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凶悪犯罪者バトルロイヤル 第十九話

「ちょ・・おま・・なんやそれは。それを、どうする気ィや」

 宅間守は、金川真大が持つアーチェリーの弓を指さしながら問うた。

「ああ、これすか。いや、近くの高校の前通りがかったら、アーチェリーの練習場が見えたんで。ちょっと部室に忍び込んで、かっぱらってきちゃいました」

 自分が起こした事件以来、全国の学校機関のセキュリティシステムと危機意識は飛躍的に向上したと聞いたが、よく侵入できたものだ。坊ちゃん坊ちゃんした童顔の持ち主だから、内部の人間に怪しまれなかったのだろうか。

「俺が高校時代、弓道部で全国大会に出場したのは知ってますよね?和弓とアーチェリーの弓とは、多少勝手は違いますが、基本は同じです。この弓を使って、宅間さんの役に立ってみせますよ」

 どうしたものか。この場で殺すべきか、観念して子分にしてやるか、ということである。 

 同じ飛び道具でも、銃の方がまだ勝機はあったかもしれない。銃というのは、使いこなすのには相当な技術を要する武器である。素人の有効射程距離は、欧米の正式軍用銃ベレッタを用いて、せいぜい2メートル。それ以上離れれば、まず当たらない。女や子供、老人が迂闊に使えば、一発で肩が外れてしまう。引き金をちょっと引くだけで、屈強な男を一撃で倒せるような、簡単な武器ではないのだ。

 しかし、金川が持っているのは弓である。空自出身の宅間は、銃を使う相手との戦いなら、ある程度シミュレーションすることができるが、弓を持った相手と喧嘩をした経験はさすがにないから、想像するしかない。

 弓と銃の最大の差は、連射の速度である。おそらく第一射を躱してしまえば、自分の勝利は確実となるだろう。奴との距離は三メートル。あっという間に間合いに入り、コンバットナイフが喉を切り裂く。しかし、躱せるか?という問題である。

 沈思黙考。十秒ほど脳みそを振り絞って、結論を出した。

「勝手にせえ。そん代わり、出会いカフェとホテルの代金は貴様持ちやからな」

 とりあえず子分にしてやる。せいぜい、自分のために働いてもらう。隙を見て殺す。それでいくことに決めた。

「はい、もちろんっす!じゃ、俺いい店知ってるんで、案内しますよ!」

 宅間は金川を従え、繁華街へと向かって歩き始めた。金川のくそ鬱陶しい話に、浪速仕込みのツッコミを入れながら、陸橋を渡っていた際のことだった。

「あ、宅間さん、あれ見てください!あそこ歩いている奴!ほら!ほら!あいつ!橋田忠昭!バトルロイヤルの参加者ですよ!」

 宅間は言われた方向に目を凝らした。といっても、目を凝らしても意味はないのだが。自分はバトルロイヤルが開始されてから、名鑑には一度も目を通していないから、誰と言われても顔と名前が一致しないのである。開始10日目で自分が殺した二人の名前くらいは、委員会から届いたメールを見て、かろうじて知っていたが。

「くらえっ!」

 宅間は凍り付いた。金川が、いきなり人ごみ陸橋下の歩道めがけて矢を放ったからだ。

 信じられなかった。もし見間違いだったら、どうするつもりなのか?無関係の人間を殺した罪悪感は感じなくてもいいが、委員会に知れて処分されたらどうするのか?この男の辞書には、躊躇という言葉がないのか?無鉄砲さにかけては右に出る者がいないと自負していた自分が初めて出会った、自分以上の考えなし。なにか恐怖すら覚えてきた。

 金川の放った矢を受けた男が蹲った。それを見て、金川が陸橋を駆け下り始める。ここで逃げるという選択肢もあったが、なぜか自分は、後を追いかけていた。金川の実力を正確に把握したいという気持ちがあった。

「あっ。この野郎、まだ息がありますよ」

 金川の矢を受けた男・・橋田は、矢の突き立った肩を抑えて呻き声を上げている。息があるどころか、まだ戦闘力もありそうである。

「上等や。ぶっ殺して金を奪いとったろうやないか」

 強敵相手には小動物さながらの警戒心を見せるが、確実に勝てると見た相手には滅法強気となる自分の本領発揮。宅間はコンバットナイフを抜き、切っ先を橋田の眼前に突き付けた。

