返される。

「気にしていたらこっちがもたん。さっさと寝るぞ」

 小池さんはそう言って、一足早く寝袋に包まっていった。

 思考のチャンネルを切り替えた。今しがた見た光景を、記憶の中から消し去った。レイコもスズキもお腹の子も、最初からいなかったのだ。そう思うことにした。僕も素人ではない。情に囚われていては、過酷な戦いを生き抜くことはできないことは、わかっている。

凶悪犯罪者バトルロイヤル 第三十六話

「うおおおおおっ!こええええっ!」

「うわあああああっ」

 時刻は22時30分。パソコンで動画観賞をしていた菊池正と関光彦が、阿鼻叫喚の悲鳴をあげた。彼らが視聴しているのは、ユーチューブに転がっていた「べティの誕生日」である。麻原彰晃率いるバドラでは、8月に肝試しを予定しており、そのときにために恐怖に慣れておこうと、心霊動画を視聴することになったのだ。

「これは作り物ですね。構成が説明的すぎます。それに、作りが甘いです。エミリーたちがテーブルを囲んでいる場面ですが、ケーキ以外に何も料理が載っていない。飲み物すら載っていないのは、明らかに不自然です」

 恐怖に震える他のバドラメンバーをよそに、正田昭が、冷静な推理を述べた。

「そ、そうだったのか。よかった~」

 単純な菊池正が、安堵の溜息をもらす。

「ってか、尊師、何してんのさ。一緒に動画観ようよ」

 パソコンから離れ、一人「イブニング」を読むふりをしていた自分に、関光彦が声をかけた。自分は、オバケの類は大の苦手なのだ。

「う・・い・・いや、俺は、遠慮しておく。ちょっとこれから、ヨーガをしなくてはならんのでな」

「何いってんの。午後のヨーガは、もう済んだでしょ。ほら、早く一緒に観ようよ」

 関光彦が、逃げようとする自分の腕を掴み、強引にパソコンの前に連れていった。

「なあ、心霊動画はいいから、プロ野球中継でも観ないか?ブランコのホームランが、見れるかもしれないぞ」

「尊師、野球はもう終わりましたよ。さあ、一緒に観ましょう」

 勝田清孝が、往生際の悪い態度を見せる自分に、ニヤニヤと笑って言った。尾田信夫が、パソコンを操作し、心霊動画を物色する。尾田が次に選んだのは、「奇跡体験!アンビリバボー!」の、心霊映像特集だった。

「鏡の中に写る・・少女の霊が・・恨めしそうに・・こちらを見ている・・」

 麻原は、歯を食いしばった。信徒たちは、動画を見ながら、自分の様子にも注目している。ここで目を背けるようなことがあれば、自分の威厳も崩壊してしまう。耐えるしかないのだ。

 そしてついに、カメラの中に、霊の姿が映し出された。

「ううっ・・・・くっ・・・!」

 慣れが生まれてきたのか、今度の映像では、関光彦も菊池正も悲鳴をあげたりはしない。だが、自分にとっては、身も凍るような恐怖だった。

「もう一度・・・・」

 ふ・・ふざけるなっ。なぜ、もう一度やるのだ。あの恐怖を、二度も味わえというのか。しかし、バドラの信徒たちは、なぜこうも冷静でいられるのか。スタジオの所ジョージたちも、怖がっているではないか。ナレーションの声は、昨日、関光彦が観ていた、オバンゲリオンだかエバラゲリオンだかのアニメに出てきた髭面の男の声だ。あのアニメの中の男は、なかなか見どころがある男だと思っていたが、その声の主のことは、嫌いになることを決めた。

「ぬおおっ・・・くっ・・」

 麻原は恐怖に震えながら、縋るように、正田昭の方を見た。薄い唇は微動だにしない。さっきの動画のように、彼が作り物と言ってくれるのを期待していたのだが、それは叶えられなかった。

 地獄の時間は、就寝時間の23時30分まで続いた。信徒たちは、明日は「仄暗い水の底から」を観てみようという。憂鬱な気分を引きずりながら、麻原は床に就いた。


 翌朝。麻原たちは、朝食を摂りに「松屋」に足を運んでいた。麻原たちが揃って注文したのは、牛丼の大盛りである。

「こらあっ。袋の中の紅ショウガは、用具を使って一つ残らず使えって言ってるだろ!なんでわかんねえんだ!」

 七三頭の、やや古風ではあるがそこそこ整った顔立ちをした20代半ばくらいの店員が、若い店員に叱責した。若い店員は、紅ショウガの補充を行っており、その際、業務用紅ショウガの袋の中に、大量の紅ショウガが付着した状態で袋を捨てたことを咎められているようだ。

