スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

凶悪犯罪者バトルロイヤル 第180話


 兵どもが夢の跡。今は遺体の回収も済み、すっかり平静を取り戻した「あやめ橋交差点」を訪れた松永太は、斥候のヤクザから上がってきた報告を聞き、今回の戦いを総括していた。

 我が軍が経験した「環七通りの戦い」以来の、大兵力によるぶつかり合い。今度の戦いでも多くの血が流され、大会の帰趨に大きな影響をもたらした。

 バドラ側の戦死者は一名。戦闘エースであった造田博の命が失われた。宅間守、加藤智大と比べると一枚格が落ちるとはいえ、これまで有事の際の精神的支柱となってきた彼の離脱は、バドラにとって大きな打撃に違いない。彼の死は、単なる信徒一人の死よりも重要な意味を持つ。いずれ来る我が軍とバドラの戦闘も、これで進め易くなったというものだ。

 角田軍側の戦死者は三名。運命に導かれ、出会いを果たした闇サイトトリオの三人は、死の際も運命を共にした。車両を利用した奇襲戦術が得意であった彼らにとって、正面からの白兵戦は土俵外の戦いだった。神出鬼没の彼らを亡き者にしたことによって、ようやく宅間らは枕を高くして眠れることだろう。

 これにより角田軍の傘下団体は、コリアントリオのみとなった。合計人数は8人で、我が軍及び永田軍のライン10名とは、数の力が逆転した格好である。包囲網によりバドラを追い詰めつつ、潜在敵国である角田軍の力をも削いでいくという松永の狙いは、成功した形となった。

「やあ、松永さんかい?」

 受話口から聞こえる皺枯れた声――。「同盟者」からの、事後報告が入ったようである。

「お疲れ様です。今回のご協力、感謝します」

「いやいや。こっちの総力を結集しておきながら、敵の首は一つしか獲れんで、恥ずかしい限りだよ。こんな戦果しか挙げられんのなら、松永さんに頭を下げて、兵を借りておくべきだったかもしれないね・・」

 出陣にあたって余計な遠回りをし、我が軍の斥候を撒いてから戦場に向かったくせに、よくそんな言葉が出るものだ。お蔭で我が軍は、疲れ果てたバドラ、宅間軍を討ち取り、漁夫の利を浚うことができなくなった。ようするに、我が軍には少しの手柄も渡したくないわけだが、それは松永とて一緒。角田を責めることはできない。

「それで、松永さん。これからのことなんやけど・・・」

「ええ、わかっています。しばらくはゆっくりと休んでください。今度は我々が兵を出します」

 松永は明言した。角田軍がここまで骨を折り、一定の戦果も挙げてくれたのは紛れもない事実なのである。功績を帳消しにするほどの落ち度でもない限りは、次は我が軍が動かなければ、包囲網全体からの信望を失ってしまう。

 角田美代子との電話を終え、松永はバドラとの直接対決にあたっての、具体的な戦略を練る。

 まず、攻め込む時期のことだが、これは早ければ早い方がいいだろう。というのは、バドラの同盟者、宅間守が負傷で動けない隙を狙うということだ。

 バドラ、宅間連合を崩すにあたって、角田美代子は、数の少ない宅間軍を集中的に狙うという方法をとった。間違いではないし、当初は松永もそれを考えていたのだが、宅間軍の脅威的な粘りを見た今、それは得策ではないような気もする。人数は三人とはいえ、宅間軍の戦闘力はバドラを凌ぐのではないだろうか。また、潤沢な資金を持つバドラならば、壊滅し略奪することで我が軍の戦力を増強もできるが、宅間軍を壊滅させても、経済面で大したうまみはない。

 それらのことを踏まえて、松永は宅間軍が動けぬ隙を狙い、バドラに的を絞って攻めることとした。しかし、角田軍のように、大人数のバドラに真正面からぶつかろうというのではない。分断工作を図り、直接対決の際にはできるだけ数的有利を作るつもりである。

