第四章 一途な思い 熟成肉布団に包まれて


「それじゃお母さん、行ってきまーす」 

「はーい、いってらっしゃい」

 高校二年生の息子、翔を部活に送り出した平林真理恵は、自らも工場に働きに出るための支度を始めた。

 シャワーで軽く寝汗を流し、先日買ったばかりの下着を身に着ける。・・・が、ブラのホックが妙にかけづらく、パンティを履くと、ゴムの上から尻の割れ目が覗いてしまい、真理恵はショックを受けた。

「やだ。また太ったのかしら」

 発育のピークとなる中学生の頃に、すでに九十センチを超えていたバストは、成人を迎えてからも年々大きくなり、四十歳を過ぎて、とうとう警察を呼びだすときの番号と同じサイズにまで達していた。

 胸が大きくなるだけならよかったのだが、厄介なことに、腰回りにも、むっちりとした脂肪が乗ってしまった。

 床に座れば、まるで鏡餅のように、下腹がぽっこりと膨れ上がる。それでもまだ、クビレがかろうじてついているのが救いだが、雑誌の読者モデルなどにもスカウトされていた若い頃のスタイルとは程遠い。年々、みっともなくなる身体に、真理恵は羞恥と劣等感を覚えていた。

「もう、時間がないのに・・・」

 しかし、身体を動かす仕事で、タイトな下着を身に着けていれば、皮膚に擦れて炎症を起こしてしまいかねない。

 急いで履きならしたものに着替え、真理恵は出勤の途へとついた。 

「ひい、ひい・・・。この上り坂がキツクて・・・・」 

 毎日、ママチャリを一生懸命に漕いで、工場へと向かう。でも、痩せない。

「あぁ・・しんどい・・・」

 工場に着いた真理恵は、節々が痛む身体に鞭を打って、ライン作業で黙々と手足を動かす。だけど燃えない、脂肪。

(でも・・・こんな余分な肉だらけの身体が好きって人も、結構いるらしいのよねぇ・・・)

 BMI指数二十五を数える真理恵の豊満ボディ。特に、作業中、こぼれ落ちんばかりに揺れる一一〇センチバストに、工場で働く好色な男たちの淫らな視線が注がれていることに、真理恵は困惑気味である。

 いくらこれがいいのだと言われても、自分の中では、このこびり付いた脂肪はコンプレックスでしかない上に、息子の翔が四歳のときに夫と別れて以来、真理恵は息子のためだけに生きると決め、それからずっと、潤いを拒絶した暮らしを送っている。

 女の性欲は四十代でピークを迎えるなどといった俗説もあるらしいが、真理恵にはまったく当てはまらないようで、ここ数年は、自分の指で慰めることもしていない。 

 ただただ、身体が重く、疲れやすい。一日の労働と家事を終えると、ぐったりして何もできなくなるのに、このうえセックスなど、考えられるはずもなかった。 

「う~・・・・いたたた」

「平林さん、大丈夫ですか」

 五時のチャイムが鳴った後、正社員の児玉愛が、女子トイレで腰を抑えながら呻いている真理恵に、心配そうに声をかけてきた。

 働いているラインは違うが、母子家庭で育ったという愛は、シングルマザーである真理恵のことを何かと気にかけてくれ、困ったことがあったらいつでも相談して欲しいと言ってくれている。

「うん、大丈夫。ちょっと疲れちゃっただけ。いつもありがとうね、愛ちゃん」

「大丈夫ならよかったです。来週から連休なんで、ゆっくり身体を休めてくださいね」

 愛はにこやかに言ったが、愛の口にした、連休、という言葉で、真理恵は逆に気分が重くなってしまった。

 稼働日数が減れば減っただけ、収入も減っていく。ボーナスも昇給もない非正規の派遣社員であり、食べ盛りの息子を養っている真理恵にとって、それは致命的な打撃なのである。

 息子の翔は高校二年。来年には、進学か就職かという決断を迫られる。

 中学の頃からバスケットボール一筋の翔は大学に進みたいようだが、進学となれば、今でさえギリギリの家計に、さらなる負担がのしかかる。

(卒業と同時に、愛ちゃんと同じように、工場関係にでも就職してくれれば・・・。ううん、そんなこと考えちゃダメ。一番大事なのは、翔が何をやりたいかなんだから・・)

 脳裏に浮かぶ本音を必死に打ち消しながら、真理恵は日々、爪に火を点すような暮らしを送っていた。

「お、平林さん。お疲れ様です」

 重い足取りで工場の廊下を歩いていると、同じフロアの派遣社員、間島慎吾が、スキップするような足取りで、真理恵を追い越していった。

 最近、妙に上機嫌な慎吾。以前、飲みに誘われたときに、すげなく断ってしまったのが少し心に咎めていたが、あれから彼女でも出来たのだとすれば、こちらも一安心である。

 ともかく一週間、大きな失敗もなく、無事に勤め上げることができた。

 土日を挟んで、あと、もう一週間働けば、九日間は心身をゆっくり休められる。金銭の不安は、それからゆっくり考えればいい。

 ひとつ大きく息をついて、女子ロッカー室に入ろうとしたところで――。

「平林さん」

 よく通る爽やかな若い男の声に、真理恵は呼び止められた。

 若菜尊。真理恵の作業するラインでリーダーを務めている、二十五歳の男性社員である。


「なにか・・?」

「なにかって。今日は、僕に答えを聞かせてくれる日じゃないですか」

 少年のように輝く尊の目が、この上もなく鬱陶しく感じられる。真理恵は尊を無視して女子ロッカー室に入り、着替えをして靴を履き替え、従業員通用口を出た。

「うわっ」

 駐輪所に向かおうとしたとき、通用口の扉の前に立っていた、ノースリーブのシャツにチノパン姿の尊が突然近寄ってきたのに驚いて、真理恵は思わず声を上げてしまった。

「平林さん、どうして無視するのですか。約束してくれたはずです。夏季休暇の一週間前までには、返事を聞かせてくれるはずだと」  

「だから、それは・・。ていうか、近い・・」

 恋愛関係にない男女のパーソナルスペースといわれる一・五メートルの距離に平然と侵入し、百八十センチを超える長身から真理恵を見下ろしてくる、十九歳下のラインリーダー、若菜尊。

 彼から、今いる従業員通用口の前で愛の告白を受けたのは今から一か月前のことであるが、真理恵はここ十年の間、息子のこと以外で、あれほど驚き慌て、そして困ったことはなかった。

――平林さん。僕はあなたが好きだ。あなたを愛している。あなたが苦しんでいるところを、これ以上見ていられない。僕はあなたを救いたい。僕にあなたを、守らせてください。
 
(なんて、みんなの見ている前で、いきなり言われても・・・)

 中学生や高校生ではないのである。大人の男であれば、まずは軽く食事にでも誘うなどしてから、相手への好意を伝えるのが普通だと思うのだが、尊は何の脈絡もなく、それこそ初心な十代の少年のように、突然、こうして通用口の前で突然真理恵を呼び止め、目を輝かせながら告白してきたのである。

(この子まだ諦めてなかったの・・。どんだけ空気読めないのよ・・・)

 工場の従業員がまだ通っている横で、大きな声で、愛してる、など言われ、あのとき真理恵は、えらく恥ずかしい思いをした。

 おまけに、なぜかこちらを下に見ているような言い方が癪に障る。おそらく、本人に悪気はないのだろうが、特に親しくしているわけでもないのに、真理恵が苦しんでいるなどと、勝手に決めつけるように言われて、いい気のするものではない。

 それでも、正社員のラインリーダーである以前に、二十五歳の青年である尊を傷つけてはいけない。

 ひとまず返事を先延ばしにし、その後、毎日接する中で、言外に、こちらが向こうを何とも思っていないということを匂わせる。

 真理恵はそんな形で、尊に拒絶の意を伝えようとしていたのだが、当の本人にはまるで通じておらず、健気にも真理恵の返事を、真理恵が適当に約束した日まで待ち続けていたというのである。
(しょうがないわね・・・・)

 真理恵はひとつ、大きなため息をついて、はるか頭上にある尊の顔を見上げた。

「若菜さん。あなたは正社員で、私は派遣社員。しかも、十九も歳の離れたオバサンなのよ。わたしはあなたの運命の相手じゃない。あなたにはきっと、もっと若い、素敵な女の子との出会いが待ってる。だから、今まで通りの関係でいましょう」

 これ以上、回りくどいやり方は、かえって逆効果になると判断した真理恵は、キッパリと拒絶して、尊の望みを断ち切った。

「それじゃ、私帰って、お夕飯の支度しなくちゃいけないから。お疲れ様」

 一礼して、駐輪場に向かおうとすると――。

「平林さん。ずっと思っていましたが、あなたたち派遣社員の女性は、幸せの成り方がとても下手くそだ」 

 失礼ともいえる言葉で、尊が真理恵の足を止めさせた。

「あなたたち、派遣社員の女性はみんなそうだ。いつも自ら苦労を抱え込み、重荷を肩代わりして歩こうとする人間を寄せ付けない。おまけに考え方が、常に後ろ向きだ」

 尊が、女にフラれた直後とはとても思えない、傲然と胸を張った姿で言い切った。

「失礼なこと言わないで。私は前向きに生きてます。いまの暮らしだって、十分幸せだと思ってるから」

 さすがにムッとして、真理恵は強い口調で言い返したが、十九歳下の尊に、まったく怯む様子はない。

「前向きという言葉の使い方を、あなたたちは根本的に間違っている。工夫したり、努力したり、誰かの力を借りたりして、今の状況を良くしてこれから幸せになろうとするのではなく、いまの状況を無理やり幸せだと思い込むことに力を注ぎ込んでいる。でもそれじゃ、ジリ貧になっていくだけだ」

「・・あんたに何がわかんのよ。フラれた悔し紛れに、お説教なんてやめてくれる。もう、今のであなたは、完全に私の中で、有り得ない人になった。これ以上しつこくするなら、上の人に相談するから。それじゃ」

 年上の女に、失礼なことを――でも、妙に的を射たことを言ってくる男に、水でも引っ掛けてやりたい気分ではあるが、真理恵はグッと堪えた。無用なトラブルを起こして、仕事もそれほどキツくはなく、居心地のいい環境であるこの工場を追い出されたくなかった。

 踵を返し、真理恵は早足で去っていく。今度は、尊が呼び止めてくることはなかった。
  

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 部活を終えて帰ってきた翔と二人で食事を済ませ、先にシャワーを浴び、洗い物を片付けようとすると、シンクはすでにキレイになっていた。

「洗い物、やっといてくれたんだ」

「うん。お母さん、疲れてると思って」

「ありがとね」

 高校でバスケ部に所属している翔は、テレビのバラエティ番組を観ながら、バスケットボールを指先でクルクルやっている。なんでも、バスケは習慣のスポーツといって、ボールに触っていた時間が、そのままスキルの向上に繋がるのだそうだ。

 別れた夫は怠惰で働かなかったが、スポーツ好きで、地元のフットサルチームの練習だけは休まず熱心に通っていた。その血を引いたのであろう。

 好きなことだけでも打ち込んで、脇道に逸れることさえなければそれでいい・・と思っていたのだが、近頃の翔は、家の手伝いも積極的に協力してくれ、学業の成績も向上しているようである。

 翔の意識改革は、真理恵にとってはもちろん嬉しいことだが、少し不安もあった。家の手伝いをするようになったのとほぼ同時期から、翔が家でスマホを弄り、LINEで誰かと会話をしている場面をよく見るようになったからである。

 毎日顔を合わせる学校の友達であれば、家でそこまでコミュニケーションを取る必要はないはずだから、おそらく、彼のLINEの相手は、普段会う機会のない人物・・・。

(学校の外で、彼女でもできたのかしら)

 翔の年頃であれば珍しいことではないし、子離れできない母親のように、息子のプライバシーに干渉しようとも思わない。だが、もしも相手を妊娠させるようなことがあったら・・。

 金銭の不安。行き着く先は、やはりそれに尽きるのである。

(考えちゃだめ、考えちゃ。考えるとどうしても、マイナスの方に行っちゃうから)

 頭にかかった靄のようなものを振り払いながら、ドライヤーで髪の毛を乾かしていると、玄関のチャイムが鳴った。翔はトイレに入っているようである。仕方なく、髪を半分濡らしたまま玄関に出ると、扉の向こうには、驚くべき人物が立っていた。

「・・・若菜さん、どうしたの」

「こんばんは。夜分にすみません。翔くんと、1on1の練習をする約束をしていたんです」

 帰り際に言い争いをしたことなどケロッと忘れたような顔で、Tシャツの上に、翔が好きなNBA選手、ステフィン・カリーのジャージーを着た尊が言った。

「あ。尊さん。ごめんごめん、今出るよ」

「え、ちょ・・・ちょっと待ちなさい、翔」

 さっきまでの制服姿から、Tシャツとハーフパンツ姿に着替え、バスケットボールを片手に出て行こうとする翔を、真理恵が呼び止めた。

「翔。若菜さんと、いつお知り合いになったの」

「二か月くらい前だよ。近所のコートで一人で練習してたら、尊さんが声かけてくれて、1on1で使える技とか、色々教えてくれたんだ」

「その・・・。若菜さんが、お母さんが働いてる会社の社員さんだってことは、知ってるの?」

「もちろんだよ。尊さんいつも、お母さんのこと褒めてたぜ。明るくて、真面目によく働いてくれる、ラインに欠かせない存在だって」

 翔の言葉に、笑顔で頷く尊。たしかに、尊は百八十センチを超すスラッとした体型で、手足も長く、いかにもバスケットマンといった風情ではあるが、しかし、まさか翔と仲良しになっていたとは。

 おそらく、翔が最近しきりにLINEで会話していた相手も、尊だったのだろう。

 正直、こんなことになるなら、まだ、彼女でもできていた方が良かった。

「もう遅いじゃない。こんな夜中に、バスケットの練習なんかしなくていいでしょ」

 ここで止めたところで、翔と尊の仲が断ち切れるわけでもないが、それでも真理恵は、翔が外に行こうとするのを邪魔せずにはいられなかった。

「やっと代替わりして、レギュラーになれたんだ。ポジションを確保するために、少しでも技を増やしておかないと」

「ダメ。ねえお願い、行かないで。近頃は物騒な事件も増えてるし、お母さん心配なのよ」

 真理恵が眉尻を下げていうと、翔が下を向いて坊主頭を掻いた。 

「翔。お母さんの言うことはもっともだ。すみません、真理恵さん。もう帰ります。お邪魔しました」

 尊が素直に謝って踵を返し、アパートの前に止められた車に歩いていくのを見て、真理恵はホッと、豊かな胸を撫ぜた。

「ちょっと待って。だったら尊さん、うち上がりなよ。ゲームとかさ、一緒にやろうぜ」

「え・・・・」

 想定外の事態の連続に、真理恵はとうとう、言葉を失ってしまった。

「ねえいいでしょお母さん。尊さん、めっちゃいい人なんだぜ。バスケは滅茶上手いし、兄貴みたいで、何でも相談できるんだ。毎日働いてくれてるお母さんのために、家事を少し手伝ったらどうだ、て言ってくれたのも、尊さんなんだぜ」

「そ、そうだったの・・」

 アパートと車の間にいる尊が、照れたように頬をかいている。

「ねえいいでしょ、お母さん」

「・・・そうね、せっかく来てもらったんだし・・。あんまり遅くならなければ・・」

 自分に邪な思いを抱いている上に、ついさっき、トラブルになりかけた尊を家にあげることに、抵抗がないはずはない。

 しかし、純粋に、友達を思う翔の顔を見ていると、尊を無碍に追い返すこともできなくなる。それに、尊が真理恵の家事を手伝うよう翔にアドバイスをしたことを、告白の際に、自分の手柄として恩着せがましく言ってこなかったことには好感を持った。

 どうやら、外堀を埋められてしまったようである。

 本丸まで侵入を許すかどうかはともかく、今晩、うちで遊ぶのは許可しなければならないようだった。

「おっ。ちくしょ、うわーっ。またやられたぁ。尊さん、ゲームも強いんだなぁ」

「翔は正面から行き過ぎるんだよ。バスケでもそうだ。もっとフェイクを混ぜるとか、味方をうまく使ったり、工夫しないと、強い相手には通用しないぞ」

 襖で隔てられた翔の部屋から、翔と尊が楽しそうに遊ぶ声が耳に入ってくる。

 二十五歳の大人が高校生とあれほどいい関係を築くのは、言うほど易いことではない。

 ちょっと女心に疎いだけで、尊はそんなに悪い子ではないのかもしれない・・。

 そんな風に考えているうちに、ウトウトしてきてしまった。今すぐにでも自分の寝室に入って眠りに落ちたいが、尊が帰ってからでないと、安心して布団に入ることはできない・・・。

 しかし、一週間の疲労には抗えず、真理恵はテーブルに突っ伏したまま、夢の世界に旅立ってしまった。

               
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 ハッと気づいたとき、真理恵の目に飛び込んできたのは、テーブルの前に立ち、冷たい顔で真理恵を見下ろす尊の姿だった。

「翔・・翔、どこ?翔」

 反射的に、真理恵は息子の名を連呼したが、開け放たれた襖の向こうに、翔の姿はないようだった。

「翔くんは、一人で練習に行きました」

 小鳥を狙う猫のような目で見下ろす長身の尊が、唇をほとんど動かさずに言った。

「どうして、あなたはここにいるの」

「翔くんにお願いしたんです。今後のことで、真理恵さんと二人きりで話させてほしいって」

「・・・・翔は知ってるの?その・・・あなたが私に、そういう感情を持っているってこと」

「はい。隠し事はできない性格ですから。翔くんにはもう、ちゃんと言ってあります」

 真理恵の問いに、表情をほとんど動かすことなく答える尊。 

(困ったわね・・。本当に困った・・・)

 尊はおそらく、自分が翔の父親となれば、大学に進学し、バスケを続けられるようになる。真理恵をその気にさせるために、真理恵とじっくり話し合わさせてくれ、などと言って、狭い家の中で、真理恵と二人きりになる機会を作ったのだろう。

 そうなったのは、翔に将来の不安を抱かせてしまう、真理恵の不甲斐なさの所以もある。だからといって、ここで二人きりになったところで、どうなるというものでもない。

 世の中には、ムリなものはムリ、ということがある。どんな状況で、どのように迫られようが、たとえ弱みを突かれようが、一度ムリだと思った男に、女がコロッと惚れることなどはない。

「あのね若菜さん。私は・・・」

「真理恵さん・・僕、真理恵さんが好き。死ぬほど滅茶苦茶、大好きなんです」

 真理恵が言うのを遮って、尊がズイと歩み寄りながら、己の思いを吐露した。

(下の名前・・・)

 もう何度も、頭の中では、そう呼んでいたのだろう。しかし、内心、嫌悪感を抱いている相手に、親がつけてくれた名前を呼ばれるのは、不快でしかなかった。

「な。なに・・・」

 白目に浮かぶ血管がはっきり見える距離にまで近寄ってきた尊が、椅子に腰かける真理恵の脇を抱えて、無理やりに引き起こしてきた。

「ちょっと。何するの。やめてよ」

 どうやら、事態を甘く見ていたらしい。

 尊は話し合いのためなどに、翔を言い包めて、部屋で真理恵と二人きりになったのではなかった。
 どんな状況で迫られようが、ムリなものはムリ。そんなことは、尊は百も承知だった。

 尊は無理を承知のうえで、真理恵を無理やり犯そうとしているのだ。

「なに、ちょっと。やめて、若菜さん、やめてよ」

 真理恵の心を掴むことは諦めて、真理恵の肉体だけを貪ろうとする尊は、無理やり引き起こした真理恵を、いつの間にか真理恵の寝室に敷いてあった、真理恵の布団に押し倒してきた。細身なのに、物凄い力である。

「ちょっと。いや。やめて。どうしてこんなことするの」

「真理恵さん・・僕もう、たまらないんです」

 真理恵に体重をかけて圧し掛かり、抵抗を許さない尊が、鼻にかかるような声で言ってきた。

「・・・・なにが?」

「その肩に貼られたピップエレキバン、腰に貼られたシップ・・・ああ、いいニオイだ・・」

 尊の口から飛び出た言葉に、真理恵の意識が宇宙に飛んだようになる。 

「・・・どこが?」

「美魔女というフレーズもある通り、世の中では、若作りした熟女を持てはやす風潮が強いです。でも、僕はそうじゃない。僕は熟女が熟女らしく、身体にガタが来て、衰えているところに、性的な魅力を感じるんです。その点、真理恵さんは最高だ。美人だけど、年相応にシワや弛みも目立つ顔。垂れたでかおっぱい。腰回りにムッチリついた脂身。作業中、節々の痛みに苦しんでいる姿。ときどき、ゥ、とか呻いちゃうところ。すべてが僕にとって、理想の女性なんです・・・」

 尊の語る、倒錯した性的嗜好に、真理恵は青ざめた。

 絶対に抱かれたくない男に、まったく理解できない理由で好かれ、身体に纏わりつかれる。 その苦痛は、千匹のゴキブリに一斉に襲い掛かられるのに等しい。真理恵は、自分にのしかかる尊の身体を跳ね除けようと、必死に抵抗した。

「やめて、やめて若菜さん。ねえ、どうしてこんなことするの。こんなことして・・どうなるか、わかってるの?」

「・・・だって僕は、こうすることでしか、愛する人とセックスすることができないから」 

 獰猛な欲求を開放して襲い掛かる青年が、ふいに寂しげな顔を浮かべたのに、真理恵はドキッとなった。

「恥を忍んで打ち明けますが、僕は風俗以外で、女性の経験がありません。これまでに、好きな人にフラれた回数は六度。真理恵さんと同じ、派遣の女性に恋したこともあります。そのときはストーカー扱いされて、上司から厳重注意を受けてしまいました」

 気付けば、尊の独白に、じっと耳を傾けていた。なぜか、聞かなければいけないような気がしていた。

 真理恵の抵抗する力が弱まったのを見て、尊も真理恵に体重をかけて圧し掛かるのをやめ、添い寝をするような形になった。

「相手の女性に迷惑をかけてしまったことは反省しています。だけど、僕はいったい、どうしたらいいんだろう。好きになった女性とセックスする手段が、犯罪しかない。そんな男もいるのかもしれない。それが僕だったとわかったとき、もう何もかもどうでもよくなりました。ここまで女性に相手にされない人生だったら、何もないのと一緒だ。仕事を真面目に頑張るのもバカらしくなる。もう、全部なくなったっていい。真理恵さんとセックスできるなら、会社なんかクビになったっていいし、刑務所に入ったって構わない」

 尊の悩みは、青年期の男なら誰しも一度は抱える悩みだと思う。だが、六人にフラれるというのは、ちょっと不運もあるのかもしれないし、それなりに動いて、二十五歳になっても彼女ができないというのは、ちょっと可哀想な気もする。

 尊は恋愛だけではなく、仕事の場面でも、一本気すぎる性格が災いして派遣の作業者とトラブルを起こし、リーダーを更迭されかけたことがあった。

 尊は今どき珍しいくらい真面目で一途な青年だが、反面、相手への思いやりに欠けるところがあり、確かにこういうタイプは、「空気を読む」ことが、人間関係でもっとも重要なスキルとされる今の世の中では、うまく恋愛ができないのかもしれない。

 真理恵の若いころに比べ、いまはハラスメントだなんだと、色々うるさい世の中になった。社内恋愛も、随分とやりづらくなっているのだろう。現代は、根が真面目であればあるほど、恋愛面では受難となる時代なのかもしれない。

 もし、息子の翔が、将来、同じ思いをすることになったら・・。

 そのように思うと、なんだか、この不器用な青年のことを、とても不憫に感じるようになってしまった。 
「・・・翔は、何時に帰ってくるの」

「十一時までと、約束してます」

「あと一時間か・・・いいよ、若菜さん」

「え・・・?」

「今晩だけ、私の身体、好きにしていいよ。今晩だけね」

 失うものが何もないと思っている人間は、脅しには屈しない。この場を安全に切り抜ける手段は、彼に大人しく精を吐き出させ、雄の獰猛を静めてやるしかないと、真理恵は冷静に判断した。

「あぁ。ありがとうございます。うわぁ、うれしいなぁ」

 真理恵の許可が下りると、尊はさっそく、寝間着代わりの黒のTシャツに包まれた巨乳にむしゃぶりついてきた。

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァァァ」

 異常に荒い息をつき、真理恵の全身をまさぐるようにしてくる尊。速く済ませて欲しいとの思いから、真理恵は自ら、Tシャツとブラを脱ぎ去り、トップレスになった。

「お、お、お・・・。ま、真理恵さん。ちょ、ちょっと、座ってもらっていいですか」

 いう通りにすると、尊は何を思ったか、川原美都や松井瑠璃を超えてフロアでもっとも大きい、どんぶり型の一一〇センチバストをスルーして、コットンパンツのゴムにこんもりと乗ったお腹の肉を揉みしだいてきた。

「ちょっと・・そんなとこ揉んで・・・」

「これがいいんですよ・・。ああ、スタイルのいい若い女なんかよりずっといい、熟女の脂肪・・。ふわァ、はぁ・・・・・」

 尊は動いても落ちないカロリーが蓄えられた真理恵の熟腹を、軽く摘まんでみたり、ズブズブと指を埋め込んでみたり、段を作ってみたりして、変幻自在の柔肉を愉しんでいる。

 内心、コンプレックスでしかない所を褒められても、嬉しい気はしない。触られる肉を、ぶっつりと切り離してしまいたかった。

「お・・・・ぱい・・・ぱい・・・」

 真理恵のお腹に跡ができるほど揉みしだいて、尊の手はようやく、巨大なババロアのような胸へと伸びてきた。

 尊に指摘された通り、真理恵の熟乳はブラの固定から解き放たれた途端、重力に負けてダルンと下を向いてしまっている。

 若い女のような、瑞々しい張りはない。しかし、崩れて落ちてしまいそうに柔らかい。

「おぉ・・・ほォ・・・。すごい。凄いとしか言いようがないです・・・真理恵さん」

「・・・・・」

 禁治産者ではあるが、セックスはうまかった夫と別れて以来、十数年ぶりに男の手に触られた乳肉が、ゾッとする快美の電流を脳に送ってくる。

 尊の指先で、ラムレーズンのような乳首を摘ままれたとき、真理恵は波に打たれたような衝撃で、一瞬おかしくなりそうだった。

「はぁはぁ。どうですか真理恵さん。感じてくれてます?」

 尊が息を荒げて訊いてくるのに、真理恵は頷くのがやっとだった。

「お、おしり。次、お尻のかたち、よく見せてもらっていいですか」

 尊に、小脇を抱えられるようにして立ち上がった真理恵は、スウェットと生活感のあるベージュのパンティを脱ぎ、熟尻をぶるんと丸出しにした。

「うぉぉ・・・。あのデッカイお尻は、こうなってたんですね・・。うほぉ。すごいボリュームだ。真理恵さん、あと二人くらい、赤ちゃん産めそうですよ」

 真理恵の尻は、さすがに二十代のときには及ばないまでも、胸に比べれば下垂しておらず、密かに自信を持っていたポイントだった。

 自信のある部位ならば、褒められて悪い気はしない。真理恵は少し、尊にサービス心が湧いてきた。

「うおォ・・・ぷりぷりぷりィ・・・・・・」

 真理恵が突き出した腰を左右に振ってやると、興奮した尊が、双臀の果肉をもぎ取ろうとするように掴み、揉みし抱いてきた。

「ハァ、ハァ・・・僕もう、たまらない・・」

 尊が尻から手を放し、服を脱いで、生まれたままの姿となる。

 あばら骨が浮き、腹筋がブロックのように浮き出た、無駄肉の一切が伺えない身体。麻縄のような腕、跳躍力を生み出す下腿三頭筋がスペードのマークのような形に盛り上がった、バスケットマンの脚。

 ただ細いのではなく、よく鍛え込まれた尊の肉体美は、思わず息をのむほどだった。

 こんな凄い身体の若い男に、だらしない身体のおばさんが求められていいのだろうか・・・。妙な戸惑いを感じながら、真理恵は尊が脱ぎ散らかした服を、丁寧に畳んでやった。ソープ嬢のように、時間を稼ごうとしているわけではないが、どうもそのままにはしておけなかった。

「おお・・・ぉぉおまんこぉ・・・・・」

 服を畳んでから、自分から布団の上に仰向けになって股を開いてやると、尊が感動で声を打ち震わせた。

 翔を海やプールに連れて行くことがなくなってから、一度も手入れをしていないアンダーヘアは濃く、敏感な箇所を、深い密林で覆っている。大陰唇が土手のように盛り上がったモリマンである。
「な、舐めてみていいですか・・」

 真理恵がコクッと頷くと、熟女ならではの剛毛に守られた秘苑に、尊が涎をズルズルと垂らしながらむしゃぶりついてきた。

「あぁ。生卵みたいなニオイがします。すごくイヤらしいニオイ。おっ、あ・・あぁ、美味しい。真理恵さんのお蜜、とっても美味しいです・・・」

 歳とともに酸化して、青春の思い出のようなセピア色に染まった肉ビラを、尊が遠慮がちにチロチロと舌で撫ぜてくると、長年、地下で蓄えられていた深層水が、少しずつ湧き出してくる。

 ピンポイントを責めるのではなく、浅い部分を舌全体を使って舐めてくる尊の愛撫は、技巧こそないものの丹念で、真理恵の毛深い秘苑は数分ほどで、スコールの降り注いだジャングルのように湿潤となっていった。

「あの、真理恵さん・・。すみません、僕のもお願いできますか・・・」

 クンニリングスをやめた尊が裸になり、Mの字型に股を開いて、七分勃ちくらいになったものを突き出してきた。

 普段は包皮を被っているらしい尊の亀頭はキレイな紅玉で、ピザのような、強い肉蒸れの臭気を放っている。

 真理恵はウェーブのかかった髪をかき上げて、尊の男臭いものを咥えこんだ。

 刺激に強い根元を指でガッガと扱きつつ、敏感な粘膜を舌腹でクックッと撫ぜるフェラで、尊のものは、あっという間に大きく膨れ上がっていく。

「はっ・・あぁぁ・・いい、いいです・・・真理恵さんのお口の中、とってもあったかくて、最高にすごくたまらないです・・・」

 ゆとり世代の尊が、少ないボキャブラリを総動員して自分の感動を伝えようとするのに、真理恵は子宮がズクッと疼くのを覚えた。

 十九歳下の不器用な青年を、母性が受け入れようとしている。

 グポッグポッと大げさに音を立てて吸いながら、幹に適度に歯を立て、亀頭を喉奥で叩くハードなフェラを繰り出すと、尊は両足をピクピクと震わせ、顎をガクガクとさせた。

「くあぁぁっ、くっ、クッ、あぁダメ。いっいぐっ、お、お、おぉっ」

 四十四歳のバキュームフェラに、若雄が暴発してしまった。

「うっ、ぐっ、あぁ・・・・・」

 次々と撃ち込まれるアルカリの豪弾が喉を焼き、男の粘り気が口の中を満たしていく。

 不快ではあったが、いま放してしまうと、部屋中を精液で汚されてしまいそうだったので、真理恵は無限に続くのではないかと思うほどの射精を、すべて口の中で受け止めてやった。

「あ、ぁ、あぁ・・・・真理恵さん・・・すみません・・・」

 白濁の嵐が静まり、硬度を失ったものが、口からスルッと抜けていく。

「けっ。かはっ」

 ティッシュに吐き出した、お猪口がいっぱいになりそうな量の精液は、木工用ボンド並みに色が濃く、眼球の裏にツンとくる雄汁の臭気を放っていた。

 台所で口をゆすぎ、戻ってきてから、唾液と精液で汚れた尊の先っぽも、ティッシュで拭き取ってやった。

「すみません。でも・・。真理恵さん、すご・・。すごかったです」

 尊は滝のような汗をかき、荒く息をついて、しばらく射精の余韻に浸っていた。

 少し休憩したら、仕切り直しの一番を挑んでくるかと身構えていたのだが、意外にも尊は、種を放ったものが包皮にすっぽり覆い隠れるまでサイズダウンすると、ハーフパンツを履いて、そそくさと立ち上がってしまった。

「・・・今日は、こんなことになって、すみませんでした。それだけのことはしたのだから、すべてを失う覚悟はできています。どんな結果になっても、大人しく受け入れるつもりです。本当にすみませんでした・・・・失礼します」

 尊はすっかり恐縮した様子で、タオルケットで豊満な身体を覆う真理恵に、深く一礼すると、逃げるように帰ってしまった。

 性欲旺盛な二十五歳が、フェラだけで満足したわけではないだろう。欲望に一区切りがついたところで、罪の意識に苛まれるようになってしまったのだ。

 なぜか、申し訳ないような気がしながら、真理恵は洗面所にいって、イソジンを使い切るくらいうがいし、今晩二度目の熱いシャワーも浴びて、尊の残滓をすべて洗い流した。

 もう一度布団に入ったころで、息子の翔が帰ってきた。眠っているフリをした。

 別れた夫に仕込まれたテクのお陰で、操を守ることができた。しかし、どういうわけか、安堵の気持ちはなかった。

 尊の愛撫を受けた秘苑の、その奥の子宮が、疼いたままになっているのだ。

 なぜ、若い子種を受け止めさせてくれなかったのかと、文句を言うように。


                        4


 尊が再び家にやってきたのは、それから四日後の火曜日、翔がバスケット部の合宿に出かけた日のことだった。

「すみません。僕は断ったんですが、翔くんが、どうしてもって聞かなくて・・・」

 昨日のこと。真理恵は家に上げた派遣の同僚、高野に、犯される寸前だったところを、帰宅した翔に助けられた。

 四歳下の高野は、それまでずっと、真理恵を姉さんと呼んで慕っており、職場で毛嫌いされている高野のことを不憫に思っていた真理恵は、警察に被害届を出すことはしなかった。

 高野はあれから職場に姿を見せず、携帯に連絡もない。今現在、彼が真理恵にどういった感情を抱いているのか、まったくわからないという状況である。

 そこで、翔は尊に、車で真理恵の送り迎えをするのと、翔が合宿の期間中は、家に泊まって、真理恵のボディーガードをしてくれるようにと依頼をしていたのだった。

「あの・・この前のお詫びも兼ねて、これ、受け取ってもらえないでしょうか・・・」

 尊から手渡された封筒には、現金五万円が入っていた。

 今回、翔を合宿に行かせるにも、多額のお金がかかっている。工場の夏季休暇期間中、日雇いのアルバイトでもしようかと思っていた真理恵は、尊から渡された金を、黙って受け取った。

「それにしても、大変でしたね。まさか、高野さんが・・・。いや、まあ、そんな雰囲気はありましたけど・・でもまさか・・・・」

 今も鮮明に残る、忌まわしい記憶――。


 悲劇の始まりは、例によって仕事からの帰り際、フロアから玄関に続く長い廊下を、重い足取りで歩いていたときのこと。
 後ろから追いついてきた高野に、突然声をかけられた。

――平林の姉さん。俺、前に、料理が得意だって言いましたよね?姉さんに今日、手料理を振舞わせてくださいよ。ねえいいでしょ? 

 大きなシミの浮かんだTシャツに、穴の開いたジャージズボン。女性を誘うには、あまりにも似つかわしくない恰好。しかし、苦労の多い人生を歩んできた真理恵は、多少のアラには寛容である。頑張ってもうまくできない人に、理解もあるつもりである。

 尊とあんなことがあったばかりで、男と二人きりの空間で過ごすのに、抵抗はあった。

 しかし、職場で忌み嫌われ、かつては懇意にしていた後藤たちのグループからも近頃はハブられて、居場所がまったくなくなっている高野が、構ってほしい子犬のような目をして纏わりついてくるのを、無碍に追い払うこともできなかった。

 七時も過ぎれば、翔が部活から帰ってくる。それまでの時間だけやり過ごせば、変なことにはならないだろうと、真理恵は自宅に高野を招き入れることにした。

――姉さん。前にも言いましたけど、俺、副業で月に百万円は稼いでるんですよ。ちぃっと、ヤバい仕事なんで、詳細は話せないですけどね。それと、友達は百人もいて、今日も本当は友達と飲むはずだったんですけど、姉さんが俺の料理食いたいって言ってたのが気になってて、姉さんの方を優先させたんです。

 やけにパサパサした、炒め物か何かのような料理を口からまき散らしながら、恩着せがましいことを言ってくる高野。

 本当に月に百万円も稼いでいるのなら、そもそもこんな手取り十五万弱の派遣の仕事などやらないし、工場で誰からも相手にされない嫌われ者の高野に、友達が百人もいるはずはない。

 派遣の世界に虚言癖の持ち主は大勢いるが、ここまで誰が聞いてもわかる嘘をつく重症患者は珍しい。高野が、心を深く病んでいるのは明白だった。

 できることなら、あまり関わり合いにはなりたくないのが本音だったが、就職氷河期世代の真理恵は、自分と同じ、世の中が若者にウェルカムでなかった時代に社会に出ることを余技なくされた世代の派遣社員を、どうしても邪険に扱うことができない。

 若いころから、優しすぎる性格が災いして、ダメ男の依存の対象になりやすかった。

 息子の翔が出来てからは、彼の存在が防波堤になってくれたお陰で、男っ気に悩まされることはなかったのだが、翔が独り立ちできる年齢になってから、また何人もの男から声をかけられるようになった。

 まるで散り際に最も美しく咲く花に、食欲旺盛な虫たちが集まってくるように・・。

――ねえ、ところで、川原さんとはどうなの?もうすぐ夏季休暇だけど、何か進展はあった?
 
 調味料で誤魔化しながら、高野の作った料理を口に入れつつ、真理恵が何気なく訊くと、高野は急に神妙な面持ちとなり、箸を止めて押し黙ってしまった。

 高野が、ラインリーダーである川原美都に好意を持っているということは、以前、本人の口から聞いていた。

 内心、望みの薄い恋路だとは思いながらも、心を病んだ高野が、少しでも生きる希望を持ってくれればと思って、真理恵は高野を応援するようなことを言い続けていたのだが、もしや本当にその気になって、美都に思いの丈を伝え、そして玉砕してしまったのだろうか。

 張りつめた空気が、アパートの中に充満していた。

――お、お、おれが好きになると、み、み、みんな俺を嫌いになる。こ、こんなんじゃ、お、おれの人生、あんまりじゃないか。

 口から食べもののカスをまき散らしながら、突然高野が叫んだのに、真理恵は驚いて身を竦ませた。

 常日頃、虚飾で己を覆い隠そうとする高野が、初めて自ら弱みを垣間見せ、本音を口にしている。高野の川原美都への恋はそれほど真剣であり、川原美都に交際を断られたことは、彼にとって、それほどショックが大きかったのだろう。

――う、う、うーっ、う、う、うーっ。
 
 目を釣り上がらせ、肩をいからせて、言葉にならない声をあげながら、高野が真理恵ににじり寄ってきた。逃げ出そうとしたが、逃げ出せなかった。

 心にもないことを言って、川原美都への気持ちを盛り上がらせてしまった自分にも、責任があったのかもしれない・・。

 根が自罰的に出来ている真理恵は、高野を大きな声で脅かすこともできず、ただ、豊満な身体を椅子の上で縮こまらせ、恐怖に身を震わせることしかできなかった。

――ウッウッウッ、ウッウッウッ。

 引き付けを起こしたような声を出しながら、高野が座っている真理恵の乳房をTシャツ越しにまさぐり、秋の路上に散らばる銀杏のような臭いのする口を、真理恵の顔に近づけてきた。

――ねえ、高野くんやめて。こんなことよそう。ね。お願い。落ち着いて・・。

 真理恵が押しのけようとするのも構わず、高野は真理恵に接近しながら、穴の開いた紫のジャージと黄ばんだブリーフを脱ぎ捨てた。露出した怒張から、腐敗して虫のたかった魚介の臭いが、ぶわっ、と広がった。

――ひ、平林の姉さん、ヤラせてくれよぉ、なぁいいだろう。お、おれこのまんまじゃ、死んでも死にきれねえ。このままじゃおれの人生、なんだったんだってなる。

 下半身を露出した後になってから、ようやく高野が、自分の希望を口にした。

――おれ好きだよ。おれ、ちょい前までは川原のことが好きだったけど、いまは平林の姉さんのことが好きだからさあ。なあ、だからおれの女になってくれよ。おれと付き合ってくれよぉ。

 張り出したエラの下に、薄黄色の恥垢がびっちりと付着した汚棒を振りたくり、臭くて粘っこい唾を、高野の胸に腕を突っ張る真理恵の頬に飛ばしてくる高野。

 細く、釣り上がった瞼から覗く、ドロリと濁り、腐って落ちてきそうな眼。落ちくぼみ、野球選手がデーゲームで炭をぬっているように黒ずんだ眼窩。土気色になった肌。

 まるで死人のような顔をした男が、生殖のための器官を怒らせている姿は、悍ましいという言葉だけで表現できるものではなかった。

――てんめぇっ、何やってんだよっ。

 間一髪のところで、部活から帰ってきた翔が、不潔な陰茎を露出して真理恵に襲い掛かろうとする高野を、いきなり殴り飛ばした。

 尊と同じ百八十センチ以上ある翔に顔面を殴打され、冷蔵庫に後頭部を打ち付けて倒れた高野の腹に、翔がさらにつま先をめり込ませると、高野は「ごふ、がふ、ぐふぅ」と悲し気に呻いて、そのまま動けなくなった。

 翔が、足元までズボンをずり下げた高野の襟首を掴み上げ、粗大ごみを処理するように部屋の外に投げ捨てるのを、真理恵は怯えた目で見つめていた。
 

 短期間のうちに、二人の男から無理やり迫られた真理恵のショックは大きかったが、それでも、生活のために、働きに出なくてはならない。まだ火曜日だというのに、地獄のような疲労感だった。

 ギリギリのところで最悪の事態は免れたが、不安が尽きたわけではない。

 高野は真理恵の自宅と、通勤経路を知っている。待ち伏せに遭う危険を案じ、翔は自分が兄のように慕う尊に、朝夕の送り迎えを依頼した。尊がその三日前に、高野と全く同じ行為を働いていたことも知らずに・・・。

「はあ・・。お母さんの身の安否よりも、バスケットの練習か・・・」

 本音を言えば、真理恵は翔がバスケの合宿に行くのを諦め、家で真理恵の傍に寄り添っていてくれるのを期待していた。

 だが、翔は、他校との練習試合の機会に恵まれ、寝食をともにすることでチームの団結度も上がるこの機会を逃すわけにはいかないと、弱っている真理恵を置いて出て行ってしまった。

 息子が青春を謳歌しているのは、母としてもちろん嬉しいことである。しかし、寂しくないかといえば嘘になる。

「思春期の男の子は、そんなもんですよ。お母さんが嫌いなわけじゃなくて、いまはバスケのことで頭がいっぱいで、ほかのことまで気が回らなくなっちゃってるだけですから」

 尊にフォローされても、落胆の色は隠せない。心も体も泥のように疲れて、真理恵は仕事から帰ってから、まったく動けなかった。

「真理恵さん、お腹空いてません?なにか作りますよ」

「え・・?」

 食事の準備など任せて、申し訳ないという気持ちと、翔に頼まれたとはいえ、本当に泊まっていく気なのかと呆れる気持ち。

 しかし、尊が帰りに寄った近所のスーパーで買った材料を使って調理を始め、オイスターソースの芳ばしい香りが漂ってくると、少し気もほぐれ、若いボディーガードを受け入れようかという気にもなってくる。

「若菜さんは、休日は何をされてるの?」

 尊が作ってくれた、豚肉と青梗菜の入った焼きそばを啜りながら、真理恵は尊に、初めてプライベートの質問をした。

「普段は、アニメ鑑賞と筋トレですね。最近ハマってるのは・・・」

 好きなアニメとトレーニングの内容について語る尊の顔は、実に活き活きとしている。

 その話が、食事を終えた後も続く。

 三十分経っても続く。

 真理恵が相槌も打たなくなったのも構わず、延々と続く。

 真理恵の知らないアニメの、どんな人物やどんな展開が良くて、どれが悪いのかといった話や、どんな動きをするのかもわからないトレーニングの話をされても、真理恵はもちろん面白くない。

 彼はおそらく、真理恵が話を聞いていて面白くない、ということが、わかっていないのだろう。自己主張ばかりで、会話が一方通行にしかなっていないことに、本人が違和感を抱けないのだ。

(彼氏というより、息子がもう一人増えたと思えば、受け入れられるのかしら・・)

 本番行為こそなかったが、すでに一度、身体を許した相手である。

 愛撫を受けた秘苑の奥が、あれからずっと疼いている。

 悍ましい高野の下半身を見た後だからか、長身痩躯の若い身体が、いつもより美しく見える。

 まだ、少し当惑しているが、実のところ、それほど嫌悪感はなかった。

 いつ、襲ってくるだろうかと思いながら、洗濯ものを畳み、風呂に入り、寝間着を着て、ドライヤーをかけた。真理恵が床に就いたとき、尊は翔の部屋で、漫画本を読んでいた。

 電気を消して、何度か寝返りを打って、うつらうつらとし始めたところで、尊がとうとう布団に潜り込んできた。 

「ごめん、真理恵さん。僕、僕やっぱり、抑えられません」

 驚きもしない。真理恵は黙って服を脱ぎ、生まれたままの姿となって、布団の上に軽く股を広げて仰臥した。

 自らも全裸となった尊は、まず、重力に負けて、穴の開いた水袋のようにひしゃげた一一〇センチバストへとむしゃぶりついてきた。

 黒ずんで大きくなった経産婦の乳首を舌で転がしながら、指を吸い込む脂肪の傑作をやわやわと揉みほぐしてくる。

「ホゥ・・・ォ・・・」

 総身にチリチリと火の粉を浴びているような快感が降り注ぐ。尊が唇を離したときに、唾液のたっぷり塗された乳輪に、扇風機の風がそよと当たるのが心地良い。

 尊は真理恵の反応を確かめながら、ちゅー、ちゅぽん、ちゅー、ちゅぽん、と、おっぱいを吸っては離すことを繰り返し、乳肉が皿に落とされたプリンのように揺れるのを俯瞰して愉しんだ。

 おっぱいを十分に堪能すると、尊は次いで、麻縄のように引き締まった尊の二の腕とは正反対の、真理恵の丸々とした二の腕を、愛おしむように両手で掴んできた。

 男とは似ても似つかない、女の柔らかさを味わいつくそうとする尊にサービス心の沸いた真理恵は、乳房を自分の手で押し上げて、尊の顔面をギュッと挟んでやった。

「ハフッ、フワフワ、フワフワ」

 巨大ババロアに頬を挟まれながら、尊はぐっ、ぐっ、と、指に力を込めて、真理恵の左右の二の腕の肉にめり込ませてくる。尊より筋肉が少ないのに、尊の二倍は太いまるまる二の腕が、よほどお気に召したようである。

「ハフッ。ハッ」 

 ピッチングマシンからボールが押し出されてくるようにして、真理恵の巨大ババロアから脱出した尊は、真理恵のぽってりとしたセクシーな唇に、己の薄い唇を押し付けてきた。

 前歯を撫ぜてくる舌先を受け入れてやると、尊は四十四歳の唾液を貪るように、舌をネロネロと絡みつかせてくる。

「あん・・ちゅ、ねちゅ・・あふ・・・あゥ・・」

 ねっとりと甘い唾液が、上を向く真理恵の口に注がれる。口吸いしながら、尊の指は、コリコリに勃起した乳首を摘まんできて、真理恵の上体にまた火の粉の雨を降らせる。

「アー・・・・・」

 真理恵がたまらず艶声を漏らすと、尊に雄のスイッチが入り、下腹部に押し当てられたものが、熱と硬さをグンと増した。

「真理恵さん、僕もう・・」

 怒張がはち切れんばかりとなった尊が、受け入れ準備を整えるために、秘所へと顔を落としていく。

「真理恵さん・・。もう熟して、甘酸っぱい匂いがして・・」

 シャワーを浴びて、獣の生臭さを落とした後の秘部から漏れる花蜜の香りに、尊が鼻孔をヒクヒクさせた。

「シュブ、ズルルル・・。あア美味しい。すっごく・・たまらなくいいです・・・」

 尊の愛撫を初めて受けたときと同じ、滑らかで優しい舌ざわりが、女の下半身を蕩かしていく。

 尊の唇と、真理恵の粘膜と繊毛の擦れる音がして、さざ波が寄せては引いていくよう。女芯がジリジリと放電して、十数年間、一児の母として孤軍奮闘してきた真理恵の身体を女へと変異させていく。

「ハフハフ、真理恵さん、僕もう――」

 尊は鈴口からビルビル湧き出すカウパーを指で紅玉に塗りたくると、完熟したセピアの姫割れに先端を触れさせてきた。仮性包茎の柔らかい粘膜がラビアを撫ぜてくるだけでも、久々に男を味わう女体には心地良い。

 素人の女とするのはこれが初めてでも、ソープランドで槍の訓練は積んでいるのだろう。尊はあっさりと女の入り口を見つけ、ズッと一気に中ほどまで刺し込んできた。

「あっグッ・・」

 十数年ぶりに男の肉を受け入れる女の粘膜に、切り裂かれる痛みが走る。年のいった女が、十代の少女のような反応を見せたからか、尊が、この世でもっとも愛おしいものを見たかのように真理恵を見て、シャンプーの香りをさせる頭を撫ぜた。

