奈緒ちゃんのお家 5


 肉汁の臭いが充満する部屋の中で、瑠香は眦を釣り上げる実の姉、麗香と対峙していた。
「あんた・・。自分のやったことわかってる?」

「わかってるよ。でもしょうがないでしょ。好きになっちゃったんだから」

 瑠香は、猫のような目で瑠香をキツく睨みつける麗香から顔を逸らし、唇を尖らせて言った。

「年頃になれば誰もが通る道だけど・・・でも、アイツはやめときなよ」

「どうして」

「あんたがアイツに気があるのはなんとなく気づいてたから、さっき私、アイツに今、付き合ってる人がいるか聞いてみたのよ。そしたら、五歳上で、ネイルサロンに勤めている彼女がいるって。あんたは遊ばれてるのよ。だから」

 姉にそう言われても、瑠香にショックはなかった。悟兄ちゃんみたいにカッコイイ人だったら、すでに彼女がいて当然。悟兄ちゃんを独占しようなんて贅沢は、もとより考えてはいない。

「別に、二番目だっていいもん。悟兄ちゃんが私にも優しくしてくれるなら、他に優しくする人がいてもいいんだ」

「あんたって子は・・・。なんでそんなに、あんなヤツに惹かれるのよ。あいつが、あんたがコンプに思ってるところを受け入れてくれるから?」

 瑠香は家族には、自分が体臭のことで悩んでいることは伝えていた。

 家族は瑠香の体質に配慮し、体臭を生み出さない、野菜中心の食事メニューを受け入れてくれるなど、色々気を使ってくれていたが、家族に同情されただけでは、瑠香の心を覆いつくす靄は晴れなかった。

 同情ではなく、好きだと言ってくれる人が現れた。瑠香がダメだと思っていたところを、とってもいいところなんだよって、褒めてくれる人が現れた。それで初めて、瑠香は救われた。

「ねえ、お願い瑠香。あいつと別れて。家庭教師だったら、ほかにもいくらでもいるじゃない。そもそもアイツはプロの家庭教師じゃないでしょ。本気で勉強したいなら、ちゃんとした会社に依頼して、ランクの高い家庭教師をつけてもらった方がいいじゃない」

 必死になって瑠香を悟兄ちゃんから引きはがそうとする姉、麗香。その姉に対し、これまで、反抗期らしい反抗期のなかった瑠香が、初めて反論を試みようとする。

 好きな人との大切な時間を、守るために。

「私はソフトの推薦で大学に行くつもりなんだから、そんなに受験対策をガッチリする必要はないもん。最低限、学校の授業についていければ、それでいいんだから。だったら、好きな人に教えてもらいたい。そう思うことの、何が悪いの。なんでお姉ちゃん、私と悟兄ちゃんのこと、邪魔しようとするの。お姉ちゃんも、悟兄ちゃんのこと好きなの?」

「ちがう。瑠香、ちゃんと聞いて。あいつは、違う世界の住人なのよ。アイツが私に向ける目を、見たことがある?いつ、人を殺してもおかしくないヤツ。特に女の子に対し、物凄い恨みを持ってる。瑠香だって女なら、何となくわかるでしょ。アイツの放つ暗いオーラ。ただそこにいるだけで嫌な気持ちになる、冷たい雰囲気・・。たぶんそうなったのは、中学のとき、女の子たちみんなで、あいつを悪く言ったから・・。私も言い過ぎたとは思うけど、だからって、あそこまで歪む?あいつの頭の中で、きっと私は何千回も殺されてるのよ。アイツは、けして関わっちゃいけないヤツなのよ」

 姉の言い分に、悟兄ちゃんをボロボロにした罪悪感を掻き消し、己の所業を正当化しようとする意図が多分に含まれているのは疑う余地もないが、言っている意味が、まったくわからないわけでもない。

 侵入を試みる遺伝子を選別しようとする牝の本能が告げている。

 悟兄ちゃんは、「danger」だ。

 だけど、関係ない。

「仮に、悟兄ちゃんが内心、残酷なことを考えるような人だったとしても、悟兄ちゃんをそうしたのは、お姉ちゃんでしょ。小さいころからずっと仲の良かった人に、突然酷いことを言われるようになったら、心が傷ついて、真っ直ぐ育てなくても、無理もないと思う・・。お姉ちゃんが悟兄ちゃんを酷く言ったのは、立場上、仕方ない面もあったのはわかる。だから、お姉ちゃんを責めたりはしない。その代わり、私が悟兄ちゃんを、いっぱい癒してあげる。お姉ちゃんを守るためにも、私は悟兄ちゃんを愛する。だから、もう私たちのことは、何も言わないで」

 姉の目を強く見つめ返し、瑠香はキッパリと言い切った。

 もう、迷いはなかった。

「私、悟兄ちゃんのところに行くね」

 まだ、何か言い足りなそうな姉を振り払うようにして、瑠香は、悟兄ちゃんと睦み合った部屋の扉を開けた。男女の肉汁の、甘ったるいような、腐ったような臭いが、廊下の外にもむあっと広がった。
 さっきから、股間のジンジンが止まらない。

 もう、狂っちゃいそう。

 門限はとっくに過ぎている。明日も学校がある。

 関係ない。

 もう、悟兄ちゃんのことしか考えない。

 雌の細胞が、全身全霊で雄を求めている。

 瑠香は革靴を履いて、闇夜へと駆けだした。

                           
                            ☆


 幼馴染、麗香に追い立てられるように自宅に帰った悟は、左手の指に集めた瑠香の臭いを嗅ぎながら、十数分前に子種を吐き出したばかりの愚息を、右手で弄んでいた。

 下半身に快楽を与えながら脳裏に思い描くのは、ついさっき、両の腕に抱きしめた瑠香ではなく、般若の形相を自分に向けていた、姉の麗香の裸体である。

 殺したいほど憎む相手を力でねじ伏せ、蹂躙する妄想で、ずっと自分を慰めていた。

 淡い初恋を踏みにじった麗香に、己の子種を仕込むことを、ずっと夢見ていた。

 愛するから産ませるのではない。殺したいほど憎むから産ませるのだ。

 生きることが地獄でしかない悟にとり、自分の遺伝子を受け継ぐ生命の誕生は、まったくめでたいことではない。根絶しなければならない自分の血がこの世に残されるのは、悲劇でしかない。

 悲劇を背負わせるのなら、憎む相手。股間部に付いた忌まわしい突起を用い、自分を地獄に叩き落した麗香を犯し、悪魔の子を妊娠、出産するという過酷な運命に落とし込むことを想像すると、手の内にある海綿体は、好きな瑠香を抱くとき以上に、獰猛な硬度を獲得する。

 幼いころ、手を繋ぎあった麗香を、勃起で滅茶苦茶にする。

 二人でおままごとをした麗香の部屋で、二人でお城を作った公園の砂場で、高い意識の元、曲線美の豊かな完璧なプロポーションを作り上げた麗香を裸に剥き、悍ましいものを突き刺し、赤ちゃんの素を送り込む。

 そして、そのときの麗香のスイートスポットは、とんでもなくクサイのだ。

 麗香と血を分け合った、瑠香のスイートスポットから摂取したニオイよりも、もっとクサイのだ。

 悟の妄想の中で、麗香のおまんこは、瑠香のそれよりも、もっとずっとクサイ、納豆とチーズをぐちゃぐちゃにかき混ぜたものを便所の床にこぼし、それを牛乳をしみ込ませた雑巾で拭き取ったときのような、邪悪なニオイをさせているのだ。

 すっかり回復した剛直をまさぐるピッチを速めつつ、悟はすぅ~、すぅ~っ、と音を立てて、五指にこびりついた、瑠香の臭いを、麗香の臭いだと思って吸い込むことを繰り返す。

 幼いころ、麗香は、悟が特撮の戦隊ヒーローに熱中するのを理解してくれなかったが、今現在もまた、悟が女の子の腋、へその穴、足、肛門、そしておまんこの臭いを嗅いで興奮する性癖を持っていると知れば、やはり白い目を向けることであろう。

 嫌うなら嫌え。嫌われば嫌われるほど、お前を犯したい気持ちは強くなる。

 麗香の妹、瑠香は、悟の蒸れ蒸れ仮性ちんぽのニオイを嗅いで言った。

 嫌いな人ならクサイだけだが、好きな人のにおいなら、いい匂いになる。

 瑠香の自分に対する思いは嬉しいが、彼女のその発言には、百パーセントの共感はできない。
 美しい女性のクサイにおいそのものを愛する悟は、クサイ臭いを発する相手が、殺したいほど憎む女であっても興奮する。いや、むしろその方が興奮する。

 マドンナを気取り、すまし顔を浮かべていても、一皮むけば、こんな恥ずかしいニオイがするではないか。

 こっちを危険人物扱いし、警戒しているようだが、お前の方こそ、股間にとんでもない細菌兵器を持っているではないか。

 こっちをばい菌呼ばわりしていたが、棒で穴と穴が隔離されている男よりも、三つの穴が密集し、毛に覆われた構造になっている女のお前の股間の方が、ばい菌がうようよ繁殖しているではないか。

 麗香の洗っていないおまんこの臭いを、嗅ぎたかった。自分を人間扱いしなかった女のおまんこの臭いを嗅いで、証明したかった。

 俺もお前と同じ人間なんだ、放っておけばクサイ臭いのする、同じ生きた人間なんだと、麗香に、自分自身に、証明したかった。

「ん・・んっ」

 オルガスムスとともに、右手の内側に吹きあがったものを見つめる。

 見るだに恐ろしい白濁のもの。

 自分がこんな人間になったのは、こいつのせいだった。

 人が当たり前のようにこなすことができない障害。生まれついて、女子に嫌われる宿命を背負った障害。

 世の中の認知が徐々に広まりつつある発達障害について、テレビ番組やネットの掲示板で、様々な意見が交わされている。

 差別主義者による心無い言葉は論外だが、極端から極端に振れるように、発達障害を題材として、お涙頂戴の物語を仕立てあげるような向きもまた危険である。

 キレイごとでぼかされると、真実が伝わらなくなる。同じ障害があっても、あの人はあんなに真っ直ぐに生きてるじゃないかと、悩んでいる人間を攻撃する動きまで起こる。
 断言してもいい。

 高度にシステム化された現代社会の中で、「自由すぎる脳」を持った人間は、どう頑張っても歪むのだ。 

 私はみんなに支えられて幸せになりました。人を恨むことは一切ございません。

 そっちをスタンダードにされると、多くの同胞が苦しむことになる。

 一握りの煌びやかな成功例の前に、まず大多数の悲劇を伝えてほしい。悲惨な現状を伝えることで、初めて、彼らがどう進むべきか、これから彼らをどう受け入れるべきかという理想論が生きる。

 歪むだけが発達障害ではない。感情が行動に直結する彼らの本来の属性は陽性であり、独特の感性を持った彼らは、ときに他人が思いも寄らぬアイデアを思いつくこともある。うまく扱えば、集団にとってプラスになれる素質を持っている。

 歪んでしまった人間の居場所も、奪わないで欲しい。

 マニアックな性癖や残虐描写が、人を狂気へと駆り立てるのではない。発生の順序は逆なのだ。心が激しく傷つき、真っ直ぐ進めなくなってしまった人間が、自分も生きていていいんだ、自分は一人じゃないんだと心を安らげ、歪みながらも社会に繋がっていけるための空間を、少しでいいから残しておいてほしい。

 欠点を直し、平坦にならそうとするだけでなく、愛すべき個性として受け入れようとしてくれる大らかさを社会が持ってくれれば――僕や、奈緒ちゃんはやっていける。

 自分の考えを世の中に伝えるために、勉強だけは死ぬ気でやってきた。いい大学を出て、マスコミ関係の仕事に携わりたいと思って、寝る間も惜しんで机に向かった。

 そのせいで、ちょっと疲れてしまった。健常な遺伝子を持つ子供の数倍動き回り、数倍余計なことを考えてしまう頭を、無理やり教科書やノートに縛り付けていたせいで、そこかしこが悲鳴を上げている。

 大学二年生。いよいよ来年から、就活が始まる。夢の扉を開くための戦いが幕を開く前に、頭と身体が、束の間の休息を求めている。

 雄の細胞が、猛烈に牝を欲している。

 ミステリアスで、悟の知らないことを沢山知っている美沙。悟に依存し、悟なしでは生きていけない奈緒。悟にとって大切な二人の女性。でも、今は――。

 歪んだ自分が、この先真っ当に生きるために必要な女の子。

 向日葵のように真っ直ぐ、お天道様に向かって伸びる女の子。

 彼女なら、僕を救ってくれる。

「・・ちゃん。悟兄ちゃん!」

 窓の外から、瑠香の声が聞こえてくる。小学校の登校班で一緒に学校に通っていたとき、寝坊して家を出るのが遅れている悟を、瑠香がああやって呼んでくれていた。

 べとついたものをティッシュでふき取り、ゴミ箱に捨てた。小鳥のようなソプラノから、艶を帯びたアルトに変わった瑠香の声に導かれ、悟は玄関を飛び出した。

「悟兄ちゃん!」


                          ☆

 夜道を手を繋いで歩く間、二人はずっと無言だった。

 悟兄ちゃんと、瑠香の出た中学校への通学路にあるラブホテルに、手を繋いで入った。制服はヤバいかなと思ったけど、受付のおばさんは、見て見ぬフリをしてくれた。

「あっあの、瑠香ちゃん・・。今度は、お風呂入ってきていいかな」

 部屋に入ると、悟兄ちゃんはエッチの前にまず、身を清めたいといった。

 今度は、洗わせてあげた。悟兄ちゃんのニオイは、もういっぱい嗅げたから。

 瑠香は革靴を履いたままベッドに仰臥し、悟兄ちゃんが来てくれるのをじっと待った。

「ごめん、お待たせ・・」 

 バスルームから出た悟兄ちゃんは、もう大きくなっていた。

 ビクビク脈打つどす黒い棒の先っちょから、ぴょこっと飛び出したピンクのカメさん。商店街で、瑠香にエロい目を向けてくる、ハゲでデブなおじさんに付いていると思うと気持ち悪いけど、大好きな悟兄ちゃんとセットで見ると、甘い佐藤錦みたいで、とってもかわいい。

 悟兄ちゃんが、瑠香を求めてるのがわかる。瑠香に入るために、硬くなっている。

 胸の鼓動が、ソフトの試合に挑む前よりも高くなる。

 悟兄ちゃんは、制服のミニスカを履かせたまま、瑠香のパンティを脱がして、瑠香のワギナを舐めてくれた。硬いものを入れるためには、ワギナを濡らして置かなければいけないから。

 部屋で舐められたとき、ニオイはほとんど取れちゃってるけど、悟兄ちゃんは一生懸命、よく歯を磨いた口で、瑠香を潤わせてくれた。

「あっふぅ・・・あんっ。気持ちイイよぉ、悟兄ちゃん」

 悟兄ちゃんの舌が奥まで入ってきて、蛇のようにクネクネとくねってくる。これから太いものを入れるために、肉の洞窟を押し広げようとする。

「ハアァアウン。それすっごぉい・・・ア。ァアッ、ハッ」

 ツブツブになっているところを舌のお腹で撫ぜられると、ジクジクと気持ちのいい電気の信号が広がって、お腹が湯たんぽを入れてるみたいに温かくなってくる。ジュワジュワ湧き出してくるおつゆで、毛は先っちょまで濡れそぼっている。

 悟兄ちゃんを迎える準備が、できた。

「ごめんね瑠香ちゃん、ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してね」

 悟兄ちゃんは、瑠香にハンカチを噛ませると、制服姿のままの瑠香に乗っかってきた。手で軽く位置を調整してから、悟兄ちゃんは、ピンクカメさんを、まずは先っちょだけ、入り口のところに挟んできた。


「ひっ・・く・・・!」

 鋭い痛み。頭の中に、果物ナイフが、サクッとリンゴを裂くイメージが広がる。あんなに可愛かったピンクカメさんは、いまは獰猛なワニガメのよう。痛みをこらえるため、瑠香はソフトの試合でマウスピースを噛むときよりも強く、口に含んだハンカチを噛み締めた。

 アダルトビデオの女優さんのような喘ぎ声をあげる余裕なんてとてもないけれど、ソフトで鍛えたど根性で、涙だけは見せまいと堪えた。

 悟兄ちゃんと繋がりながら、あったかい布団をかぶって、三分くらいじっとしていると、刺すような痛みの中に、ムズムズしたような気持ちよさを、微かに感じられるようになった。ジュワジュワと、おつゆがますます染み出してきて、差し込まれた硬い棒を、異物と認識しなくなっていく。

 瑠香の痛みが取れていく様子を見ながら、悟兄ちゃんは、ゆっくり、ゆっくりと、ピンクカメさんを奥まで突き入れてきた。

「じゃあ、そろそろ、動かしていくからね」

 悟兄ちゃんがゆっくりと腰を動かし始めると、また、リングがサクッと切られる痛みが襲ってきた。

「ふむぐぐぐぅん。ぐぅぅぎぃぃぃい」

 ワニガメさんがワギナの中で暴れまわる激痛に、瑠香は悶絶した。

 痛い――こんなに痛い思いをしてまで、赤ちゃんを作らなきゃいけないの?悟兄ちゃんには悪いけど、信じられないような痛みの中では、可愛い声なんてとてもあげられない。口に含んだハンカチも、千切れそうになっていた。

 ソフトの試合で、強豪校相手に死闘を繰り広げているときと同じ。始まる前はワクワクが止まらないけど、いざ始まってみると、想像を絶する過酷さで、はやく終わってほしいとしか思わなくなる。 

 お願い、早くイって――。

 始めはただ、そればかりを祈っていたけれど、時間が経ってくると、また、ジュワリジュワリとおつゆが染み出してきて、摩擦のときの裂傷感が弱まっていく。

 やがて、自分の膣肉が、単体の生物のように瑠香の意志を離れてうねうねとくねり、悟兄ちゃんの男根をグイッと締め上げようとするのがわかる。

 腰を動かし始めると、瑠香の中にいる悟兄ちゃんはますます硬く、大きく膨れ上がって、瑠香のお腹の中を掻きまわそうとする。このクニクニしたのは、ピンクカメさんを覆っていた皮?

 悟兄ちゃんは、危うく抜けかけるくらい腰を浮かせ、膣の入り口に傘をひっかけて、それからまたズブッと奥まで入れて、皮をズリュズリュするのが気持ちいいみたい。抽送のスパンが大きいと、ピンクカメさんが瑠香の芯にコツンと当たったときの衝撃も大きくなって、奥でボッと火がともるよう。

「ア。アン・・・アッ・・・アンッ、アァアン、アッ」

 痛いのが気持ちいいのに変わってきて、段々、可愛い声が出せるようになってきた。瑠香の反応が変わったのを見計らって、悟兄ちゃんは、腰の動きを速めてきた。

 ソフトの試合で、不利だった流れが変わり、怒涛の攻勢に出るときの感覚。悟兄ちゃんと一体になれているのが嬉しい。瑠香は無意識のうちに悟の背中に足を回し、上半身を抱きしめていた。
「アン、アン、アン。フゥゥン、フゥゥン、フゥゥン、アッ。アァッ、アァッ。もうダメッ、ダメッ、なにも考えられないっ、考えられないぃっ」

 絶頂へと達し、さらに終わりなき道を行こうとする瑠香の中で、悟兄ちゃんも昇りつめていく。瑠香の中に入ったお肉の棒が、さっきみたいに、グ、ググウッと持ち上がっていくのがわかった。

「あ・・・っ、あっ・・・瑠香ちゃん、いったんゴメンね」

 悟兄ちゃんは、文字通り、血液が充満して、怒り狂っているかのようにパンパンに張ったものに、手早く、枕元に置いてあったゴムをはめた。

 まだ、ソフトを続けたい瑠香を、ママにしないための気遣い。それから、悟兄ちゃんは、少女から女になった瑠香の蜜壺に、もう一度、繁殖のための器官を侵入させてきた。

 女として覚醒した瑠香の姫肉は、悟兄ちゃんの抽送に合わせてグイグイと収縮し、種を放たんとしているものをキツク絞り上げる。

 これが初めての瑠香は、悟兄ちゃんを悦ばせるような動きはまだできない。せめて、悟兄ちゃんが大好きってことを示そうとして、悟兄ちゃんの背中に足を絡め、しっかりとしがみついた。 

 悟兄ちゃんは瑠香の口に含ませたハンカチを取ると、唇を重ね合わせ、口の中に舌をねじ入れてきた。

 瑠香の歯茎をなめようとする舌に、自分の舌を絡ませる。粘膜が絡み合って、湧き出た唾液が上からドンドン流し込まれて、疑似的に精液を注がれているかのよう。悟兄ちゃんは瑠香の背中に手を回し、蟻の這い出る隙間もないくらい、二人は密着する。

 来る――。

「あっ。うっ、うっ、うーーーっ」

 再挿入から一分も経たないうちに、悟兄ちゃんの腰の動きが止まった。グ、グ、グッと鎌首が持ち上がって、竿全体がドクドクドクンと脈打つ。瑠香の口の中に、白ねばおしっこを出したときと同じ反応。ゴムの中に、熱いものがジュクジュク溢れているのがわかる。

「ハッ、ハッ、ㇵッ、ㇵッ、フウウゥゥゥゥッ」

 汗びっしょりになった悟兄ちゃんが、大きく息をつきながら、役目を終えたものを瑠香の中から引き抜き、瑠香の横に倒れ込んだ。

 瑠香を気持ちよくさせてくれた悟兄ちゃんに、頑張ったね、よしよしってしてあげたかったけど、気持ちの余裕がなかった。なんて言っていいか、わからなかった。

 マセた友達が、初めてのときは何が何だかわからないうちに終わっちゃうって言ってたから、できるだけ意識をはっきりさせるようにしていたけど、終わってみれば、やっぱり記憶は途切れ途切れで、何がなんだかわからなかった。

 ソフトの試合を終えたときと同じ達成感とともに、何か、大切なものを失くしてしまったような感じがして、涙がこぼれてきた。

 中学校の三者面談で、パンフレットを見せてもらったとき、一目で可愛いな、これ着たいなと思った、高校の制服――純潔の証であるはずのこれを着ながら、こんな経験をするなんて、あのときは思ってなかった。

 全部、悟兄ちゃんが悪いの。

「瑠香ちゃん、血はあんまり出てないね」

「去年、部活の練習中、激しく動いたときに破けちゃって・・。でも、初めては、正真正銘、悟兄ちゃんだよ」

「うん、わかってるよ。瑠香ちゃんの初めてもらっちゃって、ごめんね」

「いいの。悟兄ちゃんに上げようって、最初から決めてたから」

 そしてこれからも。

 初めてで、ずっと一緒の人。

 今は二番目でもいい。だけど、いつかは――いつかは瑠香が一番だって言ってもらえるように、これから頑張ろうと、瑠香は決心した。



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奈緒ちゃんのお家  4


「ただいま~」

 部活動を終えて帰宅した瑠香は、ビーフシチューのいい匂いを漂わせるリビングの前を素通りし、洗面所へと直行した。

「おかえり。ご飯できてるから、お勉強の前に食べちゃいなさい」

「食べてきたからいい。悟兄ちゃんが来たら、おやつを上に持ってきて」

 母の勧めに応じず、鏡の前に立った瑠香は、通学鞄からコスメの入ったポーチを取り出して、普段はあまりしない化粧を始めた。

 今日は、家庭教師の悟兄ちゃんがやってくる日。

 通常、家庭教師は同性が務めるものだが、悟兄ちゃんは姉の麗香の幼馴染で、母は小さいころから悟兄ちゃんを贔屓にしており、悟兄ちゃんが名門の安瀬田大学に入ったと知るや、瑠香の家庭教師にと、個人契約を結んだのだ。 

「瑠香、化粧なんかより、まだ悟くんが来るまで時間あるんだから、シャワー浴びてきなさいよ」

 洗面所に、洗濯にやってきた母が、娘に呆れたような目を向けて言った。

 夏場にソフトボール部の活動を終えたばかりの瑠香は、全身から汗のムッとした臭いを漂わせている。

 小さいころから体臭のキツイ体質だった瑠香は、いつもは人一倍、自分の腋や足から放たれる臭いには気を配っているが、今日に限っては、部活を終えた後に、ドラッグストアで売っている制汗スプレーを吹き付けたりもしておらず、下校途中にある商店街で、いつもは嫌らしい目で瑠香の太ももを眺めてくるサラリーマンおやじも顔をしかめるほど、濃厚な雌の臭いを放っていた。