「ま・・待ってくれや・・。俺に敵意はない・・。有り金は全部あんたらに差し出すから、命だけは助けてくれんか・・」

 怯えた目で哀願する橋田。演技とは思えなかった。

「宅間さん、信じちゃだめっすよ。こいつは、シャブでトチ狂って、自分の女房を殺したばかりか、息子さえ手にかけた外道です!生かしておくべき人間ではないんすよ!」

 金川が、自分こそ、当初は妹を殺そうとしていたことを棚に上げて、橋田を非難した。外道かどうかは、殺すか否かの決定には関係ないが、コントロールが難しい相手であれば、味方にするわけにはいかない。

「あんた・・宅間さんやろ?俺、あんたの話を獄中で聞いて、憧れとったんや・・。あんたが社会に対して放った言葉、あれは全部俺が言いたいことやった・・。俺が言いたいこと、全部あんたが言ってくれたんや・・。反社会的な人間にとって、あんたはヒーローなんや・・・。なあ頼む、俺もあんたの仲間に入れてくれんか?ヒーローと一緒に、戦いたいんや・・」

「なに?お前も、宅間さんに憧れてんのか?」

「そうや・・だから頼む・・」

「うーむ・・。よし!気に入った!有り金を全部差し出すことを条件に、同行を許す!」

 自分を差し置いて、勝手に話を進める金川と橋田。どいつもこいつも・・。自分は人を統べる柄ではないというのに・・。

 橋田の言っていることは、自分が助かりたいための、口から出まかせなのかもしれない。また、仮に本気だったとして、自分はそんなことでは心は揺り動かされない。子分など、邪魔なだけだ。一人の方が気楽でいい。だが、現実には、もうすでに自分は一人、子分を抱えている。そいつは手強く、切ることは当分できなそうである。ならば、一人いても二人いても変わらないという気もしてきた。

 面倒くさい。まったく、面倒くさい。

「ったく、ホンマにどいつもコイツも・・。勝手にせいや!そんかわし、今度、ねるとんパーティに参加するときには、費用をもてよ!」

 宅間は歩き始めた。背後を、二つの足音が追ってきた。
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凶悪犯罪者バトルロイヤル 第十八話


  市橋達也は、小池俊一と席を並べて「ラーメン二郎」で食事を摂っていた。
 
 小池俊一。僕と同じ、全国指名手配犯だった男だ。ポスターの標語は、あまりにも有名である。つい最近、アパートから遺体で発見されたそうだが、それまでに11年という、僕を遥かに超える逃亡記録を樹立した人だ。

 小池さんから先ほど受けた、この大会を協力して生き残ろうという申し出に、僕は一も二もなく承諾した。自分と同種の人間なら、敵意がない相手を、無闇に殺したりはしないだろうことはわかっていた。バトルロイヤルを最後まで逃げ切るために、この情報化社会で11年もの逃亡生活を送ったそのノウハウを吸収したかった。

「逃亡のコツ?ま、そりゃ、なんといっても目立たんようにすることや。余計な口は一切叩かず、遊びもほどほどに。可能な限りは家から出んようにする。基本やな」

 それはわかる。僕も飯場で生活していたころは、必要最小限の挨拶と世間話以外は、ほとんど他人と口をきかなかった。元々人と話すのが大好きというわけではなかったから、この点は性格に恵まれたといえるだろうか。

 それに、無口は現場でも気に入られる。「仕事が出来る人は余計なこともする。だから嫌われる」飯場の現場監督が口癖のように言っていた言葉だ。「はい」「すみませんでした」「教えてください」現場では、この三つの言葉さえ使えればそれでいい。言われたことだけをやり、余計なことはやらない。そういう人が長続きする。

「あと、異性を誑かして家に転がり込むっちゅうのは一つの手やな。なんちゅうても経済的に有利や。意外と気付かれんもんやで。恋は盲目っちゅうが、気付いとっても気づかんふりする場合もあるしな。兄ちゃんなんか男前なんやから、試してみるのもええんやないか?」