 感触を確かめるように、尊がゆっくりと腰を動かしてくると、痛みの裏から快楽が漏れてきて、眠っていた牝のメモリーが再起動される。

「ア、ア、ア、アァ、あ・・。ぁああ・・」


 目を剥き、口を大きく開けて、真理恵が腹の底から漏れるような熟女の哭き方をした。

「いいです。とてもいい」

「なにが・・・・」

「その顔、目じりに寄ったシワ、深く刻まれたほうれい線・・。最高に素晴らしくて、とても興奮します」

 二十五歳が、ありったけの語彙を総動員して四十四歳を賛辞しようとするが、老化して衰えているところに魅力を感じるなどと言われても、素直に喜べるものではない。

「この肩のところに貼ってあるピップエレキバン・・これが大好きです。ああ・・。この生活感に溢れた感じ・・本当にたまらない」

 もどかしさが募る。

 どこか、変わった自分に酔っているところもあるのだろう。

 そうではないんだと伝えてやりたい。彼を変えられるのは、自分しかいないのだという使命感が、真理恵を突き動かす。

「ねえ若菜さん。若菜さんがそういうところを好きっていうのも、嘘じゃないんだと思うけど・・。でもね。そんな風に褒められても、女は嬉しくないのよ」

 真理恵に言われて、腹の上の尊が、しまったといった風に、表情を曇らせた。

「たった一言。可愛い、キレイだ、って、普通に褒めて。思ったことをそのまま口にするんじゃなくて、相手がどんな言葉を望んでいるのかを考えるの。いい」

 そのままにしておくと、腹に埋め込まれたモノまで萎えてしまいそうで、真理恵は間髪入れず、尊にアドバイスを送った。

「はい。真理恵さん、可愛い、キレイ・・」

「そう。よくできました・・」

 尊が、素直に真理恵の言うことを聞いてくれた。

 嬉しくて、真理恵は下から手を伸ばし、尊の頬を撫ぜた。

「あの、真理恵さん」

「なあに」

「すみません、激しく動かしてもいいですか」

「いいよ」

 真理恵の許可が下りると、尊は上体を起こし、真理恵のもも裏を抱え上げて、AV男優がするような体位で抽送し始めた。

「アウ、アウ、あんスゴイッ、オオゥ、ホ、ホ、ア」

 豆電球の淡い光の下に、長身痩躯の、ギリシャ彫刻のようなラインの刻まれた身体が浮かび上がっている。

「アン・・・若菜さんの身体凄い・・。肋骨も腹筋も浮き出て、ボクサーみたい」

「三か月くらい前は、こんなんじゃなかったんですよ。この日のために、糖質抜いて、節制して鍛えてきたんです。無駄肉をそぎ落とした身体で、豊満な真理恵さんを抱くのが、ずっと夢だった」

「アン。豊満なんて言って・・。こんな身体、恥ずかしいだけ」

「それがいいんです。アア、おっぱいだけじゃなく、お腹がこんなに波打って・・。これを味わったら、若い女の子になんて、なんの魅力も感じなくなってしまう・・」

 興奮した尊が激しく突いてきて、真理恵の下半身についた肉がドラムを奏でる。 

 若雄の腰使いに身を任せると、頭の天辺からつま先までビビ、ビ、と揺らされて、労働の辛苦も、何もかも吹き飛んでしまいそう。

「こども・・。子供欲しいです。真理恵さんに、子供産ませたい」

 腹上で躍動する、無駄肉の一切がそぎ落とされた二十代が、照れたように言った。

「なに言うの・・。私、もう四十四歳よ。子供産むなんて、命がけになっちゃう・・」

「だからいいんです。体力のある若い女じゃなくて、衰えて、節々の痛みに悩む高齢の女の人に、過酷な出産を強いるのが、たまらなくいいんです」

 なかなかに、恐ろしいことを口にする。

 初心にも見えるが、これまで女が好きなのに、女に好かれなかった尊は屈折している。

 金属の歪みは叩けば直るが、歪んだ人を治すのは、愛情しかない。

 この子を変えてあげられるのは、自分しかいない。


「ア、ア、アウゥ、オホ、そんなふうに突かれるとダメなのっ、オホ、ダメ、イン、イッちゃうのぉっ」

 諦めずに何度もトライしてきて、外堀から埋められて、とうとう貫かれた。若い雄が、一途に自分を求める姿を見て、牝が蘇ってしまった。 

 真理恵は一流のピアニストが鍵盤を叩くように、繊細な襞をクッ、クッと動かして、男茎を絞りにかかった。

「あっ凄いっ・・・。なんて神秘的な動きなんだろう。イソギンチャクみたいなのが、一斉に纏わりついてきて、アッそんな風にされたら、アーー」

 男なんてもうコリゴリだと思ったのに、こんな風に気持ちよくされると、向こうも気持ちよくしなきゃと思ってしまう。

「アン、ア、ア、オホ、ォォッ、ォォォッ」

 熟女の艶声を出しながら、キツク歯を食いしばった顔を右に左に振って、ポチャポチャの水袋のような熟肉をブルブルと揺らし、媚肉を収斂させる。

「おーー、こども、こども、こども作るの出るっ、僕と真理恵さんの、こ、こども・・・・」

 腹腔内に埋め込まれた雁首がグアッと持ち上がり、雄茎が射精のモーションに入るのと同時に、牝のミットがグーッと持ち上がって、剛球を受け止める体勢に入る。

「ハムゥフンヌッ」

 どれだけ溜めたらこれほど出るのかというザーメンの大噴火が、牝の受け止め口に、ドーーッと襲い掛かってくる。

「オ!オ!オン!オンンンッ!」

 子種を、奥へ、より奥へと注ぎこもうとするように、一発一発の射精に合わせ、尊がズン、ズン、と、雄の器官を深く突き込んでくる。

「アフ、ア。オ―――――」

 真理恵が成人を迎えようかというころにようやく産まれてきたような若い男の子種を孕むなんて、そんなの許されるのかという思い。


「アン・・・ァ・・・ァ・・・」
 若雄の暴力的な熱さの前に、すべてが溶けていく。

「ア、ゥ」

 抜け際に、傘が襞を引っ掻いていく快感とともに、塩素のような雄汁の臭気が、フッと立ち昇る。
 倒れ込むようにして真理恵の脇にうつ伏せになった尊の背中はビタビタに汗まみれになって、体力のすべてを注ぎ込んでくれたのがわかる。

「はあ。頑張ったね」
「・・・はい」

 真理恵に精液と愛液の残滓を拭われながら、尊がやり遂げたような表情を浮かべた。

 初めは有り得ないと思っていた十九歳も下の男の身体が、今はなくてはならないもののように見える。

 妙なことになってしまったと思うし、まだ戸惑いもある。でも、なるようにしかならないのだと思う。
 濡れた身体を、扇風機のそよ風が撫ぜる。

 お互いのポテンシャルを高めあった若雄と熟牝は、やがて明日もある労働に備え、微睡みに落ちていった。

 

                       5

 
 夜が明け、快楽を貪る獣の雄と牝から、人間社会で労働力として消費される男と女に戻った尊と真理恵は、昨晩の熱い交じり合いが嘘だったかのように、単調な日常に埋もれていく。

 命を鉋で削っているかのような、消耗と辛苦に塗れた八時間。しかし、それをストレスという名の快楽玉を胎内に埋め込み、雄肉の獣撃によって爆発させるための下準備と捉える考え方もある。

「よいこらしょっと」

 真理恵が重いラックを持ち上げると同時にあげた、おばさんぽい掛け声を耳にした尊がハッと目を輝かせ、ベルトの下が盛り上がっていく。それを見た真理恵も、淫水がじゅうッと湧き出して、帰った後の肉のランデブーに思いを馳せる。

(妙なことになっちゃったけど、でも・・。たった一晩で、最初からこうなる運命だったかのように馴染んでいて・・)

 もう彼なしの暮らしが、考えられない。

 適当な時間で残業を切り上げた二人は、車に乗って、若雄と熟牝の寝屋へと帰っていった。

「真理恵さん、僕もう・・」

 玄関のドアを閉めるや、尊はもう真理恵の肉体を求めてきた。

「はいはい。お兄ちゃん頑張ったから、抱っこしてあげる」

 服をあっという間に脱ぎ去って、一糸まとわぬ姿となり、男を熟肉で包み込む。

「あーこれがいい・・・。ムニュムニュして、汗ばんでて、すっごく気持ちがいい・・」

 スフレのような柔肉を優しく揉まれ、真理恵はゾッと襲い掛かる快美に身をくねらせる。

「ああ・・・すごい。働いた後だと、火照ってて、熱さがヤバい・・」



 熟肉を堪能した尊が、労働の汗がじっとり湧いた密林地帯へと侵攻してくる。 

「若菜さんやめて。そこ、汚いから」

「真理恵さんに、汚いところなんてありません・・・。いや、汚いところだからこそ、舐めたい」

「だめだって。だめ・・ア・・もう・オォ・・・・ア」

 生卵のような獣肉の臭気を平気で嗅ぎ、舐めてくる若雄に、艶声で応える。

「今度は、私の番ね」

 牝蜜をたっぷり付けてテラテラと光る口にキスをしてから、真理恵は女の子の座り方で、尊のMの字に開脚された股の奥へと進んでいく。


「ああ・・こんなに立派になって。男の人って、疲れるとこっちは元気になるんでしょう?尊さんが頑張って働いた証拠ね」

 興奮して屹立したものは、ウワッとした肉蒸れの不浄な臭いを放っているが、なぜかそれが牝の興奮を掻き立てる。

「すいません。臭いますよね」  

「ぐぷ、じゅぽ、かぷっ。いいの。私が全部キレイにしてあげるから」

 包皮をずるっと下まで剥いて、中に溜まった汚れを舐めとり、働かない元夫にはなかった男の濃い味を堪能する。

「かぽっ、ねろっ、じゅぷ」

 こんな私の面倒を見てくれてありがとうという感謝の気持ちを込め、十九歳下の上司が勃たせたものを舐めしゃぶる。

「ちゅぶっ、ごぷっ、ぬぽっ」

 肉包みをグムグムと揉みたてながら、他の何を口に入れても再現できない淫猥な音を立て、疲れマラを口腔で弄ぶ。

「真理恵さん。ああ真理恵さん、あ真理恵さん、真理恵さん、僕・・」

 尊の足がピンと張り、ガクガクと震え出した。初めてのとき、暴発してしまったのを思い出して、真理恵は口の奉仕を中断する。

「待って。ここじゃ痛いから、お布団の方でしましょう」

 玄関で真理恵を押し倒そうとする尊に、淫らに蕩けた声で頼むと、尊は真理恵の両足を揃え持ち上げ、サラブレッドのような両足に渾身の力を籠める。

 身長は尊より二十五センチほど低いけど、体重は尊より少し重い真理恵。

 針金のような細い身体のどこにそんなパワーがあるのか、真理恵をお姫様抱っこで抱え上げた尊は、昨晩から敷きっぱなしの布団に真理恵を寝かせ、いきなり砲身を突き込んでくる。

 柔肉のみっちり詰まった両足を持ち上げ、上体を完全に起こし、九十度の角度から女体を俯瞰する、性感よりも視覚を重視した体位。

 高速かつ規則的なメトロノームの動きで熟女を突くと、淫猥なラップ音とともに、乳房とお腹がぶるぶると波打ち揺れて、若雄の昂りに拍車をかける。

「ア、ア、ア、アォォ、アォォ、アォォ、アォォ」

 目に見える限りでは、ただ荒ぶる雄に攻められているだけのようだが、熟女の腹腔内では一流のピアニストが鍵盤を叩くような繊細な媚肉の収斂が起こっており、剛棒からの放精を助けようとしている。

「うっ、うー、ゥ、ウーッ」

 頂点に達した尊が、骨盤を破壊するような突貫を与えてくると同時に、焼けただれるかと思うほど熱いものが、子宮リングの中に注ぎ込まれていく。

 メスイキのタイミングを自在にコントロールする往時の勘を取り戻した真理恵は、尊の到達に合わせて自らも極彩色の世界へと昇りつめ、四肢に快美の痺れを味わう。

 腹腔のプールを瑞々しい雄のエキスで満たす仕事を終えた尊は、羽毛よりも柔らかい熟成肉布団に包まれ、しばしの休息を取ったのち、バスルームで真理恵と二人、労働と性交の汗を流す。

 ボディソープでよく洗い、獣臭さを取った熟肉から、風呂場の熱気と湿気で滲み出た汗の甘い香りが立ち昇る。散り際の花が放つフェロモンを嗅いで、若雄がもう蘇る。

「あんっ・・・こんなとこで」


 尊が隆々と反り返った赤銅色の雄剣を真理恵の太ももの付け根に押し当て、後ろから埋めようとしてくる。

「ここがいいです。ここだからいい」

「しょうがないわね、お兄ちゃんは・・」

 真理恵はバスタブの淵に手を突き、尻を突き出した格好になると、おそうじ液を滲ませる先端をそっと握って、秘苑に導いてやった。

「ア、ア、アン。アァァッ、アッ」

「あア・・おっぱいとお腹が揺れてるのもいいけど、お尻もいいですねぇ・・」

 立ちバックの体勢で後ろから抽送されると、桃の双臀がぷりぷりと弾み、尊の目を愉しませる。
「あん・・・そんなとこ、揉んできて・・・」

 背中の見える体勢で雄の動きをしながら、尊は身長よりも長い百九十センチ以上あるウィングスパンを活かして、熟胸に生った大乳を揉みしだいてくる。

「はぁ、はぁぁっ、真理恵さんっ、真理恵っ」

 尊が豊腹にしがみ付き、くの字に折り重なるようにして打ち付けてくると、足の突っ張りが利かなくなるほど電気の波が送り込まれて、熟女の肢体から恍惚のフェロモンがぶわっと飛び散る。

 狭いバスルームは、甘酸っぱい真理恵の蜜の匂いでいっぱいになっていた。

「ハグゥ、グッ、グーーッ」

 豊穣の女神のような双臀をスタンプするフィニッシュのピストンは、一流NBA選手の破壊的なペネトレイトを思わせるスピードとパワーに溢れていて、強い雄の種を孕みたいと願う牝の本能を痺れさせた。

「いっぱい動いたから、お腹空いたでしょ。沢山あるかあら、お代わりしてね」

 風呂から上がったあとは、真理恵の作ったカレーライスを、二人で食べる。

 翔と同じ旺盛な食欲。本当に、彼氏というより、息子が一人増えたかのようである。


 セックスで爆発させたエネルギーを補給すると、二人ともすぐ睡魔に襲われて、叩いても起きないくらい深い眠りに落ちる。

 翌朝、真理恵を起こしたのは、携帯のアラームではなく、臀部に押し付けられる不穏な肉の温もり。

「真理恵さんごめん・・。こんなんなっちゃってて・・」

「んん・・・しょうがないわね・・あっ。ツゥ・・・・」

 半分眠りながら仰向けで股を開き、十分に潤っていない秘部で、生理現象で隆々としたものを受け入れてやると、目覚めたばかりの牝粘膜に鋭い痛みが走る。

 節々の痛みに悩む熟女がヴァージンのような反応を見せるのがたまらなく好きな尊は、それでもうこの人を一生守っていかなくちゃという気持ちになり、ベーゼの雨を降らせながら、若勃起をズンズンと撃ち込んでくる。

「はぁはぁ・・。朝も、晩も・・。こんなにやってたら、ほんとに真理恵さんの中に、僕の赤ちゃんできちゃうかも・・」

「アン・・息子のような貴方と、赤ちゃん作るなんて、そんなの、許されるわけ・・・アッ」

「孕ませたいですっ。若くて体力のある女が腹を膨らませているところより、年相応に肌が劣化して、体型も緩んでしまった女性が大きなお腹を抱えているところの方が、ずっとエロティックでセクシーだ。そして産ませたいっ。若くて張りのあるおっぱいから出る母乳より、垂れたでかおっぱいからビュウビュウ飛び出す甘い母乳の方が、ずっとずっと、美味しいっ、はずっ、だっ・・・・」

 己の言葉で興奮した尊の腰使いはいつにも増して早く、力強く、熟肉が飛んで行ってしまうかと思うほど大きく揺らし、一晩で蓄えられた雄汁をどっぷりと打ち込んでくる。

 朝のまぐわいを済ませると、二十五歳の正社員と四十四歳の派遣社員は、生卵、山芋、おくら、納豆を混ぜたネバネバご飯の朝食で精を付け、一日の労働に耐えるエネルギーを充填してから、車で出勤する。

 だくだくの雄汁を膣内に溜めたまま行う、工場での作業。肩をグルグル回したり、腰をトントン叩いたりして節々の痛みを紛らわせ、よっこらせと声をあげながらラックを持ち上げるおばちゃんの膣内に溢れた若い尊の精液が、いままさにおばちゃんの卵とひっついて赤ちゃんになっているのかと思うと、恥知らずの液体が溢れ出してきて、ベージュのパンティを汚してしまう。

 早く仕事を終え、体脂肪率八パーセントのストイックに絞り抜かれた身体で、体脂肪率三十八パーセントのわがままな身体を突きまわされたい。


                       6


 労働の疲労を性の疲労で上書きする、若雄と熟牝の爛れた一週間。

 夏季休暇前の、最後の一日を迎えたときには、精を吐き出し続ける尊の目の下には隈ができ、どこかやつれたようになっていたが、若い精を注ぎ込まれ続ける真理恵の肌は、日に日に艶を帯びていた。

「は~、終わったぁ」

「休みだ~」

 金曜日。一週間を終えた労働者たちが、清々しい顔を浮かべながら、工場の廊下を歩いていく。
 いつもの場所で待ち合わせ、車に乗り込んだ真理恵と尊は、帰路につく途中、スーパーで食材を買い込んでいた。

 工場の近くのスーパー。二人を良く知る誰かに見られているかもしれないが、気にならない。むしろ、節々の痛みに悩み、燃えない脂肪に覆われた中年女が、十九歳下の男にこれほど愛されていることを、自分を知る者にアピールしたかった。

「真理恵さん。ちょっと僕、トイレに行ってくるんで、先に車で待っていてください」

「うん。わかった。ゆっくりね」

 車のキーと、尊の荷物を引き受けて、真理恵は先に駐車場へと出ていった。


(ああ・・今日で仕事も終わって、翔が帰ってくるまでのあと二日間、夢のひと時が始まるのね)

 これからのことを想像すると、両手に荷物を持っているのに、スキップするように足取りが軽くなってしまう。

 まず、部屋で、二人の流した労働の汗をたっぷり吸い合い、おっぱいとお腹の揺れを見せてから、今度はお風呂場でお尻の弾けるところを見せる。二回のセックスが終わったら、二人で選んだ食材でビーフシチューを作って食べ、すぐに眠る。翌朝、下腹部の疼きで目を覚ました尊に、半分寝ながら犯される。

 明日からは労働の八時間もなく、一日のすべてを、肉欲の交じり合いに費やすことができる。体力の許す限り、尊の精液を子宮で飲めるのである。

 心をウキウキさせながら、イグニッションキーのスイッチを押したとき、突然、視界に、悍ましい男の姿が入ってきた。

「高野くん、どうしたの・・・」

 偶然その場に居合わせたのか、真理恵の行動パターンを調べて待ち伏せしていたのか、車の陰からいきなり現れた高野が、あの日のように、真理恵ににじり寄ってくる。

「平林の姉さん。俺・・俺・・・・」

 真理恵を上目遣いで見ながら、背中を丸めておずおずと歩いてくる高野に、真理恵に危害を加えようとする様子は伺えない。だが、あの日の高野の死んだ魚の目と、それと矛盾するように隆々と反り勃ち、不浄の滓を床にぽとりと落としていた生殖器の記憶を思い出し、真理恵の表皮を、鳥肌が埋め尽くす。

「いや、いや、来ないで・・・」

 真理恵は後じさった拍子に、アスファルトに尻もちをついてしまった。

「きゃああああああああああああっ」

 高野が右手を差し出すのは、真理恵を引き起こそうとしているのだろうが、真理恵は赤潮の臭いをふんぷとまき散らす男根の記憶を思い出して、つい叫び声をあげてしまう。

 刹那、物凄いスピードで走ってきた尊が、高野に飛び蹴りを食らわせてふっ飛ばした。

「がふ、ぐふ、むぐう・・・・」

 隣の車にしたたかに背を打ち付け、悲し気に呻く高野に、尊が、愛する女を守ろうとする修羅の形相を落とす。

「真理恵さん。はやく、車に乗って」

 尊に言われて、起き上がった真理恵は、助手席に急いで乗り込んだ。

「違うんだよぉ、平林の姉さん。俺はただ一言、姉さんに謝りたくて・・」

 真理恵がドアを閉める間際、眉尻を落としながら、高野が声を悲痛に震わせて言った。

 高野が真理恵の前に現れたのは、やはり、真理恵に危害を加える目的ではなかったのだ。

「高野くん・・・・」

 捨てられた子犬のような目を向けてくる高野に、なにか言葉をかけてやろうとしたのだが、それより早く尊がドライバーズシートに乗り込んできて、車を発進させてしまった。

「真理恵さんの家は、もう危ないかもしれない。今晩は、僕の家に泊まりましょう」

 尊が、真理恵の家とは反対方向にステアリングを切る。

 スーパーからかなり車で走って、尊のアパートにたどり着いた。

「真理恵さん・・・真理恵さんが無事でよかった」

 玄関で靴を脱ぐや、真理恵を長い腕で抱きしめてきた尊は、その手をすぐに、真理恵のどんぶりおっぱいに伸ばしてくる。

「ちょっと、今日は・・・」

「真理恵さん、真理恵さん・・・」

 予想外のハプニングが起きても、若雄の獣欲は変わらない。むしろ、牝を奪い合う闘争本能を刺激されたからか、尊はいつにも増して昂っているようにも見える。

 説得しても収まらないと判断した真理恵は、脳裏にこびりついた高野の悲しそうな顔を打ち消して、尊が求めるまま一糸まとわぬ姿となり、玄関で裸体を絡め合った。

「うむ・・くちゅ・・きゅる・・むちゅ・・まむ・・ぷく・・・・ぽちゅ・・・」

 淫靡のBGMを奏で合いながら、互いの性の汚れを口腔掃除。包皮の中で雄肉が蒸れたプランクトンの香りと、膣内の自浄作用がよく働いている証拠の生卵の香りが、この上もない性のスパイス。
「は・・・ぐふっ」

 互いの性器を奉仕し合う恰好から、やがて尊の顔面に圧し掛かる体勢になった真理恵は、でか尻に思い切り体重をかけ、尊の鼻と口を押しつぶした。

「はぐっ、ふん、スー。ハーッ」

 ときどき真理恵が重尻をあげてやらなくては、尊は呼吸もできない。若い男の生殺与奪件を握っている支配感が心地よい。

 真理恵の繊細な指は、己の唾液を塗した熱棒に白魚のように絡みつき、包皮をクニュクニュと捲りながら紅玉を指紋で擦り、敏感な仮性を刺激する。鈴口から溢れるおそうじ汁が、精液のような白みを帯びてきた。

「あ、あ、あーっ」

 真理恵の体重を感じる快楽に屈服した尊がいつぞやのように暴発し、労働中に精製していたおたまじゃくしを、昇竜の如く吹き上げてきた。

 白竜はビルゥ、と天井付近まで飛びあがり、真理恵の膝のあたりに着弾してジェルを塗す。

白いロケット・ミサイルの発射はその後も断続的に続き、アパートの廊下を栗の花の香りで満たした。
「真理恵さん。ベッドで、続きを・・・」

 五分ほどの休憩で体力を回復した長身痩躯の若雄は、全身にエロ肉をこびり付けた熟牝を、お姫様だっこで抱きかかえる。

 アニメのキャラクターやNBA選手のポスターで埋め尽くされた二十五歳の寝室。真理恵をパイプベッドに横たえると、尊はすぐに張りつめた肉槍を突き刺し、得意の体位で、真理恵の大乳と豊腹を揺らして愉しんた。

「アン、こんなに激しくして・・・。ベッドがギシギシいって、壊れちゃいそう・・・。エアコンもつけないままこんなに激しく動くから、汗の飛沫が、雨みたいに飛び散って・・・。そんなに動いてたら、尊さんの身体、ますます引き締まっちゃう。私も、たまには動いた方がいい?」

「動くのは僕だけでいいんです。真理恵さんが激しく動いて、このエッチなお腹が消えちゃったら大変だ。真理恵さんは下で受け身になって、エッチなおっぱいと、エッチなお腹を揺らして見せることだけ考えてくれればいいんです」

「アン、アオ・・・・尊さんのヘンタイ」

「ヘンタイついでに、ひとつ頼みを聞いてもらっていいですか」

「ア、ア、なに・・・」

 尊が前に折れて、巨大ババロアを押しつぶしながら、真理恵に言って欲しいセリフを耳打ちしてきた。

「あん・・そんなこと・・・。あ、ダメ・・・ダメよゥ・・・わ、わかった・・・言うわ」

 尊が言わせようとしているのは、優しい真理恵には酷なセリフだったが、弱い首筋をチロチロと舐められると、彼の願いを拒否できなくなる。

 真理恵は決意を固め、大きく息を吸い込んだ。

「真理恵は高野みたいなキモいジジイは嫌い。真理恵が好きなのは、若くてカッコイイ尊くん。醜い高野が部屋でセンズリかいてる間に、カッコイイ尊くんは真理恵のムチムチボディを揺らし放題。真理はそれがとってもキモチいいの」

 踏み絵を踵で踏みにじるような罪の意識に、胸を締め付けられる。

 そもそも、もとは強制わいせつの被害者と加害者という立場で、裁判で争っていてもおかしくはなかった真理恵と尊がこうして繋がれた直接のキッカケは、高野が真理恵に襲い掛かってきたことだった。結果論ではあるが、高野は真理恵と尊を結びつけてくれた恩人ともいえるのだ。

 真理恵の身体を先に求めた高野は、真理恵とセックスできなかったどころか、職まで失い、高野をダシにするような形で真理恵の家に上がり込んできた尊が、真理恵の豊満な女体を好きなようにしている。高野にとっては、この上もなく残酷で、理不尽な結果ともいえる。

 もとは川原美都のことが好きだった高野だが、真理恵との間にも、浅からぬ因縁が生まれてしまった。今現在、高野が真理恵と美都、どっちを憎んでいるかは、微妙なところである。

 息子と二人、貧しくも平穏な暮らしを送っていたはずが、気付けば、危険な男女の泥沼にカムバックしてしまっていた。四十四歳のやつれた心と身体に、この刺激は少々ハードすぎる。 だけど、もう戻れない。

「こんなこと、言わせちゃってごめんなさい。引きましたか?」

「いいえ。これから直せばいい・・・。無理なら直さなくても・・・」

「僕はけして、いい子なんかじゃないし、明るく真っ直ぐな好青年でもありません。それでも、僕と一緒になってくれますか」

「いい・・・けど、これだけ約束させて」

 一度射精して長持ちするようになった肉棒の抽送を受け入れながら、真理恵は腹上で躍動する男に真剣な貌を向けた。

「なんですか」

「私はもう枯れる寸前だけど、あなたはまだ、咲いたばかりの人。これからきっと、私よりもっと若くて素敵な女性が、目の前に現れる。そのときは迷うことなく、私を置いていって」

「そんなこと」

 悲し気な貌を見せる尊。しかし、それを口にしなければ、真理恵はもっと悲しい。

「だめ。せめてそれぐらい約束してくれないと、とても貴方と一緒になんかなれない」

「・・・わかりました。それじゃ、仮に。仮に約束します。でも真理恵さんの気が変わったら、また言ってください」

「ありがとう・・ア。ア好きっ、好き、尊さん」

「真理恵さん・・・可愛い。キレイ」

 九十度で真理恵を見下ろす尊と両手を握り合いながら、規則正しいメトロノームの動きで突かれて、真理恵の脂肪の傑作がフルフルと悩まし気に揺れる。

「はァッ、可愛いよっ、可愛く揺れてるよ、真理恵さんのおっぱいとお腹っ」

 タプタプタパン。肉のメトロノームに合わせて、真理恵は牝襞を使って、腹腔内の肉棒を一流ピアニストのタッチで叩く。

「アアン、アァゥウ、ァアゥウ、ウ、オ、オン」

 コンサートホールを観客で埋め尽くす世界的楽団でも再現できない肉体のハーモニーで、二十五歳の雄と四十四歳の牝がフィナーレへと向かっていく。

 しっかりと真理恵の手を握りしめながら、ズブズブに柔らかい熟肉に、尊が上体を重ね合わせてくる。

「真理恵さん。僕の赤ちゃん産んでね。おなかパンパンに膨らませて、おっぱいから出る、あまぁいミルク飲ませてね」

「ア・・この歳で、産婦人科行くなんて、恥ずかしい・・・。こんなおばあちゃんがボテ腹抱えて、若い尊さんと一緒に歩くなんて・・・」

「見せつけてやるんだ。お腹おっきくした真理恵さんを連れて歩いて、なんなら外でキスとかして、高野みたいな汚いジジイが指咥えて見ているのを横目で眺めるのが、何より楽しい」

「アン・・そんな残酷なこと言わないで・・・」

「僕は真っ直ぐでいい子じゃない。歪んでしまっているけど、そんなところも、受け入れてほしい」
「受け入れる。貴方のこと、愛するから・・」

「真理恵さん、真理恵さん、真理恵さん――」

 調整の狂ったメトロノームが超高速で動き出すと、真理恵の演奏も崩れて、膣の鍵盤が暴走し、うねるようにして発射寸前の肉笛を絞り上げる。

「お母さァん―――」

 四十四歳の赤ちゃん部屋を目がけて、二十五歳の子種が、ドッと解き放たれた。

「アァアァッ、アァアンンン、出来ちゃう、出来ちゃう、尊くんに孕まされちゃうぅ」

 自分が高校を卒業したころ、ようやく産声をあげたような若者と結ばれ、彼の子を産み、年の離れた二児の母になる――。

「ハァ、ハァ、ハァ・・・・。真理恵さん、大丈夫?」          
                                                                                  
「うん、平気・・あ、いつつ・・・」

 まぐわいを終えて暫くが経ち、快楽物質エンドルフィンの働きが弱まってくると、汗が乾き、身体が冷えてくると同時に、真理恵は節々に痛みを感じ始めた。

「真理恵さん、肩揉んであげるよ」

「悪いわね」

 真理恵の脇で添い寝していた尊が、ベッドに腰掛ける真理恵の背後に回った。濡れそぼったままの海綿体が、腰元にヒトッと押し付けられる。ベッドから立ち昇る臭気には、尊の汗の男臭さに、真理恵の蜜の甘酸っぱい香気が混じっていた。

「明日から夏季休暇かぁ。工場の他の人たちは、どう過ごすんだろうね。デートとか行ったりするのかな」

「さぁねぇ・・・」

 尊が絶妙な力加減で肩を揉みながら、無邪気に話すのを聞きつつ、真理恵は後ろ手で尊のペニスを拭いた。

「川原さんは、派遣の間島さんと、最近イイ感じだよね。あんなパッとしない人の、どこがいいのかなぁ。それだったら、社員で頑張ってる江村さんにだっていい話があってもいいのに、あの人は相変わらず女っ気がないからなぁ。今年もあのデッカイちんちんを持て余すのかなァ」

「どうだかね。世の中、ダメな男に惹かれる女もいるからね」

 言いながら真理恵は、行方不明となった派遣の同僚、松井瑠璃に思いを馳せる。

 禁治産者の乱暴者に捕まり、シングルマザーの身の上となった真理恵を、瑠璃はあるいは、反面教師として見ていたのかもしれない。だが、真理恵は次に彼女に会う機会があったら、胸を張って言おうと思う。

 欠点を探して、なんとか足切りしようとするのではなく、良いところをなんとか受け入れようとする姿勢で男を見れば、世界は変わる。己の指を恋人に生きるより、ずっと幸せな暮らしを手に入れられるのだと。

「ア」 

 尊の熱い吐息が首筋に吹きかかると、真理恵はピクンと身体を震わせ、垂れた乳肉が重たげに揺れた。

「真理恵さん、ごめん。僕、また元気になってきちゃった」

「アンもう・・・しょうがないわね・・」

 渋々を装ったが、若い雄よりも早く取り戻す熟牝は、もうしとどに潤い、勃起を受け入入れる体勢を整えていた。

 節々の痛む真理恵はベッドに仰臥し、若い尊が暴れるに任せる。真理恵はじっとしたまま、余計な動きはせずに、関節の擦り減りとともに獲得したもの――男を惑わせる脂肪の揺れを俯瞰させていれば、尊は満足し、真理恵に若返りの薬を吐き出してくれる。

「アン・・翔には、なんて説明したらいいかしら」

「あれ、連絡来てない?僕もう、とっくにLINEで言っちゃったけど。二学期になって、翔の進路相談が始まる前までには、新しいお父さんになれそうだって。翔、すっごい喜んでたよ。尊さんと一緒に住める上に、大学まで行かせてもらえるって」

「嘘。はやい。はやい尊さん」

「なに?腰の動きが?ならもっと激しくして、真理恵さんのエッチなおっぱいとお腹、もっと揺らしまくってあげる」

「ちがう・・・。尊さん、ァ、それいやっ、いやっ、ア、ア、ア、オホッ、ホ、ホオッ!」

 すでに、夫婦のように言葉を交わし合いながら、長身痩躯の若雄と豊満な熟牝は、体力の尽き果てるまで睦み合った。
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今月について

                

 今回の「外道記 改」についてですが、今月はこちらのノルマはなしとしたいと思います。
 
 コメントしてもしなくてもかまいません。来月の更新は保証します。

 その代わり、5月末締め切りに向けて鋭意執筆中の官能小説の方にできるだけ多くのコメントを頂きたいと思います。

 ノルマとしまして、一話につき「4」としたいと思います(第一話、第二話、第三話、すべてに「4コメント」ついた時点でノルマ達成)また、その期限を「5月20日」までとしたいと思います。このノルマを達成できましたら、残りの第4話、第5話を更新していきたいと思います。

 このサイトはこれまでずっと、「犯罪」をテーマに運営して参りましたので、「官能」のノルマが未達でも、更新は続けていきます。ただ、ノルマ未達に終わりましたら、第4話、第5話の更新は行わず、「外道記 改」に急きょノルマを設定させていただく、という方針でいきたいと思います。

 急な話で申し訳ありませんが、官能の方は締め切りが迫っております。

 コメントについて、「期限ギリギリまで待って、誰もしてなかったらコメントしよう・・」というお考えの方もいらっしゃるようですが、時間を置いてからコメントするよりも、読んですぐの方が書きやすい部分もあるかと思います。

 今回に限りましては、できるだけ早いレスポンスを返していただきたいと思います。

 まだ前月分のコメントの返信も終わっていませんが、コメントの返信につきましては、官能小説の方を最優先に行っていきたいと思います。ご了承いただけますよう、お願いいたします。

 説教、荒らしは読まずに消します。

 以上、よろしくお願いいたします。

第三章 婚活女子の悲劇 三十センチに酔わされて


     
 
                  1


 江村雄介が女性を監禁し、凌辱したい願望を持つようになった理由は、四百字詰め原稿用紙五枚程度の説明で事足りる。

 七年前より、江村は複数の会員制サイトを利用して、婚活に励んでいた。

 婚活サイトに登録する女どもが男を判断する基準は、年収でもない、学歴でもない、もちろんのこと、内面の美しさなどでもない。

 顔。

 婚活サイトを利用する女どもは、ルックスだけで男を見る。正確に言えば、まず、ルックスがお眼鏡に叶わなければ、年収や学歴、性格を見てもらうところまでいけない。いわば通行手形のようなもので、他がどんなに良くても、顔が悪ければ一目で足切りされ、プロフィールカードの交換すら断られてしまうのである。

 自分がお世辞にも、女に好かれるご面相ではないことくらいはわかっている。

 「潰れたジャムパン」

 「踏まれたじゃがいも」

 「苔むしてクレーターの多い岩石」

 「陸に打ち上げられたらすぐ死んでしまう深海魚」

 工場の女性社員たちから耳に入ってくるのは、まことに散々な評価ばかりである。

 顔写真を載せなくても女性とやり取りができるチャットや出会い系サイトの方では、途中までイイ感じに会話が弾んでいたのに、顔写真を送った途端、メールが返ってこなくなる、などということもよくあった。

 それでもめげずに、一人の女性を求め続けた。

 安月給の中から、月々の会費や、カップリングパーティなどのイベント代を捻出するのは、楽なことではなかった。その金で、風俗にでも通っていた方がマシではないかと思ったこともあった。

 しかし、江村にとって、結婚とは神聖なものだった。今どき珍しいと笑われてしまうかもしれないが、江村は単なる肉体的接触よりも、心と心が通じ合い、一生を共にできる男女関係に憧れがあったのだ。また、幼い頃より、自分のことを誰よりも愛してくれる母に、早く孫の顔を見せてやりたい思いもあった。

 どれだけ悔しい思いをしても、空振りに終わっても、諦めず、根気強く相手を探し続け、婚活サイトに登録して六年目にして、とうとう、念願の初デートにまで持っていくことができた。

 ランチに高級レストランを予約しようとした江村に、相手の女は、そんなに気を使わなくていいと、自宅近くのファミレスを指定してきた。

 パートナーに出費を求めない、庶民的な理想の女性が見つかったのかもしれない。

 意気揚々と出かけた江村が、食事の後、女に手を引かれ、招かれた先で目にしたのは、和室で念仏を唱える十数人の集団だった。

 そう、江村の人生初デートの相手は、宗教の勧誘だったのだ。

 婚活サイトの多くは、男性会員側にのみ高い会費が課され、女性会員側は無料、もしくは、男性の半額以下の料金で利用できるようになっている。審査も身分証の提示程度で済むため、結婚したい男の弱みに付け込む詐欺師や、新興宗教の勧誘の温床となっているという話は、聞いたことはあった。だが、まさか自分が被害に遭うとは思っていなかった。

 江村の中で、何かがブチッと切れた。

 どうやら自分は、淘汰されるべき遺伝子の持ち主のようだとわかってしまった。

 婚活サイトを利用する女が、特別なのではない。そもそも、普通にやっても出会いの機会がないから、婚活サイトに望みを託したのだ。

 これまで、頑張っても相手にされなくて、頑張っても相手にされなかった男女の集まりでも、やっぱり相手にされなかった。

 おそらく自分は、前世の業を背負って生まれてきた、業人なのだろう。あるいは、生まれたことそれ自体が罪であり、贖罪のために一生を過ごすことを余儀なくされた、原罪者だったのだ。

 自分のこれは――銭湯に行くと、なぜかいつも羨望の眼差しで見られる、親しい男の友人からは、座ると膝が三つ出来る、などと揶揄されるこれは、神が業人、原罪者である自分に、ただ、欲求不満の苦痛を与えるために付けたものだった。

 女――欲しくて欲しくて仕方のないものに、永遠に手が届かない運命――しかし、むざむざ神から与えられた運命に従ってやるつもりもない。

 川原美都。

 抜群の美貌とプロポーションを兼ね備え、知的な優美さに加え、少女の可憐さも残す彼女が、うだつの上がらない中年社員である自分の目の前に現れたとき、女神は本当にいるのだと思った。

 よりにもよって川原美都が、彼女がリーダーを務めるライン作業者の一人と親密な仲になっているらしいと知ったときは、ショックで世界が崩壊するようだった。

 年の割に子供じみた、おそらくこれまで、責任のある仕事を任された経験が一度もないのであろう男。年収は、安月給の江村に輪をかけて少なく、ボーナスも出ない。専卒か高卒か、あるいはそれ以下であろう学歴。性格――しかし、女にとってそれは、優先順位の一番最後に来るはずのものである。

 顔。やはり、顔なのか?

 顔、顔、顔。

 顔さえまともならば、正社員でなかろうが、女などいくらでもできるし、人生何とでもなるというのか?

 川原美都。潰れたジャムパンなどとバカにされる自分にも、イケメンと平等に微笑みを投げかけてくれる女神。だからこそ、裏切られたときの心の痛みも大きかった。

 川原美都を、監禁し凌辱してやると決めた。

 あるとき、尾行して突き止めた、川原美都の自宅アパート前――薄暗い夜道に、車を停めた。

 川原美都が傍を通りかかった瞬間に襲い掛かり、クロロホルムを嗅がせ、己の車の中に引きずり込む。

 もし、あの甘ったれも一緒なら、あいつもさらってやるのもいい。川原美都を監禁する予定のスペース――実家の倉庫の柱にでも括り付け、愛する美都が醜い自分に犯されているのを、目の前で見せてやるなど一興ではないか。

 神が、ただ欲求不満の苦痛を味合わせるために自分に取り付けた業棒で、女神と一つになるはずだった。三十八年間の苦しみの根源であったこれで、川原美都をぐちゃぐちゃにしてやるはずだった。

「江村さん、ここどこ?どうしてこんなことするの?ねえ離して。私を家に帰してよ」

 なぜ、土壇場に来た瞬間、自分はこの女に反応してしまったのだろう。

 松井瑠璃、三十四歳。自分がリーダーを務めるラインの作業者。たまたま偶然、川原美都と同じアパートに住んでいた女。まったくのノーマークであり、そんなことは露も知らなかった。

 松井瑠璃、三十四歳。自分のことを陰で、雄ちゃん、などと呼んで、バカにしている女。

 眠そうな一重瞼、低い鼻の脇に付いた大きな黒子、ガチャガチャの歯、キューティクルの剥げた茶髪、雑な手入れの眉、濃いアイラインのメイク。お世辞にも美人とは言い難い、品のない女。

 誤解のないように言うが、江村はけして、瑠理が「派遣社員」だからという理由で軽侮しているのではない。

 確かに、入れ替わりが激しい分、人間的にアレな人の割合が高くなる事実は否めない。だが、工場で働く大半の派遣社員は、真面目に、一生懸命、与えられた仕事に取り組んでくれている常識人である。第一、それを言うなら、自分は正社員でありながら、周囲から無能の烙印を押され、侮られている。

 自分が瑠璃を軽蔑しているのは、制服をだらしなく着て、騒音でわからないと思っているのか、女だてらにライン内でくっさい屁をぶっこいたり、休憩室で、お菓子のカスを床にバラまきながら、ガハハと大きな声で笑ったりと、その姿があまりにも下品で、まるで教養が感じられないからである。

 だが、長年婚活に励んできた江村は、そんな品性の欠片もない女でも、一たび婚活市場に出れば、蝶よ花よともてはやされ、選ぶ立場になれることを知っている。

 残酷なり、男余りの世の中。慎吾や美都のラインにいる後藤のような伊達男には知る由もないだろうが、世の中はヤレる女の数よりヤリたい男の数の方が圧倒的に多く、たった一人の女を得るため、それはそれは過酷な競争を強いられているのだ。

 美女はイケメンや金持ちの独占市場。瑠璃のような、決して美人ではないがブスでもない並程度の女なら、まだイケメンや金持ちに相手にされるし、並程度の男には強気に出られる。たとえブスでも愛想が良ければ、並程度の男とくっつける。

 最後に余り、すべての絶望を背負うのが、不細工で金もない男である。不細工で金もない男だけは、どれほど頑張って内面を磨いても、自分を愛してくれる女を見つけられないのだ。

 ブスではないが、美人でもない。でも、理想を下げる気はないという女たちに、七年間、グチャグチャのボロボロのズタズタに、心を切り裂かれてきた。

「やめてよ・・。いやよぅ、助けてよぅ。こんなのやだよぅ・・・・・」

 そうだった。自分が本当に犯したかったのは、このレベルだった。

 美人ではないが、かといってブスでもない並みレベルの容姿。黙っていれば引く手数多だが、内面にどこか欠陥を抱え、そのくせ高望みしすぎるせいで、三十過ぎて売れ残っている。

 七年間、金銭と時間をつぎ込んできた婚活市場で大勢を占めていたのは、このレベルだった。

 考えてみれば、川原美都や、あるいは児玉愛のような若い美女と自分が結ばれるなどということは、まるで夢のような話であり、想像するのもおこがましい。

 彼女たちよりも、今、自分の目の前で涙ぐんでいる年増の方が、江村にとって、ずっとリアリティがある。

 俺にだって、これくらいの女はできていい。そう思うからこそ、気持ちを踏みにじられたときの痛みも大きかった。お前だって同じ穴の貉なのに、なぜそこまで上から目線で見られなければいけないのだという思いが、怒りを増幅させた。

 気づけば、アイドルと遜色ない単体女優よりも、見た目の劣る企画女優、やがては完全素人の個人撮影モノで抜くようになっていた。自分でその変化を認めたくなく、現実から目を背けてきたが、パソコンのお気に入り欄は嘘をつかない。

 けして美人ではないが、かといってブスでもない、並程度の女――松井瑠璃。

 もっとも憎い生物――婚活女子を、ずっと、グチャグチャのボロボロのズタズタにしてやりたかった。

 松井瑠璃、三十四歳――江村をもっとも奮い立たせる性的対象に、江村は歩道に落ちた銀杏の実のような口臭を振りまきながらにじり寄っていった。


 三十四歳の松井瑠璃を睥睨しながら、チェック柄のシャツに裾を巻いたジーンズ、そして、股間部の黄ばんだ白ブリーフを脱いでいるのは、見慣れた顔の男だった。

「江村さん・・・ここ、どこなの・・」

 畳張りのプレハブ小屋。床にはクッション性に優れた羽毛の布団が敷かれ、冷蔵庫、電気ポットに電子レンジ、エアコンなど、一通りの生活用品が揃っている。立ち昇るい草の香りから、この空間が、まだ出来てから日が浅いことがわかる。

「俺の実家の、倉庫の中だ」

 瑠璃の前に、全裸で仁王立ちする男。江村雄介、三十八歳。瑠璃の作業するラインでリーダーを務めているこの男が、どうやらこの空間の支配者であるらしい。

「なんで私、そんなところにいるの・・・」

「俺がお前を、誘拐したからだ」

 瑠璃の質問に淀みなく答える江村の口調は、普段、ラインで生産の指揮を執っているときの、自信なげな様子とは打って変わったものである。

「なんで、服脱いでるの・・・・」

 もちろん、生娘ではない瑠璃は、江村がこれから何をしようとしているか、自分がこれから何をされるかくらいはわかっている。

 ハート型に生え広がった胸毛。たるんたるんのお腹。胴体は太いのに、アメンボみたいに細い手足。これからこの醜い身体が、自分の上に乗ってくる。

 股の下にぶら下がっている、昔付き合っていた男の倍近くもある巨大なモノ。これからこれが、硬く、大きくなり、瑠璃の下腹部に突き刺さってくる。

「ねぇやめてよ・・・。こんなことして、どういうことになるか、貴方わかってる?」

「もちろんわかっているとも。これがバレれば、俺は逮捕され、会社をクビになるだろう。だが、それが何だというんだ?」

 言いながら距離を詰めてくる江村の瞳からは、安定した正社員であるにもかかわらず、瑠璃と同じ派遣社員にありがちな「虚ろ」が見て取れる。死んだ魚のように、光を失っているのである。

「男が働くのは何のためだ?俺が思うに、それは好きな女を守り、幸せな家庭を築くためだ。だが、俺にそれはない。人一倍努力しても手に入らなかった。ならば、歯を食いしばって働く理由もない。また、罪を犯すのを躊躇う理由もない。お前らが俺をそうさせた。お前らが守らせてくれないから、俺はお前らを無理やり犯すことにしたんだ」

 怯える瑠璃に、江村が憎悪のうねりをぶつけるように言った。

 左右に揺れる、腐ったバナナのような物体が鼻先にまで近づき、野卑た男くさい臭いを嗅ぎつけた瑠璃の頭の中に、ある二文字が浮かんでいた。

 天罰――。

 これは、自分がこれまで、江村のような男たちにしてきた仕打ちに対する、神の裁きではなかろうか。

 三十四歳の瑠璃は、いまだ未婚であるが、男探しに消極的だったわけではない。むしろ普通以上にアンテナを張り巡らし、一時、婚活サイトにも登録していたほどである。

 瑠璃が男を選ぶ基準は、第一に収入。というより、自分にどれだけお金を使ってくれるかで、第二に性格。というより、どれだけ自分に尽くしてくれるか。

 でも、それよりももっと大事な。というより、それがなければまず、何も始まらないという条件がある。
 顔。

 収入や内面を見る前に、まず、顔が良くなければ、お話にもならない。

 顔。それは最重要項目というより、前提である。

 ボクシングで、どれほど腕っぷしや足さばきに自信があっても、まず、プロのライセンスがなければリングの上に立つこともできないように、まず生理的に不快感のない程度に顔がよくなければ、いくらこっちに好意を持ってもらっても何も始まらないし、逆に顔さえよければ、こちらからアプローチをかけてみようと思える。

 もちろん、そんなことを口に出して言う女子はいない。だから、俺にも可能性があると勘違いして声をかけてくるイマイチ君たちに、二十代のころは、心底辟易していた。しつこく食い下がる彼らを追い払うために、心無い言葉を浴びせかけてしまったこともあった。

 親しい友人からは、理想が高すぎる、もっと妥協しろ、という意味のことを、それとなく言われることもあるが、皆の意見は、微妙に的から外れている。

 理想が高いのではなく、そもそも人間の男という生き物に対する生理的な抵抗が強く、セックスにも淡泊な瑠璃には、男に抱かれるためのハードルが高いだけなのだ。

 そもそも、同じ生き物として見られないのだから、妥協もクソもない。一定条件を満たす男と結婚できないのなら、一人でいた方がマシ。一定条件以上の男をゲットするためなら頑張るけど、一定条件を満たさない男からのアプローチは、全力で拒否する。