「面倒くさいから、後でいいよ」

 悟に娘の体臭で嫌な思いをさせまいと気遣う母の言葉に従わなかった理由――瑠香は、小さいころからよく面倒を見てくれた悟兄ちゃんが、女の体臭で興奮する性癖であるのを知っている。

 初めは、信じられなかった。コンプレックスでしかなかった自分の体臭で、あろうことか欲情する男性が存在するなどとは。

 しかし、瑠香が部屋でスリッパを脱ぐと、悟が己の股間部分を妙に気にしだしたり、瑠香が伸びをして腋を開く度に、悟兄ちゃんが、クラスの内気な男子のようにドギマギとしたりするのを見ると、瑠香は己の疑いに確信を持たずにはいられなかった。

 決定的な証拠をつかむべく、瑠香はある日、自室にわざと靴下を脱ぎ捨てて、トイレに行くと言って部屋を出てから、少し開けたドアの隙間から、部屋の中を覗き見てみた。

 ビンゴ――悟兄ちゃんは、瑠香の足から滲み出る汗がしっぽりと沁み込んで黒ずんだ靴下のにおいを嗅いだり、つま先の部分をジューッと吸ったりしながら、恍惚とした笑みを浮かべていた。

 中学生のころ、クラスで友達の体操着が闖入者に盗まれる騒ぎがあったときはドン引きしたが、悟兄ちゃんが自分の靴下を美味しそうに吸っているのを見たときは、喜びを感じた。

 忘れえぬ、悲痛な記憶――。

――瑠香ちゃんのあんよ、とってもくさい。そんな足で奈緒ちゃんのお家を歩いたら、奈緒ちゃんのお家がくさくなっちゃうから、瑠香ちゃん、あんよを洗ってきて。

 小学二年生のころ、一番大好きだった友達に言われた衝撃的な一言が、ずっと鼓膜の奥から消えなかった。

 あの夜、瑠香は涙が枯れるほどに泣いた。あれ以来、瑠香は自分の体臭に、恐怖症に近いコンプレックスを持ち、常に手元に香水や制汗スプレーがないと不安を覚えてしまうようになった。

 悟兄ちゃんが瑠香の体臭で喜んでくれたお陰で、ザックリと切り裂かれた心の傷が癒された。 

 自分の身体を、異常に汚いもののように思い込むことがなくなり、自信がついた。

 悟兄ちゃんへの感謝の気持ちが、いつしか、恋心に変わっていることに気付いた。

 汗でベタベタした身体のニオイを嗅がれることに、恥ずかしさはあったが、悟兄ちゃんがそれで喜んでくれるなら、もっともっと、いっぱいいっぱい、嗅がせてあげたかった。

――悟兄ちゃん。私ね、悟兄ちゃんのこと、好きになっちゃった。悟兄ちゃん、私と付き合って。お願い。

 とうとうこらえ切れなくなって、先日、授業が終わった後、瑠香は悟兄ちゃんに思い切って、自分の恋心を打ち明けてしまった。

 自分の靴下をイタズラしているところを目撃しているのである。自信はあったが、悟兄ちゃんは、瑠香の交際の申し出に、首を縦に振ってはくれなかった。

――ごめんね。瑠香ちゃんの気持ちは嬉しいけど、僕を信頼して家庭教師に指名してくれたお母さんを裏切ることになっちゃうから・・・。

 悟兄ちゃんにフラれても、瑠香に諦めるつもりはなかった。むしろ、ソフト部ではガッツを買われてムードメーカーを務める瑠香は、この意外に堅物なむっつり助平を、何とか落としてやろうと燃え上がった。

 思案を巡らせた結果、瑠香は、口でああだこうだ言うのは抜きにして、悟の雄の本能に、直接訴えかける作戦を固めた。

 瑠香が好きで読んでいる少年漫画によれば、世の男のほとんどは、イチモツをガッシリと握られれば、女の誘いを拒否できなくなるという。

 もし、直接的な色仕掛けが、何万語を並べるよりも男を落とす効果があるというのなら、瑠香の靴下をチューチューやっていた悟兄ちゃんに、瑠香の雌臭をこれでもかとばかりに嗅がせれば、瑠香との交際を、否が応にも承諾せざるを得なくなってしまうのではないか。

 恥ずかしさはある。だが、絶対にできないほどではない。

 恥ずかしいというなら、そもそも、いつも一日の終わりに、悟兄ちゃんを思い浮かべながら大事なところを弄っている空間に、悟兄ちゃんを招じ入れているのである。今更、何を躊躇うこともない。やると決めれば、ソフトの試合のように、魂でぶつかり合うだけである。

「よし、メイクもばっちり。あとは悟兄ちゃんが来るのを待つだけだぞっと」

 瑠香は弾む足取りで二階に上がり、自室に入った。

 勉強机の上に参考書と問題集を開き、デスクチェアに座りながら、汗でしっぽりと湿った靴下を履いた足を、前後に揺すった。 

 人がこの部屋に入れば、瑠香が直前に、とんこつラーメンを食べていたのだろうと思うはずである。だが、この部屋に、とんこつラーメンのどんぶりはない。

 六畳の部屋の中はもう、瑠香のニオイで充満していた。


                          ☆


 インターホンを鳴らしてしばらく待つと、幼いころから慣れ親しんだ、人好きのする笑顔とアロマの香りが、悟を迎えた。

「悟くん、こんばんは。今日もよろしくお願いね」 

「こんばんは、おばさん。その消臭剤の匂い、いいですね」

 心にもない誉め言葉を口にして、悟は靴を脱ぎ、幼いころから懇意にする川村家の玄関に上がった。

 この家の長女、麗香と悟は幼馴染で、小さいころは家族ぐるみで付き合いをし、お花見やバーベキューを共にしたこともあった。

 当時の麗香と悟は本当に仲が良く、鬼ごっこやかくれんぼをするだけでなく、おままごとなど、女の子らしい遊びに付き合うこともあった。

 育ち盛りの悟と麗香の関係に変化が生まれたのは、小学校高学年のころ。精通を済ませた悟は、これまで、親族のように接してきた麗香に、性的なものを求めていることに気付いてしまった。

 そのセミロングのさらさらな髪の毛が好きだ。長いまつげ、涼やかな切れ長の二重瞼が好きだ。体育の時間、得意のポートボールで躍動する姿が好きだ。学校で十姉妹を買おうと提案する、動物を愛する優しい気持ちが好きだ。

 初恋の淡い思いを、いつかは本人に伝えたいと思っているうちに、中学に上がり、女子たちとトラブルになった。悟が学年中の女子からバッシングを浴びるようになったとき、麗香は女子たちの先頭に立って、悟を攻撃した。

――あのばい菌、マジきもいから!子供のころからクソザルみたいな顔だったし、道路に落ちたおにぎりとか平気で拾って食ってたし!乞食とおんなじ!不潔!

――あのばい菌と幼馴染とか、ほんと勘弁して。言っとくけど、私当時から、アイツとは親同士の縁で、嫌々付き合ってただけだからね!あんなばい菌、友達ともなんとも思ってないから!

 仄かな恋心を抱いていた麗香からの罵倒は、なんとも思っていなかった他の女子たちの何倍も効いたし、小さいころから付き合いのあった麗香に悪く言われるのは、悟の家族までも一緒に悪く言われているようで、大層堪えた。

 麗香のせめてもの情けか、麗香は悟が学校中の女子に嫌われていることを、自分の家族には言っていなかったようで、麗香の母、梨香は、相変わらず道ですれ違えば挨拶をしてくれたし、親同士の仲もよかった。

 そして、悟が名門の安瀬田大への入学を果たしたことを知ると、ぜひ、高校生になった麗香の妹、瑠香の家庭教師にとお願いされた次第である。

 初めは断ろうと思ったのだが、日本の母を絵に描いたような梨香に重ねて頼まれれば、嫌とはいえなくなる。自分を傷つけた麗香への当てつけの気持ちもあり、悟は梨香の依頼を承諾することにした。

 それでも不安は大きかったが、生徒である瑠香の反応が予想以上に良かったことで、悟は家庭教師を引き受けたのは正解だと思った。アルバイト代は相場と同額だが、毎晩帰りが遅くなる父親のいない女だけの空間に、異物として紛れ込めるワクワク感は、金には代えられない。

 これが官能小説であれば、母娘三人とただならぬ関係になっていくという展開になるのだろうが、現実はそう甘くない。

 梨香が悟を家に招くのは、男の子には恵まれなかった梨香が、悟を自分の息子のように思っているからだし、麗香は中学生の頃、酷い言葉を浴びせていた悟に、いまだにゴミを見るような目を向けてくる。

 昔から、家族ぐるみで付き合いのあった川村家と、今度は下半身で繋がっていくことは考えていいなかったし、そうなる気配もまったくなかったのだが、つい先日、思わぬタイミングで、事態は急変した。

 麗香の妹であり、悟が家庭教師を務める瑠香からの、突然の告白。

 正直、心はぐらついたが、悟は悩んだ末、瑠香からの告白を、丁重にお断りした。

 その際、言い訳にしたのは、母、梨香への義理というものだったが、悟が内心、しゃぶりつきたくてしゃぶりつきたくてたまらないと思っている現役女子高生の告白を断ったのは、もちろん、そんな堅物じみた理由ではない。

 悟と付き合いのあるもう一組の姉妹、美沙と奈緒との関係を慮って、というのは、嘘ではないが、それも理由のうちの半分に過ぎない。

 もう半分の理由は、自分が怖かったから。瑠香を好きになってしまったら――殺したいほど憎む姉、麗香と血を分け合う瑠香を好きになってしまったら、自分がなにか、とんでもないことをしてしまいそうで怖かったから。

 ばい菌のような自分が、二組の姉妹にとっての、災いになりそうな気がする。瑠香に告白を受けたときから、悟は嫌な予感がして仕方がないのである。

「じゃあ、九時になったら、お二階にお茶を持っていくから、それまでお願いね」

「いつもすみません。それじゃ、お邪魔させていただきます」

 リビングに戻っていく梨香と別れ、生徒である瑠香の待つ二階に上がっていくと、廊下の突き当りにあるトイレの前で、長女の麗香が、仏頂面で腕を組んでいた。

 鋭い視線を向けられ、胸をグサリと突き刺されたようになるのは、過去のトラウマだけが原因ではない。

 成人男性の手のひらに容易に納まる小顔。パーツは無駄な余白の一切ない完璧な配置で、妹の瑠香にも受け継がれる切れ長の瞳は、ゾッとする潤いを湛えている。胸は小ぶりだが、ソフトでは小柄で俊敏なのを活かしてセカンドを務める瑠香とは対照的に、長身でプロポーション抜群。ホットパンツからは、柳を思わせるしなやかな脚が伸びている。

 悔しいのだが、麗香は美しい。殺したいほどに美しいのだ。

 麗香はその美貌と社交性を活かし、各大学の運動部のレギュラー、読者モデルなどの有力者に取り入って、その先輩で、すでに有名企業で確固たる地位を築いている人物へと人脈を広げ、就職戦線を優位に進めるべく活動に積極的であると、安瀬田大学の麗香ファンの間では、もっぱらの噂である。

 同じ大学生というカーストの中で、自分は麗香の足元にも及ばないほど劣っている――。

 勉強だけは頑張って、麗香よりも偏差値の高い大学には入ったものの、幼馴染との差は開く一方な気がして、苦手意識はまったく消えていなかった。

「ねえ。ちょっと聞きたいんだけど」

 麗香が自分に話しかけてくるのは珍しいが、嫌な予感しかしなかった。

 本当に悔しいが、麗香は美しく魅力的である。悟の方が麗香に興味があっても、麗香の方が、悟に興味があることなどありえない。

「・・なに」

 何かを聞いてくるとしたら、ロクでもない話に決まっている。悟は麗香と目を合わせず、ぶっきらぼうに応じた。

「あんた今、付き合っている人いるの?」

「・・・・・は?」

 かつての思い人であり、自分を「ばい菌」呼ばわりしていた幼馴染から思わぬ問いを受け、悟は戸惑った。

 言うまでもなく、これは「ツンデレ」などというものではない。目の前に立つ麗香の、射貫くような視線から溢れ出ているのは、ただ、こちらへの敵意だけである。

 ならば、何故に悟の交際相手の有無など気にしてくるのかといえば、それは十中八九、先日あった、妹、瑠香の告白に関連してのことに違いない。

 ありがたくもあり、申し訳もない話――瑠香はまだ、悟のことを諦めてはおらず、姉の麗香に、恋の相談をしていたのだろう。

 麗香ではなく瑠香が相手なら、はぐらかしたりせず、ちゃんと答えてやらなければならない。キッパリ言って、望みを断ってやらなくてはならない。

「・・いるよ」

 しばし悩んだ後、悟は麗香に答えた。

「どんな人?大学の同級生?」

「違う。五歳上で、ネイルサロンに勤めている」

 ズケズケと問い詰めてくる麗香に、悟は、自分と肉体関係にある姉妹二人のうちから、姉の美沙の方のプロフィールを紹介した。

 形はどうあれ、自分を真剣に好きでいてくれる奈緒ではなく、奈緒の家庭教師を務めることを条件に自分と繋がっているに過ぎない美沙の方を、悟は「彼女」に仕立て上げた。

 美沙と奈緒の二人を比べたとき、悟はどうしても、美沙の方に気持ちが揺れてしまう自分を抑えることができない。
 あんなキレイな人から、あんなくさいニオイがするなんて――すべての臭いフェチの基本は、「ギャップ」に帰結するといって間違いはない。

 おまんこ、アヌス、足、腋、おへそ。美沙と奈緒の二人のスイートスポットが放つ臭いは、どちらも悟の鼻粘膜を慰撫してやまないが、プレイ時における単純な臭いの強さだけでいえば、悟の言いつけを忠実に守って、一日中履きっぱなしのおむつ、コンバットブーツ、巻きっぱなしのサランラップで、スイートスポットを蒸らした上で自分を迎えてくれる、奈緒の方が上である。

 しかし、ギャップの効果は、一のニオイを十に、十のニオイを百にまでも引き上げる。

 言っては悪いかもしれないが、家で引きこもって、日がな一日、ゴロゴロして過ごしている奈緒がどれだけすごいニオイを放っていても、「意外」という感じがしない。

 それよりも、昼間は普通に仕事をし、普通の交友関係を築き、普通の日常生活を送っている美沙のおまんこ、アヌス、足、腋、おへそから、美女ではなく野獣の臭いを嗅ぎ取ったときの方が、何倍も、何十倍も興奮する。

 悟は気品溢れるスーツに身を包み、北欧産の調度品で統一されたサロンルームで優雅に仕事をしている美沙の身体から、悟が建設現場のアルバイトで、監督に怒鳴られ、外国人労働者に工具を投げつけられ、何度も重い鉄筋を持ち上げて、体中が悲鳴を上げるほど肉体を苛め抜いた後と同じ臭いを嗅ぎつけるのが、嬉しくて嬉しくてたまらないのだ。

 麗香よりも理知的で、麗香にも負けないくらい魅力的な美沙が、「ばい菌」呼ばわりされた自分と同じ人間であることを確認できるのが、嬉しくてたまらないのだ。

「ほら、写真も見せてやるよ」

 悟はスマホのデータフォルダから、数週間前、美沙とプレイ後に焼き肉屋に入ったとき、二人で撮った写真を出して、麗香の前に翳して見せた。

「これで、気が済んだ?」

 かつて、自分を「ばい菌」呼ばわりしていた麗香が、信じられないといったような顔をこちらに向けてくるのを見て、つい鼻息が荒くなる。

 どの大学に行ってもマドンナを張れる麗香を動揺させられる美貌の女は、そうはいない。麗香と違い小柄だが、その分、女性としての可愛らしさのある美沙を抱いている自分を、散々「ばい菌」呼ばわりされた麗香に見せつけられる――厳密には、美沙とは相思相愛の、本当の男女の仲にあるとはいえないが、カタルシスは大きかった。

 中学時代、悟が学校中の女子たちからバッシングを浴びるようになったとき、麗香は、なんてことをしてくれたんだと思っただろう。

 己の立場を守るためには、幼少時から付き合いのあった自分が先頭に立って、こいつを叩かなければならない。

 本当は、そこまで嫌いなわけでもないけど――。

 あのとき、麗香がそう思ったことを、責めはしない。今更、謝罪を求めようという気もない。自分にも、大いに非はあったのだ。

 だけど、殺意は消せない。

 誰より好きだったからこそ、誰よりも激しく憎んだ。

 お前にも原因があったんじゃないのか。お前が我慢すればいいだけだ。

 そんなことは当然わかった上で、それでも割り切れないから恨んでいる。

 小さいころ、手を繋いで公園を歩いた麗香が――。

 家族を交えて、一つ皿の食事をつつき合った麗香が――。

 初恋の淡い思いを抱いた麗香が、突如として自分を釣り上がった目で睨んできたとき、聞くに堪えない罵詈雑言を浴びせてきたときのショックを、理屈で割り切るなどできはしない。

 百万人が自分を責めても、自分だけは、自分を擁護できる。 

 麗香を殺すことを正当化できる。麗香を殺しても、反省も後悔もしない自信がある。

「他に用がないなら、俺、行くよ。瑠香ちゃんを待たせてるからさ」

 まさか、悟が己を殺したいとまでは思っていないであろうとタカをくくっている麗香に、心の奥に燻る暗い炎を気取られないよう、悟は努めて明るい声音で言った。

「・・・・・・」

 根掘り葉掘り、悟の彼女について聞いた後でも、けして「ツンデレ」ではない麗香は、頬を赤らめて、「べっ、別にあんたに気があるわけじゃないんだからねっ」などと言ってきたりはしない。ただ、ゴキブリを見るような侮蔑の視線を悟に向けて、悟に背を向け、自分の部屋に入っていくだけである。

 変わらぬ殺意――しかし今のそれは、休火山のような小康状態にある。

 すべて、美沙と奈緒のお陰。自分が女性に、普通に受け入れられるとわかったから、自分をばい菌のように扱った女を、そこまで恨むことはなくなった。 

 かつて傷つけた悟に頭を下げる屈辱を飲みたくないあまりに、昔と変わらぬつっけんどんな態度を取り続けているのを、やめさせそうとも思わない。彼女の母親に頼まれたこととはいえ、彼女の気を落ち着ける場所にまで上がり込んでしまったことを、申し訳なくも思う。

 やはり、自分は瑠香の家庭教師を引き受けるべきではなかったのだ。この家族とは、深く関わらない方がいい。

 任期を終え、瑠香を無事に志望大学に入れて上げることができたら、川村家から徒歩数分の距離にある実家を出て、大学の近くでアパート暮らしを始めようと思う。

 間違っても、瑠香に手を出してはいけない。瑠香を好きになってはいけない。

 女のことになると、簡単に理性を失ってしまう自分がこの家族と繋がったら、みんなが不幸になる。すべてが崩壊してしまう。悟の第六感が、盛んに危険信号を発していた。

 自分がこれからするのは仕事。変な意味は何もない。瑠香との関係が、家庭教師と生徒以上に発展することはない。悟は自分に、強く言い聞かせた。

 大きく深呼吸をしたあと、瑠香の部屋のドアをノックした。

「瑠香ちゃんこんばんは。入ってもいいかな」

「どうぞ~」

 かつて、自分の心をズタズタに引き裂いた声によく似た可愛い声に招かれ、悟は瑠香の部屋に足を踏み入れた。

 男茎を獰猛に膨れ上がらせる女の子のニオイが、鼻孔にズモモモッとなだれ込んできた。

                          ☆  


 瑠香の思った通り、今日の悟兄ちゃんは、瑠香の部屋に入った直後から、そわそわして落ち着かない様子だった。

 それも無理はない。六畳の瑠香の部屋は今、まるで、本場の味にこだわるとんこつラーメン屋さんの厨房のような瑠香の足の臭いで、いっぱいに満たされているのだから。

 普通の男が顔をしかめ、鼻を摘まむような臭いが、悟兄ちゃんにとっては、お腹を空かしたときに嗅ぐ濃厚な博多ラーメンの匂いよりも芳しく感じられる。

 瑠香に数学の問題集を解かせている間、悟兄ちゃんはしきりに股間部分を気にし、意識を女性方面から逸らそうと、興味もない男性アイドルのウチワに目をやっていた。

「う~、足が熱くて、集中できないや」

 言って、瑠香は、今日一日にかいた足汗をしっぽり吸い込んだ黒ずみ靴下を、敢えて悟兄ちゃんの足元に脱ぎ捨てた。

 餌を投げられたワンちゃんが、目をしばたたかせて動揺を露にしている。

 瑠香の靴下を拾いたくて拾いたくてたまらない悟兄ちゃんは、瑠香の背中をチラチラ見てくるけど、瑠香は意地悪だから、悟兄ちゃんが床に手を伸ばそうとした頃合いを見計らって、悟兄ちゃんの方を振り返ったり、「あー」とか「うーん」とか声をあげたりして邪魔をする。悟兄ちゃんはその度に、ビクッと手を引っ込めて、スマホをいじったり、アイドルのうちわを眺めたりして、靴下に関心がないのを装うとする。往生際の悪いヤツ。

 それでも堪え切れなくなって、段々と隠しきれない本性が表れてくる。

 靴下を脱ぎ捨てたばかりの、瑠香のほかほかに蒸れた足から立ち昇るニオイは、自分でも鼻をつまみたくなるほどだが、瑠香の家庭教師を務める変態豚野郎は、鼻息を荒くして、部屋中にむわぁんと広がる猛烈なとんこつラーメン臭を嗅いでいる。

 笑いをこらえるのに必死で、とてもではないが、勉強になど集中できない。問題集はまだ半分くらいしか解いてないけど、もう限界。

 瑠香はここを、今日の目的を果たすタイミングと見て取った。

「ねえ~、悟兄ちゃん」

 瑠香はデスクチェアをくるっと回し、悟兄ちゃんの方を振り返った。

「ん?どうした」

 これまで、心ここにあらずといった顔をしていた悟兄ちゃんが、急にシャキッとして、先生の顔になるのがおかしく、瑠香は吹き出してしまう。

「な、なんだよ。どこか、わからないところがあったの」

 先生のフリなんかしても無駄。悟兄ちゃんが、瑠香の足のニオイが大好きな変態豚野郎だってことは、とっくにわかってるんだから。

 堅物のフリなんか、もうさせない。瑠香はもう、とっくに抑えきれないところまで来てるんだから。

 瑠香は意を決し、この数日間、何度も予行演習を繰り返した言葉を口にした。

「あのさ。悟兄ちゃんってさ、わたしの足の臭い好き?」

 花も恥じらう女子高生の口から飛び出るには、あまりにも大胆すぎる質問。もし外れていた場合、恥をかくのは瑠香のほうである。だが、すでに悟が自分の靴下をチューチューしているところを目の当たりにしている瑠香は、自信たっぷりに言った。

「え!あ・・そ・・・あ・・・いや・・・」

 図星を突かれた悟兄ちゃんが、視線を泳がせ、しどろもどろになった。

「誤魔化しても無駄だよ。私、悟兄ちゃんが、私の靴下の臭いを嗅いでるところ、見てるんだから」

「え!そんな、そんなことしたっけかな?」

「いいの。私、嬉しかったの。私、今まではずっと、自分の臭いがコンプレックスだった。だけど、この前、悟兄ちゃんが私の靴下の臭い嗅いでるのみて、本当に嬉しかった。こんな体質の私でも、誰かに好きなってもらえるんだって、すっごく嬉しかったんだ。だから正直に言って。言ってくれたら、私、悟兄ちゃんに、好きなところのにおい嗅がせてあげる」

「え・・・・え!いや、それは・・・・」

 年下の女がここまで言ってあげてるのに、煮え切らない男。いい大学に入るために沢山勉強しても、決断力というものは磨かれないらしい。

 いくら悟兄ちゃんが、女の子の体臭に惹かれる性癖の持ち主だとわかっていても、ここまで言うのに、瑠香も羞恥心がないわけではない。狭い部屋を自分のニオイで満たして、恥ずかしくないわけがない。

 早く、襲い掛かってきて欲しい。瑠香に鼻を直接くっつけて、スンスン鼻を鳴らして、瑠香のニオイが大好きだったんだと、証明してほしい。

 瑠香がここまで解放しているのだから、悟兄ちゃんだって、自分をぶつけてきて欲しい。隠しているところを、すべて開け放ってほしい。

「悟兄ちゃん、来て・・・・」

 お願い、来て。

「・・・・・瑠香ちゃん、ごめんっ」

 願いは通じ、ようやく悟兄ちゃんは、瑠香の座るデスクチェアに歩み寄り、制服姿の瑠香を抱きしめてきた。

 悟兄ちゃんの首筋から滲み出る、突き刺すような刺激臭に、甘ったるいホルモン臭が混じった男のニオイに、瑠香はうっとりとなる。

「ふわァ・・・悟兄ちゃん、やっと来てくれた」

 瑠香の積極性には、単に悟と付き合いたい以上に、切実な理由があった。

 自分の体臭にコンプレックスを持つ瑠香は、男の子の汗のにおいを嗅ぐと安心する。男の子が自分より臭ければ、いつか、そういうことをする日が来たとき、自分のにおいを嗅がれてもドン引きされないかもしれない、と思えるから。

 女である自分の体臭を引け目に感じれば感じるほど、男性の体臭への興味は強くなっていった。
 
 小さいころから知っている悟兄ちゃんへの感情が、信頼から好意に変わったと気づいてから、瑠香は悟兄ちゃんが、自分よりくさければいいのになぁ、と、願望を抱いていた。

 異性の体臭を嗅いで性的興奮を催す――瑠香も、悟兄ちゃんと同じ性癖の持ち主なのだ。

 瑠香の知る限り、悟兄ちゃんの足が臭かったことはない。人の家にあがるのだから、それなりにケアしているのだろうし、悟兄ちゃんがいつも履いているのは通気性のいいスニーカーだから、足が蒸れることはないのだろう。

 しかし、パンツの中身は?