 たしかに食べ物を粗末にするのは褒められたことではないのかもしれないが、時と場合によるだろう。暇な時間帯ならいいが、通勤前のサラリーマンで賑わっている今の時間帯にそんな細かいことをいちいち言うのはどうなのか。「食べ物を粗末にするのはお金を粗末にするのと同じこと」など、しみったれ根性を変な言葉で美化するのは結構だが、そのために一番大切な客をないがしろにしていては仕方ないと思うわけである。

「お客さん、ちょっといいですか?」

 七三頭の店員が、今度は麻原たちの前にやってきた。

「うちの店では、持ち込みは禁止されているんです。その牛丼、返してもらえますか」

 どうやら七三頭の店員は、麻原達が、自宅から持ち込んだ卵を牛丼にかけたことを咎めているようだった。

「なぜ、返さなくてはならないのだ。昨日の店員は、見逃してくれたぞ」

「そいつはそいつ。俺は俺です。今、店を任されているのは俺ですから、俺の権限で決めさせてもらいます」

 麻原が抗議すると、七三頭の店員は、巨悪に立ち向かう青年弁護士のような眼差しでもって自分を見据えて言った。時給は弁護士の十分の一にも満たないのに、正義感だけは負けていないつもりらしい。バイト店員のくせに、くそまじめに仕事しおって。こういう奴がいるから、職場が息苦しくなるのだ。バイトはバイトらしく、いかにサボりながら立ち回るかだけを考えて仕事をしていればいいだろうが。

「ふざけるな。俺たちはちゃんと金を払って、飯を食っているのだ。それをいくら持ち込みした食品をトッピングしたからといって、なぜ返さなければならないのだ。そんな法律があるのか!」

「屁理屈をこねないでください。どうしてもというなら、俺のポケットマネーから金を返します。それで帰ってください」

 麻原はゴネたが、七三店員は聞く耳を持たない。なんと頑固な男であろうか。

「ちょっと待ってください。私たちから牛丼を取り上げたとして、残った牛丼はどうするつもりですか?」

 麻原がさすがに観念して引き上げようとしたところで、正田昭が口を開いた。

「食べ掛けは捨てる。それがどうかしたか?」

「先ほどあなたは、紅ショウガを無駄にした件で、後輩を叱責していましたよね?器に半分以上も残った牛丼を、私たちが食べたいと言っているにも関わらず捨てるというのは、それと矛盾していると思うのですが、どうでしょうか」

 正田昭が理路整然と矛盾を解くと、七三頭の店員は眉間にしわを寄せ、何かを考え始めた。

「・・いや、参りました。確かに、あなたの言う通りだ。どうぞ、食事を続けてください」

 さしも頑固な七三頭の店員も、ぐうの音も出ない正論である正田昭の抗議ばかりは受け入れざるをえないようだった。

「・・うむ、さすがは昭だな。俺の言いたいことを、全て言ってくれた。俺もまったく同じことを思っていたのだが、信徒の成長のために、あえて、クレーマーみたいな駄々を捏ねたのだが、さすがは昭、見事に期待に応えてくれたな」

 自分がそう取り繕うと、菊池正が「くそう、そう抗議すればよかったのか」と悔しそうな顔を見せ、勝田清孝が、羨ましそうに正田昭を眺めた。

「お褒めの言葉に預かり、光栄です。ちなみに尊師。あの男は、連続企業爆破事件の大道寺将司です。バドラに誘ってみてはいかがでしょう」

 そうだったのか。大道寺将司といえば、東アジア反日武装戦線の中核メンバーである。元思想犯ならば、あの頑固さも納得である。ああした、頭はいいが頭の固いタイプの男を洗脳して染め上げれば、強力な戦士となるのは、オウム時代に実証済みである。今、フリーの立場ならば、誘わない手はない。

 麻原は退店時、大道寺に声をかけ、バドラに誘った。その晩のうちに大道寺から連絡があり、翌日の面接を経て、大道寺は正式なバドラの信徒となった。

 大久保清の死を乗り越え、バドラは新たなステージへと向かっていく――。

凶悪犯罪者バトルロイヤル 第三十五話

 

 宅間守と金川真大は、角田美代子の配下、上部康明が運転するワゴンRで、角田のアジトへと向かっていた。助手席には、角田の右腕的存在である、福岡看護師保険金殺人事件の主犯、吉田純子も乗っている。

「あんたら、いい食いっぷりね~。育ちざかりの子供みたいで、可愛いっ」

 吉田がからかうのを聞き流し、宅間はコンビニ弁当を貪り食った。味も栄養バランスも関係ない。これが実はドッグフードだと言われても、自分は箸を止めないだろう。ただひたすら、胃袋を満たすことのみに専心し、貪り食った。