 でもその考えも、最近変わってきた。

 三十代に入ったころから、昔から付き合いのある既婚者の友人と、段々、見ている景色がかけ離れ始めているのを感じるようになった。誘いがあっても、何となく気遅れして、付き合いの場に顔を出せなくなっていた。

 瑠璃が思うに、二十の小娘のころは大差なかったはずの彼女たちと、自分との差が開いたのは、どうも、意識の高さよりも、懐の深さに理由があるようだった。

 たとえルックスはイマイチでも、女性にも、仕事にも誠実で、思いやりのある男に性根で惚れて結婚した友人たちは、それからドンドン変わっていった。

 瑠璃から見てダメと思える人、どうでもいいと思える人でも見下したり、切り捨てたりせず、気遣い、少しでもいい目を見せようと、できる範囲で協力する。すると、周囲から自然と持ち上げられる感じになり、有利な立場に立っても、余計な恨みを買ったりしない。なんというか、幸運を自然と運び込んでいる。

 友人たちが、瑠璃には手が届かないほど上向きの人生を掴んでいくのを見て、瑠璃も自分の過ちを認めざるを得なかった。

 顔が良くなければ、他のいいところなど探そうとも思わない。一定条件を満たさなければ、異性としてまったく意識しない。そんなことばかり続けているうちに、男性を見る上だけでなく、すべての事柄において、否定から入る癖がついていた。

 中高一貫の女子高、偏差値はそれほど高くないが、良家のお嬢様の多く通う女子大を卒業して商社に入った瑠璃が、紆余曲折を経て、いま非正規の派遣社員をやっているのもそう。自分の取り巻くすべてをまず否定的に捉え、あれはダメだからこれしかないと、消去法で考える性格が、自分をどんどん、不利な状況へと追いやっていったのではないか。

 昔はそこそこ相手にしてくれたイケメンは、今や自分に見向きもしないし、邪険にしてきたイマイチ君からのアプローチも、最近とみに減ってきた。

 自分を変えなきゃいけないときが来た。今からでも、遅くはない。否定から入るのではなく、もっと、人の良いところを探そうとする姿勢を持たなきゃいけない。

 そんな風に考え始めていた、その矢先のことだった。 

「あの会社に、俺に期待してくれる上司はいない。心配してくれる友人もいない。派遣のお前らと、何にも変わらないんだ。全部終わりにするのに、何の未練もない」

 ルックスがイマイチでも、良いところを探してみようって決めた。

 でもコイツだけは――。

 コイツだけは、絶対に無理。

「だけど、親が悲しむ・・・お父さんお母さんだけは、貴方の味方でしょう?」

「親か・・・。大学まで出してもらって、育てる方はよくやってくれたと思うし、感謝もしている。だが、そもそも生んでもらったことについて、俺は親に感謝していない。今まで食べたうまい飯、今まで見てきたいい景色、今まで得た成功体験・・・そのすべてを合わせても、生まれた苦痛の割には合わないと思っている」

 江村は頑なになっており、瑠璃の言い分にはまるで耳を貸そうともしない。こちらの言うことに反論することで、自分の決意をより確固たるものにしようとしている節もある。

 無理な説得は、逆効果になるだけのようだった。

「それに、そんなに早く捕まるとも思えないしな。お前、実家にはもう、何年も帰っていないそうじゃないか。男もいないし、昔の友人にも最近会っていないんだろう?休憩室で、いつもデカい声で喋ってるから、こっちの耳にもよく聞こえてきたよ」

 確かに江村の言う通り、瑠璃の実家は北海道の奥地にあり、ここ三年は帰っていなかった。もともと、関係が良いわけでもない両親に顔を見せにいくためだけに、片道数万円もかけて帰るのは、派遣の給料では難しかった。

 昔の友人とは疎遠になり、定期的な連絡のやり取りもない。今の工場の仲間とは、それなりにいい関係を築けている自信はあるが、果たしてどこまで期待していいものか。

 親しいフリをしていても、みんな、どこかで他人が、自分より幸せでないことを願っている。それが確実に利益になると判断しない限り、人を本気で心配し、探したりはしない。

 自分がそうだからこそ、そう思う。

 気づかぬうちに、夜の砂漠を一人で歩いているような人生になっていた――。

 こんな感じで、行方不明扱いになっている妙齢の女は結構多いのかもしれないと、瑠璃は変に納得してしまっていた。

「俺は、お前ら女が大嫌いだ。強欲で、冷たくて、自分勝手で、男を都合よく利用することしか考えていなくて、人の悪口でしか盛り上がることができず、被害者ぶることだけは一丁前。お前ら女に、好もしい要素などは、何一つない」

 江村が昏い目で瑠璃を見ながら、吐き捨てるように言った。

「だったらなんで、女の子を誘拐なんてするのよ・・・。そんなに嫌いだったら、女とずっと話さず、男とだけ仲良くしてればいいじゃない」

「・・・俺は女は大嫌いだが、女の身体は大好きなんだよっ。好きで好きで、それでも手に入らないから、嫌いになるんだろうがぁっ」

 自分でも、愚かなことを言ってしまったと、瑠璃は後悔した。

 ズドンとした小太りの体型。苔むした岩石のような、ボコボコして毛だらけの顔面。汗っかきで、仕事終わりにはいつも、据えたような体臭を放っている。

 これまでモテた経験はなかったのだろうし、女にこっ酷くフラれて、何度も辛い思いをしたのだろう。

 それでも、性欲は消えてくれない。欲しいという気持ちがなくなるわけではない。

 積もり積もって、爆発する寸前だった男の導火線に、瑠璃は火をつけてしまったのだ。

「でも、だからってこんな身勝手、許されると思う?こんなことをする人に、彼女なんてできるわけないじゃない」

「出た出た。それがお前ら女の最大の得意技、後出しじゃんけんだ。最初からチャンスを与える気もないくせに、こっちが何かやらかしてから、鬼の首を取ったように落ち度を突いてきて、自分がお前を相手にしないのは当然だみたいな顔しやがって。もう騙されないぞ。最初から男として見る気もない女から責められたって、粛々と受け止めたりなんかするわけないんだよ」

 正しいか間違っているかとは別に、誰にそれを言われるかという問題がある。世話になった恩人ならともかく、憎悪の対象である瑠璃から言われることは、いくらそれが正論であっても、江村の心は動かせないのだろう。やはり、これ以上の説得は、火に油を注ぐだけに終わりそうだった。

「くだらん話はここまでだ。もう俺は、我慢の限界だ・・・・」

 壁際まで追い詰められた瑠璃に、ぬっと顔を近づけた江村が、唇をぴとっと重ねてきた。

「うっ。うっ。うっ」

 瑠璃は顔を背けて、分厚いたらこ唇が近づいてくるのから必死に逃げ惑った。しかしその合間にも、江村の節くれだった手は、瑠璃のふくよかで大きなバストへと伸びてくる。

「うっはぁっ。やわらっ・・・かっ・・・」

 銀杏くさい息を吐き散らしながら、Tシャツ越しに瑠璃の乳房をグニッと揉んだ江村が、法悦に唸った。

 九十七センチ、Gカップあるバストは、顔に自信のない瑠璃が、唯一誇れる女としての武器である。

 歳で少し垂れてきてはいるが、その分、肉質が柔らかくなって揉み心地が抜群に良く、十円玉サイズの乳輪と、野いちごのようなやや大きめの蕾はまだ、サーモン・ピンクの色素を十分に残している。

 三十四歳の瑠璃が、生涯で抱かれた唯一のカレもこのバストが好きで、いつもフィニッシュに至るまで何十分も揉みしだいたり、顔を埋めたり、また、挟んだままイクこともあった。

 飲み会の席で、軽薄な男が、「俺はスラッとした美人よりも、ちょいブス巨乳の方が興奮するんだよ」と、誉め言葉なのか何なのかよくわからないことを言っていたのを聞いたこともある。

 肉のドームのような、この豊満なバストが、瑠璃が美人の若い女に対抗できる、唯一にして最大の武器であるということは、自他ともに認める事実だった。

 しかし、いま瑠璃は、その最大の武器を、ライバルである若くて美人の女からは見向きもされない、冴えない中年男に揉まれている。

 屈辱と、こみ上げてくる不快感に、瑠璃は嗚咽を漏らしていた。

「んんっ、ちゅばっ、ちゅばっ。うーんちゅばっ、ちゅばっ」

 ついに、瑠璃の唇を奪った江村が、大げさに音を立てて瑠璃の唾液を吸い、次いで、舌先で瑠璃の前歯を撫でまわしてきた。

「んんんっ。んがががァっ」

 こそばゆいのに耐えかね、口を開いたところに、江村がすかさず舌をねじ入れ、瑠璃の舌に絡めたり、口蓋の襞を擦ったりしてきた。

「ねろっ。ねろねろっ、かほっ、かふっ、かしゅっ、あんぐらべちゅっ」

「うぅぅうごえっ、うごえっ」

 頭を大きく振って、江村の口を剥がすと、江村はそれ以上キスを迫ってきたりはせず、彼の興味は、Gカップのバストへと一直線に注がれた。

「おおおっ。おおほぉぉっ」

 江村がTシャツを強引にめくり上げ、安物のブラを引きちぎるようにして外すと、ミルクが一リットルも詰まっていそうな重い肉袋が、ばる~んとまろび出てくる。

「おぉぉ・・こぉほぉぉぉおっ」

 江村は、瑠璃の生乳を掌で包み込むと、イトミミズのような血管が浮かんだ双眸で、ぐにぐにといやらしく形を変える乳肉を眺めた。

「おっぷあっ、おっぷあっ、おっぷあぁっ」

 瑠璃のおっぱいの柔らかさを十分に掌で味わうと、江村は続いて、陸に打ち上げられたらすぐ死んでしまう深海魚のような顔面を、双丘の真ん中にぷにぷにと押し付けてきた。

「あてむねろねろ、あてむねろねろ、あてむねろねろぁ」

 全体を舐め回し、糸のひく粘っこい唾液を乳肉にたっぷり付けた後、蕾を口の中に含んで転がしてくる。

「・・・・・ァ・・・・ァフゥ・・・・・・ァ」

 たとえ無人島で二人きりになったとしてもセックスなんかしたくなかった男なのに、敏感な部分は、どうしても反応してしまう。

「おっおっおっ気持ちいいのかおっおっおっ」

 口の中にあるものが硬くなるの感じて興奮した江村が、調子に乗って、親指と人差し指で、勃起乳首をコリコリと弄くりながら、今度は首筋をベトベトと舐め回してきた。

「ゥ」

 敏感乳首を通じてスキュン、スキュン、と伝わる電気の刺激と、脳に近い場所からゾワッと昇って来る快感に、瑠璃は小さく呻いた。

「う~む、う~む、う~むぅん」

 いちいち、癪に障る声をあげながら、江村は瑠璃と頬を合わせ、背中と壁の間に腕を入れて、固く抱きしめてきた。

 瑠璃の身体を散々好き放題に弄りまわして、下腹部に押し当てられたモノは、もうすっかり雄々しくなっていた。
 
 
                      2
 


 恐怖に顔を引きつらせる瑠璃を眺めながら、江村は長大に反り立った三十センチ砲を右に左にと振り回し、吊りあがった口角から涎を垂れ流した。

 幼いころから、ずっと不思議だった。

 踏まれたじゃがいもなどと呼ばれる自分の顔。これは、母親にはまったく似ておらず、すべて父親から受け継いだものである。

 母は飛びぬけた美人とはいえないが、淑やかで気品のある顔立ちで、母に似た兄弟たちは皆、今は結婚して家庭を築いている。

 兄弟の中で、自分だけが、風采の上がらない父親の要望に似ていた。小学校や中学校のころ、父の顔を知らない友人たちからよく、兄弟と自分の顔を見比べて、あの子は他所の家から養子にもらわれたのではないかと囁かれていたことを、江村はよく覚えている。

 今も住み続けている父の家が、飛びぬけた金持ちだったわけではない。頭が切れるとか、頼りがいがあるとか、面白いことが言えるわけでもない。優しいというよりは、ただの気弱。

 はっきり言って、父のように冴えない男に、母のような女性を射止められた理由が、幼少期の江村にはずっとわからなかった。

 小学生のころ、学校で女の子にからかわれたことを泣きながら話したとき、母は江村を慰めながら言った。
 
――落ち込むことなんてない。今はゆうちゃんの魅力に、女の子たちが気づいてないだけ。そのうちきっと、ゆうちゃんから離れられなくなる女の子が現れる。ママがパパのお嫁さんになった理由も、きっとわかるときがくる。

 高校生になり、身体が出来上がって、友人たちから散々指摘を受ける中で、母の言わんとしていた意味が、ようやくわかってきた。

 自分のペニスは、どうやら、平均より遥かに大きなサイズであるらしい。そしてどうやら、ペニスというものは大きければ大きいほど、セックスの際、女性を気持ちよくさせられるものらしい。

 しかし、江村の巨根と、母の言葉は、江村に何の自信ももたらさなかった。

 なぜなら江村は、女性を気持ちよくさせる以前に、ベッドに入ることすら拒絶されてきた男だからである。

 顔。

 もしくは、ルックスがまったくハンデにならないくらいの富と権力、それを掴むための頭脳。

 結局のところ、胴体の上についているものが優秀でなければ、胴体の下にどれだけ立派なものをぶら下げていても、宝の持ち腐れになってしまうのだ。

 父のころには、まだまだ女性の社会進出が進んでおらず、女が男に、経済的に依存しなければいけない事情があった。

 時代は変わり、結婚、出産こそが女の喜びの第一であるという価値観は、過去のものとなった。娯楽も多様化し、世の中は、フラれて傷つくくらいなら、アニメの美少女が恋人でいいという男と、イケメンと結ばれないのだったら、一人で生きていった方がマシという女ばかりで埋め尽くされた。

 割を食うのは、新興の価値観に流れられない男である。

 女が最重要視するもの、「顔」が致命的に悪いのに、秋葉原界隈を歩きながら、美少女のフィギュアに「萌え~」とか言っちゃったりするだけでは満足できず、三次元の女の、生身の肉体を求めてしまう江村のような男こそが、現代社会の中で、もっとも地獄を味わっている。

 四半世紀前、今、自分がこれ見よがしに振り回している長大なものから、初めておしっこ以外の液体が出てきた。その快感から始まった地獄を、ここで終わらせる。

 神が欲求不満の苦痛を与えるために自分に取り付けたものを、「ゆうちゃん」とか言って、自分をさんざん侮辱してきた女に、一生の苦しみを与えるために使う。 

 江村は瑠璃の髪の毛を掴み、透明のお掃除液をツーッと落とす鈴口を、瑠璃の頬に押し付けた。

                         

「うぅぅうわっ。ううぅうわあああああっ」

 頬から伝わる不快な感触に、瑠璃は身をよじらせて悲鳴を上げた。

 三十四歳の瑠璃がこれまでに経験した男は一人いるが、江村が押し付けている硬い棒の大きさは、カレのものとは桁違いだった。

「咥えろ・・。咥えるんだよ」

「やだぁっ。やぁだぁっ」

 想像するのも悍ましいことを言い放つ江村は、瑠璃の髪の毛を両手で掴み、頭を固定して、瑠璃のルージュが剥げた唇に、赤黒いカタマリを触れさせてくる。

 男性器についてよく言われるのは、興味もない男のモノは気色悪いだけだが、好きな男のモノなら愛おしい・・ということだが、セックスに淡泊な瑠璃の場合は、そうでもない。

 瑠璃の元カレ、桑田のペニスは、勃起してもししとうのように小さく、平時には亀頭を深々と覆っている皮を剥くと、スルメイカのような生臭いニオイが漂っていた。

 桑田は、自分のものを口に含ませるのを、まるで瑠璃へのご褒美かのように思っていたようだが、桑田の臭いアレをしゃぶらされるのは、内心、嫌で嫌で仕方なかった。桑田が射精を済ませ、桃源郷にいる間に、瑠璃はいつも、洗面所に行って、桑田の余韻が残る口の中を何度もうがいして洗浄していた。

「ううううううううううぶぶっ」

 今、唇に押し付けられている江村のコレは、桑田のアレとはまるで違う。

 右に湾曲しながら天へと向かって逞しく伸びる肉茎は、桑田の倍、いや三倍はあろうかというほど長く太く、浮き出た血管がビクビクと脈打っている。先から覗く亀の形をしたものは、佐藤錦のようなピンク色をしていた桑田のものと違い、アメリカンチェリーのように赤黒く、汗を濃縮したムッとするニオイを放っている。

 花のように、かぐわしい香りではない。しかし、妙にそそられる。瑠璃は、会社でいつもバカにしていた男の、もっとも忌むべき箇所を目にし、ニオイを嗅いで、お腹の中が疼くのを感じていた。

(嘘でしょ――。ゆうちゃんなんかに、こんなヤツに、なんで――)


「言うこときかないと、こうだぞ」

 江村が拳を振り上げたのを見て、瑠璃は泣く泣く、唇を小さく開いた。

(殴られるよりはマシ・・・でも、やっぱり無理)

「嫌ぁ、いやだぁ、いやっ、はぼっ・・・・」

 慌てたときには、もう遅かった。無理やり、口にねじ込まれたどす黒いものの不快な苦みに、瑠璃は顔をしかめた。

「ううっ。うぅぅうっ、うぅぅぅぼえぇぇっ」

 異常に野太いものをズッと刺し込まれ、喉奥を突かれて、瑠璃はグアッとえづく。江村は、それに構わず、剛棒をグリグリと攪拌するようにして、瑠璃の口の中を掻きまわしてきた。

「おぉ・・・あったかい。ジュワジュワ唾が染み出してきて、まるでチンポだけお風呂に入っているみたいだ」

 マジ、気持ち悪い――喉を塞がれた瑠璃の目じりから、屈辱の涙がこぼれ落ちた。

「おお、おお、女っていいなぁ、女っていいなぁ」

 江村は剛棒の先っちょを瑠璃の口蓋で擦りながら、下に伸ばした手で、瑠璃の肉マシュマロをテムテムと弾ませるように揉みしだいてくる。江村が瑠璃の柔らかさを味わうたび、江村の息子はますます膨れ上がり、獰猛な硬度を帯びてくるようである。

「よし・・・・口は、たっぷり味わったぞぉっ」

 江村が満足げにいって、ようやく瑠璃の口から、巨大な肉の棒が抜かれた。

「うっぷはっ。くはぁっ」

 三分ほども奉仕を強要され続けた瑠璃は、空気を貪るように吸い込んだ。

 しかし、生娘ではない瑠璃は、これは解放ではなく、さらなる地獄の始まりだということをわかっている。これから起こる恐怖に怯え、瑠璃が小刻みに震えるのに合わせ、左右の乳房が重たげにフルフルと揺れた。

 三十四歳の女体をこれから蹂躙しようかという江村は、爆発しそうな剛刀を、瑠璃のとろけるような脂肪の乗ったウェストに押し当てながら、瑠璃をドンと押し倒してきた。

「ぬぅずぁっ」

「いやぁ、やぁ、やぁだぁっ」

 必死に抵抗するが、女の膂力では、筋肉少なく、脂肪でぶよついた体の江村にも対抗できず、瑠璃は通勤着のスウェットと、色気もない紺のパンティを、あっさりと剥ぎ取られてしまう。
 
「ねぇ江村さん・・こんなことやめよう。こういうことって、愛する人同士でするものでしょう。いまは、一人きりかもしれないけど・・。江村さんにもきっと・・きっとこれから、江村さんのことを好きになる女性も現れるよ。そのときまで待った方がいいよ。こんなの、よくないよ」

 江村に組み敷かれた瑠璃が、泣いて江村の顔を見上げながら懇願した。

「心にもないことを言うな。お前の言うことが嘘だなんてことは、これまでの経験が証明している。今までずっと、女にフラれ、バカにされてばかりだった。七年間、婚活サイトに登録して婚活に励んできたが、交際に発展したことは一度もなかった。女ってのは、男を中身じゃ見てくれないんだ。女が見ているのは、男の外見だけなんだ」

 江村が、自分の悲痛な過去を語ったが、三十歳のころ、半年間だけ婚活サイトを利用していたことのある瑠璃は、江村の言っていることにまったく同情できなかった。 

 婚活サイトは、女性の会員は無料、もしくは、男性会員の半額程度で利用できるのが一般的であるが、もちろんそれは男性差別などではなく、それだけ女性会員の絶対数が少なく、希少価値が高いからである。

 それに、女性会員の方とて、一方的に有利な条件でサイトを利用できるわけではない。

 金銭面の負担が少ない代わりに、女性会員の方には、一定の期間内に必ず一度は、男性会員との顔合わせをしなければならない義務が課されている。これが厄介なところで、瑠璃は結局、そのノルマを果たすことができず、わずか半年の期間で退会を余儀なくされてしまった。

 女を理解しない男に、婚活女子の苦労を語れば、男よりも選択肢が遥かに豊富なのに贅沢だ、理想が高すぎるんだ、などといった声が返ってくるが、冗談ではない。

 多数の女と寝たことが勲章になる男と違い、一人の男と寝るごとに、貞操という価値を失ってしまう女は、相手を選ぶことに慎重にならなければならない。自分だけならまだいいが、生まれてくる子供のことを考えれば、到底、月に一人などといったハイペースで、生涯の伴侶を選ぶことなどできるものではない。

 子供の将来の九割は、環境によって決まる。子供を不良や落ちこぼれに近づけないためには、早いうちから私立に入れて、レベルの高い教育を受けさせなければならない。そのために必要なのは経済力。少なくとも、三十代で年収五百万に届いていない男は論外である。

 だがそれ以上に、瑠璃が重要と考えていることがある。

 顔。

 人間の一生の九割は、容姿によって決まる。自分が容姿に恵まれずに苦労したから、なおさらそう思う。

 どれだけキレイごとを述べようが、人は人を見た目で判断する。容姿に優れない瑠璃が、世の中で有利になるだけのルックスを持った子供を産むためには、自分の遺伝子を中和してくれるイケメンと結ばれなくてはならない。けして、自分が連れ歩いて自慢したいからではなく、生まれてくる子供のために、瑠璃は男を容姿で判断するのである。

 とても口に出して言えることではないが、江村のような、容姿も金もない、冴えない男が結婚を望むなど、生まれてくる子供のことを考えない、自己満足だと思う。それこそ男には、金さえ払えば性欲を処理できるシステムが存在するのだから、それでいいではないか。

 侮辱・・・。そう、江村のような男が、平気な顔して婚活戦線にしゃしゃり出てくるのは、優秀な遺伝子を後生に残そうとする女に対する侮辱なのだ。

 つわりの苦しみに耐え、腹を痛めて子供を産むのは女であることを、忘れてはならない。 

 江村のように、自分が快楽を満たすことしか考えられない男が、女からこっ酷く痛罵されてフラれるのは当然だし、それで女を逆恨みするなど、到底許されることではない。

 大体おかしいのは、江村のようにモテない男が、なぜか自分が、中身が良い前提でいることだ。後出しと言われようが、中身だって歪んでいるから、こんなふうに、無理やり女を犯したりするのではないか。

 やっぱり、ブサイクなんて無理。

 身勝手な男に理不尽な目に遭わされて、瑠璃は自分の男に対する認識は、けして間違っていなかったことを再認識した。

 必ずこの地獄を抜け出し、これからも男を顔で選び続けることを、心に誓った。

「ヒギッ・・・キッ」

 上に覆いかぶさる江村の顔面に、唾を吐きかけてやろうとしたとき、鋭い痛みが下半身を襲い、瑠璃は瞼を閉じた。江村が張りつめた肉剣の切っ先を、瑠璃の秘裂の入り口にあてがってきたのである。

「むっ・・・く・・どこだ・・・」

 せっかく入りかけた肉剣が、なぜか、あらぬ位置へと矛先を移してしまった。どうも、かなりブランクの空いているか、あるいはこれが初めてであるらしい江村は、瑠璃の中にうまく侵入できないでいるようだ。

「くそ・・・なんで・・・どうして」

 十代の、カワイイ顔した童貞くんなら己の手で導いてやるところだが、潰れたジャムパンのような顔をした中年男が、女の貫き方がわからずに戸惑っている姿などは、悍ましいものでしかない。瑠璃は無駄だとわかっていながらも、全力で腕を突っ張って、江村の肩を押した。

「濡れてないから、いけないのかな・・・」

 言うと、江村は顔を下げて、瑠璃の太ももを掴んで、股を蛙のように開き、パクッと開いた観音様のところを凝視し始めた。

 ゴクリと生唾を飲んだ江村が、ここ最近手入れを怠りがちで、剛毛が足の付け根付近にまで広がってしまっている茂みに、ぐぅ~っと顔を近づけていく。

 クンニリングス。実は、初めての経験。二十代のとき付き合っていたカレ、桑田は、舐められるのは好きだが、舐めるのは嫌いという男で、セックスに淡泊な瑠璃も、特に強要したりはしなかった。
「ひゃ・・・やめて・・やめてよっ・・・」

 シャワーを浴びた後ならともかく、労働を終えたあとの、洗っていない汚れた股間を舐められるなど、想像しこともなかった。だってそこからは、女子がけして漂わせていけない、チーズのような恥ずかしい臭いが漂っているのだ。


「・・・う・・・・ぉっ・・・・・・」

 瑠璃の恥部に触れた途端、江村の、毛穴に皮脂の詰まったイチゴっ鼻が、ヒクヒクと蠢いた。「これは・・・・・・」 

 江村は、ニ、三度、顔を上げ、信じられないといった感じでこちらを眺めていたが、やがて瑠璃の股間にしっかりと顔を埋め、ワインのテイスティングをするように、香りを確かめ、ピチャピチャと音を立てて舌を這わせ始めた。 

「・・・・すごい」

(すごいって、何がすごいの――)

 怖くて、とても聞けない。だって、瑠璃のそこは、とっても――。

「くさい。くさいんだが・・・・・妙に、癖になる」

 女子に対し、言ってはいけないことを、平気で言う。

 これだから、モテない男はイヤなのだ。

「んっ・・・とぅばとぅばとぅば。ぷとぅ、ぷとぅ、ぷとぅ。おぉう。おぉう・・・」

 初めて味わう口舌奉仕の味。忌み嫌う男の愛撫だろうが、女の悲しい性なのか、チリチリと火花が散るような快楽を覚えてしまう。

「おっ・・・おっ瑠璃っ・・・・くぁ、くぁわいいっ」

 江村の舌で感じているところを見せたくなくて、瑠璃は巨乳を押しつぶすように腕を小さく屈め、目をキツク閉じて歯を食いしばって声を押し殺そうとするが、皮肉なことに、瑠璃のそんな姿が、江村を余計に興奮させてしまっているようだった。

「ケハッ・・・ハァッ、ハァッ。おお。大分、チーズの臭いが消えてきた。濡れ具合もいいようだし、そろそろ、入れてみるか」

 江村が、瑠璃のニオイで興奮し、ますます猛々しくなった斬魔刀の切っ先を、再び姫貝に押し当ててきた。 

「おぅ・・・入るぞ・・・入っちゃうぞ。もうすぐ、瑠璃の中に入っちゃうぞ・・・」

 瑠璃の陰毛が亀頭に擦れるだけでも気持ちがいいのか、江村が鼻から抜ける声を出している。あまりの気色悪さに、胃の中のものを全部ぶちまけてしまいそうだった。 

 イヤだ、こいつと合体なんて、絶対嫌だ――。

 身を捩った拍子に、下腹部に鋭い痛みが走った。

「いった・・・・っ」

(ヤバい、下手に動いたせいで、入っちゃった――)

 反対方向に身を捩り、中のものを引き抜こうとしたが、上にいる江村がガッシリと肩を掴んで、瑠璃の動きを拘束する。

「逃がさん・・・逃がさん、ぞ・・・・」

 瑠璃を固定したうえで、江村は先っちょが引っ掛かった状態にある巨大な肉刀を、ズブッと中ほどまで刺し込んできた。

「ってぇ、いってえよ、ァァア、裂ける、裂ける、いってえっっ」

 案の定、いや、予想を遥かに超える猛烈な痛みに、瑠璃は悶絶した。

「うへぇ・・・・。入ったぞぉ・・・・」

 瑠璃の叫ぶ姿を見て口角を釣り上げた江村は、調子に乗って、さらに奥へと、悍ましい黒棒を突き入れてくる。

「あぁオぁぁぁぁぁっ、許して、許して、許してぇぇうおおおおおおっ」

 江村が、膣口に嵌めたブラックタイガーを根元まで刺し込んでくると、生涯で一度も味わったことのない痛みが、瑠璃をさらなる悶絶地獄へと突き落とした。

 認めよう、自分は、男を舐めていた。

 男女平等を叫ぶ一方で、女は守られるべき対象であると主張する矛盾に気付かず、弱い女は、強い男に対し、何を言っても許されるとタカを括っていた。

 女であるという理由だけで不利になる場面も、何度も味わっている。だが、自分の腹の上に圧し掛かっている江村のような男を、容姿のハンデのない男と同じ強者と認定し、ゆうちゃん使えない、ボンクラのゆうちゃん、などと、いつか本人の耳に入ることを承知で陰口を叩いていたのは、ただのストレス発散でしかなかったのではないか。

 女が好きで好きで、女に愛されない。欲求不満の生殖器を持て余し、ただ、人の幸せを指を咥えて眺めながら、労働力として消耗させられることを余儀なくされている可哀想な江村を、ただ、男であるという理由だけで悪口を言うのは、優位な立場から人を見下して蔑む、もっとも許されない愚行ではなかったか。

 自業自得――その四文字が、脳内のスクリーンに拡大表示された瞬間、瑠璃の意識がフッツと途切れた。

 断罪の剣に、女体をズタズタに切り裂かれる。

 限界を超えた痛みに、脳内の強制終了ボタンが押されていた。


                        3


 自分の、デカすぎるものを突き入れられた瑠璃が遠い世界に行くのを、江村は冷静な顔で眺め下ろしていた。

 ほおらね。

 ちんぽがでかいと女が喜ぶなど、まったくの嘘っぱちだ。

 度を過ぎる巨根は、ただ女の肉体を傷つけ、痛みを与えるだけなのだ。

 江村の性体験は、生涯にたったの一度。二十六歳のころ、出張で行った東京の格安ソープランドで、自分の母親のような年齢の熟女を相手にしたときだけだった。

 あのとき江村のモノを見たときの、嬢のげんなりしたような顔が、ずっと印象に残っていた。 やっている際中は夢中でわからなかったが、今からすると江村のペニスは、騎乗位で腰を振る嬢の中には入っておらず、素股でイカされたのではないかとも思う。

 そうだとするなら、江村はあの時点でまだ童貞を失ってはおらず、これが正真正銘の初体験だということになる。

 巨根が女を喜ばせるなど、都市伝説に過ぎない。やはり自分の肉体は、何から何まで、女を嫌がらせるだけの要素に塗れているのだ。

「瑠璃・・・。涙、しょっぱィィィィ」

 自分に犯された女が目の端から流した塩水を、口に含んだ。

 そのとき江村は、自分が女に選ばれない顔に生まれたことを、初めて良かったと思った。

 これが、自分を女へのご褒美だと思っているイケメンには、けして味わえぬ美酒。

 神が欲求不満の苦痛を与えるために付けたもの――それが今はどうだ。

 ひとたび悪魔に忠誠を誓った途端、法では裁けない罪を犯した女――モテない男をコケにしてくれた女を断罪するための、武器となったではないか。

 瑠璃が気づいているのかわからないが、江村は瑠璃が、自分のことをゆうちゃん、ゆうちゃんなどと、軽んじた綽名で呼んで小馬鹿にしていることなど、とっくに知っている。

 ラインのリーダーにも関わらず、オドオドして、指示は曖昧で、直属の上司からこっ酷く叱責されている自分を見て、いつもクスクス笑っていた瑠璃は、いま、自分の下で、意識を飛ばして泡を吹いている。江村の業棒が、それをやったのだ。

「はははははぁっ、ざまぁみろぉっ。どうだぁっ、ゆうちゃんのチンポはぁっ。お前が想像していたより、ずっとすごいだろうがぁっ」

 硬くして肉体を刺し貫くだけでも、十分なダメージを与えた。しかし、この裁きの杖のポテンシャルは、そんなものではない。

 どうなる――?

 一目で女を不快にさせる醜い顔面の自分が、関わった者すべてに軽んじられる無能な自分が、自らの劣悪な遺伝情報を胎内に送り込んでしまったら、女はどんな悲痛な顔を見せる?

 見たかった。自分を嘲弄した女が、心底嘆き、悲しむ姿が見たかった。

 白濁の憎しみを撃ち込まれ、望まぬ子を宿して腹を膨らませ、つわりの苦悶に呻く姿が見たかった。

 激痛に悶えながら、もっとも忌み嫌う男と、己の遺伝子の結晶を産み落とすところが見たかった。
 双乳から噴き出す白濁の哀しみを口に含ませ、その甘味、まろ味に舌鼓を打ちたかった。

「ア・・ゥ・・ゥゥ、いつ・・・痛い・・っ」

 痛みで気を失った瑠璃が、痛みで再び覚醒する。

 江村は、意識を取り戻した瑠璃の口に、たらこと呼ばれた己の唇を、ちょんとタッチした。

「瑠璃・・わかるだろう。お前の中に、俺が入ってるぞ」

 上を向くと重みに負けて、ぶにっと潰れて広がる瑠璃のやわい乳肉を揉みながら、江村は口の端から唾液をこぼしつつ言った。 

「これから、俺は腰を振る。すると、俺のちんぽは気持ち良くなって、精子を出してしまう。俺の遺伝子が、瑠璃の子宮を目がけて撃ち込まれるんだ。そして、瑠璃の中で赤ちゃんができる。俺の顔は醜いからな。産まれる子供も、きっと醜い顔になるだろう。醜い俺と瑠璃の子は、どんな一生を送る?俺の人生は、俺が女を好きになるようになった小学校高学年のころから、いつ自殺してもおかしくない、地獄のようなものだった。管理の名の元、体罰上等の教育を受けてきた世代の俺は耐えることができたが、果たして、現代の軟弱な教育を受けた子供が、その地獄に耐えることができるかどうか。確率は五分五分、いやそれ以下かもしれない。醜い俺と瑠璃の子は、女を好きになる年頃になると、女にフラれまくり、そしてやがて、自分は一生、女に愛されないのだと知る。俺の知る限り、その苦しみは、死んだ方がマシと思えるほどだ。瑠璃、お前はこの先、苦しみに耐えかね自殺するとわかっている醜い子を、つわりの苦しみを味わいながら孕み、そして痛い思いをしながら産み落とすことになるんだ」

 ほとんど、常軌を逸しているとしか思えない江村の長広舌に、腹の下の瑠璃が青ざめ、目じりにいっぱい、恐怖の涙を浮かべた。その塩辛い涙を、舌でチロチロと掬う江村の目からも、大粒の涙がこぼれ落ちていた。

 好きこのんで、こんなことをしているわけではない。

 本当は、愛し合って、やりたかった。

 しかし、それはどうやら、自分には永遠に無理だということがわかってしまった。

 だから、監禁して無理やりヤることにした。

 世間はそれを悪と言う。しかし、世間を捨てることになんの未練もない男に、悪人のレッテルは何の歯止めにもならないのだ。

「ァァアアアアアアアアッ、アアァァァァァァァァッ!」

 江村の倒錯の演説が効いているのか、瑠璃は天まで響くような、大きな悲鳴をあげた。しかし、瑠璃の発する声は、八畳ほどの広さの倉庫からは、一切漏れない。

 半年前、婚活サイトを退会した江村は、貯金のすべてを、実家の倉庫を完璧な監禁小屋にするための設備投資に費やしてきた。

 頑丈な鉄扉に、指紋認証式のキーを取り付け、声が外部に漏れないよう、壁に防音装置を取り付けた。

 実家に同居する母親は、数年前から認知症を患っており、父親はその介護に追われ、息子が庭でやっていることにはまったく関心を持たない。

 天涯孤独同然の身の上となっている瑠璃を探す者は誰もいない。うまくすれば、江村は死ぬまで、四歳下の豊満な女体を貪れるかもしれないのだ。

「ってぇぇっ。痛い、痛い、いったい、いたいぃぃぃぃぃっ」

 瑠璃の口から叫ばれる言葉を裏付けるように、瑠璃の秘裂から、鮮血が滲み出ているのが俯瞰できる。江村の勃起は文字通りの凶器となり、女の肉体を傷つけているのだ。

「いくぞぉ。いくぞぉぉぉぉぉぉ」

 さあ、これから摩擦により、女のデリケートな粘膜をさらに裂傷させ、地獄の苦痛を味合わせてやろうとしたとき、江村は戸惑った。

 腰を、どう動かしたらいいのか、わからなかったからである。

 江村の性体験は、三十八年間の生涯でたった一度、六十分で総額一万三千円の格安ソープランド。パネルに記載されていた年齢より二十歳近くも老け、写真よりも二回り以上ウェストのでかい、とうのたったベテランのソープ嬢に、デカすぎると文句を付けられながら、仰向けで噴火させた十年前の記憶だけしかない。

 男性上位で結合するなど初めての経験だし、まして腰を動かすなど、夢想の中だけでしかやったことがない。

 幼いころから、運動は大の苦手で、体育の点数はいつも良くなかった。ライン作業でも手際が悪く、リーダーの立場ながら、作業者たちに見下されていた。

 ピストン運動を成立させるだけの運動神経が、自分にはない。

 この場には瑠璃と江村しかいないのに、なぜだか、世界中からバカにされているような被害妄想に襲われる。

 神は、どこまで自分に屈辱を負わせれば気が済むのか?

「ふん・・・ふんふんふん、ふん」

 苦し紛れに、下半身よりも脳の指示伝達がいきやすい上半身を動かしてみたが、腕立て伏せをしているだけでは、男の快楽もないし、女の痛みもない。

「くっ。どうすれば・・・」

 性愛の神エロースから、とことんまでに見放された男。しかし、今の江村は、悪魔に魂を売り、神への復讐を誓った身である。こんなことでは、諦めはしない。

「う・・・おっ・・・これか!」

 思考錯誤するうち、雄の本能が徐々に目覚め始め、次第とうまい具合に、下半身を動かせるようになってきた。

「ってぇぇぇっ。抜いてっ。抜いてよぉぉぉぉぉぉぉぉっ」

 江村の抽送が滑らかになってくると、腹の下の雌が、エロースに祝福された豊乳を悩ましく揺らしながら、その身に埋め込まれたものを拒絶する騒々しい声を上げた。だが、それは江村をより興奮させる素にしかならない。

 八畳の倉庫の中に、スパパパパン、と、三十八歳の太鼓腹が、三十四歳のエロティックに膨れた下腹にぶつかる音が響き渡る。その肉の打擲音も、江村の興奮をより掻き立ててくれる。

 しかし―――。

「・・・・・・・・・・・?」

 長きに渡って夢見てきたはずの性交だが、自慰のときのような快感は、なかなか襲ってこなかった。

 平常時から露茎しているおかげで、粘膜が剛化して皮膚になった江村の亀頭は感度が鈍く、また、三十八年間、己の右手の刺激しか知らなかったせいで、女の中で達する術を知らない。通常において、童貞は早漏とセットで語られやすいが、長きに渡って操を守ってきた男は、むしろ遅漏なのである。

 体力のない男には不都合となる遅漏だが、体育の中で唯一、マラソンだけは得意で、能力がない代わりに、連日の残業には耐えるタフガイの江村には、持ってこいの体質である。

「痛い、痛い、いたいぃぃぃぃぃぃぃっ・・・・・いっ・・いっ・・・・ア。ア・・・・」

 長く味わえる特権を活かし、三十分近くも腰を振り続けているうち、瑠璃が感じてきた。

痛みを超えて、膣肉が巨棒に適応し始めたのである。

「う・・。ぅぅぅぅうううぅっ。ぅぅぅぅううううぅぅぅっ」

 しかし、忌み嫌う男の腰使いで快感を得るのは、女にとっては、ある意味、痛みを味わう以上の苦しみである。

 目尻に小じわを寄せ、鼻の脇に深々とほうれい線を引いて、涙と洟でぐしゃぐしゃになった三十四歳の女の顔。

 それは、この世のどの女よりも美しかった。  

 視線を少し落とせば、コツッと浮き出た鎖骨の下で、ひしゃげたミルク袋がたぷんたぷんと揺れるのが俯瞰できる。運動不足気味の三十四歳の、水袋のように柔らかい肢体に、江村は酔いしれていた。

「うっ。あああああおっ。来るぞ、来るぞ、来るぞっ」

 四十分以上腰を振り続けても中折れしない江村の業棒に、ようやく快楽の波が押し寄せてきた。
「おっいくっ、おっいくっ、もうすぐいくっ、おおおおおおおおっ」

「アン、アン、アン、アンワワワワワワワワワワ」

 江村が、これが初めて女を攻めた経験とは信じられない速さで瑠璃を突きまくるせいで、瑠璃の法悦にビブラートがかかっている。

 江村の滴らせる据えた汗の雫を全身に浴びて、肌をヌラヌラと光らせながら、瑠璃も絶頂へと昇っていく。

「アワワワワワ、アン、アン、アワワワワワワワワワワ」

「オオッ、オオッ。うっくっ、うっくっ、うっくぅぅぅぅぅぅっ」

 三十八歳の白濁の憎しみが、三十四歳の赤ちゃん部屋目がけて、一斉に放流された。


「あっつ・・・・いやぁっ・・・熱いぃっ」

 最奥部が受け止めた粘液の、常軌を逸した熱さに、瑠璃は顔をしかめた。

 子宮口がぐっと縮まって種を掴み、瑠璃の赤ちゃんのベッドへと持っていっているのがわかる。瑠璃がずっと、イケメンの遺伝子を待っていたベッドが、無人島で二人きりになってもあり得ないと思っていた醜い男のヘドロで汚染されているのだ。

「ぐおっ。瑠璃ィ、まだ出るぞっ。もっともっと、出るからなっ・・・」

 しかも、江村の放つヘドロは、信じられない量だった。

 卵子の数が十代の半分ほどにもなる三十四歳の瑠璃に赤ちゃんを作らせるには、それは激しい競争を勝ち抜かなくてはならない。

 フィジカルの問題だけでなく、年を経るごとに、男を見る目が肥えていくのも、妊娠する難しさに拍車をかけている。

 若い頃には、つまらぬ男に身体を許してしまったこともあったが、いまの瑠璃は、そんじょそこいらの男には振り向かない。

 年齢四十歳まで、年収五百万以上、大卒以上。家事は分担制で、子供ができたら瑠璃は育児に専念し、夫の小遣いは月に五万円まで。それが最低の条件で、無論、それを吟味する以前に、「顔」が良くなければ、お話にもならない。

 それなのに。

「オオ…ッ。気持ちぃぃぞぉ。いいぞぉ、瑠璃ぃ・・・」

 こんな、同じ生物とすら思ってなかった男に・・。

 踏まれたじゃがいものような男に抱かれるばかりか、子種まで注入されてしまうなんて・・。

「ぉっくあッ。俺の赤ちゃん出来ちゃぅぞぅっ!くあアっ、かっ!」

 ズグ、ズグ、と巨砲を奥までねじ入れられ、瑠璃と江村の粘液で満たされた蜜壺をかき回されながら注がれると、瑠璃もオーガズムの波に飲まれてしまう。

 これだけ出されたら、ハートを射止めるのも子種を宿すのも難しいアラサー女子の胎内にも、易々と新たな生命が出来てしまいそうだった。

「はぁ、はぁ・・・。おっ・・うふぅっ・・・」

「・・っ、ひんぎぃっ」

 江村が、役目を終えても、まだ硬度を失っていないものを引き抜く際、大きく張り出した傘が粘膜に負った裂傷を擦り、鋭い痛みが走った。

 山芋のように、糸を引きながらトロトロと床にこぼれていく白濁の粘液には、瑠璃の傷から漏れた、桜のような薄桃色のシロップが混じっている。

 理不尽な悪魔への怒りと、人間のものとは思えぬ巨根で粘膜を傷つけられた痛みと、最後の方には感じてしまった自分への悔しさと――到底、処理不可能な感情の波状攻撃に耐えきれず、瑠璃の目から、大粒の涙が溢れ出した。

「はぁ・・・はぁ・・・・」

 江村は、さめざめと泣く顔をシーツで覆い隠している瑠璃に声をかけることもなく、汗みずくになった身体に脱ぎちらかしていた服を着て、肩で息をつきながら、何も言わずに倉庫を出て行ってしまった。

 しばらくして戻ってきた江村は、寝間着であろうTシャツにスウェット姿をしており、ボディソープのいい香りをさせ、両手に食料の大量に入った、業務用スーパーのビニール袋を持っていた。

「男の精液の量がピークを迎えるのは、最後の射精から三日後だと言われている。三日が過ぎると、作られた精子は精巣の中で死んでしまい、それ以上絶対量が増えることはないそうだ」

「・・・・だから・・・?」

 いきなり真顔で、聞きたくもない蘊蓄を垂れてきた江村に、瑠璃は眉をひそめた。

「だから俺はこれから二日間、お前を抱くのを我慢し、精液をチャージする。しかもその間、マカ、亜鉛、赤マムシなどのサプリを摂取し、タフガイマン、オットビンビンXXX、超竜爆発などの栄養ドリンクを飲み、食事もにんにくをたっぷり入れたとんこつラーメン、ニラレバ炒め、生卵をジョッキに満たしたものなどを食べる。そうして強化しまくった精子を、お前の赤ちゃん部屋に打ち込むんだ。そして、俺と瑠璃の間に赤ちゃんを作り、その赤ちゃんと一緒に、瑠璃のおっぱいを、ごくごく飲むんだ」

 江村がニタァッと笑いながら放った、正気を疑うような言葉に、瑠璃は眩暈を覚えた。

「ふふっ・・・。飲みたいなぁ、瑠璃のお乳。きっと、真っ白で、まろやかな舌触りで、生クリームより甘ぁい味がするんだろうなぁ。ふふ・・楽しみだぁ・・・・」

 ふざけたことを口走りながら、江村は食料と飲料水を床に置いて、畳張りの倉庫を去っていった。
 悪魔が去っていった部屋の中で、瑠璃はうつ伏せになり、ずっと咽び泣いていた。

 膣内に射精されるのは生涯で二度目の経験だが、江村の出した精液の量が、瑠璃の元カレ、桑田に中出しを食らったときとは比較にならないほど多量であることは、感覚として間違いなかった。
 あれを、さらに増幅して出されたら・・・。

「いやだ・・・・そんなの、絶対いや・・・・・」

 女性として、出産、育児に意欲はあるが、江村との間に出来た子供を愛せる自信は、とてもではないが、あるはずもなかった。

 江村の口ぶりからすると、あの男はただ、母乳を飲みたいがためだけに、瑠璃との間に子供を作ろうとしているようである。

 いったい、何をどうすれば、そこまで身勝手な考え方ができるのか?理解の範疇を超える男への怒りと恐怖に、瑠璃の一重の目から、枯れることを知らぬ涙が、次々と溢れ出てきた。

「なんでだよ・・なんであたしが、こんな目に遭わなきゃいけないんだよ・・・」

 三十四年間、聖人君子のように生きてきたとは言い難い。しかし、少なくとも、これほどの理不尽に遭わなくてはいけないほどの罪は、犯したことはないはずだ。

 いや・・・。それともやはり、これまで江村のような、モテない男をコケにしてきたことは、神罰を受けなければならないほど重い罪だったのだろうか。

 絶望と慟哭の中、瑠璃は救われぬ自問自答を繰り返していた。

「いったい・・・。痛いし、汚い・・・くそっ。なんだよ、ちくしょう・・・」

 処女でもないのに、瑠璃の秘裂からは紅色の鮮血が垂れ流れ、見るだに悍ましい白濁と混じり合って、イチゴミルクのようになっている。江村の異常に巨大なもので負った粘膜の裂傷は、思った以上に深かった。

 これ以上、江村に身体を好きにされ、傷つけられるなど、冗談ではない。少し冷静さと前向きさを取り戻した瑠璃は、ティッシュで股間を拭うと、江村に脱がされた服を着て、閉じ込められた倉庫から脱出する術を探し始めた。

「出なきゃ。はやく、ここから抜け出さなきゃ。でも、どうすれば・・・」

 倉庫のドアは内側からロックがかかっており、押しても引いても、ビクともしない。大声で叫んでみても、壁一面に貼られたウレタン製の防音シートのせいで外にはまったく届かないらしく、ただ体力を消耗するだけだった。

「くそう・・・なんでだよ・・・くそう・・・・」

 どれほどの時が経ったのだろうか。泣いて叫んで暴れたせいか、瑠璃は強い空腹感を覚えていた。

 江村が置いていった食料に手が伸び、引っ込めることを繰り返す。

 こんなに辛いのに、腹が減ることが悔しい。理不尽を味合わせた憎い男に頼らなければ、露命を繋ぐこともできない自分の境遇が、悔しくてならない。

 それでも、胃壁が溶けているかのような猛烈な空腹感にはどうしても抗うことはできず、瑠璃はとうとう、ビニール袋の中に入っていたシャケ弁当を口にしてしまった。

 シャケの切り身、ちくわの磯辺揚げ、ミートボール、ポテトサラダ、そして白米を、次々に口の中へと放り込む。胃袋がすっかり満たされると、今度は猛烈な睡魔が襲ってきた。

 布団をかぶり、すぐに眠りへと落ちた。

 泥のように眠って、翌朝――閉め切られた部屋の中では、時間も、外が明るいのか暗いのかもわからないが――おそらく、朝なのであろう時間に瑠璃を目覚めさせたのは、股間部を襲う、猛烈な痒みだった。