 けして開かれることのない男性の秘所。まさか、昔から妹のように可愛がっていた瑠香の前に晒すことなど、想定もしていなかった部分からならば、昼間、キャンパスライフを送っている間に溜め込んだ、蒸れ蒸れの臭いが嗅げるのではないだろうか。

 ある日の放課後。興味本位で、フィルタリングのかかっていない友達のスマホで検索して見つけた画像。

 もじゃもじゃしした縮れ毛の間から突き出す、グロテスクで禍々しいフォルムをしたあの物体を初めてみたとき、瑠香の心音は高鳴った。

 あれが、商店街で瑠香の太ももをエロい目で見てくる、ハゲてお腹がぼっこり出た、キモイオヤジについていると思うと吐き気がするけど、筋肉質で、胸板が厚くて、手足が長くて、スポーティなポロシャツが良く似合う悟兄ちゃんについていると思えば、胸がキュンとなって、お腹の下がじわりと熱くなる。

 悟兄ちゃんのあれの臭いを、嗅いでみたかった。

 女の裸を思い描いたり、触ったりすると伸び縮みする――まるで、それそのものが一個の生命体かのようななあれの臭いを、嗅いでみたくて嗅いでみたくて仕方なかった。

 臭いフェチの瑠香は、部活や体育の後、男の子の汗の臭いを嗅ぐとき、いかにも臭そうなもっさりした子よりも、逞しくて爽やかな男の子の方が、ギャップがあって興奮する。

 悟兄ちゃんが自分と同じ人種ならば、いかにもスポーツ少女といった見た目の女の子よりも、オシャレにしている女の子の身体から、獣のすごい臭いを嗅ぎつけたときの方が興奮してくれると思って、二年生まではショートだった髪を肩まで伸ばしてみたし、今日は帰ったあと、化粧を念入りにして、マニキュアも塗ってきた。

「ふゅ~・・悟兄ちゃん、あったかぁい・・・」

 興奮しているのか、長身の姉の鼻頭にも届かない、百五十二センチの小柄な瑠香の頬に押し付けられた悟兄ちゃんのほっぺたは、ストーブの前にずっといたかのように熱くなっている。

 食制限をしてモデル体型を目指している麗香とは対照的な、鍛えた筋肉の上から、適度な脂肪のコーティングをまとったアスリート体型の瑠香の身体を、筋肉質の悟兄ちゃんの身体がすっぽり包み込む。

 悟兄ちゃんの腕に抱かれる安心感はたまらぬ至福で、頭の中は、シャボン玉がふわふわ浮かんでいくようになってる。

 できれば、この先に行きたい。もっと、スリル一杯のことがしたい。

 大好きな悟兄ちゃんに、私の臭いを嗅いでほしい。

 大好きな悟兄ちゃんの臭い、いっぱい嗅ぎたい。

 悟兄ちゃんと、嗅ぎあいっこしたい。


                           ☆


 瑠香の誘惑に負け、彼女の小さな身体を両腕の中に掻き抱いてしまった悟の頭の中は、ポップコーンが跳ね回ったようになっていた。

 瑠香の臭いを、本人の同意を得たうえで、好き放題に嗅げるというのは嬉しい。嬉しくないはずがない。だがそれ以上に、戸惑いの方が大きかった。

 技巧が稚拙なのが逆にエロさを掻き立てるギャルメイクを施し、部屋中に濃厚な博多ラーメンの臭いをまき散らした上で、自分を誘惑してくる。

 まさか、瑠香がここまで大胆な手に打って出るとは思わなかった。

 姉、麗香への、けして鎮火できぬ殺意。この家族に深入りしたら、いつかとんでもないことが起きてしまうかもしれない。瑠香をどれだけ抱きたくても自重し、ただ、任期を恙なく終えることだけを考えなければならない――。

 ストッパーが外れ飛ぶのは、呆気なかった。

 涼やかな切れ長の二重瞼、あわやソフトボールに収まるかという小顔、太陽の下での練習で健康的な小麦色に焼けた肌。やや彫りが浅く、鼻が低い以外の点で、姉、麗香の美貌を正当に受け継ぐ十八歳の女の子にここまでされて襲わなければ、もう男ではない。 

「悟兄ちゃん・・・。私のこと、いっぱい嗅いでね」

 保育園のとき、公園で一緒に遊んでいる悟に、一生懸命作った泥だんごをくれた瑠香。

 小学校低学年のとき、登校班の班長だった麗香と、副班長だった悟と、両手を繋いで学校まで行った瑠香。

 小学校高学年のとき、中学校で麗香に罵倒され、俯きながら帰宅する悟の背中に手をやって、励ましてくれた瑠香。

 中学校のとき、ソフト部の引退試合で負けた帰り、顔が腫れるほど泣いていた瑠香。そのときは反対に、自分が励ました。

 悟を癒してくれたカワイイ妹分は、今、淫靡な芳香を放つ一体の雌獣となって、悟の目の前で頬を上気させている。

 悟の腕に抱かれた瑠香の首筋や髪の毛からは、シャンプーの清潔な香りと、女の子の甘い香りが漂っているが、少し目線を落とせば、花の女子高生がけして漂わせてはいけない、雑食の雌の凄まじいニオイがするのは、もうわかっている。

 もう、止められない。

「ごめんっ、ごめん瑠香ちゃん」

 二十歳の雄が爆発する。悟は、全盛期のマイク・タイソンばりのスピードで頭を沈ませると、デスクチェアから投げ出された、瑠香の靴下を履いていないおみ足を掴み、顔面を近づけた。

 走り込みを繰り返すことにより鍛えられた硬いふくらはぎをたぷたぷと揉みほぐしつつ、悟は博多ラーメン臭の発信源のニオイを、すぅ~っと嗅ぐ。

 ズシリと重みのある香りが鼻孔内になだれ込んだ次の瞬間、雄獣の大あごは、瑠香の足指のおまたを捉える。白癬菌の集積地。スポーツ少女のえっちなにおいが、たっぷり濃縮されているところ。

「悟兄ちゃん、そんな風にしてると、私の奴隷みたいだよ」

 奴隷――今の自分を表すもっとも的確な表現に、悟の鼓膜は心地よく震えた。

 雌の圧倒的な魅力の前に首を垂れることは、雄にとって、屈辱ではなく快感。足をちょっと密閉しただけで、男を狂わせる淫靡な臭いを生成してくれる瑠香の女体にならば、悟はプライドのすべてを踏みにじられても忠誠を誓える。

「わぁ・・・。ぴちゃ、ぴちゃっ、て、やらしぃ音してるぅ。ア、そこくすぐったい」

 皮がふやけて、しわしわになるまでなめまわしてやる。瑞々しい君の、若い塩味が消えてなくなるまで、僕がこの舌でなめ回してやる。

 五分ほどもずっと舐めて、瑠香の足から臭いがすっかりなくなると、悟は瑠香の一番大事なところへと向かって、少しずつ顔を上げていった。

 薄っすらと赤みがかった瑠香の太ももはゴムまりのような弾力で、脱力した状態では溶けそうなほど柔らかいが、力を込めるとふっと硬くなる。同い年の奈緒のそれとは明らかに違う、脂肪のコーティングの中に、強靭な筋肉繊維が隠れた、スポーツ少女の太ももである。

 女子高生のミニスカから伸びた太もも。いつの時代も変わることのない、無限大のロマン。インファイターの前にがら空きにされたリバーのように、悟を前へ、前へと駆り立てる魅惑の肉の膨らみ。
 その、魅惑の太ももの付け根の方から、花の香りが漏れ出ている。

 淫猥な色艶をした、東南アジア原産のラフレシアを覆い包む青いスポーツ用のパンティに右手を伸ばし、薄っすらとシミのついているところを指先で撫ででやると、瑠香が、ア、と、目を閉じて呻いた。シミから離した指先からは、栄養価の高さを示す、強い醗酵臭が漂っている。

 悟は一度、瑠香の股間から顔面を離し、一つ呼吸を置いた。

 この先に進むにあたっては、悟も勇気を振り絞る必要がある。

 人並み外れた酒豪でも、アルコール度数九十六パーセントのウォッカ・スピリタスを生のままで飲むことはできないように、女性の蒸れた臭いに興奮する性癖の持ち主でも、人間の肉体が受け付ける限界を超えた臭いには、耐えられないかもしれない。

 パンティの上から軽くなぞっただけで、鼻毛が干からびるかと思うほどの臭いを指に付着させる瑠香のおまんこに、直接鼻をくっつけたら、嗅覚が死んでしまうかもしれない。

 嗅覚だけは、失いたくない。命を失うことに恐れはないが、女の子の臭いを二度と認識できなくなるのは耐えがたい。

 しかし、ここで行かなければ、もう男ではない。飛び切り雌臭の強い女の子が、ソフトで流した汗を洗い落とさず、蒸れ蒸れになって、自分に挑戦してきているのである。

「瑠香ちゃん、ごめんね。脱がしちゃうからね」

 覚悟を決めて、悟は瑠香の、スポーツ用の青パンティを下ろした。

 ウワーッと広がるブルーチーズの臭いを嗅いで、悟の獰猛な欲求が、一気に膨れ上がる。

 こんなに可愛いのに、こんなに臭いなんて。フェアプレイを信条とするはずのスポーツ少女なのに、こんな反則、到底許されるはずがない。

「すごい・・おどろいた。瑠香ちゃんのパンツの中がこんなことになっちゃってたなんて、思いもしなかったよ。瑠香ちゃんがまだ小さいころ、一緒にお風呂に入ったときは、こんなんじゃなかったのに。いくつのときから、こんなクサクサになっちゃったの」

「小学校に入って、ぐんぐん背が伸び出したときから・・・。いちばんすごくなったのは、小学校の、五年生くらいから・・・」

「五年生から?そっか、このもじゃもじゃのお毛毛がいっぱい生えたせいで、蒸れ蒸れになっちゃったんだ」

「んん、違ぁう」

 卑猥な言葉を聞いて、羞恥に頬を赤らめる様は、経験豊富な美沙や、世間の常識から離れて育った奈緒を相手にしたときには見られないものである。

 乙女の恥じらう姿と、動物園にいるかのようなおしっこ臭と、ブルーチーズのような醗酵臭の混じった臭いとのアンバランスに、ずっと、忌々しいイケメンアイドルのウチワを眺めることで抑えていた悟の息子は、とうとうムクムクと自己主張を始めてしまった。

「悟兄ちゃん、そんな風に、スンスン嗅いでると、ワンちゃんみたいだよ」

 ワンちゃん――今の自分を表すもっとも的確な表現に、悟の鼓膜が心地よく震える。

 女の子の圧倒的な魅力の前に、男は犬になれる。ご主人さまが臭ければ臭いほど喜び、ご主人さまの臭いところを心行くまで嗅ぎまわり、舐め回したいと願う自分は犬。ご主人様の命令なら、何でも聞いてしまう犬そのものである。

「瑠香ちゃん、こんな変態な悟兄ちゃんでごめんね。キモかったら、キモイって言ってくれていいからね」 

「ううん。全然、キモくなんかないよ。悟兄ちゃんが私の臭いで喜んでる姿、とっても可愛い。悟兄ちゃんが私の、その・・ワギナのにおい嗅いでくれて、私、うれしいから」

 懐かしい単語に、初々しさを感じる。悟も確かに、初めは瑠香の姉、麗香と席を並べて受けた小学校の性教育の時間で、横文字の、ちょっとお上品な名前を、女性器の名称として教わったのだった。

 すでに同級生の間で定着していた、ちんちん、ちんこ、ちんぽ、などといった男性器の俗称の軽い語感に比べ、女の子の大事なところは、なんであんな高尚な感じに呼ばれるんだろう。女性器を男性器に比べて異様にタブー視するこの風潮はなんだろう。

 はじめにワギナという正式名称を習い、あとから、エロ本を通じて、おまんこ、コーマン、などといった女性器の俗称を知るまでの時期に感じていたあの違和感こそが、今思うと、悟の女性に対する劣等感の萌芽だったのかもしれない。

「それじゃあ、悟お兄ちゃんが、瑠香ちゃんのおま・・ワギナを、キレイにお掃除してあげるからね」

「えっ。うそっ、ちょ、そんなとこ舐めて、悟兄ちゃん、ダメっ」

 瑠香が悟の頭を掴んで抵抗するそぶりをするが、その両腕に、力はまったく込められていない。
「はぁ・・っ。や、やめてぇ・・」 

 秘裂に挟んだ舌には、美沙や奈緒を舐めたときのような、ビリッとした痺れは感じられない。

 デリケートゾーンは、もちろん洗わないのはよくないが、洗いすぎるとかえって膣の自浄作用が失われ、酸によって雑菌を殺すことができず、臭いの元になってしまうという。

 瑠香は自分の体臭を気にするあまり、膣を洗いすぎて大事な乳酸まで落としてしまい、逆にくさくしてしまっているタイプなのかもしれない。

「瑠香ちゃん、おまんこ、くさくしてくれてありがとう」

 悟は瑠香の太ももを押し開き、サーモン・ピンクのおまんこをゆっくりと開帳した。

「アッ・・フ・・ウゥン、クッ・・すご・・・こんなの、凄すぎる・・・」

 ピチャ、ピチャと音を立てながら、軟体動物のような動きで、膣肉を撫ぜ回してやる。

「ア。ァゥ・・・ク・・・ゥンッ」

 愛撫を受ける瑠香は、万が一にも、隣室にいる姉や、階下にいる母に聞こえないよう、押し殺した声で哭く。

 愛撫する悟は、舌の動きを徐々に激しくし、音をピチャ、ピチャからジュップ、ジュップに変えて、羞恥で溢れ出てくる樹液を吸い出しながら、ビラビラに付着するカッテージチーズのようなオリモノを舐めとっていく。

 十代の少女は代謝がいい上に、洗い方に関する正しい知識もないせいで、大人の女よりもまん臭が強烈になりやすいという話もあるが、花の女子高生である瑠香のおそその香りは、同い年の奈緒に比べても次元が違った。

 ここまでキツイと、性病を疑ってしまいそうだが、中学校からソフト一筋の瑠香に性病はない。少女の蜜壺から立ち昇る獣臭は、神が与えた天性によるものなのだ。

「さて。じゃぁ、今度は瑠香ちゃんのクリちゃん、いただいちゃおうかな」

 舌のお腹を使って舐めたことによって、全体のにおいが七割がた取れてくると、悟の飽くなき探求心は、いよいよ雌の若芽へと向かう。

「はぁんっダメ、あんぃやっ」

 舌先を器用に使って包皮を剥くと、ひと際粘り気の強い紫がかったオリモノとともに、醗酵した腐葉土の香りが、まぁっと広がった。

「ァ・・クぅ…やぁ・・・やぁや・・・」

 真っ白な姫茎を舌先で転がしてやると、瑠香はビクリと身体を大きく震わせる。

「ア・・クッ・・・さ・・悟兄ちゃん、ちょっと、ちょっとタイム・・・なんだかわたし、オシッコ行きたくなっちゃった・・・」

「・・・オシッコなら、ここでしてもいいよ。僕が全部飲んであげるから」

 ホテルでペットシーツを敷いて、おしっこを受けるのとは違う――準備もしていないここでオシッコをされたら、大惨事が引き起こされてしまうかもしれないが、構わなかった。瑠香のお父さんとお母さんが建てた家を汚すことになっても、悟はソフトボールを頑張る瑠香の、元気溌剌・オロ〇〇ンCが飲みたかった。

「・・・・・・・・!」

 クリなめを続けながら、瑠香のオシッコが迸るのを待っていたが、射精のようにピシュ、ピシュ、と飛び出てきたのは、オシッコとは違う半透明の、ぬらぬらした粘り気のある液体だった。

「うわぁ、瑠香ちゃん・・すごい、初めてみるよ。これが・・」

「アゥゥ・・オシッコじゃない、変なの出てきちゃったよゥ・・・」

「潮だよ。瑠香ちゃん、クリちゃん気持ちよすぎて、潮吹いちゃったんだよ。すごい。あぁいいニオイだぁ。潮って、本当に潮みたいなニオイがするんだねぇ。磯に打ち上げられたワカメみたいな臭い」

「いやぁ。そんな変なの、出してないもん・・あ、まだ舐めるの・・アウゥゥッ」

 良好な雌の反応を見ているうちに、悟の中に、瑠香の全身を覆う若肉の揺れを眺めたい衝動が沸き起こってきた。

「瑠香ちゃん、全部脱いじゃおっか」

 悟の言葉に従い、瑠香がデスクチェアから立ち上がって、薄いグリーンのリボンのついた制服のワイシャツを脱ぎ去った。

「おっぱいも、見せてみて」

 瑠香が内またで足をもじもじさせながら、黒のスポーツブラを外すと、ぷっくりと勃起したスーパーピンクの乳突を携えた左右の膨らみが、ぽろんと姿を表す。これで、瑠香はすっかり生まれたままの姿となった。

 悟も上裸になり、たおやかなで扇情的な少女の裸身と肌を合わせる。

 Bカップほどの、ツンと尖ったピラミッド型の乳房は、よく揉み解された奈緒や美沙のそれと比べて硬度の違いが歴然で、ゴムボールを握っているような感触。ソフトボールの選手らしく、筋肉と脂肪がみっしりと詰まったデカケツは、きめ細かくすべすべした手触りである。

「悟兄ちゃん、そこダメぇ。恥ずかしいよぉ・・・」

 悟が瑠香の正面で屈んだまま、瑠香の、緊張して鳥肌の浮かんでいる尻たぶを右手で揉みしだき、菊門を左手の指で撫ぜてやると、むちケツの乙女は目をつむり、つま先を思い切り内向きにして女の子のポーズをとった。

 先ほど、悟はひそかに、左手の親指に瑠香のおまんこの臭いを、人差し指に足の臭いをこすりつけていたのだが、それに加えて、中指がいま、女子高生の菊の花弁のニオイを掬いとった。

 「お土産」の確保。悟は自分の左手に瑠香のニオイをたっぷりつけて、家に帰ってから、続きを楽しむつもりなのだ。

「さぁ。瑠香ちゃんが、ぶっというんちや、でっかいおなら出しちゃうところのニオイ、今度は直に嗅がせてもらおうかな」

「いやぁ。そんなん言わないで」

 悟を誘惑したときの勢いはどこへやら、すっかり、初心な乙女が表に出てしまっている瑠香を言葉でねぶりながら、悟は瑠香の背後に回り、アヌスを押し広げ、すぅっと臭いを吸い込んだ。

 トイレの床のニオイに、かすかに香る排泄臭。強烈なおまんこや足に比べると、かなり控えめといっていい。石鹸のニオイも意外に残っている。舌を入れると、くすぐったいのか、瑠香は小さくクスンと、笑い声をあげた。

 続いて悟は、瑠香を床に座らせ、ズボンの中でそそり立つ剛直を、瑠香の臀部に押し付けるようにして、後ろから抱きしめた。

「瑠香ちゃん、おっぱい、お尻もえっちだけど、お腹もえっちだね・・」

 激しい運動で贅肉をそぎ落とそうとしても、女性の骨格上、腰を落とすとどうしても生まれる、下腹部のたわわな膨らみを消し去ることはできない。

 皿の淵からふぅわりと蕩け落ちるクリームを掬うように下腹を揉んでやると、成長期のマグマのような食欲を抑えることができない少女は頬を朱に染める。

「大会が終わって、クレープ食べすぎちゃったから・・・あっ、悟兄ちゃん、そこ・・・」

 スーパーピンクの乳突起を人差し指で軽く擦ってやると、ピラミッドおっぱいと下腹が、仲良くぷるっと震える。初めて男に触れられる若肉の揺れを楽しみながら、悟は瑠香の腋の下に、左手の薬指を差しはさみ、ニオイをこすりつけた。

 着替え中、ムダ毛をチェックしようとする同級生の視線に晒されるのに備え、瑠香の腋の下は、マニアを喜ばせるために敢えて放置している美沙や奈緒と違い、しっかりと処理が施されている。

 微かな黒ずみから立ち昇るのは、長期間放置した角缶や一斗缶を開けたときのキツいニオイ。クス、クス、と、くすぐったがりの瑠香が鼻声を上げるのを聞きながら、まろやかな甘みのミックスされた塩味を味わった。

「ごめんね。これからちょっと苦しいかもしれないけど、我慢してね・・・」

 悟は最後に、瑠香が母、梨香と繋がっていた部分――へその穴に、残った小指をねじ入れた。
 内臓に直結するへそを強引にほじると、独特の不快感に襲われる。

 女性に不信感を抱き、内心、女性を性的に蹂躙したい欲求を持つ悟だが、女性に肉体的暴力を加える趣味は持たない。女性の肉体に、不必要な痛みを負わせてしまったときは、悟の心も痛む。

「ごめんね。瑠香ちゃん、ごめんね・・」

 瑠香とシンクロするように、自分のへその穴がジンジンと痛むのにこらえながら、悟は瑠香のへそから、ねっとりとした栗きんとんのようなゴマをほじり出すのに成功した。

 優しい瑠香のへそのゴマを、小指に摺り込むようにして、余った分は口に入れて食する。まろやかな口触りに、母の海から取れたうま塩の味。

 すでに確保したおまんこ、アヌス、腋、足のニオイとともに、これで瑠香のスイートスポットの臭いを、左手の五指にすべてコンプすることに成功した。

 しっかりと皮膚に染み着いた女の子の臭いは、水洗いしただけでは落ちはしない。うっかり、石鹸で手を洗う失態を犯さなければ、瑠香の臭いの強さなら、最低でも二日間はキープできそうだった。

「兄ちゃん驚いたよ。瑠香ちゃんの身体が、こんなにえっちくなってたなんて・・」

 特筆すべきは、この子は、昨晩から入浴を断っていたわけでもなく、スイートスポットを密閉するなどの処置をとったわけでもないということである。瑠香は体臭の強さという「才能」においては、美沙、奈緒の姉妹より遥かに上かもしれない。

 この子をモノにしたい――ついさっきまで自重していたのが嘘のように、悟は、これまでずっと、妹のように思ってきた少女を、明確な恋愛対象として認識し始めていた。

「悟兄ちゃんのここ、すっごく硬くなってる・・」

「あっダメっ・・だめだよ、瑠香ちゃん」

 突然、瑠香が後ろに手を伸ばし、ズボンの上から股間に触れてきたのを、悟は慌てて振り払った。

「こんな汚いの、触ったらだめ。瑠香ちゃんの手が穢れちゃうよ」

 女性の体臭に興奮を覚える性癖の悟は、どれほど昂っていたとしても、女性を抱く前には必ず、自らの身体を念入りに洗うことを信条としている。

 普段、分厚い包皮によって外気から遮断された悟の亀頭は、サーモン・ピンクの色素が濃厚に残り、見た目には鮮やかだが、皮の中は、高温、多湿のパンツ内環境で蒸れ、半日も過ごすと不快な赤潮の臭いを発してしまう。