 無論、簡単にはいかない。固い絆で結ばれたバドラには、内通の類は一切通用しない。また現在、バドラでは信徒の「ワーク」を禁止しており、行動するときは、常に全員が一緒である。バドラのシンボルである「秘密基地」には、城番としてわずかな信徒が留め置かれているが、夏休みである現在、昼は小学生の子供たち、夜は中、高校生の不良少年が常在しており、一般人に危害を加えてはいけないルール上、攻めることはできない。

 悲観することはない。バドラも人の作った組織である以上、何か必ず付け入る隙があるはずである。川俣軍治ら包囲網参加者に声をかけ、できるだけ多くの兵を募るとともに、バドラの兵力を分断させる方法を探っていく。

 分断工作に成功した結果、相手の兵に麻原が混ざっていなくてもいい。チャンスよりもリスク。一足飛びに麻原の命を奪うよりも、バドラの戦力を確実に削ることを優先する。焦る必要はない。手、足と順番にもぎ取り、最後に首を刎ねればいいのである。

「いよいよ、バドラとの決戦ですね。角田さんたちには、包囲網盟主に相応しい戦いぶりを見せてあげましょう」

 傍らにいる重信房子が力強い言葉を述べる。自分がお膳立てをした後は、この女が戦場で敵を討つ。重信に花を持たせるため、自分は裏で駆けずり回るのだ。

 賞賛はすべて重信が独占する。それでいい。批判もすべて重信に集まるのだから。

 大会の山場となるであろう今の時期を最高の形で勝ち残るため、松永の策謀には余念がない。
スポンサーサイト

凶悪犯罪者バトルロイヤル 第179話


 金川真大を突破した永山は、麻原目がけて一気に距離を詰めていく。

「ムカついた!ぶっ殺す!」

 教祖の危機に動いたのは、バドラ最強の男、造田博であった。対峙していたイチヌの肩口をナイフで切り付けると、とどめは刺さず、麻原へと向かう永山の進路へと立ちふさがった。

 互いに実績のある、今大会トップクラスの実力者同士の戦いが始まる。間違いなく、今回の「あやめ橋交差点の戦い」において、もっともレベルの高い一騎打ちだ。

 麻原が見る限り、今までの戦いにおいては、集団心理の一種なのか、「俺がやらなくても、誰かが決めてくれるだろう」と、殺し合いながら、どこかに「のんびりとした」部分があった。戦場をよく見ると、敵味方双方ともに、体には無数の傷が刻まれ、アスファルトには鮮血が垂れ落ちているのだが、これは殺し合いを無傷では乗り切れないという当たり前の話であると同時に、人に致命傷を与えるのがいかに難しいかという証明でもある。

 相手を死に追いやるだけの傷を与えられないのは、自分が死ぬ覚悟ができていないからである――昔なにかで読んだ本の受け売りだが、ようするに、皆、踏み込みが甘いのだ。だから深くナイフの刃を入れられない。

 しかし、永山だけは違う。自分の命も危険になるレッドゾーンにいとも簡単に踏み込み、必殺の一撃を放っている。何が何でもここで決めようとする永山の勢いに造田博も応え、二人の戦いは、今までにない激しい打ち合いとなっている。

 神の化身としてではなく、人としての直観でもわかった。この一騎打ち、どちらかが必ず死ぬ――。

「尊師!もういい加減、車に戻ってなよ!」

「お、おう・・・」

 関光彦の言葉に甘え、麻原はワゴンへと退避する。熾烈な格闘の末、どうにか、尿意は去っていった。今田夕子ちゃんとの約束は果たした。もう、逃げてもいいだろう。

 ワゴンへとたどり着き、ロックをかけた麻原は、フロントガラス越しに戦場の様子を見守る。冷静に全体を見渡すと、永山や造田博といった強豪を含めても、戦場にいる者はみな、肩で息をしているのがわかった。命を奪い合う極限のプレッシャーは、人の体力を十倍、二十倍の早さで奪っていく。加えて、この八月の暑さ。すでに敵味方双方ともに、限界が見えてきているようだった。