「かぃぃ・・・何これ」

 おそらく、江村の巨根で傷つけられた粘膜が治癒しかけているせいだろう。秘部の中で、小さな虫が這いまわっているかのようなこそばゆさに耐えかね、とうとう瑠璃は、昨日から洗っていない不潔なアソコへと、手を伸ばしてしまった。  

「ひ・・・・アッ・・・・・・」

 敏感な粘膜を、指先でそっと擦ったとき、悍ましいほどの快感が背筋に走り、瑠璃は身を震わせた。

 恐る恐る、もう一度触ってみる。

「ァゥ、ぁッ・・・・・」

 背筋を電流が這い、次に腹腔内で、一つではなく無数の快楽が炸裂する。

(なにこれ・・・。お腹の中で、細胞がプチプチと弾けているかのよう・・・・)

 これまで、触っただけで、これほどの気持ちよさを味わったことはなかった。

 感度が、桁違いに上がっている。江村の肉棒でかき回された瑠璃の身体は、これまでとは全く別のモノへと変化してしまっているようだった。こんなことは、元カレの桑田のときにはまったくなかったことである。

(あんなヤツを、身体が求めているっていうの・・・?嘘、嘘嘘、そんなのイヤ)

 脳裏に蘇るグロテスクな巨棒を振り払おうとかぶりを振ったが、頭の中の江村を追い出したい瑠璃を嘲笑うかのように、花芯はズクズクと信号を発し続けている。

 認めなたくない現実から逃れるために一番なのは、とびきりのスイーツを食べること。幸いなことに、食料だけは豊富に置かれている。瑠璃は冷蔵庫を開け、大好きな焼きプリン、続いてチョコチップメロンパンを袋から取り出して、牛乳で喉に流し込んだ。

 食べて満たされるどころか、食欲は次から次と湧いてくる。

 江村が姿を見せなくなったプレハブ小屋の中で、瑠璃は江村が置いていった食料を食った。豚のように食った。腹が減っていなくても食った。

 なぜなら、ほかにやることがないからである。部屋の中に体重計はないが、食べるごとに、確実に身体全体のボリュームがアップしているのはわかった。

 二日後に訪れる地獄を忘れるため、瑠璃は食った。食って食って食いまくり、乳房に、太ももに、二の腕に、腹回りに、余計な肉をつけていった。それが、江村の狙いであるとも知らずに・・・。


                     4


「わっとわっ」

 工場で、ラインの間を歩いていた江村が、情けない声を上げてスッ転んだ。ゴミ箱に投げ捨てられたロールの芯が枠に当たって跳ね返り、江村の静電靴の下に入ったのだ。犯人は、川原美都のラインにいる作業者、間島慎吾である。

「おぉい、気をつけろぅ」

「すんません」

 正社員である江村が、声を裏返らせながらドヤしつけると、派遣社員の慎吾は素直に頭を下げたが、その顔はどこか、こっちをバカにしたようにニヤついている。

「もう、何やってるの間島さん!すみません、江村さん」

 リーダーの川原美都が飛んできて慎吾を𠮟りつけ、江村に詫びるのを見て、少し溜飲が下がる。
「いや、いいんだよ。次から気を付けてくれれば」

 以前までは、美都と慎吾の仲に嫉妬していた江村だったが、念願の女体を得たことで、若い女教師とアホな高校生のような彼らの日頃のやりとりを、余裕を持って見守ることができるようになっていた。

 劣っていない。自分が手に入れた三十四歳の女体は、かつて、焦がれに焦がれ抜いた二十八歳の女体に、少しも劣っていない。

 バストの大きさは変わらないが、ツンと尖ったロケットのような美都の乳に比べ、瑠璃の乳は重力に負けて下を向いてしまっている。いやらしく丸みを帯びた美都のヒップに比べ、瑠璃のどこか締まりのないヒップはウェストのラインとほぼ垂直で、そのウェスト回りにはみっしりと脂肪が乗っており、くびれとは縁遠い。

 それがいいのである。

 なんというか、リアリティがある。完璧な美貌は目の保養にはなるが、どこか生きた人間ではないようで、雄を奮い立たせるものがない。美都の抜群のプロポーションよりも、瑠璃のような崩れた身体の方がずっと生々しく、生物的なエロティシズムに溢れている。

 負けてない。瑠璃のわがままな身体は、若く美しい女にも、けして負けていない――。

「うおおっ。うおおぉっ」

 勤務から帰るや、三日間の禁欲を乗り越えた江村は、獣の唸り声をあげながら、瑠璃の監禁小屋へと入っていった。

 トイレもシャワーもついておらず、換気のための窓は閉め切られている八畳の空間には、排泄の芳ばしい香りと、女の汗と皮膚の老廃物の据えた臭いが漂っている。

「う~う~う~ん。グッドスメ~ル」

 一瞬でも瑠璃の声が漏れないように、指紋認証式のキーのついた鉄扉を手早く閉めた江村は、瑠璃が用を足したおまるを部屋に残したまま、恐怖のあまり、悲鳴をあげることもできないでいる瑠璃に襲い掛かった。

 三日前から着たきりの衣服を乱暴に引きはがし、己も生まれたままの姿になって、瑠璃を座らせ、後ろから抱きしめる。

「ぽぽ・・・ぽぽぽぽぉ・・・やわらかぁ・・・・」

 上ずった声をあげる江村が揉みしだいているのは、瑠璃の乳房ではなく、お腹である。

 基礎代謝量が二十代より一割ほど落ちる三十代の瑠璃の下腹には、こんもりとした肉が乗っている。自分が姿を見せなかった二日間、ゴロゴロと食っちゃ寝をしていたからであろう、初めて貫いたときよりもいくらかサイズアップしているようだ。

「ぽ。ぽ。ぽ。瑠璃のぷにっぷになお腹、とろけたバターみたいだぁ」

 これがいいのだ。右手が恋人だったころから、これをずっと、揉みしだいてみたかった。

 モデルのようなスレンダーボディは美しいが、エロさがない。土偶をみろ、男は古来より、下半身にたっぷり脂肪を蓄えた、ふくよかな女に欲情してきたのだ。

「だらしない身体しやがって。くそう、くそぅ、くそぅっ。なんてエロい身体なんだっ。さいっこうにエロい腹だっ。むにむに、ちゅぱぱぱぱっ」

 江村は、瑠璃のお腹の肉をつまんだり、掌でちゃぷちゃぷ揺らしたり、舌で舐めたり、唇でちゅぽんと吸ったりなどして、熟した柔らかさを存分に味わった。

「おっ。おおっ・・瑠璃・・。育ってる。育ってるぞ」

 次に、Gカップはある豊満なバストを揉もうとしたとき、江村は監禁した当初、小さな黒点のようだった瑠璃の腋毛が、いまは若芽のように垂直に伸びているのに気付いた。

「ぅおぅ・・・・かわいい瑠璃にも、俺と同じで腋毛が生えるんだなぁ・・・。そしてこのニオイ。ん、、ん~っ。たまらぁん」 

 茶色く、染みのついたようになっている腋嵩からは、鼻にツンと刺さる臭いと、蜂蜜のような甘い匂いが混じった、なんとも悩ましいニオイがする。たっぷり嗅いでから、三十四歳の女性ホルモンが濃縮された場所を、ちゅるちゅると音を立てて味わった。

「ん、ん、ん~んばばばばばっ。あーっ。ママーっ」

 汗ばみ、ぬるつく巨乳に顔を埋めると、三十八歳は、まだ、生きる痛みを知らなかったころへと帰っていく。

 野いちごのような乳首を、たらこ唇に含んだときの甘味がたまらない。なぜ、三日間、風呂に入らず不潔にしていたのに、身体がこんな甘味を帯びていくのか不思議でたまらず、江村は脂肪の海で夢心地を味わった。

 二日間の熟成期間を経て、甘く愛しく変わった瑠璃の身体。しかし、もちろん、汚れてしまったところだってある。

「おぉ。瑠璃のまんこ・・・・随分、くさくなったじゃないか。んん~っ。くさい。あぁ、くさいなぁ、二日間会わない間に、ずいぶんクサくなったもんだ。なんでこんなに、クサくなったんだ?ん?」

「そんなの・・・お前が洗わせてくれないからに決まってる・・・てか、私のこと、名前で呼ぶなよ」

 江村の問いに、瑠璃が苦し気に答える。その苦悶に満ちた表情が、江村をより興奮させる。

「あぁ~くさい。あぁくさい。マンコの中で、イワシが干からびているようだ。とってもくさい、あぁでもいやらしィ、エッチなにおいさせてるぞ、瑠璃のまんこ。ん、ん、ん、ちぱ~っ。おっおっ、お尻の穴の方を嗅ぐと、う~んこのにおいがするぞっ。お、お、女の子でも、うんこはするんだなっ。あっあっ。たまらないっ。おんなのにおいとは、なんといいものなんだっ。なんでこれを、もっとはやく味合わせてくれなかったんだっ。ゆるさんぞっ、ゆるさんぞっ、ゆるさんぞぉっ」

 江村が、異常な言動を放ちながら、ちぷちぷと下半身に舌を這わせるのに、瑠璃は悶絶して抵抗するが、江村はオナモミの種子のように執拗に食いついて離れない。

「ああああっ。もうたまらん、たまらんぞぉっ。俺はお前が好きだっ、好きだっ、好きだぁっ。せ、せ、青春、今が青春だぁっ」

 わけのわからないことを言いながら、江村は瑠璃を仰向けに倒し、反り返った三十センチ砲を、黒々と活力に満ちた茂みに埋め込もうとする。

「やめっ。いや、や、離れて、だめ、入れないでぇっ、うぁ、ああ痛い、痛いーーーーっ。あっ、つ、いたい、いたい、いってぇっ、いてえ、いってぇっ。いってぇぇよぉぉっ。お願い、抜いてぇっ。っ、っ、っ、これ以上無理、無理、むーりーっ、む、ああっ、く、ぉぉぉぉぉっ、たえらんない、いたい、しぬ、しぬ、死ぬーっ、く、おーーーーーっ」

 女の悲鳴が、リラグゼーション・ミュージックのように、心地よく鼓膜に響く。

 ムリムリィっと音がして、巨根が奥まで入っていった。

 挿入した長大なものを前後に揺すると、あっという間に本能が爆ぜ、下半身のスタンピートが始まった。

「んんんんんんんんがぁぁぁぁアっ。アアアアアアってえぇ、いてぇ・・・・いたい~、いたい~っっ」

「おぉぉっ。かわいい、かわいいぞぉっ。瑠璃を、瑠璃を一生守っていくんだっ。瑠璃を守る、守るぞぉっ。俺は瑠璃を守るために、瑠璃をさらったんだっ。守るためにさらったんだぞぉっ」
 媚肉を摩擦する業棒から快美な電流が昇り、江村の苔むしてクレーターの多い岩石のような顔面を蕩けさせる。

 胴体の上についているものが優秀かつ美麗でなければ、胴体の下にぶらさがっているもので快楽を味わえない、ふざけた現代社会の仕組みをずっと呪っていたが、いま、江村は、自分がイケメンに生まれなくて、本当に心から良かったと思う。

 女を忌み嫌うべきグロテスクな邪棒で突き抜き、死んだ方がマシと思えるほどの苦痛を味合わせながら、己は快楽の園へと昇り詰める。

 これが、自分の粗末なちんぽを、女へのご褒美だと思っているイケメンにはけして味わえない幸福。女から、丘に打ち上げられたらすぐ死んでしまう深海魚のようだと評される顔をした不細工男にしか味わえぬ、悲憤と絶望の先にある幸福である。

 江村が、缶コーヒーほどの太さのあるもので、瑠璃のデリケートな粘膜を、ズチッ、ズチッ、と音をたてて擦るたび、二人の結合部から、紅ショウガの汁のような鮮血が迸る。

 江村は、脂肪と剛毛に覆われた生白い身体を、瑠璃のわがままな身体にぎっちりと密着させ、己の胸で巨乳を押しつぶしながら、くなくなと腰を打ち付けた。

 腹の下で呻く女の涙を口に含んで、舌の上で転がした。江村は、もう泣かなかった。

 こんなはずじゃなかった。でも、これでよかった。こんなにも、気持ちがいいのだから。

「ア。アンアン、アウゥ」

 初めのときより、ずっと早く邪棒に適応し始めた女体が、苦痛を超えて法悦を漏らし始めた。


 正常位で抽送する江村の腰使いは、初めて犯されたときとは比べ物にならぬほど滑らかで、速く強く、下半身の力を無駄なく瑠璃の芯へと伝えていた。

 江村の業刺しは、元カレの桑田が届かなかった瑠璃の子宮口を軽々とノックし、瑠璃の奥に、魔法のステッキで叩かれたような快美を与える。これが、短小の桑田では味わえなかった、女の喜び・・。
 でも、認めたくない。

 でも・・・・気持ちいい。

「う・・ぅぅぅ・・・ア・・アゥ・・・・・ア、ア、アンン、アンンンンンッ」

 視界には無数の星が瞬き、大銀河を揺蕩っているかのよう。凄烈なまでの癒しと痺れに、瑠璃はもう愉悦の声を押し殺すことができなかった。

「ア・・・アフアーーーッ」

「うっ。くせっ。くせぇぞぉっ」

 快楽に屈服した瑠璃が、大きく息を吐いた瞬間、これまで、フェザー級のボクサーが繰り出すコンビネーションを超えるスピードで腰を打ち付けていた江村が、突然動きを止め、顔をしかめて口元を押さえた。

「俺は、まんこがくさいのは大歓迎だ。瑠璃のまんこが漂わせる、魚の腐ったような、チーズのドロドロしたようなにおいは、エロくて最高だ。しかし、口がくさいのは好まん。まんこがくさいのは、女が自分でくさくなったえっちなにおいだが、口がくさいのは、単に胃の中の食いモンが腐っただけのにおいだからな」

 せっかく、良くなってきたところで、デリカシーもクソもないことを言い放つ江村。だから、モテない男はダメなのだ。

(ダメだけど・・・でも今だけは、とってもイイ)

「ひ・・・。ヒアッ」

 肉傘が襞を擦り上げ、瑠璃から引き抜かれていった。

 瞬間、瑠璃はイケメンのカレ、桑田に別れを告げられたときにもなかった喪失感に襲われる。

 なぜ。なぜ、あんな醜い男がいなくなるのが、こんなにも切なく、悲しいのか。

 激しい疑問を抱くが、しかし即座に、脳が思考を拒絶する。

 いまは考えるよりも、感じたい。使い古された言い回しだが、至言である。

「くそっ。せっかく、歯ブラシも買ってきてやったのに、歯磨きをサボりやがって・・・」

 江村が、ブツくさと文句を言いながら、支給された物資を纏めておいてある部屋の隅に歩いていくのを、瑠璃は潤んだ目で追っていた。

 イケメンの元カレ、桑田にフラれるとき、瑠璃はストーカー扱いされるのを恐れて、潔く身を引いた。間違った判断ではなかったと思うのだが、もう少し食い下がっていれば、あるいはカレを失うことはなかったのではないかという後悔に襲われることもあった。

 いま、江村を引き留めなければ、瑠璃はあのとき以上の後悔に襲われる気がしていた。醜い江村を失うのが、イケメンの桑田を失うより、切なく、悲しかった。

「ダメだけど・・・。イイッ。イイの・・・・」

「なぬ。今お前、なんて言った」

 天を向いて脈打ち、前座汁を流し落とす肉棒とともに振り返った江村が、信じられないといった顔で訊いた。

「い・・・イイから・・・だから抜かないで・・・・。もっと。もっとしてぇ・・・」

 鼻に引っ掛かるような甘えた声で言って、瑠璃は自ら、ひっくり返った蛙のように股を広げ、女の割れ目もぱっかり拡げて江村を招いた。

 瞬間、江村の踏まれたジャガイモみたいな顔が、ライトで当てられたかのように輝き、背中からオーラのようなものが放たれた。実際には、そんなことは起きていないのだろうが、瑠璃には確かにそう見えた。

「心配しなくても、またぶち込んでやるさ。瑠璃の口があまりにくさいから、歯磨きセットを取りに行っただけだ。歯を磨いたあとで、おサボり瑠璃ちゃんをたっぷり懲らしめてやる」

 職場では、いつもオドオドして、派遣社員たちからも見下されている江村が、瑠璃に求められた途端に、妙に自信に満ち溢れ、場を飲む威圧感すら発し始めた。江村の無駄に横幅のある身体が、まるで、ワイルドでアウトローなプロレスラーのように見える。

「よし、今度はバックからやってみるか。瑠璃、四つん這いになれ。かわいいお尻を、俺に向けろ」
 人格が入れ替わったかのように変貌し、命令口調で言ってくる江村。しかし、まるでこちらが本性であったかのように自然に馴染んでおり、瑠璃もそれを受け入れている。

 女に求められるということは、これほど男を劇的に、魅力的に、刺激的に変えるものなのか?

 これまで、男に最初から完璧を求めようとしていた自分の姿勢に、深い反省の気持ちが沸き起こる。

 完成度ではなくポテンシャルに目を向け、長い目で成長を見守ることを知っていれば掴めた幸せが、沢山あった気がする。

 もう、逃さない。

 瑠璃は、初めての体位でうまく挿入できず、尻の穴のあたりを彷徨っていた江村の業肉をそっと握り、自らの秘苑に導いた。

「おっくぉぉっ。すっげぇ・・・獣の体位ってのも、なかなかのモンだなア・・・」

(うそ・・・。なにこれ、めっちゃいい)

 正常位とは違う角度で埋まった肉棒がゆっくりと抽送されると、なんと、膣内で反り返ろうとする肉棒が、絶妙な力加減でGスポットを擦ってくるではないか。

「フ・・フオォォッ、フオォォォッ」 

「どうだぁ、瑠璃ィ。感じてるかぁ?」

「フオォォッ、フオォォッ・・・。イイ・・・。こっちの方が・・イイッ、イイのぉ・・・・」

 ヘビー級ボクサーのハードパンチを食らったかのような強烈な深刺しを浴び、瑠璃の腹腔内で、「初夜」に仕込まれていた快楽玉が爆発する。

 押し拡げられた膣襞が、ゴムのような弾性で茎胴を締め付ける。すると、凶悪なエラの張ったキングコブラはますます硬く膨らみ、いっそうの拡張感をもたらしてくる。それに反撃するように、瑠璃肉はますます江村を締め付け、絡みついて扱きたてる。

 ボクシング史に名を残す名王者が凌ぎを削った、一九八〇年代の中量級黄金時代も超えるほど、男女の肉体が凄まじい応酬を繰り広げている。

 どれほどのイケメンに甘やかな声をかけられようが、このキングコブラの快楽は味わえない。

 瑠璃はもう、自分が桑田の青大将には戻れないことを確信していた。

「今回は、外でイクぞっ。いっぱい溜め込んだザーメンが、瑠璃にどぶどぶかかっていくところを見たいんだっ。おらっ。いくぞぉっ。瑠璃のかわいい桃ちゃんに、いっぱいいっぱい出しちゃうぞぉっ、あ、おっ、ぬぐアっ、ぬふぅん」

 鼻から抜ける声を出して、江村が砲身をヌシュッと引き抜き、瑠璃の腰骨を掴んだ両手に力を込めて的を固定させ、白濁の弾丸を浴びせてきた。

 江村に背面を向けている瑠璃に、自分の尻の上で起きていることは見えない。しかし、目で見えなくとも、江村がかつての男、桑田とは比較にならぬ濃さと粘度を持つ白い悪魔を、ビャクビャクビルルルッ、と凄まじい勢いで放出し、瑠璃の桃尻を、練乳を塗した宇治金時のようにしているのはわかった。

「おおおおおおおをををっ」

 快美に狂った江村が、瑠璃の臀部を掴んだ手を放し、瑠璃は布団にドッと崩れた。

 的を見失った大筒は、二メートルも離れた壁面を白く汚していく。

 空中でアメーバのように形を変え、ヒラヒラと舞うように飛んでいく白弾は、徐々に勢いを失って、うつ伏せに倒れる瑠璃の背中へと降り注いだ。

「ま、まだ出るぅ、まだ出るぅ、ぞぉ・・・・」

 脅威の生殖能力。江村がほき出した精液をかき集めたら、瑠璃がいつも工場で、防摘剤の粘度調整に使っている岩田カップくらいなら、軽く溢れてしまうであろう。

「ほ、ほィ・・・・つかれた。疲れたぞぉ・・・」

 部屋の隅から立ち昇るおまるの香りをカルキのにおいで上書きしたザーメンモンスターは一仕事終えた男の汗をぬぐって、布団に突っ伏す瑠璃を置いて倉庫を出ていってしまった。

 快楽の余韻に浸りながら微睡みに落ち、朝――なのであろう時間に目を覚ますと、理不尽大王への怒りと、快楽に屈服してしまった身体への嘆きが、同時に蘇ってくる。

(ちくしょう。なんでだよ・・。あんなヤツとだけは、絶対に有り得ないと思ってたのに・・・なのに、なのに・・・たまんなくいいじゃんかよ・・・・)

 心はいくら拒絶していても、肉刀に切られた粘膜が再生するときのむず痒さが、瑠璃の指を秘部へと招き寄せ、指腹が媚肉に触れたときの甘美な電流が、もっとも憎む男の肉体に支配されつつある事実を瑠璃に突き付けるのである。

 
                        5


 ドラッグストアで、数十本の強精ドリンクを買う。突き刺さる、若い女性店員の視線が痛い。

 潰れたジャムパン、あるいは踏まれたじゃがいも、などと評される顔の男が、セックスの器官を増強するドリンクを飲み、夜の町へと繰り出す。その行き先は、黄白を代償に女体を貪る店であると、うら若き女性店員は思い、そして侮蔑の目を、男の背中に投げかけたことだろう。しかし、男の行き先は、風俗ではない。

 愛する女の待つ自宅に帰る前に、独身男の贅沢を嗜む。

 ガーリックをたっぷり使ったリブステーキを平らげた後、これまたすりおろしニンニクをたっぷり使ったとんこつラーメンを啜る。

 若い頃から、男の食べっぷりには誰もが目を見張ったが、不思議と、同じく三大欲求の一つに数えられる、性欲を爆発させる機会には恵まれなかった。

 しかし、それは過去の話。いまの男には、男のもつ強靭な生命力のすべてを受け止めてくれる女が、毎日家で待ってくれている。

 すっぽんエキス、赤マムシ、亜鉛、ガラナ、朝鮮人参などのエキスを配合した強精ドリンクと、ニンニクを使った食事を摂ったおかげで、股間はすでに疼いているが、夜はまだ始まったばかりである。男は、女の待つ家に向かいかけた足を翻し、サウナへと向かった。 

 脱衣所で服を脱ぐと、苔むしてクレーターの多い岩石などと評される顔面をし、生白い肌をハート形に覆いつくす胸毛を生やし、妊婦のように腹のぽっこり突き出た醜い男の上半身に、周囲の男は嘲笑を浮かべる。しかし、下半身を晒した途端、彼らは一瞬にして口元を引き締め、男に頭を垂れるようになる。

 タオルを巻かずに風呂場を闊歩する男は、何者にも遮られることはない。百九十センチを超える偉丈夫も、筋肉の鎧を纏った外国人労働者も、男のぶらつかせる物を一目見れば、己の敗北を悟り、道を譲る。

「あ、江村さん。こんばんは・・・っす」

 サウナルームに入ると、男は、」たまたま居合わせた、派遣労働者の間島慎吾と後藤文義の隣に腰を下ろした。

 内臓脂肪がたっぷり詰まって膨らんだ江村の腹の下で、ビール瓶サイズのものが、直立して天を向いている。タオルの回収にやってきた係のおばさんに、不覚にも反応してしまったのだ。

「そう緊張しなさんな・・。職場でなければ、正社員も派遣もない。友人同士として、語らい合おうじゃないか」

 職場では男を侮っている派遣社員たちが、絶句して冷たい汗を流しているのに、江村は鷹揚の笑みを浮かべながら言った。

 怪僧ラスプーチンを彷彿とさせる偉容を見せつければ、どんな男も声を失い、敗北感に打ちひしがれる。昔からそうだったが、ずっと自信を持てずにいた。

 女に認められて、初めて自信を持てた。一日に何人も相手しなければならない商売女には嫌がられても、愛する一人の男を待つ女にとって、これは二度と離れられない至福を味合わせるものだったのだ。

 もっと早く、これに自信を持っていれば、人生は変わっていたのかもしれない。

 自信を持ち、胸を張っていれば、丘に打ち上げられたらすぐ死んでしまう深海魚などと評される顔も、押し出しの強い、頼りがいのある男の顔に見えたかもしれない。

 醜い自分が、女性をベッドに連れ込むまでのハードルは確かに高いが、関係さえ持ってしまえば、女は巨根の味を忘れられなくなる。強引に迫ってみれば、もっとはやくに女を得られ、前向きな人生を送れていたのかもしれない。

 後悔は尽きることがない。

 だが・・・。

「人生の、どこかで、ボタンを掛け違った・・・。君たちも、そうだったのだろう」

 上海の街角で、椅子に腰かけキセルをくゆらす老爺のような顔で言う男に、慎吾と後藤が無言で頷いた。

「ボタンを掛け違った姿は、ちぐはぐで、みっともないのかもしれない・・・・。しかし・・・。ちぐはぐでみっともない、歪な人間にならなければ、見えない景色もある・・・。その景色を見たことは、いずれボタンをかけ直し、まともな姿になれときに、必ず役に立つ・・。そうは考えられないかね・・?」

 男が、達観した顔で偉そうに言うのを、派遣社員たちは、尊敬の眼差しを浮かべながら聞いていた。

 ボタンを掛け違った、ちぐはぐでみっともない姿――いまはそれが、随分懐かしいことのように思える。

 男の帰りを家で待つ女は、近頃、自らの境遇を徐々に受け入れ始めたようで、男に一定の信頼と愛情を示すようになった。それに合わせ、男の態度も変わり、女を純粋な気持ちで可愛がれるようになっていた。

 雨降って地固まる。近頃の男と女は、まるで本当の夫婦のように見えることもあるが、しかし男は、そんな女との関係に、どこか物足りなさも覚えていた。

 常に自信がなく、嫉妬と劣等感の塊で、屈折した妄想に憑りつかれた、欲求不満のキモおやじ。自分の顔が醜かったお陰で――ちぐはぐなボタンの掛け違いがあったお陰で、なれた姿。

 女に愛されるのは、もちろん嬉しいことである。だが、たまにはまた、女を監禁した当初のきもオヤジに戻って、女に嫌がられながら、白濁の熱いものを注いでみたいと思うときがある。それを想像すると、男の剛直は隆々とした熱を持ち、もう収まりが効かなくなる。

 サウナから上がり、真新しいブリーフを履くが、普通サイズのブリーフなどでは、男の勃起したものを包み込むことは到底できない。スラックスを履けば。当然、股間が大きなテントを張ってしまう。サウナでは英雄でも、街を歩けば、女の悲鳴と職質を免れることはできないだろう。そろそろ寄り道はやめ、帰路につかねばならない。

 男はサウナを出ると、ちょうど目の前を通ったタクシーを止め、自宅の住所を伝えた。
「釣りはいらん」

 五千円札を渡してタクシーを降りると、男は母屋を回って、庭の掘っ立て小屋へと向かっていった。

 指紋認証式のキーを解除し、ドアを開けると、女の排泄と肉汁の香りが男を歓迎する。

 部屋の中央に敷かれた布団の上に内股で座り、怯えたような、ときめいたような顔を浮かべている三十四歳の女ににじり寄りながら、男は服を乱雑に脱ぎ捨てていく。

「瑠璃、脱ぎなさい」

 女にも脱衣を強制すると、男はサウナからずっと反り返ったままの剛刀の切っ先を、座っている女の頬、肩、首といった部位にあてがい、柔肌の感触を、平時から露茎し、粘膜から剛化して皮膚になった亀頭に味わう。

 続いて、そのアメリカンチェリーのような切っ先を、女の双丘の天辺に浮かぶ薄桃色の蕾に触れさせると、女は通電を食らったかのように、切なく身を震わせる。

 連日男性ホルモンを注ぎ込まれ、幾ばくかサイズアップしたようである女の巨乳に、ビルビルと流れる透明汁を塗り付けたり、押したり叩いたりして、形が変わる様を愉しむ。

 よく煮詰めた黒豆の汁のニオイを振りまく腋を上げさせ、若草のように生い茂る繊毛に亀頭を擦り付ける。腋を締めさせ、女性器に見立てて扱くと、感度の強い部分を摩擦された女が、甘い吐息を漏らす。

「うむ。今日のまんこも、エロいにおいだ・・・」

 用を足した後に拭く紙もない部屋で、しっぽりと汚れた女の身体を嗅ぎ、味わう。不浄と淫蕩の境を歩くような愛撫で、男は肉刀の硬度を、女は肉鞘の潤いをいや増させる。

 男が腰を屈め、餃子の皮のような雄の臭気をムンと漂わせる怒張を突き出すと、女は正座になって、片手に余る茎胴を握り、根元を扱きながら、先っちょをチロチロと舌で撫ぜる。傘の下と、ズル向けた包皮の内側が、男のポイントである。

「こ。こ。こ・・・・・」

 金魚のように口をパクパクさせる男に、女が一瞬、嫌悪の目を向けるが、瞼をキツク閉じる男の視界には映らない。

 女が、腐敗したリンゴのような巨大な陰嚢の裏から、裏筋に合わせてツーッと先まで舐め上げ、カプ、ムチュッ、トゥブッと音をたて、口に収まりきらない巨大な亀頭を、唇と舌で愛する。手は陰嚢をよく揉み解し、男が蓄えたものの排出を促進させる。

 このまま、口で絶頂たいと思った。男は女の後頭部と掴むと、射精感が高まり、ビクビクと脈打つ雄茎を、女の喉奥まで、随!と突き入れた。

「ふぉぶぅ・・・ふぶぅっ・・・べへっ・・・べへぇっ・・・・」

 裂けんばかりの拡張感に、女が目尻から涙をこぼして許しを乞うが、男は聞き入れず、 馬みたいになった女の顔をオナホールに見立てて前後に揺すった。

 肉胴を掻く前歯と、温い唾液が気持ち良くて、男は絶頂前からすでに、桃源郷を揺蕩っていた。


「うっぐぐっぐっ、おっ・・ぐんっ」

 テニスボールを咥えさせられているかのような圧迫感にえづきながら、瑠璃の舌は闖入者にグネグネと絡みつき、男の苦みを味わっていた。

 速くイってもらって、この苦痛から解放されたいのもある。けど、快楽を与えてくれる男を気持ちよくさせたいのもある。とても複雑で、不思議な気持ち・・。

「おっいくぞぉっ。そらっ、うら~っ!俺の赤ちゃん、全部のめ~い」

 口の中で、肉の先が思い切り腫れあがったかと思うと、次の瞬間、豪弾が喉奥に次々と撃ち込まれてきた。

 瑠璃の小さな口をあっという間に満たした男汁が、口の端からどぶどぶと溢れだしてくる。 一分以上にも及ぶ長い射精を終えた江村が肉棒を引き抜いた後、瑠璃はメイプルシロップのような粘り気をティッシュに吐き出して、残りは唾液に溶かして飲み込んだ。好きにはなれそうもない味だが、苦みの中に仄かな甘みがあり、それほどマズイとも思わなかった。

「瑠璃・・・瑠璃ィ・・・・」

 瑠璃の口に射精した江村は、わずか五分ほど休んだだけで、もう瑠璃の身体を求めてきた。 

 経験を重ねるうち、女の身体で達することに慣れてきた江村は、当初の遅漏体質が改善されて、己の都合の良いタイミングで射精を操ることができるようになっており、体力を浪費しなくなったことで、一晩に求められる回数が、二回、三回と増えていった。

 瑠璃の肉体の適応と、江村の愛撫がうまくなっていったお陰で、巨棒で擦られても、粘膜が切れることもなくなった。あの治りかけのむずっ痒さはもう味わえなくなってしまったが、受け入れる痛みがなくなったのはいいことだった。

 江村の気分が高揚する体位と、瑠璃のツボが刺激されて気持ちよくなれる体位。二人で相談しながら、あらゆる体位を試した結果、それは座った江村が、瑠璃を自分の太ももに乗せて揺さぶる、対面座位というところに落ち着いた。

「バックも良かったが、かわいい瑠璃の顔が見えていた方が、俺は好きだなア・・」

「かわい・・くっ、ないよ・・私なんか。目は一重だし、歯はガチャガチャだし、大きい黒子あるし・・」

「バカ言え。瑠璃は最高だ。他の誰が何と言おうが、お前は俺にとって、最高に美しい女だよ」

 二人きりでトークを重ねるうち、江村の妄想に憑りつかれ、常軌を逸したような言動は鳴りを潜めていき、普通の恋人のように、不器用だが甘い言葉をかけてくれるようになっていた。

 射精の際に、いちいち、「俺の赤ちゃんできちゃうぞぉ」「雄介二世誕生だぁ」「俺のミルクをまんこに注ぎ、今度は瑠璃のミルクを飲むんだぁ」などと決め台詞を吐くのは鬱陶しかったが、かつてのように、江村に対して侮蔑した感情は消えていった。 

 文句なしに気持ちのいい江村とのセックスを、さらに充実したものとするために、江村の下半身を受け入れながら、お気に入りのイケメンタレントの顔を脳内に思い浮かべたりしたこともあったが、どうもしっくりこなかった。

 それよりも、江村が時折みせる、妙にセクシーな横顔を思い出した方が、快楽の奥へとたどり着くことができた。なんとかは三日で慣れるというが、三日は無理でも、ひと月、ふた月と、江村だけの顔を見続けているうち、かっての生理的嫌悪感を抱かなくなっていた。

 考えてみれば、瑠璃のすべての悩み、苦しみは、自分と他人を比べることから起こっていた気がする。

 誰それに比べて、自分の顔は可愛くない、いい服を着ていない、連れ歩く男はイマイチ――。

 それらの劣等感が、この、江村と二人だけの空間には、まったく存在しないのである。

 この空間では、お金もいらない。服やアクセサリーといった、己を着飾るためのものへの執着が、ゼロに近いほど消えているからである。最低限の娯楽と、大好きなスイーツを味わえれば、ここでの暮らしは天国のようだった。

 監禁されてから一か月ほどの時が経ち、瑠璃の汚れがあまりに酷くなってくると、江村は瑠璃に、母屋の風呂を使うことを許可してくれた。倉庫から庭に出たとき、大声で叫ぶことは容易だったが、瑠璃は黙って、手を引いて歩く江村の後ろに付いていった。

 絶望と待望、憎悪と愛情を何度も行ったり来たりするうち、こんなことは間違っていると思う瑠璃よりも、環境に適応し、あるがままを受け入れる瑠璃の方が大きくなっていった。ストックホルム症候群というのか、自分を監禁し、凌辱した江村の境遇に、共感と同情を覚えるようにもなっていた。

「七年間・・・婚活サイトに、一年分の給料に値する金を養分にされたけど、何も得られなかったよ。サイトにも言いたいことは山ほどあるが、それよりも、登録してる女。こっちは妥協しているのに、女ってのは、どうしていつまでも己の商品価値を認識せず、高望みを続けていられるんだ?まったく、不思議だったよ・・・」

 いつものように、瑠璃の中に特濃で大量のおたまじゃくしを放流したあと、江村は瑠璃の膝を枕に、ブツクサと文句を垂れた。 

「江村さんは、袋小路みたいなところに迷いこんじゃったんだよ。婚活サイトなんかを利用している女がどういう女かって、もっとよく考えなよ。選り好みして選り好みして選り好みして売れ残って性格がひん曲がって、まず否定から入る癖が染み着いてるオバサンたちに、わざわざ品評されに行くなんて、バカだと思わない?もっと、周りを広く見なって。世の中、否定から入る女ばかりじゃない。私は・・・私は、江村さんのいいところ、探そうって思うよ」

 我ながら、よくもここまで白々しいことが言えると思う。

 無理やりヤラれてなかったら、見向きもしなかった。バカにしていた江村が、こんなイイものを持ってるなんて、知ることはなかったし、知ろうともしなかった。

 でも、もうどうでもいい。経緯なんてどうだっていいし、真実もどうでもいい。

 ただ一つ確かなのは、瑠璃はもう、江村の巨棒なしには、生きていくことができないこと。

 外に出たところで、働けど豊かになれず、人の幸せを指を咥えて眺めているだけの人生しか待っていないのなら、このままここにいた方が、ずっとマシであるということ。

 でも・・・・。

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 それでも時々は、こんなはずじゃない、自分には別の人生があるはずだ、という思いに囚われることはある。

「ねえ江村さん、やっぱり出して・・・私をここから出して・・・・」

 瑠璃が、江村と瑠璃の体液が染み込み、腐敗してぶよぶよになった畳に跪いて懇願すると、江村の小さな眼はたちまち狂気の光を帯び、監禁初日の悪魔の顔になった。

「瑠璃・・どうした。俺たちは、あんなに愛し合っていたじゃないか」

「・・・やっぱ嫌い。こんなことする男を好きになんて、なれるはずがない」

 測ってはいないが、おそらくすでに三桁の大台に達しているであろうバストを触ろうとしてきた手をピシッと振り払うと、江村は悲し気になるどころか、嬉しそうに口角を釣り上げた。

「脱げ、瑠璃。脱ぐんだよ」

「いや・・いやぁっ。やめてっ」

 江村は、もちろん瑠璃の懇願には耳を貸さず、連れ込まれてきたときから着っぱなしで、ボロ布のようになった瑠璃の服を強引に引きはがし、持参した紙袋からコスプレ用の服を取り出して、瑠璃に着せ始めた。

「な、なに着せんだよ・・・」

「見りゃわかるだろ。スーパーミニにルーズソックス。俺ら世代の、渋谷ギャルの服だよ。こいつらが、こいつらが、俺を・・・・・」

「俺を・・・・?」

「こいつらだけだ。あのとき俺に、優しくしてくれた女たちは。むしろ容赦ないのが、恰好だけ大人好みのものに装い、歪んだ本性は内に隠している、一見清楚なタイプだった」

 予想したものとはまったく逆の言葉に、瑠璃は驚く。

 だが、確かに思い出してみると、女子高出身の瑠璃は、髪は黒くしてスカートの丈は長く、教師の言うことをよく聞くいい子ちゃんたちの、意外な腹黒さに驚かされたことがよくあった。反面、服装や言葉遣いは乱れていても、ギャルと呼ばれる子たちは性格に裏表がなく、意外に情に厚いタイプが多かったような覚えがある。

「俺は九十年代後半から二〇〇〇年代前半に隆盛を誇った、渋谷ギャルたちへのリスペクトを、いまでも忘れられない。あいつらなら、頼み込んでいれば、付き合ってくれたかもしれないし、セックスもしてくれたかも・・・」

 それはない――いや、あるのかもしれない。

「ハグゥゥゥゥ、グゥオオオッククォォッ!こんなの、こんなの知ったら・・・江村さんが、こんなの持ってるって知ったらっ」

 ベッドで二人、横になるまでのハードルはとても高いけど、一度入れてしまったら、ししとうみたいなイケメンのあれなどもう思い出せなくなるくらい、病みつきになってしまうのだから。

「おっおっおっ。たまんねっ。たまんねぇなっ、瑠璃の汚ケツと汚マンコのニオイはよっ。ふ、ふ、ふーっ。むぱっ、むぱっ」

 ミニスカとルーズソックスを履いたままの瑠璃を、バッグからパチパチと突きながら、江村が、瑠璃が監禁されたときからずっと履きっぱなしの、粘液と小水が染み込んで、元の色がなんだかわからなくなったパンティを、スゥッ、スゥッと嗅ぎ、しゃぶって味わった。

「たまんねっ。たまんねぇなっ。このルーズソックスもよ、もっとずっと履きっぱなしにして、黒ずんでくっさい、すっぱいニオイにしてやんだっ。瑠璃を汚ギャルにしてよ、えろ~いにおいにしてむしゃぶりついてよ、そんでザーメン、いっぱい出してやんだっ。九十年代後半から二〇〇〇年代前半に隆盛を誇った、汚ギャルと援交キモおっさんで、赤ちゃんを作るんだよ。ひっ、ひ~い」

 先ほど、瑠璃に拒絶の態度を示された江村は、完全に、瑠璃を監禁した当初のキモおやじに戻ってしまっていた。

 キモおやじになったときの江村は、瑠璃を愛してくれるときの江村よりも遥かに活き活きしているが、瑠璃はキモおやじが大嫌いだから、瑠璃を愛してくれる優しい江村に戻って欲しいと思う。

「ねっ・・・江村さん、わたし江村さんのこと好きだからっ・・・。雄介、ねっ、おちんぽ頂戴っ。雄介の顔、瑠璃の大好きな雄介の顔、こっちに向けながら、おちんぽ一杯、瑠璃に頂戴っ・・・」

「おっ俺のかおが見たいのかっ。潰れたジャムパンみたいで、踏まれたじゃがいもにも似ていて、苔むしてクレーターの多い岩石みたいな感じもして、陸に打ち上げられたらすぐ死んでしまう深海魚みたいでもある俺の、おじさん顔がみたいかぁっ」

 ミニスカ、ルーズソックスは履きっぱなしで、ワイシャツの前を開き、乳をはだけた十七歳の瑠璃を、江村は仰向けに寝かせて、大勃起をズムズム抽送する。

「る、るるるるりちゃん、おっぱいぶる~んぶる~ん揺れちゃってるよォっ。ひぃはぁ~っ、たぁまんないねぇ」

 裏返った声を上げる江村は、小さな眼にイトミミズの血管を走らせ、鼻の孔を思いっきりひろげ、口の端から涎を垂れ流している。

 瑠璃を憎むキモおやじに戻ったときの江村は、瑠璃を愛するカッコイイ江村のときよりも、明らかに昂っていた。

「ねぇやめてっ。そっちの雄介、やぁだぁっ。かっ・・・かっこいい方の、雄介に、戻ってぇ・・・」

「明日から戻るっ。明日から戻るからっ、今日はキモイおっさんのまま、瑠璃に注がせてくれぇっ。キモイおやじの赤ちゃん、孕んでくれぇ~へぇ~っ」

 瑠璃の懇願に耳を貸さず、江村はキモおやじのまま巨棒で瑠璃の襞を擦り、ラビアを裏返して、快感のタイダルウェイブを送り込んでくる。

「あぁイクッ、イクッ。援交おじさんのきもきもザーメン、かわいい瑠璃ちゃんに注いじゃうぞぃ」

 江村が骨盤が砕けるほどのパワーピストンで、ツパパパンと肉太鼓を打ち鳴らすのに合わせ、瑠璃もありったけの力で江村をギュムギュムと締め上げる。

「ァ。ァ。ァ。あ~、ちょうだいっ、きてっ、おじさん汁ほしぃのっ。おもっきりきたないオジサン汁、瑠璃にいっぱい注いでぇっ!お~っ、お~っ、お~ほォ~っ」

 有り得ない快楽に繰り返し哭かされ、とうとう嬌声の母音が変わる。

 脳漿が溶け、手足の先が痺れて感覚を失う。腹腔内で弾けた細胞の種子が瑠璃の大地に降り注ぎ、快美の大芽を息吹かせる。

 醜い顔と大きな根っこの素が瑠璃の赤ちゃん部屋を満たして、宿す幸福が三十四年間の砂漠に染みわたる。

 生まれてきてくれて、ありがとう。

 第二章  凋落した元エリート   大人を舐めた小娘にお仕置きのオヤジレイプ

          
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「はア」

 休憩所のベンチに腰を下ろした後藤文義は、今日何度目になるかわからない、深い溜息をついた。

 隣を見れば、同じラインの作業者である派遣社員、間島慎吾が、ニヤニヤ笑いながら、スマホの画面を眺めている。

「間島くん、なんだか最近、楽しそうじゃん」

「え?そうすかね」

「なんか、いいことあったの」

「いやぁ、はは・・」

 慎吾は答えを濁したが、慎吾より十八年も人生経験が長い四十九歳の後藤は、彼の上機嫌の理由が、同世代のラインリーダー、川原美都との仲にあることくらい、とっくに感づいている。

 慎吾が川原美都とヤレたのか、どこまで進んでいるのか・・。そんなことはどうでもいいし、知りたいとも思わない。

「はぁ・・・。こっちは笑顔なんて、無理したって出てこないよ。身体はキツイし、今月も給料はカツカツだしさ・・」

 この工場で働くのがつまらなくてつまらなくてどうしようもなく、この工場で働いている自分が嫌いで嫌いで仕方がない後藤は、慎吾と川原美都との仲について深く詮索はせず、ただ己の愚痴を吐いた。

「せめてまだ若けりゃあ、希望もあるけどさぁ。羨ましいよ、間島くんの若さが」

「僕、もう三十一歳ですよ」

「三十そこそこなんて、いくらでもやり直せるって。俺はもう、棺桶に片足突っ込んじゃってるけど、間島くんにはまだ先がある。ここは社員さんは優しいし、居心地が良いのはわかるけどさ。どっぷり浸かっちゃうと、抜け出せなくなるよ。ここにいるより、正社員の仕事を探してみなよ」

「はは・・。ご忠告ありがたいですけど、僕、そういう生き方は諦めてますから・・」

 年寄の常で、他人の人生に干渉しようとする後藤の言葉を、慎吾は軽く流した。そういえば慎吾は、プロの小説家を目指しているということを言っていた。

「はぁ・・・。なんで俺、こんなとこにいるんだろうなぁ。ちょっと前まで、でっかい家に住んで、でっかいビルの上の方で働いてさぁ。蟻んこみたいに地上を蠢く人間を見下ろしてたのに」

 大きく溜息をついた後藤は、これで何度目になるかわからない自慢話を、二十五歳で正社員の仕事を辞めてから、ずっと派遣の仕事を転々としていたという慎吾を相手に繰り広げた。

「昔は良かったよ。若手のペーペーでも、結果残せば、臨時のボーナスが百万くらいポンと出てさぁ。週末はお姉ちゃんのいるお店で、ボトル何本も開けてさぁ。こんなクソ暑い夏は無理して働かずに、軽井沢あたりでバカンスを満喫してたりさぁ」

 後藤が武勇伝を語るのを、慎吾は苦笑いでいなし、缶コーヒーをグッと飲み干して、作業場へと帰っていった。

「はぁ・・・・・」

 過去の自慢などしても、虚しさが募るだけ。わかってはいても、生まれた年にバブルが崩壊した人生の後輩に、自分の時代がどれだけよかったかをひけらかすのをやめられない。

「信じてねぇみたいだけど、ほんとなんだよ・・・。ほんとに俺は、こんなところで燻ってる男じゃないんだ・・・」

 この世界、誰にも詮索されないのをいいことに、煌びやかに脚色した虚構の経歴をひけらかす者は珍しくはないが、後藤の言葉に嘘はない。

 後藤は派遣会社に登録する三年前までは、大手証券会社で部長職を務め、四十代で年収八百万を稼ぎ出す、正真正銘のエリートサラリーマンだった。

 順調だったキャリアにケチがついたのは、通勤に利用している地下鉄内での痴漢行為が原因だった。

 会社では部下を顎で使い、郊外の家で妻と三人の子供を養い、ゴールデン・レトリバーも飼っている。世間的に見て恵まれた境遇にある者が、なぜ痴漢などするのかと疑問を抱く者は、失うものが大きければ大きいほど、危ない橋を渡るスリルが高くなるのを知らない者である。

 一歩間違えれば地獄行き。その、紙一重の感覚がたまらないのだが、本当に地獄に行ってはどうしようもない。

 被害者とは示談が成立したのだが、会社で上に行くため、多くの同僚を強引なやり方で蹴落とし、部下に過剰な競争を強い、恐怖政治的に支配していた後藤は人望がなく、あんな破廉恥野郎とは働きたくないと、周囲の猛抗議を受けて失脚した。

 大手証券会社に勤めているという唯一の取り柄を、よりにもよって痴漢などという愚行によって失い、一日中、家でゴロゴロしている後藤に、妻と子供は愛想を尽かし、ゴールデン・レトリバーも連れて、妻の実家に揃って帰っていった。

 一家の大黒柱を、ATMの代わりとしか思っていなかった人間たちが出ていくのはせいせいしたが、休んでいる期間中、一日三回も散歩に行くなど熱心に世話をしていたおかげでよく懐いていた犬と別れるのは寂しかった。

 自分の能力は、どこに行っても評価されるものだと思っていたが、四十を過ぎてからの再就職活動はまったくうまくいかず、とうとう、非正規の派遣労働をするしかなくなった。 

 派遣会社から提示された就労条件は、目まいがするほど酷いものだった。

 時給はたったの一一〇〇円、ボーナス、昇給、退職金は一切なし。証券会社時代には、月に八万円まで支給されていた交通費は、上限なんと一万五千円。

 後藤が社会に出たころには、フリーターといえば、スキルの向上は見込めず、長く勤めても給料は上がらない代わりに、時給はそこそこで、会社に縛られない気楽な働き方であるというイメージだったが、現代のそれは、生かさず殺さず、ジワジワと真綿で首を絞められる、苛斂誅求の土百姓のようなものに様変わりしていた。

 いまの若いヤツらは、こんな条件で働くのを当たり前だと思っているのか?