 それはできないと思う。女性と暮らすとなれば、性の問題は不可避だ。僕は自分が起こした事件から、セックスに対して恐怖感を抱いている。飯場にいたころ、同僚たちは毎週のように飛田に女性を買いに行っていたが、僕はただの一度も同行したことがなかった。セックスが出来なくても女性を繋ぎ止める話術も、僕にはない。

 それに、飼っている猫のこともある。やはり僕には、どんなに大変でも、危険に身を晒しても、自分一人の力で生きていく方が性に合っている。

「兄ちゃんには言うまでもないことやが、外見を変えるのも基本中の基本やな。といっても、なんも高い金かけて整形せんでもいい。短髪なら長髪に、長髪なら短髪に髪型を変えて、髭を生やす。たったそれだけで、人間の印象はがらりと変わるもんや」

 整形せんでも、という言葉が胸に突き刺さった。名古屋市で受けた美容整形。あれがきっかけで足が付き、僕は逮捕された。費用をケチって胡散臭い病院でやってもらえば安く上がり、身分も割れなかったのだろうが、杜撰な治療で細菌感染でもして顔面崩壊してしまったらたまったもんじゃないから、仕方なかったのだとは思うが。整形せずに逃げ切れる自信もなかったし、運命だったのだろう。

「地獄のような痛みを我慢できるなら、硫酸で指紋を消すってのも手の一つやな。あ、でもこれは警察から逃げてるわけやないから、必要ないのか」

 逃亡生活初期の頃、縫い針を使って、自分で鼻と唇を手術したときの痛みが蘇った。本当に必死だったから、それほど辛くはなかった。

「ただ、今回は、警察から逃げるよりも厄介な戦になるかもしれんがな。東京都内には無数のヤクザの事務所がある。裏社会は今は平和共存路線やから、その情報網は、県警や所轄ごとに、縄張り意識の強い警察よりもむしろ強固やで。参加者の中には、ヤクザを味方につけようって奴が必ず出てくるやろ。そいつが金を使って俺らを探し始めたら一貫の終わりやで」

 同意して頷いた。飯場にいたころ、たくさんのヤクザを見てきたが、彼らは総じて執念深い。元締めのヤクザにも、食い詰めて作業員になった同僚の元ヤクザにも共通していえることだ。そんな彼らに、束になって、血眼になって居場所を探されたら、とてもじゃないが逃げ切れないと思う。警察から逃亡していたあの頃よりも、もっと頭と神経を使わなくてはならないようだ。

「ま、今はまだ焦る時期やない。ところで話は変わるが、お前、俺以外の参加者に会ったか?ちなみに俺は、二人ほど顔をみかけた。向こうは気づいてなかったようやけどな。東京ってのは、意外と狭いもんやで」

 浅草で会ったあの女性のことを話してみようか。小池さんは、今は協力者なのだから、情報交換は大事だ。

「浅草で会ったんですけど・・見た目、30歳から40歳くらいの女性で・・。僕の名前を知っていたから、多分参加者だと思うんですけど、名鑑を見ても顔が載ってなかったんですよね・・整形をしたんですかね・・・」

 小池さんは難しい顔でしばらく考え込んだ後、おもむろに口を開いた。

「俺の勘が正しければやが・・それはきっと、福田和子や。俺らの大先輩。兄ちゃんもよく知っとるやろ」

 福田和子。同僚のホステスを殺害して15年の逃亡生活を送り、時効直前に逮捕された女性だ。そのドラマチックな生涯には心酔する人も多く、テレビドラマ化もされてアイドル的な人気を誇っている。嘘か本当か、石川県で和菓子職人の家に転がりこんでいた時期に、メジャーリーグで活躍した松井秀喜選手と交流があったそうだ。犯罪史に残る逃亡犯が作った和菓子を食べて育った松井選手が、球史に残る国民的ヒーローになったというのは、なんとも数奇な運命である。

 あの女性が、福田和子・・。それなら、あのとき感じた、実のお姉さんを見ているような親近感も頷ける。

「あの女は怪物や。さっき、逃亡の基本は目立たないようにといったが、あの女は接客業に従事し、朗らかな性格で、近所の人気者だったそうやからな。兄ちゃんにも経験があるやろうが、田舎者ちゅうのは、余所者が来るとまずは疑って、いろいろ詮索しようとしてくる。それをかわして、何年も居座り続けたんやから、肝っ玉が太いっちゅうか、大した女やで」