 ばい菌呼ばわりされた自分の身体の中でも特に汚い、このお下劣なペニスを、洗いもしないまま、カワイイ瑠香の手に触らせるなど、とんでもない話だった。

「いいの。私、悟兄ちゃんのここ、見て、嗅いでみたい。悟兄ちゃん、私の身体、いっぱいクンクンしたでしょ。悟兄ちゃんだけクンクン、ペロペロするなんてずるいよ。私も悟兄ちゃんの身体、いっぱい嗅いで、舐めてみたいよ」

 誰に何を言われようが、ばい菌のような自分の汚いところを女の子に嗅がせるなど、けして許されないことである。

 しかし、姉、麗香そっくりの、奥二重の涼やかな目で見上げられると、悟の鉄の意志も崩れていく。
 
 やがて、これまでになかった、新しい欲動が生じてくる。

 憎悪、嫉妬の魔に付け込まれ、闇へと堕ちた自分の「ばい菌」を、汚れを知らない瑠香の身体に入れてみたい。

 真っ直ぐに天へと向かって伸びる、この向日葵のような少女を、歪んでしまった自分の手で「汚染」してみたい――。

 べルトのバックルにかけられる瑠香の手。今度は、払わなかった。
                             
                         
                          ☆


 悟兄ちゃんのズボンを脱がして、トランクスを下ろすと、ボロン、と飛び出た硬いものが、悟兄ちゃんの、板チョコのような腹筋に、バチコン、とぶつかった。

 目測で十五センチから二十センチの間くらいという長さが、平均より上なのか下なのか、比較できるものを見たことのない瑠香にはわからない。棒を包んでいる皮は、悟兄ちゃんの腕や足の皮膚に比べてどす黒く、先っちょから飛び出た、カメさんみたいな形をしたものは、瑠香の好きなさくらんぼ、佐藤錦のようなピンク色をしていた。

「わあ、きれぇい・・・・」

 爪で引っ掻いたら、簡単に傷ついてしまいそうなデリケートな粘膜の色に、瑠香の顔面は吸い寄せられていく。女の子はいくつになっても、ピンクが大好きだから。

 三十センチくらいまで顔を近づけたところで、むぅわっ、と、鼻孔になだれ込んでくるのは、瑠香と似たチーズのような、かっぱえびせんのような、雄肉の蒸れた臭い。

「ご、ごめんね。臭うだろう。やっぱり、下で洗ってくるよ」

 悟兄ちゃんは、瑠香と同じように自分のニオイに強いコンプレックスを持っているようで、ピンクカメさんをスンスンと嗅ぐ瑠香に、申し訳なさそうな表情を落としている。

 瑠香は、悟兄ちゃんが、自分と同じように恥ずかしがっているのを見るのが、とても嬉しかった。

「下にはお母さんがいるでしょ。大丈夫。私、悟兄ちゃんの臭い、大好きだから。ああ・・・このにおい、すごい。生きてるって感じがする。いつまででも、嗅いでいたい」

 悟兄ちゃんの大事なところの臭いが、自分のそれに勝るとも劣らぬほど強烈だったのがわかって、瑠香は心から安堵していた。

 これで私たち、一つになれる。悟兄ちゃんのが、自分のと違って、清潔で臭わなかったら、瑠香は悟兄ちゃんを受け入れてあげなかったかもしれない。悟兄ちゃんへの思いも、いっぺんに冷めてしまったかもしれない。

 悟兄ちゃんが自分と同じだから、もっと好きになった。

「悟兄ちゃん、触ってみていい?」

「う・・・うん」

 悟の許可が下りると、瑠香は恐る恐る、天を向く悟自身を両手で包み込んでみた。

「熱うッ・・・。やだ、なんでこんなに硬いの・・」

 瑠香が全力で投げたソフトボールも打ち返せそうな悍ましい硬度に、瑠香は身震いしそうだった。こんな暴力的なものが、自分の狭い穴の中に入ってくるなんて信じられない・・・。

 浅黒い皮は、上の方に引っ張ると、ピンクのカメさんをすっぽり覆い隠してしまった。反対に、下にズルッと剥くと、先っちょと同じ、サーモン・ピンクの肉が露になる。表面にはいくつもの血管が浮かび、ビクビクと脈うっている。

「うわぁ。皮、すっごい下まで剥けるんだねぇ。面白い、これ・・・」

「はぅっ・・・くっ・・・・うん」

 皮を剥いてあげると、悟兄ちゃんはとても気持ちいいようで、瑠香がさっき、悟兄ちゃんに舐めてもらったときのように、足がガクンと折れた。

 瑠香は皮を剥いたまま、今度はかっぱえびせんの臭いの発信源、悟兄ちゃんのピンクカメさんを指でこすってみた。

「触っても、痛くなぁい?」

「う、うん。全然、大丈夫だよ・・あっ・・」

 先っちょから漏れ出ている、おしっことも、性教育で習った、精子とも違う透明な液体を潤滑油代わりにして、すべすべした薄い粘膜を優しく擦ると、悟兄ちゃんは気持ちよさそうに目を閉じて、うめき声をあげた。特に、カメさんの、傘になっている部分を触ってあげると、反応が格別である。

「悟兄ちゃんのぴんくきのこ、ほかほかする。ずっと皮の中にいたから、こんなにあったかいの?」

「う、うん・・・。ごめんね、皮の中で蒸れて、嫌な臭いになっちゃって」

「ううん。さっきから言ってるように、私、悟兄ちゃんのニオイ、全然やじゃないよ。これが興味もない男のだったらくさいだけだけど、好きな人のだったら、いい匂いだよ」 

「そ、そういうもん?」

「そうだよ。悟兄ちゃんも、そうじゃないの?」

「い、いや僕は・・・」

 悟兄ちゃんが口ごもったが、特に気にはせず、瑠香は悟兄ちゃんのピンクカメさんを擦りながら、もあっとしたプランクトン臭を夢中で嗅ぎ続けた。

「ほかほかしてくさいぴんくきのこは、味は美味しいのかな?」

 瑠香は、とうとう、悟兄ちゃんのコンプレックスの象徴を、直接口に含んだ。

「あっ・・・だめだよ、そんな汚いもの。瑠香ちゃんの口に入れたら・・」

「・・ほいひい。悟兄ちゃんの・・・苦み走った、男の人の味が、すっごくおいしい・・」

 好きな人が自分を求めているせいで大きくなったもの。とても愛しいと思ってるけど、瑠香の脳は、口内に含まれたものを異物と認識し、あっという間に大量の唾液が満ち満ちてくる。

 瑠香は悟兄ちゃんの皮の中で育まれた、汗や皮膚の角質、おしっこの残り、不思議な透明な液体、などなどが溶け込んだ唾液を、ごっくりと嚥下した。

 口の中を空にしてから、今度は、棒の下にぶら下がった、柿の腐ったような見た目をした肉の袋を、レロレロと舐めてみた。

 内でマグマが滾っているかのような赤黒い色、まばらに生えた縮れ毛、のばすとムササビみたいになる皺皺。外観もグロテスクだけど、もっとすごいのはニオイ。狭い教室の中で、男子が百人、いっせいにお着換えをしているみたいな、濃縮された凄まじい男の汗のニオイに、瑠香は頭がクラクラした。

 はむっ・・ほむっ・・・れろれろ・・・ぴちゅ・・・ふむ・・・かぽ、かぽ、むぱっ。

 イヤらしい音を立てながら、瑠香の舌はもう一度、剛直の先の、敏感な粘膜の部分に向かっていく。

 むちゅっ・・・くぽっ・・・かぷっ・・・こぷっ・・・ちゅぷっ、くぷっ、ぽぷっ。

「はっ・・うっ、スゴイっ。瑠香ちゃん、初めてなのに、なんでこんなうまくできるの」

 瑠香が舌の先で、さっき触ったときに反応が良かった傘の下を舐めてあげると、悟兄ちゃんは身をよじり、おしっこをしたそうに呻いた。

 悟兄ちゃんのおしっこだったら、飲んでもいいかな。瑠香がそう思ったそのとき、口の中の肉茎が、何かの到来を告げるように、ぐぐぐっ、と持ち上がった。

「だ、だぁめだっ。気持ち良過ぎて、もう我慢できない。瑠香ちゃん。口の中に出しちゃうけど、ごめんねっ」

 ビクビク、ビクビク――。

 悟兄ちゃんの、おしっこが来る――全部飲んであげる覚悟で待つ瑠香の舌に、妙なものが触れた感覚があった。明らかにおしっことは違う、ドロドロとした液体――。

「かっ。へばっ」

 気になって、手のひらに吐き出したそれを見て――鼻の奥に突き抜けていくような、アルカリ性の強烈なニオイを嗅いで、瑠香の目が星のようになる。

 悟兄ちゃんのカメさん穴から出てきた液体は、おしっこではなかった。

 白く濁った、でんぷんのりみたいな粘り気のある液体――これが、精子。男の人の大事なところから出てくる、もう一つの液体。これを瑠香のワギナの中で出して、白いのの中にいるおたまじゃくしが、瑠香の赤ちゃん部屋までたどり着いたら、悟兄ちゃんと瑠香の子供が作られちゃう。

「ふぅわっ・・すっごい、プールみたいなにおいするぅ・・・。精子って、こうやったら、出てくるんだねぇ・・」

「ごめっ・・・ごめんね、瑠香ちゃん。こんな汚いばい菌、口の中に出しちゃって」

「いいよ。悟兄ちゃんのミルク、渋柿を噛んだときみたいに甘苦くて、美味しいから・・・」

 瑠香は、手についた悟のミルクをティッシュでふき取り、口の中に残ったミルクは、コップの麦茶で流し込んだ。

「ごめん・・・ほんとごめん」

 これだけ愛しているところを見せても、悟兄ちゃんはしきりに、自分の身体を汚いもののように言う。
 
 このまま興奮が頂点に達した悟兄ちゃんが襲ってきて、瑠香の初めてを強引に奪ってくれるのではないかとちょっぴり期待したのだが、悟兄ちゃんは項垂れて、萎れた自分のものをすぐにトランクスの中にしまって、遠慮がちな目で、瑠香を見るだけだった。

 悟兄ちゃんが瑠香にこんなに恐縮するのは、たぶん、姉の麗香のせい。

 学年でいえば二つ下の瑠香は、悟兄ちゃんと、中学校は一年しか被らず、交流もあまりなかった。
 だが、姉、麗香の悟兄ちゃんへの態度の変化から、悟兄ちゃんが中学校でどんな立場に置かれているかは、何となく想像がついていた。

 赤ちゃんを作るための大切なものを、「ばい菌」など表現する悟兄ちゃんが、瑠香も卒業したあの中学校で受けた傷の深さは、察するに余りある。
 
 半日過ごしただけで、パンティの股間部分と靴下がグショグショになり、強い臭いを放ってしまう体質――一歩間違えれば、瑠香も中学で、悟兄ちゃんと同じ扱いを受けていたかもしれなかった。
 
 幼いころから親しくしていた姉、麗香から冷たくされて、どんなに辛い思いをしただろう。

 女子全員から酷い言葉を浴びせられて、どんなに悲しかっただろう。

 瑠香は、今まで苦しんできた分だけ、悟兄ちゃんを、いっぱい、いっぱい愛してあげたかった。 

「・・・!!!まずい、悟兄ちゃん、ズボン履いてっ」

 階段を昇ってくる音――夢中になっている内に、母、梨香が、おやつを持ってくる時間になっていた。

 しかも、この無遠慮な大きな足音は、母ではなく、姉の麗香のものである。

「あんたたち・・・・っ!」

 コーヒーとお茶菓子の乗ったお盆を持つ麗香が、キッと眦を釣り上げる。悟兄ちゃんも瑠香も、すでに服を着て、真面目に勉強をしているように装ってはみたが、室内に立ち込める濛々とした肉汁の生臭さから、姉、麗香は、二人が事後であることをすぐに察したようだった。

「さ、悟兄ちゃん、今日のところは、とりあえず帰って」

「ちょっと待て!お前、瑠香に何した!」

「いいの!お姉ちゃんは、大きな声出さないで。悟兄ちゃん、私が何とかするから、安心して。また勉強、教えにきてね」

 とにかく、この場を収めなくてはならない――。瑠香は悟兄ちゃんの背中を押し、部屋から退出させた。
「ご、ごめんね。ごめんね・・・」

 泣きそうな顔で、瑠香に今日、何度目になるかわからない謝罪の言葉を述べると、悟兄ちゃんは、姉、麗香を、怯えた子犬のような目で見ながら、部屋を出て行った。

奈緒ちゃんのお家 3(12月半ばまでの掲載となります)


 奈緒の家での授業を終えた悟は、飲み仲間数名と、キャンパスからほど近い、居酒屋チェーン店にやってきていた。

 友人たちは、悟が女の子の家庭教師をやっていることは知っている。

 性欲の塊のような悟が、自分の教える女の子に手を付けていることも知っている。

 しかし、悟が女性の体臭に興奮を覚える性癖であることは知らない。

 悟が鼻の下に、敢えて奈緒の残り香を残し、密かに酒の肴にしているのは知らない。

「ふ~ん。羨ましいけど、なんだか怖い気もするな。そんな子と付き合ってたら、悟、いつか殺されちゃうんじゃねえの?」

 悟がついこの間、グループに加わったばかりの友人に、引きこもりの長い女の子の家庭教師を務めながら、生徒である女の子と秘め事を行っていることを、臭いフェチの部分だけをうまくぼかして自慢すると、友人は、何とも言えない複雑な表情を見せた。

「別に、それもいいんじゃない」

 心配げな表情を見せる友人に、悟は、特に関心もなさそうに言った。

 そういえば、奈緒の姉である美沙も、自分が紹介した立場ながら、悟が奈緒の面倒を何か月も根気強く見続け、奈緒と肉体関係にまでなったことに、強い驚きを見せていたことを思い出す。

 美沙によれば、以前、同じように、奈緒の家庭教師を依頼した常連客は、奈緒を一目見て恐怖を抱き、愛人であるはずの美沙とも会わなくなってしまったというが、悟は同じ臭いフェチという性癖を持ちながら、自分の好きなようにできる十代の少女をモノする権利を、むざむざ捨ててしまったその男のことが信じられなかった。

 生き物を殺すことに快楽を覚える奈緒と関わっていたら、いつか自分が、奈緒に殺されてしまうかもしれない。

 だから何だというのだろう。

 なぜ、ただ平和に生きるだけのことを、一人の美少女の肉体を、自分の好きなようにカスタマイズできる権利と引き換えにできるのか、さっぱりわからない。

 人生などを、さも素晴らしい、大切なもののように思い込み、死を極度に恐れる人間の気持ちは、悟にはさっぱりわからない。

 といって、人生が楽しくて仕方ない、泥水を啜ってでも生きたいという人間が、羨ましいというわけでもない。

 たとえ殺されてもいいから、女の子を飛び切りクサくして嗅ぎたい――。

 悟が女性の体臭に強く惹かれる性癖になり、美沙と奈緒の汚れたニオイを楽しめるようになれたのは、まさに、人生が地獄としか思えなくなるような、少年時代の悲痛な体験のお陰なのだから。

「・・・前々から思ってたんだけど、悟って、なんか冷めてるよな。人生を楽しんでない感じ」

「そうかな?俺はお前らと一緒にいるときは楽しいけど」

 友人の自分に対する印象は、当たっている。

 少年時代のある出来事を境に、悟は自分が生まれて良かったと思うことがなくなった。

 どれほど素晴らしい景色を見ても、どんなに美味しいものを食べても、どんなに素晴らしい音楽を聴いても、心が打ち震えることがない。素晴らしい感動体験も、生きる辛苦と相殺すれば、なかったと同じでしかない。

 噛み締めた歯が欠け落ちてしまいそうになるほどの辛い思い出が、悟を、人生が楽しくて仕方ないはずの二十歳という年齢で、その名の通り悟ったような男に変えてしまった。


 小学校のころの悟は、家でゲームをするよりも、外で駆け回って遊ぶのが好きな腕白少年だった。
 
 元気があるのはいい。だが、有り余るほどあるのは困りものである。

 悟は小学校高学年になっても、多動がなかなか収まらず、授業中によく立ち歩いたり、課外活動で班からはぐれてしまったりして、先生から厳しく注意を受けていた。

 正式な診断を受けたわけではないが、おそらく奈緒と同じ発達障害・ADHDの気があったのだと思う。

  忘れ物、落とし物が異常に多い。いたずら、悪ふざけの度が過ぎ、人を本気で不快にさせてしまう。夏休みの宿題など、一度として期限内に終えられたためしがない。

 だが、幸いにも、自分の発達の遅れは、奈緒に比べれば軽度だった。また、理解ある親や教師に恵まれた。

 成長が進むにつれ、多動、注意欠陥は緩やかに改善され、学校の授業や課外活動でも、問題なく集団行動が取れるようになった。

 コミュニケーション面でも、趣味や嗜好の合う、同じ男子との交流はうまくいっていた。

 ADHDは協調性に欠ける反面、明朗快活、自由奔放で発想豊か、ユーモアのセンスにも溢れる長所も持つ。中学時代の悟はクラスの中心人物で、所属していたソフトテニス部ではキャプテンを務め、同級生だけではなく、先輩からも可愛がられ、後輩からも慕われていた。

 その一方、なかなかうまくいかなかったのは、女子とのコミュニケーションだった。

 とにかく、何を考えているのかわからない。

 トイレに行くとき、いつも連れだって二、三人で行き、一度入ると十分も二十分も出てこない。

 交換日記、手紙の回し読みなどの、陰気な文化。

 グループが持っているアクセサリや化粧品などを持っていないとハブにされるという、無益な同調圧力。
 行動の一々が気に障り、ツッコミを入れたくなる。

 そこで、子供ながらにデリカシーというものを理解し、言いたいことがあっても黙っておくのが健常者の判断だが、我慢できずについつい余計なことを口にしてしまうのが、発達障碍者の本領である。
 中学二年生のころ、同じクラスに、給食を食べるとき、恥ずかしそうに、口元を覆い隠して食べる癖のある女子がいた。

 今なら、口元に何らかのコンプレックスがあったか、食べるイコール太るという、女子特有の恥じらいが強く出過ぎていたのだろうとわかるが、当時の悟にはそんな想像を巡らせることはできず、気になって気になって、ついつい、余計なことを言ってしまった。

―――どうして、食べるときに、口を隠すの?食べるのを人に見られるのが、そんなに嫌なの?君、やってること変じゃない?

 悟にそれを言われた女子はわんわんと泣いて、クラス中が大騒ぎになった。
 次の日から、悟は女子たちから、猛列な反撃を浴びる羽目になった。

――お前キモイ!ばい菌がつくから、近寄らないで!

――みてみて~。ばい菌がご飯食べてる~。うわ~。口いっぱいに頬張っちゃって、気持ち悪い食べ方~。

――ね~。あのばい菌、麗香のこと好きらしいよ。告白されたらどうするの?

――やだ~。あんなばい菌ジジイに好かれたら、人として終わっちゃう~。

 不用意な言動で他人を平気で傷つける反面、自分の痛みには敏感な悟は、四面楚歌の状態で、すっかり委縮してしまった。体育祭のときなど、フォークダンスで女子から接触を避けられるのが怖くて、仮病を使って休んだほどである。

 とにかく、何を考えているかわからない。行動の一々が気に障り、ツッコミを入れたくなる。

 それは自分だけではなく、彼女たちも同じであっただろう。

 平均的に、男子よりも先に多動が収まる女子の目に、常に予測不可能な動きをみせる悟の存在は、おかしな珍獣のように見えていたに違いない。

 遺伝子を選別しようとする女子の目が、遺伝子の欠陥を持って生まれた悟に、針のように突き刺さる。

――ねえ、ばい菌がまた、キモイ動きしてる。なにあの笑顔~。笑顔が気持ち悪い。


――ばい菌、マジでキモすぎだから、マジ死んでほしい。あいつが視界に入ってくると、ほんとイライラする。

――うわ~、明日席替えだ。もしばい菌の隣になっちゃったらどうしよう。怖い怖い~。


 彼女たちの中で、悟を心底嫌っていたという者が、果たして何人いただろうか。デリカシーに欠けるとはいえ、悟もすべての女子に失礼な態度を取っていたわけではないのである。話したこともない女子から悪口を言われるのは、さすがに納得できなかった。

 イジメは憎悪が理由となって起こっているうちは、大して問題ではない。本当に深刻になるのは、動機が面白半分に変わってからである。

 そもそも怒ってもいないのだから、謝っても許してくれない。一度点いた火は燃え広がる一方で、卒業するころには、悟はほぼ、学年全ての女子から総すかんを食っていた。

 男子が味方に付いてくれたお陰で、引きこもりになるところまではいかなかったが、一生消えない傷は残った。一応、進学校と言われる高校に進み、悟を罵倒していた女子たちとの縁が切れてからも、悟はずっと、自分から女子に話しかけるということができなかった。

 深手を負った悟に、ある意味、傷の痛み以上に突き刺さったのは、世の中の「正論」「キレイゴト」である。
 人は痛みを味わうことで学習し、そして成長するものだ。

 そんな理屈で、女性から――地球上の約半分、三十五億人の生物から敵意を向けられているかもしれないと思い込む恐怖が消えるなら、苦労はしない。

 女の子に嫌われたトラウマをうまく割り切れなかった悟は、次第に屈折していった。

 高校生になった悟は、勉学の傍ら、国内外のシリアル・キラーに関する文献を読み漁るようになり、サイコサスペンスや、スプラッタものの映画に熱中するようになった。

 こんな歪んでしまった自分にも、世の中に居場所はある――映画や小説の残虐な描写に熱中し、それを素晴らしいと褒めているネットのレビューを見るときだけ、悟は自分が、生きてていいんだと思えた。僕は一人じゃないんだ、苦しんで、歪んでしまったのは僕だけじゃないんだと知って、心が救われた。

 女性恐怖に陥る一方、若者らしく性欲は旺盛で、オナニーは毎日のようにしていた。

 女性は苦手だが、女体は好きだ――草食男子などといえば聞こえはいいが、触れたくて触れたくてたまらないものに、声すらかけられない毎日は、発達障害特有の衝動性を持つ悟には、地獄のようであった。

 どうしても、どうしても、どうしても堪えられなくて、ある日悟は、体育で水泳が行われる期間、授業中にトイレに出ると言って、他クラスの女子が着替えに利用した教室に忍び込んでいた。

 お宝の山から、当時気になっていた女子生徒のパンティを探し当て、セメダインのような黄褐色の粘液が付着したクロッチ部分に、興味本位で鼻を近づけてみた。

 衝撃だった。

 中学の頃、女の子にばい菌呼ばわりされた悟には、「男である自分をそこまで汚いもの扱いするからには、女の子の身体は完璧に清潔であり、キレイなものでなくてはならない」という固定観念が存在した。

 実際、学校や電車の中で女の子とすれ違ったとき、シャンプーや柔軟剤の匂いに混じって漂う独特の甘いフェロモンの匂いは、男の汗臭さとは似ても似つかない。

 女の子の大事なところも、同じだと思っていた。ラベンダー畑のようなフローラル・ハミングな匂いではないにしても、可愛い女の子たちの恥じらいの部分からは、皮を被った自分のモノのような、嫌な臭いはしないものだと思っていた。

 それがどうやら、違うようだということを知ってしまった。

 一度嗅いだ臭いは絶対に忘れないという犬程ではないが、人間の嗅覚も、記憶を司る脳の海馬と密接な関係があるらしい。

 あの薄ピンクの、リボンのついたかわいいパンティから、女性フェロモンの甘い香りとは明らかに違う、雑食性の動物特有の据えた臭いを嗅ぎつけたときのショックは、大学生となったいまも、鮮烈に脳裏に焼き付いて離れない。

 なんのことはない、女子の身体とて、手入れを怠れば、男と同じように臭くなってしまうではないか。特に陰部などは、尿道、生殖器、肛門と、三つの穴が密集する構造のせいで、突起物により隔離された男よりも不衛生になりやすいのかもしれない。

 期待値が高かった分だけ、落胆する幅も大きかった。そしてそれは、やがて、怒りにも似た感情へと変わっていった。

 あれほど僕を汚いと、ばい菌だと蔑みながら、股間がこんなにクサイなど、許されるのか?