 厭戦気分が漂っている。誰もが、この戦いに何か「落としどころ」がつけられることを望んでいる。麻原にはそう感じられる。

 「麻原包囲網」を代表して来ている以上、敵方は手ぶらでは帰れない。誰かひとりでも、こちら方の首を持ち帰れなければ、他の勢力に示しが付かなくなる。こちらとしても、その願いは同じだ。これだけの戦力を結集して戦いの舞台に訪れた以上、誰か一人でも敵の首を取り、今後の負担を減らせなければ報われない。金川真大が1の島への援軍に訪れたことから、もしかしたら敵の誰かを討ち取ったのではないかとも推察されるが、誰もがそれに気づいているわけではないのだ。

 皆の思いが、二人の男の戦いに集約されている。永山則夫と造田博。この一騎打ちが終われば、おそらく、「あやめ橋交差点の戦い」は終わる。

「アーマンダラムンダラ、ハーサルンダメッタラッダ、ダマサッタラダッサラダッタラ」

 こんなとき麻原には、ただ祈りを捧げることしかできない。偉大なるシヴァ大神の加護を持って、造田博に勝利の栄光をあたえたまえ――。

「ぐふっ」

 麻原の願いは、脆くも打ち砕かれた。疲れで動作が緩慢になった造田博の腹部に、永山のナイフが深々と突き刺さる。造田博はそれでも諦めず、横からナイフを薙ぐが、永山は冷静にバックステップで躱し、スペアのナイフを抜いて、造田博の腹部にとどめの一撃を入れた。

 ホットプレートのようなアスファルトに崩れ落ちる造田博。同時に、宅間守が、配下の上部康明に
肩を担がれて、1の島に姿を見せる。闇サイトトリオは壊滅したようだった。

 両軍に落としどころがつけられたのがわかり、参加者たちは戦うのをやめた。敵方は順次撤退していく。体力も気力もつきたバドラ、宅間軍に追うものはいない。真夏の惨劇の幕は下りたのである。

「尊師・・・わしは、マハーニルヴァーナにいけるかのう・・・」

 虫の息の造田博が、ワゴンを降りた麻原の顔を見つめて、悲痛な声音で問う。

「ああ。行けるぞ、博。お前は、マハーニルヴァーナへと行ける」

 勇敢に戦った戦士の魂が、一切の煩悩から解き放たれた涅槃へと旅立っていく。その顔は鮮血で真っ赤に染まっているが、口元にはうっすらと笑みが浮かんでいる。貧困と挫折、自暴自棄の半生を送り、通り魔殺人へと至った男とは信じられないほど、穏やかな表情だった。

 ともに濃密な時を過ごした信徒たちが涙にくれる。麻原の目にも、熱いものが滲んでいた。

 戦闘が激化するこの時期に、痛すぎる最強の男の死。哀しみと絶望に包まれながら、バドラは委員会指定の病院へと向かって、ワゴンを走らせていく――。

凶悪犯罪者バトルロイヤル 第178話

 悲鳴をあげる膀胱――。麻原にとって、宅間守との決戦以来の試練が迫っていた。

 思考が硬直し、一歩も動くことができない。これが、蛇に睨まれた蛙というやつか。もはや、成行きに身を任せるしかない状態。そんな中でも、麻原は括約筋を弛めることはない。

 神への道への挑戦――。それは麻原にとって、目先の命を拾うよりも大事なことである。ここで自分との戦いに負け、小便を漏らしてしまえば、救済者としての麻原の救済者としての生涯は終わってしまう。俗物としてただ生きながらえるだけの人生は、死んだも同じ。断じて、この作務衣の股間を濡らすようなことがあってはならない。

 永山が元いた4の島では、角田軍、及び乱入してきた芸能人コンビを相手に、大道寺将司、小平義男、丸山博文の3名が奮闘している。しかし、人数の増えた敵を相手に、かなり手間取っているようだ。永山はその隙をついて、2の島へとやってきたのである。当然、1の島への援軍は期待できそうもない。