 たしかに、僕にはマネのできない芸当だ。尾籠な話だが、おそらく、よほどの「床上手」でもあったのだろう。他人の警戒心を解くだけの魅力が、彼女にはたしかにあったのだ。どこへ行っても人と上手くやれなくて、友達もできず女の子とも長く続かず、トラブルばかり起こしていた僕とは大違いだ。

「ま・・心配ごとは尽きんが、神経すり減らしとっても持たんからな。食うもん食って、しっかり体力つけて、ストレスを発散するのも重要や。ほれ、奢ってやるから、食え食え」

 それもそうだ。僕は丼に箸をつけ、並盛といいながら、普通の店の大盛を遥かに超える量があるラーメンをすすった。

「おらアっ!注文間違えてんじゃねえよ!お前何度目だあっ!」

 カウンターの中では、頭の悪そうな顔をした髭面の男が、若いアルバイト店員に怒声を飛ばし、膝蹴りを食らわせている。僕はげんなりした。ああいうのが、カッコいいとでも思ってるんだろうか。やるんなら裏でやれよ。食べているこっちは、食事が不味くなるだけだというのに。

 が、所詮は他人事。黙々と食べるのに専念している小池さんを見習うことにした。このチャーシューは、猫への土産に持ち帰ってやろう。

凶悪犯罪者バトルロイヤル 第十七話

 宮崎勤は、秋葉原のフィギュアショップで、アニメキャラクターのフィギュアを物色していた。

 僕が都内の漫画喫茶を渡り歩く生活を初めて、一か月が経った。一人も気楽で悪くないのだが、やはり勇者の旅には、ヒロインが傍にいた方が絵になる。今日はそのヒロインを探しに来たのだ。

 候補はすでに絞っている。ナウシカではない。今日買おうと思っているのは、「エヴァ」の綾波レイである。

 今まで、エヴァにはそれほど興味はなかった。TV版放映当時、僕はすでに獄中におり、エヴァが巻き起こした社会現象の空気の中にはいなかったからだ。一応TV版のDVDは、拘置所のおやつタイムで一通り観たが、直撃世代とはいえない僕に、ピンと来るものはなかった。新劇場版は、「序」は観たような観なかったような、という感じだが、「破」が公開された当時には、僕はすでにこの世の人ではなかった。

 が、娑婆に出て、改めて「エヴァ」新劇場版のDVD二作、そして最新作「Q」を映画館で観て、評価がガラリと変わった。

 TV版のシナリオを忠実になぞった「序」は、べた褒めされるような内容ではないが、批判の起きようもない、誠実で無難な作品である。あまりにTV版に忠実すぎるため、退屈といえば退屈ではあるのだが、間違っても途中で席を立ってはいけない。第6の使徒戦BGM、「Angel of Doom」は珠玉の名曲であり、ポジトロンライフルにコアを打ち抜かれた第6の使徒が、怪鳥の断末魔のような声を上げて砕けるシーンは、シリーズ屈指の名シーンである。

 問題は「破」である。あんなものはエヴァではないと思う。リア充に媚びを売ったのか、庵野くんのオナニーなのかは知らないが、あんなものは作ってはいけない。百歩譲って、熱血シンジくんはまだ許せる。彼はTV版でも、環境にさえ恵まれれば少年らしい無邪気な明るさを覗かせることがあったし、TV版でも、ちょうど該当する話数分は明るい雰囲気の話であったから、その点に関しては忠実に作っているともいえる。だが、綾波レイだけはいけない。綾波は無感情だから綾波なのである。感情の萌芽を描くにしても、せいぜい「私はあなたの人形じゃない」程度でなければいけない。間違っても、「ポカポカする」なんて言わせてはいけないのだ。ああいうのは貞本エヴァに任せておけばいいのだ。と、色々文句はあるのだが、BGMだけはわりといいのが多かった。変な童謡にはかなり興を削がれたが。