 けしからん、けしからん、けしからん。

 もっともっと、嗅ぎたかった。

 くさいパンツのニオイをたっぷり嗅いで、ばい菌呼ばわりされた自分のチンポよりも、自分をばい菌呼ばわりした女たちのおマンコの方が、よっぽどばい菌が繁殖しているのだということを、自分の鼻で確認したかった。

 自分の性癖をはっきりと自覚した悟は、その日から、女子の使用済み体操服に沁み込んだ汗の臭いや、気になる女の子の上履きの、黒ずんだ中敷きの酸っぱい臭いをしょうっちゅう嗅いでは、救われない情欲を満たすようになった。

 同年代の男子が、AVの中でたわわに揺れるおっぱいやおしり、股間の茂みを食い入るように見つめている横で、悟は映像ではけして味わえない、生身の臭いの魅力に、取りつかれるようになっていった。

 が――、相変わらず、生身の女の子には話しかけることさえできず、高校を卒業した時点で、悟はまだ童貞だった。

 女の子の洗ってないおまんこの臭いが、嗅ぎたかった。

 地球上三十五億人、自分を嫌っているすべての女の洗っていないマンコのニオイを、嗅ぎたかった。

 パンティであんなに臭いなら、直に嗅ぐ女の子のおまんこは、それこそとんでもないに違いないのである。

 しかし、立派な変態になってしまった自分が女の子にアプローチをかけたら、またばい菌呼ばわりされるのではないかと心配で、怖くて怖くて、どうしても自分からコミュニケーションを取ることはできなかった。

 絶望はしなかった。幸いにもこの世界には、金さえ払えば一定の時間、女性の身体を好きなようにできるシステムが存在する。

 猛勉強の末、名門の安瀬田大学にストレートで入学した悟は、建築現場などでバイトをして稼いだお金で、風俗店を利用するようになった。

 学校では声もかけられない女の子たちの身体を自由に弄くりまわせるなんて素晴らしいと思ったし、ソープランドで脱童貞も果たしたのだが、悟はどこか満たされないでいた。

 プレイの前、必ずシャワーを使って、大事なところを殺菌消毒してしまう通常の風俗店では、肝心の、女の子の雌の臭いを嗅ぐことができないからである。

 それでめげるような悟ではないが、それで即、素人の女の子に手を出してみようと思うほど、悟の女性恐怖は生易しくない。

 当時の悟がまともに性欲を満たせるのは、やはり風俗しかなかった。

 男の性癖は様々であり、世の中には様々なニーズに対応した風俗店がある。自分のような臭いフェチを満足させてくれる店も、必ずどこかにあるはずだ――飽くなき執念で、悟はとうとう、東京西日暮里の体臭専門店「ラブリースメル」を探し当てることに成功した。

 「ラブリースメル」に通い詰めて、様々な女性と、二人きりの空間でコミュニケーションを取ることを重ね、美沙のように、ただの客とオキニの嬢以上の仲に発展する女性も出来たことで、女にまったく話しかけられないレベルの、酷い女性恐怖は克服できた。奈緒のように、特殊な事情はあれ、自分にぞっこんになってしまう女の子も現れた。

 かつて、女の子たちにばい菌呼ばわりされたことで、これまで、異常なほど醜いものだと思い込んでいた自分の容姿が、存外、女性に好印象を持たれるものであったこともわかった。

 だが、いまだ悟の胸の奥に残る、ザックリと抉られた傷は癒されてはいない。可愛い声音で浴びせられた聞くに堪えない酷い言葉の数々が、鼓膜から消えたわけではない。 
 
 女――もっとも可愛くて、もっとも恐ろしい生物。

 女――嫌いで憎くて、それでも好きで仕方のない生物。 
 
 ばい菌事件以来、悟には常に、自分は一度死んだ人間であると思って生きてきた。

 自殺願望があるわけではないのだが、かといって、どうしても生きたいというわけでもない。
 死生観そのものに、鈍感になった。

 大地震が起きて人が大勢死んだとか、戦争で何人も死んだというニュースを聞いても、悲惨な気がほとんどしない。となりの国のミサイルマンが大暴れをしても、まったく恐怖を感じない。二年前、よく面倒を見てくれたいとこのお兄さんが、飲酒運転によるひき逃げで亡くなったときも、葬儀の席で、悟は一滴の涙も零さなかった。

 命は軽い。

 自分は、一度死んだ人間。今は、オマケの人生を生きているだけだ、と、ずっと思ってきた。

 命など、然るべき理由さえあるなら、簡単に投げ出すことができる。

 然るべき理由さえあるなら、他人の命をいとも簡単に奪える。

 然るべき理由とは?

 仕事の悩み――ありえない。

 たかが金を稼ぐ作業のために死んだり、人を死に追いやるくらいなら、とっとと辞めて、条件が落ちても、気楽に働いて生きる道を探す。

 戦争――ありえない。

 たかが国家のために死んだり、己の手を汚したりするくらいなら、非国民と罵られようが、平和に暮らす道を探す。

 命を捧げることと、安売りすることは違う。

 命を頂くことと、無暗に殺すことは違う。

 いくら生に執着がなくても、己の命を絶ち、人の命を奪おうと考えるには、それなりの大義というものが必要である。

 それなりの大義とは?

 女――好きな女にこっ酷くフラれたとき、悟は簡単に自らの命を絶とうと思うし、簡単に相手の命を絶ってしまうと思う。

 女――また、あの可愛い声で罵倒を受けたとき、悟は簡単に自らの命を絶とうと思うし、簡単に相手の命を絶ってしまうと思う。

 女――あの愛しい生物に、理不尽に辛い思いをさせてしまったとき、好きになってくれた子を裏切ってしまったとき、悟は殺されても仕方ないと思う。

 長らく引きこもっていた女の子の無知に付け込んで、肉体を好き放題にカスタマイズして弄くり回しながら、最後まで責任を持つつもりはない。本当に好きな人は別にいる――殺されても、文句はいえないと思う。

「そういや、悟、拓翼大の川村麗香と知り合いなんだって?今度、俺にも紹介しろよ」

 もうすっかり酒の回った友人の一人が、中学時代、先頭に立って悟を罵倒していた、悟の幼馴染の名前を口にした。

 麗香――その名前を聞くと、悟の胸は締め付けられたようにキリキリと痛み、腹の底で燻る暗い炎が、囂々と燃え上がる。

 どうでもいい女子に罵倒されるのは、まだ耐えられた。

 しかし、淡い初恋を抱いた相手に酷い言葉を浴びせられるのには、身を引き裂かれる痛みを覚えた。

「誰から聞いたんだよ。知り合いっつってもガキの頃だし、今じゃ挨拶もしねえよ」

 持ち前の美貌で拓翼大のマドンナを張り、SNSではちょっとした芸能人級の話題を浚う麗香に憧れる男子は、悟の通う安瀬田大学にも多い。

 友人の期待に応えてやりたいのは山々ではあるが、あれから五年の月日が過ぎ去った現在においても、麗香は悟のことを蛇蝎の如く忌み嫌い、麗香の妹、瑠香の家庭教師として川村家を訪れる悟に、いつも犬の糞を見るような視線を向けてくる。

 物心ついたときから一緒だった二人は、長じてからも兄弟のように身近な存在だというのはドラマの中だけの話で、何も知らぬ子供のころの絆など、呆気なく断ち切れるものである。

 奈緒の家で見かけた、一葉の写真。

 まさか、奈緒と瑠香が――自分の教える二人の生徒が、幼馴染であったとは思わなかった。すぐ近くに住み、一時期は同じ学び舎に籍を置いていたはずだが、美沙と奈緒の姉妹のことは本当にまったく知らなかった。

 美沙と奈緒、麗香と瑠香。二組の姉妹と悟が一つに繋がる要素は、二年ほど前までには、影も形もなかったはずだった。

 元、ご近所さんだったという話題をキッカケに、「ラブリースメル」で美沙と意気投合し、愛人関係を結ぶようになったのと、当時、高校一年生だった瑠香の家庭教師を勤めるようになったのが、ほぼ同じ時期。

 あれから、様々な関係の変化があった。

 不景気にハラスメント、娯楽の多様化と、少子化に加速をかける風潮がこれでもかと蔓延る昨今において、それでも遺伝子を残すため、一つに繋がろうとする男女の本能が、平和な無関心を、危険な泥沼へと近づけていった。

 美沙の妹、奈緒ちゃんとも肉体関係となり、奈緒ちゃんが本気で悟に惚れてしまった。

 小さいころから、妹のように思ってきた瑠香ちゃんに、悟兄ちゃんのこと、好きになっちゃったと告白された。

 心は揺れ動いたが、瑠香からの告白は、丁重にお断りさせてもらった。

 複数の女の子に好意を寄せられる栄誉に預かれたのは光栄だが、残念なことに、ついこの間まで、女の子に声をかけることもできなかった自分は、複数同時交際をこなせるほど器用ではない。愛人関係と割り切れる美沙ならまだいいが、瑠香ちゃんと一線を越えてしまったら、その先に待つのは、みんなが不幸になる結末しかありえないのだ。

 それでも、悟さえ黙っておけば、二組の姉妹に接点が生まれる余地はないはずなのだが、悟はなぜだか胸騒ぎがするのだ。

 ばい菌の如き自分の存在が、彼女たちの災いになってしまうのではないか――。

「なぁなぁ聞いてくれよ。この前クラブで知り合った女とホテル行ったらさぁ、そいつ、まんこが超くっせえの。便所の床を拭いた後の雑巾みてえな臭いしてさ、吐き気がして、一回ヤッた後、速攻でアドレス消したわ」

 悟たちの隣のテーブルで、同世代か少し上くらいの軽薄そうな男が、得意げに武勇伝を披露しているのが耳に入って、頭の中がカッと熱くなった。

 美しい女性の身体から、醜い男である自分よりもくさい臭いがしたとき、興奮と感動を味わえない男の気持ちが、悟にはまったく理解できない。

 ホテルでシャワーも浴びずにベッドに潜り込むとき、脱ぎ捨てられた女性のパンティがべっとりと汚れていたら、胸の高鳴りを覚えないか?

 忘年会の席で、居酒屋でブーツを脱いだ女性の足から、もぅわりと納豆の臭いが漂ってきたとき、どうしてそれを、今年一年頑張ってきたご褒美だと思えないのか?

 会社や学校に出て、自分のロッカーにラブレターが入っていたとき、まず真っ先に気にするのは、顔が可愛いかとか、性格が良いかとかではなく、おまんこ、アヌス、足、腋、おへそが、ちゃんと臭うかどうか、ではないのか?

「どんなにいい女でも、セックスの前に風呂にも入らないで、まんこも洗わなかったら台無しだよな」

 馬鹿げている。セックスの前に女性をお風呂に入れて、おまんこをキレイに洗わせてしまうのは、納豆を食べる前に水洗いして、臭いもねばねばも全部流してしまうのと同じことである。

「ブーツを脱いだあと、ポプリでケアしないような女はズボラで頭が抜けてるから、地雷確定だよな」

 馬鹿げている。自分のムレムレ臭にどれほどの価値があるかわからず、余計な発明品に、余計な金をかける女の方が、残念な女ではないか。

 悟は、体臭のキツイ女性をディスり続ける若者たちに詰め寄ろうと、椅子を立ち上がりかけたが、すぐに思いとどまった。

 考えてみれば、体臭のキツイ女性を粗末に扱う男がいるから、自分のような男のところにも、美沙や奈緒のような女性が供給されてくるともいえる。

 生々しい雌の臭いを嗅ぎたい悟の嗜好を嘲笑うように、世の中の衛生状態は、日進月歩で良くなっている。それは疾病を克服しようとする先人たちの意志と知恵の賜物であり、人類の進歩なのだ。

 より良い未来へ突き進んでいこうとする人類に、自分の趣味を押し付けてはならない。官能小説などを書いて、己の性癖を金に変えようと考えるのでもない限り、アブノーマルな趣味は、人には言わずこっそりと、密かに楽しむべきものなのだ。

「けど、高校時代、あんなに奥手だった悟が、今は可愛い十八の子とヤリまくってるなんて、出世したもんだよな」

 確かに、あの頃からすると、まったく信じられない。

「そうだな。こんなに幸せだと、これから大きな揺り返しがきそうで怖いよ」

 いま、一緒に酒を飲んでいる友人の何人かとは、高校時代、卒業記念の温泉旅行にでかけたこともある。

 風呂上りに部屋で鍋をつつきながら、青春真っ盛りを共にした友人たちと、色々な話をしたが、一番盛り上がったのは、やはり女の話である。

――あぁ、美人でスタイルが良くて、性格も良くて、料理もうまい彼女ができないかなぁ。

――おいおい、そんな女が、お前の彼女になるわけねえだろ。そんなに言うなら、俺だって、超かわいくて超スタイルも良くて、バイクの趣味にも付き合ってくれる彼女が欲しいわ。

――俺は何よりもおっぱいだなぁ。顔はそこそこでも、おっぱいがデカけりゃそれでいいんだよ。
 
 友人たちが好き勝手な願望を口にする中、悟はまったく別のことを考えていた。

――性格に難があってもいい、家事全般できなくてもいい。ビジュアルも、そこまで良くなくていい。ただ、飛び切り汗っかきで、体臭のきつい女の子が、三日三晩お風呂に入らずに、僕とセックスしてくれたらなぁ。

 ある姉妹と出会って、思いは現実となった。

 夢が叶うと同時に、問題が発生した。

 僕が、彼女を愛しすぎていること。

 彼女が、僕を愛しすぎていること。


         ☆      ☆       ☆
 






 
 草木も凍る丑三つ時――唯一、家を出られる深夜の時間帯、奈緒は近所の雑木林へと足を運んでいた。

 クサきも涼む丑三つ時――季節は夏真っ盛りだが、通気性のいいコットンパンツに包まれたおまんこが、冷たい夜風に当たると、スースーしてとても気持ちがいい。ついさっき、お兄たんと「体育」をするまで、おむつを履いて、ホカホカにしすぎていたから、なおさらそう感じるのかもしれない。
「ほわぁ・・・虫さんが、いっぱいいるぅ」

 奈緒が今晩、雑木林を訪れたのは、小さいころに好きだった、虫さんを見るためだった。

 奈緒は小学校のころ、虫さんを取っていたせいで、とても嫌な思いをした。心が深く傷つく原因となった虫さんのことは、思い出すのも嫌だった。

 虫さんにもう一度興味が持てたのは、お兄たんと出会ったから。好きなお兄たんに、理科の時間に、虫さんのお勉強を教えてもらったから、虫さんをまた好きになれた。お兄たんのお陰で、奈緒は、自分の過去と向き合えるようになった。

 街灯に群がる羽虫をかき分け、雑木林の中に入ると、甘酸っぱい匂いがふわァっと漂ってくる。匂いに釣られ、懐中電灯の明かりを頼りに奥に進むと、幹から琥珀色の樹液をたっぷりと流している、コナラの木へとたどり着いた。

「ふわァ・・・。カブトムシさんがいっぱい・・・」

 懐中電灯に照らされた樹液酒場には、広葉樹の樹液を好むカブトムシ、クワガタムシ、カナブンなどの甲虫が、ところ狭しとひしめき合っている。

 力強さを感じさせるフォルムと、鈍色の光沢には、男の子ならば誰もが惹きつけられるが、女の子が夜中に昆虫採集に出かけるほど夢中になるのは珍しい。

 みんと違うことをするのはダメなんだよって、教わってきた。

 お父さんにも、お母さんにも、先生にも、みんなと一緒じゃなきゃいけないんだよ、みんなと一緒にしなきゃいけないんだよって、言われてきた。

 奈緒がやりたいことをするといつも、そうじゃないんだよ、こうしなきゃいけないんだよって、おとなの人たちに怒られてきた。

 お兄たんだけが、違っていた。

 大人の中で、お兄たんだけは、奈緒がする珍しいことを怒ったりせず、褒めてくれたり、いろいろ質問してきてくれたり、一緒に遊んだりしてくれた。

 お兄たんが奈緒のする珍しいことで、ただ一つダメだといったのが、猫さんやカモさんを殺してしまうこと。お兄たんは、生き物の命を粗末にするのはダメなことなんだよ、って、奈緒に言ってくれた。そういうことをしていると、いつか、自分の大切な人の命が奪われても、文句を言えなくなってしまうからダメなんだよ、って、奈緒に教えてくれた。 

 お兄たんを悲しませないために、もう、猫さんやカモさんを殺したりはしないと、奈緒は心に誓った。

「あ。カブトムシさんも、えっちしてる」

 樹液酒場の甲虫たちが行っているのは、食事だけではない。♂が♀の上に乗り、生殖器官を送り込む――遺伝子を残すための交尾もまた、そこかしこで行われている。

「あ。だめ。そっちいっちゃダメ」

 交尾を終えたばかりの♂が、すぐに別の♀に襲い掛かろうとしているのを見た奈緒は、思わず声を上げた。

「君はさっきの女の子を、自分の奥さんに選んだんでしょ。一人の女の子を選んだのなら、ずっとその子を愛してあげないとダメじゃない」

 わかってる。虫さんと人間では、ルールも、考え方も違うってことくらい、わかってる。

 だけど、節操なしのカブトムシの♂が、もしお兄たんだったらって考えたら、邪魔せずにはいられなかった。

 お兄たんが、奈緒に乗っかった後に、別の女の人に乗っかるなんて、許さないんだから。

「んしょ、んしょ。こら、やめなさい」

 拾った木の枝で、別の♀に乗っかろうとする♂を跳ねのける。だけど、♂はすぐに、別の♀に狙いをつけては、カサカサと動いて、駆け寄ろうとする。

「やめなよ、やめなよ。女の子も嫌がってるでしょ。やめな・・きゃっ!」

 奈緒がカブトムシの♂を木の枝で突っついていると、突然、後ろから誰かにおっぱいを掴まれて、ぐいぐい揉まれた。お兄たんのスベスベした手と違う、ガサガサした感触に、奈緒の全身が粟立った。

「ひい・・・・」

 抵抗するも、奈緒の胸を掴む手ははがれず、反対に、瑞々しい奈緒のほっぺたに、硬い青髭の広がるザラザラのほっぺたを擦り付けられた。

「やめっ、やめてっ」

 奈緒が、大きな声を出して、奈緒に抱きついている男の人を振りほどこうとすると、男の人は、ハァハァと腐った牛乳のような臭いのする息を吐きながら、ますます強い力で奈緒を抱きしめて、おっぱい、おしりと、奈緒の身体で、お肉の量が多いところに手を伸ばしてくる。

「はぁ、はぁ、でっけえなぁこのおっぱい。はわぁ。やらけぇ。こんなん揺らしながら外歩いてたんじゃ、ヤラれちゃったって文句は言えねえよな」

 男の人が、妙に甲高い声で、気持ちの悪いことを言ってくる。お兄たん以外の男の人が、奈緒の身体を見てえっちな気分になっているのが、嫌で嫌で仕方がない。

「いやぁ。いやだぁ」

 小学校二年生から引きこもっていた奈緒は、外の世界を知らないだけでなく、テレビは子供向けのアニメしか見なかったし、本は絵本か、すべてひらがな、カタカナで書かれているものしか読まなかった。

 大人の男の人が考えることなんかまったくわからなかったし、自分のお股がムズムズしたとき、どうやって処理したらいいのかもわからなかった。

 猫さんやカモさんを殺し始めたのは、お父さんとお母さんがいなくなる直前の、十五歳のころ。夜、近所の猫さんが庭に遊びにきたのを、衝動で叩いてしまったとき、お股がジワッと濡れて、お腹の中に、ズクズク電気の信号が走るのを感じて以来、奈緒は、お股のムズムズを静めるには、動物をイジメるのがいいんだ、と、思い込むようになってしまった。

 奈緒が自分の間違いに気づいたのは、お兄たんと出会ったから。

 お兄たんに乳首の敏感なところを触られたり、首筋に息を吹きかけられたりしたとき、奈緒のお股は、猫さんやカモさんの首を切ったときよりもジワッと湿り、体温が上がって、お腹の奥がお兄たんを欲しい、欲しいって、盛んに合図を送ってくる。

 初めてお肉の棒を入れたときの痛さは想像を絶するほどだったけど、何度も入れて、慣れてくるうち、下半身の細胞がプチプチと弾けていくような凄まじい気持ちの良さと、身体が火照るのを感じることができた。猫さんやカモさんをイジメたときとは、比べようもないほどの悦楽と幸福。それは相手を思いやることから生まれるのだと、はっきり認識できた。

 お兄たんと話したことで、大人の男の人がどんなことを考えているのか、女の人をどんな目で見ているかも、知ることができた。その中には、奈緒にはどうしても理解できないことや、許せないこともあったけど、大好きなお兄たんと仲良くなるため、出来る限りは受け入れるように、努力しようと思った。

 だけど、今やられてるこれは・・・。嫌がっている女の子を、無理やり触ろうとするなんてことは、何をどう頑張っても、絶対に受け入れられない。こんなことするのって、虫さんと同じじゃない。

「ああっ・・あっ!」

 男の人は、奈緒を土の上に押し倒し、仰向けになった奈緒に覆いかぶさってきた。奈緒の怖がっている顔をみるためか、男の人が、スマートフォンの懐中電灯をオンにして、奈緒の頭の傍に置いたおかげで、男の人の顔がはっきりと見えた。

 坊主頭にメガネをかけて、ヒゲはジョリジョリ、鼻の穴が大きく、赤らんだ色をして、ギトギト脂の浮いた、四十歳くらいの男の人の顔――お兄たんとは似ても似つかぬ、醜く歪んだ顔に見下ろされて、奈緒は戦慄した。

「ひぎっ。いっ」

 奈緒が起き上がろうとすると、男の人は、奈緒のお腹に、思い切り拳を落としてきた。激しい痛みと恐怖で、奈緒はそれきり、動けなくなってしまった。

 男の人は、何も言わないまま、奈緒の着ている白いTシャツを、強引にめくり上げてきた。この一か月ほどの食生活で、間もなく三桁の大台に届こうとしているバストがどむっとまろび出て、皿に移されたプリンのように、肋骨に当たって弾んだ。

 夜だから、気温はそれほど高くないけど、水はけのよくない雑木林の中は湿気蒸していて、部屋にいるときよりも沢山、汗を掻く。すると、奈緒がえっちなにおいになるのも早くなる。

 男の人が、奈緒の履いているコットンパンツを、くまさんのパンティごとはぎ取った。奈緒が動けなくなったのを見て、半身を起こした男の人は、奈緒の、汗みどろになった秘裂に手を触れてきた。濡れ具合を確かめようとしているらしい。

「うっ。ぐへっ。なんだこりゃ、たまげたな」

 くまさんのパンティの下から露になったくさまん――。男の人が、奈緒の秘裂に触れたあとの手のにおいを嗅いで、うめき声を漏らし、しかめっ面をした。

 なんなの、このおじさん。顔のカッコイイお兄たんが、奈緒の汚れたおまんこを美味しい、美味しい、て言いながら舐めるのに、顔の汚いおじさんが、奈緒のおまんこを嗅いで、嫌そうな顔をするなんて、バッカみたい。

 もしかしてだけど――。

 女の人の強い体臭に興奮する性癖は、すべての男の人に共通するものではないのかしら――。

 お兄たんが、特別な変態豚野郎なだけなのかしら――。

 一瞬、頭に疑問が浮かんだが、今は深く考えている暇もない。奈緒は、おじさんに胸を抑え付けられながら、左足に引っ掛かった状態になったコットンパンツのポケットに手を伸ばした。

 コットンパンツのポケットには、懐中電灯のほかに、折り畳み式のバタフライナイフが入っている。いまは、猫さんやカモさんを殺すのをやめた奈緒だけど、ナイフがあると、心が落ち着くから、ポケットに入れて持ってきた。

 お守り替わりに持ってきたナイフ――でもいまは、それが役に立つ場面。法律には詳しくないけど、きっとこれは、ナイフを役立ててもいい場面。

「ねえちゃん、ちょっと待ってろよ。もうすぐおじさんのちんちん入れて、おじさんの赤ちゃん、ねえちゃんに産ませてやっからよ。おじさんは顔も悪いし、頭も悪いから、おじさんの赤ちゃん育てるの、ねえちゃん苦労すると思うけど、勘弁してくれよな。おじさんのちんちん、赤ちゃん作りたくって、どうしようもなくなってんだ」