 信号が切り替わる。いよいよ、永山則夫が1の島へとやってくる。絶体絶命。人としての生涯より神への道への挑戦などといっても、やはり死は怖い。足がすくみ、立っていることもままならなくなった麻原は、その場に腰を落とす。括約筋を締める作業も限界に近づき、絶望感が立ち込め始めた、そのときだった。

「下がってろっ、オッサン!」

 救世主の登場――。宅間軍の金川真大が蒲田駅側から登場し、麻原の前に立ちふさがった。これにより、永山と直接戦わなくてはならない事態は避けられた。永山が横断歩道を渡ってくるのと同時に、麻原は後方へと退いていく。

 永山と金川の、激しい打ち合いが始まった。金川は弓の名手という触れ込みであったが、白兵戦もかなりのもので、参加者最強候補である永山に、付け入る隙を与えない。永山が止められている間に、3の島から、B班の勝田清孝、菊池正の二人が駆け付ける。数的有利の発生――。形勢は一気に我が軍有利となった。

「なあ、光彦。俺も手伝おうか」

 心に余裕が生まれた麻原は、自分が大事な信徒ばかりを危険に晒しているわけではなく、自らも前線で命を投げ出す覚悟があることをアピールした。もちろん、自らの無力を悟った今、本気で戦闘に参加しようとしているわけではない。信徒たちが止めてくれるのを見越してのことである。

「いいよ!尊師は弱いんだから、そこで見てなよ!」

「そうです!尊師は役に立たないんだから、余計なことをしないでください!」

 関光彦と小田島鐡男から、加勢を退けられた麻原は憤る。確かに狙い通りの展開ではあるのだが、信徒たちの言い方が気に入らない。仮にも教祖たるこの自分が、助太刀を買って出たのである。「お気持ちはありがたいのですが」の一言くらいはあってもいいではないか。

「いや、お前たちだけでは不安だ。俺も加勢するぞ」

 ムキになった麻原が三人の元へと足を踏み出しかけたそのとき、脇腹を冷たい何かが走る。後方から疾風の速さで駆けてきた男――ヒロポン・ウォリアー、川俣軍司の乱入であった。

 川俣は特定の集団には属していないものの、個人として麻原包囲網に参加している。重信一派と八木茂軍が激突した際にも、傭兵として戦闘に参加し、八木軍の庄子幸一を討ち取った。今回は角田軍の要請により、後詰として待機し、いつでも戦闘に参加できる態勢をとっていたらしい。

 麻原のぶよついた脇腹に、鋭い痛みが走る。危なかった。もし、三人の方へと足を踏み出していなければ、川俣のナイフは、分厚い脂肪を切り裂き、内臓へと達していたであろう。まさに神のご加護といえる。

 戦場に乱入した川俣は、援軍に駆け付けたB班と打ち合いを始める。二人を相手にしながら華麗な立ち回りを見せる川俣。戦闘力は、この戦いに参加している者の中でも上位に位置するだろう。

 がっぷり四つ、互角の展開となった戦いの様子を眺めながら、麻原は妙な不安に襲われる。

 気になるのは、後詰として待機していた川俣軍司が、このタイミングになって戦闘に参加してきたことである。ここまで待たなくても、大将首を取るチャンスはいくらでもあったはず。川俣は、C班のところに乱入してきた芸能人コンビのような素人ではない。戦の心得がある彼が、今の今まで様子見に徹していたのは、何か必ず理由があるはずである。

 罠を警戒していたのか。あるいは――自分を脅かす絶対的強者のリタイヤを確認したからか?

 気になることがある。金川真大が援軍に訪れているにもかからわず、宅間守の姿が、この1の島に見えない。先ほど大きな声が聞こえたことから、生きていることはわかるが、何らかの理由で、戦うことができない状態にあるのではないか。

 2の島の戦闘は互角か、ややC班が不利の状況である。宅間たちが動けないのならば、我がA班には、これ以上戦力の上乗せはない。一方、敵軍には、まだ隠し玉があるかもしれないのである。

 我がA班が、ここから相手の一人でも倒せればいい。しかし、逆に、A班の戦力が一人でも欠けてしまったら・・?