 その綾波と、退廃的なエヴァの雰囲気が帰って来たのが、「Q」である。前作から14年後、人類のほとんどが死滅した荒廃した世界の中で、おなじみの登場人物たちが二つに分かれてドンパチを繰り広げているという、誰にも予測できなかった熱い展開。正直、前作ではアスカの出番を削りやがってくらいにしか思えなかった新キャラ、マリの予想以上のフィットぶり。そのアスカの声優、宮村優子の、命を削った圧巻の演技。全国のゲイに衝撃を与えたであろう、カヲルくんの弱った男の落とし方講座。鷲巣詩郎氏作による、数えきれないくらいの名曲の数々。「エヴァVSエヴァVS使徒」の三つ巴による、ド迫力の戦闘シーン。全国のエヴァファンが、散々叩いてきた宇多田ヒカルに手の平を返したエンディングテーマ「桜流し」。難を言えば少々説明不足なのは事実で、視聴者置き去りの感は否めないが、逆に言えばテンポよく物語が進んでいるということでもある。何から何までが素晴らしい、邦画史上に残る名作である。

 などと考えながら、僕は目星をつけた「綾波レイ」のプラグスーツバージョンのフィギュアを棚から下ろした。本当は「Q」の黒スーツが欲しかったのだが、まだ発売されていないみたいだから仕方がない。眼帯アスカの方は公開前から発売されていたというのに・・。

「お兄さん、アニメ好きなんですか?」

 レジへ持っていこうとしたとき、急に後ろから女性に声をかけられ、僕はフィギュアの箱を落としてしまった。床を転がったその箱を、女は踏んづけて破壊してしまった。無残にも潰れる綾波レイ。可哀想なことしやがって。

 僕は、綾波レイを殺した女の顔を睨み付けた。丸々と太った体系に、何だか濃すぎる感じの土偶じみた顔。お世辞にも美人とはいえない。第10の使徒、いやTV版のゼルエル並の堂々たる風格である。だが、その表情にはなぜか、自分自身への揺るぎない自信が現れているように見える。

「あーあ、こんな不良品買っちゃだめですよ。今はこんな中古フィギュアショップじゃなくても、家電量販店とかにいくらでも新品が揃ってるんですよ。知らなかった?宮崎さん」

 不良品なのは、お前が僕を驚かせて壊したからだろ。

 ちょっと待て、突っ込んでる場合じゃないぞ。なんでこの女、僕の名前を知っているんだ?まさか・・?

「あ、すいません、名乗ってなかったですね。あたし、木嶋佳苗って言います。宮崎さんと同じ、バトルロイヤルの参加者です。ま、そんなことはどうでもいいとして、ヨドバシにフィギュア見にいきましょ。あそこ、品揃えいいんですよ」

 木嶋佳苗を名乗る女は、そういうと僕の手を引いて、店の外へと歩き始めた。

「あ、ちょっと待って。これ、セーラームーンだ。わー懐かしい。変身セットとか持ってたなー。宮崎さん知ってます?月に替わっておしおきよ!」

 知っている。葛城ミサトの声優、三石琴乃さんの代表作だろう。
 子供の変身セットにも、10Lサイズの特注品なんてあるんだろうか。
 って、そんなことはどうでもいい。なんなんだコイツは。調子が狂うぞ。

「すいません、つい懐かしくって。さ、さ、行きましょ」

 改めて僕の手を取り、転がるように階段を降りていく木嶋佳苗。マイペースな僕は、人に指図されるのが嫌いだ。今まで色んな奴が、僕を従え、型に嵌めようとしてきたが、そのたびに、僕は逃げ出してきた。そいつらは一人残らず、妄想の中で「肉物体」にしてやった。その僕が、今、一人の、とても好みとはいえない、どちらかといえば醜女の部類に入る女にペースを握られている。

だけど僕は、なぜか、嫌な気はしなかった。

凶悪犯罪者バトルロイヤル 第16話

 「ちょーこー、ちょーこー、ちょこちょこちょーこー、あーちゃーはーらーちょーこー♪」

 今日は気晴らしと、サンパワーを得るため、信徒を連れて公園に出かけていた麻原彰晃は、菊池正の指揮に合わせて「麻原彰晃マーチ」を歌う幼稚園児たちを、微笑ましく見つめていた。未来を担う子供たちの育成は、現役世代への布教に増して重要である。今から、その教育ノウハウを信徒たちに学ばせておいて損はない。