 つい一年前まで自分の勤めていた会社と製造派遣の、天国と地獄、いやそれ以上の差を味わい、後藤は初めて、自分の犯した罪の大きさを思い知らされた。

「はぁ・・・今日も働いたなぁ・・・」

 一日の仕事を終え、ぐったりしてアパートに帰ったとき、慎吾と同じ年頃の、スーツ姿の男が、後藤の部屋のインターホンを押しているのが目に入った。

「なにか・・・・?」 

「あ・・。すみません、現在、正社員の方を対象に、節税対策をオススメしておりまして」

 後藤が話しかけると、男が自分の会社名も名乗らず、営業トークを開始した。

「はあ」

「失礼ですが、正社員の方でいらっしゃいますでしょうか?」
「いや、派遣ですけど」

「その、派遣というのは、正社員として、他社に派遣されているという形でしょうか」

「いや。非正規の派遣だけど」

「あ、では結構です」

 やり取りはそこで終わり、どこぞの会社の若造は、早足でアパートの階段を下りていった。

 そのときはそこまで気にならなかったが、テレビを観ながら安焼酎を煽っているうち、さっきの若造の対応に、段々とムカついてきた。

「なんだよ。バカにしやがって」

 開口一番に、正社員かどうかだと?

 正社員でないとわかった瞬間に、あ、結構ですだと?

 むこうも仕事だったとはいえ、正社員かそうでないかだけで、人間の価値まで決められているかのような若造の対応に、後藤は腸が煮えくり返った。

 自分がこんな立場でいることを、心底恥ずかしい、情けない、惨めなことだと思っている。だが、それを人に言われるのは許せない。

 若い頃には、こんな気分になった時には手ごろな女に連絡を取って、ベットの上で発散していたものだが、今じゃそんな元気も湧かない。

 まったくの自業自得なのだが、痴漢が原因で社会的地位を失ったことがトラウマになっている後藤は、以来、性的に不能となっていたのである。

「ちくしょう・・・こんなはずじゃなかったのによぅ・・・」

 ここが、後藤文義という男の終着駅なのか?

 今の境遇と、本来あるべきはずだった現在との差を思い、後藤は涙にくれた。


                       2


 定時間の間際、ライン作業が終わって清掃をしていると、ラインのサブリーダー兼作業者を勤める二十二歳の正社員、児玉愛が、ラインリーダーの川原美都と雑談しているのが耳に入ってきた。
「美都センパイ、彼氏、今日もウキウキでしたね」

 愛のいう彼氏というのは、美都のラインの作業者である慎吾のことであり、彼氏というのは、美都に好意を抱いているのが周囲に丸わかりである慎吾と、慎吾に惚れられている美都を揶揄しての言い方である。

 いつもと違うのは、「彼氏」との仲をからかわれた美都が、まんざらでもなさそうに頬を緩め、片足を浮かせていること。

 あの様子だと、もしかしたら美都と慎吾は、本当に付き合っているのかもしれない。

 しかしそんなことは、性的に不能で、欲求すらなくなっている後藤には、どうでもいいことだった。
 
「ねぇ美都センパイ、聞いて聞いて。今日、休憩所にいったとき、オッサンたちが、職場の女子を格付けしてたんですよ。もしこの工場で総選挙をやったら、あの子は何位で、あの子はあの子より上だとか下だとか。信じられます?私、ふざけんなって頭きちゃった。お前らが決められる立場かよって。偉そうに女の子のことを話す前に、鼻毛ぐらい切ってこいっつーの」

 仕事ができないだけでなく、最低限の身だしなみも整えて来られない「ダメおっさん」を、辛辣にこき下ろす愛の言葉に、四十九歳の後藤は思わずギクリとした。

「後藤さんも聞いて。今日ね、オッサンが・・名前なんて言ったか忘れたけど、口の端にカレーの跡つけたオッサンが、なんかニヤニヤしながら、私に、愛ちゃん、最近太った?とか言ってきたの。マジムカついた。愛ちゃんとか馴れ馴れしく呼ぶなっつーの。しかも、今のってセクハラですよね。私、派遣の管理者に訴えちゃおうかな」

 おっさんを毛嫌いする愛だが、四十、五十代の派遣社員の中でただ一人、後藤のことだけは、「こちら側」の人間と見做しているようで、敬愛する美都センパイと同じように、いつも親し気に話しかけてきてくれる。

 普通の中年男が、二十代前半の女性に好印象を抱かれれば、少なくとも悪い気はしないのだろう。だが、性的に不能で、欲求すらなくなっている後藤には、若い女の放つフェロモンを浴びるのは、むしろ苦痛でしかなかった。

 おまけに、「ダメおっさん」をこき下ろすとき、唇をワナワナと震わせる愛の顔は、どことなく、後藤が落ちぶれるキッカケとなった痴漢の被害者の、あの若いOLによく似ており、後藤はそれを見ていつも、怯えた子猫のように背中を小さく丸めてしまうのだ。

 四十九歳の後藤が心を寄せるのは、むしろ愛から蛇蝎の如く忌み嫌われている、「ダメおっさん」たちの方である。

「はぁぁ。今朝も膝の痛みがヤバかったから、仕事休んで病院行こうとしたら、管理者のヤツが、休んでもいいけど、そのかわりクビ覚悟しといてね、とか脅してきやがんの。そりゃ当欠は良くないのはわかるけどさ、そんな血も涙もない言い方ってねえよな」

「今日、新しく入ったラインでさぁ。リーダーのヤツが、もっと正確にやれとか言ってくるから、ゆっくり、慎重にやってたらさ、こんどはもっと早く手ぇ動かせとか言ってくんの。どっちだって言うんだよな。結局、難癖つけて、俺を追い出したいだけなんじゃないか」

 週末、飲み屋に集まった四十、五十代の派遣社員たちが、飲み放題の発泡酒を煽りながら、口々に会社への不満、愚痴をこぼした。

 下っ端同士でつるんで、酒の席でくだを巻く。証券会社時代はずっと、そんな慣れ合いはまったくの無駄であると思って、誘いがあってもなるべくパスするようにしていたが、出世を諦めた今の後藤には、そこが妙に居心地よく感じられた。

「それでもまぁ、あの会社の人たちは基本、いい人たちだけどさ・・。アイツだきゃぁ許せねえ。後藤さんと高野さんのラインにいる、児玉愛」

 四十六歳の井川が、グラスをテーブルに叩きつけて叫んだ。

「いつも俺のことを、ゴミみてえな目で見やがってよ。すれ違うときとか、露骨に避けてきやがって」

「ぼ・・ぼくもこの間、作業で使う冶具を、投げつけるように渡された・・・」

 四十八歳の益子も、井川に合の手を入れる。

「あの女・・・俺というもんがありながら・・・クソが・・・」

 四十歳の高野だけは、なぜか、愛とは違う人物に反感を抱いているようである。

「でも後藤さんは、あの子に気に入られてるよね。俺たちと何が違うんだろう」

 五十一歳の田口が、不思議そうに、また、少し羨ましそうに言った。

(教えてやろうか。髭を剃り、鼻毛を切り、毎日きちんと風呂に入って、服を洗う。当たり前のことを、当たり前にやればいいだけだ・・・・)

 口にしかけて、言葉を飲んだ。

 誰にでもできる簡単なことがどうしてもできない人間は、本当にいる。彼らに「正論」をぶつけたところで、それは後藤の自己満足になるだけで、彼らにとっては、心の痛みにしかならない。そうなってしまうのは、彼らが根っからの悪人なのではなく、彼らの脳の構造の問題なのだ。

 それがわかったのは、自分が同じ立場に堕ちてからのことだった。

 見込みのないと判断した部下は、精神的に追い詰めるだけだった。できない人がどうしてできないのか、どうやったらできるようになるのか、考えることもしてこなかった。ダメな人間は何をやってもダメなんだと決めつけて、いいところを探そうともせず、切り捨ててきた。

 だから、今、自分はここにいる。

「・・・・別に、そんなことないですって。俺もあの子にとっては、同じ汚いおっさんですよ」

 後藤は田口に、事実とは真逆のことを言った。

 派遣の「おっさん」連中を毛嫌いする一方で、後藤に対してだけは好意的な児玉愛は、雑談の合間に袖口を掴んできたり、手を握ってきたり、背中を叩いてきたりなど、積極的にスキンシップを取ってくることもあった。

 愛が、派遣と正社員の壁を壊し、一線を越えようとしてきている。元妻帯者の後藤がそう感じるのは、けして自惚れなどではない。

 しかし、不能で欲求すらない後藤は、彼女の想いには応えられない。

 それどころか後藤は、百五十センチ半ばの小柄で、全体に肉付き少なく、前髪を揃えたボブカットに、メタルフレームの丸眼鏡をかけた児玉愛の容姿が、自分が社会的地位を失うキッカケとなった、あの地下鉄の若い女とよく似ているという理由で、半ば憎しみにも似た感情すら抱いていた。
「一番は児玉だけど、あいつもムカつくよなぁ。間島慎吾。仕事は真面目にやらねえで、女の尻ばっか追いかけやがってよ。リーダーの川原さんにメロメロのくせして、同じ派遣の、平林さんのことも飲みに誘ってるの見たぜ」

「この前、うちのラインに応援に来た時も、散々に足引っ張りやがってよ。どうもアイツは、世の中を舐めてるとこがあるよな。こんど飲みに呼んで、説教してやるか」

「あの野郎・・・。いつかぶっ殺す・・・」

 愛への憎しみを吐き出し終わると、「ダメおっさん」たちは、彼らより一回り世代が下である後藤のラインの作業者、間島慎吾のことをディスり始めた。

 彼らは、毎日唇を引き結び、歯を食いしばって仕事をしている自分たちよりも、いつもヘラヘラして、サボり癖のある慎吾の方が、社の人間と良好な関係を築いているのが気に入らないようである。
「あいつ、俺たちと違って、川原さんから頼まれない限りは、残業も休出も嫌がるから、なんでかって聞いてみたらさ。小説家目指して、家で小説書いてるんだって。あんな頭の悪そうなヤツが、小説家になんかなれるわけねえのにな。無駄な頑張り、お疲れさんだよな」

 慎吾を見下す五十一歳の派遣社員、田口が、虫歯を限界まで放置して、神経が壊死した真っ黒な歯を剥き出しにして笑った。

 後藤からみれば、リスク承知で、自分が本当になりたい小説家を目指して執筆に励んでいるという慎吾は、よくやっていると思う。少なくとも、挑戦してコケたヤツをあざ笑うことで、自分が何もしないでいることに意味を持たせようとしているだけの連中に比べれば。

「中学を出てから、仕事を選ばず、身を粉にして働いてきた。出世も結婚もできなかったけど、後悔はしてないよ。麦は踏まれるほど強くなるっていうじゃないか。間島みたいな、半分ニートみたいなヤツより、ずっと実りの多い人生だと思ってるよ」

 誇りにするのは、上司の厳しいシゴキに耐えたとか、キツい重労働をこなしてきたということばかりで、理不尽な消耗を避け、人の見えないところで努力をしている人間のことが、ただ楽をしようとしているだけにしか見えない。

 交通費を浮かすために、毎日二駅分歩くというようなことなら頑張るのだが、その時間と労力で、何か勉強でもした方が有意義ではないか、とは考えられない。本当に自分の身になることをする「努力」と、身に降りかかる困難を、歯を食いしばって「我慢」するだけのことを、混同して考えている。

「ったく、やってらんないよな。チャラい若造ばかりが気に入られて、頑張ってる俺らがノケモンにされるんだからな」

 他人に厳しく自分に甘い。物事に対し、常に否定から入る。

 慎吾にもそういうところはあるが、おっさんグループたちが違うのは、肯定を一切しないこと。どんな人間にも一つくらいはある良い所を敢えて褒めようとせず、批判するときだけ口を開く。照れが邪魔するのか、内心、悪からず思っている相手にすら、なかなか賛辞の言葉を口にできない。

 この飲みの場では、「そういう人間同士」の集まりだからうまくいっているが、彼らが一歩、仲間の輪から外に出れば、それはそれなりの扱いを受けることになる。

「なぁ、後藤さんも、何かが間違ってるって思うだろ?」

「・・・・・ええ」

 後藤も、同じだった。

 証券会社時代、後藤が指揮していた部署はいつも空気が張りつめ、息が詰まるようだと言われていた。能力は買われていても、人に好かれず、特定の友人は一人もいなかった。

 俺が俺がのスタイルが男らしく映ることもあるのか、女にはそこそこモテたが、どの恋も長続きはせず、結婚までいった女にも、新しい依存の対象である子供が生まれた瞬間、相手にされなくなった。

 己の輝ける場所にいたときはそれで何も困らなかったが、すべてを失うと、「愛されない」ことによる生きづらさが身に染みる。

 けして、根は悪人ではないのだが、感情の伝え方が下手なせいで、人から必要とされる喜びを得られない、不器用な男たち。

 児玉愛には受け入れられ、慎吾のことを内心高く評価していたとしても、後藤が心を寄せるのは、あくまで「ダメおっさん」たちの方である。

 自分も何かが違えば、過去の栄光すらなく、社会に出たそのときから、彼らと同じ、暗く冷たい、地を這うような人生を歩んでいたかもしれなかったのだ。そのように思うと、心の中に、なにやら義憤めいた感情が湧いてくるのを抑えられなかった。

「・・・やっちゃいますか」

 この哀れな男たちに、たった一度でも、自分の運命に抗ったという証を残してやりたい。

「・・・やっちゃいますか、児玉愛を」

 下を向きながらボソリと呟いた後藤に、酒の席の視線が一斉に集まった。


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 飲み放題のサービスタイムが終了したあとも、「おっさんグループ」は解散せず、近所の児童公園に場所を移して酒盛りを続けていた。

「確かに児玉愛はムカつくけど・・・でもそこまでしなくても・・・」

 みんなで、児玉愛をレイプしませんか――。

 後藤の思い切った提案に、おっさんグループの連中は、揃って難色を示した。

 威勢がいいのは口だけで、実際には何もできない。失うものなど何もないくせに、いざとなると、たちまち思考が守りに入る。模範的な底辺労働者である彼らは、この期に及んでも、「やらない理由」を探し出すことに躍起になっていた。

「女を集団で手籠めにするなんて、最低の男がすることだよ・・。いくら落ちぶれても、俺は人としての矜持までは失いたくないね」

「俺たちは金も力も女もないけど、こうして、気の合う仲間がいるじゃないか。けして、負け組なんかじゃないんだよ」

 とうとう、そんな少年漫画の登場人物が口にするような、噴飯ものの言い草まで飛び出した。

 そうやってトシだけ食って、彼らはこれからもそのつもりでいる。

「・・・どこかだよ。こんな年収二百万生活の、どこが負け組じゃねえって言うんだよ。お前ら、往生際が悪すぎるぞ」

 普段は慇懃な口調の後藤が、突然、語気を強めて言うのに、オッサンたちの丸い背中がビクッと震えた。

「お前ら、本当にそれでいいのか?これまでずっと負け続けで、児玉愛みたいな若い女にバカにされて、これからも負け続けで、本当にいいのかよ」

 メビウスの輪に囚われた彼らを、今こそ救い出さなければならない。

 レイプ犯の汚名を着ることをビビるオッサンたちを戦士の集団に変えるためには、まず、女が男と同等の権利を得るに至った現代の社会において、若い女である児玉愛は、けして近世以前の女のように、か弱く、非力な存在などではない、ということを力説しなければならない。
「今日の勤務の、定時間際のことだ。児玉愛は、お前らが、児玉愛と親しくしようとして投げかけた、愛ちゃん、最近太った?という言葉を、セクハラであると決めつけた」

 セクハラ。児玉愛が、何気なしに放ったその言葉が、後藤の頭の中にずっと引っ掛かっていた。
「セクハラ。その言葉は、もとは組織の中で力を持った男が、職務上の特権を利用して、弱い立場の女に性的な嫌がらせをするのから守るために作られた言葉であるはずだ。それを児玉愛は、たった一一〇〇円ぽっちの時給を稼ぐために、ボロボロになった身体を引きずりながら働いている、お前らのような弱いオッサンの心を踏みにじるために使っている。おかしいとは思わないか?安定し、待遇の恵まれた正社員であるばかりか、女として庇護の目でもみられている。児玉愛のどこが、お前らより弱い、セクハラの被害者なんだ。児玉愛が、弱いお前らをセクハラ呼ばわりするのは、逆に向こうのパワハラじゃないのか?パワハラの被害を、ただ辛抱我慢するなんて、くだらないと思わないのか?」

 辛抱我慢。優良企業の正社員ではなく、人に好かれる方法も知らず、努力という概念も存在しないオッサンたちには、それしか生き方がないのかもしれない。だが、くだらない。

 生かさず殺さずの金で酷使され、人の尊厳まで踏みにじられても、男は黙って辛抱我慢。 
まったくもって、くだらない。

 辛抱我慢。そんなものを金科玉条として生きるくらいなら、世の中に仇花を咲かせ、潔く散った方がマシなのだ。

 公園のベンチの上に立って、コンビニで買ったサラミソーセージをマイクのように握り締め、後藤はヒトラーのように自分に陶酔しながら、一世一代の大演説をぶっていた。

「セクハラという言葉は、確かに、たった一言で男に致命傷を与えられる、拳銃のように便利で強力な武器だ。だからこそ、使用者側のモラルが求められなければならない。武器というのは、まともに立ち向かってもけして敵わない強者に、本当の危機に追い詰められたときにしか抜いてはいけないもののはずだ。それを、武器など使わなくても勝てるような弱者にまで、やたらめったらにぶっ放していれば、その弾丸は、いつか自分に跳ね返ってくる。そいつをあの女に、思い知らせる。俺たちで、児玉愛をレイプするんだ」

 塾帰りの高校生が白い眼を向けるのをよそに、ベンチの上に立ち、サラミを握り締めて熱く吼える後藤の手に、いつしか、自分が破滅するキッカケとなったあの若い女の、尻のやらかい手触りが蘇ってきていた。

 破滅のリスクと引き換えに味わう女の肉の感触は、普通に女を抱く何倍も、何十倍もの快楽を、後藤の掌に与えてくれた。

 いま、失うものは何もないという状況で若い女に触れたとしても、あのときのスリルは味わえないだろうが、あのときとは別の衝動が、後藤を突き動かしている。

 あのとき、警官に連行されていく間際に見た、痴漢の被害を訴えながら、どこか勝ち誇ったような女の顔が、後藤はずっと忘れられないでいる。

「これまで言ってなかったが、俺は三年前まで、ある大手の証券会社で働いていた。クビになった理由は、痴漢容疑だ。やってしまったことへの後悔はある。だが、被害者の女に対して、申し訳ないと思う気持ちはない。なぜならば、男女がすでに同じ権利を得ているにもかかわらず、肉体的に男より弱いという理由で、庇護の目でも見られている若い女は、オッサンである俺より、社会において強い存在だからだ」

 たまたま出来心というわけではなく、常習犯だった男が、己の過ちを反省もせず、痴漢の被害に遭わせた女性を、あろうことか逆恨みし、復讐を誓っている。

 自分の精神病理を専門的な言葉でいえば、反社会性パーソナリティ障害というものに当てはまるのだろう。

 常に自分本位で、他者への思いやりに欠け、良心の呵責に苛まれない。合理的な思考が社会的成功に結び付く場合もあるが、自制心に欠けるため、失脚に繋がるようなトラブルを引き起こしやすい。

 その反社会性パーソナリティ障害の持ち主が、生まれついて奴隷の鎖に繋がれ、抗う術も知らなかった男たちの心を揺り動かし、奮い立たせる。強大なものに、せめて一矢を報いたという証を残してやる。

「負けることが恥なんじゃねえ。負けたままでいることが恥なんだ。このまま終わるな。お前らを虐げてきた世の中に、せめて一矢を報いてやれ」

 後藤が熱く、力強い言葉を投げかけるうち、オッサンたちの死んだ魚のような目が、活き活きと輝き出し、その瞳に赤々とした炎が灯っていくのがわかった。

「世の中とはなんだ?世の中とは、若い女のことだ。町に出ろ、辺りを見渡せ。文化も経済も、すべて若い女を中心に動いているじゃないか。世の中を牛耳っているのは、東大出の官僚でも、ふんぞり返った政治家でも、ましてや資産家でもねえ。どこにでもいる、若い女たちだ。奴らに最大の屈辱を与えることこそが、世の中に復讐するってことだ。若い女にとって、最大限の苦痛とはなんだ?それはDV彼氏に叩かれるのでも、お局様にいびられるのでもねえ。脂に塗れた汚いオッサンにちんぽをぶち込まれ、ザーメンを注ぎ込まれることだ」

 証券会社時代は、どちらかというと、理詰めで淡々と追い込んでいく論法を得意とするタイプだった。商談やプレゼンの場ではそれで結果を残せたが、部下を扱う上では逆効果となっていたようで、他部署の人間からはいつも、後藤の部下はいつも表情に喜怒哀楽がなく、ロボットのようだと言われていた。

 あの頃の自分に足りなかったのが何だったのか、今ならよくわかる。理屈はデタラメでも、勢いで押している今の方が、よほど人の気を惹きつけ、心を掴んでいるではないか。

「後藤さんの、言う通りかもしれねえ。いい子ちゃんなんかやったって、ちっともいいことねえじゃんか。このまんま終わるんだったら・・いっそ・・・」

 頭の天辺が禿げ上がり、赤らんだ素肌が露出して亀頭のようになっている四十六歳の井川が、腕を組み、深く頷きながら言った。

「後藤さん・・・。ぼく・・・ぼく・・・女性の身体を、知らないんです・・」

 腹が妊婦のようにせり出し、いつも半病人みたいな青黒い顔をした四十八歳の益子が、どんぐり眼から大粒の涙をこぼしながら、こちらが聞いてもいないことをカミングアウトした。

「俺だって、似たようなもんさ。女ってヤツは、男を顔と収入だけでしか判断しないんだ。でも・・俺らにだってあんだよ、性欲ってのがさ。俺たちだって、人間なんだぜ。いくつになっても女とヤリたい、人間の男なんだ。それをセクハラなんて言いやがってよ。ちくしょうがよぉ」

 歯の五十パーセント以上が抜け落ちるか、真っ黒になって使い物にならなくなっている田口が、地面を叩きつけながら言った。

「よくも、俺の女を・・・。あのクソガキ・・ぶっ殺してやる」

 よくわからないが、なにやら、児玉愛以外の人物に憎しみを滾らせているらしい高野は、そこで席を立ち、家に帰ってしまった。

 去る者は追わず。後藤は黙って、同じのラインの作業者、高野の背中を見送った。

「ここに残ってるヤツは、みんな俺の同士ってことでいいんだな」

 後藤が問いかけると、河童禿げの井川、太鼓腹の益子、口腔崩壊の田口の三人は、後藤から目を逸らさずに頷いた。

「よし。俺に任せろ。黙って俺についてこい。お前らに、一生に一度しかない、極上の快楽を味合わせてやる」

 人の道を踏み外そうとしている後藤の背中を、二つの動機が後押している。

 自分の足元を掬った、若い女への復讐。

 運命に流されるばかりで、抗うことを知らなかった男たちに、人生にケジメをつけさせてやる。

 それは、か弱い女に対する、中年男の醜い逆恨みなのだろうか。

 否。

 これからやろうとしていることは、今、世の中でもっとも弱い立場に置かれるオッサンが、本当に力を持った若い女に挑む、聖戦なのだ。

 まだ、ギリギリ身体が動く内にしかできないことがある。

 若い女に、もっとも忌み嫌われる存在だからこそ、できることがある。 

 日本でもっとも有名な予備校講師の名言が、夜の公園に集った、四匹のオッサンたちの脳裏にこだましていた。

                       
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――後藤さん、お待たせしてすみません。いま、仕事片付いたんで、そっちに向かいます。

 時計の針が垂直になるころ、児玉愛からLINEのメッセージを受け取った後藤は、コンビニで立ち読みをやめて、愛との待ち合わせ場所である、工場の近くの児童公園へと向かっていった。

 正社員と派遣社員、二十七歳の年齢差という高いハードルを乗り越え、若い女とデートの約束を取り付けた。児玉愛が、後藤に好意を抱いているのは、これで確定的となった。

 こんな冴えない後藤を好きでいてくれている愛を、これから、彼女が毛嫌いする「ダメおっさん」たちの、性の慰みものにしようとしている。

 情の薄い後藤にして、罪の意識に胸を締め付けらないかといえば嘘になるが、それが卑劣な犯行を思いとどまる理由になることはなかった。

 児玉愛は、信頼していた男に騙され、「ダメおっさん」たちに犯されても文句を言えないほどの大罪を犯してしまったのだから。

 昨日もいつもの飲み屋に集まり、おっさんグループと、「出陣式」を行った後藤は、「同士」井川、田口、益子に、過去の経歴を話させていた。非正規の中年が得意とする虚構ではなく、彼らの偽らざる、本当の経歴である。

――社会に出たら超就職氷河期で、大学まで出たのに、ブラック企業にしか就職できなかったよ。月に三百時間も働かされて、身体も心もボロボロになってさ。家で休んでいる俺に、親戚連中は、冷たい目を向けるだけなんだ。もう、誰の言うことも信じられないよ。

 唇をわなわな震わせ悲憤を訴えたのは、戦国時代に日本を訪れた宣教師のように頭頂部の禿げ上がった、四十六歳の井川である。

――中学のときイジメに遭って、人が怖くなった・・・。

 たった一言、絞り出すように言って涙をこぼしたのは、妊婦のように腹のせり出した、四十八歳の益子である。

――無遅刻無欠勤で真面目に仕事しても、誰にも褒められない。みんなに愛されるのはいつも、仕事は適当で、しょうもないことばっかり言ってるヤツなんだ。明るくないことは罪なのか?明るくなれる理由が一つもないのに、どうやって明るくなれっていうんだよ・・。もうこんな人生、ウンザリだよ・・・。

 悲哀を語り、海より深いため息をつくのは、おっさんグループで最年長の五十一歳、虫歯、すきっ歯、擦り減った歯だらけの口腔崩壊を起こした田口である。

 彼らは、それぞれの理由から社会のレールを滑り落ち、非正規の派遣社員として働く身の上となった。

 たとえ不甲斐ない身の上でも、おっさんたちにだって、尊い人生があったのだ。それを踏みにじった児玉愛を、後藤は許しはしない。

 苦労知らずの小娘が、いくら自分に好意を寄せようが、不能の後藤はピクリともしない。後藤が心を寄せるのは、ともに長い年月、人生の荒波と戦ってきた、同世代のおっさんたちである。

 仕事が終わったあと、一度アパートに帰り、証券会社時代に着ていた、海外ブランドのスーツを着込んできた後藤は、スマホのカメラで己の顔を写し、頭髪が乱れていないが、ヒゲの剃り残しがないか、鼻毛が出ていないかをチェックした。

 昔のような眼光はないが、代わりに男の深い哀愁を帯びた目。歳の割に十分な量感をキープした、オールバックの短髪。薄い唇が冷たい印象を与えるが、ホームベース型のハッキリした輪郭と突き出た頬骨は、引っ張ってくれそうな男の頼もしさを感じさせる。 

 自分で言うのもなんだが、ルックスはいい方だと思う。しかし、これから愛を手籠めにするのは、画面に映る「ナイスミドル」ではなく、蝶よ花よと持てはやされる若い女とは極北に位置する、汚いおっさんである。

 人生が完全に詰んでしまった男たちに、たった一度だけでも、己の運命に抗ったという証を残してやる。それは不能で欲求も枯れた後藤にとって、自分が若い女と身体を重ね合わせるより、ずっと気持ちのいいことなのだ。

 身だしなみチェックを終えると、愛が工場の方から、公園に向かって、自転車で走ってくるのが目に入った。

「ハア、ハア。遅くなって、すみません。着替えるのに、思ったより手間取っちゃって・・」

 濃紺のサマースーツ、膝頭までのスカート、安物だが品のいいシルバーのネックレス。二十七歳年上の男に合わせ、大人びたファッションに身を包んできた愛が、息を切らせながら後藤に頭を下げた。 

「いえ。児玉さんが来てくれて嬉しいです。さあ、行きましょうか」

 後藤も愛に恭しく頭を下げて、公園の外に止めてある車へと、愛を導いた。車種がデートには似つかわしくないハイエースであることを、愛が訝しむ風はない。

「すみません、助手席に、コーヒーをこぼしてしまって。後部座席の方に乗ってもらえますか」

 愛が、何も疑うことなく後部座席に乗り込んだ瞬間、後藤は携帯を取り出し、井川の番号にコールを鳴らした。

 ハイエースの後方から、公園の倉庫の裏に隠れていた三匹のオッサンたちが駆けてくるのがバックミラーに映っているが、ステアリングに手をかける後藤の横顔に熱い視線を注いでいる愛は気づいていない。

「はァいひゃ~っ」

 ポン中になった猿のような声をあげて、三匹のオッサンたちが、一斉にハイエースの後部座席になだれ込んできた。

「ひぃ~」

 扉を閉めると、後藤世代が夢中になった特撮の怪人のような奇声をあげて、河童禿げの井川が、スーツの上から、愛の小ぶりな胸を揉みしだいた。同時に、後藤が車を発進させ、地獄のドライブが始まった。

「なっ。なに、あなたたちっ、いや、いや、いやあぁっ」

 歓喜からどん底に叩き落とされる愛。自分を破滅させた若い女への復讐と、後藤と傷を分かち合う「嫌われオッサン」たちに悦びを提供してやれる二つのカタルシスに、人気のない山中に向かってステアリングを駆る後藤の血潮は熱く滾っていた。

「・・・・・・・」

 生まれて初めてまともに触れる女体に、肥満体の益子は声も出ないほど夢中になり、その構造を確かめるように撫ぜている。口腔崩壊の田口も、スカートをめくり上げ、労働の汗をしっぽり吸ったパンティを、目を血走らせながら夢中で嗅いでいた。

「おい田口さん。どんなニオイがするよ」 

「・・・・は。レモンの果汁のようなニオイと、ヨーグルトを拭き取ったようなニオイがするであります、部長」

 作戦の決行に先立ち、後藤は三匹のオッサンたちに、自分をかつての役職である、「部長」と呼ぶことを義務付けていた。これまで同僚だった男たちに突然命令するには、呼び方を変えて、ケジメをつける必要があった。

「おう。そしたら、今度はパンティを脱がせて、まんこのニオイを直に嗅いでみろよ」

 田口が後藤の指示で、愛の腰骨の辺りに手をかける。後藤とベッドに入ることまでは想定していなかったのだろう、愛のパンティは、子供が履くような、ディズニーのキャラクターものだった。

「イヤァッ・・やめて・・・。どうして、こんなことするの。やめて、やめてよぉ」

 愛が身をよじろうとするが、井川と益子に両脇を抑え付けられて動けない。ディズニーのパンティが足元までずりおろされて、割れ目の淵に薄く毛の生えた、川茂のような愛の秘部が露になった。

「う・・。レモンとヨーグルトに、カツオの叩きのような香りが加わって・・・なんともミステリアスなニオイであります」

 益子と同じ童貞か、風俗でしか女の経験がなかったのであろう田口は、生身の女のにおいに衝撃を受けて、汗でぬかるんだ愛の秘部に、毛穴の開いたイチゴのような鼻を押し付けたまま固まってしまっている。

 フリーズしているのは、愛の両脇を抱えている二人も一緒だった。

 真性童貞の益子は仕方ないが、河童禿げの井川にしても、勢いがあったのはオッパイを揉むところまでで、車が発進してから暫く経った今は、愛の肩を掴む手も震え、どうしていいかわからないといった風に目を泳がせている。

 長年、言われたことだけやっていればいい仕事ばかりしていたせいか、自分で考えて行動できない、指示待ち人間になってしまっている。どうやら、コイツらには一から十まで、後藤が指図してやらなければいけないらしい。

「後藤さん・・どうして、こんなこと・・・」

 潤んだ目を向けてくる児玉愛。後藤の心には、さざ波ひとつ立たなかった。

「お前が散々、コイツらをバカにしやがったからだろうが。人生の先輩へのリスペクトが足りない、世間知らずのメスガキには、キッツイお仕置きをしてやらなきゃな。おい田口。コイツのくっせえマンコを、キレイにお掃除してやれよ。井川は上半身を裸にして、ナマ乳を揉んでやれ。益子はキスだ。お前の熱いベーゼを、たっぷりと浴びせてやれよ」

 後藤の指示を受けて、地蔵のように固まっていた三匹のオッサンたちが、弾かれたように動き出した。

「は・・ぶ・・・く・・・・じゅぱっ・・・じゅもっ・・・・・」

 淫臭に咽そうになりながら、田口は普段、自分たちを犬の糞でも見るかのような目で見てくる女の汚れた部分を、夢中で舐めた。

 愛のスーツを脱がし、これまた安物の、子供っぽい白のブラもはぎ取った井川は、ハフッハフッと興奮した息を吐きながら、硬そうな乳房に、伸びた髭がザラザラした頬を擦り付けた。

「つ・・・つ、つ、つ、はァっ・・・ふ・・・く、く、く、はァっ、はァっ」

 キスをするときに、なぜか、呼吸を完全に止めてしまっているらしい益子は、一回ごとに大げさに息を吐き出しながら、嫌がって顔を逸らそうとする愛の品の良い唇に、ガサガサした己の唇を何度も押し付けた。 

 失われた青春を取り戻そうとしているかのように、二十二歳の女体を貪る三匹のオッサンたちのエネルギーは、ステアリングを握る後藤の背中にも、ヒシヒシと伝わっていた。

「イヤ・・・やめて・・出してぇ・・・助けてぇ」

 悲惨なのは、グロテスクな容姿の中年男たちに、身体を好きにされる愛である。きめ細やかな肌に触れてくる指のぬめった感触と、Tシャツの汗染みから立ち昇る鼻をつんざく臭気に充てられ、不快感のあまり、顔が捻じれたようになっていた。

「ぼ。ぼ、ぼ・・ぼくも、おっぱい・・・揉みたい。井川さん、代わって」

「・・・・もう少し。ちょっと待って」

 次第に、この状況に慣れてきたオッサンたちが、後藤の指示を待たずに動き始めた。雄の本能が、長年の習慣を超越し始めたのだ。

「い、井川さんだけ、おっぱい、ずるいよ・・。僕だって、僕だって、モミモミするんだぁっ」

「まだ、だめだっ。これはおれの、おれの、おれのおっぱいだぁっ」

 愛のおっぱいを巡って、益子と井川が、怒鳴り合いのケンカを始めた。

 田口はといえば、揉める二人を意にも介さず、もう、すっかりニオイも落ちたであろう牝の部分を、いまだ夢中でクンニリングスし続けている。

 可愛そうなのは、欲望に支配された中年男の間で板挟みになった愛で、眼鏡の奥の目には、もういっぱいに涙が溜まり、形のいい小鼻からも洟が垂れていた。

(それがどうした・・。醜いオッサンどもだって、お前と同じように、涙を流すことを知っていれば、こんな目には遭わなかったんだ)

 後藤は、一瞬湧きかけた仏の心に、すぐ蓋をした。 

「おまえら。喧嘩すんなら、今すぐ車を降りてもらうぞ」

 後藤が低い声で言うと、おっぱいを巡って争っていた益子と井川はハッと黙って、後藤の指示を仰ぐように、ドライバーズシートの方を向いた。

「女は一人しかいねえんだ。仲良く、譲り合って弄らないとダメだろう」

 赤信号で、後藤は後部座席に首を回して言った。

「は、はい。すみません」

「ごめんなさい。僕がワガママでした・・」

 後藤の叱責に、井川、益子が素直に頭を下げる。

「わかったならいい。そしたら次はよ、お前らも裸になって、女の肌の感触を、全身で味わってみろよ」

 後藤が命じると、三匹のオッサンたちは、愛の身体からいったん手を放し、汗で変色したTシャツ、ブリーフ、トランクスを、次々に脱ぎ去っていった。

 ハイエースの中に、酔っ払いが路地裏に吐いた汚物のようなニオイが充満する。オッサンたちに服を脱ぐように指示したのを後悔したが、もう遅い。

「きゃああああああああああっ」

 同じ男でも顔を背けたくなる醜い裸体を顕にしたオッサンたちに、愛が車体を揺らすような凄まじい悲鳴をあげるが、燃え上がったオッサンたちは怯むことすらなく、次々に、剥き出しにした性器を愛の肢体に擦りつけ、性の悦楽を貪り始めた。

「うう・・・うぅ・・・・む」

「あ・・・・おぉ・・・・ゥ・・」

「お・・・・・こォ・・・ほっ・・・」

 異臭を放つ醜悪な中年男たちが、狭い車の中でひしめき合い、奇妙な呻き声をあげながら、寄ってたかって、見め麗しい若い女に、見苦しい半勃ちのものを擦り付ける。

 地獄絵図以外の何物でもなかった。 

「いっ。いっいっいっやぁぁっ、うぅぅぅうおっ、ォォッ」

 何かが爆ぜたように、愛が唸るような悲鳴をあげた。

「うー、うー、うーっ。うっうっうっうぅぅおぉぉっ。ぅうぅぅうぅわあァァっ」

 醜い悪臭親父に身体を好き放題にされる屈辱。この先、一体どうなるのかという不安。好きな後藤に裏切られた悲しみ。

 何もかもが混ざり合った愛の悲鳴は凄絶だったが、人であることをかなぐり捨てて決死行に望んだ、四匹のオッサンたちの心に響くものは何もない。

「いやァ、女の身体ってのはいいモンだなぁ。あったかくって、やわらかくってよぉ。元カノよりも、なんだか母ちゃんを思い出すぜ。なぁ、益子さん」

「ぼ、ぼく。こんなの、初めて。この、この、かわいい顔をみてると、心がキュンキュンする。おっぱいもおしりも、こんなにプリプリしてて・・・。ねぇ、田口さん」

「首筋や腋からは、植物園にいるような甘いニオイがして・・・おまんこからは、きのこ園の腐葉土が醗酵したようなニオイがして・・・。おしりの穴に指突っ込むと、うんこのニオイがついて・・。あ、足のニオイとかは、俺と変わらなくて・・・。お・・・女のニオイって、奥が深い・・・」

 これが初めて、あるいは、かなりのブランクを経て、若い女を抱いたオッサンたちが、思い思いの感想を述べる。

「いやぁぁぁっ。やアだぁアっ、うぅォっ、うぅォォッ。アァァァッ」

「・・・お前が身体を蹂躙されるその痛みは、コイツらがお前に酷い言葉を浴びせられ、心を踏みにじられる痛みと何も変わらない。天罰だと思って諦めろ」

 聞き分けのない子供のように騒ぎ、助けを求めるように、ドライバーズシートに悲痛な眼差しを送る愛を、しかし後藤は冷厳に突き放す。

「お・・・・おぶ・・・おぉ・・・」

「ムオ・・・フ・・・あぁ・・・・・」

「うぬ・・・は・・・・むはぁ・・」

 若い女の柔肌に、官能の呻きを漏らす中年男たちが纏わりつき、生温かい法悦の吐息、胃の中の腐敗臭を含んだ唾液を擦り付ける。

 緊張もあったのか、服を脱いだ時点では、ぶよぶよした幼虫のようだったオッサンたちのペニスが、やがて、硬く大きく膨れてきた。

「よし・・・入れてみよっかな」

 勃起すれば、竿に刺激を与え、溜まったものを出したくなるのが、男の性というものである。まず、真っ先に隆々となった井川が、愛を対面座位の形で抱きかかえ、挿入を試み始めた。

「やぁぁぁぁっ、やぁぁぁっ、うゥゥわぁぁぁっ」

「くっそ・・・ここじゃ、どうにも・・」

 揺れる車の中で、抵抗する女に挿入するのは、想像するほど簡単なことではない。

 なかなか貫くことができず、業を煮やした井川は、やがて、射精できれば何でもいいとばかりに、愛の太ももや横腹、乳房などに、竿を擦りつけ始めた。

「おっ。これいいっ。これいいぞォほォっ。ホウホウッ」

 サルがマスターベーションのやり方を探るように、闇雲に愛の身体に竿を擦り付けていた井川は、やがて愛の正面に立ち、愛の腋で剛直を挟み込んで、疑似挿入を味わうことを覚えた。

「ホウホウッ、ホウホウッ」

 雄の爆発が近づいているらしい井川が、河童禿げの頭頂部と仮性包茎の亀頭を、それぞれ凶悪なニホンザルのように赤らめて、興奮の雄たけびをあげた。

「う、う、う、うっぴどぅ~っ」

 奇妙な声とともに、まずは井川が、第一号となるザーメン弾を、愛の顔面、首筋、胸に放った。

「う、う、ぁ・・・う・・ァ・・・・」

 汚濁を浴びせられた愛から四肢の力が失われ、声をあげる力さえ奪われて、糸の切れたマリオネットのようになっていく。これまで、同じ生物だとすら思っていなかったのであろう醜いオッサンの命の温かみが、愛の心を真っ二つに折ったのだ。

 醜いオッサンたちとて、自分と同じ赤い血が流れ、両親がおり、世の中の矛盾と戦い、必死に働いて生きてきた人間である。

 自分の倍も生きてきた、尊厳のある人間を、これまで、クサい、汚い、オヤジだなどといって愚弄してきた報いを、今受けている。己の罪の重さを、もっとも忌むべき体液の温もりを感じることによって、愛はようやく悟ったのである。

「よし、着いたぜ」

 井川が絶頂を極めるのとほぼ同時に、後藤はサイドブレーキをかけ、ハイエースを停車させた。
 誰も訪れることのない、山中の廃工場。これから、ここでゆっくり時間をかけて、脂ぎったオッサンどもに、愛を犯させてやる。

「さぁ、次はどっちだ。準備ができた方から先に、ぶち込んでやれよ。ここじゃ狭くてうまくできないなら、外でヤッたっていいんだぞ」

 後藤がいうと、愛の手をオナホールにして、余った皮に恥垢の溜まったペニスを扱いて大きくした田口が、恐怖に震える愛を、車外へと押しやっていった。

「よ・・・よし。エッチするぞ」

 開け放たれたスライドドアから、熊も猪も逃げ出してしまいそうな、獣の凄まじい臭気が飛んでいく。

 田口は地面に突き落とした愛にのしかかっていって、まず、虫歯菌のたっぷり巣食った口で、乳頭に浮かぶサーモン・ピンクの蕾をムチュっちゅうと吸い立てた。

「た、たぐちさん、頑張れぃ・・・」

 射精の余韻に浸っている井川が、車中から田口にエールを送る。後に控える益子は、愛の裸体を眺めながら、男の武器を戦闘態勢にしようと、必死に扱いている。

「へ、へひ、へひ。入れるぞ。入れちゃうぞぉ・・・・あ、あれ・・・」

 田口が、もはや抵抗を諦めてダッチワイフのようになっている愛に、正常位で挿入を試みようとするが、ブランクが長いせいか、なかなか位置を探り当てられないらしい。

「あ、あれ?ここか?ここだったかな・・?」

 高校生や大学生の童貞ならともかく、歯抜けの五十路男が、入り口がわからず戸惑う様などは、滑稽であり無様でしかない。腹の下に組み敷かれた愛の顔は、恐怖に青ざめていた。

「た、たぐちさぁん。諦めたら、そこで試合終了だぞぉ」

 したり顔で何かを引用して若い者に説教するのを得意とする中年男が、世界で一番有名なバスケット漫画の名言を放ち、仲間を鼓舞する。

「おっ。は、入った!お!お!お!」

 果敢なトライが実り、とうとう五十年選手の先っぽが、愛の肉洞窟の入り口を捉えた。

「ひ・・・ぎ・・ィッ・・・」

 入れた田口が歓喜に咽び、入れられた愛が苦痛に顔を歪める。

 ハイエースの中では、射精後の倦怠感に浸りながら見守る井川が拍手を送り、益子は出番に備え、いまだに萎れたナメクジのようになっているペニスに、必死に喝を送り続けている。

「はひっ、はひっ、はひぃ。はぁ、はぁ、はぁ」

 指揮を取る後藤が見つめる前で、田口が途中で何度も抜けながら、ぎこちなく腰を使って、絶頂へと昇りつめていく。だが、先に達したのは、田口ではなかった。

「うっうっ・・・うっ・・・」

 ハイエースの中で、モノを大きくしようと頑張っていた益子が、つい力あまって、柔らかいままイってしまったのだ。

 第二号のザーメン弾は、愛の身体には一滴も触れず、ただ、助手席の後ろを汚すことになってしまった。

「あはは。益子さん、ちんちんフニャフニャのままイッちゃったじゃん。歳のせいで、衰えちゃってるんじゃないの。童貞を捨てる前に衰えちゃった、衰えちんちんだぁ」

 一部始終を見ていた井川が、自分もうまく入れられず、腋まんこを使って射精したのを棚に上げて、益子の醜態を愚弄した。

「ち・・・違うよ。いつもだったら、もっとビンビンなんだ。え、え、え、えーぶい見るときは、もっとビンビンに、ほんとにビンビンになるんだから」

 井川に馬鹿にされて意地になり、射精を終えたフニャチンをなおも扱き続けている益子に、自らも勃起不全を患っている後藤は、憐憫の眼差しを送った。

 勃起不全が加齢による肉体的衰えだけで引き起こされると思ったら大間違いで、初体験を迎えた男性が緊張のあまりに勃起できなくなったり、経験豊富な男であっても、レイプやAVの撮影など、特殊な状況下に置かれたときには、突発的にモノが役に立たなくなるということはよくある。男性器というものは、女が思っている以上にデリケートなものなのだ。

 女と同じか、それ以上にデリケートな男を、散々に愚弄した愛を、後藤はけして許しはしない。
 痴漢で逮捕されて以降、自分が味わった以上の地獄を、オッサンをバカにする愛に味合わせてやる。

「下の口に突っ込めないからといって、悲観することはない。もっと大きくて入れやすい穴があるだろうが」

「そうだよ。上と下で、一緒にやろうよ。益子さん」

 マグロ状態の愛に下半身を打ち付けていた田口が、「ウ」という呻きとともに無事昇天すると、怒張の回復した井川が、益子の手を引いて、愛に第二ラウンドを挑みかかった。

「ホウホウホウ、ホウホウホウ・・」

 井川がまた、怒り狂ったニホンザルのような声をあげながら、地面にへたり込みながら大きく口を開け、歯槽膿漏特有の排便めいた口臭をハアハアとまき散らしている田口のおやじ汁がたっぷり注がれた蜜壺を突きまわした。

「お・・ふ・・あぁっ。いっ・・いいぞっ・・あぁっ」

 キツく閉じられた愛の口をこじ開けて、ちょうど、仰向けになっている愛とT字を描くような形で萎びた海綿体を強引にねじ込んだ益子が、愛の顔面を押しつぶすようにしてぎこちなく腰を振り、疑似セックスの快感を味わい始めた。 

「どうだよ益子さん。気持ちいいか?」

 サイドウィンドゥから、自分の指示通りに動いてくれる部下を眺め下ろしながら、後藤が訊いた。
「はぃ・・・。次々に湧き出してくる唾があったかくて。女の子の、お風呂に浸かってるみたいですぅ・・・。これもすべて、後藤さんのお陰ですぅ・・・」

 バスケットボールが入っているかのような腹で愛の顔面をプレスする益子が、やに下がった顔をこちらに向けてきた瞬間、後藤の全身に、八百万の神が一辺に降りてきたかのような衝撃が走った。 
(これだ。俺に足りなかったのは、これだったんだ)

 誰かのために――。

 自らの栄達ではなく、ともに働くみんなの笑顔を見るために仕事をする。

 それが、こんなに気持ちの良いことだったなんて知らなかった。

 これをもっと早く知っていたら、自分の現在地は、間違いなく変わっていた――。

「ハァハァ・・。あぁ可愛いなぁ。生気が宿ってないのに、君の顔は、なんでこんなに可愛いんだろう。ねぇ笑ってみせてよ。笑った君は、もっと可愛いんだから」

 ピストン運動に疲れた益子が、愛の口から、半勃ちにすらなっていないモノを引き抜き、目の焦点の合わない愛の頬を掴んで、ムチュッ、ムチュッとキスをしながら言った。

「ガハハハッ益子さん、そいつは無理な注文ってもんだろ。おっ。出るっ、出るぞっ」

「あっ。待って。待って井川さん。一緒にっ、一緒にイこう」

 益子がバナナスラッグを愛の口にまたねじ込み、カワイイ愛のボブヘアを掴んでイラマチオした。

「おゥ。益子さん、一緒にっ、一緒にイこう。ホウ、ホウホウ」

 若干、ピントのズレたことを言いながら、井川と益子が、雄の頂点を目指して駆け上っていく。

「うっぴどぅ~」

「うっうっ、うっ・・・・」

 歓喜の雄たけびをあげながら、二匹のオッサンが同時に、愛の上の口と下の口にオヤジ汁を注ぎ込んだ。



                        5

 
(やり遂げた・・・。俺はやってやったんだ)

 後藤の人生を崩壊させた若い女に、生きるのがイヤになるほどの苦痛を味合わせる。後藤の復讐は、ここに成し遂げられた。現代社会で不当に虐げられるオッサンたちを率い、若い女が社会のシステムの頂点に君臨する歪な世の中に一太刀を浴びせ、オッサンがすべてを支配する悠久の形に戻してやったのだ。射精以上のカタルシスに、後藤は酔いしれていた。

「よし。井川さん、益子さん。スッキリしたなら、こっち来て一杯やろうや」

 後藤は、シャバでの最後の晩餐のために用意した酒とツマミを廃工場のコンクリート床にあけ、娘のような歳の女に種付けを完了した三匹のオッサンたちを呼び寄せた。

 星空の下、野獣の欲をすべて発散しきった中年男たちが酒盛りを始める。

「あーあーあー。俺たちのセクハラザーメンが、おマンコとお口から溢れ出しちゃって。ケッヒッヒ」

 今晩からしばらく、酒とマトモな飯にはありつけない生活を余儀なくされるということで、ツマミのメニューは普段よりも奮発しているが、それよりも何よりも、目の前に仰臥し、二つの穴から、気泡をプクプクとさせる白濁を垂れ流している愛の姿こそが、オッサンたちにとっては最高の肴だった。

「しっかし、後藤さん様々だよ。俺らだけだったら、とてもじゃないけど、こんな大それたことしようなんて思わなかったもんな」

 勧善懲悪のストーリーの主役となった後藤に、オッサンたちの、惜しみない感謝の目が注がれる。コンビニで買った酒を、こんなにうまいと思ったのは初めてだった。 

「愛ちゃんにも、感謝しなきゃなぁ。愛ちゃんのおマンコのお陰で、俺ら、こんなに気持ちよくなれたんだもんなぁ」

 雨降って地固まる。

 すべてのわだかまりを捨てて、愛にも感謝の眼差しを送る三人の顔は、スターウォーズ・エピソード6のラストシーンで肩を寄せ合う、オビワン、アナキン、ヨーダの三人のように穏やかだった。
「ふわァ・・・。俺、もう眠くなってきちゃった」

「僕も・・・・」

 宴もたけなわとなると、アルコールが回って、食欲が満たされた三匹のオッサンたちは、めいめいハイエースに帰って休み始めた。

 満腹と酩酊のせいだけではない。オッサンたちが口にしていたツマミには、催眠導入効果の強い精神安定剤が混ぜてある。

 人生の最期に、人の役に立つことができた。もう、この世に思い残すことはない。

 後藤がトランクから、練炭と七輪を取り出そうとした、そのときだった。

「パパ・・・パパ・・・・」

 放心状態でいたはずの愛が、益子の精液を口の端からこぼしながら、後藤に哀願するような顔を向けていた。

 後藤は反射的に、ミネラルウォーターのペットボトルを持って、愛の傍に駆け寄っていった。

 水で口をゆすがせると、揉みくちゃにされてつるがひん曲がり、レンズの抜けてしまったメガネの奥から、愛が潤んだ眼で、後藤を見上げてきた。 

「・・ごめんなさい。ごめんなさい、後藤さん」

「ごめんって・・」

 集団レイプの被害者である愛に、なぜか謝られている。

 自分が酷い目に遭わせた愛の予期せぬ反応に、後藤は戸惑っていた。

 同時に、己の内から湧き上がってくる奔馬のような熱い感情が、後藤を突き動かす。

「おい、洗ってやろうか」

 頷く愛の秘裂にミネラルウォーターを流し、指で擦って、オヤジどもの痕跡を落としてやると、愛が「ア」と哭いて、ピクリと身体を震わせた。

「そのままじゃ風邪引いちまう。ちょっと待ってろ。服を取ってきてやるから」

 可哀想な女のために、何かをしてやりたい。

 こんな気持ちになったのは、初めてのことだった。

 これまでの人生で、女を心から愛し、女のために生きたいと思ったことは、一度もなかった。身の回りの世話を任せるためだけに結婚した妻はもとより、実の娘に対してすらも、けして失いたくない、というほどの情を抱いたことはなかった。

 しかし、後藤はいま、後藤しか頼れる者がいない状態にある目の前の若い女を、心底愛しい、助けてあげたい、と思っている。

「・・どうした。着ないのか?」

 車内から持ってきたスーツに、なかなか袖を通そうとしない愛に訊くと、愛は突然、全裸のまま後藤に抱きついて、身体を擦り付けるようにしてきた。まるで、三匹のオッサンどもの残滓を、後藤で拭い去ろうとするように。

「ふわぁ・・・あったかい・・・。後藤さんの胸の中、とってもあったかい」

「う・・・・な・・なんていうか・・・ごめん。ごめんな」

 しっかりと密着して、心臓の鼓動を後藤のみぞおち付近に伝えてくる愛を、後藤はどうしていいかわからず、ただ謝り、抱きしめた。

「私の家は、小さいころにお父さんが亡くなって・・・。お父さんに、ずっと憧れがあったんです。前に付き合っていた人も、親くらいに歳の離れた人だった。でもその人には家庭があって・・」

 後藤に抱擁され、少し落ち着いてきた愛が、己の身の上と、これまで後藤に抱いていた、本当の思いを語り始めた。

「後藤さんと初めて会ったとき、すぐにわかった。この人は私とは違う、本当の競争の世界で生きてきた人だって。もうそのときから、夢中だった。今は傷ついた心を休めているだけで、この人はいつか、こんな地方の工場からは離れて行くんだろうなって思ってたから、食事に誘われたときは、本当に嬉しかった」

 児玉愛は母子家庭の出身で、ファザコンの気がある娘だった。

 とすれば、愛の「ダメおっさん」への嫌悪は、普通の若い女がオッサンを毛嫌いするのとは違って、期待外れに終わったオッサンへの、愛憎半ばする感情からくるものだったのかもしれない。

 自分は今まで、とんだ感違いをしていたのではないか。

「ねぇ後藤さん。後藤さんは、愛を懲らしめるために、こういうことをしたんでしょ?ねぇそうでしょ。そうだって言って」

「・・ああ」

 秘所も顕わに、潤んだ目を向けて詰め寄る愛に、後藤は何か、圧倒されるものを感じていた。 
  
「ねぇ・・・私、このままじゃ帰れない。後藤さんで終わらないと帰れない。だからお願い。ねぇ後藤さん、私を抱いて・・・。抱いてくれたら、今日のことは、全部なかったことにするから。警察に言ったり、絶対にしないから。だからお願い。ね・・・」

 好きな後藤に、ダメおっさんに汚された身体を清めて欲しいのだという愛。

 世の中には、ガードが堅い反面、一度好きになった男にはとことん盲目で、いかなる仕打ちを受けても肯定的に捉えるという女がいるのは知っていた。だが、ここまでとは。

 騙されて、好きでもないダメおっさんたちに肉体を嬲られて。それでも、こんな一途な思いを貫けるものか?