「ぐあっ」

 予感が、現実に変わる――。金川真大が永山則夫の攻撃を腕に受け、蹲ってしまった。

凶悪犯罪者バトルロイヤル 第177話

 1の島への進軍を、信号により阻まれた宅間守は、すぐに進路を、3の島西側へと切り替える。向かう先にいるのは、闇サイトトリオである。

 このままB班と合流して闇サイトトリオを叩き潰し、返す刀で1の島へと向かい、コリアントリオを壊滅させる。敵軍を半壊状態へと追い込み、4の島で取り残された角田軍を倒す。そう青写真を描いたのだが、それは次の瞬間には、修正を余儀なくされる。

 克己茂,西川和孝。芸能人コンビが、4の島の戦いへと乱入してきたのである。

 やはり、敵軍に隠し玉はあった。蒲田の町を歩き回る我が軍と睨み合いを続けていたのは、バドラの到着を待つ目的もあったが、どこかでこの芸能人コンビを炸裂させるチャンスをうかがう目的もあったのだ。

 乱入するなら、麻原のオッサンがいる1の島だろうとは思うのだが、そこはしょせん素人である。麻原のオッサンに気がつかなかったか、パニックになって、わけがわからなかったのだろう。

 しかし、これにより、4の島での戦いに、戦力の不均衡が生じた。ここで宅間は、一つの判断を迫られる。4の島に、援軍を送るか否か、である。

 もし、このまま4の島にいる自軍C班が角田軍に壊滅させられてしまえば、角田軍+芸能人コンビで6人にもなる大群が、1の島に雪崩れ込んできてしまう。そのとき、我がD班が闇サイトトリオを壊滅して1の島の援護に行ければいいが、もし闇サイトトリオとの戦いに手間取ってしまった場合、総攻撃を受けたバドラ本軍A班は壊滅し、麻原のオッサンは射ち取られてしまう。絶対的カリスマである麻原のオッサンが打ち取られれば、バドラは滅亡である。

 4の島に援軍を送れば、取りあえず、最悪の事態を招く恐れは軽減される。しかし、そうしたらそうしたで、闇サイトを速攻で叩き潰し、敵軍を一気に壊滅させるチャンスを失ってしまうことにもなる。

 すなわち、オフェンスを重視するかディフェンスを重視するかという判断である。ならば当然、前者を選ぶ。名前は守だが、自分は常に攻めの人生を歩んできた。勝てぬ喧嘩はしないが、勝てる喧嘩であれば、積極的に前に出ていくのが、自分の信条だ。

「や、やばいッスよ・・宅間がこっち来ますよ・・・」

「戦ってられんっしょ・・・逃げるっしょ」

 B班とD班に挟みうちにされた闇サイトトリオが、突然車道に出る。今現在、信号が赤になっている都道11号線は、車の流れが停止している。「川」を渡ることができるのである。

「逃がすかあっ!」

 宅間もまた、「川」をダイブし、闇サイトトリオを追う。戦場を離脱しようとする闇サイトトリオは、麻原のオッサンがいる1の島に渡ると、都道11号線を、蒲田駅に向かって駆けて行こうとするが、我がD班はいとも簡単に追いつく。宅間が、リーダーの神田司の衣服を背中から掴んで引き倒し、金川が川岸健治に強烈なタックルを食らわせて倒し、鳥の巣頭の上部が、堀慶末に先回りして追い込んだ。

「死っねーーーーーーーーっ」
 
 宅間の振り下ろしたナイフは、神田司の太ももに深々と突き刺さる。これで機動力は殺した。あとは悠々と、料理に移るのみである。

 神田の頸動脈を目がけてナイフを振り上げた宅間は、ここでとてつもなく嫌な予感に襲われ、手を止める。

 昨晩、寝入り際に、金川のアホが、妙なことを口走ったのを思い出した。

――この間、闇サイト事件のことを調べたんですけど、最初にあの闇サイトを通じて集まったのは、実は4人だったそうっすよ。1人は、グループが強盗殺人の前に犯した事務所荒らしのときに逃げ出して自首し、窃盗未遂で不起訴になったそうです。