「どうだ、清、博、昭。もう、バドラの雰囲気にも慣れたか?」

 麻原は、バトルロイヤル開始からちょうど一か月を迎えたこの日までに、新たに加入した三人の信徒に語りかけた。

「ええ。なかなかの居心地です。仲間も大勢いて、枕を高くして眠れますしね」

 柔和な笑みを浮かべて答えたのは、大久保清。70年代に、8人もの女性を連続して強姦し、死に至らしめた、「第二の小平義男」の異名をとる姦淫犯である。顔立ちは端正であり、たしかにこの男が芸術家を名乗り、白いクーペに颯爽と跨っていたら、頭の軽い女ならホイホイついて行ってしまうかもしれない。が、その本性は、冷酷非情な性獣である。同時期に史上最多の連続殺人を犯した男、勝田清孝との二枚看板で、大いにバドラの戦力となることは間違いない。

「私も気に入っています。みなさん、良い方ばかりですし」

 続いて、正田昭が答える。1953年、「バー・メッカ」で強盗殺人を犯し、三か月の逃亡生活のすえ逮捕された男である。慶応大学卒のインテリで、理知的な雰囲気を醸し出しており、年の割に弁も立つ。オウム時代に自分の右腕だった「ああいえば」のあの男に、少し似ているかもしれない。キリスト教を信奉していたようだが、このほど改宗したようだ。オウム時代にも経験があるが、他宗から改宗した信徒は、今まで偽りの神を信仰していたという罪悪感からか、もともと無神論者だった信徒よりも強い信仰心を持つ場合が多い。この男もそうなってくれれば嬉しい。

 そして最後、自分の問いに答えず、なにやら読経めいた独り言を呟いている男が、造田博。99年、池袋で起きた通り魔事件の犯人である。比較的古い時代の犯罪者が多いバドラの中では珍しい、自分以後に逮捕された参加者だ。性格はやや取っつき辛く、コミュニケーション能力に不安はあるが、戦闘力は折り紙つきである。勤勉でもあるし、多少の欠点に目を瞑っても使う価値はある。ただ、この男、拘置所において「造田博教」なる宗教を主催していたらしく、いまだにそれを信奉している節があるようなのは看過できないところである。その点さえ改められれば、正田昭同様、強い信仰心を持った戦士となることは請け合いだ。

「よし。子供たちと遊ぶのはそれくらいにして、ミーティングを開始するとしようか。まず、今後いかにして、お前たちのワーク先のレジから金をちょろまかすかについてだが・・」

 話を始めようとしたその瞬間、修羅の形相をした三人の男が、各々ナイフ、刺身包丁、マグライトを構えて、自分に向かってくるのが見えた。

「よーし、次は、ガネーシャ体操行ってみよー!お兄さんの振り付けに合わせて踊るんだぞ」

「みんなでたのちくダ・エ・エヴァ、みんなでたのちくダ・エ・エヴァ、おどってうたってがんばってー♪」

 歌のお兄さんこと関光彦が、一週間、自分のボデイーガードとは名ばかりの自宅警備員生活を送りながら練習を積んだ踊りを、張り切って披露し始めた。バカ者め、今、我々を襲う危険な状況に、まったく気が付いていないらしい。

 もっとも早く反応したのは、新参者の大久保清だった。アーミーナイフを構えて、三人の暴漢に臆することなく突撃していく。これは、仲間がすぐに続いてくれることを信じているからできることだ。その期待に応えるように、勝田清孝が、消防員の過酷な訓練で鍛えられた脚力を活かし、一瞬で大久保清に並ぶ。二対三の戦い。だが、二人の戦闘力ならば十分に渡り合える。ここで自分が叫んだ。

「行け、勇敢なるバドラの戦士たちよ!子供たちを悪魔の手から守るのだ!」

 信徒たちに大義名分を与えてやることで奮い立たせ、戦闘力をアップさせると同時に、無垢な子供たちに、バドラを正義の使途と認識させる。一石二鳥の、まさに魔法の呪文だった。

 勝田清孝、大久保清と三人の戦いが始まる。互角の鍔迫り合い。やはり、余った一人を意識してしまうからか、勝田清孝も大久保清も、攻撃に専念できないようである。その均衡を破ったのは、関光彦だった。