 後藤の中で、女という生き物に対し、これまでになかったリスペクトの気持ちが生まれていた。

「・・・・もう、オッサンどもを見下したり、悪口を言ったりしないか?」

「しません。私は、もう二度と人を見下したり、悪口を言ったりするようなことはしません」

「オッサンたちにも、他の作業者と同じように接するか」

「はい」

「よし。じゃあ、抱いてやる」

 後藤がスラックスをおろすと、愛が、「アァッ」と、歓喜の法悦を漏らした。

 ボクサーブリーフも降ろして、ボロッとまろび出たペニスは、半勃ちになって、ヒクヒクと震えている。少し前まで、扱いてもピクリともしなかった勃起不全のペニスが、二十二歳の女体に反応している。
 この娘が好きだ。この娘を一生守りたい。この娘とエッチしたい。この娘と子供を作りたい。この娘に、自分の一生を捧げたい。

 様々な情欲が止め処なく溢れ、死に絶えていた海綿体に血液を送り込んでいく。

(俺は・・・生まれ変わったのかもしれん)

 これまで、情というものを抱いたことのなかった人間に、ある日突然、人の心が芽生える。後藤の場合、そのトリガーとなったのは、誰かのために行動する喜びを知ったこと。そして、「許される」という、強烈な安堵感を味わったことだった。

 すべて、愛のおかげ・・・。

「そこで仰向けになって。舐めてキレイにしてやる」

 後藤は己の海外ブランドのスーツを、土埃や小石で汚れたコンクリートに敷くと、その上に愛を寝かせ、ミネラルウォーターで口をゆすいでから、愛の肌に舌を這わせていった。

「アゥ。アァいやアッ。スゴッ、こんなのって・・アァヤァ」

 太ももの内から、わき腹にかけて、ツーッと愛撫してやっただけで、愛はビクッビクッと凄まじい反応を見せた。

「アン。ア、後藤さん・・後藤さ・・」

 へその周りを指でなぞるようにしながら、よく手入れのされた脇嵩と、小高い双丘の天辺に浮かぶピンクの蕾をチロチロと舐め上げてやる。

「好きぃ。もう好きぃ。好きぃ・・だから・・。ハッ・・アウ、ア・・」

 さらに、濃厚な舌攻めが秘所にまで及ぶと、愛はとうとうエビ反りを見せた。

「待ってた。ずっと待ってたから・・・」

「待ってた?何を」

「後藤さんの・・・」

「そうか。だったら、俺のを舐めて、大きくしてくれ。児玉さん」

「愛。愛って呼んで」

「おう、愛ちゃん。そら、やってくれ」

 今度は後藤が仰向けになり、勃ちかけたものを、愛の前に突き出した。

「ォ・・・オゥ・・オォ・・・絶品だな、こりゃ」

 陰嚢の裏から、筋を舐め上げるようにし、右手の指で竿を扱き、左手の指で睾丸をコリコリとしながら、舌先で亀頭を刺激する愛のフェラチオに、後藤はついさっきまで不能だったのが嘘のような快楽の呻きを漏らした。

 次に愛は、七分勃ちくらいになったものを根元までぐっぽりと飲み込み、音を立ててディープスロートし始めた。

 ずっぽ、つぶっ、じゅぽっ、ぐぷっ、ぬっぽ、がぽっ。

 流石に年上の既婚者と付き合っていただけあり、愛の奉仕は纏わりついてくるように濃く、激しかった。

「あぁ・・。後藤さんの、硬くなってきたぁ・・・」

 太ももの付け根まで生え広がる、鬱蒼とした密林の中に直立する肉塔が、雄のムンとした熱気と臭気を立ち昇らせ、愛の表情が蕩けていく。

「よし。もうそろそろいいだろ・・・」

 愛が欲しそうに眺めてくるのに応え、後藤はむくりと起き上がると、十分に女体を貫ける硬度となったモノを握りしめ、狙いを定めた。

「ハッ・・ク・・・ハゥン」

 濡れ具合を確かめるように、亀頭でクレヴァスを撫ぜると、愛はそれだけでも物凄い反応を見せる。悍ましく、不潔なオヤジペニスに突きまわされるという衝撃の体験が、二十二歳のまだ淡い媚肉を、普通では有り得ないくらいに敏感にしてしまったのかもしれなかった。

「行くぞ・・ゥ、ンン・・・・」

 井川と田口のモノで慣らされていたお陰で、突き入れた途端に、肉槍はズブゥ、と一気に奥まで沈んでいった。

「ア、オ、ア、ア、アァァァゥッ」

 掌にすっぽり収まるBカップの乳房をやわやわと揉み解しながら腰を使うと、愛はもう吼えた。

「ウン、ヤアッ、ヤア。ア、アァッ」

「おおぅッ、締め付けてくるじゃないか。いいモン持ってるな、あぁ」

 主導権を握るや否や、あっという間に往時の感覚を取り戻した後藤は、愛の太ももをグッと持ち上げ、松葉崩しの態勢から剛刀を送り込んだ。

「ア。アァアアアァン、ご、ご、後藤、さんの、すっごいっ。いい、すっごいっ」

「まったく、二十二のガキとは思えない乱れ方だな。前のオッサンと、どんな変態プレイしてたらこうなるんだ、んん?」

 卑語を投げかけながら、後藤は結合部が上から丸見えになるようにイヤらしく開脚させて、小娘のうねる媚肉を剛棒でこねくり回した。

「自分で動いてみるか」

 後藤が愛の下に入り、騎乗位の形になると、愛は汗でワカメのように額にへばりついた前髪をかき上げ、後藤の恥骨にふくらかな下腹を打ち付け始めた。

「ア・・ゥ・・・ゥ。ア・・アァッ」

 後藤が反り立たせる肉塔で自らの媚肉を攪拌するようにぐなぐなと前後にロデオしたかと思えば、次には腹の下の男のヘソの周りを撫ぜながら、八の字を描くように腰をグラインドさせる。昔、接待で行った高級ソープ嬢もかくやという腰使いに、後藤は「ウムゥ」と唸った。

「ァ、ァァッ、後藤さん、あっいいっ、いいっ」

 愛が壊れて、使い物にならなくなった眼鏡をかけ続けているのが、なんとも言えず劣情をそそる。しばらく、主導権を若牝に委ねて体力を回復した後藤は、腰を浮かせ、杭を思い切り突き上げた。

「ア、ア、アオオ、アオオオ、オゥホォッ、奥、奥まで来てる、きてるゥっ」

 小柄で童顔な愛には信じられないような乱れ方が、後藤を瑞々しい精気で満たしていく。

「二十二歳が、そんな吼え方するかっ。なんてヤラシイ女だっ」

 だが、その淫蕩の気があったお陰で、ウブな生娘だったら舌を噛み切って死んでいたかもしれない三匹のオッサンの汚辱に耐え、こうして後藤と繋がることができた。愛をここまで開発した、前の男様様。人に対する感謝の気持ちを、四十九にして知ることができた。

「おいっ、俺のザーメン欲しいかっ。愛の子宮に、俺のザーメンをぶちまけて欲しいかっ」

 四十キロそこそこの愛をピンポン玉のように浮かせながら、後藤は叫んだ。

「入れて、きてぇ、ぶちまけてぇ。ご、後藤さんのっ、ザ、ザーメン、もらい、たい・・・」

「よし。じゃあ、場所を移すぞ。ヌ。グゥッ・・・・」

 後藤は駅弁スタイルで愛を持ち上げて、繋がったまま、三匹のオッサンたちが眠るハイエースまで歩き、スライドドアに背中を押し付け、突き上げた。

「ア、アアッ、後藤さん、ここはイヤぁっ、ここヤなのぉ」

 ドアが閉まっているのに、車内からは、ストレスから睡眠時無呼吸症候群に陥ったオヤジたちの大きな鼾が響いてくる。先ほど、生き地獄を味わった車の中で、生き地獄を味合わせたオヤジたちの鼾を聞きながらするのが、愛にとって気持ちよかろうはずもない。だからこそ、変態的な欲求を刺激される。

「心配せんでも、薬と酒の相乗効果で、どんなに騒いでもコイツらは目を覚まさん。思う存分、ヤリまくろう」

 ドライバーズシートのドアを開くと、後藤の時代に隆盛を誇った暴走族を超える爆音が、耳孔に雪崩れ込んでくる。

「ねぇ後藤さん・・ここやっぱやだぁ。さっきのとこでしましょう」

「悪いなぁ。俺はここじゃなきゃぁ、ザーメン出せないんだよ」

 ドライバーズシートを目いっぱい後ろに倒し、対面座位の形で、後藤は愛に突き上げを食らわせた。

 車内には粘膜の擦れ合う音が響いているが、後部座席に折り重なるようにして眠る井川と田口、助手席でドアに凭れかかりながら眠る益子は、まったく目を覚まさない。

「うぷっ。ォ。ォ・・・」

 オッサンたちの鼾の爆音と、汗と加齢臭の混じったニオイに耐えかねた愛が、突如胃液を吐き出し、フサフサとした毛の生い茂る後藤の胸を汚した。

「どしたぁっ、オッサンたちを、もうキモイなんて言わないんじゃないのかぁ」

「だって、だって・・・」

「こんなくっせぇゲロしやがって。オッサンたちより、お前の方がよっぽど汚ぇじゃねえか」

「だって、だって・・。ごめんなさい・・・アムゥ、アムァッ」

 嘔吐感と快感の狭間にいる愛の、グチャグチャになった口を吸い、スッパイものをもらいながら、小柄の身体を上下に揺さぶった。

「アン、アン、ア・・・」

 地獄に花を――。

 愛の嬌声が、オッサンどもの鼾を掻き消し、後藤の鼓膜を慰撫すると、後藤のペニスにもムズムズと射精感が湧きあがってきた。

 亀頭が爆発しそうなほど盛り上がり、雁首が愛の中で、ぐぐぐっと持ち上がっていく。

「おっ、おっ、おゥ出るぞっ。欲しいか、欲しいか、欲しいかっ」

「欲っしぃっ・・・後藤さんのザーメン、いっぱいちょうだいっ」

「欲しけりゃくれてやる。だが約束しろ。このザーメンもらったら、もうオッサンを二度とバカにしねえって」

「しない、しない、バカにしなアい。だからア」

「オオぉぉぉアッ」

 世間知らずの小娘に、断罪の白弾が撃ち込まれていく。不能になってから、自慰も夢精もなかったが、ずっと作られ続けていた子種が、ビャグッ、ビャグッと二十二歳の子宮に注ぎ込まれ、愛も牝の絶頂を迎えて痙攣した。


                      6

 あれから一週間――。

「後藤さん、なんだか最近、楽しそうっすね」

 休憩所のベンチに腰掛け、ニヤニヤと笑いながら、スマホの画面を眺めている後藤に、後からやってきた慎吾が話しかけてきた。 

「え?そうか」

「最近、愛ちゃんとタメ語で話すようになりましたね。もう、飲みとか行ったんですか?」

「あ?ああ・・。まあ、な」

 スッとぼけたように答えたが、後藤のご機嫌の様子が、二十七歳下の女性社員との仲にあることは、慎吾にもお見通しのようである。

「いよぉし、働くぞぉ」

 休憩が終わり、ライン作業が始まった。後藤の隣の工程を担当する愛は、すでに持ち場に戻って、後藤の工程の応受援をしている。

「あ、ごめん・・」

「いいんです。私が勝手に早く戻ってるだけだから。休憩は作業者の権利なんで、気にせず、ゆっくり休んでください」

 愛は笑顔を向けてそう言ったが、後藤はいそいそと手袋を嵌めて、愛に任せていた作業を再開した。

 何事もなかったかのように、これまで通りの日常が、これまで通りに続いている。まるで夢でも見ているかのようだが、目の前で起きていることは、紛れもない現実である。

 あの後、後藤の運転する車で山を下りた愛は、約束した通り、警察に被害届を出すことはなかった。後藤のことも、井川、益子、田口の三匹のことも、然るべき場所に訴えることはなかったのである。

 かといって、愛がその後、後藤に肉体関係を求めてくるということもなかった。この辺り、女心というものはまことに複雑であるが、あの日までは盛んにスキンシップを取って、後藤が欲しいという自分の思いを訴えてきたはずが、今はパタリとそれが止んで、せっかくLINEのIDも教えたにも関わらず、向こうからデートの誘いが来ることもなかった。

 むしろ困っているのは、あれ以来、すっかり回春して、夜ごと下腹部の疼きに身悶えするようになってしまった後藤の方だった。

 しかし、あんなことをしてしまった手前、調子に乗って愛を誘うわけにもいかず、愛とのたった一回のセックスの思い出をおかずに、右手で愚息を扱く日々を強いられていた。 

「後藤さん、何だか最近、作業の手際が良くなりましたよね」

 前工程で材料の流れが止まり、手が空いたときに、愛が後藤に話しかけてきた。

「前までは後藤さん、五分に一回くらいは手を止めて、あぁ・・とか、うぅ・・・とか、オッサンっぽく苦し気に呻いてたのに、それもなくなったしね」

 愛の隣の工程を担当する慎吾が、からかい気味に言ってきた。   

「作業は良くなったけど、でも・・・。後藤さんが輝く場所は、ここじゃないと思うんで、あんまり、長居はしないでくださいね」

 愛が笑みを浮かべながら、しかし、少し寂し気に言った。

 もちろん後藤とて、これで終わるつもりはない。

 手を染めたのは、けして許されない卑劣な犯罪行為。しかし、あの日、自分の中で、何かが変わったという自覚がある。

 自分ではなく、誰かの笑顔のために働く喜びを覚えた。人に感謝し、思いやることを知った。

 今度は、違う結果になる気がする。

 後藤文義の人生を、ここで終わらせない。必ずやチャンスを掴み、再起を果たす所存である。

 でも、もう少しだけ、このままで――。

 女神のような彼女の傍で、働いていたい。

 勤務が終わると、後藤は井川、益子、田口、「三匹のオッサン」たちと、みんなが初めて一つになった近所の児童公園で酒盛りを始めた。

「今日仕事でさ、ラインリーダーから、井川さん、最近、笑顔が増えてきましたね、なんて言われちゃったよ。なんだかやたら調子よくってさ。自分でも怖いくらい」

「ぼ、ぼくも・・。最近、よく、褒められる・・・」

「最近、妙な身体の重さがなくなったんだ。風呂入るのだって億劫じゃないから、最近は毎日入ってるし。だからかな。女の人たちから、イヤな顔されなくなった」

 すでに酔いが回って、茹で蛸のようになった三匹のオッサンたちが、それぞれ、自分の好調ぶりを報告し合った。

 己の運命に抗い、リスク承知で、若い女という、現代社会の支配者そのものに一撃を食らわせた。自分が生かされているのではなく、自らの意志で生きているのだという実感が、枯れ果てていた中年男を蘇らせ、人生そのものまで好転させたのだ。

「それもこれも、後藤さんと愛ちゃんがいてこそだ。二人がいなければ、俺は今ごろ、あの工場にいなかったかもしれないんだ」

「お、おれ、あの日以来、若返っちゃって若返っちゃって。昨日なんか、DVD見ながら、二発も抜いちゃったよ」

「ぼ、ぼくも。もう朝なんか、痛いくらいで・・・」

 下半身の絶好調ぶりも報告し合う三匹のオッサンたちの視線が、公園の入り口に吸い寄せられていく。

 視線の先にいたのは、身体にフィットした黒のTシャツとスキニー姿の、児玉愛だった。

「お疲れ様です。みなさん、ここで飲んでたんですね」

 普通の女性が、二生分三生分かかっても味わえるかわからないトラウマを味わったことを微塵も感じさせない笑顔で、愛が普通に、オッサンたちの群れに混ざってきた。

 あの日の出来事は本当はなくて、集団催眠にかかっていただけではないだろうか、という疑問が、後藤を襲う。

 しかし、事実は言葉よりも雄弁に、あの日確かに、痛烈な体験が、男と女に人生を変えるほどの意識改革をもたらしたことを物語る。

 確かにあの日以来、後藤を含むオッサンたちは心身の調子が改善され、愛がオッサンどもをコケにしたりすることもなくなったのである。

「あの。私いま、喉渇いてるんです。一杯、頂いていいですか?」

 愛が、買ってきたばかりで、表面に水滴をしたたらせている缶ビールを指さして言った。

「ああ・・・どうぞ」

「ありがとうございます」

 愛がプルタブを開け、喉を鳴らして、缶ビールを一気に飲みほした。

「はぁ・・・・。ごちそうさまでした。それじゃ、来週に備えて、みんなゆっくり、身体を休めてくださいね」

 泡のついた口を拭い、最後に飛び切りの笑顔を浮かべて、愛が言った。

 夕陽に向かって去っていくその後ろ姿は、恋心を抱くのも畏れ多いほど神聖だった。

「女神・・・いや、天使だ」

 後藤の言葉に、三匹のオッサンたちが深々と頷いた。 

第一章 美都のアソコはえっちなかおり    彼に女神と呼ばれて嬉しくて




                         1


 二十八歳の川原美都が肩まで伸ばした髪をかき上げると、シャンプーの馥郁とした香りが、美都がリーダーを務める電子基板製造ラインの中に、ふわっと漂った。

「川原。この間の打ち合わせで決まった件だが・・・」

「おう川原、調子どうだ?」

「川原、この前お前が作った資料、お客さんからの評判が良かったよ。また頼むな」

 ドライバーを片手に、ラインの機械の改善作業に勤しむ美都を、彼女を気にかける上司たちが、様々な用件で呼び止める。

 中高一貫の女子高を卒業後、会社のソフトボール部に入り、二十三歳で引退して社業に専念してから五年。先輩社員たちからも一人前と見做され、徐々に、責任のある仕事を任されるようになってきた。

 ソフト部では、外野の要であるセンターを務めていた美都が、軽やかなステップワークでフロアを駆け巡れば、当時、スイングの際に邪魔になるのではないかと囁かれていた九十センチ超のバストが、上に下へと揺れる。

 野球やソフトボール経験者特有の大きなヒップは、しゃがむとプリッと張って布地にラインが食い込み、新鮮で取れたてのニンニクのような形を作る。

 類まれな美貌とボディを併せ持つ美都の働く姿は、その一つ一つが、いちいち絵になると評判だった。

「ごめん、あのね、川原さん。あの、あの」

 ラインを見渡せる位置にあるリーダー机でデスクワークをしていると、美都のラインで作業をしている三十一歳の派遣社員、間島慎吾が、製造中の基板を両手に持って、おずおずと歩み出てきた。

「ん?どうしたの、間島さん」

「あの、僕ね、これ、落っことしちゃって」

「そう、ぼく落っことしちゃったの。じゃ、この基板は廃棄にしておくね」

「う、うん。ごめん」

 美都が、遠慮がちに自分のミスを報告する慎吾に、子供扱いするような口調で応対すると、慎吾は頬をポッと赤らめ、瞬きを多くした。

「あ、あの、ところでさ」

「なあに?」

「川原さんが今日してる髪飾り、とっても可愛いと思うよ」

「そう?ありがと。間島さんがそう言ってくれるなら、明日からもしてこようかな」

 美都への誉め言葉がキマったと思った慎吾が、はにかみながら踵を返した。

「あっ、間島さぁん、待ってぇ」

 今度は甘えるような口調で言いながら、美都はラインに戻りかけた慎吾の制服の裾を掴んだ。

「な、なに?」

「あのね。今朝、機械のトラブルがあったでしょ?それで、生産数が目標に届きそうにないの・・。間島さんだけでも残業していってもらえると助かるんだけど、お願いできる?」

 美都が息の吹きかかる距離から上目遣いで言えば、よほどの無理難題でない限り、慎吾は美都の頼みを聞いてくれる。

 三歳下の正社員である美都への好意を隠そうともしない慎吾は、裏表のない、素直な性格だが、美都の知る限り、作業者の中で多数を占める派遣社員の中では、これは珍しいタイプである。

 誤解を恐れずに言うと、派遣社員という人たちには、真面目は真面目でも、変なところで真面目な人が多い。劣悪な条件で働かされたり、あちこちの工場を右へ左へたらい回しにされたりしているので仕方ない面もあるが、妙に疑り深く、被害妄想が激しいのも特徴である。

 美都も言葉足らずや、余計な一言には気を付けているつもりなのだが、どうしても、ちょっとした言葉のあやを大げさに捉えられ、あらぬ誤解を生んで、トラブルに繋がってしまうということがある。こちらが好かれようとしてやったことが、嫌われる原因になってしまうこともある。

 だから美都は、特に年上の派遣社員に対しては、できるだけ事務的な、堅い口調で接するよう心がけているのだが、美都が好きで、美都のことを知りたがり、美都に対して、自ら積極的にコミュニケーションを取ろうとする間島慎吾――筋肉質の身体と、よく日焼けした肌が特徴の男性作業者にだけは、飾らない自分で接することができた。

「う、うん。わかったよ。あーでもそれって、もちろん、川原さんも一緒だよね?」

「そうよ。嬉しい?」

 美都が微笑みかけながら言うと、慎吾の頬も緩くなる。三歳年上の男だが、慎吾といると、まるで幼稚園児を相手にしているような錯覚に襲われる。

「うん・・嬉しいよ。それなら僕、頑張るよ」

 美都と話せた慎吾が胸を弾ませながら持ち場に戻っていくと、ラインの中から、後輩の正社員、児玉愛がやってきて、「彼氏、楽しそうですね」など、冷やかしを入れてくる。

 余程鈍感な者でない限り、慎吾が美都に恋愛感情を抱いているのは丸わかりだが、派遣社員である慎吾にはどこかで諦めがあるのか、美都に連絡先を聞いてきたり、美都を二人きりで食事に誘ってきたりなど、美都との関係を、より親密なものに踏み込もうとしてくることはなかった。

 二十八歳。若い世代の感覚では、まだ、それほど結婚を焦る年齢ではないが、親世代はそうは行かず、田舎のことで、見合い話を持ち掛けてくる親戚縁者は後を絶たない。

 友人から合コンに誘われたり、そこそこ条件のいいフリーの男を紹介されることもあったが、美都は周囲のお節介を、すべて体よく断っていた。

 このまま、甘い思い出の一つもなく二十代を終わるのかと思うと、一抹の寂しさを感じないではない。しかし、過去に男性との関係でトラウマを抱える美都は、別に自分はこのまま一人でも、一向に構わないと思っている。


 美都の初めては二十三歳、ちょうど、ソフトボール部を引退し、社業に専念し始めた頃のこと。友人の紹介で知り合った、慎吾と同じ三歳年上の男性に見初められて交際をスタートし、二回目のデートで、言葉巧みにホテルに連れ込まれた。

 交際期間からすると、まだ、ちょっと早いのではないかという気はしたが、初めて付き合った男性に求められているのが嬉しかった美都は、流れに身を任せた。

 それが、後悔の始まりだった。 

 部屋に入った途端、初任給で買ったお気に入りの服を乱暴に脱がされて、恥ずかしがる間もなく、下着も強引に剝ぎ取られた。

 五分もない前戯が終わって、初めて男性のものを受け入れたとき、激痛に呻き声を漏らす美都を見て、彼は眉を潜めた。
 
――君・・・。もしかして、これが初めて?

 歯を食いしばって頷く美都に、あからさまに面倒そうな顔を見せた彼は、しょうがねぇな、と呟くと、破瓜の鮮血がこびりついたペニスを美都の口に押し込み、髪の毛を掴まれて強引なイラマチオをやらされ、最後は美都の口の中に、熱くてねばねばしたものを放ってきた。

 行為を終えた後、彼は気だるげにタバコを吸いながら、枕に突っ伏したままの美都を、何度もため息をつきながら眺めていた。

 やがて彼は、一人でシャワーを浴び、服を着て、自分のホテル代をテーブルに投げると、涙が止まらない美都を置いて、一人で部屋を出て行ってしまった。

 シャワーを浴びて男の付けた汗を流し、何度もうがいをして口を濯いだ。

 虚ろな顔でホテルから出た後、彼から届いたメールの内容が、今でも脳裏から離れない。
  
――あのさぁ。言っちゃ悪いかもしれないけど、君、アソコが凄いにおうんだよ。一度、病院で診てもらった方がいいんじゃないかな。


 好きだった彼の一言が、美都の心をズタズタに引き裂いた。

 自覚がまったくなかったわけではない。しかし、他人と比べられるものでもないから、自分のそれが、明らかに異常なものだとまでは思っていなかった。好きだった男性から――自分の体をおもちゃにした男から指摘されて、初めてそれを知った。

 不快な思いをさせてしまったのは悪いと思う。

 だけど、そんな言い方ってないと思う。

 自分の体質への嫌悪と、男性への不信感と、何もかもが一辺に襲ってきたショックに耐えきれず、美都はその晩、可愛い顔を泣きはらした。

 美都は、それからは脇目も振らずに仕事に打ち込み、プライベートでは、同性の友人、信頼できる仕事の仲間との関係を大事にすることだけに努めてきた。

 六年間、チャンスは何度もあったし、言い寄ってくる男性もいた。しかし、美都は一歩を踏み出すことができなかった。

 好きになった男性から乱暴に扱われ、美都の唯一にして最大のコンプレックスである、デリケートゾーンの臭いを指摘される。

 もう一度、あんな思いをしたら、正気を保っていられるかわからない。せっかく仕事で順調にいって毎日を、壊してはいけない。

 寂しくもないし、相手を気遣うのは面倒でしかない。また、心を引き裂かれるくらいなら 、このまま一人でいい。男性を嫌な気持ちにさせる体質に生まれてしまったのだから、一人でいるのは仕方がないと、美都は自分に言い聞かせていた。

 美都は、ウキウキした手つき足取りで作業をする慎吾の背中から、微かな憂いに揺れる視線を剥がし、沈着冷静なラインリーダーの顔に戻って、デスクワークを再開した。
 
                      
 大好きなラインリーダー、川原美都と話した直後の間島慎吾の心臓は、バクバクと唸っていた。

「おい。お前、ミスしたくせに、なにヘラヘラしてんだよ。ちょっとリーダーと仲良くしてるからって、調子に乗ってんじゃねえぞ」

 ライン作業で、慎吾の隣の工程を担当する同僚の派遣社員、高野が、舌打ちを連発しながら苦言を呈すのに取り合わず、慎吾は鼻歌混じりに作業に取り組んだ。

 川原美都。

 美都、美都、美都・・・。

 半年前、地方の電子基板製造工場に派遣され、三歳下のラインリーダーの元で働くようになってから、慎吾にとって、これまでずっと、ただつまらないだけだった仕事の時間が、この上もなく刺激的な時間に変わっていた。

 川原美都。カッコよくて可愛い、理想の女性。慎吾の女神。 

 美都と接したとき、慎吾の心拍を上昇させるのは、美女を前にしたときの雄の本能と、それに、人としての劣等感。 


 慎吾も、ソフトボール選手だった美都と同様、野球の経験者だったが、高校での挫折組だった。

 リトルリーグの神童が、中学ではベンチを温め、高校ではとうとう、スタンド応援団の一員となる。珍しいことではない。ただ、自分が野球の神様に選ばれなかったのだと知ったとき、慎吾はうまく気持ちの切り替えができなかった。

 高校二年の三学期で野球部を中途退部してからというもの、慎吾は何をするのもバカらしくなり、学校が終わると、家でゲーム三昧の日々を送るようになった。次第に、授業にも集中できなくなり、時間は有り余っていたにも関わらず、成績はむしろ下降していった。

 高校を卒業して入った植木屋の仕事は半年余りで辞め、数年間、フリーターともニートともつかぬ生活を送った後、専門学校に入り直し、今度はIT系の会社に職を得たが、そこも一年ほどで退社してしまった。

 仕事が長く続かないことに、人が聞いて同情するような理由があるわけではない。どこに行っても、何をやっても、いつも慎吾は、些細なことでマイナスの思い込みに囚われ、どうにもならないほど落ち込んで、途中で挫折してしまうのである。

 二十代の半ばで社会のレールから完全に外れ、そしてどうやら、再びそこに戻るのは至極困難であるとわかったとき、自分はこれからどう生きるべきなのか、初めて真剣に考えた。

 どうも、人と同じようにやっても、さっぱり幸せになる気がしない。

 欠点が多すぎる自分の場合、このまま人と同じようにやっていては、人生のレースの、スタートラインに立つことに努力を費やすだけで、一生が終わってしまう。

 歪を修正して平坦にならそうとするばかりではなく、もっと、自分の個性を活かすような生き方ができないかと思って二十六歳のとき始めたのが、小説の執筆だった。

 小説は本音を吐き出す作業である。日常生活の中で、人が抑制し、場合によっては完全に切り捨てている感情に真正面から向き合い、深く研究している者ほど、いい文章が書ける。 

 喜びや感動といったポジティブな感情も人一倍だが、嫉妬、あるいは憎悪といった負の感情にも付け込まれやすい。良くも悪くも、感情の振れ幅が極端すぎる自分には、うってつけの仕事ではなかろうか。

 動機は間違っていなかったと思うのだが、結果は中々ついてこなかった。

 三十一歳になるまでの五年間で十本あまり、四百字詰め原稿用紙に換算すれば、総計五千枚にはなる作品群を書き上げてきたが、一度だけ三次選考まで進んだのが最高で、ほとんどは箸にも棒にもかからなかった。

 小説は誰にも読まれなければ、紙クズと一緒である。店頭で平積みにならなくても、せめて誰かの目に触れ、世の中に評価されるキッカケになればと思って、過去に落選した作品はすべてネットのホームページ上にUPしていたが、そちらの閲覧数もまばらだった。

 五年間。すぐに投げ出しがちな慎吾にしては長続きした方だが、報われない日々は、もともと弱い慎吾の心を、確実にすり減らしていった。

 自分のやっていることは、まったくの時間の無駄、すべて徒労である。

 世の中に評価されるどころか、僕のことを見てくれる人も、誰もいない。

 原稿用紙に向かう時間は、年々減っていった。酒とギャンブル、そして風俗に溺れるようになり、気づけば、サラ金からの借金が百万円を超えていた。

 まるきりデタラメな人生を送ってきた慎吾にとって、ソフトボールで社会人まで進み、引退後も、自分の道を真っ直ぐ歩んでいる川原美都は、真夏のグラウンドに照り付ける太陽よりも眩しい存在だった。

 どれほど焦がれていても、川原美都は高嶺の花。彼女を幸せにするだけの力がない自分は、彼女のプライベートにまで食い込むことは許されない。

 ただ、仕事場で流れるような美都の動きに見惚れ、時折、甘やかな声で自分の名を呼ばれるだけで満足しなければいけないのだと、慎吾は自分に言い聞かせていた。


「・・・?なに、間島さん」

 作業中、改善でラインに入ってきた美都が、慎吾の様子が妙なのに気づいて、小首をかしげてみせた。

「えっ。いや、何でもないよ」

 慌てて誤魔化したが、美都が近くにいるとき、慎吾がいつも鼻を膨らませて、美都のニオイをスンスンと嗅いでいることは、きっともうバレている。

 朝礼のときの美都は、いつもシャンプーと、肌着の柔軟剤の、爽やかな香りをさせている。 午後になると、それに仕事でかいた汗の甘い匂いがブレンドされ、得も言われぬ芳香となる。

 しかし、慎吾が本当に嗅ぎたいのは、美都の人間の女性らしい、馥郁とした香りではない。

 匂いよりも臭い。慎吾が毎夜の如く、それを思い描きながら自分を慰めているのは、美都の衣服の下で蒸れた部分が漂わせる、雑食の牝の臭いの方だった。

 一般に、男女ともに適度な体臭はフェロモンとなり、情欲を掻き立てられる素になるというが、慎吾のように、女性の放つ生々しい淫臭に強く惹かれる臭いフェチは、女性の蒸れた部分が、ノーマルの男が顔をしかめるほどの悪臭を放っていないと、物足りなさを覚えてしまう。

 官能小説などにおいて、女性のデリケートゾーンのニオイを表現する場合には、よく「牝の香り」「微かな磯の香り」などといった表現を用い、できるだけオブラートに包もうとするのが定番であるが、臭いフェチの場合は、クサいものはクサいのだと認めた上で、それを全面的に肯定しようとする。

 おまんこ、アヌス、腋、足の裏、へその穴――女性の身体の「スイートスポット」は、臭ければ臭いほどいい。美人がクサイのはご褒美であると考える臭いフェチは、一般の官能小説に多く用いられるような、生易しい表現では満足できないのである。

「はぁ・・・今日も働いたなぁ」

 美都に頼まれ、二時間の残業を終えた慎吾は、工場の廊下を、棒のようになった足を引きずって歩いた。

 身体はぐったりしているが、普段よりも長く美都を眺めていたせいか、トランクスの中のものは妙に活き活きとしている。

 いつになくムラムラした状態で、無人の玄関を通ったとき、ふと魔が差した。

 気付いたときには、憧れの川原美都の靴箱から、美都が仕事でかいた足汗がたっぷりと沁み込んで黒ずんだ、スニーカータイプの静電靴を取り出していた。

 臭いフェチの慎吾が一番好きなのは、女性の陰部が漂わせる、肉蒸れの悩ましいニオイだが、同じく汗腺が多くて蒸れやすい、腋や足のニオイにも、並々ならぬ関心がある。

 通常、女性のクサイ部分に直接触れる「お宝」を入手するためには、女の花園にまで侵入しなければならないが、唯一の例外が存在する。

 靴――。女のおみ足を包むものだけは、男子禁制の場にまで足を踏み入れなくとも、容易に手中に収めることができる。

 もちろんそれとて、リスクはまったくないわけではない。然るべき立場にある人間に現場を目撃されれば、まず一発でクビになるだろう。

(だけど・・・)

 構わなかった。どうでもよかった。

 慎吾の立場は、安価で、いくらでもすげ替えの利く、非正規の派遣労働者。自分を本当に必要としている人は、この工場には誰もいないし、いなくなって悲しむ人もいない。

 一瞬と引き換えにできる一生が、自分にはない。

 同じ職場で働いていても、美都のような正社員と、派遣である慎吾は、けして交わることのない平行線なのだ。

  三歳下のラインリーダーへの恋心を隠そうともせず、作業場ではよく笑顔を見せる慎吾を、将来の心配もしないお気楽者と思っている者もいるかもしれないが、内心は違う。

 会社では、人というより、機械の一つのように扱われ、自分が本当にやりたい小説の道では努力がまったく報われず、寄り添ってくれる人もいない慎吾の心の中にはいつも、夜の砂漠のような寒風が吹きすさんでいる。

(僕がどれだけ美都ちゃんを好きでも、あの子は僕を何とも思ってない。あの子と僕は違う・・・)

 つい数分前まで美都の足を包んでいた静電靴の熱気を掌に感じながら、慎吾は、彼にもある派遣社員特有の猜疑心と被害妄想を、際限なく膨らませていた。

 好きな美都が、実は自分を見下しているのではないか――ゴミとまではいかなくとも、あの、いつも自分がラインの中で右から左に流している部品と同程度、もしくはそれ以下に思われているのではないか――。

(仮にそうだとして、こちらが文句を言える筋合いは何もないわけだけど、でも・・・)

 正社員である美都と、派遣社員である慎吾の、会社、いや世の中における存在価値の差を意識するほどに、美都のクサイ臭いを嗅ぎたい気持ちが強くなる。

 美都だって、自分と同じ人間なんだ、大事なところを放っておけば、自分と同じようにクサくなってしまう人間なんだ、ということを、自分の鼻で確認したくなる。

 美都の蒸れた足汗で、しっぽりと黒ずんだ靴の中に鼻を突っ込み、ニオイを心行くまで味わった後、ベロベロに舐め回してやりたい衝動が強くなる。

(僕がこんな変態なことをするのはしょうがない。君が可愛すぎるのがいけないんだ)

 自己弁護が済むと、慎吾は再度、周囲に誰も人がいないのを確認したうえで、美都の黒ずみ静電靴の中に、そっと鼻先を近づけた。

 ウワンムゥ――。

 熟成された汗の、埃っぽくズシリと重みのあるニオイと、酢飯のような酸っぱいニオイと、よくかき混ぜた納豆の臭いとが混じり合った複雑怪奇なニオイが、鼻孔になだれ込んでくる。

 慎吾のピンク色の脳漿が、たまらぬ至福で満たされる。頬は蕩け、男のものは浅ましく膨れ上がっていた。

「美都・・美都ちゃぁん・・・」

 知らなかった。美都の足が、こんなにえっちなニオイだったなんて。

 興奮した慎吾は、股間に張ったテントをスウェット越しにまさぐりつつ、靴の中敷きに染み着いた美都足の臭いを、スゥッ、スゥッ、と、犬のように鼻を鳴らして夢中で吸い込んだ。 

「美都・・・美都美都美都水戸納豆」

 くだらぬことを呟きつつ、慎吾は、たっぷりと嗅いだ美都の靴の中敷きに、舌先をチロッと這わせた。

 舐めとった美都の成分を唾液に溶かし、口の中を転がして、舌の味蕾に触れさせれば、慎吾の口の中いっぱいに、汗のうまみと、働く女の苦味が広がっていく。 

「美味しい・・美都ちゃん、あぁ美味しいよ」 

 慎吾が、美都の汚れをペロペロしながらポケットから取り出したスマホのデータフォルダには、ネットで検索して見つけた、美都のソフトボール選手時代の画像が多数保存されている。

 大人の色香を漂わせる二十八歳の美都もいいが、筋肉がついている分、今よりも太めで、表情にはまだ少女のあどけなさも残す二十歳前後の美都も、思わず画面に吸いついてしまうほど魅力的である。

 慎吾は秘蔵の写真の中から、最もお気に入りである、美都がバッターボックスに入って、ヘルメットのつばに日差しを反射させているときの雄姿をチョイスして、スマホの画面に大写しで開いた。

 当時、左打席でバットを構える美都の凛々しい姿に、民衆を導く自由の女神の如き気高さを感じた男も、数多くいたことだろう。

 しかし、その泥のこびりついたストッキングから、便所の床に落とした納豆巻きのような、すっぱい、くーっさいニオイが漂っていることを知る者は、自分一人しかいない。

 カワイイ美都を知っている男は何人もいても、クサイ美都を知っているのは、この世でただ一人、自分だけだという優越感が心地よかった。

「美都・・・美都美都美都美都水戸納豆」 

 再びくだらぬことを呟きつつ、慎吾は夢中で、美都の靴をクンニし続けた。


                        2


 駐車場まで出たところで、うっかり、タイムカードを押し忘れていたことに気づき、会社の玄関へと戻ってきた美都が目の当たりにしたのは、想像を絶する光景だった。

 持ち前のフットワークで、フロア内をアクティブに動き回る美都の、スニーカータイプの静電靴の中敷きは、汗をしっぽりと吸い込んで黒ずんでいる。

 使い込まれた消しゴム、あるいは、丸まらないダンゴムシ、もしくは、昔懐かしのブラウン管テレビの砂嵐にも似た、グレーとブラックの中間色。

 およそ官能美とは程遠いはずの、あの薄黒いものの臭いを嗅いで、なぜか、恍惚の笑みを浮かべている男がいる。靴の中の布地に染み着いて、何か月も熟成された女の足汗をジュージュー吸って、美味しそうに目を細めている男がいる。

 あまりの衝撃に、美都は声を上げることもできず、戻ってきた目的も忘れ、一目散に逃げ帰ってしまった。

 家に帰って、食事を取っている間も、ラベンダーの入浴剤を溶かしたバスタブに浸かっている間も、美都の脳内では、美都の黒ずんだ静電靴に、鼻と口を突っ込んでうっとりしている慎吾の姿が再生されていた。

 あんな光景、忘れたくても忘れられるものではない。

 頭の中から掻き消せないのなら、向き合うしかない。問題の本質を徹底的に解明し、今後の対策を練るしかない。 

 美都は風呂から上がると、インターネットで、ついさっき目撃したことについて、キーワードを絞って検索をかけてみた。

 女 靴のにおい 嗅がれた・・・。

 男 足のにおい 好き・・・。

 部下 変態 対処・・・。

 すると、臭いフェチ――異性の強い体臭に興奮する性癖を持った男について説明をしている記事が、いくつかヒットした。

「嘘でしょ・・・」

 人間の足は、一日のうちにコップ一杯分もの汗を掻く。それが密閉された靴の中、皮膚常在菌によって分解されることで、悪臭を放つ原因となる。

 その悪臭を嗅いで、悦んでしまう人種が、世の中には存在するのだという。

 官能小説でよく用いられる「牝の香り」「微かな磯の香り」などといった、オブラートに包んだ表現では満足できず、クサいものはクサいのだと認めた上で、なおかつそれを全面的に肯定することで情欲を掻き立てようとする。

 女の蒸れる部分、すなわち、陰部、肛門、腋、足、へその穴のニオイに性的興奮を催し、汚れたその部分を、平気で舐めてしまう。

 女である自分にとっては、クサいとしか感じないはずの恥ずかしいニオイを犬のように嗅ぎまわり、可愛い子ならむしろご褒美、と感じてしまう。

 検索してわかった、臭いフェチなる人種の生態は、美都には宇宙人よりも理解に苦しむものだった。

 美都の唯一にして最大のコンプレックス――美都の心が、二度と修復不可能なほどザックリと切り裂かれる原因となったデリケートゾーンの強い臭いで、あろうことか喜んでしまう男がいるなど、俄かには信じられるものではなかった。

(なんなの・・。意味が分からない。なんで私が、こんな目に遭わなきゃならないの)

 翌朝の寝覚めは悪く、会社に向かう足取りは重かった。

「あ。川原さん・・・。メガネも、可愛いね」

 朝礼の前、昨晩遅くまでネットで調べものをし、睡眠不足になっているために目が乾くのでコンタクトが付けられず、メガネをかけてきた美都に、慎吾がいつものように褒め言葉をかけてきた。

「・・・・・」

 いったい、誰のせいで、メガネで出勤しなければならなかったと思っているのか?