 当然、その最後の一人とやらは大会には参加していないため、宅間は聞き流したのだが、今になってなぜか、そのことが頭をよぎる。

 人知を超えた運命の力によって集まった、闇サイトの三人。たとえ地球の真裏で生まれたとしても、必ずどこかで出会ったであろう三人。運命の絆の強さを証明するように、三人は、過去の記憶を消されていたにも関わらず、今大会でも出会った。ならば、犯行直前に逃げ出したという「四人目の男」も――。どこかで、何らかの形で、三人と出会い、関わる運命にあるのではないか?

 バカバカしい妄想かもしれない。しかし、自らもまた「運命の力」に導かれ、あの池田小へと入った宅間には、どうしてもそれが気になって仕方がなかった。

 殺し合いの最中に見せてしまった、一瞬の隙。それはまさに、致命的な隙であった。

 文明の利器によって結び付けられた、4人の男たち――。数奇な運命の輪が、宅間をも絡めとっていく。突然、信号で止まっていたはずの一台の車が走り出して、あろうことか歩道に乗り上げてきた。

 危機を感じたときには、もう遅かった。宅間は神田司とともに暴走車にはねられ、アスファルトへと叩きつけられた。

 臀部を激痛が襲う。暴走車は減速しており、大きな怪我はしなかった。骨には異常はない。しかし、しばらくは動けない。この状況で、宅間はひとまず、すぐ横に転がる神田司の首をナイフで裂いた。

「ああっ、あうあう、あっ」

 二メートル以上上空にまで鮮血を噴出させて、神田は絶命する。殺害人数は1名である闇サイトトリオの中では唯一死刑判決を受けた、主犯の最後である。また、ほぼ同時に、金川真大が、川岸健治を殺害した。自首をしてグループの逮捕に一役買ったことから、トリオの中では小心者とみられているが、実は強殺の計画を最初に言い出したのはこの男とも言われている。ようするに、その場のテンションですぐに行動してしまうタイプの男だったのかもしれない。

 暴走車のドライバーは、すぐに車を降りて、どこかへ逃げ去ってしまったようだ。車内には乾燥した草のようなものが散らばり、妙な臭気が漏れ出している。

 あのドライバーが、自分が予感した「四人目の男」であったのか?真相はわからない。とにかく、今やらねばならないのは、今、動ける者を動かすこと。

「小僧、貴様は麻原のオッサンの援護へと向かえ」

 そして、戦場全体に響き渡る声を出す。

「永山が横断歩道を渡ったぞーーーーっ!止めえええーーーーーっ!」

 
 

 
 

凶悪犯罪者バトルロイヤル 第176話

 意気揚々とワゴンから降りてきた麻原彰晃は、早くも後悔し始めていた。

 横断歩道を渡り、自分の方へと迫ってくる、コリアントリオの三人。手に刃物を携え、修羅の形相をしている。

 怖い。怖すぎる。出発前、トイレにおいて、誤って後ろの穴から招かれざる客が頭を覗かせてしまうほど強く踏ん張って小便を絞り出し、クソ熱い時期だというのに、大好きな濃い~いカルピスを飲むのを我慢してきたというのに、麻原の膀胱は、はやくも悲鳴を上げ始めていた。

 交差点という特殊な戦場。横断歩道に隔てられた四つのブロック。宅間守が配下を率いて、3の島から、麻原のいる1の島へと移ろうとしている。しかし、その進軍は、ある人工物によって阻まれる。

 信号である。交通量の多いこの交差点では、信号が赤になってしまえば、横断歩道を渡るのは至難である。1の島~3の島を結ぶ信号が赤になったのに対し、1の島~2の島を結ぶ信号は青になったが、現在、2の島には敵軍はいないから、これでコリアントリオと、A班がいる1の島は孤立した形となった。