 奈緒は、奈緒をおそってきたキモイおじさんが、奈緒のまん臭にもひるまず、スウェットを脱いで、半勃ちになった、カブトムシの幼虫みたいなものをピョロッと出した瞬間に、コットンパンツのポケットから、バタフライナイフを取り出すことに成功した。

 手首をひねり、遠心力を利用してグリップを開き、ブレードを露出させる。何度も反復練習しているから、不安定な体勢でも慣れたもの。おじさんは奈緒がナイフを抜いたのにも気づかず、両膝立ちの体勢で、粗末なものをシコシコして、奈緒に突き刺す準備をしている。

 煌めく刃を横に薙いだ。スパッと切り裂かれた、おじさんの茶色いTシャツの間から、トマトジュースのパックを握りつぶしたように、真っ赤な鮮血がドヴァッと吹き出してきた。

 自分の身に起きていることにも気づかずに、粗末なものをシコシコし続けているおじさんの腕、肩、胸を、立て続けに切り裂いた。生きた動物の肉を何度も切った経験のある人間にしか身につかない、独特の刃を滑らせるような切り方で、ジップ、ジップと、肉袋を覆う薄い皮に裂け目を入れていく。

「ひぃっぎっぐぅ・・・・・」

 最初に切りつけてから五秒ぐらい経ったところで、ようやく、大量の出血に気付いたおじさんが、傷口を手で押さえてもがき始めた。

 おじさんが奈緒から視線を切った瞬間に、奈緒は立ち上がり、首まで上げられたTシャツをおろし、左足に引っ掛かったコットンパンツを履き直して、おじさんから離れ、一目散に駆け出した。

 そのまま、一直線に家まで帰って、すぐに熱いシャワーを浴びて、おじさんのつけた汚れを落とすつもりだった。が――。

 雑木林から出ようとした瞬間、自分の身体が、困ったことになっているのに気づき、奈緒は足を止めた。

 やだ・・・身体の芯が疼いている。

 お兄たんと出会って、生き物の命をみだりに奪うのは、やめられたはずだった。猫さんやカモさんを殺すことより気持ちいいことがあるって、わかったはずだった。

 でも、これはまたこれで・・。
 
 どうしても、衝動を抑えられなくなった奈緒は、踵を返し、おじさんに襲われた樹液酒場に戻った。
 
 おじさんは、奈緒が切りつけた腕、肩、胸から、血をドブドブ吹き出させながら、スマートフォンを操作している。指が震えて、うまく画面がタッチできないみたい。

 一一〇番も、一一九番も、まだ押されてない。今、おじさんを殺してすぐに逃げれば、たぶん、奈緒は捕まらない。

 女の子にこんな乱暴をするおじさんは、殺されても当然。最初に手を出してきたのはおじさんなんだから、奈緒は悪くない。自分に言い聞かせながら、奈緒はもう一度、片手でバタフライナイフの刃を抜きながら、おじさんに歩みよっていった。

 心拍は急上昇しているが、頭の中は冷えている。

 だめ、そっちに行っちゃだめ――。わかってはいるけど、止められない。

「ひっ・・・ぐ・・・やめ・・たちけ・・・て・・・」

 おじさんが血の海の中で手を伸ばし、奈緒に助けを求めている。さっきは、獣のような顔をして、奈緒に酷いことをしようとしていたくせに――。怒りの炎が殺意の燭台に灯り、奈緒の歩を加速させる。

 バタフライナイフのグリップを強く握りしめた。表面を撫で切るのではなく、内臓まで刃を突きとおす構え。

 おじさんのみぞおちに正確に狙いを定め、奈緒はナイフを突き出した――。

奈緒ちゃんのお家 2(12月半ばまでの掲載となります)


「ほをををををををを」

 二日前から履きっぱなしの紙おむつの中に放尿した奈緒は、快感のあまり、思わず声をあげた。
 今日は、大好きなお兄たんが、奈緒にお勉強を教えに来てくれる日。

 一時間目は、奈緒が一番大好きな体育の授業。

 十年前、まだ学校に通っていたとき、奈緒はいつも、授業の準備を忘れて先生に怒られていたけど、お兄たんの体育の授業を受けるときの準備だけは、絶対に忘れない。

 お兄たんは、体育のとき、奈緒がえっちなにおいをさせればさせるほど、喜んでくれる。だから奈緒は、お家にいるときはずっと、おばあちゃんがするおむつを、履きっぱなしにしている。

 おむつの中でおしっこをした後は、お毛毛がずっと湿ったままになり、うんちをしたら、おしりがベトベトになる。かゆいし、気持ち悪いけど、お兄たんの笑顔が見たいから、奈緒は一生懸命、我慢しておむつを履き続けている。

 お兄たんは奈緒が宿題を忘れても怒らないけど、奈緒からえっちなにおいがしないと、悲しい顔になる。奈緒がえっちなにおいになればなるほど、お兄たんは、お肉の棒を硬くして、先っちょからプールのにおいがするミルクを、いっぱい出してくれる。

 奈緒はお兄たんのプールミルクが出てくるのを見るのが大好き。お兄たんに一杯ミルクを出されせるため、奈緒は頑張るの。

「猫さん、亀さん、虫さん、かもさん。これまで、命をとっちゃって、ごめんなたい」

 舌っ足らずの可愛い声で懺悔の言葉を述べながら、奈緒は段ボールで作った仏壇の前で、奈緒のあんよの、酸っぱいにおいがいっぱい染み着いたカーペットに、額をこすりつけた。

 三か月前――お兄たんと出会うまで、奈緒は、夜な夜な家を出ては、近所にいる動物を殺害しながら、おまんこをくちゅくちゅすることで、えっちな衝動を抑えていた。みんなの首を切り落とすのは悪いことだってわかっていたけど、奈緒はどうしても、衝動を抑えられなかった。

 奈緒が悪いことをやめられたのは、お兄たんが来てくれたお陰。

 お兄たんが、硬いお肉の棒を奈緒のお肉に刺して、奈緒を血まみれにして、痛気持ちよくしてくれるようになったお陰で、奈緒は猫さんたちをナイフで刺して、血まみれにすることをやめられた。 お兄たんのお陰で、奈緒は牢屋に入れられずに済んだ。

「みんなの命をとっちゃった代わりに、奈緒はいま、おむつの中で、びせーぶつを育てています。びせーぶつをいっぱい育てれば、せーぶつの命をとった償いになると、理科の時間に、お兄たんが教えてくれました」

 おしっことうんちがいっぱいしみ込んだ奈緒のおむつの中では、いま、微生物がわんさか生まれている。微生物とは、言い換えれば「ばい菌」のことだと、お兄たんは教えてくれた。

 ばい菌――奈緒は、小学生のとき、みんなにそう言われてからかわれた。男の子も、女の子も、みんなが、奈緒ちゃんに触ると、奈緒菌がつくから、近寄るなと言った。

 長い年月、耳に残ったみんなの言葉で傷ついていた奈緒を、お兄たんが癒してくれた。

――男の子のばい菌は汚いけど、女の子のばい菌は、とてもえっちでいいものなんだよ。奈緒ちゃんに悪口を言った女の子たちは、えっちな奈緒ちゃんが羨ましかったんだよ。男の子たちは、えっちな奈緒ちゃんに、素直になれなかっただけなんだよ。

 その言葉通りに、お兄たんは、奈緒のおむつの中で育ったばい菌を、いつも愛おしそうに、美味しそうに舐めてくれる。お兄たんのお陰で、奈緒は悪くなかったんだ、おかしかったのは、みんなだったんだ、とわかった。

 お兄たんが本当のことを教えてくれたお陰で、奈緒は救われた。

 日課の懺悔を終えた奈緒は、冷蔵庫からコーラのペットボトルを取り出してがぶ飲みした。

 連日の猛暑日の中、エアコンもつけていない部屋の中で過ごしていれば、いっぱい汗をかいて喉が渇く。飲み物をいっぱい飲めば、おしっこも一杯出て、奈緒のおしっこを飲むのが大好きなお兄たんは喜んでくれる。

 飲料水のペットボトルは、姉の美沙に言って、一週間に二十本は補充してもらっている。

「あ。カラスが鳴くから帰ろかなだ」

 窓辺から、五時のチャイムが聞こえてきた。あともう少しで、お兄たんがやってくる。奈緒はお兄たんを出迎えるため、おむつの上から、お兄たんが買ってくれた、ピンクのフリフリがついたお姫様ドレスを着た。

 お兄たんが、社会科の授業のときに教えてくれた。

――昔のお姫様は、お風呂に滅多に入らなかったから、とてもえっちなにおいがしたんだよ。ヨーロッパで香水が発達したのは、お風呂に入らなくて、えっちなにおいになっちゃったのを、誤魔化すためだったんだ。お姫様がえっちなにおいになるのはいいことだけど、そのせいで、家来のみんながメロメロになって、仕事ができなくなっちゃったら、大変だからね。奈緒ちゃんが絵本で呼んだ白雪姫やシンデレラは、おまんこから、えっちな納豆の臭いがしたんだよ。

 小学生のときから憧れだった、シンデレラや白雪姫から、納豆の臭いがしたと知った奈緒のショックは大きかった。その夜、奈緒は自分のおまんこから、水戸黄門のおじさんが出てきて、ぐちゃぐちゃの納豆を振りかけられる悪夢にうなされた。

「くっくぅ~、くぅ~」

 突然、足の痒みに襲われた奈緒は、玄関の前で、ぴょんぴょんと飛びあがった。おまんことおしりの痒みは、まだ、柔らかいおむつの上から掻くことで対処できるが、軍人さんが履いている頑丈なコンバットブーツを履いている足は、そうはいかない。

 苦し紛れに、三十回ほどジャンプをした奈緒は、もう汗だくである。しかし、奈緒が汗だくで、ぬるぬるになるほど、サランラップを巻いた腋はえっちなにおいになり、お兄たんは喜んでくれる。

 奈緒が我慢して我慢して我慢するほど、お兄たんは、お肉の棒を硬くしてくれる。お兄たんのお肉の棒が固くなれば、体育の時間、奈緒がぶしゅっと刺されたとき、痛気持ちよくなれる。

 玄関の前から、お兄たんの足音が聞こえた。奈緒は、聴覚と嗅覚が人間の何万倍もある犬の如く、お兄たんがチャイムを鳴らす前に玄関に駆け、ドアを開いた。

 奈緒が、起きている間中ずっと思い描いていた大好きな顔が目の前に現れて、胸の奥からふわ~っと、幸せな気持ちが広がった。


             ☆         ☆          ☆

 
 悟の家からほど近い郊外にひっそりと建つ、家賃六万四千円の2LDK――ここが三年前、両親が事故で他界してから、美沙が実家を売りに出して借り入れた、奈緒ちゃんのお家である。

「お兄たん、こんにちは。来てくれて、ありがとう」

 悟が通販で買ってあげた、ピンクのお姫様ドレスを着た、むっちりと肉付きのいい体型の奈緒が、ミニスカートの裾を摘まみながら、ぺこりとお辞儀をした。

 卵型の輪郭。低すぎず高すぎず、細く通った鼻梁。上側はすっきり、下側はポテッと肉付きのいい唇。

 奈緒の美貌は姉の美沙に勝るとも劣らないが、大きくてクリクリとした目は焦点が異様に遠く、どこか無機質である。そして、全身から漂う、独特の暗い波動・・・。

 よほど鈍感な者でない限り、十八歳の奈緒が精神を病んでいるのは一目でわかる。

「お兄たんに言われた通り、奈緒ちゃん昨日から、おしっこ、ずっとおむつの中でしてたよ。おまんこ、かゆかゆだったけど、我慢してたよ」

「ありがとう、奈緒ちゃん。頑張ってくれたね」
 笑顔で報告する奈緒の頭をなでなですると、奈緒は目を細め、頬を赤らめて喜びを露にする。

 腋にはサランラップ、足には軍用のコンバットブーツ、股間にはおむつ――。悟はいつも奈緒に、授業のある月曜日と木曜日の前日から、「スイートスポット」を、厳重に封印するよう命じている。
 
 汗腺が多く、臭いやすい部分をほかほかに蒸れさせて、しっぽりと汚した身体を、ピンクを基調としたお姫様ドレス――一見、悪臭とは縁遠いイメージの衣装で包み込ませる。

 あんなキレイな女性から、こんなえげつない臭いがするなんて――。臭いフェチが女性の臭いに惹かれる理由は、つまるところそこに帰結する。絶対にくさくあってはいけないはずのものから、くさい臭いがする。ギャップの効果が、強い興奮を喚起するのだ。

 姉の美沙同様、臭いが強めの体質である奈緒は、スイートスポットを解放する以前からすでに、雑食性の哺乳類特有の、据えた臭いを放ってしまっている。

 奈緒の身体だけではない。日中はずっとカーテンがひかれ、外光が遮断されている奈緒の部屋全体から、悟が愛してやまない、女の子を煮詰めに煮詰めた臭いが、ぷんぷんと漂っている。

 奈緒ちゃんのお家は、えっちなにおいがいっぱい。

「奈緒ちゃん、もうちょっと辛抱してね。体育の前に、お兄たん、汚いところをキレイキレイしてくるからね。ちょっと、そこで待っててね」

 二十歳を迎えたばかりの愚息は、すでにジーンズを突き破らんばかりに膨張し、先走り汁で、トランクスはもうびっちょりになってしまっているのだが、悟ははやる気持ちを抑え、奈緒の部屋で、唯一女の子のえっちなにおいがしない空間、バスルームに直行した。

 いついかなる状況下においても、エッチをする前には、男はお風呂に入って、身体を隅々までキレイにしなくてはならない。悟が自らに課す、鉄の掟である。

 汚い身体で女の子を抱くのはエチケットに反するし、何より、汚い男である自分の臭いが、女の子に移ってしまったら台無しである。

 どれほど性欲が亢進していたとしても、股間のものが熱く怒張していたとしても、悟は可愛い女の子の、くさいにおいを嗅ぐ前には、お風呂に二十分は入り、念入りに自分の身体を洗わなくては気が済まないのだ。

「女の子は洗わず、男はよく洗う。女の子は洗わず、男はよく洗う。女の子は洗わず、男はよく洗う!」

 悟はうわ言のように呟きながら、ボディソープをたっぷり含ませたタオルで、皮膚が真っ赤になるほど身体を強く擦った。

「な、奈緒ちゃん!」

 シャワーを終えた悟は、奈緒の身体が、石鹸の香りのする水で濡れて台無しにならないように、自分の身体をバスタオルでしっかり拭いた。

 バスルームを出ると、奈緒は、悟が「そこで待ってて」と言った通りに、寝室にはいかず、玄関の前で突っ立ったまま待っていた。人の言葉を字義通りに解釈してしまい、融通が利かないというのは、アスペルガー症候群の特徴である。

 悟は、そんな奈緒に一々ツッコミを入れることもなく、梅干しのような赤い亀頭が露茎した剛直を縦に横に揺らしつつ、お姫様ドレスを着た奈緒ににじり寄っていった。

 傍から見れば、今の悟は、まるで変質者である。しかし、その異常な変質者は、シャワーを浴びたばかりで身体からは石鹸のいい香りがし、変質者に狙われている可憐な少女からは、雑食性の動物特有の据えた臭いが漂っているのだ。

「奈緒ちゃん。一時間目の、体育の授業を始めます」

 お姫様ドレスの袖から覗く、奈緒のぽてっとした二の腕――ようやく、崇高なる「無洗女体」に手を触れた悟は、次に、奈緒にお姫様ドレスを脱がさせないまま、膝頭に届かないミニスカートの中に潜りこんで、奈緒に昨日から履かせていたおむつに手をかけた。

 この瞬間を待っていた。奈緒に会えなかった二日間、待って待って、待ち焦がれていた。

 うな重はなぜ丼ではなく重箱で食べるかといえば、蓋を開けた瞬間い漏れでる、香ばしい匂いを嗅ぐためである。同じように、女の子の臭いを楽しむときも、通気性を悪くして、蒸れ蒸れにしたスイートスポットが解放されるその瞬間を、けして逃してはならない。

「うぅおっ。うぅぅううぅおっ」

 すんすん、すんすんすんすん――。

 奈緒の履くおむつを力任せに引きちぎった悟は、ミニスカートの中にぶわっと広がる奈緒の蒸れ蒸れ臭を、犬のように鼻を鳴らして吸い込んだ。

 おしっこと、うんちと、汗とオリモノと膣分泌液と、何もかもが混ざり合ったこの臭いは、たらこスパゲティである。

 なにがどうなってこの臭いになるのか、化学の専門家ではない悟にはわからないが、一日入浴を断った奈緒のおまたの臭いは、たらこスパゲティのソースのそれにそっくりなのだ。

「あっぁっ・・・あッ・・・だめっ。お兄たん、だめっ・・・」

 姉の美沙に似て濃いめの密林をかき分ければ、たらこの色に似た、薄いピンクの割れ目が見えてくる。悟が舌の先を使って愛撫してやると、奈緒は立っていられず、カーペットの敷かれた廊下に尻もちをついてしまう。

 悟は落ち着き払った手つきで、すでに脱がしてある、べっとりしたビーフカレーのようなうんちが付着したおむつを捨てると、カーペットについてしまった奈緒のうんちも、ティッシュでキレイに拭き取った。

 おしりに付着した微かな残り滓ならともかく、女の子の肉体から完全に離れた大便の臭いは、もう女の子の臭いではなく、ただのうんこの臭いである。

 おしっこについても同様で、尿道から出た液体を直接口に受けるのは好きだが、コップについだり、食べ物にふりかけた液体は、もう口には入れられない。女の子の身体から離れた大小便を直接嗅いだり、食するというのは、においフェチではなく、スカトロマニアのテリトリーだ。

 悟が好きなのは、おまんこ、腋、足、へその穴、肛門――可愛い女の子の大事なところを直に嗅ぎ、その付着物を直接、口に入れることなのである。

「汚い男は、えっちをする前に必ずお風呂に入らなくてはならないが、可愛い女の子は、えっちをする前にけしてお風呂に入ってはならない。汚い男の体臭は殺意の対象だが、可愛い女の子の体臭はご褒美である」

 合言葉のように呟いた悟は、プリンを思わせる、奈緒の柔らかくもハリのある尻たぶをたむたむともみほぐしつつ、プリンの上に乗ったカラメルソース――アヌス周りにぺとぺととくっついた、茶色いものをキレイに舐めとった。油粘土を舐めたような苦い味。

「お兄たん、おちり、くしゅくしゅするよぉ」

 お掃除を終えて、アヌスを穿孔し始めると、奈緒がもちやわらかな尻肉をぷるりんと震わせて甘い声をあげた。

 十代らしく、美沙のそれよりも淡い菊の花弁の感度は良好である。しかし悟は、粘土の苦みを数十秒味わうとそれで満足して、もう少しして欲しそうな奈緒のアヌスから、あっさりと舌を離した。

 これが一般的な官能小説の主人公なら、そのままアクメに達するまで執拗に舌で責め続けたり、挿入に及んだりするのだろうが、女の子の臭いを楽しむことを第一に考える悟には、他に優先すべきことが沢山あるのだ。

「今度は、あんよをキレイキレイしようか」

 奈緒の排泄器官をすっかりお掃除し終えた悟は、次に、奈緒がもっとも痒みに悩まされた、足――頑丈さを最優先として設計されているがゆえ、通気性皆無のコンバットブーツを脱がせた。

 取りい出される湿った足の、むぅわりとした臭いは、よくかき混ぜた納豆そのもの。汗のプールに浸かり、ふやけて白くなった足肉にむしゃぶりつけば、しょっぱさと苦さに咽るのを堪えられない。

 可憐な少女と無骨なコンバットブーツ。アンバランスな取り合わせで完成するのは、赤ちゃんをいっぱい作りたくなる魅惑の納豆臭。足の爪に挟まった黒ずんだ汚れも、前歯でほじくり返して、余さずに口に入れた。

「さぁ、奈緒ちゃん。いっぱい、汗かきにいこっか」

 奈緒の足の痒みを取り除いてやると、悟は未だ、お姫様ドレスを着たままの奈緒を優しく立たせて、ベッドルームへと導いた。

 整理整頓の苦手な奈緒の部屋は、衣服や食べ物のゴミ、血だらけになった生理用品、奈緒が小学生のときから大切にするお人形などが散乱している。

 今は、一日置きに部屋を訪れる悟が掃除をしてやっているのでまだマシだが、美沙が奈緒に悟を紹介するまでは、部屋の中は足の踏み場もないどころか、ゴミが層になってうず高く積みあがり、猫の生首も転がっていた。

 さすがに掃除しきれず、業者を呼んで掃除してもらった費用は、延べ十五万円にも上った。
「さあ、奈緒ちゃん。そろそろ、痛気持ちいい運動を始めようか」

 奈緒を、可愛いペンギンのイラストが描かれたシーツの上に座らせた悟は、とうとう、奈緒に着せた、ピンクのお姫様ドレスを脱がせた。

「奈緒ちゃん、ムチムチしたエッチなボディになってきたね・・。柔らかくて、とっても気持ちいいよ」

 十年間、太陽の光を浴びていない奈緒の身体は異様に生白いが、その肌の張りは、紛れもない十代のそれである。弾力に優れた若い脂肪はこんにゃくの感触で、指を埋めたり、押しつぶしたりしてもすぐに元の形を取り戻し、肌に跡が残らない。

「お兄たんに言われた通り、ハンバーガー、ピザ、ポテトチップスをいっぱい食べたら、おもちがいっぱい付いてきたんだ。お兄たんが喜んでくれて、奈緒もうれしいな」

 この一か月ほど、悟は奈緒に、アメリカの低所得者層のような、高カロリーのファストフード中心の食事を摂らせていた。

 出会ったころは姉の美沙と同様に、湶や鎖骨、腰骨が痛々しく浮き出る痩せ型だった奈緒だが、もともとは太りやすい体質だったのだろう。わずか一か月ほどの食事改革であっという間に肉が付いて、座ると下腹がぷっくり膨らむ、セクシーなむっちり体型になっていた。

 美沙のようなスレンダーボディが嫌いというわけではないのだが、悟の本来の好みは、身長マイナス体重が二けたになるような、ぽっちゃりした体型である。

 同じ遺伝子を持っていても、美沙の野菜系と、魚介系の奈緒のまん臭は大きく異なる。好きな時に、好きな臭いを楽しむ幸せを味わうならば、抱き心地もそれぞれ異なっていた方がいい。

 己の欲のためだけに、悟は奈緒の食事の栄養バランスをぶち壊しにしたのだ。

「ほむっほむっ・・・ああ、奈緒ちゃんのへそうんち、美味しいねぇ」

 胎児のころ、奈緒がお母さんと繋がっていた場所は、奈緒が赤ちゃんを産める歳になると、茶色くてぺトペトした魅惑のゴマちゃんを生み出す、魔法の壺となった。

 へそのごまを掻き出すときの、ズンッとした独特の不快感に耐える奈緒の苦し気な顔が愛おしく、ゴマを食べた後の唇を重ね合わせる。

「むっちゅっちゅ・・むっちゅっちゅう・・・・」

 まむまむ、とねじ入れられる奈緒の舌に、自分の舌をねろりん、と絡ませてやると、奈緒の表皮の温度がかぁっと上がる。

「あぁふっ。お兄たん、もっともっと、もっとぉ」

 雄の硬くした肉で、雌のデリケートな粘膜を抉る性行為には、獣欲の野蛮なイメージが付きまとうが、キスは人にだけ許された、百パーセント官能的な行為。

 幼い頃から家に引きこもって過ごした奈緒には、同じ年ごろの少女が持つ羞恥心が欠落しているきらいがあるが、乙女の本能からか、奈緒は、悟とのプレイの中で一番好きなのはキスであることを明言している。

 そのまま、ずっと口粘膜を絡ませていたいという奈緒のリクエストに応えてやりたいのはやまやまだが、キスだけでは、いきり立った男の欲は収まってくれない。

 肉刀による斬切に及ばなければ、雄の愛欲に区切りがつかない。口には出さないだけで、本当はそれをこそ、牝も望んでいるはずなのだ。
「さあ、最後は腋をキレイにしようね」

 貫通前の仕上げ――悟は、奈緒の腋嵩に二重三重に巻き付けられた、サランラップを取り去った。最後の異物が払われて、これで奈緒は、完全に生まれたままの姿となった。
「・・・効くぅ~・・」