 容姿を褒められるのは、もちろん悪い気はしないが、この日ばかりは、彼の期待する笑顔を返してやる気にはなれなかった。

「なんなの、アイツ・・・」

 あんな変態行為を働いて、少しは後ろめたい気持ちになっているかと思いきや、ライン作業をしている慎吾は、いたって普段通りの様子である。

 慎吾が普段通りでいるのも許せないが、それと同じかそれ以上に、ほかならぬ自分自身が普段通りにリーダーとしての業務をしているのが、美都には許せなかった。

 昨晩、美都が目撃した慎吾の行為は、犯罪になるかどうかまではわからないが、少なくとも彼のやったことが、問題であり変態な行為であるのは間違いない。

 それなのに、自分はなぜ、昨晩のことを、然るべきところに訴えられないでいるのだろう。

 慎吾が散々嗅ぎまわし、舐めまわした静電靴を、自分はなぜ、平然と履いているのだろう。

 それは、美都が慎吾の唾液よりも、自分の掻いた足の汗の方を、汚いものだと認識しているからではないか。

 クサい美都の足を、慎吾が舌でお掃除してくれたような気がするからではないか。

 慎吾に何らかのペナルティを受けさせるよりも、慎吾の行為を公にすることで、自分の靴が、女にはけして許されない、とんでもなく恥ずかしいニオイをさせている事実が明らかにされてしまうことの方が、もっとずっと、恐ろしいからではないか。

(わたしは悪いことなんて、何もしていない。こんなことになったのは、すべて間島さんのせいなのに・・・)

 オカシイことを、オカシイと言えない。

 事件から日が経つに連れ、美都の中で、自分を混乱の極致に追い込んだ三歳年上のライン作業者、間島慎吾に対する怒りは募っていった。

「間島さん、休憩に行くのが一分早い!ちゃんと時間守って!」

「ごめん、次からはちゃんとします・・・」

 堪えなきゃ、と思っていても、どうしても慎吾に対し、当たりが強くなってしまう。

「間島さん何これ!冶具が壊れちゃってるじゃない!」

「ごめん、使い方がよくわからなかったから・・・」

「何でわからないまま、作業を進めるの?わからないことがあったらすぐに聞いてって、いつも言ってるでしょ!何度も同じこと言わせないでよ!」

 美都に怒られた慎吾がしょげた顔をしているのを見て、どこか愉悦を感じ、昂っている。そんな自分を自覚するのも、美都はたまらなく嫌だった。

(こんなクサイわたしの靴のニオイ嗅いで、あんなに悦んで・・・)

 一日の労働を終えて、靴箱に仕舞うときの美都の靴は、どう取り繕ってもクサイものである。しかし、足よりももっとクサイ場所が、美都の身体にはある。

(クサければクサいほどエッチでいいって言うのなら・・足よりももっとクサイここのニオイも、嗅ぎたいのかしら・・・)

 一日の労働を終えた後、トイレで便座に腰掛けたときに立ち昇る臭いは、まともに嗅げば、一発で食欲が失せてしまうほどである。

(こんなニオイを、エッチだなんて思うなんて・・・)

 洗ってないまんこはくさい。でも嗅ぎたい、と思う、アイツが憎い。

 でも知りたい。

 おかしな話だが、あの日のことを思い出し、慎吾に対して怒りの感情が沸々と湧き上がってくるのと同時に、美都がインターネットで、「臭いフェチ」なる、摩訶不思議な生物の習性を調べる機会も増えていた。

「わけわかんない・・・。どういう頭してたら、こんなことになるの・・・」

 キレイなお姉さんは、クサければクサイほどいい。キレイなお姉さんがクサいのはご褒美である。

 キレイなお姉さんに、行為の前シャワーを浴びさせてしまうのは、納豆を食べる前に水洗いして、ニオイもネバネバもすべて落としてしまうに等しい愚行である。

 それが男の性だというのなら、では、八年前、自分が味わった悲痛は、いったい何だったというのか?

 美都の初めてを最悪な思い出にした男は、いま、東京でコンサルタント会社を経営している。
 会社の社長が必ずしも偉いわけではないが、少なくとも、慎吾と彼を、婚約者として実家に連れていったとき、親がどちらを歓迎するかは、比べるまでもない。

 インターネットで、女の未処理のニオイを嫌う彼の名を検索すれば、新進気鋭の青年実業家を賞賛する記事が、何百件とヒットする。

 一方、女の未処理のニオイが大好きだという彼の名は・・・。

 美都は戯れに、キーボードに間島慎吾の名を打ち込み、検索をかけてみた。

 ヒットした記事のほとんどは、彼にはまったく関係のないものだったが、ある一つのホームページに、美都の良く知る顔写真が掲載されていた。

 そこは、どうやら慎吾が創作発表に利用しているホームページのようで、慎吾の書いた小説作品が多数UPされていた。

 本名と顔写真を、自らインターネットで公開するという行為は、非常に大胆であるように思えるが、それは、自分を大切だと思えるだけの財産や社会的地位、あるいは交友関係を持つ者の感想なのだろう。

 大切にしたい自分が、慎吾にはない。

 慎吾の書く小説からは、慎吾の孤独と世の中への呪詛、自分の生に対する絶望が、痛々しいほど滲み出ていた。

 貪るように、慎吾の小説に読みふけった。お腹の鳴る音で気づいたときには、空が白む時間になっていた。

 慎吾が、小説家の道を志していたことは意外だった。

 派遣社員という人たちについて、どこかで、彼らは総じて怠惰であり、将来のことなど何も考えていないというような、見下した印象を持っていたのかもしれない。

 慎吾もそうだと思っていたが、違っていた。

 美都とは歩む道も、歩む速度も違うけど、彼は彼なりの手段で、自分の運命に抗い、人生にケリをつけようとしている。

 まだ、結果は出ていない。これから先、成功できる保証もなく、彼が自分の時間でコツコツ取り組んでいることは、すべて徒労に終わってしまうのかもしれない。

 でも・・・懸命にもがいてる。

 慎吾のことが、なぜか無性にいじらしく、胸がギュッと締め付けられるのを感じた。

 女のニオイが大好きだという彼が、八年前にザックリと開いた美都の傷を、すっかり癒してくれるような気がした。

 証拠はすでに押さえている。確信に近いものはある。でも、もう少し様子を見てみたい。

 慎吾が、美都を本当に幸せにしてくれる運命の男性なのか、もう少し段階を踏んで、見極めていきたい。

 幸いにして、すでに自分にぞっこんらしい彼は、少々のことでは文句を言わないし、自分のやることを何でも受け入れてくれる。仮に当てが外れていたとしても、職場で問題になることはない。

 リスクはないけど、恥ずかしい気持ちはある。でも、ここでやらないと後悔する。

 慎吾が、美都のどんなニオイにも耐えられるかどうか、試してみたい。

 意を決した美都は、二時間ほど仮眠を取ると、昨晩から履きっぱなしの生理用ナプキンを取り換えないまま、マイカーに乗り込んだ。
        

 作業中、ラインで隣の工程を担当している作業者、高野から、西成のドヤ街にいるホームレスのような強いアンモニア臭を嗅ぎつけた慎吾は、露骨に顔をしかめ、こういう時のために常備している、香り付きのマスクを装着した。

 おそらく、二、三日、風呂に入っていないのだろう。派遣社員には、こうした最低限の衛生観念に欠けた人間は、けして珍しくない。

(マジ、ふざけんなよな・・。カワイイ美都ちゃんのおまんこがクサいのは超興奮するけど、高野みたいな汚いオッサンが臭くたって、不快でしかないんだよ・・)

 あんなキレイな人から、こんなエグイ臭いがするなんて――。

 異性の強い体臭に惹かれる臭いフェチのすべての基本は、その「意外性」「ギャップ」にあると言って、間違いはない。

 臭いの強さだけならば、慎吾は以前、同じ工場で働く太ったブラジル女の足から、美都よりもクサい、車にひかれて、路肩に打ち捨てられたたぬきの死骸のような臭いをかぎ取ったことがあるが、そのとき慎吾は官能どころか、猛烈な殺意を感じた。

 汚い男や、見るに堪えない容姿をした女が臭っても、何の不思議もなく、面白みもない。

 美都のような、けして臭ってはいけないはずの美女から、美女ではなく野獣の臭いを嗅ぎ取ったときにこそ、慎吾は官能の極みへと達することができるのだ。

「ねぇ間島くん。今週のことなんだけど、急に用事ができちゃって、やっぱりお断りさせてもらっていいかな・・・」

 休憩の時間、慎吾がサシでの飲みに誘い、一度は同意を得ていた四十代の女性の派遣社員、平林真理恵が、改めて予定の断りを申し出てきた。

「ああ。いいですよ。残念だけど、しょうがないですよね」

「ゴメンね。また、誘ってね」

真理恵は笑顔を浮かべたが、彼女の言う「また」がないことくらい、今年で三十一歳にもなる慎吾は当然わかっている。

 これ以上しつこくすれば、嫌われる。イケると思ったのだが、また、ダメだった。

 大人になるというのは、色々なことを諦めなければならないということだが、派遣社員の慎吾には、諦めなくてはならないことの量が、同世代の正社員よりも、ちょっぴり余計に多い。

 慎吾の美都への思いは真夏の太陽よりも熱いが、川原美都が高嶺の花であり、自分には見向きもしないことくらい、慎吾はわかっている。だから、現実的に、股間の疼きを解消するための相手は別に探していたのだが、そちらの方も、ことごとく空振りに終わっていた。

 こちらとて本命ではないのだから、悔しさはない。

(だけど、寂しい・・・)

 女の蒸れた部分が漂わせるクサイ臭いに有難みを感じ、女性の汚れた「スイートスポット」を犬のように嗅ぎたがる、慎吾の性癖。

 自分のそれが芽生えた理由を、慎吾は、これまで女性方面において、甘い思い出以上に何度も味わってきた、苦い思い出にあると自己分析していた。

 まるで相手にされなかったという程ではない。しかしそれ以上に、フラれた数が多かった。また、フラれ方が酷かった。

 先程のように、丁重に断られるのがほとんどだが、時には、我が耳を疑うような心無い言葉を浴びせかけられたこともあった。

 向こう岸の存在である女性の考えることには、慎吾には及びもつかぬ深謀遠慮があるのかもしれない。しかし、たった一度きりデートに誘っただけで、身の程を知れとばかりにこちらをボロクソに言ってきたり、慎吾がどれだけダメで、慎吾をどれだけボロクソに言っても構わない理由を得意げに語る一方で、イケメンに対してはすべての事柄を自分の都合の良いように捉え、ウリウリと腰を振りながらすり寄っていく女に対し、肯定的な解釈はどうしても浮かんでこず、いつまでも根に持った。
 
 慎吾ばかりが、一方的に痛めつけられたわけではない。フラれた女に妄執し、付きまとってしまったこともあったし、こちらを悪からず思ってくれた相手に、こっ酷く傷つける対応をしてしまったこともある。

 その不細工な恋愛経験の数々が、じわじわと長い年月をかけて、慎吾をミュータントのように突然変異させていった。

 慎吾の想いを平気で踏みにじる女の、恥ずかしい部分のニオイが嗅ぎたい。どれほど気取っていても、お前らだって、一皮むけば自分と同じ人間なのだということを、己の鼻で確かめ、己の言葉で証明してやりたい。

 トラウマを抱え、性格が歪むほど、女で痛い思いをしておきながら――否、だからこそ慎吾は、好きになった女に対して、あたかも女神を信仰するかのように、盲目的に賛美し、過度に理想化してしまう。

 ほかのすべての女がクソでも、彼女だけは違うと信じ込んでしまう。そして裏切られ、ボロボロになることを繰り返してきた。

 好きな思いが強いからこそ、裏切られたときの憎しみも強くなり、再び好きになったときの思いもまた強くなっていく。感情を抑制できない慎吾の女性への思いは、恋を抱き、果敢無く散るごとに、良い方にも悪い方にも、振り子が揺れるように増幅していった。

 愛と憎悪、匂いと臭い。

 女の肉体から、可憐な美女と、獰猛な野獣のニオイをそれぞれ嗅ぎ取ったとき、慎吾の鼻粘膜では、女に対して相反する二つの思いが複雑に混じり合い、生ハムにメロンを挟んで食べたときのような、得も言われぬ官能のケミストリーが発生する。

 女性の嫌な面を知れば知るほど、女性の可愛い面を知れば知るほど、あの茂みの奥の割れた部分の、淫猥にして不浄なニオイへの執着は強くなっていく。

 三十一年間の無様な人生で、誇れることは何一つない。だが、まんこのくささへの思い、くさいまんこへの情熱だけは、胸を張って本物といえた。

 もし、この世に慎吾の女神がいるのだとしたら、それはきっと、おまんこから、納豆とブルーチーズと、イカの干物をボールの中でぐじゃぐじゃに掻きまわしたような、いやらしい、くさぁいニオイをさせている女性に違いないと、慎吾は確信していた。

 納豆とブルーチーズとイカの干物をボールの中でぐじゃぐじゃに掻きまわしたような、いやらしい、くさぁいニオイ。それが、憧れの川原美都のおまんこから漂ってきたらいいなぁ、というのが、慎吾の願望だった。


                        3


「高野さん、この基板、どう見ても不良品ですよね。なんで気付かなかったんですか?」

 一日の作業が終了する間際、ラインから流れてきた完成品の欠陥に、最終チェックの段階で気づいた美都は、この日、目視検査を担当していたライン作業者、高野に注意を与えた。

「チッ・・っぜーな、クソアマが・・」

 美都の言い方が気に食わなかったのか、高野が持ち場に戻る際、何事かを呟きながら、舌打ちをしたのが耳に入った。

 今日、美都は女の子の日である。作業者に注意をするときは、自分の感情を必要以上に表に出してはならないとわかっているつもりだが、この日だけは、どうしてもカリカリして、余計な一言が、つい口をついて出てしまう。 

「間島さんも!他人事だと思って聞いてないで!何かおかしいことに気づいたら、アラーム上げて、すぐにリーダーを呼んで!」

 半ば八つ当たりのように、美都は一緒にリーダー机に呼び出した慎吾にも怒りをぶつけた。

「ご、ごめんよ、川原さん・・・」

 この日ばかりは、慎吾が自分に向ける好意も、鬱陶しく感じてしまう。いくら平静を保とうとしても、メンスの日だけは、男という生き物すべてが、自分を苛立たせる不快な虫のように見えて仕方がないのである。

「あ・・・チャイムだ。それじゃ川原さん、お疲れ様・・・」

「お疲れ様・・。あ、ちょっと待って」

 うっかり、慎吾を呼び出した目的を忘れて、彼を帰してしまいそうになった美都は、一日の最後に好きなリーダーに叱られ、しょんぼりと肩を落としてフロアを出て行こうとする慎吾を慌てて追いかけ、制服の裾を掴んで引き留めた。 

「ねぇ間島さん。ちょっと、聞きたいことがあるんだけど・・」

 美都に上目遣いで見つめられた慎吾が、背筋をピシッと伸ばした。

「え?な、なに、聞きたいことって?」

 緊張の一瞬。周りが誰も二人に注目していないのを確認し、美都は大きく息を吸い込んだ。

「・・・・・間島さん、わたしの靴の臭い好きなの?」

 二十八歳の女の口から飛び出すにはあまりにもショッキングな言葉に、美都と慎吾の間に流れる空気が氷結する。

 しばしの時間をおいて、自分の破廉恥行為がバレていたとわかった慎吾が、目を丸くして驚愕を露にした。

「え!いやあのその、それはその・・・」

「いいから。怒ってるわけじゃなくて、わたし知りたいの。女のクサイところを嗅いで、クサければクサイほど興奮するっていう男の人のことが知りたいの」

 美都が身を乗り出すようにして言うと、慎吾は、今度は目を点にして、ウソダロー、という形に、口を動かした。

「ねぇ教えて。お世辞とかはいいから、本当のことを教えて。間島さん、わたしの靴のニオイ好き?」

 後じさりして、壁に背中を預ける恰好になった慎吾に詰め寄りながら、美都は重ねて問うた。

 一度口に出してしまうと、あとはどこまでも大胆になれた。恥ずかしい気持ちより、知りたい気持ちの方が勝って、自分でも信じられない言葉が、次々と口を突いて出てきた。

「・・・・好き。大好き」

 美都に迫られた慎吾が、とうとう、観念したように言った。

「ほんとに?間島さん、わたしの足が、クサければクサイほど興奮するの?」

「・・・・する。川原さんがクサければクサイほど、いやらしいニオイさせてるほど、僕、興奮する」

「ほんとに?ほんとにほんとに、ほんとなの?」

「ほんと。ほんとにほんとにほんとに、僕、女の子の・・・川原さんのニオイが、とっても大好き」

 開き直って、目をキラキラと、少年のように輝かせながら語る慎吾の言葉に、嘘は感じられなかった。

 やはり慎吾は、女の汚れた部位のニオイに異常な執着をみせる、特殊な性癖の持ち主だった。

 けれどそれだけじゃ、慎吾が美都の、運命の人であるかまではわからない。

 だって、美都のアソコは、とんでもなく臭うから。

 どれほどの辛党でも、暴君ハバネロの十倍辛いといわれる唐辛子、ドラゴンズ・ブレスを生で齧ることはできないように、臭いフェチの慎吾でも、美都のアソコのニオイには耐えられないかもしれない。

 また傷つかないために、もう少し、様子を見てみなくてはならない。慎吾が本当に美都のすべてを受け入れられるか、段階を踏んで、確かめてみなくてはならない。

「わかった。そしたら間島さん、帰るとき、ちょっと靴箱のところで待っててくれる?間島さんに、いいものあげるから」

「・・・・うん、わかった」

 慎吾に言い渡すと、美都は、慎吾のために作ってきた「成果物」を外すため、女子トイレに駆け込んでいった。 


 言われた通り、靴箱の前で美都を待つ慎吾の心臓は、バクバクと唸り続けていた。

 自分のやっていた、卑怯にして下劣な行為は、美都にはとっくにバレていた。

 しかし、そのことで、美都は慎吾を責めるのではなく、むしろ興味津々に、慎吾の浅ましい性癖について尋ねてきた。そして仕事終わりに、美都が来るまで、あの破廉恥行為の現場となった靴箱で待機しているように命じてきた。

 いったい、この後、自分をどんな運命が待ち受けているのか?

 恐ろしいような、楽しみなような、奇妙な期待に、慎吾は胸を躍らせていた。

 人生で一番長い十分間。定時で仕事を終えた連中がみんな帰って静かになった靴箱の前で、身じろぎもせずに待って、ようやく背後に、人の気配を感じた。

「間島さん」

 声のした方を振り返ると、Vネックのシャツとキャミソールを合わせた私服姿の美都が、白いソフトボール大の球を右手に持って立っていた。

 慎吾と目が合うと、美都は持っていたボールを、現役時代、美都が守っていた外野から内野の中継に返球するような、無駄のないキレイなフォームで放ってきた。

「うぉっ・・・と」

 左手で受け取った、ボヨボヨとした触感のボールからは、鼻を突く強烈な鉄の臭気に、昼間に高野から嗅いだようなアンモニア臭が混じったニオイが立ち昇っている。女と同棲した経験のない慎吾にも、自分が受け取ったものが何であるかは、一発でわかった。

「とっ。わっ、ちょっ・・・」

 慎吾は、美都から受け取った布と紙のボール――つい先ほどまで、彼女の股間を覆っていた生理用ナプキンを、両手でお手玉のように弾ませた。

「それ、あげるから。好きに使って。それで明日、感想を教えて」

 筋骨隆々のスラッガーが、金属バットの真芯でボールを捉えたときのような音が、慎吾の頭の中で響き渡っている。

 美都の靴のニオイを嗅いでいるのがバレた時点で、この工場での日々は終わりだと思っていた。
 それがよもや、さらならるお宝を手に入れる幸運に繋がるなど、誰が想像できるだろうか。
 
「ちょ、川原さん待って・・・」

 サラサラのロングヘアをなびかせながら、華麗に立ち去っていく美都の後ろ姿を眺めながら、慎吾は困惑した。こんなときどうすればいいか、教わったこともないし、考えたこともない。

 ひとまず、手の内のものを素早くバッグに隠し、慎吾も玄関を出て、会社から退散した。

 はやく家に帰って、嗅ぎたかった。今日一日、美都の股間にあてがわれて、アソコの蒸れ蒸れ臭をたっぷりと吸い込んだ生理用ナプキンを、クンクン嗅ぎたかった。

 逸る気持ちをぐっと抑え込み、慎吾は、工場からほど近い場所にある派遣社員の独身寮に、全速力で自転車を走らせた。

 部屋に入るやいなや、慎吾はさっそく、テープを剥がして、美都の生理用ナプキンを開放した。

「うわあァ・・・」

 独身寮の六畳間で、ナプキンの中央部に広がった赤黒いシミを目にした慎吾は、感動の声をあげた。 

 ヌウゥッ、と立ち昇るニオイは、鉄クサいのと、強いアンモニアのニオイとで、激しく目に染みる。脱ぎたてだったのだろう、慎吾の手に触れるナプキンの裏からは、美都の蒸れた部分の温もりがたっぷりと感じられ、布地には赤黒い血液とともに、レバーのような子宮内膜のかけらも付着していた。

 誇り高き大和民族の血がそうさせるのか、慎吾は無意識のうちに起立して、美都ナプキンを抱きかかえながら、胸に手を当てていた。

 約一分ほど、目を閉じて、愛する美都のことを思ってから、慎吾はいよいよ美都の愛しい部分を包み込んでいたナプキンに唇をつけて、チューッと吸った。

 ザラついた金属の味が、口の中にズシンと突き刺さる。ツーンとした臭いで目にいっぱい涙があふれるのも構わず、慎吾は夢中で、経血のシミに舌を這わせた。

「はぶっ・・・ベロッ・・・ムブッ・・。おいしい。おいしいよ美都ォ・・」

 意外に清潔な尿と違い、血液は様々な病原菌を含んだ危険なものである。

 しかし、構わなかった。こんな命など、一つも惜しくない。愛しい美都の血液で、何かの病気になって死ねるのなら、それは慎吾にとって本望だった。

「美都っ。あァ、美都・・・」

 愛しい人が、苦しみに耐えた証のものを嗅ぎ、舐めて、三十一歳の男根が、ぐぐっと持ち上がっていった。

 廊下から万年床に場所を移し、ティッシュを用意した。美都のプレゼントを鼻に押し付けながら、トランクスを下ろして、ガチガチに勃起したものを扱いた。

「美都、美都っ、美都ッ、美都美都美都美都美都ミート」

 口に入れた子宮内膜の欠片が、柔らかいビーフのように蕩けていく。美都の肉の苦みと臭みを味わいながら、慎吾は愛しい美都の肉体を、己の身体の一部とできる喜びに咽せかえった。

(ああ・・・なんで君は、こんなに可愛いんだろう。美都ッ、美都ッ、僕の女神・・)

 美都臭に浸されているとき、慎吾は獰猛な男の欲求よりも、甘く切なく、瑞々しいピュアな気持ちで満たされていく。

 こんなに血を出しながら、頑張って仕事して、自分なんかの面倒も見てくれて。

 ツンとくるニオイが愛おしくて――吸っても吸っても、後から後から染み出してくる鉄の苦みと、女の子の酸味が美味しくて、慎吾はいつの間にか、涙を流していた。

「美都、美都ッ、美都ォ」

 最後に、己の顔面にナプキンを押し付け、顔中に美都の経血を塗ったくった後、慎吾は己の愚息を美都のナプキンで包み、激しく手淫した。

「クッ、ハアッ・・・」

 甘美な電気が下腹部に流れ、美都に埋め尽くされた脳がスパークする――。

 慎吾は愛する人の血の海に、一日の労働でたっぷり溜め込んだ落とし子を、ドビュルルッと勢いよく解き放った。

「はァはァ・・・。おいおいマジかよ・・。川原さんのナプキンに出しちゃったよ・・・」

 溜まったものを吐き出してスッキリすると、自分の身に起こったことが、改めてとんでもないことのように思えてくる。

 もちろん、好きな女の子の靴をこっそり拝借して、中敷きのニオイを嗅いでしまう自分が人のことは言えないのだが、女の靴を嗅いで喜ぶ変態に、お返しとばかりに、経血のたっぷりしみ込んだ使用済みナプキンを与えてしまう美都の方も、大概ズレている。

 もちろんそれは慎吾にとってイヤなことではなく、むしろ大歓迎である。

 何よりも、こんなものをくれるというのは、美都の方も、慎吾のことを悪からず思っている証拠であろう。

「嘘だろ・・・川原さんが・・・美都ちゃんが、僕なんかに」

 これから何が起こるんだろう。僕どうなっちゃうんだろう。

 少年のようにジューシーで、甘酸っぱい期待に、慎吾は胸を膨らませていた。

 こんな気持ちになったときは、いつだってロクなことがない。でも、こんな気持ちになってしまったのだから仕方ない。せめて今だけは、大事にしていたい。

 慎吾の立場は、安価でいつでも首のすげ替えが利く、非正規の派遣労働者。仕事は誰でもできる面白みのない単純作業で、長く勤めても給料は上がらず、スキルも身につかない。工場で慎吾に期待している人間は誰もいないし、本気で心配してくれる人もいない。明日いなくなっても、すぐに誰かがやってきて代わりを務める。

 だけど、好きなあの子がいるから、会社に行こうと思う。

 明日、仕事に出るのが、慎吾は楽しみで仕方なかった。


                        4


 わたしのアソコのニオイが染み込んだアレの感想を聞くために、会社に行こうと思う。

「ねぇ間島さん。昨日のアレ、気に入ってくれた?」

 慎吾に、美都の使用済み生理用ナプキンを渡した翌日、美都はさっそく、十時の休憩に行こうとする慎吾を捕まえて、「プレゼント」の感想を求めた。

「うん。も、もちろん。気に入った。気に入らないはずがない」

 頬を赤らめ、瞳をパチクリさせて答える慎吾の言葉に、嘘や冗談は感じられない。

「気に入って、どうしたの?」

「ど、どうしたって?」

「アレを使って、なにをやったか、言ってみて」

「そ、それはその・・・。ニオイを嗅いだり、舐めたりしながら、手で自分のものを扱いて・・最後は、アレでものを包みこんで、アレの中に出して・・・あぁ、何言ってんだろ僕。ごめん、ごめんね、川原さんの大事なもの、変なことに使っちゃって・・・」

 慎吾が、自分の汚物のニオイを嗅ぎ、舐めながら、男性のものを扱いていた・・・。

 情景を想像して、美都は生唾を飲み込んだ。

「ううん。楽しんでもらえたのならよかった。他に欲しいモノって、何かある?」 

 美都が、ライン作業者に改善の案を求めるように尋ねると、慎吾は目を泳がせて動揺を露にした。
「いや・・そりゃ、何だって欲しいけど・・でも・・・」

「いいよ。遠慮せずに言ってみて。わたし、間島さんの欲しいもの、なんだってあげるから」

「ほんと?じゃあ・・・。やっぱり・・・・かな」

「え?なに?もっと大きな声で言ってくれないと聞こえない」

 美都が言うと、慎吾は困ったように頬を掻いて、持っていたメモ帳の一枚に、リクエストの品を書き連ねていった。

「・・わかった。来週までに用意するから、ちょっと待ってて。あと、今度はね、間島さんがこれを使ってるとこ、実際に見せてみて」

「えっ。それって、どこで」

「パソコン、持ってるでしょ。スカイプのアカウント、教えるから。私が見たいって言ったら、間島さんは私があげたものを使っているところを、私に見せるの。いい?」

「うん・・・わかったよ」

 戸惑いを隠せないでいる慎吾に言い渡し、美都は二日後、生理が終わったその日から、慎吾へのギフトを「熟成」させ始めた。

 三日以上履きっぱなしにした、パンティと靴下。それが、慎吾から渡されたメモ用紙に書かれていた、慎吾のリクエストの内容だった。

 さすがに遠慮したのか、書いた後に二重線が引かれているが、「シャワーを浴びるときには、おむつを履いたり、ビニール袋で足を覆ったりして、股間と足がキレイにならないようにしてくれると尚良し」との記述もある。

(いつも、こんなことばっかり考えてるなんて・・・バカなんじゃないの)

 慎吾の、女の身体の、くさいニオイへのこだわり。それは、美都がラインの設備の改善に励むのと、まったく変わらない情熱だった。

(でも・・これじゃ改善どころか、改悪じゃない)

 一日の労働でしっぽりとかいた足汗が染み込んだ靴下と、排泄物と膣分泌液のシミが浮かんだパンティは、自分でも顔をしかめたくなるほど、雑食性の獣特有の据えた臭いを漂わせている。これを、あと二日もの間履き続けなければならないなんてとんでもない話だし、こんな汚いものを嗅いで喜ぶ男がいるなんて信じられない。

 一週間前、美都は慎吾に送る最初のギフトに、パンティではなく、経血に塗れた、生理用ナプキンを選んだ。 

 普通の感覚からいえば、男がもらってビックリするのはパンティよりもナプキンの方であり、女が嗅がれて恥ずかしいのも、パンティよりもナプキンの方だと思う。

 だが、美都が傷ついたのは、経血のニオイを嗅がれたときではなく、生理が来ていないときの、肉蒸れのニオイを嗅がれたときだった。美都にとっては、経血で汚れたナプキンよりも、誤魔化しの効かない、普段の美都のニオイが染み込んだパンティを嗅がれた方が、ずっと嫌だった。

 もし本当に、美都のアソコの、くさぁいニオイを嗅いで悦ぶ男がいるのだとしたら、是非ともこの目で見てみたい。

 パソコンの画面の中で、慎吾が美都のパンティを嗅ぎながら、恍惚の笑みを浮かべているところをみてみたい。

 三日間の熟成期間、美都は慎吾のリクエストに応えて、風呂に入るとき、紙おむつとビニール袋を装着して、足と股間を洗わずにした上で、パンティと靴下を履きっぱなしにしてやった。

「はい、これ。約束通り、三日間、ずっと履きっぱなしにしておいたから。それじゃあ、今晩八時に、スカイプでね」

 定時から十数分後、会社の玄関で、ジップロックに包んだパンティと靴下を慎吾に手渡した美都は、もう一度フロアに戻り、残った仕事を片付けて、六時半過ぎには会社を出た。

 有り合わせのもので食事を取り、熱いシャワーを浴びて、三日間も洗わずに、滓とか、汚れとか、色々なものがこびり付いてベトベトになった股間と足を流した。

 髪と身体を乾かし、Tシャツとコットンパンツを着たころ、約束の時間がやってきた。スカイプを起動すると、慎吾はすでに、カメラ機能をONにしてスタンバイしていた。

「あ・・・川原さん、こんばんは」

「こんばんは。大丈夫?間島さん、疲れてない?」

「大丈夫。今すぐ、始める?」

「お願いできる?」

「うん。じゃ、やるよ川原さん。あ、えっと、アレが見えていた方がいいのかな?」

「うん・・・・見せて」

「わかった」

 椅子から立ち上がった慎吾が、おもむろにスウェットとトランクスを下ろすと、臍の下から太ももの付け根まで生い茂る密林の中から突き出た、どす黒い肉の柱が画面に大写しになり、美都の視線は釘付けになった。
「見える?」

「見えてる」

「ごめん、もう、ちょっと勃ちかけてて・・。恥ずかしいな、はは。そ、それじゃ、川原さんからのプレゼント、嗅いでみるね」

 慎吾が、美都の渡したジップロックから、ピンクのリボンと花柄のレースがあしらわれたパンティを取り出したのが目に入ると、羞恥と期待とに、美都の心臓が暴れ始める。

「あ・・・あっイヤッ・・・・」

 慎吾が、ついさっきまで履いていた美都のパンティの、桜の樹液のような琥珀色の粘液が付着したクロッチ部分に鼻孔を押し付けると 美都は思わず目を逸らしてしまった。

「あぁ・・。あぁいいニオイするよゥ、川原さん。すっごく、いやらしいニオイ」

「いやぁ、やだぁ。いやらしいって、どんなニオイ?」

 火の出るように顔が熱くなって、美都はもう、正気を失う寸前だった。

「えっちなニオイ。あんなにキレイな川原さんでも、大事なところを洗わないでいると、大変なことになっちゃうんだってニオイ」

「それじゃわかんない。もっとハッキリ言って」

「犬小屋の床に敷かれたバスタオルのにおい。くっさい、くーっさい、でもえっちなニオイ」

「やだぁ・・やっぱりクサイんじゃない。そのクサイのを、どうしてそんなに嬉しそうに嗅いでいるの?」

 わたしのアラを見つけるのが、そんなに楽しいの?

 お願い、わたしの日頃の指導が悪いのなら、これから改めるから、だから許して――。

「クサイのが、いいニオイだから」

 自分の言葉を証明するように、慎吾は犬のように、スンスンと鼻を鳴らして、美都が汚したパンティを嗅ぎまわっている。目の前で見せられて、それでもまだ、美都は信じ切れない。

「なんでなの。意味がわかんない。間島さんって、バカなんじゃないの?」

 目の端にいっぱい、涙を溜めながら、美都が抗議するように言った。

「バカでごめん。あぁぬぅはァ、あァでも、もうこうしなきゃ」

 慎吾は、たっぷりとニオイを嗅いだ美都のパンティに、今度は唇を付けた。三日間履きっぱなしにして、琥珀色の粘液がべっとりと付いたパンティの汚れを、ジュージューと吸い出し始めたのである。

「だめっ。そんなことしたら、病気になっちゃう」

「いいよ。川原さんのおまん菌で病気になれるなら、僕、本望だから・・・。あぁ。ああしょっぱいよ。川原さんのおまんこで一杯育ったおまん菌、しょっぱくて美味しいよ」

(おまん菌って何よ・・。ほんとバカじゃないの)

 画面の中で慎吾が繰り広げる、信じられない行動の数々に、美都は何度も目を逸らしながらも、懸命に食らいついていった。

(ヤバい・・。さっきから、股間のジンジン止まらない)

 美都が汚したものを美味しそうにしゃぶる慎吾を見ているうち、美都の中で、次第に、二十八歳の牝が疼き出していた。純粋なまでに自分を求める三十一歳の雄の姿が、これまでになかったほどの下腹部の痛痒を起こさせていた。

 慎吾なら美都を、あのときなり損ねた女にしてくれるかもしれない・・・。

「次、川原さんの靴下、嗅いでみるよ」

 美都パンを心行くまで堪能しつくした慎吾が、今度は美都の足汗がタップリ染み込んだ真っ黒靴下をジップロックから取り出し、鼻先に押し付けて臭いを嗅ぎ始めた。

「あぁ・・あぁイイニオイだ。こっちもたまんない、すっごくいやらしいニオイしてるよ」

 元の色が何だったかわからないほど汚れた靴下を、慎吾は頬を蕩かすようにしながら、スンスンと音を立てて嗅いでいる。

「やめてよぉ。間島さんがいいニオイってことは、くさいニオイってことじゃない・・・・。どんなニオイ、するの」

 美都は顔面を両手で覆い、指の隙間から慎吾を見ながら、恐々と尋ねた。

「グチャグチャにかき混ぜた納豆と、お酢のスッパイのを混ぜ合わせた臭い。それに、スパイスの効いたインドカレーのニオイも、ちょっと混じってるかも」 

「なにそれぇ、最悪・・・」

 慎吾の口から流れる比喩に、美都は戦慄した。

「ああエッチだぁ。すっごくエッチなニオイ、川原さんの靴下。ニオイだけじゃない。味もピリッと辛くて美味しいよ」

「エッチじゃない。そんな汚いのが、エッチなわけないもん」

 嬉しいのと、恥ずかしいのと、気持ち悪いのと、次々と押し寄せる感情の処理が追い付かず、美都は涙が止まらなかった。

「信じられない?」

「信じられない。信じられるわけない」

「これを見ても、まだ信じられない?ほら、よく見て。僕のここ、川原さんの靴下とパンティのニオイ嗅いで、こんなになっちゃってる」

 慎吾が得意げになる通り、画面に映る肉の柱は、彼が美都のプレゼントを悪戯し始める前とは、まったく様子が違っていた。

 天を突くように屹立する肉柱は、彼の腕や足の皮膚に比べてどす黒く、赤や緑色の血管が川のように巡っている。完全に露茎した亀頭は、血液が充満してワインレッドに染まり、エラが大きく張り出して、鈴口からビルビルと透明の液体を垂れ流している。

 今にも画面から飛び出してきそうな雄の器官の迫力に、美都は息をのんだ。

「川原さん、僕もう我慢できない。シコシコしちゃうよ、ゴメンね」

 慎吾が、また美都の汚れものをスゥッ、スゥッと嗅ぎ、チュパチュパと吸いながら、ゆっくり上下に、肉胴を扱き始めた。

 鈴口から流れる透明の液を潤滑油にして、傘の部分から真ん中あたりまでをピンポイントに、親指と人差し指、中指を滑らかに使ってコシコシと摩擦する卑猥な動きで、怒張は爆発しそうなほど膨れ上がって、雁首がグイグイと動いている。

「川原さん、見てる?」

「見てる。音も聞こえる」

「どんな音?」

「クチュクチュって。イヤらしい音が聞こえる」

「そう・・・。あぁ、気持ちよくなってきたよ。もうイッちゃいそう・・」

 頬を上気させて恍惚顔を浮かべる慎吾が、竿を扱くピッチを上げ始めた。

(出るの?あの白いの、出てきちゃうの?)

 八年前、口の中に、乱暴にぶちまけられたもの――生暖かくて、ベトベトして、青臭さくて、甘苦い味のするアレ。もう、二度と見たくなかったはずのアレが噴き出るところを見るのが、今は楽しみで仕方がなかった。

 美都は固唾を飲んで、慎吾が肉竿を扱きたてるのを見守っていたが、慎吾は何を思ったか、途中で右手の動きを止めてしまった。

「あのさ、川原さんにお願いがあるんだけど・・」

「なあに」

「川原さんも、その・・・してみてくれないかな。僕、できたら、川原さんと一緒に、気持ちよくなりたい」

 慎吾からのリクエストには、戸惑いもないし、抵抗もない。向こうにも美都の姿が見えている以上、慎吾がそれを望むのは、当然だとも思う。

 スタイルはともかく、大きな胸には自信がある。これを見せれば、慎吾はきっと、美都を褒めてくれる。男に褒められる女の喜びを味わいたくて、身体の芯が疼いている。

「私も、間島さんのこと見ながら、していいの?」

「川原さんが、僕なんかのこと見ながらオナニーしてくれるなんて、今すぐ死んでもいいくらい感動するよ」

「ほんと?ほんとにほんと?」

「ほんと。ほんとにほんとだよ」

「わかった。じゃあ、ちょっと待ってて」

 美都は意を決して、リクライニングの座椅子から立ち上がると、桃尻を後ろに引いて、コットンパンツと、淡いグリーンのパンティを脱ぎ去った。

 ふっくらと盛り上がった恥丘は濃い目の繁茂に覆われ、慎吾の昂りを目の当たりにして湧き出した女の蜜で、ぬらぬらと濡れ光っている。美都がまたリクライニングに腰をおろすと、下腹がこんもりと、エロティックに膨れた。

 続いて、美都がTシャツを脱ぐと、パンティとセットの、淡いグリーンのブラに包まれた双乳がY字の谷間をのぞかせる。さらに、美都が両手を背中に回してブラのホックを外すと、九十センチを超すボリューミーな生乳が、ボロンとまろび出てきた。

「ごめん。太っちゃってて、みっともないよね」

 しばらく、黙って美都の裸体を眺めていた慎吾に、美都が困惑して言った。

「いや・・・なんていうか、言葉が見つからなくて。僕の乏しい語彙じゃ、川原さんの裸の神々しさは、とても表現できないよ」

「表現できない?小説書いてる、間島さんでも?」

 美都が小説のことを言うと、慎吾が怪訝な顔をみせた。

「あれ?僕が小説書いてるってこと、言ったっけ?」

「ごめん。間島さんのホームページ、たまたま見つけちゃったの。小説、読ませてもらった。一言で感想をいうのは難しいけど・・なんていうか、命を削って書いている気がして。私、好きになったよ」
「そっか・・・。見つけてくれたんだね」

 長く勤めても社内での上がり目もなく、会社が一生面倒を見てくれるわけではない。会社でどれだけ褒められ、好印象に受け止められても、慎吾たち派遣社員にとっては、それは本当の自分ではないのだという空虚が付きまとう。たとえ、まだ社会には受け入れられなくとも、慎吾にとっては、会社以外の人生の方が本番なのだ。

 美都に本当の自分を見つけてもらえた慎吾は、恥ずかし気であり、嬉しそうでもあった。

「好きだ・・・。僕、川原さんのこと、大好きだよ」  

 いつの間にか慎吾の手は、再び黒光りへと伸びていた。

「夢みたいだよ。川原さんのパンティと靴下を嗅いで、川原さんの裸を見ながらシコれるなんて、ほんと夢みたいだ・・」

 慎吾の指が卑猥に動き、お掃除液で濡れた粘膜が、ヌチヌチといやらしい音を響かせる。美都を思うあまり、獰猛に形状を変化させた物体を見て、美都の下腹部の疼きも限界を迎えていた。

 美都は、月に数度、自分を慰めるために用いる右手の人差し指と中指を、慎吾に見られて潤いの量を増した秘苑へと伸ばした。

「・・ンッ。クゥン・・」

 細指が、繁茂の奥の肉唇をツツッと這うところを慎吾に見せながら、美都は可愛く哭いた。

「ねぇ川原さん。川原さんのおまんこ、いまどんなニオイしてる?」

 粘膜から迸る電流で美都の身体が小刻みに震え、大きな釣鐘型の乳房がプルンと揺れるのを凝視しながら、慎吾が訊いた。

「言いたくない」

「お願い、教えて」

「わかってるくせに」

「わからないよ。パンティに移ったのと、直に嗅ぐのとじゃ、また違うんだ。だから教えて。川原さんの、直マンのニオイ」

 慎吾にしつこく問われ、美都はクレバスの淵をなぞった後の指を鼻先にあてがい、ニオイを嗅いだ。

「どんなニオイ?」

「・・・ヨーグルトみたいな、スッパイにおい」

「ヨーグルト・・・すごい。お風呂に入ってから一時間くらいしか経ってないのに、もうヨーグルトになっちゃうんだ・・・。すごい。川原さんのヨーグルトおまんこ、すごいすごい・・」

 美都の言葉で興奮の度合いを高めた慎吾が、竿が変形するほど黒光りを強く握りしめ、包皮を上から下までグイグイと剥き始めた。

 竿を強いグリップで握りしめ、包皮を激しく摩擦することで性感を得る皮オナを繰り返していると、性交の際に女性の膣圧に違和感を覚え、遅漏や中折れする体質になってしまうリスクが高い――そんなことは、もちろん美都は知る由もないが、いまの慎吾が、思わずオナニーの禁忌を破ってしまうほど燃えがっていることは伝わってきた。

「ァ・・ンッ、わたしのあそこのニオイ想像して、子供みたいに目ぇ輝かせて、バカバカバカ・・・・・・・んッ・・・ゥ・・ゥん、ゥゥウ」

 美都も慎吾と一緒に気持ちよくなりたくて、クリトリスの包皮を剥き、露出した真っ白な肉芽を、美都蜜で濡れそぼった指で擦った。

「川原さん僕・・・僕、我慢できない。もう出すよ」

 糸を引く粘り汁を竿全体にまぶして、ヌチヌチヌチクチュンと淫靡なBGMを奏でながら、慎吾汁の大噴火が近づいていく。

「出して。私見てるから、思いっきり出して」

 自分では気づかないが、いつの間にか美都も少女のように目を輝かせて、ゾーンに入った慎吾のバットを見つめていた。

「くぁぁぁっ。でっ出るっ」

 画面の向こうで、激しくピストンしていた慎吾の指が止まり、先端から爆出した白く濁ったものが、画面の外にまで飛び散っていった。

「あぁすっげえ出る。川原さんが可愛すぎるから、すっげえいっぱい出てくるよっ・・」

 ドクビュン、ドクビュン、ドクビュン――。

 場外ホームラン三連発の後、白濁の弾丸は徐々に飛距離を落とし、ときにアーチを描き、ときにライナーで一直線に飛びながら、キーボードを汚したり、パソコンの脇の麦茶にポチャンと落ちたりしていった。

「間島さんすごい・・。こんなに出しちゃって、痛くない?」

「痛くない・・めっちゃキモチィよ」

「わたしのせい・・・わたしのせいでェ、間島さん、いっぱい、出しちゃってるっ・・のォ、ッ」

 牝の悦びをスパークさせながら、美都は掌を上に向けて、Gスポットを探り始める。三年ほど前、自分でやっているとき、うっかり触って失神しかけた強烈な刺激のスイッチ。

 右手が恋人の期間が長かった分、同年代に比べて卓越した指遣いで、向日葵の種のようにしこっている部分を、深爪にした指先でチョ、と触れると、焼け火箸で突いたような熱さで身悶える。
「そう、川原さんのせい。川原さんがこんなに可愛いのに、こんなにクサイから、僕もう気持ちよくって、どうしようもなくって。可愛いのにクサイなんて、川原さん、反則だよ」

「ハァァァァッゥん・・・反則でッ・・ゴメン・・・ね・・・ア」

「謝らないで。川原さんが、反則してくれたせいで・・・。ぼく、気持ちよくなれたから・・」

「あっウゥ・・わたしも、わたしもイクゥ・・ア・・」

 慎吾よりワンテンポ遅れて、美都にもオルガスムスの波が襲ってきた。瑞々しく張った豊乳が、桃色の蕾をプクリと膨らせながら重たげにフルフル揺れ、エロ肉のフワッと詰まった下腹も小刻みに波打つ。蜜壺からGスポットに触れた指で掻き出されるようにして、チュぷっと射精のように、微かに潮が噴いた。

「アんクッ・・ォッ・・・まじ、間島さ・・・・」

 指アクメで引き起こされた電流に、下腹部がジワリと痺れていく。男性の視線を浴びている分、達したとき快楽の量はいつもと段違いで、痺れが持続する時間も長かった。

 余韻を味わうように、コリコリに勃起し、醗酵した蜜のニオイを振りまくラフレシアの花芽を弄りながら 、美都の視線は、荒く息をつく慎吾の股間に、なまこのようにぶら下がる半萎えの肉塊をとらえていた。

(見られているだけでこんなにイイなら、アレを入れられたら、美都は一体どうなっちゃうの?)