「うおぅらっ!」

 飛びながら放った木刀の一撃が、敵の脳天をかち割った。倒れた男に、二度、三度とダメ押しを浴びせる関光彦。頭頂から流れ出る真紅の血液が顔全体を覆い、男の顔面は、粉砕されたスイカの様相を呈していた。

 それぞれの相手に専念できるようになったことで、勝田清孝、大久保清の立ち回りに、俄然キレが出始める。関光彦と、遅れて加わった菊池正の援護も加わり、一人を戦闘不能に至らしめることに成功した。残った一人は形勢不利と見て、退散していく。

「深追いは禁物だ。今は戦果に拘る時期ではない。子供たちを守れただけで、良しとするのだ」

 麻原は、男を追いかけようとする信徒たちを制止した。

 血まみれになって地面に転がる敵の顔を、参加者名鑑を捲りながら確認する。高田和三郎。金銭を目的に友人三人を殺害した男。大濱松三。ピアノの騒音に腹を立て、母娘を殺害した男。バドラに牙を剥かず、入信していれば、手厚い待遇で迎え、面倒を見てやったというのに。愚かな男たちである。

 動かざること山の如しの武田信玄を気取って、泰然自若を装いベンチに腰掛けている自分の隣では、造田博と正田昭が座っている。頭脳労働担当の正田昭はともかく、戦闘しか取り柄のない造田博が、この状況で動かないのは問題だ。時間をかけ、立派な戦士に仕立て上げなくてはならない。

「そんしのおぢちゃん、ありがとう」

「そんしのおぢちゃん、かっこいい」

 子供たちが円らな瞳を輝かせ、自分に感謝の言葉を述べる。自分たちのことを、特撮の戦隊ヒーローのように思っているらしい。

「子供たちよ、無事でなによりだ。お前たちの笑顔を守るため、俺たちは日夜戦う。悪魔に襲われたときは、俺たちの名を呼びなさい。いつでも、どこへでも、駆けつけるぞ。では、さらばだ。夕ご飯のときには、お父さんお母さんに、今日のことをお話してあげなさい。ただ、俺の名前は出さないようにな」

 麻原は子供たちに別れを告げ、公園を後にした。シミの目立たない黒のジャージを履いてきて、本当によかった。麻原の股間は、小便でぐっしょりと濡れていた。

 バトルロイヤル参加者、現在95名。

凶悪犯罪者バトルロイヤル 第十五話

 宅間守は辟易していた。昨日から自分に、金魚のフンみたいにくっついてくる男にである。

「宅間さんマジパねえっす!宅間さんが最強っすよ!」

 金川真大。まっこと鬱陶しい、クソガキである。

「宅間さん。俺、最近まで、宅間さんに反感を持っていました。俺の方がよっぽどワルなのに、殺した人数が多いってだけで宅間さんの方が神格化されてるって・・。嫉妬してたんです。だけど、実際に会って、考えが変わりました。自分の思い上がりに気付いたんです。俺は全てにおいて宅間さんには及ばない。やっぱり宅間さんは唯一神だ!宅間さん、ずっと付いていきます!」

 メガネの奥のくりくりとした目を輝かせ、熱っぽい口調で語る金川。反対に、自分の心は白けていた。

「あんなぁ、お前・・。同じ言葉を、ワシは昨日から三十ぺんは聞いとるぞ。あんまりひつっこく繰り返されると、逆にアホにしてるように聞こえてくるわ」

「へへっ。すんませんっ」

 舌をペロリと出して、頭をかく金川。若い娘がやれば可愛らしい仕草も、この男がやると、サーカスのエテ公にしか見えない。本当に、どうにかならんものか。こいつのツラを見ていると性欲も失せ、風俗に行く気もなくなる。

 ひと思いに殺してしまいたかったが、この男が自分と同じ無差別大量殺人者だということが、それを躊躇わせていた。

同属意識から、親近感を抱いているというわけではない。自分に近い戦闘力を持つ相手と戦えば、勝てたとしても損害は大きい。今はまだリスクを犯す時期ではないことは、先々を考えるのが苦手な自分にもわかる。