 ツーンと鼻の奥に突き刺さるような臭いに、悟は目の端に涙をためる。

 美沙の剛毛とは反対の、柔らかく繊細な腋毛の一本一本が愛おしい。

 悟はネギの臭いに、女性ホルモンの甘ったるい匂いが混じったトロトロツーンな臭いを嗅ぎ終えると、苦み走った味をしっかりと堪能し、ラップに移った朝露のような奈緒の腋汗もすべて舐めとった。

 おまんこ、アヌス、腋、足、すべてのにおいをコンプリートした悟は、いよいよ奈緒を貫くべく、先走り汁を垂れ流す宝刀を軽く扱き、硬度を頂点に持っていった。

 奈緒との「体育」の授業において、悟は奈緒に、男のものに奉仕をすることは教えていなかった。

 挿入の叶わない美沙とのプレイにおいては手コキで抜いてもらっているが、悟は過去のある経験から、女性からの奉仕、とくに、フェラチオを受けることを好まない。

 いくらお風呂に入って洗ったとしても、こんな不潔なものを、女の子の口に入れるわけにはいかないのだ。女の子の方を愛撫するのが終わったら、すぐさま結合に持ち込むのが、男として正しい礼儀というものである。 

 ベッドの上の奈緒は、目をつぶって両足を開き、腕をこごめ、悟が入ってくるのをじっと待っている。悟は奈緒の身体に覆いかぶさると、緊張を解きほぐすように、両腕のガードをこじ開け、仰臥しても形の崩れない乳房を揉みしだいた。

 殺意を抱くほどの丸みを掌に味わいながら、噛みちぎってくださいと言わんばかりの蕾を、舌でやさしく転がしてやる。

「ゆんゆん、ゆん・・お兄たん、おっぱいの先がチリチリして、きもちいいよぉ」

 十八歳――もし学校に出ていれば、とっくの昔にマセガキの餌食になっていたであろう新鮮な丸おっぱいを、自分のような汚れた男が独占できている喜び。奈緒と同じ年のとき、女の子にまともに話しかけることもできなかったあの頃には、想像もできなかったことである。

「奈緒ちゃん、お汁いっぱい出てる?入れても、痛くなさそう?」

「大丈夫。さっき、お兄たんがいっぱいペロペロしてくれたから、ぐちゅぐちゅになってる」

 奈緒の蜜壺がしっぽりと潤っていることを本人の口から確認した悟は、奈緒の部屋に入る前から勃ちっぱなしになっている愚息を、右手で位置を整えながら、ゆっくりとインサートした。

「くっ・・・きゅぅ、きゅぅ!」

 経験の浅い奈緒はまだ、挿入の際には軽く痛みを伴う。膣穴が狭い上に、膣粘膜も柔らかい体質。一か月前に破瓜した際の出血量も多く、大学二年生、二十歳にして、ソープランド以外での本番経験のなかった悟は、多いに焦ったものだった。

「・・動かすからね。堪えてね」

 根元までしっかり突き入れてから二分ほど待機して、愛液の量をピークに持っていってから、悟は上体を起こしたまま、ゆっくりと抽送を開始した。

「すごいよ、奈緒ちゃん。奈緒ちゃんのミルクタンクが、縦に横に、たぷるんたぷるん揺れている。たわわなプリンプゼリー。いい眺めだよ、奈緒ちゃん」

「きゅぅん。ゆん、ゆん、きゅん」

 正常位で俯瞰したとき、乳肉を揺らしながら喘ぐ奈緒の姿はたまらなく可愛い。可愛いのだが、
十年近くも外界から閉ざされた空間で生活を送り、乙女の価値観が育まれていないせいか、悟がせっかくエロティックな言葉をかけても、恥じらいが感じられないのが玉に瑕ではある。だが、それは些末なこと。

「奈緒ちゃん、今でも頑張ってくれているけど、もっともっと、いっぱい食べて、おもちを付けてくれると嬉しいかな。ケンタッキーフライドチキンなんか、いいんじゃないかな」

 奈緒にはいい眺めといったが、正直なところ、悟はまだ、奈緒の肉付きには不満がある。

 百五十五センチ、五十五キロ。すでにくびれとはお別れしているが、いまの奈緒の体型では、おっぱいはともかく、お腹が揺れるのはまだ先である。悟はこの先、身長百五十五センチの奈緒の体重を六十キロ以上にはもっていった上で、高速のガソリンランマーのようなピストンで打ち付けて、奈緒の腹肉が波打つところが見たかった。

 体重を増やすには、糖質と脂質――とくに、脂質の多い肉を食べれば、体臭の増加にも効果がある。

 平安の昔、渡来系出身である西国の貴族階級は、在来系の狩猟民出身で、野山で獲れた鹿や猪の肉をよく食していた東国の武士階級を「獣の臭いがする」と侮蔑していた。

 差別的な先入観が多分にあるにしても、脂質が多く、穀物や野菜に比べて胃腸に負荷のかかる肉類を摂取すると、体内でアンモニアが多く生成され、汗のにおいが強くなりやすくなるというのは、科学的根拠に基づいた事実である。

 女の子を太らせる上に、えっちなにおいにするフライドチキンは、悟のソウルフード。悟は奈緒にフライドチキンをいっぱい食べてもらって、悟好みのボディになって欲しかった。

「奈緒ちゃん、僕の言うこと聞いて、えっちな身体になってくれてありがとう。こんな奈緒ちゃんをダメな子なんて、誰が言ったんだ。奈緒ちゃんはとっても頑張り屋の、偉い子だよ」

 悟が頭を撫ででやると、奈緒は感激の涙を流す。

「お兄たん、優してくれるから、奈緒だぁい好き。お兄たんに言われた通り、奈緒ちゃんケンタッキーを沢山食べて、もっともっと、えっちなからだと、えっちなにおいになるからね」

 自分に依存する引きこもり少女におかしなことを吹き込んで、痩せさせたり太らせたり、洗ったり洗わなかったり、身体を好きなようにカスタマイズして弄くり回す――見るものが見れば、殺すよりも罪深い行為なのかもしれない。

 十年間、外界と隔絶された環境で育ってきた奈緒は、悟のマニアックな性癖を、すべての男に共通するものだと思い込んでいる。女の子がくさければくさいほど、男は喜ぶと思っている奈緒がもし外に出て、ほかの男とコミュニケーションを取る機会があったなら、それこそ、とんでもないことになってしまうだろう。

 奈緒は悟の世界でしか生きていけない。悟の言うことが世界のすべてだと思っている奈緒を、世間一般的に正しい方向に導くのではなく、百パーセント自分の都合の良いように改造している――その所業がどれだけ罪深いものだったとしても、野獣の本能を抑えるには、悟は若すぎるのだ。

「奈緒ちゃん。そろそろイクからね」

 フィニッシュに向かって、悟は奈緒の背に手を回し、隙間がどこにもないくらいしっかり上体を密着させると、抽送の速度を徐々に上げていった。

「きゅぅ、きゅぅぅん、ぅ、ぁ、ッ、ア、アァッ、アンン、アンン、アンン」

 乙女の鳴き声が、引き裂かられる痛みから、擦られる快楽によるものへと変化するのに合わせ、悟の出し入れの速度も上がっていく。パンパン、タパパパパンと、閉め切られた室内に、肉のぶつかる淫靡な音が響き渡る。

「アァウゥ、アン、アン、ア。アウゥ、アウゥ」

 膣穴の狭い奈緒を高速で突くと、傘の部分に微かな痛みを覚える。構わず突きまくると、密壺から白濁の愛液に混じって、切り裂かれた粘膜から染み出た血液が漏れてきた。

 よりにもよってこんな変態が、かわいい奈緒を流血の惨禍に追い込んでしまった罪の意識を拭い去るように、悟は尚も、ツブツブから男の愛を吸いつくそうとするような奈緒の牝襞で、最高の性感帯である包皮を剥き剥きし、亀頭の粘膜を擦りまくった。

 やがて剛直の根元から、ムズムズ感が昇ってきた。マガジンから銃身に弾が込められ、ハンマーも起こされた。撃発の瞬間が近づいている。

 己の右手で処理することしか知らなかったころ――ばい菌と呼ばれていたあの頃には、こんな豊満な美少女の上に乗って、白濁のものを吐き出せる日が来るとは、夢にも思わなかった。

 ばい菌と呼ばれていたあのころにはまだ、女臭に興奮を覚えるこんな性癖はなかった。

 いたいけな少女を洗脳する自分を、鬼畜と呼ぶなら鬼畜と呼べ。誰に何と言われようが、自分が反省することはない。

 多感な少年時代、少女たちの可愛い声で、毎日ばい菌呼ばわりされる経験などしていなければ、こんな自分にはなっていなかったのだから――。
  

             ☆          ☆            ☆


「ほをぅっ、ほをぅっ、ほををぉっ!」

 奈緒の中で、お兄たんが暴れてる。お兄たんが、奈緒にえっちなことをして大きくしたお肉の棒が、奈緒が赤ちゃんを産むための穴を、ぐちゃぐちゃにしている。奈緒のお肉が、お兄たんの赤いカメさんに削ぎ落とされてる。

 初めてのときほどじゃないけど、最初はいつも、お股をナイフで切られてるみたいな、鋭い痛みから始まる。奈緒が痛がっている間は、お兄たんは激しくはせず、ゆっくりやってくれる。

 やがて痛みが遠のいて、かわりに快楽がやってくる。

 ジワ、ジワ。お腹の中に、熱い感じが染みわたっていく。

 奈緒が気持ちよくなってきたのを見計らうと、お兄たんの動く速度が上がっていく。お兄たんが激しく動き出すと、お腹の中に突き入れられたお肉の棒も、ますます硬くなっていく。

 お兄たんが、奈緒ちゃんは僕だけのものって言ってるように、奈緒をがっちり抱きかかえながら、一生懸命腰を振ると、奈緒のおまんこは、ジワ、ジワ、と、腹部周辺に、凄まじい快楽の信号を送る。
「ア。ア。アアアッ、ほをぅっ、ほをををおぅっ」

 お兄たんから受ける体育の授業が、こんなに気持ちよくなるなんて、初めてのときは、想像もできなかった。

 今から一か月前。初めてお兄たんが身体の中に入ってきたとき、奈緒は焼けた火箸をおまんこに入れられたみたいな、尋常ではない痛みを覚えた。大人の女の人が、こんなのを気持ちいいと思うなんて、正気の沙汰ではないと思った。なんでこんな苦しい思いをしてまで赤ちゃんを作らなくてはいけないのか、まったくわからなかった。

 だけど、大好きなお兄たんが気持ちよくなっているなら、我慢しなきゃいけないと思った。

――奈緒ちゃんのこと嫌い!自分勝手だから。

――奈緒ちゃんはどうして、みんなの気持ちがわからないの!どうして、みんなが嫌だっていうことを、平気でやるの?わたし、奈緒ちゃん嫌い!

 小学生のころから、奈緒は思いやりがないと、みんなに言われてきた。みんなに強く言われても、当時の奈緒には、言われている意味がわからなかった。何も悪いことをしていない奈緒をイジメるなんて、みんなは酷いと思った。

 奈緒が初めて思いやった人が、お兄たんだった。お兄たんと出会い、人を思いやることを知ったおかげで、自分がどれだけ、みんなに迷惑をかけてきたかがわかった。

 人を思いやる――共感することを知ると、痛かったのが、だんだん気持ちよさに変わっていった。いまも、入れたてのときは、ピラピラが切られてるみたいに痛むけど――お兄たんが出し入れを繰り返しているうちに、だんだんお汁がいっぱい出てきて、ジワ、ジワが広がっていくようになった。

「奈緒ちゃんっ。いく、いく、いくよっ」

 お兄たんが、奈緒の唇に、ブチューッと、唇をくっつけてきた。お兄たんの赤いカメさんから、赤ちゃんをつくるためのミルクが出てくる合図。
「ぬふうぅんっ」

 お兄たんが奈緒からチューを放し、つむじから抜けるような声を出して、腰の動きを止めた。奈緒に突き刺したお肉の棒を抜いて、天井を見上げる奈緒のお顔に、先っちょを近づけた。

 お兄たんは気持ちよさが最高になると、いつも奈緒のお顔やおっぱい、お腹に、プールのにおいがするミルクをどばっとかける。

「けほっ、ごほっ」

 仰向けになっている奈緒の顔、首筋に、白くて、ねばねばした赤ちゃんの素が、どぷっ、どぷっ、と振りかけられる。

 濃厚な男の人のニオイ。鼻にツーンとくる刺激臭で、奈緒はこのニオイを嗅ぐと、いつも涙が出そうになる。お兄たんは体育の前に、いつもお風呂に入ってしまうせいで、奈緒はお兄たんの身体のニオイがわからなくなってしまうけど、このときだけは、お兄たんが生きていることを感じられて、とても嬉しくなる。

 だけど、今日出てくるお兄たんは、何かが違う。

「ほよ・・・?」

 お兄たんが奈緒の顔にかける赤ちゃんミルクは、いつもびゅんびゅん、お兄たんが社会科の授業のときに見せてくれた、となりの国の太ったおじさんが打ってくるミサイルみたいに飛んで、二メートルも離れた壁を汚すこともある。

 奈緒の顔についたときは、練乳をまぶした宇治金時みたいにべっとべとになるのに、今日のお兄たんが出した赤ちゃんミルクは、明らかに量が少なく、色も薄い。

 お兄たんが赤ちゃんミルクを出す力は、こんなものじゃないのに・・。

 何かが、へん。

「お兄たん・・・。今日の体育、あんまり気持ちよくなかった・・?」

「ん・・?い、いや、そんなこと、ないよ・・・。奈緒ちゃんと体育できて、僕とっても、気持ちよかったよ・・・」

 奈緒の問いかけに、お兄たんは焦ったような顔を見せて、奈緒の顔についた赤ちゃんミルクをティッシュでささっと拭き取った。

 奈緒がいま、疑っていること――お兄たんが、昨日か今日の朝、奈緒とは別の女の人と、体育をしたのではないかということ。

 体育は、大人の身体をした男の人と女の人なら、誰でもできる。奈緒はお兄たん以外の男の人と体育をするなんて死んでも嫌だけど、お兄たんがそう思っているかはわからない。お兄たんが、ほかの女の人の裸を見て、お肉の棒をおっきくして、奈緒の上に乗っかってるときよりも激しく動いて、赤ちゃんのミルクを出していることも、考えられなくはない。

 奈緒はお兄たんと初めて結ばれた日から、自分が妙に疑りやすい性格になっていることに気が付いていた。女の勘というのか、お兄たんのちょっとした言動や仕草などに、ほかの女性の影がチラついているように見えて仕方がない。

 奈緒は、お兄たんを疑っているときの自分が嫌いだった。

 お兄たんが、ほかの女の人と付き合っているはずなんてないのに。奈緒がお兄たんだけを大好きなのと同じように、お兄たんは奈緒だけが大好きなはずなのに、お兄たんを信じられない自分が嫌だった。

 だけど、この胸を切り裂かれるような気持ち・・・耐えられない。

「あ。箪笥の上に、写真が飾ってある」

 タオルケットでおっぱいを隠しながら、女の子座りをしてお兄たんをじっと見つめる奈緒から視線を逸らし、お兄たんが、額縁に入った写真を指さした。

 業者さんにお部屋を片付けてもらったときに見つけた写真――小学校に通っているときに、仲の良かったお友達と撮った写真の中の奈緒は、太陽のように朗らかな笑みを浮かべている。

 目に映るすべてが、光り輝いていた。
 自分の幸せを邪魔するものは何もないと信じていた。 

 でも、その世界は変わってしまった。

 世の中すべてが敵になった。

 外に出たら殺されると思って、闇の中に逃げ込んだ。

 お父さん、お母さん、カウンセラーさん。色んな人が、奈緒を元気にしようとしてくれた。素晴らしい音楽を聞かせ、素晴らしい映像を見せて、奈緒を癒そうとしてくれた。でも、それらはすべて、奈緒の心には響かなかった。

 三年前に、お父さんとお母さんが死んだときも、なにも感じなかった。自分自身が全身を切り刻まれ、血の海を泳いでいる状態では、肉親の死は悲しめない。

 大好きなあの子に酷いことを言われたあのときから、すべてが他人事にしか感じられなかった。

 世界のどこかで戦争が起こった話をされても、大地震で大勢人が死んだ話をされても、全然、悲惨だと思えなかった。

 お兄たんが、奈緒を、血の海の中から救い出してくれた。お兄たんが、大好きだったあの子以上の癒しを与えてくれたから、奈緒の傷口はふさがった。色んな事を、楽しんだり、悲しんだり、喜んだりできるようになった。

 お兄たんが奈緒の傷を癒してくれたお陰で、奈緒をズタズタに傷つけたあの子の写真を、また飾っておくことができた。

「隣に映っているのは、奈緒ちゃんのお友達?」

「うん。瑠香ちゃんっていってね、すっごく仲良しだったんだよ。だけど、今は、絶交しちゃってるんだよ」

「瑠香ちゃん・・?」

 奈緒が、一番のお友達――大好きだった瑠香ちゃんの名前を出すと、お兄たんは、写真の中で、奈緒と肩を寄せ合う少女を、食い入るように見つめ始めた。

「瑠香ちゃんと奈緒ちゃんが絶交しちゃったのはね、とっても面白い理由なんだよ」

 奈緒は、瑠香の名前が出てから、妙に硬い表情をしているお兄たんに、奈緒が瑠香ちゃんに嫌われた、とってもへんてこりんで、笑える理由を話し始めた。

 小学校二年生のとき、クラスで一番仲の良かった瑠香ちゃんの家で遊んでいた奈緒は、ふいに便意を催した。

 瑠香ちゃんと遊んでいた部屋からトイレに行くためには、瑠香ちゃんの父親のいるリビングを通過しなければならなかったのだが、奈緒にはそれが、どうしても恥ずかしかった。

 苦肉の策で、奈緒は、部屋にあったビニール袋の中に排便をし、それを瑠香ちゃんに手渡して、トイレに流してきてもらうように頼んだ。

 当時の奈緒にも、自分のやっている行動のおかしさはわかっていた。しかし、それが、自分がトイレに行くところを、瑠香ちゃんのお父さんに見られるよりも恥ずかしいことだとは、どうしても思えなかった。

 人見知りの激しい奈緒は、」良く知らない人と挨拶をするのが、極端に苦手である。その反面、一度信頼関係を築けたと思った相手には、極端に依存してしまう悪癖がある。

 仲良しの瑠香ちゃんなら、何も言わずに奈緒のうんちを受け取り、トイレに流してくれる――そのときの奈緒は、そう思ってしまった。

 羞恥心の基準が、どこか人とズレている――その自覚がまったくなかったせいで、奈緒は一番大切な友達をなくしてしまった。

――私、奈緒ちゃんのこと嫌い!奈緒ちゃんは汚い!もう、遊んであげない!

 自業自得とはいえ、一番の親友だと思っていた友達から絶交を宣言された奈緒の心痛は深かった。奈緒は人の気持ちがわからないだけで、自分が傷つくことには、人並み以上に敏感なのである。

 奈緒は、トラブルのあった翌日から登校拒否をするようになり、やがて家から一歩も出なくなった。
 
 なんとも思っていないクラスメイトからは何を言われても耐えられたが、好きな瑠香ちゃんに嫌われたなら、もうダメだと思った。学校に行く意味も、外に出る意味もないと思った。

 大好きな瑠香ちゃんに嫌われたから、奈緒は心を閉ざした。

 奈緒を殺す人が襲ってこない、闇の中に逃げ込んだ――。

「――だから、奈緒ちゃんは学校に行くのをやめちゃったんだよ。奈緒ちゃんは、瑠香ちゃんから、励ましのお便りが来るってずっと信じてたけど、四年生のクラス替えがあっても、奈緒ちゃんが小学校の卒業証書をもらっても、瑠香ちゃんからは何も届かなかったんだよ。奈緒ちゃんは、瑠香ちゃんに忘れられちゃったんだよ。面白いよね、お兄たん」

 奈緒の一番、悲痛な思い出は、いまは、笑って人に話せる程度の思い出に変わった。

 瑠香ちゃんに汚いといわれた奈緒のうんちを、美味しいって舐めてくれる人が現れたから。 

 瑠香ちゃんよりも好きで、もっと大事な人と巡り合えたから――。

「さっきの話が本当だとすると・・・奈緒ちゃんは、瑠香ちゃんとおうちで一緒に遊んだことがあるんだよね?」

「いっぱい、あるよ」

「そのとき、瑠香ちゃんは・・瑠香ちゃんのあんよは、いまの奈緒ちゃんと同じで、えっちなにおいをしていなかった?」

 奈緒がせっかく面白いお話をしても、お兄たんは硬い表情を崩そうとせず、自分が女の子の身体で、一番興味のあることを問いかけてきた。

 お兄たんの言うえっちなにおいとは、聞くまでもなく、奈緒が軍人さんのブーツを脱いだときに漂う納豆の臭いや、カーペットに染み着いた、よっちゃんイカのような酸っぱいにおいのことである。

 奈緒は以前までは、そういう臭いは、ただ単にくさいにおいだという間違った思い込みをしていたが、お兄たんと会ったことで、奈緒が不潔をしたときに発する臭いは、男の人を興奮させる、えっちなにおいなのだとわかった。

「えっちなにおい・・・してた!瑠香ちゃんの足、奈緒ちゃんよりもえっちなにおいしてた!」

 お勉強は小学校二年生で止まっているが、お兄たんに言わせれば、本来の記憶力は人並み以上に優れているらしい奈緒の脳裏に、鮮烈な思い出が蘇る。

 していた。確かにしていた。

 外で鬼ごっこをした後や、暑い日に出かけた後、瑠香ちゃんの足からは、死んだお父さんが、仕事を終えて帰ってきた後の革靴よりも物凄い、目に染みるような臭いがした。

――瑠香ちゃんのあんよ、とってもくさい!そんな足で家に上がったら、家がくさくなっちゃうから、洗ってきて!