「間島さん。今週末、予定ない?」

 メスイキに一段落がつくと同時に、美都は瞳を潤ませながら尋ねていた。

「ない。全然ないよ」 

「ねえデートしよう。二人きりで会おう」

「うん。会おう。デートしよう。僕、川原さんが欲しい。これを嗅いでいる間にも、ずっと思ってるんだ。パンティと靴下に移ったニオイでこんなに凄いなら、生身の川原さんのおまんこと足は、どうなっちゃってるんだろうって」

「くさいよ」

「くさいのが欲しい。可愛い川原さんのくっさいニオイ嗅いで、川原さんだって、僕と同じ人間なんだってことを確認しながら、汚い僕のザーメンで、川原さんのことベチョベチョにしたい」

 慎吾が、また美都のパンティを嗅ぎながら、もう硬度を取り戻した肉棒に、美都の靴下をはめて扱き始めた。

「間島さんとわたしは、同じ人間だよ」

「違う。全然違うんだ。川原さんと僕は違うんだよ。周りの期待にちゃんと応えて、スキルを積み重ねて、大事な人間関係も築いてきた川原さんと、これまでずっと、何もない、ゴミみたいな生き方をしてきた僕は違う。同じ人間の形をしていても、同じ職場で働いていても、僕らはまったく違うんだよ」

 聞いているこちらが痛々しくなるほどに、自分を卑下する慎吾。そうではないと言ってやるのは簡単だが、慎吾が自分の言っていることを否定してほしいのかというと、そうではない気がして、美都は何も言えなかった。

「僕は、川原さんだけいればいい。川原さんだけが僕を見てくれれば、それでいい」

 慎吾が、切なげな目で美都を見つめて言った。

(わたしだけ・・・)

 もちろん、慎吾も世の中に認められるため、自分のできることを、精いっぱいやっている。しかし、彼はそれが、最後まで実を結ばずに終わるかもしれないことを知っている。 

 生きる意味よりも、生きている実感を求めて、懸命にもがいている。圧し掛かる徒労に押し潰される恐怖に抗いながら、ローソクの炎を燃やすようにして生きている。

 不器用で、繊細で、人と同じようにできず、うまく生きられない慎吾が、美都を女神と信奉し、一途に思っている――。

「ねぇダメ、それ取っといて」

 美都に言われて、慎吾が、靴下を被せた肉棒を扱く手を止めた。

「今出さないで、ためておいて。今度、私に思いっきりかけて」

 今週末、美都のセカンドヴァージンを捧げることを決めた相手に、美都は精液をできる限りチャージしてくることを命じた。

 美都の痛みをすべて消してくれる慎吾の肉棒を、少しでも熱く、硬く尖らせておくために、余計な体力を消耗させず、コンディションを万全にさせておかなければならない。

「・・・わかった。川原さんのこと、僕の溜め込んだザーメンで汚すから。二人きりで会ったとき、川原さんにいっぱい、ぶっかけちゃうから・・・」

 女神の命令に従い、慎吾がビクつく剛肉から、美都の靴下を外した。

「うん。それじゃ、今晩はお休み。また明日ね」

 ノートパソコンを閉じると、美都は指先の甘酸っぱい液を洗い落とさぬまま、電気を消してベッドに入った。

 目を閉じて、意識を集中させると、瞼の裏のスクリーンに、慎吾が美都を求めて大きくした熱棒が再生される。

「アン・・・アッ・・ゥ・・・ウ・・・ウッン」

 慎吾に我慢を命じておきながら、美都は微睡みが美都を招くまで、疼きの収まらなくなったものを指先で弄るのだった。 


                      5
 
「すげぇ・・・」

 マシンから放たれる、一三〇キロのボールを広角に打ち返す美都のバッティングに、バッティングセンター中の視線が吸い寄せられていた。

 始動時にはバットのヘッドがしっかりと前を向き、軽く上げた右足を力強く踏み込み、左足を軸に、巻き込むように回転する美都のキレイなスイングは、他の男が連れている彼女のへっぴり腰のスイングとはまるで違う。自分自身は、美都よりも遅い一二〇キロを前に飛ばすのにも難儀しているが、慎吾は得意げだった。

「はぁ。スッキリした。間島さん、誘ってくれてありがとう。ほんと楽しかった。一人だと、なかなか行く機会ないから」

 晴れやかな顔をする美都に礼を述べられ、慎吾は頬をかいた。

 相互オナニーを楽しんだ日から、昼も夜もなく胸を高鳴らせ、心待ちにしていた、美都との初デート。慎吾はこの日のコースを、ステーキショップからバッティングセンター、そしてホテル、と設定していた。

 臭いフェチである慎吾は、女性の体臭を強くさせるための工夫をすることにおいても余念がない。
 
 脂質が多いため消化器への負担が大きく、腸内で悪玉菌が発生し、汗に含まれるアンモニアの量が増加することから体臭がキツクなる肉類を摂取させてから、真夏に屋外のバッティングセンターで、たっぷり汗をかかせる。

 慎吾の作戦は見事に功を奏し、ホテルの上階に向かうエスカレータの中、慎吾の腕に絡みつく美都からは、すでに女性ホルモンを煮詰めた、南国のフルーツのような甘ったるい匂いがふんぷと漂っていた。

「ここだね・・五〇五号室。部屋に入ったら、僕、軽く身体流してくるから。川原さんは、そのまま待っていて」    
            
 美都を部屋へとエスコートすると、慎吾はグレーのYシャツとスラックスを脱いで、一人バスルームへと入っていった。女性のニオイを楽しむ慎吾は、男である自分のニオイで美都を台無しにしないために、自分だけは風呂に入り、身体を隅々まで入念に洗浄するのである。

 タオルでよく身体を拭いて、バスローブを羽織り、マウスウォッシュもしっかりしてから、美都の座るベッドに腰を下ろした。すると美都は入れ違いに立ち上がり、バスルームへと向かおうとする。

「あ、そのままで」

 慎吾に呼び止められた美都は足を止めるが、しかし振り返らない。

「・・・やっぱり、洗ってくる」

 女の生々しい体臭に惹かれる慎吾の性癖は、よくわかっているつもりである。だが、やはり、いざそのときになると、一日お風呂に入っていない汚れたニオイを直に嗅がれるのは抵抗があった。

「待って」

 慎吾は後ろから美都の肩を掴むと、何も言わずに唇を重ねた。

 すると美都は胸がギュッとなり、身体からふわっと力が抜けていってしまう。

 慎吾は美都に口づけしたまま、美都の肩に置いた手に少し力をこめ、美都をもう一度ベッドに座らせた。

「・・・・」

 慎吾は美都にもう一度口づけし、美都を押し倒した。

「はぶっ・・むちゅっ・・・・べろっちゅ・・」

 優しく覆いかぶさりながら、美都の唇の裏に舌をねじ入れて、歯茎を撫ぜてやると、美都が舌をネロネロと絡ませてきた。

「ん・・・・きゅ・・こっく」

 慎吾は一度口を離し、己の舌にたっぷり掬い取った、美都の唾液を嚥下した。水あめのような甘い味。

「は・・・んンッ・・・」

 慎吾の唾液は、バニラソフトのような甘い味。美都は、今度は自分から慎吾の唇を奪い、まむまむと舌をねじ入れた。

 二体のアナコンダが絡み合うように口内をうねり、溢れる唾液を攪拌する。そのうち、キスに飽いた慎吾は美都の他の部位に行こうとするが、美都はこの口をけして離すまいと、慎吾の後頭部を掴み、チュパッ、ちゅぷっ、チュパアと、慎吾の唇を何度もついばんだ。

「はぁっ・・あぁ、川原さん、川原さんごめんね」

 このままずっと口を重ねているのも悪くはない。しかし、燃え上がった雄の肉体は、キスだけでは収まらない。

 美都が口を欲しがるのに十分応えた慎吾は、少し身体をずらし、美都の脇の下を凝視した。

 慎吾がシャワーを浴びている間、わざと、冷房をかけせさせないでいた部屋の中で、美都が着ているモスグリーンの半袖ブラウスの下に、汗の染みがジワリと浮き出て、そこだけ色が濃くなっている。ここがずっと、嗅ぎたかった。

「イヤッ、そんなとこ嗅いじゃイヤッ」

 美都が、汗染みに顔を近づける慎吾の頭に手をかけて押そうとするが、もちろん本気ではなく、慎吾は鼻先を湿った場所にピトッとくっつけて犬嗅ぎする。

「台所のニオイがする」

 腋嗅ぐ変態犬に恐々とした視線を落とす美都に、慎吾は笑みを浮かべながら言った。

「お母さんが、トントンってネギを切ってるでしょ。それを、床下で熟成させていた味噌を使った味噌汁に入れる。ダシの効いた、お母さんの美味しい味噌汁が、ここから湧き出てるんだ」

 嬉しいような、嬉しくないような例えを持ち出した慎吾が、美都の腋の汗染みを唇に挟み、チューッと吸ってきた。

「んまっ、うんまっ、川原さんが溶けてるっ。このお味噌汁、川原さんのダシが、すっごい効いて、めっちゃおいしいっ」

 美都汁を吸いながら、慎吾のゴツゴツした手は、二十八歳の脂肪が程よく乗った、しかし十分に曲線の美しさを残したウェストを触れていた。

「ねぇ間島さん、あんまりなぞらないでぇ。太ってるのがバレちゃう」

「太ってなんかないよ。むっちりしてやわらかい、セクシーなおなかだよ」

 美都の身体を撫ぜ回していた慎吾が、服の上からでは満足できなくなって、美都のブラウスの袖をくいくいと引っ張ってくる。美都は半身を起こして、ブラウスをさっと脱ぎ去った。

 脱ぎ際、首筋から出る甘い女の香りと、腋から出るネギ味噌の刺激臭がブレンド・ミックスされたニオイがふわっと舞い上がり、慎吾は鼻孔を恍惚気に拡げ、美都は羞恥に顔を赤らめた。

「ねぇ間島さん。あんまり嗅ぎすぎると、鼻がおかしくなっちゃうから、ほどほどにしといた方がいいよ」

「おかしくなんかならないよ。川原さんのにおいをずっと嗅いでいれば、僕はメロメロになるんだよ」

 ニオイを吸いながら、肉の柔らかみを味わいたい慎吾が、深い谷間を刻んでいる双乳をブラジャーの上から揉みしだいていると、美都がすぐホックを外して、自慢のFカップメロンがぼろんとまろび出た。

 揉み解されていない美都のバストは年の割に硬く、ゴムボールのような張りがある。デラウェアを少し小さくしたような大きさの蕾は、十代のように淡いサーモン・ピンクである。

「川原さんのおっぱい・・ぁ・・すご、吸収されそう・・・」

 美都の汗ばんだ乳肉は、慎吾の掌にヒトヒトと吸いつき、労働の毎日でカサついた指先を潤すようである。

 濡れ餅のようなおっぱいを優しく揉み解しながら、慎吾は美都の、キレイにムダ毛の処理された腋へと鼻を埋めていく。

「ハァッ・・・イヤッ・・」

 慎吾が、自分のパンティや生理用品を悪戯するところを見ていても、汚れた部分を直に嗅がれることには、どうしても抵抗がある。

 美都が閉じかけた腋を、慎吾はそっと押し開き、剃り跡の黒点と、汗の雫が浮かぶ腋嵩に、再び鼻孔をダイブさせた。

「川原さん・・・美都ちゃんって呼んでいい?」

 慎吾が、美都の直腋を嗅ぎながら尋ねた。

「いいよ。そしたら、わたしも慎吾さんって呼ぶ」

「美都。美都ッ、美都ッ、美都ッ・・・・」

 愛する人の名を連呼する慎吾は、美都の腋臭を嗅ぎつつ、反対側の腋を、小指の腹で擦っていた。

 くすぐっているのとも、愛撫しているのとも違う。強く押し付けて、何かを塗り付けようとする指の動きである。

「ねえ慎吾さん。その小指さんは、何をやっているの?」

「ん・・・。お土産をもらってるんだよ。舐めたら、ニオイが落ちちゃうからね。美都ちゃんがいっぱい臭ってるうちに、指にニオイを付けておくんだ」

「そんなことして、どうするの・・・」

 怯えたように、美都が訊いた。

「家に帰ってから、一人で楽しむんだ。今晩、美都ちゃんと別れたあとも、美都ちゃんとずっと一緒にいられるようにするんだ・・・よし。美都ちゃんのにおい、いっぱい取れた。これで心置きなく、美都ちゃんのエキスを取り込める」

 慎吾が、ネギ味噌汁のにおいをタップリ染み着けた指を離し、かわりに舌を、ちょっぴり茶色な美都の腋にひたっと付けた。

「フフッ。慎吾さん・・。フフ、くすぐったいよ」

 汗腺が多く、神経が密集した部分を舌で舐められると、快楽よりも、くすぐったさに襲われて、身をよじってしまう。すると、美都が部屋に入ってからもずっと履きっぱなしにしているカジュアルブーツが、美都に覆いかぶさる慎吾の腹にゴリッと当たった。

「あ、ごめん。痛くない?」

「ごめんね。足、痒くなってない?」

 ふたりが同時に、まったく違うことで謝ったのがおかしくて、笑いが漏れた。それから見つめ合い、ソフトキスをしてから、慎吾は美都の足元まで下がり、カジュアルブーツに手をかけた。

「ごめんね。真夏にこんな、分厚い靴なんか履かせちゃって」

 美都が、真夏に違和感のあるカジュアルブーツを履いていたのは、慎吾のリクエストだった。言うまでもなく、美都の足を蒸れさせ、ニオイを愉しむためである。

「デート中、何回も痒かったけど、慎吾さんが嗅ぎたいって言うと思って、我慢してた」

「ごめんね。苦しい思いさせちゃったね。いま、脱がすからね」

「やだ。脱ぎたくない」

 美都が、宙を蹴るようにして、ブーツにかけられた慎吾の手を振り払い、そっぽを向いて、聞き分けのない子供のように言った。

「でも、脱がないと、痒いのとれないよ」

「だって脱いだら、慎吾さんに、わたしの足のニオイ嗅がれちゃうもん」

「僕、美都ちゃんの靴のニオイと靴下のニオイ、もう嗅いだことあるよ」

「でも、やだもん」

「靴と靴下はよくても、直に嗅がれるのはイヤなんだ」

 慎吾の問いに、美都がそっぽを向き、口元を手の甲で覆い隠しながら、コクリと頷いた。

「美都ちゃん。僕は美都ちゃんのニオイを、生まれたときから探していたんだよ」

 しばし思案したあと、慎吾は口元に笑みを湛えつつ、美都を真剣な眼差しで見つめながら言った。

「嘘。赤ちゃんのときから、こんなニオイが好きな人なんていないもん。わたしの足のニオイが好きなのは、慎吾さんみたいに、大人になってから変な風になっちゃった男の人だけだもん」

「そう。だから、僕が変な風になるのは、神様が最初から決めたことだったんだ。今まで起きた辛いことも、嬉しいことも、みんな神様が、僕が美都ちゃんを好きになるために仕組んだことだったんだよ」

 美都の足のニオイが嗅ぎたい慎吾は、言葉巧みに、しかし一途な思いを伝えて、慎美都の心をほぐし、美都が自らの意志でブーツを脱ぐように持っていこうとする。

「美都ちゃん・・」

 美都の足元から一時撤退して、美都のおっぱいに帰ってきた慎吾が、仰臥しても形の崩れない釣鐘おっぱいを、ソフトクリームのカップを持つようにしてムネムネと縦に揺らしながら、ザラメ味のする美都の唇を甘噛みしてきた。

「慎吾さん、慎吾ォ」

 股間のものをすでに硬くいきり勃たせて、花柄のフレアスカートから伸びる太ももに押し付けてくる慎吾が、美都の大好きなキスとおっぱい揉みをしてくれるのが嬉しくて、それなら慎吾にも、慎吾が大好きな、美都の足のニオイをたっぷり嗅がせてあげなければいけない、という気になってきた。

 美都は慎吾の頭に手をやって、自分の足元へそっと押しやってから、半身を起こして、カジュアルブーツのヒモを緩めた。

 慎吾はブーツを脱ごうとする美都の足元を、目を皿のようにして見つめ、鼻孔をビー玉サイズにまで広げ、半開きにした口から涎を垂らして、これから起こることを期待している。

「とりゃ」

 かわいいかけ声とともに、美都が脱ぎ去ったブーツの中から、熱で赤らんだ足が顕わになった。
 同時に、うな重の蓋を開けた瞬間のように、芳ばしいニオイが辺り一面に、ウワンムゥ、と漂う。

「美都ッ。美都美都美都ッ、美都美都美都ッ」

 慎吾が、美都のすごいニオイを嗅ぎながら、腋と同じように、左手の薬指に、美都の足のニオイをこびり付けた。

「すごいぃ・・・。工場の近くの道路で、たぬきが車に撥ねられて、道路の脇に吹っ飛ばされて死んだときのニオイが、可愛い美都ちゃんの足からするよォ」

「やアだ。たぬきが可哀想。慎吾さん、たぬきを殺しちゃヤぁ」

「ごめん。たぬきが可愛そうだよね。たぬきじゃなくて、納豆が百個潰れてた。納豆が百個ってことは、納豆菌が一兆個くらいあって、それが美都ちゃんの靴の中で生まれてたってことだよ」

 慎吾が適当なことを言うと、美都が、たぬきの死骸にたかるウジの群れを見たかのように、顔をしかめてみせた。

「やめてぇ。納豆なんか生んだって、全然うれしくない」

「納豆は美容の最大の友だよ。それが美都ちゃんの足から産まれたんだから、美都ちゃんは世界一の美人だよ」

「やん・・・ヤん、そんなの、嘘だもん。わたしの足はっ・・・ただ、くさいだけだもん・・・キャ、ヤ、慎吾さん舐めないで。やめてっ、勘弁してっ」

「勘弁しない。美都ちゃんが可愛すぎるのがいけないんだ。ああ。丸くて、しめじみたいな、かわいい指。こんなに可愛いのに、なんでこんなにクサイんだろう」

 慎吾に、たぬきの死骸と納豆をぐちゃぐちゃにかき混ぜた足を舐められると、くすぐったくて気持ちいい。

 慎吾の舌の温もりと滑らかさが、美都の傷の痛みを癒していく。


――ねぇ。なんかこの部室、クサくね?

――ほんと。マジヤッバイ、雨上がりの排水溝みたいなにおいする。誰がこのにおいさせてんだか。

 中学のころ、ソフトボールの練習を終えたとき、美都にレギュラーを奪われた先輩が、悪意のこもった目を美都にチラチラ向けながら囁く声が、美都が最初に負った、心の傷だった。

 でも、いま、美都の足を嗅ぎ舐めている男は、美都がダメだと思っていた足のニオイを嗅いで、ごちそうにありつく犬のように、喜色を全面に表している。

 慎吾とだったら、美都は自分の体臭を恐れなくていいし、どんな美都も好きだって言ってくれる。
 慎吾にだったら、アソコのにおいも嗅がせられる――。

 慎吾が、美都の心に刻まれたバッテンを、花丸にしてくれる――。

「あぁイイッ。美都ちゃんの足、ほんといいニオイ。全部いいニオイだけど、特にこの、指のおまたのところが最高・・・っ。最高にニオイが溜まってて、最高にウマいよ」

 ピチャピチャといやらしい音をたてながら、慎吾は美都の足の、指のおまたで繁殖した白癬菌を、夢中で舐めとっていく。

 慎吾の中に、美都の痛みが溶け込み、慎吾の中で喜びに昇華されていく。 

「美都ちゃん全部ちょうだい。僕、美都ちゃんの何もかも、受け入れてみせるよ」

 言いながら、慎吾は美都の、蒸れてふやふやになった足から、美都の腰の方へと移動した。

「次、美都ちゃんのおへそのゴマ、ちょうだいね」

 慎吾は、トップレスの状態にある美都にそっと身体を重ね合わせ、美都が母親と繋がっていた部分に、深爪にした左手の中指を入れた。

「ごめんね。ちょっとだけ、我慢してね」

 内臓に直結するヘソに指を入れてほじくると、独特の不快感に襲われる。美都の痛みとシンクロするように、慎吾も下腹部を襲う苦しみに耐えながら、左手の中指の先に、雑穀のようなヘソのごまを掬い取った。

「美都ちゃんの魔法の壺から出てきたゴマちゃん、いただくね」

「・・・どうぞ、召し上がれ」

 鳥の餌のようなニオイをふりまく、美都のドライ型のヘソのごまをたっぷり嗅いでから、口に入れようとする慎吾。

 慎吾にほじくられ、ズムッとした気持ちの悪さを味わった場所は、美都がまだ生まれる前に、お母さんから栄養を貰っていたところ。

「ねぇ慎吾さん。慎吾さんは、ほんとにほんとに、わたしが産まれる前から、わたしのことが好きだったの・・?」

 美都は握りしめた両手を胸の前で合わせ、Fカップの豊乳をムギュッと押しつぶしながら、慎吾に天然っぽく訊いた。

「そうだよ。僕は美都ちゃんが生まれる前から、美都ちゃんが好きだったんだよ」

 慎吾は、まるで不思議少女のような美都の言動に笑顔で付き合いながら、美都のヘソのゴマをにちゃにちゃと租借した。

「さぁ、いよいよメインディッシュだ」

 キラキラ輝く慎吾の瞳は、美都のフレアスカートに包まれた、美都のいちばんクサイところを見下ろしていた。

 美都が種を受け取り、お母さんになるための場所のニオイが、美都の長年の悩みだった。

 どうして自分のここはこんなにクサイのか、ずっとわからなかった。どうして自分だけが、こんなにクサくなければいけないのか、納得できなかった。

 でも、今ならわかるし、納得できる気がする。

 美都のおそそがクサくなったのは、美都のどんな部分でも、どんな美都でも好きだって言ってくれる人を見つけるため。

 神様が、美都を幸せにしてくれる人と巡り合わせるために、美都のおそそをクサくしてくれたのだ。
「美都ちゃん。僕は一万年前に、美都ちゃんのここを嗅いでいたんだよ」

 美都の腰骨に触れながら、慎吾が真顔で、不思議なことを言ってきた。

「一万年前に、慎吾さんとわたしは、生まれていたの・・・?」

 慎吾ワールドに引きずり込まれて、美都は頭の中がほわっとなった。

「ああ。まだ、人類が、股間を葉っぱで覆うだけの恰好でいたころ、生まれてから一度も石鹸で洗ったことがない美都ちゃんのおまんこを、僕はスンスン嗅いで、舐めていたんだよ」

「やだぁ。生まれてから一度も石鹸で洗ったことがないアソコなんか舐めたら、慎吾さんが病気になっちゃう」

「美都ちゃんを舐めて、病気になりたいよ。美都ちゃんのおまん菌を食べて死ねるなら、僕は本望だ」

 ふいに感情が昂って、慎吾は美都の肉感溢れる太ももを強く握り、嗚咽を漏らした。

 慎吾の目尻から、どっと涙が溢れたのを見て、美都は肺腑を貫かれる。

「慎吾さん、どうして泣くの」

「生きるのが辛くて。苦しくて」

「どうして慎吾さん、生きるのが辛いの」

 慈愛に溢れる聖母のように、美都が訊いた。

「僕が生きていることを、誰も認識してくれない。美都ちゃんがいるあの会社にも、ほかの場所にも、僕はどこにもいないんだよ。この世界の中で、僕は息はしているけど、生きてはいないんだ」

 しゃくり上げる慎吾を見て、どうすればいいのか考えた。

 涙をこぼす慎吾の顔を、慎吾がいっぱい揉み解してくれた豊乳で包み込んだ。

「わたしだけは知ってる。慎吾さんがこの世に生きていることを、わたしは知ってるよ。慎吾さんが頑張って働いていることも、慎吾さんが小説書いていることも、わたしは見てるよ」

 どんな精神安定剤よりもリラックス効果のあるおっぱい。慎吾は美都の柔らかみに包まれて、生まれた哀しみが、いくらか和らいだ気がした。涙が止まった。

「慎吾さんのことが好き。だから慎吾さん、わたしが生きている証も味わって。わたしだって、辛いことも、苦しいこともあるけど、必死に生きてるんだってことを、慎吾さんの鼻と舌で感じてみて」

 ただ生きるだけのことが、どうしてもうまくいかない。生まれてきた絶望を、せめて文学に昇華しようとしてみても、やっぱりうまくいかない。

 美都がどんなに口で言っても、慎吾がいま現在の境遇を、前向きに捉えてくれることはないのだろう。

 だから脱いで、嗅がせて、舐めさせる。

 そしたら、美都のことも、もっとわかってもらえる。

 美都はしゃがんだ状態で、パステルイエローのフレアスカートに手をかけ、足元まで一気にずり下ろした。

 ピンクのリボンと花柄のレースのあしらわれた、純白のパンティ。汚れが一番目立つ色のパンティの、股間部に浮かぶシミに、慎吾はゴクリと生唾を飲んだ。

「美都ちゃん・・・美都ちゃん」

 慎吾は美都の染みに向かって、慎吾が大好きな名前を呼んだ。

 美都は、美都の染みに顔を近づける慎吾を、頬に薄紅に染めながら迎え入れた。

「っくおっ。ヨーグルトができてるっ・・・。美都ちゃんパンツのから、すっぱいヨーグルト漏れてきてるよ・・・」

 美都染みの強い醗酵臭を嗅ぎながら、ゴムに手をかけ、パンティを下に少しずらすと、太く硬く、量も多めの陰毛とともに、一段と強い臭気が、ワモォッ、と漏れ出してきた。

「あぁ・・ヨーグルトのスッパイ臭いに、ブルーチーズのケモノっぽい臭いと、ぐじゃぐじゃにかき混ぜた納豆の臭いが加わって、一段とエッチなニオイになったよ」

 慎吾が美都に送った最大級の賛辞に、美都は身ぶるいした。

「なにそれぇ。いやぁ」

 羞恥は堪えがたかったが、蒸れ肉の熱気と臭気をスウッ、スウッと吸い込む慎吾は、本当に幸せそうである。

「美都ちゃん、腰、ちょっと浮かせてもらっていいかな」

 美都の大きな尻とベッドとの間に隙間ができると、慎吾は美都の大事なところを覆う唯一の布を、一気に足首まで引き下ろした。

 力強く生えた剛毛がふくらかな恥丘を覆い、繁茂の奥に、年相応にやや酸化してはいるものの、まだまだ朱の色素をたっぷりと残した姫肉が覗いている。花弁には白いペースト状の恥垢がビトビトと付着し、緑色のオリモノもぬるついていた。

「行くよっ・・」

 慎吾はちぢれた美都草をかき分け、エッチなトッピングがこれでもかと盛り付けられた、洗ってない汚まんこへと、鼻を押し進めていった。

「あぁ、なんていやらしいニオイなんだろう。美都ちゃんのおまん菌、すっごくクサくて、いいニオイだよ」

「やめて。慎吾さん、美都に触ると美都菌がつくから、早く離れて」

 言葉とは裏腹に、美都はもう、慎吾に嗅がれるのが、嫌ではなくなっていた。

 美都のクサイところを喜んで嗅ぎ、美都がクサければクサイほど喜ぶ慎吾は、まるで犬のようである。

 美都の後をどこまでも付いてきて、美都の言うことをなんでも聞いてくれる慎吾は犬。美都のことが大好きで、美都にどっぷり依存して、美都がいなければ生きていけない慎吾犬に美都は心行くまでニオイを嗅がせて、タップリなでなでしてあげたかった。

「あぁ、いいニオイたまらない・・」

 いやらしすぎる牝蒸れのにおい。よくかき混ぜた納豆に、青かびの生えたチーズ、天日干しにしたイカ、トッピング三点盛りのお好みおまんこに、ヨーグルトのデザートまでついた極上のディナー。

「おまけに、持ち帰りまでできるなんて・・」

 慎吾は美都の一番クサイ部分のニオイを、左手の人さし指に、タップリと擦り付けた。

「いやらしィおまんこのニオイ、いっぱい嗅がせてくれてありがとう。今度は、美都ちゃんのおまん菌、いっぱい舐めて、美都ちゃんのことも気持ちよくさせるからね」

 美都の姫肉をチロッと舐めると、慎吾の舌は、酸性の分泌液で、東南アジア原産の檳榔を噛んだときのようにピリッと痺れる。構わず、唾液をたっぷり付けた舌先でラビアを撫ぜた。

「ヒッ。アア・・・ッンッ、クッ・・・」

 自分の指でするのとはまるで違う、恐ろしいまでの快感に、美都は歯を食いしばった。

 柔らかく、ぬめった慎吾の舌が、美都の秘裂をそっと割って、入り口をチムチムと舐めたくる。極上の電流が腹腔内に流れ、美都は汗ばんだ重い乳房を切なげに震わせながら哭いた。

「美都ちゃんのおまん菌で醗酵させた美味しいチーズ、いただいちゃうからね・・」

 慎吾は、美都のラビアに、カッテージチーズのようにこびりついた恥垢を舐めとり、唾液に溶かして、舌の上で転がした。ねりっとした食感に、塩辛さと苦みが絶妙な塩梅でミックスされた汚れた女のうま味が、心地よく喉を通っていく。

「アンン、アンン、アンン。ああダメッ、ダメッ、そんなんしたらだめぇ」

 やがて慎吾は、そっと舌を這わせるのではなく、ジュプッ、ジュプッと音を立てて、美都蜜を吸い出すようにして舐め始めた。

「ウ、あ・・ぁッ。ぁぁ・・・、嫌、嫌ぁ。いやだぁ」

「まだ嫌なの?」

「だって。信じられないもん。こんなのがいいなんて人、信じられないもん」

「僕がこんなに愛しても、まだ信じられない?」

「だって。だって・・・」

 嗚咽にも似た牝哭きを絞り出す美都の、薄皮にムッチリと肉の張りつめられた太ももを、慎吾は優しく撫ぜた。

「・・・過去に、辛いことがあったんだね。じゃあ、美都ちゃんが辛いことを忘れられるまで、僕が舐めるよ。美都ちゃんの痛みも悲しみも、全部消えてなくなるまで、舐め回してやる」

 慎吾は舐めた。気の遠くなるまで舐めた。

 慎吾にとって、愛しく、恋しく、神々しい、美都の淫臭。でも、それが彼女の痛みと悲しみだというのなら、舐めてかき消し、すべて自分の中に取り込んで、喜びへと昇華させてやる。

「アフッ、ズチュゥ、ジュプッ」

「ァァア・・アッ・・。やぁ・・・やぁ、なのぉ」

 粘膜全域を這う慎吾の舌攻めが、緑がかったオリモノの溜まったクリトリス周辺に及ぶと、美都の甘やかな喘ぎがセクシーな艶を帯び、慎吾の耳に心地よく響いてくる。

「ハブッ、ブチュウ、チャプウ。だいぶ、ニオイ消えてきたかな」

 十分ほども執拗にクンニリングスをしていると、嗅覚がマヒし始めたのもあるだろうが、だいぶ、美都臭が薄くなったように感じられてきた。

 メインディッシュを、しっかりと堪能した慎吾は、デザートを求めて、最後の「スイートスポット」に向かうことにした。

「そしたら美都ちゃん、今度は、四つん這いになってもらえる?」

 美都は慎吾に言われた通り、両ひざを立てて、後ろにいる慎吾に向かって、工場で多数働く南米人にも負けない大きなヒップを突き出した。

 慎吾は、ソフトボール経験者特有の、筋肉と脂肪のブレンド・ミックスされたプリプリの尻肉を揉みたてながら、窄まりの部分に鼻を近づけていった。

「あっ・・・。そこも嗅ぐの・・」

 排泄に使う部分に近づいていく慎吾に、美都は怖気をふるった。

 デリケートゾーンに比べ、さほど意識していたわけではなかったのは、そこに男性が性的な興味を持つということ自体が、想定の範囲外にあったからである。自分の目から見えない場所にある分、独特の不安もあった。

「笑われちゃうかもしれないけど、小さい頃、僕は可愛い女の子には、汚いところなんてないと思っていたんだ。可愛い女の子は、うんちなんてしないと思ってた」

「フフ。実際は、どうだった?」

 純真な頃の慎吾を想像して、美都は一瞬、今の状況を忘れ、笑いながら問い返していた。
「大人になってわかった。可愛い女の子にも、汚いところはあった。可愛い女の子だって、でっかいおならをするし、ぶっというんちだって、することがわかった」

「幻滅した?」

「ううん。もっともっと、好きになった。よく、好きな人なら汚いところなんかないし、クサくても舐められるとかいうけど、そうじゃない。僕は、好きな女の子が汚いから舐めるんだ。クサイからこそ、悦んで舐めるんだよ」

 言うが早いか、慎吾は、ひくひくと収縮するセピア色の肉菊に、鼻先を埋めていた。

「ぅおぅっ・・・すごい。美都ちゃんが可愛いお口から食べたものを、腸がこんなえっちなニオイにしちゃって・・」

「えっち・・・?わたしのそこ、えっちなニオイなの・・?」

 慎吾の言うことは、とても簡単には信じられない。でも、美都の一番クサイところを完食してくれた慎吾の言うことなら、信じてみようという気になっていた。

「えっちだよぉ・・・。美都ちゃんが食べたくさやもドリアンも、ケーキもクッキーも、最後はみんな、このえっちな・・・。男を虜にする、香ばしくて、妙に甘ったるいニオイになるんだよぉ」

「そんなの嘘。ケーキとクッキーの方が、ずっといいニオイだもん」

「美都ちゃんは、欲望に忠実な脳に騙されちゃってるんだね。自分のことしか考えないバカな脳と違って、人体にいるみんなのことを考えている腸は、一度身体に取り入れたものを差別しない。クサいもの、マズイものも、いい香りなもの、甘いものも、口に入れて、食道を通過しちゃえば、同じうんちになっちゃうんだ。そしてそのうんちは、男をメロメロにするえっち臭をお尻の穴にひり付けながら、ボトッとおトイレに落ちていくんだよ」

 美都は、慎吾は頭がおかしいのではないかとも思えたが、なぜか、妙に納得できる気もした。

 働いて、生きる上で、無駄なことばかり考えてしまうのが、間島慎吾という人の脳。彼の考えることは、人類がより良い未来に向かう上では何の役にも立たないけど、でも、美都は愉しいと思う。

「よぉし・・・。美都ちゃんのおしりのニオイ、もらったからね」 

 慎吾は、美都のアヌス臭を左手の親指に擦り付け、これで美都のスイートスポットのニオイを、すべて左手にコンプリートした。

「お土産が出来上がったから、美都ちゃんのデザート、いただいちゃうね」

 慎吾は、美都の芳ばしくも悩ましい窄まりにこびり付いた、排泄の臭いと、黒糖のような甘ったるい臭いの元を、ヌモヌモと舐めとった。

「アン・・ァァゥゥ・・ァゥ」

 入り口に取り付けられた、排泄を積極的に行うための性感帯を刺激され、美都は子猫のように哭いた。

「僕のこと、信じてくれた?美都ちゃんの全部が好きだって、信じてくれた?」

 アヌスに舌先をねじ入れ、直腸をこね回してやると、慎吾の手の内にある美都の尻たぶは、中に鉄板が入ったように、フッと硬くなる。ソフトボールを引退して何年も経っているが、美都の大きな尻には、厚い脂肪のコーティングの中に、鍛え抜かれた強靭な筋線維がたっぷりと残っているのだ。

「信じるぅ。ア、アンン、信じるぅ、慎吾さんのこと、信じるぅ」

 恥かしい部分を舐められているのに、瘡蓋をカリカリと引っ掻かれたときのような不思議な快感で、美都の声はどうしても、甘く切なくなってしまう。

「美都ちゃん気持ちいいの?お尻の穴舐められて、気持ちいいの?」

「イイ・・。汚いところのはずなのに、気持ちいぃ・・・こんなの、変」

「モノが触れて気持ち良くなるところには、みんな意味があるんだよ。おまんこが気持ちよくなるのは、女の子がおちんちんを入れられるのを好きになるため。お尻の穴が気持ちよくなるのは、うんちをするのを、恥ずかしくしないため。神様は偉いから、アダムとイブが知恵の実を食べて、羞恥心という感情を身に着けた後のことまで、よく考えていたんだね」

「アウ、アウゥ、慎吾さん、物知りィ」

「そうだね・・。余計なことばっかり勉強して、余計なことばっかり考えているから、僕は非正規の派遣なんだろうね・・・」

「余計なんかじゃなない・・。だってわたし、いまとっても楽しいもん。慎吾さんと話せて、慎吾さんと気持ちいいことできて、とっても楽しいもん」

「美都ちゃん、ありがとう・・・」

 美都食いを満喫した慎吾は、美都の愛しい皮膚の老廃物と雑菌をいっぱい食べた口を、美都の滑らかな唇に重ね合わせた。

「んっちゅっ、んちゅっちゅゥ、ちゅゥん、ちゅんちゅん」

 美都と唇を突っつき合いながら、慎吾の手は、ツンと張って、仰臥してもまったく形の崩れない美都のバストへと伸びていく。

 汗ばんで、照明を反射して鈍く光る乳肉を揉むと、ミトミトとなんともいえぬ音がする。

 硬く勃起した乳首を口に含むと、口の中いっぱいに、女の子の味が広がっていく。赤ちゃんを産んでもいない美都からミルクが出るはずもないのに、美都のおっぱいは、なぜか妙に甘い味がするのである。

「美都ちゃん、僕がもう、たまらなくなってるのわかる?」

 下腹部に押し付けられた慎吾の象徴は、美都が全力で投げたソフトボールも打ち返そうなほど硬くなっている。

 仕事で面倒くさいときに冷たくしても、イライラしてるとき辛く当たっても、慎吾が美都を求めてこんなになってくれたことに、美都は強い感動を覚え、ガチガチに張りつめた慎吾をはやく楽にしてあげたくなる。

「美都ちゃん、僕、美都ちゃんの中にいってもいい?」

 慎吾が尋ねると、美都は少しだけ間をおいて、控えめに頷いた。

 美都の許可が下りると、慎吾はもう一度、美都の秘所を舌で撫ぜ、美都の受け入れ態勢が整っているかどうかを確かめた。

「うん・・・・よさそうだね」

 潤いが十分だとわかると、慎吾は透明汁をたっぷり垂れ流し、お掃除のすっかり済んだ剛棒を、右手で照準を調節しながら美都にインサートした。

「ツッ!・・・」 
 八年ぶりに男のものを受け入れた美都の姫肉に、鋭い痛みが走った。

 あのとき、男は美都が初めてだとわかるや、面倒そうな顔を浮かべてすぐに引き抜き、上の口で咥えさせて腰を振り、一人で満足してしまった。

 経験値の少ない美都にも、慎吾のモノがロングバレルであることはわかるが、慎吾は熱された銃身をいきなり奥まで突っ込んできたりはせず、先っちょだけを使って入り口をクニクニとマッサージしつつ、接吻したり、首筋を愛撫したりしながら、美都の中が樹液で満ちるまで待ってくれた。

「おつゆが湧き出してきた。そろそろ、動かしても大丈夫そう?」

 十代や二十代のガキではない。向こうの準備を待つだけの余裕は備えているが、男の胸を甘い鼓動で破裂させようとする美都の美顔と巨乳を俯瞰していて、いつまでも雄の爆発を抑えていられるものではない。

「いいよ。来て・・」

 美都の許可が下りるや、慎吾はゆっくりと、出し入れの動きを開始した。

 先端から中ほどまで入れて、媚肉の収縮の具合を確かめながら、徐々に深刺しして、ストロークを大きくしていく。すると美都襞が包皮をズリュズリュと剥き、ツブツブが亀頭を刺激して、慎吾の下腹部は男の幸せでいっぱいになる。

「ァアゥ、ぁ、ォ・・すっご、しん・・・ぁゥ・・・・」

 美都の上で腰の動きをして、出たり入ったりする慎吾を受け止めながら、美都は痛みと快楽の狭間を揺蕩っていた。

 八年前に女になり損ねた美都から、今度こそ、重荷を取ってくれる男が現れた。

 このときまで待って、本当に良かった。生まれついておまん菌が多く、おまん臭をいっぱい放ってしまうおまんこに生まれたお陰で、汚マン嗅ぎと汚マン舐めが大好きな変態に出会えた。変態に女にされた美都は、変態女――。

「あぁいいよ。美都ちゃんの洗ってないおまんこ、すごくいいよ」

「ダメ・・・洗ってないから、慎吾さんのキレイなおちんちん、汚くなっちゃう・・・」

「汚いから、いいんだよ。美都ちゃんの汗と、垢ちゃんと、おまん菌がいるから、気持ちいぃんだよ」

「ぁん・・・また、そんなこと言う・・・もう知らない」

 美都のポテンシャルを限界まで引き上げる慎吾のピストンで貫かれ、美都汁がどんどん分泌されていく。

 痛みが消えた、苦しみが消えた、悲しみが消えた。

 美都は天使の翼をはためかせ、痛みも苦しみもない涅槃へ――慎吾と二人きりの楽園へと昇っていく。

「アァゥ、アンアン、ぁお、ぉ・・こ・・・ァ・・・ゥゥ・・・ィ、しんご、ィ・・ァ。これいい、これいい、しんご・・ィ・・・ィゥゥン・・」

 洗わぬ女体に包まれ、快楽の咽びをあげる慎吾棒は、何度かの抽送によって美都の肉洞窟を少しずつほぐして掻き分け、とうとう美都の赤ちゃん部屋まで到達した。

 パンパンに腫れあがった、慎吾の相棒の亀山くんに玄関口をノックされ、美都はここがどこかもわからなくなり、言語中枢も破壊されて、もう、なにを言っていいかわからなくなる。

「ああっ、美都が気持ちいいから、腰の動きが速くなってきたっ・・・よ。美都ちゃんの身体って、スゴ・・ィ・・・。男を夢中にさせるために作られた身体・・・ァッ」

「違うもん。わたしの身体は、だめな身体だもん。男の人をイヤにさせる、くさいニオイだしちゃうもん・・・」

「だれだっ、美都のニオイをイヤなんて言ったヤツは・・っ、探し出して、ぶん殴ってやる。美都のニオイは最高だっ。可愛い美都から、醗酵したケモノの、クサァい臭いを嗅ぎ取って興奮できないヤツなんか、男でもなんでもないよっ」

「ァゥ、ァゥゥ。慎吾がイイッていうなら、それでイイ、美都それでイイッ、慎吾さえいればイイイイッ」

 快楽を貪る二人の下腹が、タンタンタンと肉の打擲音を鳴らし、美都の喘ぎをより艶やかにして、慎吾の鼓膜に響かせる。

 慎吾は美都の背中に手を回し、蟻の這い出る隙間もないほど密着して、美都に口づけしながら、熟練の洋裁師が操るミシンの動きで、下半身を打ち付けた。

「チュ、チュッチュウ、チュ、チュゥ、チュウ、チュゥ、チュゥゥゥッ」

「チュ、チュチュゥ、チュゥ、チュチュ、チュ、チュ、チュゥゥゥッ、チュウ、チュウゥ」

 活字に起こせばゲシュタルト崩壊を起こしそうなほど連続してチュッチュ音を響かせながら、慎吾と美都はお互いの唾液を求め、口を吸い合った。

「わたし、イイッ。わたしだけがこんなに良くて・・・イイのっ・・・かなっ・・・」

 美都は自分の悦びを慎吾にも味合わせたいが、セカンドバージンを失ったばかりの美都はまだ、男性が喜ぶような動きをすることはできない。せめて、慎吾が大好きなことを伝えようとして、美都は慎吾の首に手を回し、逞しい背中を両足で抱きしめた。

「ああすごいっ、それすっごくいい・・。美都、僕を抱きしめて。美都に包まれて、美都っ、美都っ、美都美都美都・・・・」

 美都。

 慎吾。

 もっと、ヨガリ哭いて。 

 激しく、いっぱい突いて。

「あの・・・ね、慎吾・・さん。調べたんだけど、ね、わたし・・・今日、大丈夫な日・・・だから・・・」

「このまま出しちゃっても・・・ッハァ、平・・・・気?」

 射精感高まる慎吾が問い返したのに、美都は大きな目をうるうるさせながらうなずいた。

「わかッ・・・・たっ・・・・・。美都に、僕の子種を注いでやる・・・」

 ズリッズリッと、ビラビラを裏返し、襞をこそぎ落とすようにして、慎吾は美都に摩擦の快楽を送る。
「イクッ・・・イクイクイクよっ、美都ちゃんっ」

 股間からせり上がってきた甘美な電流がスパークする。撃鉄が弾倉を叩く。

「出すぞォッ。美都ちゃんの中で僕を出して、また美都ちゃんを作るんだっ」

「わ・・・たしの中でっ・・慎吾さんを出したらっ・・美都と慎吾さんの子ができるんだよ・・・」

「だめ・・・。僕の遺伝子が混じった子なんて、子供が可哀想だ・・・。この世で生まれていいのは、美都ちゃんの子だけだっ」

 タンタン、タパパパパン、ミッチミッチ。肉と粘膜の音が、ダウンライトに照らされたホテルの一室で淫靡に響き渡る。

「でも。そしたら、わたし、ほかの男の人と、エッチなことしないと・・・」

「そんなのダメ。美都ちゃんとエッチしていいのは、僕だけ。美都ちゃんは僕だけのもの。美都ちゃんは僕とエッチしながら、僕の遺伝子が混じっていない子供を妊娠するんだ」

「アウゥ、そんなの無理ィ」

「無理じゃない。美都ちゃんならできるっ」

 トットッ、タンタンタン、タパパパタタンタン。

 世の中に理解されない男の世界に、世の中に理解されない男をたった一人理解しようとする女が、必死に食らいついていこうとする。

「アンン、慎吾さんのワガママぁ」

「ワガママでごめんんんんあああああぁっ、出る、出る、美都イクっ、美都ォ」

 グググウッ、と、美都の中で慎吾の雁首が持ち上がって、慎吾の硬さと大きさが、限界以上に到達する。 

「美都ォッ」

 ドヴアッ、ビクルルルッ――。

 美都城の本丸にいる淀殿を目がけて、十万を超える慎吾兵たちが、一斉に放流された。

「グォ・・・ォッ」

「アァ慎吾、慎吾いっぱい来てッ」

 ウネウネとくねる媚肉が螺旋を描くように慎吾のバレルを絞り上げ、中を通る弾丸の飛距離と命中精度を上昇させる。

「美都にイクッ、美都をイカせるっ、美都との子を作るッ」

 真田丸から打ち出される散弾に蹴散らされても、無限に湧き出して襲い掛かるアルカリの兵士たちが、本丸の淀殿を手籠めにしようと突き進む。

「アッツぃ、熱いぃっ、ヤ、慎吾・・・熱いぃ、熱いよぉっ」

 ズド、ド、ドォッと注がれる慎吾汁に子宮を焼かれた美都は、叫びをあげながら、ゾグゥッと身を震わせた。

 今日は安全な日。

 でも、慎吾が凄すぎて、できちゃうかもしれない。慎吾の子が欲しい、慎吾がもう一人欲しい。

「・・・・・・・・・・・・・・・・!!!!」

 無数の慎吾兵たちが、そこここで美都の淀殿を犯す阿鼻地獄の中で、美都はとうとう、アクメへと昇りつめた。

 もう何もいらない、慎吾以外は、なにもいらない。

「ッ・・・ハァッ・・・・ハァッ・・・・・」

 食後の運動というには激しすぎるピストンを繰り出し、相互オナニーの日から数日間、悶々をひたすら我慢して装填してきたおたまじゃくしをすべて撃ち込んだ慎吾は、とうとう力尽きて倒れ、エアバッグ以上のクッション性を誇る美都おっぱいに埋まった。

「慎吾さん・・・ありがと」

 役目を終えた慎吾の頭を、美都の掌が撫ぜた。

 憧れの女上司に、頑張ったね、よしよししてもらった。

 疲労と空虚と索漠に満ちた派遣労働者生活のすべてが、それで報われた気がした。

「慎吾さん、凄かった。凄くて凄すぎて、わたし気持ちよくなっちゃった」

「美都ちゃんが可愛すぎるから、頑張れたんだよ」

「可愛くない。わたしなんて、全然可愛くない」

「世界で一番かわいいよ」

 慎吾が、半ば血の引いた肉棒を引き抜くと、牝風呂に満ちた雄液が、蜜壺からトロリと漏れ出てきた。枕元のティッシュで残滓を拭き取って、二の腕を美都の枕に差し出した。

 美都が小づくりな顔を、慎吾の隆起した二の腕に重ねた。

「美都ちゃんとこういう風になれて嬉しい。嬉しいけど、ごめん」

「どうして謝るの?」

「今の僕じゃ、美都ちゃんを幸せにはできないから・・。美都ちゃんを口説くのは、自分の小説を、世に出してからって決めてたんだけど・・・」

 小説。活字で金を稼ぐ夢だけが、何もない派遣労働者生活を、ずっと支えてきた。

 今の自分は、世を忍ぶ仮の姿。ここにいる自分は本当の自分ではないと思うから、職場でどれだけ無能扱いされても気にもならないし、多少の屈辱にも耐えることができた。

 執筆の時間と余力を確保するために、残業や休出はできる限り避け続けてきたし、執筆のために朝早く起きても、タイムカードを押すのはいつもギリギリだった。

 五年間。すぐに投げ出してしまいがちな慎吾にしては長続きしたのは、書くのが好きだというよりも、勉強やスポーツのように、実力がハッキリと数字に現れるジャンルではなかったからだった。

「今はまだ、読み手側の需要と、自分の書きたいものが噛み合っていないだけ・・。なんて信じて、五年も続けてきたけど、僕のやってきたことは、何の実も結んでない。本当は五年間、ずっと自分に言い訳して、人生に真剣に向き合うことから逃げていただけなのかもしれない」

 ダウンライトを見上げながら憂いを浮かべる慎吾の顔は、職場で見せる、締まりのない子供のような顔ではなく、哀愁を帯びた男の顔で、美都は胸がギュッとなった。

「言い訳だっていいじゃない。言い訳しながらでも、愚痴を吐きながらでも、続けられることが偉いことなんだから。言い訳はみっともないことじゃなくて、明日また立ち上がるための、魔法の言葉だと思えばいいのよ」

「ありがとう。そう言ってくれると、救われる。美都ちゃんは優しいね」

「いつも優しくできなくて、ゴメンね」

「いいんだ。女神が微笑むのは、ときどきだけでいいんだ・・」 

 美都は、美都のニオイが染み着いた慎吾を抱きしめ、美都に甘い唾をいっぱいくれた唇をチュッチュした。

「ねぇ慎吾さん。今度の夏季休暇、二人で楽園に行かない?」

 汗をかいて失った水分をペットボトルのお茶で補給し、それを慎吾にも渡しながら、美都が言った。

「楽園・・・?」

「そう、楽園。そこではね、嫌なことも苦しいこともないし、悲しい思い出も、辛い思い出も、全部なくなっちゃうの。二人の楽園でね、気持ちいいこと、沢山するの。どう?」

「・・・行きたいな。そんな場所があるなら・・・」 

 美都ちゃんと二人なら、たとえマンホールの下の下水道だって、楽園だけどね。

 せっかく、楽園に連れて行ってくれるという美都に、それを言うのは野暮だと思って、飲み込んだ。
 慎吾は美都から受け取ったお茶で、ひりついた喉を潤した。

「まさか美都ちゃんとこんな関係になれるなんて、夢みたいだよ」

 始まりは、女の靴のニオイを嗅ぐという変態行為だった。

 嫌われて、罵倒されて、クビになるかと思ったら、女の子の血がベットリこびりついた生理用ナプキンを渡された。それから、リーダー業務でしっぽりとかいた汗を吸い込んだ黒ずみ靴下と、醗酵したシミのついたパンティでオナニーしているところを見られて、向こうのオナニーも見せてもらって、ついには、洗っていない美都の生身のニオイを直接嗅ぎ、己の身体で貫くことができた。

 何もない空っぽのようだった慎吾の人生には、申し訳ないと思えるほどのご褒美を頂いた。もう、ここで死んでもいいと思えるほどの心地だったが、美都はもっと幸せな場所へと、慎吾を連れて行ってくれるのだという。

 楽園――そこではきっと、お風呂には入らず、冷房もつけず、用を足した後ウォシュレットも使わずに、しっぽりと汚れた美都の身体をたっぷり嗅げて、美都の身体にびとびとこびりついた、汗や皮膚の老廃物、恥垢、オリモノ、尿やうんちの残滓などをたっぷり舐められて、ムチムチした美都の身体を、精根尽き果てるまでヤリまくることができるのだろう。

 楽園――人と同じようにやろうとして、ちっとも幸せになれなかった無様な思い出も、小説家を志してから五年間、書いても書いても報われなかった悔しさも、惚れた女に、こっ酷く拒絶されたときの傷の痛みも、何もかも忘れて、汚れた美都と二人だけでいられる場所があるのなら、是非とも行きたい。

「まだ、夢の続きがあるのよ」

 美都の心に刻まれたバッテンを、慎吾が花丸にしてくれた。

 今度は慎吾を、癒してあげよう。

 慎吾と美都の――においフェチと汚れた女神の楽園に、二人で行こう。
プロフィール

津島 博行

Author:津島 博行
1987年4月3日生 男性
相互リンク歓迎します。

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