「おぅああああああっ」

 雄叫びとともに迫りくるコリアントリオを、バドラの造田博、小田島鐡男、関光彦が迎え撃つ。3対3の白兵戦が始まった。

 麻原は、ワゴンに帰るべきか、踏みとどまるか迷う。ワゴンに帰り、ロックをかけてしまえば、とりあえず身の安全は保障される。しかし、夜原なおきを応援してくれる今田夕子ちゃんとの約束が守れなくなる。それに、もしA班が全滅し、コリアントリオに取り囲まれてしまったら、自分は逃げ場のない袋のネズミとなってしまう。

 どうする?どうする?どうする?迷いに迷い、決断が下せない。この状況であってはならない、優柔不断。かつて、まだ信徒が少なかったころのオウム時代には、自ら前線に赴いて指揮をとったこともある麻原だったが、後半からはほとんど信徒任せにし、自らは実戦から離れていたのが裏目となった。

 その麻原の目の前に、ふと、最強の男、造田博との打ち合いにかかりきりで、周囲の警戒をおろそかにしている、イチヌの姿が映る。ひょっとして、今なら、自分でも殺れるのではないだろうか。もし、本来ならば高みの見物を決め込める立場にある教祖の自分が、実戦においても手柄を立てたとなれば、全軍の士気は大いに上がるだろう。そして、自分のカリスマ性も向上し、たとえ信徒が取っておいたプリンを盗み食いしたとしても、許してくれるかもしれない。

 麻原が一日2時間は閲覧している「なんJ」においては、体重=パワーという記述が頻繁になされている。確かに、近代野球のホームランバッターには、体重が90キロを超えるような選手が珍しくない。ならば、体重が100キロを超える自分も、かなりのパワーを秘めているのではないか。

 いける。確信した麻原は、金属バットを振り上げて、イチヌに殴り掛かった。

「ポアするぞ」

 掛け声とともに振り下ろした金属バットが、イチヌの背中を直撃する。しかし、イの強靭な体はビクともしない。

 しまった。野球においては、デッドボールは背面で受けるのが鉄則であるように、背面の耐久力は前面の比ではないのだ。それにしたって、もうちょっとダメージがあってもいいようにも思うが、自分は、思っていた以上に非力であったらしい。デブにパワーがなかったら、それはもう、フィジカル的に何の取りえもない、どうしようもない役立たずということである。

 しかし、しょげかえっている暇はない。まずは距離を取り、危険を回避しなければならない。麻原は後方に飛びのいた。巨大な尻がクッションとなり、麻原の全体重を受け止める。衝撃をすべては吸収しきれないが、痛がっている場合ではない。麻原はアクション映画のヒーローがそうするように、アスファルト上をを転がって退避した。

「ははは、こんな熱い道路を豚が転がって、丸焼きにでもなるつもりか」

 この状況で、コリアントリオの孫斗八が、麻原を挑発する。殺し合いの最中に、よく回る口だ。やられたら、やり返すといきたいところだが、己の無力さを理解した今となっては、もはや信徒たちに委ねるしかない。

「永山が横断歩道を渡ったぞーーーっ。止めえーーーーーっ!」

 宅間守が大きな声を出す。何かと思ってみてみると、信号が変わり、開通した4の島~2の島間の横断歩道を、永山則夫が渡っていくのが見えた。これでまた信号が変わり、2の島~1の島間の横断歩道が開通すれば、敵軍のエース、永山則夫が、麻原のいる1の島に移ってくるということになる。

 写真ではトロンとして覇気がなかった永山の目が吊り上がり、麻原を睨んでいる。殺る気満々であった。今、1の島では、造田博がイチヌ、関光彦が金嬉老、小田島鐡男が孫斗八と、対応する相手との戦っている。もし永山が信号を渡ってきたなら、手の空いている自分が相手をせねばならない。冗談ではない。勝てるはずがない。

 麻原の膀胱を、史上最大級の尿意が襲った。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
最新コメント
最新記事
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。