 腹が膨れてきた頃に、ワゴンは世田谷に建つ四階建てマンションの前に停まった。この時点ですでに、飯を食うという宅間の目的は達成されてはいたのだが、他に予定があるわけでもなし、とりあえず、角田には会ってみることにした。エネルギーも補充されたのだし、もし襲われたなら、返り討ちにして資金を強奪すればいい。

 エレベーターで最上階へと昇り、宅間達は部屋へと案内される。

「姐さん、連れてきたよ。宅間守と、金川真大」

「おう。よく来たね。まあ、くつろいどくれよ」

 宅間と金川を迎えたのは、妖怪のような風貌をした老女だった。宅間はソファに腰を降ろすと、角田の配下たちに視線をやる。角田が座る、玉座のような一人掛けソファの左右に立っている男が、藤井政安、松本健次の二人だそうだが、どっちがどっちだかはわからない。角田の後ろに控えめな面持ちで立っている女が、石川恵子か。この女は、なかなかの美人だ。違う立場で出会っていたなら、口説くか犯すかしていたところだ。

「んで、話ってなんや」

「まあ、そう急くな。関西出身の大物二人が顔を合わせたんや。まずは、郷土の昔ばなしにでも花を咲かせようやないか。そや、酒でもやるか。純子ちゃん、魔王だしたって」

 角田に命じられて、吉田が酒棚から、焼酎「魔王」の瓶を取り出した。すでに開封済みである。グラスに注がれた「魔王」がテーブルに置かれるが、宅間はそれには目もくれず、タバコに火をつける。

「せっかくやが、これは片づけてくれ。何が仕込まれてるか、わからんからな。出すんなら、缶ビールか何かにしてくれや」

 宅間が言うと、角田は嬉しそうに皺だらけの頬をくちゃくちゃにし、目を細めた。

「やはり、あんたは私が見込んだ通りの男だ。気に入ったよ。それじゃ、頼み事をさせてもらおうかね。あたしと、同盟を結んどくれよ」

 思っていたのとは違う誘いに、宅間は首を捻る。

「同盟?ワシを下に付けたいんやないのか?」

「あんたを意のままに出来ると思うほど、あたしは自惚れちゃいないよ。普段は行動を別にし、いざってときにだけ手を携える。あたしは金を、あんたは武力を提供する。あくまで対等な立場で、お互いを支援しあうのさ」

「ちょっと都合よく考えすぎなんちゃうか?そんな約束、ワシはいつ反故にするかわからんぞ?」

「それは、あんたを配下に据えたとて同じことやろ?あんたほど仁義や信義って言葉から遠いところで生きてきた人間はいないからね。それを承知しているからこそ、配下ではなく同盟者になってくれと申し込んでるんだよ。対等な立場なら、返ってくるものは小さいかもしれないが、恩を仇で返されるってことにもならないからね」

 宅間は考え込んだ。この角田という女がどんな罪を犯したのか、詳しくは知らないが、この女が確かな戦略眼の持ち主であり、また類まれなる人心掌握術の持ち主であることは、生前の評判からわかる。軍団の規模も大きく、同盟を組めば、頼もしい協力者となってくれることは確実だろう。それよりなにより、当面の資金のことがある。とにかく金が必要なのは確かであり、それがないと生きていけないのだから、角田の申し出は渡りに船ではないか。

「ええやろ。オバハンと組んだるわ」

 それ以外に、選択肢は考えられなかった。バトルロイヤルに、どこのどいつが参加しており、誰が誰と組んでいるのか知る由もないが、麻原のオッサンは敵に回してしまったし、この先、角田以上の勢力と同盟を組むチャンスが訪れるとも思えない。大局的見地で物を見るということがまったく苦手な自分であるが、この選択には間違いはないはずである。

 同盟が締結されると、宅間と角田は、それぞれ、お互いの情報を交換し合った。宅間が自分の戦歴を紹介すると、角田は満足そうに頷く。宅間が話し終えると、今度は角田が、参加者名鑑を開きながら、何人かの有力犯罪者をピックアップし、自分に紹介して聞かせた。

「組織の頭目クラスから紹介していこうか。まずは、あんたが戦った麻原彰晃。この男に関しては、説明するまでもないやろう。次に、重信房子の軍団を陰で仕切っとる、松永太。あたしが一番警戒しているのがコイツだね。何を仕掛けてくるかわからん、参加者いちの策士だよ。それから、スナック保険金殺人の八木茂。こいつも厄介な相手だね。連合赤軍の永田洋子、永田との死闘を生き残った小林正、一家全員で参加しとる北村ファミリーなんかも、最近伸びてきているみたいだね」