この男は自分を慕っている。子分にすれば、それなりの戦力になるだろう。だが、自分は人を従える柄ではない。自分と一年も良好な関係を続けられた人間は、一人としていないのだ。今までは警察に訴えられるくらいで済んでいたが、この男に反感を抱かれたなら、命の危険に繋がる。ならば最初からお断りである。

 どうしたものか。宅間は一計を案じた。

「おい、あっち見ろや。あそこにお前の好きな、FF10のユウナちゃんのコスプレしとる女がおるぞ!」

 ゲームや漫画に登場する女に情欲を催すということはまるで理解できない自分だが、出会ってから二日で五十回も六十回も名前を出されていれば、嫌でも覚える。

「えっ。えっ、どこすか?どこすか?」

「ほれ、あっちや。ほれ見てみい!」

 宅間は、金川が「ユウナ」探しに夢中になっている隙に、その場から退散した。ようやく、これで気ままな一人に戻れた。やれやれである。

 金川と一緒にいた時、今、娑婆には、「出会いカフェ」なる施設があると聞いた。マジックミラーで女を物色し、気に行った女がいれば自由に交渉して連れだせるという、援交を合法化したような店だ。料金は、入場料+連れ出し料で、しめて五千円。自分はプレイ料金を払うつもりはないから、ホテル料と合わせれば九千円程度で女とヤレる。女の財布から金をかっぱらえば、逆に所持金を増やすこともできる。こんなおいしい施設を、利用しない手はなかった。

 だが、一つの問題があった。自分には、今、先立つものがない。入場料1500円すら払うことができないのだ。どうにかして、手っ取り早く金を稼がなくてはならない。

 宅間は、路地裏にあった自動販売機に目を付けた。周囲に人がいないことを確認し、渾身の力を込めた回し蹴りを、なんども叩きこむ。取り出し口から、大量の飲み物が溢れ出てきた。

「やっくに立たん自販機やなあ。金を吐き出せや金を。飲みもんばっか出てきたってしゃあないやろが」

 とはいえ、これ以上やっていたら、いくら人通りが少ない路地裏とはいえ、さすがに通報されてしまう。宅間はやむなく一時撤退し、付近にいたホームレスからリヤカーを強奪し、自販機から出てきた飲み物を積んで、大通りに出た。そして通行人を品定めし、気が弱そうな営業回りのサラリーマンに声をかける。

「よう兄ちゃん。今日は暑いな」

「え?真冬なみの寒波が吹き荒れてますけど・・」

「細かいことはええんや。それより、喉渇いてるやろ。飲み物いっぱいあるで。買うやろ?」

「いや、いらな」

「買うやろ?なあ、買うやろ?」

 形相を歪め、語気を荒げて言うと、サラリーマンは頷いた。

「ほうかほうか。じゃあほれ、全部で100本あるから、持っていきや。このジュースは一本500円やから、全部で5万円や」

「いや、一本で・・」

「出血大サービスや。買うやろ?なあ、買うやろ?」

 胸倉を掴んで揺さぶる。

「は・・はい・・」

「よしよし」

 宅間は、半べそ顔のサラリーマンから、5万円を受け取った。
 
 はしゃいでいたら、自分の喉が渇いてきた。宅間はコーラの缶を空け、一息に半分ほどを飲み干した。

「あとはやるわ。ほれ、飲め」

 サラリーマンが、宅間が差し出した気の抜けたコーラ、己の涙混じりのコーラを飲む。

「はっはっは。よっぽど喉渇いてたんやのう。んじゃ兄ちゃん、毎度!ほなな!」

 宅間は呵々大笑し、揚々と腕を振って街中を歩く。目指すは、出会いカフェである。

 いきなり、後ろから肩を叩かれた。おまわりが追ってきたのだろうか。それにしては、敵意を感じない。背後を取られたとはいえ、自分がこれほど相手に距離を詰められるなどは、考えられないことである。

 肩に乗せられた手を振り払い、飛びのいた。三メートルほど距離をとり、襲撃者の正体を確認した。

「宅間さん、酷いじゃないですかー、逃げるなんて。ユウナなんてどこにもいなかったし」

 金川真大が、アーチェリーの弓を手に持ちながら立っていた。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
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