 当時の奈緒は、それが大人の男性を興奮させる魅惑の香りだとは知らず、瑠香ちゃんの足はくさいと罵り、大いに傷つけてしまったことがあった。奈緒はそのことが悔しくて、悲しくて、瑠香ちゃんに申し訳なくて、ぜひ会って謝りたいと、最近になって、思うようになっていた。

 だが、今はそれよりももっと、気になることがある。

「どうしてお兄たん、瑠香ちゃんのあんよのにおいが、そんなに気になるの?お兄たんは、瑠香ちゃんを知っているの?」

 お兄たんとの出会いで覚醒した、女の勘が冴えわたる。

 お兄たんは、瑠香ちゃんの足の臭いを、嗅いだことがあるのではないか。自分の知っている瑠香ちゃんと、奈緒の思い出にいる瑠香ちゃんの照合を行うために、さっきの質問をしてきたのではないか。

 今現在、お兄たんは瑠香ちゃんと、互いの家を行き来する間柄なのではないだろうか。

 お兄たんは、奈緒にやっているみたいに、瑠香ちゃんの足を、すんすんと嗅いでいるのではないだろうか。

 お兄たんは、奈緒と同じように、おっぱいやおしりが突き出て、お毛毛が生えて、成熟した大人の女の身体になった瑠香ちゃんの上に乗っかって、体育――そこから先は、想像するのも恐ろしかった。

「え?いや・・・。なんとなく、気になっただけだよ・・。さ。体育の授業は終わったから、お風呂に入って、身体を流して、今日は算数と国語をお勉強しようか」

 何かが気になる。お兄たんの赤ちゃんミルクがやけに少なかった件といい、お兄たんは、奈緒に隠し事をしている気がする。奈緒が知ったら、とても傷つくような何かを、奈緒に隠している・・・。

「うん、わかった。じゃあ、今から奈緒ちゃん、キレイキレイしてくるね」

 気になって気になって、どうしようもないことがある――しかし、奈緒はお兄たんに聞きたいことを、そっと胸にしまい込んだ。

 余計なことを聞いたら、大好きなお兄たんと、お別れになってしまう気がしたから・・・。

奈緒ちゃんのお家――えっちなにおいがいっぱい 1(12月半ばまでの掲載となります)

            

                          
 昨日から洗っていない美沙の秘肉から立ち昇るザワークラウトの芳香に、悟は噎せ返った。 

「ふぅ、ぐぅふっ、ごほっ」

 美沙が少し腰を起こすと、ザワークラウトに、滅多にウォシュレットは使わないというアヌスから漏れる、ローヤルゼリーのような甘ったるい臭気が混じって、溜まらず涙が流れる。

「あら、もう限界なの?悟くんが辛いなら、シャワー浴びてきちゃおうかな」

「違う。辛くなんかない。僕、嬉しいから泣いてるんだ」

 二十五歳の美沙が投げかける挑戦的な言葉に対し、悟は抗うように言った。

 美沙より五歳下、大学二年生の悟は、女性の放つ生々しい雌の香りに強く惹かれる、臭いフェチである。

 一般に、男女ともに適度な体臭はフェロモンとなり、情欲を掻き立てられる素になるというが、悟の場合は、女性の蒸れた部分が、ノーマルの男が顔をしかめるほどの悪臭を放っていないと満足できない。

 女の子のおまんこ、腋嵩、菊門、足の裏、へその穴――女性の身体の「スイートスポット」は、臭ければ臭いほどいい。美人がクサイのはご褒美という悟にとって、悟とベッドに入る日に備えて、二日間も入浴を我慢してきてくれる美沙は、女神以上の存在であった。

「美沙さんが僕のために、一生懸命、女の人の大事な部分、汚してきてくれた。頑張って、くさくさの、えっちなにおいにしてきてくれた。僕、それがとっても嬉しいんだ」

 自身の言葉を裏付けるように、今、悟の口腔内には、ノーマルの男が、一晩煮込んだビーフシチューの香りを嗅いだときのように、ジュクジュクと唾液が溢れている。

 悟は、汚らしい男である自分のエキスで、美しい女性の「スイートスポット」を台無しにしないよう、唾をすべて飲みこんでから、皮膚の老廃物、膣分泌液、糞尿、黄ばんだティッシュのカス、カッテージチーズのようなオリモノなどがビトビトこびり付いた美沙の赤黒い粘膜に、顔面をダイブさせた。

「そうよ・・・大変だったのよ。お風呂に入らないのは二日前からだけど、それよりも前からぁっ・・・、お風呂に入るときにはおむつを履いて、おまんことお尻がキレイにならないようにしてたんだから・・・ぁっ。トイレに入るとき、自分で自分のおまんこの臭いを嗅いでッ・・、食べたもの戻しそうになったこともあったのよっ・・うぅんっ・・・」

 密林地帯をかき分けた先にあるクレバスを、上下に往復させるように舌を這わせる悟の舌技に、美沙は可愛く哭いた。

 女性の汚れを味わうことに喜びを感じる悟は、女性器への口舌奉仕に、義務感を一切伴わない。反面、自分が味わうのが第一であるため、官能小説の主人公のように、クンニだけで女性をイカせるテクを会得しようという意識もない(まんこさえ臭ければ、相手がマグロであっても構わないのだ)。

 だが、女性を気持ち良くさせることは、次に自分と会うとき、もっとおまんこを臭くしてこようと、乗り気になってもらえることに繋がる。ゆえに、単に犬のように舐めるのではなく、ツボをきっちり抑えた舐め方を実践することにやぶさかではなかった。

「ほぉぅん・・、いいっ、もちょっと、そこぉ」

 ザラついた舌の表ではなく、滑らかな舌の裏を使ってクリトリスの包皮を丁寧に剥き、転がすように舐めてやると、美沙の反応はますます上々になる。皮を被っていて、特に蒸れる部分を露出したときのニオイはザワークラウトを超え、キャベツの千切りをポリバケツ一杯に詰めて、二、三日放置したときのようである。

 あなたのおまんこの臭いは、まるで生ごみのようだ――悟にとって、女性への最大級の賛辞である。

「あぁおいしぃ。美沙さんが熟成させてくれたジュクジュクおまんこ、何日も洗わなかっただけあって、いいおダシが利いてて、すっごく美味しいよ」

 ニオイをたっぷり嗅いで、嗅覚が麻痺し始めたところで、舌を使い始める。

 当然ながら、舐めれば臭いは落ちてしまうが、悟は美沙のおまんこの臭いと同じくらい、美沙のおまんこを舐めたときに感じる、東南アジア原産の檳榔を噛んだときのようなピリリとした刺激が大好きである。

 また、好きな女性の大事なところで育った雑菌や、皮膚の老廃物を己の身体に取り入れられるということには、女性そのものを食べているような、得も言われぬ幸せを感じる。  

 嗅ぐことも舐めることも、悟にはけして欠くことのできない、大切なパズルのピースなのだ。

「僕、美沙さんのおまんこの臭い大好き。汗と、オリモノとオシッコの臭いと、色々と混じって、とってもえっちな臭い。初めて嗅いだときからずっと、この臭いに病みつき。おまんこだけじゃない。腋の方だって・・・」

 クンニリングスを中断した悟は、今度は、くびれがきれいについたスレンダーな美沙の肢体に覆いかぶさり、表皮のぬくもりと心臓の鼓動を頬に感じながら、男性並みに濃い被毛の生い茂る美沙の腋嵩に鼻を近づけた。

 毛深いお陰で特に蒸れやすいのか、汗のしずくが浮かぶ美沙の腋からは、ネギのようなツンとした臭いがする。

 電車の中で、帰宅途中の中年男から同じ臭いがしたときは殺意しか湧かないが、妙齢の女性の腋汗臭を嗅げば、心の中は至福でいっぱいに満たされる。

「悟くん、初めて会ったときから、変態だったもんねぇ。私のべっとべとのくさぁいおまんこ嗅いでちんちんビンビンにして、私のおしっこ浴びながら、私に赤ちゃん産ませるために出てくる白いの、ドッピュドピュ出しちゃったもんねぇ」

 まともな二十五歳の女性が聞けば卒倒しかねない卑猥な言葉を恥ずかし気もなく放つ美沙は、かつては風俗店で働いていた経験がある。

 一年前まで、悟と美沙は、東京西日暮里の風俗店、「ラブリースメル」の、風俗嬢と常連客という関係だった。

 「ラブリースメル」は、関東唯一の体臭専門店で、通常の風俗店とは異なり、シャワーを使うのは客だけで、女の子はプレイの前に一切、身体の手入れを行わない。

 建前上、女の子は皆、昼は一般の仕事をしており、一日の労働でしっぽりと汚れた女体を嗅いだり、舐めたりできるというのが、店のコンセプトである。

 美沙は現在は「ラブリースメル」を退店しているが、店で知り合った客の何人かには連絡先を教え、援助交際という形で、肉体関係を継続していた。

 援助交際は取り分が百パーセントになる分、リスクも大きいが、美沙が選んだ客は皆、「ラブリースメル」時代に美沙を何度も指名し、美沙から「変態紳士」としての信頼を掴んでいるということに誇りを持っている。故に、ラブリースメル時代同様、けして美沙が嫌がるプレイを強要したりはしないし、美沙と通常の男女交際を望んだりなどといった、邪な気も起こさない。

 四十、五十代の、社会的立場のある人物が大半を占める美沙の顧客の中では飛びぬけて若い悟に、美沙を独占したい気持ちがないわけではなかったが、今の関係を失わないため、距離感を見誤るようなことはしないように心がけていた。

「これまで、ラブリースメルで色々な女の人のクサイ臭いを嗅いできたけど、僕、美沙さんのニオイが一番大好き。こんなキレイな人から、こんなクサイ臭いがするなんて、たまらないよ」

「いいの。そんなこと言って。あの子、今おうちで頑張ってるんじゃない?暑い中、エアコンもつけず、靴も履きっぱなしで、悟くんに蒸れ蒸れのにおいを嗅がせようとしてるんじゃない?あの子、悟くんにザーメンいっぱい出させるために頑張ってるのに、今、私で出しちゃっていいの?」

 美沙の言うあの子とは、美沙の実妹にして、悟が個人契約で家庭教師を務める、奈緒のことである。

 奈緒は今年で十八歳だが、高校には通っていない。現在だけでなく、奈緒は小学二年生のころから不登校を続けているという、長期の引きこもり少女である。

 美沙と奈緒の両親は、三年前、交通事故により他界しており、以来、奈緒の養育は、七歳年上の姉である美沙に引き継がれた。

 美沙は奈緒を長年放置し続けていた両親とは違い、奈緒が社会に出て働くことを望んでいたが、十年間も学業を中断していた奈緒の学力は遅れに遅れており、早期の社会復帰は困難な状態だった。

 そこで美沙は、名門私立の安瀬田大に通う悟に目を付け、月に二回のプレイ料金を、ホテル代を除き全額カットするという条件で、奈緒の家庭教師につけた。

 意気揚々と授業を始めてみたが、悟はすぐに、自分が予想以上に困難な仕事を引き受けてしまったことを理解した。

 掛け算九九の暗唱も覚束ないという学力はまだいい。閉口したのは、掃除という概念が存在せず、部屋は荒れ放題で、食事はいつも犬食いで、箸もまともに使えないという、奈緒の生活力の無さである。

 一体、どうしてこんなになるまで放っておいたのかと、亡き美沙と奈緒の両親には、呆れに近い感情を抱いたことを、今でもよく覚えている。

 奈緒が社会復帰を目指すにあたっての問題は、学力よりもむしろ、著しい社会性の欠如にあるということがわかった悟は、家庭教師として勉強を教えるだけでなく、奈緒とお人形さんで遊んだり、一緒にお菓子を作って食べたりといったことにも、積極的に付き合った。

 奈緒を教えるのは個人契約という形で、一時間いくらと決めているわけでもなかったのだが、悟は一度奈緒のアパートを訪れると、利益度外視で、半日近くずっと居続けることもあった。

 悟が強引に居座っているわけではなく、奈緒が帰してくれないのである。

――奈緒、お兄たんのことだ~い好き。お兄たんと、ずっとずっと、一緒にいたい。

 両親に先立たれ、実姉は滅多に家に寄り付かず、同年代の友達との付き合いはもう十年近く途絶えていたという奈緒は、人の温もりに飢えていた。

 ある日突然、姉と一緒に現れた若い男を、最初は警戒していたが、家庭教師を始めてふた月も経ち、奈緒が分数の引き算に挑戦するころになると、すっかり悟に心を許し、実の兄のように甘えてくるようになった。

――お兄たん、奈緒ちゃんね、お兄たんが大好き。頭のいいところ、顔のかっこいいところ、身体の引き締まってるところ、全部が好き。お願いお兄たん、奈緒から離れないで。お兄たんと会うときだけが、奈緒の楽しみなの。

 出会ったころの奈緒は、姉の美沙に似てくっきりした目鼻立ちで、姉と同じやせ形だったが、バストは未成年にしてすでに九十の大台に達していた。

 女として、いよいよ花開こうとする十八歳と密室の中で過ごしていながら、「お兄たん」の地位で満足していられるほど、悟は聖人君子にはできていない。

 精神年齢が小学校低学年で止まっている奈緒とおままごとをする悟の手は、次第に太ももに伸びるようになり、ふんわりソフトなお腹を触るようになり、細身だがしっかりした量感のあるお尻を撫でるようになり、たぷたぷと揺れる巨乳を揉みしだくようになり、ついには女性の一番大事な部分にまで達した。

 奈緒の処女膜を突き破った悟は、破瓜の鮮血を舐めとりながら、学校の性教育も受けたことのない奈緒に、男と女が遺伝子を残すための行為に及ぶうえで、もっとも大事となる下準備について教え聞かせた。

――奈緒ちゃん、またお兄たんと、痛気持ちいい遊びがしたかったら、えっちの前日から、お風呂は我慢しなければいけないよ。女の子がお風呂を我慢すればするほど、男の子はえっちな気分になって、嬉しくなるんだよ。

 それからというもの、奈緒は悟が家庭教師に訪れる月曜日と木曜日の一日前から、風呂を我慢するだけでなく、夏場にエアコンの電源をオフにし、腋にはサランラップを巻きつけ、足には通気性の悪い軍用のコンバットブーツを履き、さらにはおむつも履いて、おまんこ、アヌスのにおいを強めるなど、人体の中でも特に汗腺の多い「スイートスポット」のにおいを強化する工夫を実践するようになった。

「た、確かに、奈緒ちゃんは頑張ってくれてると思う・・・こんな変態の僕を喜ばせるために、一生懸命頑張っていると思う・・・」

 自分を盲目的に慕う少女の処女を奪うだけでなく、アブノーマルな自分の性癖を押し付けていることに、罪悪感は一切ない。

 聖職者でもないくせに、弱みを晒して自分を縋る十代の少女を見て、獰猛な衝動を抑え込んでいられるようなら、それはもう男ではない、ただの偽善者だと思う。

「だけど、僕・・・奈緒ちゃんのことも好きだけど、美沙さんのことも好きなんだ・・・」

 悟が罪の意識を感じているとするなら、それは悟が奈緒を好き放題にしながら、姉の美沙との関係も切れずにいることしかない。

 アパートで引きこもり生活を送る奈緒とは違い、美沙は昼間、ネイルサロンに勤務する立派な社会人である。教養も一般常識もある。

 陽の光を浴びず、家に閉じこもっている女体と、外に出て働く健康的な女体とでは、その花のかぐわしさも、おのずと違ってくるというもの。

 皮肉だが、奈緒の家庭教師を務めていることで、ホテル代を持つだけで美沙を抱くことができている。普通の家庭教師と同じようにバイト代を受け取るという方法もあるが、悟は美沙との肉体関係を継続する方を選んだ。

「へぇ~、不思議ね。奈緒は悟くんにぞっこんで、私は悟くんを恋人としては見てないのに、私がいいの?奈緒の匂いを嗅ぐのはタダで、私の匂いを嗅ぐのはお金がかかるのに、私がいいの?」

 意地悪そうに言う美沙は、内心、妹の奈緒を疎ましく思っている。奈緒がいなくなればどんなにいいかと思っている。悟の口から、奈緒の悪口を引き出したいと思っている。

「・・・美沙さんがいい」 

「そっかぁ。悟くんは私がいいんだぁ・・。それってぇ、あの子があんなんだから?」

 美沙がさらに水を向けるのに取り合わず、悟は執拗なクンニリングスで、ほとんど臭いの消えかけた美沙の肉壺に、もう一度鼻先を埋めた。



 発達障害――知能指数自体は正常だが、脳の一部分の働きに難があり、社会生活、特に、周囲とのコミュニケーションに齟齬をきたす障害の持ち主をどう受け入れるかということが、現代社会における大きな課題となっている。

 奈緒はアスペルガーやADHDなど、様々な発達障害を複合的に抱えており、小学校低学年の時点で、すでに通常の学級活動に付いていけないレベルの、著しい不適合を露呈していた。

 小学一年生のころ、生き物に興味のあった奈緒は、校庭や通学路で、バッタやカマキリ、カタツムリといった昆虫を捕まえてきては、自分で教室に持ち込んだ虫籠に入れて観察していた。

 それだけならよかったのだが、奈緒は自分で捕まえてきた虫をロクに世話しようとしない。片っ端から餓死させていっては、死骸を片付けもせず、その上から新しく捕まえてきた昆虫を投入していくため、虫籠には昆虫の死骸が山と溢れ、常にコバエがタカっていた。

 見かねた心優しい友人が虫の世話を肩代わりするようになっても、奈緒はどこ吹く風で、ただ虫を捕まえ、虫籠の中に放り込んでいくだけで、飽きたらほっぽらかしである。

 とうとう、堪忍袋の緒が切れたクラスメイトは、帰りの会の席で、奈緒を名指しして糾弾した。

――なおちゃん、いいかげんにしなよ!虫さんをつかまえてくるなら、せきにんもって、さいごまでめんどう見なよ!

――そうだそうだ!なおちゃんは、自分かってだ!なおちゃん、みんなにあやまれ!
 
 奈緒はその場では泣きじゃくり、教室に持ってきた虫籠を撤去して、昆虫採集もやめたようだが、美沙によれば、奈緒はけして心から反省したわけではなく、家の中では、奈緒は悪いことをしていないのに、クラスのみんなにイジメられたと、いつまでもグチグチと言っていたようである。

 自分が持ってきた昆虫の世話をせず、人任せにしていた。そのせいで、自分が今までどんなに人に迷惑をかけていたかということがわからない。本当にわからないのである。自分がどうして、みんなから責められなければいけないのかがわからず、ただ理不尽に、心を傷つけられたという被害者意識だけが残ってしまう。

 他人の気持ちを想像できない。それは彼女が生まれついての「悪人」というわけではなく、彼女の脳の構造の問題なのだが、それが教育者に気付かれずに見過ごされ、自己責任の枠内で、劣等生の烙印を押されてしまっている例は多い。

 よしんば気付いたとしても、物事に飽きっぽく、我欲旺盛な発達障害のキャリアを机に座らせ、みんなと同じように授業を受けさようとするには、並々ならぬ意志が必要となる。

 裏山でライターをいたずらし、ボヤ騒ぎを起こす。学校で飼っていたチャボをみんな逃がしてしまう。池に建っていた石像を倒して沈める。大事な持ち物を忘れる。授業中に教室から忽然といなくなる。

 昆虫の件以外にも、数々の問題を起こした奈緒は、とうとう小学校二年生のときから、不登校になってしまった。

 いけなかったのは、共に五十を過ぎており、発達障害への理解も薄く、子育てに使える体力も限られていた奈緒の両親が、奈緒を無理に学校に行かせようとはせず、むしろ引きこもりを容認したことだった。
 
――あの子は、どこか普通と違う。このままだと、我々はあの子ばかりに気を取られて、美沙のことがおろそかになってしまうかもしれない。どうにか美沙だけでもまともに育ってくれるよう、あの子はずっと家の中に置いた方がいいんじゃないか。

 二兎を追う者は一兎をも得ず――何かと問題を引き起こす奈緒の対応に追われていたら、十五歳と、まだまだ難しい時期の美沙の方がほったらかしになり、結果、大事な子供を二人とも、社会不適応者にしてしまうかもしれない。美沙だけでも親元をちゃんと巣立たせるするためには、奈緒を諦めなくてはならないというのが、美沙と奈緒の両親が出した、倒錯した結論だった。

 両親の望み通り、美沙は大学を無事に卒業し、ネイルサロンへの就職も決まったが、両親は美沙のその後を見守ることなく、三年前に事故で早逝してしまった。

 まだ遊びたい盛りの年齢で頼りの綱を失い、奈緒を任された美沙の苦労は、並大抵のものではなかった。

 生活費は両親の残した遺産や生命保険で賄うことができたが、家の中で、ずっと甘やかされて育った奈緒が、度々発作のように癇癪を起こし、美沙に当たり散らすのには閉口した。奈緒の家庭内暴力は男子のそれにも匹敵し、美沙に痣を負わせることもあった。

 それよりなにより、美沙が特に悩まされたのは、奈緒の殺生癖であった。

 性的サディズム――思春期を迎えた奈緒は、暴走する性欲を、自慰ではなく、夜な夜な外を出歩いては、野良猫や公園の池を泳ぐカルガモを捕まえ、ナイフで身体を切り裂いて殺すことで満たすようになっていたのである。

――大変言いにくいのですが、この子はいずれ人を殺します。

 診断を依頼した精神科医からそう言い渡され、眠れない日々を過ごしていた美沙は、苦肉の策で、奈緒に男の味を覚えさせることを思いついた。

 性欲自体が強いのなら、性の対象を別に向けることによって、奇行が収まるかもしれないという単純な考えだが、奈緒の場合は、それがピタリとはまった。悟と出会い、男に抱かれる喜びを覚えた奈緒は、以後、動物を無暗に殺害することをやめ、仏壇も作って供養もするようになったのである。

 悟と出会って、奈緒は変わった。何もかもがいい方向に変わったと、美沙は感謝の弁を述べてくれる。悟自身は、ただただ、タダ同然の条件で、浅ましい欲望を満たしているだけとしか思っていないのだが・・・。



「悟くんを紹介した私が言うのもなんだけど、あの子の無知をいいことに、あの子を自分の好きなように改造した悟くんもワルい子だよね」

 返す言葉がなかった。

 家庭教師の仕事を引き受ける際、美沙からは、奈緒と肉体関係を持っても構わないとは言われていた。実際に奈緒の暮らしぶりを見るにつけ、おそらくそっちの方こそが、美沙が悟と奈緒を引き合わせた真の目的であったのだともわかった。

 とはいえ・・。

「そ、そうだよね。いくら美沙さん公認の仲といっても、僕が訪問する前日から、お風呂に入るのを禁止して、家にいるときはずっと、常に紙おむつを着用させたりするのは、やりすぎだよね」

「おむつだけじゃないでしょう。悟くん、奈緒の足にも、通気性の悪い軍用のコンバットブーツを履かせてるし、腋にも、サランラップを巻き付けさせて、蒸れ蒸れの状態をキープさせてるじゃない。あれ、見てるこっちも痒くなりそう。女の子の恋心に付け込んであんな酷いことさせるなんて、悟くんは悪魔よ」

 悪魔のような男――まったくもって、美沙の言う通りである。

 奈緒は、この世でただ一人、自分を思ってくれる悟のためならなんでもする。暑い夏の最中、エアコンもつけず、外気から遮断された「スイートスポット」の発する痒みを我慢して自分を待ってくれる奈緒の我慢強さには、まったく頭が下がる。  

 頭が下がる・・・のだが、悟は、奈緒と同じ穴から生まれた美沙と会うことも、やはりやめることができない。

「美沙さん好きだ・・・好きだ好きだ好きだ!」

 一度、好意を抱いた女性に対する悟の思いは、女性を蒸れさせる夏の日差しよりもなお熱い。

 焼けこげるような思いがどうしても抑えられなくて、明日、奈緒を教える予定が入っているにも関わらず、悟は美沙とのプレイを所望してしまった。 

「美沙さん。美沙さん美沙さん美沙さん」

 ほんのりと薄紅を浮かべる華奢な身体を抱き抱え、スレンダーなわりに大きく、形もいいお椀型の乳房をふにふにと揉むと、自分の手の内にあるか弱いものを、ふと破壊してしまいたくなる。この人を永遠に閉じ込めて、僕だけのものにしたい。

 男の狂暴な情動は、危険を察知する雌の本能に肌を通して伝わるのか、美沙は天使のほほ笑みを浮かべると、品のいい唇を無理やり奪おうとする悟をやり過ごすように、軽く悟の頬にキスをした。

「そろそろ、フィニッシュしよっか」

 悟を仰向けに寝かせると、美沙は悟の顔面に跨り、ザワークラウトおまんこを、悟の鼻と口にスタンプした。愛する女性の体重を受け止められる幸せに恍惚となり、悟は、つい先ほど頭をよぎった危険な情動をすっかり忘れ去る。

「うっ・・・うっうっ」

 美沙の一番くさいところを嗅ぎながら熱棒を扱かれる快感に、悟はうめいた。 

 美沙との関係も、かれこれ一年を超えるが、悟はいまだに、美沙とは本番もないどころか、フェラチオも素股も、ディープキスさえも受けたことがない。

 体臭専門店であるラブリースメルでは、女性のニオイを嗅がせるというところには徹底的にこだわる反面、通常のヘルスプレイはなく、フィニッシュは顔面騎乗を受けながらの手コキのみと相場が決まっているが、それは美沙と愛人関係に発展してからも継続していた。

 いま、悟の目に見えているのは、紫がかったセクシーな菊門だが、竿が潰れる強めのタッチで握りしめ、ハイピッチで皮を上下動させる美沙の表情が、至極事務的なものであるだろうことはわかる。

 ラブリースメルで客とオキニの嬢の関係だったころと同様、美沙が悟に臭いを嗅がせてくれるのは仕事。奈緒の家庭教師を務める見返りに、欲望を処理してもらっているに過ぎない。

 だが、それでもよかった。焦がれて焦がれぬいている女性を抱くのに、自分を愛してほしいなどという高望みをしてはいけない。

「美沙さん、おしっこお願い」

 悟が頼むとすぐに、予め下にペットシーツを敷いておいた悟の顔面に、温かいものが、シャーッと降り注いだ。

 野菜系の強いにおいにアンモニアの刺激臭が加わり、悟の鼻孔の中で絶妙なハーモニーが奏でられる。口内を揺蕩う黄金色の液体は、極上の塩味。

「はぁぁ・・・おひっこ美味しい。美沙ひゃんのおひっこに、溺れたいよ」

 自分が立場を弁えれば――美沙を独占しようなどという邪な気を起こさなければ、愛する美沙のおしっこを飲み続けることができる。

 これで十分。ずっと、今のままでいい。

 僕が愛しすぎると、ロクなことがないから。

「ふっ・・・うっ!」

 悟は、十分にテイスティングした美沙のおしっこを嚥下すると同時に、昨日からオナニーを我慢して溜め込んでいたものを噴火させた。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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