 誰が誰やらさっぱりわからんし、極めてどうでもいいのだが、重信房子とかいう女は美人だと思った。目が神がかっているというか、あまりにイノセントに過ぎるというか、自分や角田のような欲に満ちた獣とはまた違った狂気性を放っているのが印象的である。インテリというのも好みの要素である。しかし、この女とヤルことはないだろう。賢いオスは、交尾が終わった後に食われる可能性のあるメスには手を出さないのだ。

「次は、戦闘の面であんたの相手になりそうな奴を挙げていくか。まずは、加藤智大。2008年、あんたが池田小で暴れたちょうど同じ日に、秋葉原で7人を殺った男だ。戦闘力だけならあんたにも匹敵する、参加者屈指の豪傑だよ」

 宅間は怪訝な面持ちを見せる。こんな虚弱そうなガキが、2tトラックのアタックでかなりの数を稼いだとはいえ、成人7人を殺ったなど、信じられる話ではなかった。もっとも、隣に座っている男も、学ランでも着て歩いていたら学生と見分けがつかない坊ちゃん面のくせに、ミニ宅間などと言われるほどの事件と法廷での暴れっぷりを披露したのだから、見た目では判断できないが。まあ、このガキが本当にそれほどの戦果を挙げたのなら、いずれあいまみえる日も来るだろう。そのときには教えてやる。本当の悪魔と、ただ悪魔になろうとしただけの男の、器の違いというものを。

「そこにいる金川は味方だからいいとして、短時間での大量殺人の日本記録を持つ、都井睦雄。あんたが戦った、造田博。深川通り魔事件の川俣軍司。この辺りが目ぼしいところかね。あ、そうそう。ここにいる上部康明も、あんたらの同類だよ」

 自分と金川を、アジトまで運んだ男か。この男もまた、どうにも冴えない、印象の薄い男である。ここまで来ると、通り魔殺人とは、むしろ自分のような、見るからにデンジャラスな男が起こす方が異端なのではないかという気もしてくる。

「ふむ。そうだ、この上部はあんたにやるよ。似たような犯罪を起こした同士、そっちの方が居心地がいいだろう。どうせ戦闘のときには力を借りるんだから、あたしの戦力ダウンにはならないしね。あたしらとのパイプ役として、可愛がってやってくれ」

 別に一人で行動したって構わない自分からすれば、正直、有難迷惑な話ではあったが、角田から人質を取るという考え方なら、使ってやるのも悪くないのかもしれない。麻原軍との戦いでパシリがいなくなってしまったことでもあるし、連れていってやるとしようか。

「その他で、あたしが個人的に警戒しているのは、映画のモデルにもなった連続強殺犯の、西口彰だね。詐欺や強盗、殺人、あらゆる悪事を働きながら全国を行脚した逃亡犯。あたしの頭脳に、あんたの戦闘力、福田和子の逃亡術。それらを足して3で割ったような、個人の総合力では最高の男だろうね」

「別にビビることはないやろ。ようは、どれをとっても中途半端な器用貧乏ってことやないか。その道のオーソリティのワシとオバハンが組めば、何も怖くないやろ」

「頼もしいことを言ってくれるじゃないか。おっと、もう夕食の時間だね。あんたらも今日はここで食ってお行きよ。なんなら、泊まっていってもいいよ」

「お断りや。毒でも盛られたら敵わんわ。オバハンとワシは、戦略的に手を携えただけ。仲良しになったわけでもなんでもないんやからな」

 宅間が警戒しているようなことを言うと、角田はまた、嬉しそうに笑う。

「そうだったね。じゃあ、今日は、当面の金を持って帰りな。携帯は、いつでも繋がるようにしておくんだよ」

「24時間365日。来年の3月1日まで繋がるようにしておくわ」

 再び、二人の笑みがシンクロする。頭脳の角田と、戦闘の自分。この二人が組めば、どんな参加者も怖くはない。そして、この女も、けして怖くはない。
 
 言葉より刃。これだけ思想や化学が発達した世の中でも、最後に物を言うのは腕力なのである。小賢しい策など、力で捻じ伏せる。相変わらず生に執着はないワシやが、人の意思で命を奪われるのは我慢ならない。ワシを殺せるのは、ワシだけや。ワシを殺そうとする奴は、必ず殺す。たとえ、恩人であってもや。

「ほなな、オバハン。おいお前ら、行くで」

 宅間は、角田から受け取った50万円をポケットにねじ入れ、席を立った。
 
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
最新コメント
最新記事
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。